嫁様は魔女

嫁様は魔女

硝子窓(嫁の資質)



結婚してからの貴信と話すと、本当にイライラさせられる。
あんな口の利き方をする子じゃなかった。

妻を大切にするのは結構な事だけど、貴信はただ由香子さんを甘やかしているだけ。
なんでもかんでも言いなりで、いつでもあの嫁の肩を持つ。

親の心配なんてうざったがるだけで、とにかく嫁のご機嫌取りに一生懸命。

あんな風に育てた覚えはないのに。

優しい貴信はあのしたたかな嫁にうまく洗脳されたようなものだわ。

今だって。

貴信の言うように掃除のお手伝いに来てくれた人のおもてなし中なら
電話は由香子さんが代わって出てくればいいものを、
嬉々としてヨソの男と騒いでいるなんて・・・どう言う神経なのかしら。

あの嫁に貴信や、まだほんの赤ん坊の奏人を預けておいて大丈夫なのか。
考えれば考えるほど、心配になってくる。

奏人は半分はあの嫁の子なのだ。
躾が悪いと、ろくでもない人間になりかねない。

「仕事を辞めて帰ってきなさいとも言えないしねぇ。」

小さな声だけれど口に出てしまう。

独り言を言うのは年のせいって言うけど。
違うわね、安穏と暮らしていられれば一人で愚痴ったりはしないわ。

「ちょっと、理恵。聞いてくれる?」

「また怒ってるの?」

「腹も立つわよ!もう貴信は由香子さんの言いなりで私の言う事はなんでもうるさがって。
 家にね、若い男の人呼んでお酒飲んで騒いでるのよ、あの人。
 しかもそんな席に奏人を同席させて、まだ3ヶ月って言うのにハイハイさせて喜んでるらしいの。」

「え?ハイハイってそんなに早くできるの?」

「そんな訳ないじゃない。きっと赤ちゃんに無理をさせて遊んでるのよ。
 もう何をやってるのか心配で心配で。
 でも貴信に言ってもまともに取り合わないのよ。」

「ふーん、お兄ちゃんも今は強く出られないだけじゃないの。
 車買ったとこなんでしょ?」

「買ったって別に由香子さんが買ったわけでもないのに 
 どうして貴信が由香子さんに気を使うことがあるのよ、もう!」

「あたしに言われてもねぇ。」

「あー、もう貴信はアテにならないわ。
 ねぇ、理恵。アナタはもう少しちゃんとした人と結婚してちょうだいね。」

「あたしはいいわ。結婚したくないし。」

先月から理恵は山梨で暮らしている。

本条という離婚歴のある男と、東京で一緒に暮らしていたのだけれど
いきさつは詳しく話そうとしないものの、別れて会社も辞めてきたと言う。

どうも気に入らない胡散臭い、いい加減なにおいのする男だったから
こちらとしてはやれやれ、と言うところだ。

つまらない男とすっぱり縁を切って
理恵が目を覚ましてくれて、本当によかった。

あの時、由香子さんがでしゃばって
無理にでも結婚していたらどうなっていたかと思うとぞっとする。

理恵はそりゃあ、少しは寄り道したかもしれないけれど
これでなかなか人を見る目はあるのだ。

親や周りが口出ししなくても、自分で自分の事は充分判断してくれる。

「それで。どうする?
 千周寺の先生から何件かお預かりしてきているんだけど?」

この子は間違いのない結婚をしてもらわないと。

私のように姑の苦労はさせたくないと
家柄はしっかりしていても、できるだけ身軽な人を先生のツテで探していただいた。

「私はこの人が一番いいと思うんだけど。
 信用金庫にお勤めだから固いんじゃないかしら?
 ご両親とは別でもう家を建ててらっしゃるし。」

「銀行系が固いなんてもう昔の話じゃない、
 それにどうせ親に建ててもらった家でしょ?
 そんなのしょっちゅう親が出入りして、同居と大してかわんないよ。
 合鍵とか持っててさぁ。」

「そう?でもこっちの旅館の息子さんはウチからずいぶん遠いし。
 農家の人は困るでしょ?
 帯に短しってこういうことなのねぇ。」

「あのね、かあさん。あたしまだお見合いして焦って結婚する年じゃないんだけど?
 それに結婚するとしたらレンアイでって決めてるの。
 お見合いでなんて決めないわよ?」

「あら、でも一回くらいお見合いしてもいいって言ってたじゃない。」

「それは、相手さがしじゃなくって。
 お見合いってイベントがどんなもんかやってみたいってだけの事よ。」

「それでいいのよ。
 それに、お見合いもほら、言ってみれば出会いのきっかけよ。
 そこから恋愛が始まれば恋愛結婚てことになるんじゃないの?」

「いや。カッコ悪いよ。お見合い結婚なんて。
 モテない女って感じアリアリ。
 それに地元の人もイヤ、あたしは東京かせめて横浜とかの人と結婚するの。」

「夢みたいな事言ってないの。 
 東京で仕事してる人なんて、そんなにまともじゃないことはよく勉強したでしょ?
 地味でも堅実で真面目でおとなしい人が一番よ。」

「・・・わかった。でももっとマシな男にしてくれる?
 こんな珍獣品評会じゃ一回会うのもお断り!
 ぶっさいくな孫がでてきてもいい訳?
 あたし、そんなの出てきたって絶対育てらんないからっ。        友達と出かけてくる。」

「何言ってるの!こんな時間に。」

「まだ8時半!親に文句言われる時間じゃないよ。」

「誰とドコに行くの?11時には戻りなさいよ。」

「・・・ふぅ。
 美保の車で横須賀まで出てナンパ待ちしてきまぁーす。
 これもある意味お見合いでしょ、じゃあねー。」

「ちょ!待ちなさいっ!理恵っ!!」

「志ぃさん・・・。」

「あなた!理恵をとめてください。あんな事言ってっ!」

「あのね、志ぃさん。あんた理恵にからかわれてるんだよ。」

「そんな、のん気にっ、理恵!ちょっと!!待ちなさいってば。」

「美保ちゃんは車なんぞ持ってないよ。」

夫に言われてふと思い出した。
そう、そう言えば美保ちゃんは車どころか免許もないはず。

いつもあの小柄な子は原付バイクに乗っている・・・。

「もう!理恵も貴信も・・・。」

「もうちょっと捨てておきなさいって。
 志ぃさんね、気を回しすぎ。
 あの子らにはあの子らなりに、思うところがあるんだから。」

「そんな、ほったらかしになんてしてたら糸の切れた凧みたいに
 どっち向いて行くかわかったもんじゃありませんよ。
 キチンと見ててやるのが母親の勤めなんですっ!」

「まぁまぁ。
 それよりどうだ?農協から連休明けにツアーに行かんかとパンフレット貰ったから、気晴らしに行ってみれば?
 婦人部のもあったぞ。」

「今、そんなもの見る気分じゃありません。」

ほんとに、いい加減なんだから。

父親としてもっと理恵にでも注意して欲しいのに。
ほっとけとか、自主性とか・・・・まだまだあの子たちは子供なんだって
少しもわかってやしない。

それに農協旅行ですって?

新年会だけは義理を欠かないように毎年顔をだすようにしてるものの
ツアーには行った事がない。

値段が。

農協のツアーは内容がすごく贅沢だけど、その分高い。

この間見たツアーは出石蕎麦と但馬牛を食べて温泉に一泊するだけで
6万円を越えていた。

贅沢すぎる。

定年を迎えてから、時間を余らせている夫は
時々参加をしているけど、私までそんなお金の使い方はしたくない。

私がそんなツアーに行くはずがないことくらいわかりそうなものなのに、
「金は出してやる、のんびり贅沢でもして来い。」なんて
善い旦那様ぶって、いい格好して・・・・、
その後、実際やりくりしないからそんな事言えるのよ。

農協の会員のグループは知らない人だっているし
気を使うことのほうが多すぎる。

知り合いでも、そりの合わない人と同室にでもなれば、
気晴らしどころか余計に疲れてしまうに決まってるのに、
とんちんかんと言うか・・・・・結局のところ。

私の事なんて何もわかっていないの。
何十年一緒にいたって。

*
「おめーら、声でけぇ!」

大盛り上がりのところにツッコミを入れながら貴信が席に戻った。

「あ、近所めーわくっすね!すんません。」

「でもでも見てぇや、これ。」

ちょうどコロンと座布団から転がる奏を見せる。

「う、うおおお!すっげぇ!コレかぁ!」

「せやねん、すごいやろおー。」

「でも電話の向こうでうるさいって言ってたぞ。」

「えー、あんた外に出とったんちゃうん?」

「廊下だよ。だって外寒いじゃんか。」

「うっわぁ、オヤジですね。」

「るせぇ、ちょっと若いと思いやがって。お前らだって来年30だろ!
 今に見てろ、加齢臭がして毛が抜けて、食ったら食った分だけ贅肉になるんだ、ざまぁ見ろ!」

「・・・・今ちょうどそんな感じなんですね、とっつあん。」

「なんなら人間ドッグ紹介しましょうか?」

吉田君はするっとポケットから電子手帳を取り出す。

「いや、毛は無理だろ・・・。」

「そうだな、毛は無理だ。」

「なんかいい薬は?ケハエールとか、フサリンとか。」

「生え際ってのはなぁ・・・。」

畳み掛けるような息の合った攻勢に。

「うるさい!毛は気にしてねぇ!」

貴信はあえなく敗北。
本当のイジられキャラは貴信やったんやと、妙に納得した。

「それよりママからの電話ってなんだったんすか?」

「ママって言うな、気色の悪い。」

「いつ孫を連れてくるざます?ゴールデンウィークはもうすぐざますよ!ってトコですか?」

「・・・ビンゴ。」

そう言ってチラっと気まずい表情でこっちを見る。

「うん?全然いつでもかめへんよ。こっちも用事あるし?」

「用事って、アレは別にもうっ。」

ニヤっと笑って言い返したウチに貴信はわたわたとしてる。
車のお金の話って事はよーくわかってるらしい。

「そう言うたらあの車って神野君に譲ってもろてんて?
 なんかこないだはナビまでつけてもろて、色々ありがとうね。」

「いや、ボクの方が無理言ってお願いしたんでアフターケアくらいは
 当然って言うか、実はまだ触りたいって言うか。
 でもすごいですよね、140万ぽんっと!」

「ひゃく・・・よんじゅうまん?」

150万ちゃうかったっけ!?

「あ、ばかっ!神野っ!!」

「え!地雷っ!?」

「神野くぅーん、ゆーっくりお話しよっかぁ?」

「ちがう誤解だ、由香子。本体140万でナビが10万っ!」

「ふー・・・ん、中古って言うてへんかった?
 ナビってそーんなに高いんや~。」

「奥さん、本当のことをいいましょう。
 ・・・・実はキャバクラで。」

「バカか。」

「ウソです・・・・・ええっと。
 ナビは4万です、取り付け部品は13000円でした。
 残りは、ボクが取り付けたでっかい音のする爆音マフラーを純正に戻すのと、車高をまともな高さに上げる諸経費にボクが貰いました。」

「え、つまりヤン車やったって事?」

「ありていに言えば。そのままではとても住宅地で乗れる代物ではなかったので。」

「で、その改修費用込みって事?それやったらそない言うたらええやん。」

「だって、かあさんもお前もそんな費用なら神野に出させろって言いそうじゃん。
 それにヤンキー車だって言ったら買えそうになかったし。」

「はー、どんなんでももともとウチは買う気なかったけどぉ?」

「あ、う・・・。」

「まぁ、もうエエねんけど。ツケにしとったるわ。」

「ツケってなにっ!?」

「ん?そのときのお楽しみ。
 それより神野君がヤンキーやったとは、意外やったわぁ。」

「ヤンキー?違いますよ。
 車のポテンシャルを最大限に引き出す研究に熱心だっただけでっ、
 走りにも行きますけど、その走り屋とかじゃない純真で真面目な青年なんです。」

「真面目な人間は自分で純真とか言わないんじゃないか。」

さっきの「バカ」と言い、吉田君の一言は手厳しい。

「ほんで車屋さんに就職した訳?」

「違うよ。」と神野君でなく貴信が答えた。

「コイツの行動原理は「モテるため」だ。」

「は?」

そこからは貴信たちオトコ連中のかけあい漫才状態やった。
いかに神野君がモテるか、モテるためにどんなに努力をしているかと
おもしろおかしくまくし立てる。

カンベンしてくださいよ、とちゃかしながら神野君は否定するけど
話をしているうちに本人の気くばりと陽気なキャラで
「雰囲気モテ」するタイプやって言う事はわかった。

2人が帰ろうかって言う頃にはすっかり仲良ぉなって完全に懐に入られた感じになってた。

それがまったくイヤやない。

ゲンキンなもんやけど、前の持ち主がああ言う子とわかると
あの車への抵抗感もなくなってしもてた。

「不倫するんやったらああ言う子ぉやと後腐れなくてよさそうやんな。」

じゃあそろそろと、帰る2人を玄関で見送り、
心の中で10ほど数えて貴信に言う。

「やんなってオレに同意を求めるなよ。」

神野君と吉田君は電車で帰って行った。

次回は神野君が新しく買ったと言う車でくるらしいけど
なんて言う車かは見てのお楽しみ、って言う事やった。

貴信が洗い物をしてくれてる横で、ウチは奏におっぱいをやりながら休憩タイムや。

「食洗器買うかぁ?」

「何言うてんのんな、そんな余裕ないんわかってるやろ?」

「でもさぁ、哺乳瓶とか離乳食の食器の殺菌もできるし。
 オレ、仕事から帰って毎日茶碗洗いとかってちょっとカンベンして欲しいんだけど。」

「ええよ、それやったら車売ってお金作っといでぇや。」

「それは別問題。」

「そしたらウチが洗うから、あんたが奏の事してよ。」

「それも無理ってわかってるだろ。」

「ほんなら茶碗くらい洗うてぇや、毎日こんなにある訳じゃないねんし。」

「へーへー・・・・、それはそうと。山梨いつにする?」

「いつってウチ決められへんやん。あんたの仕事次第やろ?
 休み取って、山梨のお義母さんと相談しとってよ。」

「大安とか入れなきゃダメかなぁ。」

「それもウチの口出すことちゃうし。お義母さんのええようにしとって。」

「めんどくせぇ。」

「知らんやん、あんたのお母さんやろ。」

「ちょっとカレンダー見てよ、火曜か水曜が大安の週。」

「20日位は?」

「ダメ、それじゃゴト日重なる。」

ゴト日って言うんは五十日と書く。

大阪だけなんかよう知らんけど五や十のつく日は商売上の締め日で
伝票や支払いの手形の処理があったり、道路もいつもより混んだり
なんとなく忙しい日・・・と言うことになってる。

実際イマドキはゴト日なんて関係なく、ビジネスは回ってるんやけど
百貨店の外商に絡むお客さんや仕入先の人は
老舗の人や年配の人が多ぅて、貴信たちは気を使わざるをえんらしい。

「連休前もキツイやろ?
 ほんなら前半しかないで、12日が大安やから11日に早ぉ上がって移動して13日か14日に戻ってくるとか。」

「それもキツイなぁ、12日に移動じゃダメなのか?」

「だからそんなんウチに言うてもわかれへんって。
 自分でお義母さんに言うてぇや。」

「だよなー。じゃあ電話するからココ代わってよ。」

「アカン、まだ奏寝てへんし。洗い終わってから電話したらエエやん。
 それか明日電話したら?」

ち・・・っと洗い物から逃げ損ねたのがいかにも残念と言う声を出す。

せやけどこんな事だけでも協力してくれへんかったら育児なんて一人ではやっていかれへんねん。
徐々にでも身に付けていってもらわんと困るんや。

「オレ、子供の頃とうさんが家事してるのなんか見たことないけどなぁ。」

「だから?」

なんでこんなカチンと来る事平気で言うねん。

「いいんだけどさぁ。」

「ええんやったら気にしなや、洗いもん終わってんやったら・・・・。
 どうする?奈良帰る?こっちにおる?」

「お前って言うか奏は?奈良じゃないとマズい?」

「んー。もしかしたら手持ちのオムツだけやったら足れへんかも。
 大通りのダラッグストアやったらまだ開いてるから買いに行けたら
 奈良には戻らんでええけど。」

たいした量じゃないけどお酒も入ってるし、この時間から電車で動くのもどうかと思うから、別に奈良に帰らんでもええと思う。

「じゃあ、オレも休憩したら買って来るよ。着替えとかは?」

「それは足りてる、ベッドも出来てるし。
 ・・・12日とかに山梨やったら、奈良からこっちに引き上げてくるん前倒ししたほうがええなぁ。」

「今回はえらく素直だな・・・・やっぱりアレか。車代・・・?」

「そうや。借りたもんは返さんと。人としての基本やで。」

「やめとこうよ、いいじゃん。お前がつき返したりしたら険悪になるに決まってるんだし。」

「そーんなぁ。つき返すやなんて失礼な事せぇへんわよ。
 丁重にお礼申し上げてお返しさせていただきますって。」

「ダメだって。思いっきりけんか腰じゃん。
 もういいんだって。お祝いなんだから、な。ウチも楽じゃないんだろ?」

「ほな車売ってくる?・・・・ほら、返事でけへんやん。
 あんたもな、もうええ年やねんし親にたかってたらかっこ悪いやろ?
 長男らしくケジメつけようと思うたとか言うてくれたらええねんやん。
 あんたもカッコつくし、そない言うたらお義母さんかて
 さすがワタシの息子!とか言うて納得するって。」

「・・・んー・・・。」

「わかった!?」

「いいよ、まかせる。
 でも怒らせるなよ、ややこしいから。」

「そんなん、アンタがうまい事言うたらエエ事やろ。
 ほら、それよりドラッグストア行って来てよ、Sサイズのんな。」

「タバコ代もちょーだい。」

「・・・しゃあないなぁ、はい。」

オムツ代の概算に300円だけ上乗せして渡す。

「えー!これじゃタバコ一箱しか買えないじゃん。」

「藪をつつくつもり?」

妊娠したら。
出産したら。

と言う禁煙の約束を延々と破り続けてるのに、あほなやっちゃ、と思う。

貴信は小声でつべこべ言いながら買い物に出て行った。

その日はもう遅いって言うんで、山梨に電話を入れるんは翌日になった。

貴信と山梨のお義母さんとはどんな話をしたんか知らんけど
4月の11日から休みを取って、14日まで滞在する言うことになった。

世間で言うゴールデンウィークのかわりやから
ほんまは16日までは休みやけど、あんまり長い事山梨にはおりたくないし
ちょっと位は骨休めもしたいから早めに切り上げたと言う。

「あんた山梨行ったら、至れり尽くせりで十分骨休めちゃうん?」

て言うウチのイヤミはあんまり通用せんかった。

なにせ、貴信はウチに気を使って14日までにしてくれたって気ぃらしいから。

そんな中途半端に気ぃ使うくらいやったら断るか一泊にしてやって思うんやけど。

日程にも不満はありありやってんけど、交通手段でも今回はモメた。

「こんな車を買いましたって見せるのもスジだろ?」

「何時間かかると思ってんの?奏の事考えてよ。」

「チャイルドシートだし、どうせ夜中移動だから奏は寝てるじゃん。」

「長い時間車に乗せとったら赤ちゃんの体に負担になんねん。」

「じゃあ休憩こまめにとればいいだろ?」

「だから。そんなんしとったら移動だけで半日仕事やん!」

貴信は。

新しいおもちゃを買った子供とおんなじ。

とにかく車を乗り回して見せびらかしたくてしゃあないんや。

そんなん道行く他人さんが見てるはずもないのに

「オレのスカイライン」は人目を引くカッコのエエ車やと思いこんでる。

山梨までの長距離やったら高速もある。

存分に「走る」のを楽しめるって魂胆なんやろけど。

「由香子。飛行機や新幹線で移動したらどんだけかかるんだよ。
 乗換えだって大変だろ?
 ここから新大阪にり伊丹に出て、東京まで行ったら今度は電車乗り継いで山梨。
 今まで見たいに大人二人じゃないんだよ?」

「そんなんわかってるわ。」

「子供抱いて、大荷物持って乗り換え乗り換えしてたら
そのほうが奏も疲れるし、由香子だって・・・いや、由香子が一番大変だろ?」

「奏のおっぱいとかどうするんよ?ウチ母乳やねんで?」

「授乳室のあるSAさがせばいいだろ?」

「SAがちょうどええタイミングで出てくるん?
もし渋滞しとったらどないするのんよ?」

「・・・・んー。夜中ならこう車の中でこっそり授乳できたりしないの?」

ベテランのママなら、そうしてるって話は聞く。
でも。

「ウチはムリっ!!絶対でけへん。」

「ちょっと位ならガマンしてもらえばいいじゃん。
ちゃんと下調べしていくから、そんなに困らせることはないと思うけど。」

「それにしたかて何時間も夜中運転せなあかんねんで?
そんな状態で奏がぐずったりしたら、あんたがイライラしやなあかんねん。
今回は車はムリやって。飛行機にしよ。
時間かからんし、ベビーカーも持って行けるし。」

「荷物持つ身にもなろうよ。子供のだって相当あるよ。」

「そんなん宅急便で送ったらええやん。」

しょおもないことで押し問答。

結局、山梨へは荷物を宅急便で送り
ウチらは一番移動時間の短い飛行機で行く事にした。



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