蘇芳色(SUOUIRO)~耽美な時間~

「春の午後~土方歳三の最期~」

桜散る、今日この頃。
桜吹雪の中、立ち止まる。
軽い眩暈を覚える。
風が止んだのに、まだ激しく散っている桜。
ふと、触れると溶けて消える。
「雪!?」
そう思ったとたん、今まで見えていた家並みが港に変わり、汽笛が聞こえた。
あっちに見えているのは・・・五稜郭!?
「ここは、春の箱館?」
私の横に人影。「!?」
振り向くと、新撰組副長 土方歳三が立っている。
「じゃ、行ってくる」
軽く微笑むと、兼定を握り締め馬上の人となった。
私はなぜか不安になり、止めようとした。
が、足が、口が動かない。
「・・・あとを頼む」
「え?頼むって?」
私はそのとき自分の姿が変化しているのに気付いた。
袴をはいて、武装している。
やっと出た言葉は「ふ、副長」
もうその時には、彼は走り去っていた。
どんどん遠ざかる後姿。
空はどこまでも蒼く、雲が流れている。
鳥のさえずりを耳にした時、
銃声が聞こえた。
「副長!!」私は走った。
目の前に、土方歳三が転がっている。
血にぬれた黒い羅紗服。抱きついた。
再び銃声。
胸のあたりが熱くなった。
手をやると、ぬるりとする。
土方歳三の死に顔を見つめながら、私は気が遠くなった。

「・・・さん。お嬢さん。こんな所でうたたねをしていると、風邪を引きますよ」
背後の声に振り向くと、35歳くらいの紳士が微笑んでいる。
いつもの家並みと桜の木。
「え、あぁ、どうも」
砂を払い立ち上がる。
彼は片足を引きずりながら、歩き出す。
「もしや、あの人は・・・」
桜吹雪の外に出ると、紳士の姿はもうなかった。



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