ウ    ォ   ー    キ    ン     グ  ロ  ー  ド

ウ   ォ   ー   キ   ン  グ  ロ  ー  ド

こころの病気



人間のこころ、すなわち精神にはさまざまなはたらきがあります。思考・感情・意欲などです。ふだん私たちは意識しませんが、これら個々の要素は、うまく連携をとってはたらいています。

たとえば、朝ごはんを食べてさあ出勤というときには、「今日はAさんに会って交渉をまとめる仕事がある、うまくいくか心配だ」と思考しながら、感情的にはすこし不安になり、しかしがんばってやろうと意欲が出てくるといったふうです。

精神のはたらきの故障

こころの病気では、本人が1人で悩んでいることがしばしばあります。病気の症状が行動面に出てくるまでには、長い時間がかかっていることが多く、その間、本人はだれにも相談しないことが多いのです。

こころの病気になると、精神のはたらきのどこかに故障が出てきます。1つのはたらきの故障はほかのはたらきにも影響を与えることがあります。
一例として強迫症状という状態を考えてみましょう。これは、「外出するときいつも戸締まりが気になる、何回見直しても安心できない」といったように、1つのことが気になる状態を指します。
この場合、同じことを何度も考え、自分ではコントロールできません(思考のレベルの異常)。同時に、考えをうち消して無理にも確認をしないでいると不安でいたたまれなくなります(感情のレベルの異常)。症状が進むと、見直し行動の時間が長くなり、日常生活への意欲がなくなってきます(意欲のレベルの異常)。 このように、こころの病気では、通常いろいろなレベルで障害が起こってくるのです。本来精神のはたらきは有機的につながっているからです。

本人の悩みと周囲の認識

こころの病気では、本人が1人で悩んでいることがしばしばあります。病気の症状が行動面に出てくるまでには、長い時間がかかっていることが多く、その間、本人はだれにも相談しないことが多いのです。

「精神のはたらきの故障」で述べた強迫症状の例でいえば、こんなつまらないことが気になってばかばかしい、しかし無理にやめようとすると不安になってしまう、自分をコントロールできずだめな人間だ、などといった内容です。そのように悩むのは、症状のいっぽうで健康な自分がいるからです。健康な自分が病気の症状について考え、感じるから悩むのです。これは、ちょうど胃潰瘍(かいよう)の患者が胃が痛いと感じるのと同じことです。

しかし精神のはたらきが強く障害されると、自分は病気ではないと考え、周囲にも自分は病気ではないと伝えるようになることもあります。しかしそうなっても、悩んでいる自分がなくなるわけではありません。そのような健康な自我を強くしていくのが治療上大切なことです。

こころの調和がくずれかけても、必ずしも周囲がそれと気がつくわけではありません。本人が1人で悩んでいる状態であれば、からだがわるいわけではないので周囲の人は気がつきにくいのです。しかし、それが行動面の変化につながると、とたんに周囲が気づきます。

さきの強迫症状の例でいえば、本人が気にするだけであったり、見直しの行動が1回や2回であれば、特に異常とは思われません。ちょっと神経質かなくらいで終わってしまいます。しかし4回も5回も見直したり、そのために学校や会社に遅刻したり、日常必要な行動がとれなかったりすると、誰もが問題視します。

このように、行動面の異常が出てはじめて周囲が病気と認識することが多いのです。

さきの強迫症状の例でいえば、本人が気にするだけであったり、見直しの行動が1回や2回であれば、特に異常とは思われません。ちょっと神経質かなくらいで終わってしまいます。しかし4回も5回も見直したり、そのために学校や会社に遅刻したり、日常必要な行動がとれなかったりすると、誰もが問題視します。

からだの病気とこころの病気

どのようなからだの疾患でも、こころへの影響は避けられません。ちょっとしたかぜをひいても、もう治らないかもしれないと不安になることがあります。ましてや、がんなどの病気になると、精神機能にかなりの影響が出てくるのがふつうです。場合によっては専門的な治療が必要になることもあります。

また「病は気から」というように、からだの症状は精神的な影響を受けて出ることがあります。現在内科などで診察を受けている人の多くが、検査をしても特別異常が見つからないことがあるといわれています。いかにからだの症状にこころの状態が関与しているかがわかります。

意識面の症状「意識混濁」

意識がうすれる、まったく意識がなくなるというように、意識のレベルが低下している状態をいいます。意識が低下する過程で、判断力がなくなったり、感情、思考、知覚面の症状が出てきたりすることがあります。

意識変容(脳器質性精神障害、アルコール薬物関連障害など)

意識のレベルがそれほど下がっていない状態では、意識の統制がとれていないために、感情・思考・知覚面にいろいろな症状が出てくることがあります。これは夢の状態に似て、考えがつながらなかったり、幻覚が見えたり、非常に興奮したりといった状態になります。その代表的なものがせん妄状態です。

記憶面の症状(脳器質性精神障害など)

記憶は人の精神機能の中心にある重要なものです。最近の研究成果はめざましく、その構造がずいぶんと解明されてきました。

記憶は大きく分けると、見聞や学習による記憶(陳述的記憶)とからだを使った練習で覚えた記憶(手続き記憶)があります。陳述的記憶には、かつて体験したことに関する記憶(エピソード記憶)と文字などを通して学習した記憶(意味記憶)があります。これらはことばによって再現することができる記憶で、いろいろなテストにより測定できます。

いっぽう、自転車に乗れたり包丁で野菜を上手に切れたりできるのは、手続き記憶のおかげです。これらの記憶はことばによって表現できません。

一般的にいって、認知症(痴呆症)などによる記憶障害では、陳述記憶のほうが手続き記憶よりも早期に障害を受けやすく、陳述記憶のなかではエピソード記憶のほうが障害されやすいといえます。またエピソード記憶では、最近の出来事のほうから忘れていくという特徴もあります。

記憶のもう1つの重要な要素として、新しい出来事や知識を覚えていく記銘力があります。年をとって物覚えがわるくなったと感じるのは、この記銘力が減退しているのです。私たちの脳では、記銘力(短期記憶)をベースとし、くり返して入ってきたことがらを長く保持する(長期記憶)という2段階の作用により記憶が形成されています。

感情面の症状

不安や恐怖(神経症性障害、うつ病、統合失調症など)
なにが原因かわからずただ漠然と心配になるのが不安、なにが怖いのかわかっているのが恐怖で、よく生じる症状です。代表的な状態を列挙します。

1.からだの状態に関する不安

心臓がドキドキする、息がしにくい、死ぬのではないかといった不安、なにか重病にかかっているのではないか、がんではないか、エイズではないか、脳の血管が切れるのではないかといった不安、からだの中になにかがある、皮膚の感覚が変だ、内臓が動いているように感じるといった不安、からだがにおうという不安などがあります。

不安や恐怖(神経症性障害、うつ病、統合失調症など)
2.対人的な不安や恐怖(不安障害、恐慌性障害、統合失調症など)

人に会うのが怖い、人の目を見られない、人前で話すと赤面したりことばが出なくなったりするといった恐怖、まわりで自分のことがうわさされている、観察されているといった不安などがあります。

3.特定の状況やものに対する不安や恐怖

状況としては高所、閉所、広い場所、乗り物、遠出などがあり、ものとしては動物、さきのとがった物・雷などがあります。

4.将来に対する不安(不安障害、統合失調症、うつ病など)

以前不安になった場所で同じことが起こるのではないかという予期不安、病気が再発するのではないかという不安、ぼけるのではないかという不安などがあります。

抑うつ感情(うつ病、神経症性障害、統合失調症、摂食障害など)

気持ちが沈む、落ち込む、憂うつになる、はればれしない、むなしい、さびしいなどと表現される状態です。ひどくなると、将来に希望がもてなかったり、絶望的な気分になったり、過去のことへの後悔にさいなまれたり、自殺を考えたり実行に移したりする場合があります。

高揚感情(躁病、脳器質性精神障害など)

抑うつ感情とは逆に、楽しくてしかたがない、そう快だ、なんでもできそうだ、などと表現される状態です。この場合、本人には悩みの自覚がなく、周囲がそれと気づくのがふつうです。

感情の鈍ま・平板化(統合失調症)

喜怒哀楽の豊かな感情がなくなる状態です。なにを見ても楽しいという感じがなかったり、会話中表情に乏しかったり声に張りがなかったりします。

いらいら・怒りっぽい

日常的によく体験する状態です。たいていの場合原因が推量できるので、本人も周囲もあまり問題にしません。いっぽう、理由なく起こる場合は病気からきているのかもしれません。しかし、いらいらや怒りっぽいというだけでは病気とはいえず、ほかにどのような症状があるのかが重要です。

思考の流れがおかしい(統合失調症、脳器質性精神障害、うつ病、躁病など)

思考の流れが障害されると、会話や行動に異常が出てきます。話のまとまりがわるい、つじつまが合わない、まったく理解できない、中断してしまう、なかなかさきに進まない、結論になかなかたどり着かない、次々と飛躍する、話が早すぎるなどがあります。本人は自覚している場合もありますが、自覚していない場合のほうが多いようです。

考えがおかしい(脳器質性精神障害、アルコール薬物関連障害、統合失調症、強迫性障害など)

自分では不合理だと思いつつ、そのことを考えずにいられないという場合や、自分ではおかしいと思わないが周囲はまちがっていると判断する場合などがあります。周囲から異常を指摘されても治らない場合を妄想といいます。

知覚面の症状

脳器質性精神障害、アルコール薬物関連障害、統合失調症などでみられる知覚面の症状には次のようなものがあります。なお、ものを見たり聞いたりして判断するはたらきを知覚といいます。

幻視と錯視

実際にはないものが見える場合が幻視です。死んだ肉親の姿が見えたりといった類です。実際にあるものが違って見えてしまう場合が錯視(さくし)です。壁のしみが人の顔に見えたりといった類です。錯視は、まわりの人が指摘すれば本人はわかりますが、幻視は、そのような修正ができません。

幻聴

実際には聞こえるはずがない人の声、音楽、機械音などが聞こえる場合をいいます。

意欲の欠乏(脳器質性精神障害、うつ病、統合失調症など)
やる気がしない、無気力になった、寝ているほうが楽だ、そしてなにもしないことが退屈でないといった状態です。食欲や性欲の低下を伴う場合があります。また意欲がまったくなくなって自分から動こうとせず、すべて介助まかせという状態もあり、昏迷(こんめい)状態といいます。

意欲の亢進(躁病など)

なにをやっても疲れない、なんでもできそうな気がする、じっとしていられないといった状態です。食欲や性欲の亢進(こうしん)を伴う場合があります。

興奮(躁病、統合失調症、脳器質性精神障害、注意欠陥・多動性障害など)

動きが多い、じっとしていない、よくしゃべる、まわりの制止に耳をかたむけないなどの状態です。

興奮(躁病、統合失調症、脳器質性精神障害、注意欠陥・多動性障害など)

動きが多い、じっとしていない、よくしゃべる、まわりの制止に耳をかたむけないなどの状態です。

その他の症状(うつ病、神経症性障害など)

便通の異常、頭痛、動悸、過呼吸、手のふるえ、尿の回数が多いなどの身体症状がみられることがあります。

脳器質性精神障害

脳組織の器質的な異常が原因で、精神のはたらきにいろいろな障害が出てくるものを、脳器質性精神障害といいます。認知症(痴呆)がおもな症状ですが、幻覚、妄想、興奮などの症状もよくみられます。わが国は、先進工業国のなかでも例をみないほどに高齢化のスピードが速く、それだけに認知症の疾患(痴呆性疾患)への取り組みが社会的な関心事になっています。この疾患は、大きく分けてアルツハイマー病、脳血管性痴呆に分かれます。以前は、脳血管性痴呆が多かったのですが、最近はアルツハイマー病も増えてきています。

記憶障害

記憶障害、いわゆるもの忘れが主要な症状です。まず、記銘力(短期記憶)が障害されます。そのために、料理をしている最中に電話がかかってくるとガスをつけていたことを忘れるといった事態になったりします。忘れかたの特徴として、まわりで指摘されても思い出さないこと、つまり体験そのものをそっくり忘れてしまっていることがあげられます。記憶障害の一型として健忘があります。これはある期間内のことやある種のことがらを思い出せない状態のことをいいます。

失見当

記憶の障害と関連することとして、自分の居場所がわからなかったり、時間がわからなかったり、よく知っているまわりの人が誰だか、あるいはなにをする人かがわからなかったり、いまどういう状況にいるのかがわからなかったりします。これを失見当(あるいは見当識の障害)といいます。

日常生活機能の低下

記憶障害や失見当により判断力が低下してしまうのが認知症(痴呆)の中心的な症状です。その結果、日常生活面では、仕事、家事、対人関係などに支障をきたし、さらには着替え、食事、トイレなどの身のまわりのことにも介助を要するようになります。

精神症状・行動障害

ちょっとしたことで不安になったり落ち込んだり気分が不安定になりがちです。また、物をとられるといった妄想が出たり、親戚の人がきているといったような幻覚が出ることがあります。幻覚は夜間に出やすい傾向があります。また行動面の問題として、徘徊(はいかい)(迷子になる)したり、いろいろなものを集めたりといったことがあります。このような症状や行動を注意したり批判したりすると、精神的な安定がくずれて、より不安になり認知面の障害(記憶障害や思考力の障害など)が進むという悪循環におちいるので注意が必要です。

アルツハイマー病

脳の中で大脳皮質にある神経細胞が死滅するために起こる病気です。自然な老化でもそのような過程はあるのですが、この場合は病的な過程で進行性に神経細胞がおかされるのが特徴です。その原因として、ベータアミロイドという物質が異常にふえて細胞が変性することなどが考えられています。また神経細胞がおかされてアセチルコリンという化学物質のはたらきが低下することで記憶の機能が低下すると考えられています。

アルツハイマー病

病気はゆっくりと始まり、徐々に進行します。記憶の障害のみのもの、精神症状が合併するものなどかたちはさまざまです。検査では、頭部CT検査やMRI(磁気共鳴画像法)で脳の萎縮(いしゅく)がみられ、局所脳血流検査で血流低下が出ます。また知的な機能の低下は、いろいろなテストで調べることができます(「改定版長谷川式簡易知能評価スケール」など)。現在、神経細胞の死滅をストップできるような治療法はありません。しかし、早期診断と治療や介護の工夫によって病状の進行をゆるやかにし、本人や家族のストレスを減らしていくことができます。大切なことは感情をなるべく安定した状態に保つことで、それには異常な言動を責めたりせず、本人の立場に立って対応することです。また、家族が適度の休息をとることも必要で、関連施設でのデイケア、ショートステイなど社会資源をうまく利用するとよいでしょう。

アルツハイマー病

薬物療法では精神症状がある場合に抗精神病薬などが適応になります。また、認知症(痴呆)に対する薬の塩酸ドネペジルは、症状の進行を遅らせることができます。上手に使用するとメリットが大きいでしょう。

症状
アルツハイマー病は、狭義のアルツハイマー病(65歳未満発症)と、アルツハイマー型老年痴呆(65歳以上の発症)に分けられますが、本質的には同じ病気です。いつとはなしに記銘力低下(物忘れ)が始まり、進行します。初期には人格は保たれ、人との応対をそつなくこなしたり、態度や礼節も保たれることが多いのが特徴です。やがて見当識(どこにいるか、いまはいつか、目の前の人はだれかなどの認識力)の障害があらわれます。日時がすぐに思い出せなくなり、暗算もできなくなります。家から出かけると帰れなくなることがありますが、これは空間を認知することの障害によります。アルツハイマー病では失語、失行や失認を伴いやすくなります。たとえば着衣失行では服を着る順序がわからなくなります。まれにはパーキンソン症状、不随意運動、けいれんを生じることもありますが、大多数で運動機能は正常です。

進行度
アルツハイマー病はいつとはなしに始まり、すこしずつ常に進行していきます。進行度をふつうは3期に分けて考えます。第1期...大脳皮質の機能が全般的に低下していきます。最近のできごとを忘れやすくなり、そのいっぽうでむかしの記憶はよく保たれています。精神的には意欲が減退してきて、自発性が低下します。時に怒りっぽくなり、不安感、焦燥感にかられたり、抑うつ状態になったりします。見当識もすこしずつ失われていきます。しかしながら、日常生活は独立して可能です。第2期...大脳皮質の萎縮(いしゅく)が進み、局所的な症状が加わっていきます。記憶や記銘力はいちじるしく低下し、ことばも忘れてしまいます。その結果、ことばを言い換えたりすることができなくなり、理解力も障害されるために会話が成立しなくなります。服を着たり、一定の動作をするなどができなくなり、場所や月日の認識ができなくなります。周囲に無関心となり、なにかをしたいという意欲がなくなります。やがておちつきがなくなり、夜間の徘徊(はいかい)が始まります。この時期には周囲の介助や監視も必要になります。第3期...高次の脳機能がいちじるしく障害され、人間らしい行動が不可能になります。ベッド上に寝たきりとなり、尿便を失禁します。不潔行為も目立ちます。やがて肺炎を併発して亡くなることが多くあります。

原因
アルツハイマー病は少数で優性遺伝を示しますが、大部分は遺伝ではありません。脳を顕微鏡で見ると、大脳全体が萎縮し、アルツハイマーの原線維変化や老人斑といわれる異常をみることができます。アルツハイマー病の原因はまだ不明ですが、起こしやすくする因子は次のことが考えられています。1.高齢であること、2.家族歴があること、3.過去に頭部外傷があること、4.血清にアポリポたんぱくE4をもっていること、です。このうち、アポリポたんぱくは、血中ではコレステロールを運搬するはたらきをしていますが、脳の中では神経細胞を支持する細胞から分泌されて、神経細胞の補修に携わっています。アポリポたんぱくにはE2、E3、E4の3種類があります。遺伝子にはこれらのどれか2つがペアになっています。たとえば、E2-E2とか、E3-E4などです。このようにして、E4を1つだけもっているのは人口の20%を占め、アルツハイマー病になる危険性は2~4倍となります。E4を2つ、つまりE4-E4としてもっているのは人口の2~3%にすぎませんが、アルツハイマー病になる危険性は5~15倍になります。

診断
以上のような認知症(痴呆)が徐々に進行する臨床症状にあわせて、次のような補助検査をおこないます。・脳波...初期には正常ですが、やがてα(アルファ)波が少なくなり、遅いθ(シータ)波が混在し、ふえてきます。末期にはすべて遅い波だけになり、やがて平たんな波形になります。・CT、MRI...初期には年齢相応の変化のみですが、やがて発症1~2年を過ぎるころから脳の萎縮があきらかになってきます。・SPECT(脳血流シンチグラム)...CTやMRIで脳の萎縮があきらかになる前から、脳血流の低下が目立ってきます。特に頭頂葉、側頭葉で低下が顕著です。

治療

日常気をつけることは、昼と夜のリズムを大切にすることです。明るいうちはなるべく外に連れ出して公園などを散歩し、暗くなったら早めに床につかせます。患者のいうことには基本的に逆らわないことが大切です。
むかしの記憶に結びつくようなもの、たとえば人形、写真、服などを「思い出ボックス」に入れておき、不安感から興奮したときなどに見せると、おちつきを取り戻すことがあります。
アルツハイマー病では、脳内のアセチルコリンという化学物質が低下することが知られています。これは神経伝達に重要なはたらきをする物質です。このアセチルコリンを分解する酵素のアセチルコリンエステラーゼを阻害する薬がつくられました。それがドネペジルという薬剤です。認知機能と重症度が有意に改善することが示されています。しかしながら、いつまでも効果があるというわけではなく、やがてはまた悪化する時期がやってきます。

老年認知症

老年認知症には、2種類あります。初老期に発症するアルツハイマー病の病型を呈する老年認知症は、神経細胞の変性が第一義的原因です。いっぽう、日本人では、脳血管性痴呆といって、脳虚血が原因で、そのために神経脱落症状が起こるタイプが大半を占めています。後者は、まだら痴呆といって、さまざまな機能の低下の程度が一様ではなく、あることはちゃんとできるのにほかの面では、ぼけがいちじるしいという特徴があります。脳卒中後に起こった認知症は、この型に属します。認知症は、正常な老人ぼけ、うつ病、軽度の意識障害と区別しなければならず、専門医の診断が必要です。老年痴呆の必須条件は、記銘・記憶障害です。すなわち、新しいことが覚えられない、過去の自分に関連した事柄や一般常識を想起できないといった障害がみとめられます。そして、もっと高次の抽象思考や判断力、正常な言語や動作能力もいちじるしい障害を受けます。これらの障害による日常生活、職業、社会生活が正常にいとなめないと、老年認知症とされる十分な条件を備えていると診断されます。

現在、老年認知症に特効する薬は開発されていません。したがって、ケアが中心となります。老年認知症の場合、知的機能は低下していますが、感情面では保持されているため、介護も単に高齢者を子ども・赤ちゃん扱いしたのではうまくいきません。高齢者の自尊心を尊重し、支持し、できるだけ自立できるところはその機能を発揮させるなどの介護者の態度が必要です。そのために環境は大切で、在宅介護が行きづまった場合は、短期・長期の介護施設を有効に利用すべきでしょう。
現在各地に、老年者介護体制のネットワークが形成されているので、公的機関(市町村の老人福祉課)、私的機関(地区の民生委員、介護支援センター)に相談するとよいでしょう。

自己意識の障害

自分はこの世に存在している、考えたり感じたりしている、自分は1人しかいない、などということを私たちはふだん意識しません。そのような意識を自己意識といいますが、さまざまなかたちで障害されます。

離人体験(離人症性障害、うつ病、統合失調症など)

現実感がない、自分で考えている、感じているという実感がない、自分のからだなのに他人のように感じるなどといった体験をします。

作為体験(統合失調症)

自分の考えや行動がだれかに操られている感じがする、ロボットになったようだといった体験をします。

二重身、二重人格、多重人格(統合失調症、解離性同一性障害など)

自分が2人いるという体験をしたり、同一人でありながら何人もの人物になり、人格の変換を体験したりします。

からだにあらわれる症状

こころの病気や行動障害では、たいていの場合身体面にも症状があらわれます。以下は代表的な身体症状です。

睡眠の障害(脳器質性精神障害、アルコール薬物関連障害、統合失調症、気分障害、神経症性障害、心身症、睡眠覚醒スケジュール障害、睡眠時随伴症など)

睡眠時間には個人差があり、何時間眠らなければいけないという一般的な判断はできません。それまでの睡眠とくらべて変化があらわれた場合に問題になります。

不眠

寝つきがわるい就眠障害型、夜中に何度も目が覚めてしまう中途覚醒(かくせい)型、朝早く目が覚めてしまう早朝覚醒型、全般に眠りが浅く寝た気がしない熟眠障害型に区別されます。

過眠

日中の眠気が強い場合です。仕事の能率低下や運転事故などが問題になります(ナルコレプシー、睡眠時無呼吸症候群など)。

睡眠のリズムが乱れる

就眠や起床の時間が通常の時間帯から大きくずれてしまう状態をいいます。昼夜逆転の生活になったり、睡眠の時間帯がすこしずつずれていったりします。

睡眠時に生じる特殊な症状

寝ている最中に足がむずむずしたり、ぴくっと動いたりして不快な感じがすることがあります。小児期に、怖い夢を見たり、驚いたり、寝ぼけたり、夜尿がみられたり、といった状態がありますが、これも睡眠の問題と関係しています。

老年期に、大きな寝言や寝ぼけて激しい行動に出たりすることがありますが、これも睡眠の状態と関係しています。

食欲の障害(気分障害、統合失調症、摂食障害など)

食欲の低下

食べたいと思っても食べられない、食べたくない、食べてももどしてしまうなどいろいろなかたちであらわれます。もちろん内科的な疾患をまず疑わなければならないのですが、精神疾患でもよくみられる症状です。通常体重の減少を伴います。

食欲の亢進

食欲が進む、食べすぎるといった状態や、食べるのをやめたくてもとまらないという状態が亢進(こうしん)です。この場合も、まず内科疾患を疑いますが、精神疾患でもみられることがよくあります。体重の増加を伴う場合とそうでない場合があります。

その他の症状(うつ病、神経症性障害など)

便通の異常、頭痛、動悸、過呼吸、手のふるえ、尿の回数が多いなどの身体症状がみられることがあります。

こころのおもな病気

脳気質性精神障害

脳組織の器質的な異常が原因で、精神のはたらきにいろいろな障害が出てくるものを、脳器質性精神障害といいます。認知症(痴呆)がおもな症状ですが、幻覚、妄想、興奮などの症状もよくみられます。

わが国は、先進工業国のなかでも例をみないほどに高齢化のスピードが速く、それだけに認知症の疾患(痴呆性疾患)への取り組みが社会的な関心事になっています。この疾患は、大きく分けてアルツハイマー病、脳血管性痴呆に分かれます。以前は、脳血管性痴呆が多かったのですが、最近はアルツハイマー病も増えてきています。

能器質性精神障害

内分泌機能の障害

甲状腺機能亢進(こうしん)症や低下症では、統合失調症や気分障害に似た精神症状が出てくることがあります。

副腎皮質機能亢進症や低下症でも統合失調症や気分障害に似た精神症状が出てくることがあります。治療は、原疾患の治療とともに抗精神病薬、抗うつ薬、気分調整薬が適応されます。

また、副腎皮質ホルモン薬(ステロイド薬)はいろいろな病気で処方されますが、この薬により精神障害が出やすいことが知られています(ステロイド精神病)。症状は統合失調症や気分障害、さらには意識障害をベースとした精神症状など多様なあらわれかたをします。治療はステロイド薬の減量と薬物療法、精神療法が主になります。

そのほかに、月経、妊娠、出産に関連して精神障害が起こることがあります。うつ病やうつ状態が多いのですが、産後ではせん妄、幻覚、妄想、うつ状態、躁状態などの産褥(さんじょく)精神病のかたちをとることもあります。この場合の治療は精神科治療に準じます。

脳気質性精神障害

記憶障害

記憶障害、いわゆるもの忘れが主要な症状です。まず、記銘力(短期記憶)が障害されます。そのために、料理をしている最中に電話がかかってくるとガスをつけていたことを忘れるといった事態になったりします。

忘れかたの特徴として、まわりで指摘されても思い出さないこと、つまり体験そのものをそっくり忘れてしまっていることがあげられます。

記憶障害の一型として健忘があります。これはある期間内のことやある種のことがらを思い出せない状態のことをいいます。

脳器質性精神障害

矢見当

記憶の障害と関連することとして、自分の居場所がわからなかったり、時間がわからなかったり、よく知っているまわりの人が誰だか、あるいはなにをする人かがわからなかったり、いまどういう状況にいるのかがわからなかったりします。これを失見当(あるいは見当識の障害)といいます。

脳器質性精神障害

日常生活機能の低下

記憶障害や失見当により判断力が低下してしまうのが認知症(痴呆)の中心的な症状です。その結果、日常生活面では、仕事、家事、対人関係などに支障をきたし、さらには着替え、食事、トイレなどの身のまわりのことにも介助を要するようになります。

脳器質性精神障害

アルツハイマー病

脳の中で大脳皮質にある神経細胞が死滅するために起こる病気です。自然な老化でもそのような過程はあるのですが、この場合は病的な過程で進行性に神経細胞がおかされるのが特徴です。その原因として、ベータアミロイドという物質が異常にふえて細胞が変性することなどが考えられています。また神経細胞がおかされてアセチルコリンという化学物質のはたらきが低下することで記憶の機能が低下すると考えられています。

病気はゆっくりと始まり、徐々に進行します。記憶の障害のみのもの、精神症状が合併するものなどかたちはさまざまです。検査では、頭部CT検査やMRI(磁気共鳴画像法)で脳の萎縮(いしゅく)がみられ、局所脳血流検査で血流低下が出ます。

また知的な機能の低下は、いろいろなテストで調べることができます(「改定版長谷川式簡易知能評価スケール」など)。

現在、神経細胞の死滅をストップできるような治療法はありません。しかし、早期診断と治療や介護の工夫によって病状の進行をゆるやかにし、本人や家族のストレスを減らしていくことができます。

大切なことは感情をなるべく安定した状態に保つことで、それには異常な言動を責めたりせず、本人の立場に立って対応することです。また、家族が適度の休息をとることも必要で、関連施設でのデイケア、ショートステイなど社会資源をうまく利用するとよいでしょう。

薬物療法では精神症状がある場合に抗精神病薬などが適応になります。また、認知症(痴呆)に対する薬の塩酸ドネペジルは、症状の進行を遅らせることができます。上手に使用するとメリットが大きいでしょう。

症状

アルツハイマー病は、狭義のアルツハイマー病(65歳未満発症)と、アルツハイマー型老年痴呆(65歳以上の発症)に分けられますが、本質的には同じ病気です。

いつとはなしに記銘力低下(物忘れ)が始まり、進行します。初期には人格は保たれ、人との応対をそつなくこなしたり、態度や礼節も保たれることが多いのが特徴です。やがて見当識(どこにいるか、いまはいつか、目の前の人はだれかなどの認識力)の障害があらわれます。日時がすぐに思い出せなくなり、暗算もできなくなります。家から出かけると帰れなくなることがありますが、これは空間を認知することの障害によります。

アルツハイマー病では失語、失行や失認を伴いやすくなります。たとえば着衣失行では服を着る順序がわからなくなります。まれにはパーキンソン症状、不随意運動、けいれんを生じることもありますが、大多数で運動機能は正常です。

進行度

アルツハイマー病はいつとはなしに始まり、すこしずつ常に進行していきます。進行度をふつうは3期に分けて考えます。

第1期...大脳皮質の機能が全般的に低下していきます。最近のできごとを忘れやすくなり、そのいっぽうでむかしの記憶はよく保たれています。精神的には意欲が減退してきて、自発性が低下します。時に怒りっぽくなり、不安感、焦燥感にかられたり、抑うつ状態になったりします。見当識もすこしずつ失われていきます。しかしながら、日常生活は独立して可能です。

第2期...大脳皮質の萎縮(いしゅく)が進み、局所的な症状が加わっていきます。記憶や記銘力はいちじるしく低下し、ことばも忘れてしまいます。その結果、ことばを言い換えたりすることができなくなり、理解力も障害されるために会話が成立しなくなります。服を着たり、一定の動作をするなどができなくなり、場所や月日の認識ができなくなります。周囲に無関心となり、なにかをしたいという意欲がなくなります。

やがておちつきがなくなり、夜間の徘徊(はいかい)が始まります。この時期には周囲の介助や監視も必要になります。

第3期...高次の脳機能がいちじるしく障害され、人間らしい行動が不可能になります。ベッド上に寝たきりとなり、尿便を失禁します。不潔行為も目立ちます。やがて肺炎を併発して亡くなることが多くあります。

原因

アルツハイマー病は少数で優性遺伝を示しますが、大部分は遺伝ではありません。脳を顕微鏡で見ると、大脳全体が萎縮し、アルツハイマーの原線維変化や老人斑といわれる異常をみることができます。

アルツハイマー病の原因はまだ不明ですが、起こしやすくする因子は次のことが考えられています。

1.高齢であること、2.家族歴があること、3.過去に頭部外傷があること、4.血清にアポリポたんぱくE4をもっていること、です。

このうち、アポリポたんぱくは、血中ではコレステロールを運搬するはたらきをしていますが、脳の中では神経細胞を支持する細胞から分泌されて、神経細胞の補修に携わっています。アポリポたんぱくにはE2、E3、E4の3種類があります。

遺伝子にはこれらのどれか2つがペアになっています。たとえば、E2-E2とか、E3-E4などです。このようにして、E4を1つだけもっているのは人口の20%を占め、アルツハイマー病になる危険性は2~4倍となります。E4を2つ、つまりE4-E4としてもっているのは人口の2~3%にすぎませんが、アルツハイマー病になる危険性は5~15倍になります。

診断

以上のような認知症(痴呆)が徐々に進行する臨床症状にあわせて、次のような補助検査をおこないます。

・脳波...初期には正常ですが、やがてα(アルファ)波が少なくなり、遅いθ(シータ)波が混在し、ふえてきます。末期にはすべて遅い波だけになり、やがて平たんな波形になります。

・CT、MRI...初期には年齢相応の変化のみですが、やがて発症1~2年を過ぎるころから脳の萎縮があきらかになってきます。

・SPECT(脳血流シンチグラム)...CTやMRIで脳の萎縮があきらかになる前から、脳血流の低下が目立ってきます。特に頭頂葉、側頭葉で低下が顕著です。

治療

日常気をつけることは、昼と夜のリズムを大切にすることです。明るいうちはなるべく外に連れ出して公園などを散歩し、暗くなったら早めに床につかせます。患者のいうことには基本的に逆らわないことが大切です。

むかしの記憶に結びつくようなもの、たとえば人形、写真、服などを「思い出ボックス」に入れておき、不安感から興奮したときなどに見せると、おちつきを取り戻すことがあります。

アルツハイマー病では、脳内のアセチルコリンという化学物質が低下することが知られています。これは神経伝達に重要なはたらきをする物質です。このアセチルコリンを分解する酵素のアセチルコリンエステラーゼを阻害する薬がつくられました。それがドネペジルという薬剤です。認知機能と重症度が有意に改善することが示されています。しかしながら、いつまでも効果があるというわけではなく、やがてはまた悪化する時期がやってきます。

老年認知症

老年認知症には、2種類あります。初老期に発症するアルツハイマー病の病型を呈する老年認知症は、神経細胞の変性が第一義的原因です。いっぽう、日本人では、脳血管性痴呆といって、脳虚血が原因で、そのために神経脱落症状が起こるタイプが大半を占めています。後者は、まだら痴呆といって、さまざまな機能の低下の程度が一様ではなく、あることはちゃんとできるのにほかの面では、ぼけがいちじるしいという特徴があります。脳卒中後に起こった認知症は、この型に属します。認知症は、正常な老人ぼけ、うつ病、軽度の意識障害と区別しなければならず、専門医の診断が必要です。老年痴呆の必須条件は、記銘・記憶障害です。すなわち、新しいことが覚えられない、過去の自分に関連した事柄や一般常識を想起できないといった障害がみとめられます。そして、もっと高次の抽象思考や判断力、正常な言語や動作能力もいちじるしい障害を受けます。これらの障害による日常生活、職業、社会生活が正常にいとなめないと、老年認知症とされる十分な条件を備えていると診断されます。

老年認知症

現在、老年認知症に特効する薬は開発されていません。したがって、ケアが中心となります。老年認知症の場合、知的機能は低下していますが、感情面では保持されているため、介護も単に高齢者を子ども・赤ちゃん扱いしたのではうまくいきません。高齢者の自尊心を尊重し、支持し、できるだけ自立できるところはその機能を発揮させるなどの介護者の態度が必要です。そのために環境は大切で、在宅介護が行きづまった場合は、短期・長期の介護施設を有効に利用すべきでしょう。

現在各地に、老年者介護体制のネットワークが形成されているので、公的機関(市町村の老人福祉課)、私的機関(地区の民生委員、介護支援センター)に相談するとよいでしょう。

こころのおもな病気

高齢者の生活の質がいちじるしくそこなわれる原因として、重要な疾患です。脳卒中には、脳出血(ほとんどが高血圧性だが、正常血圧でもアミロイドアンギオパチーなどが原因となる)と脳梗塞があります。脳梗塞は、脳の血管内で血栓が生じ閉塞する脳血栓と、心臓の中の血栓が脳まで運ばれて、そこの血管を閉塞する脳塞栓症があります。いちじるしい高血圧は、脳出血のもととなります。また、高血圧、高脂血症、高血液粘度(脱水、喫煙、ストレスに関係する)は、脳血栓を誘発します。心房細動などの不整脈や心臓弁膜症では、たえず脳塞栓症の危険をはらんでいます。

いずれも現在では、かなりのところ予防可能なので、血圧、心電図、血液などの検査を受けておきましょう。脳のCT(コンピュータ断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像法)という検査では、これらが無症候性に発症しているかどうかもわかるようになりました。

こころのおもな病気

パーキンソン症候群も、からだがいうことをきかなくなる高齢者の代表的な疾患です。原因は、脳血管障害性であることが多く、初老期から発症した例では、神経そのものの変性によるものであることもあります。からだが硬直し、こまかいふるえがきます。動作はいちじるしくおそくなり、にぶくなります。初期では、薬が著効することが多いのですが、末期になると、ほとんど寝たきりの状態になります。

脳卒中

脳卒中は血管系のいろいろな原因によって中枢神経が障害される病態を総称していいます。これには血管が閉塞する脳梗塞と、血管が破れて、血液が脳を破壊する脳出血とがあります。40歳以上で介護保険を受けられる特定疾病に指定されています。

脳梗塞

脳には、筋肉のグリコーゲンのようにエネルギーを蓄えるものがありません。このため、脳には24時間グルコース(ぶどう糖)と酸素が供給されています。動脈が閉塞して血行がとだえると、5分で神経細胞は死んでしまいます。これが脳梗塞です。脳梗塞には脳血栓症と脳塞栓症の2種類があります。

脳血栓症

脳血栓症は脳の動脈が動脈硬化によって、あたかも古い水道管のように内腔が狭くなり、高血圧や喫煙などを契機に血管がつまるものです。

症状

ある日突然、半身の運動まひや感覚障害、あるいは失語症や半盲が発症します。小脳梗塞では運動失調や、脳幹の梗塞ではめまいも起こります。通常は2~3日で症状がピークをむかえ、その後はゆっくりと改善していきます。

診断

CT検査で黒い影がみられれば脳梗塞と診断できます。精密検査のためには3つの検査が重要です。第1にはMRIで、過去に起きた梗塞の状態を正確に診断できます。第2にはSPECT(脳血流シンチグラム)で、現在の脳血流を正確に診断できます。第3にはMRAで、脳の動脈を検査することにより将来の危険性を把握することができます。

脳血栓症は脳の動脈硬化が原因で、動脈硬化症をひき起こす高血圧、コレステロール、糖尿病、喫煙の状態を把握することが大切です。

治療

急性期には脳浮腫(ふしゅ)の予防薬(グリセオール)とともにオザグレルナトリウムやアルガトロバンを2週間点滴します。またリハビリテーションも1週間以内には開始します。これらと同時に動脈硬化症を生じた原因を突きとめ、その治療もあわせて始めます。

予防

一カ月が過ぎて慢性期になると、再発の予防に重点が移ります。動脈硬化症を生じた原因に対する治療とともに、血小板凝集抑制薬としてチクロピジンやアスピリンを服用することになります。

脳内出血

脳内出血は脳内の細い動脈が破れ、血液が勢いよく脳の中に流れ込むために脳が破壊されるものです。脳出血の際には血圧が200mmHgを超えることが多く、強い圧で血液がやわらかい脳組織に噴出し、その時点で脳が破壊されて出血が完成します。

脳出血は活動時など血圧が上がっているときに生じることが多いのが特徴です。実際に破れる動脈は300μm程度の細い動脈です。小脳の出血(小脳出血)では起立・歩行などの運動失調や平衡障害がみられます。

症状

突然、右あるいは左に運動まひや感覚まひが生じ、多くの場合、意識障害を伴います。症状が進行性の場合には大出血となり、脳のヘルニアを起こして(頭蓋骨に囲まれた脳に出血やむくみが生じると逃げ場がないので、下に開いた大後頭孔へ押し出される。これがヘルニアで、その結果、脳幹が骨に押しつぶされ、呼吸中枢がまひする)、呼吸が停止します。

CTでは最初から白く出血が見え、診断が容易にできます。精密検査のためにMRI、SPECT(脳血流シンチグラム)をおこなうのは脳血栓症と同じです。

診断

CTでは最初から白く出血が見え、診断が容易にできます。精密検査のためにMRI、SPECT(脳血流シンチグラム)をおこなうのは脳血栓症と同じです。

治療

急性期には脳の浮腫(ふしゅ)を抑えるグリセオールを点滴し、脳ヘルニアが進行するようなら頭蓋骨を一部取り、圧を逃がすことも必要になります。慢性期には血圧のコントロールや動脈硬化の伸展をふせぐ治療をします。

リハビリテーションも早期から始めますが、脳血栓症に比べるとまひの回復が遅れます。これは脳組織が物理的に破壊されているためです。初期には完全な弛緩(しかん)性まひをみることが多く、この段階では足が重みを支えることができないので積極的なリハビリテーションはできません。脳出血では5年後生存率も低く、多くは肺炎や心筋梗塞などで亡くなります。

予防

脳出血の予防でいちばん大切なことは、血圧をコントロールすることです。最高血圧が160mmHg、最低血圧は95mmHgを超えないように注意する必要があります。禁煙を守らなければなりません。

くろ膜下出血

脳の動脈は、太い内頸(ないけい)動脈と脳底動脈が頭蓋(ずがい)内に入って動脈の輪(ウィリス輪)をつくります。さらにここから前大脳動脈、中大脳動脈、後大脳動脈が分岐していきます。

これらの太い動脈の分岐部には動脈のこぶ(動脈瘤)ができやすく、これが血圧の上昇などで破れたものがくも膜下出血です。動脈瘤のある場所は、脳の底部で脳の外にあるため、出血は脳の外のくも膜下腔(くう)にひろがります。

50歳以下のくも膜下出血は先天的な動脈瘤によることが多く、60歳以上の場合は動脈硬化症から動脈瘤が生じることが多いのが特徴です。

症状

突然、右あるいは左に運動まひや感覚まひが生じ、多くの場合、意識障害を伴います。症状が進行性の場合には大出血となり、脳のヘルニアを起こして(頭蓋骨に囲まれた脳に出血やむくみが生じると逃げ場がないので、下に開いた大後頭孔へ押し出される。これがヘルニアで、その結果、脳幹が骨に押しつぶされ、呼吸中枢がまひする)、呼吸が停止します。

診断

CT検査では脳と頭蓋骨の間に白い出血が見えます。髄液検査では血性の髄液が認められます。血管造影では、破れた動脈瘤を見つけることができます。最近では脳ドックで未破裂動脈瘤がしばしば見つかるようになりました。

治療

破裂した動脈瘤は脳外科で開頭手術をし、クリップをかけてふたたび出血しないようにします。破裂動脈瘤を手術せずに放置しておくと、1カ月後の死亡率は50%に達するとされています。

近年では血管内から動脈瘤内に細く長い管を送って閉塞し、治療することも可能になりました。

ただいずれの方法も部位や年齢、また動脈瘤の状態によって手術に危険性があり、術中・術後に死亡することもあります。未破裂動脈瘤を放置した場合の破裂の頻度は年間1%以内とされ、十分なインフォームド・コンセントが必要です。

パーキンソン病と関連疾患

パーキンソン病は、イギリスの医師ジェームス・パーキンソンの名前からつけられたものです。

大脳と脊髄(せきずい)をつなぐ部分があります。これが黒質です。

黒質ではドパミンという物質がつくられ、大脳の線条体に運ばれます。線条体はドパミンによって刺激され、からだの運動を円滑におこなうことができるようになります。この黒質のはたらきがなんらかの原因でわるくなるとドパミンが足りなくなり、線条体がうまくはたらかなくなります。すると手足がふるえ、からだの動きがにぶく、ぎこちないものとなります。これがパーキンソン病です。

MPTPが見つかったのはほんの偶然からでした。突然からだがこわばり、まったく動けなくなった若い男性が入院してきたのがきっかけです。よく調べると、彼は麻薬中毒患者で、合成された麻薬を使ったとたんにパーキンソン病の症状があらわれたのです。同じような患者が次々に運びこまれ、その結果、麻薬の不純物として混入していたMPTPという物質が原因とわかりました。

パーキンソン病と関連疾患

解剖すると、黒質に強い障害が見つかりました。驚くべきことに、MPTPでパーキンソン症状を発病すると、薬をやめてももはやもとに戻らないことです。これらは原因がわかっており、それによってパーキンソン病の症状が起きるので、本当のパーキンソン病とは区別をして、パーキンソニズム(パーキンソン症候群)と呼ばれます。

本来のパーキンソン病ではなにが原因となっているのかは実はまだわかっていません。少数は遺伝的に発病します。しかしながら大多数の患者は遺伝とは関係なく、なんらかの原因で黒質の神経細胞が攻撃を受けるためだろうと考えられています。

パーキンソン病と関連疾患(進行性核上性まひ、大脳皮質基底核変性症)は国の特定疾患治療研究事業対象疾患(難病)に指定され、医療費の公費負担対象となっています。

症状性精神障害

脳は、内分泌機能、栄養状態、酸素供給、体温などの影響を受けやすい、きわめてデリケートな組織です。そのために、これらの要因に変化をきたすような病気や病態があると、精神症状が出やすくなります。このような身体疾患に伴う精神障害を症状性精神障害と呼んでいます。この病名は、幻覚、妄想、興奮、認知症(痴呆)などの重いレベルの症状が出てくる場合につけられます。したがって、身体疾患に伴い不安や抑うつなどの症状がみられる場合には該当しません。















































































































































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