トリプルの悲劇2~喧騒~



気を取り直した私たちと、
うちと同じ2人の子連れファミリー。

大きな鉄板グリルを囲んで、
8人掛けのテーブルに並んで座る。

ジャパニーズステーキハウスという
名はついていても、

日本には無いタイプのレストラン
なので、一言付け加えておくと、

シェフがお客の目の前で、
お肉や付け合せの野菜なんかを、

お好みの加減で焼いてくれる。

しかも、

ファイヤーあり、ナイフさばきあり、
タマゴやエビが空中を飛ぶ、

パフォーマンス付きなんである。

ワイワイガヤガヤと楽しく食べたい
アメリカ人相手だから成り立つ商売、

と、言っていい。

聞けば、その同席のファミリーは
上の子の誕生日だから来たと言う。

誕生日だと言うと、タイコやドラ?
(なんでドラ?)を、

ドンドン、ジャンジャン打ち鳴らして
くれるので、

これまたアメリカ人には受けがいい。

それはそうと、

サーバーが来てドリンクオーダーを
とり始めた。

飲まない我が家はソフトドリンクを、
お隣はワインとビールをオーダーする。

この辺で、皆のオナカは食べモードに。

他のテーブルから、おいしそうな匂いが
漂ってくるからして、もう。

それなのに、ああ、それなのに、

そんな食前の、束の間の心の安堵感は、

「ガッシャーーーンッ」

という、ぶきっちょサーバーの
「ワインぶちまけ」の儀式で幕を閉じる。

被害状況から言えば、
うちもお隣も赤ワインを浴びたという
50%50%の確率なんだが、

家族4人が揃って白っぽいシャツを
きていたという相乗効果を考えれば、

お隣家族が、90%被害者である。

奥さんの真っ白いTシャツも、
女の子のクリーム色のドレスも、

あっという間に赤ワインの水玉模様に
変身した。

もちろん、サーバーはすぐに謝ったが、

私は、店のマネージャーなり何なりが
さっと来て、この場をうまく取り成して
くれるのを待った。

・・・・・が、誰も来ない。

ただ驚くのは、お隣のファミリーの忍耐の
強さである。

ワインを浴びても、「ノープロブレム」と
笑顔で言えるアメリカ人が何人いるだろう。

しかも、悲劇はこれだけでは終わらない。

ぶきっちょサーバー、2度目のトライ。

私たち8人の熱い視線をまっすぐに浴びて、
ドリンクをのせたトレイを必死に支えている。

そのフルフルと震える腕に嫌な予感がし、

お隣のご主人が、

「Do You Need Help?」と聞くか聞かない
うちに、

「ガッシャーーーンッ」

またも、やってくれたのである。

奥さんの真っ白いTシャツの、
女の子のクリーム色のドレスの、

赤ワインの水玉の数はさらに増えたのだった。

そして、
この後悲劇はクライマックスを迎える。


© Rakuten Group, Inc.
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: