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嫁様は魔女
硝子窓(下準備)
由香子もなぁ、真面目に考えすぎやねん。
電話は切れたけど、子機は戻さずおとうちゃんの部屋まで上がっていく。
「なんや。えらい長電話しとったなぁ。」
「あー、由香子からや。なんや山梨のお母さん入院しはったらしいねん。」
「どないしたんや?」
「たいしたことないみたいやで、ほんまは帰れるけど一応入院した言うくらいやし。
胃潰瘍やて。
せやけどちょっと見舞いに顔出してくるわ。」
「そんな程度の入院やったら行ったかて入れ違いにならんか?
わざわざお前が行くような話ちゃうやろ?」
「うん?
何言うてるん。もったいない。
あのオニババさんが寝込んだはんねんで?
人の不幸な顔見るんはええでぇー、自分の幸せ確認できるし。」
「なんちゅうコトいいよんねん、このババ。」
「誰がババやのんな。
ええねん、あのオニババ、由香子のことイビリ倒してくれはったみたいやし。
なんや由香子に三行半たたきつけてくれたらしいで。
そんで奏ちゃんは清水で育てるやら言うて。」
「・・・なんやて!」
「まぁまぁ、おとうちゃんはそない怒らんでも。
別に貴信さんとモメたとかやないし。
あのオバサンが勝手に言いがかりつけてるだけやろから。」
「何ノンキな事言うとんねん。
言いがかりつけて三行半やて。
そんなにウチの娘が気にいらんのやったら返してもらうわぃ!」
「どっこもなぁ、姑根性出てきたらそんなもんよ?
ええから。
ちょっと行ってきゅきゅーっと絞めてくるわ。
せやから明日の朝、新大阪まで送ってな。」
「ワシも行く。」
「来やんでエエて。」
あんた切れたら本人が別れる気ぃなくても離婚さすがな。
「だぁほ!由香子に文句言われて引っ込めるか。
大概の事ははガマンしたるし、金で済む話やったら飲んだるけど
娘、バカにされて黙ってへんぞ?」
「あかんあかん。
あんたに出てもらうんは、ホンマにどうしようもない話のときや。
エエから。ウチに任しとり。」
「・・・日帰りか、泊まってくるんか?」
「なんや、明日退院言うてたから、あのババサンと顔合わすんは昼前やろ。
晩にはこっち帰ってくるわ。」
「今から行くか?」
「なんでーな。」
「ほんなもん、今から行っといて明日の朝一番で病院行ったれ。」
「朝イチ言うたかて、面会時間決まってるのにそない頑張って行ったかてしゃあないやないの。」
「かまへん、なんやったら清水のオッサンとこも行って来い。」
「あのお父さんになんか言うたかてどうもならんやろ?」
「なんか腹立つのぉ。」
「ジっとしとれんのやったら由香子のトコでも行こうな。
肉でも買うて持っていったろ。
ついでに銀行連れって。
あ、せや。山梨へ電話せななぁ。」
「なんでや?」
「病院知らんねん。」
「ワシかけたろか?」
「エエって言うてるやないの!」
どないかヒトコト言うてやりたい、って言うんが丸わかりやった。
いつもじぃっと人の話聞いて自分から口出さん、どしっとした人やとみんな思てはるけど
ホンマのとこは娘が好きで好きでたまらんオヤバカオッチャンやねん、この人。
案外イラチやしおっちょこちょいやねんで。
「ほれやったら、はよ行くで。」
「仕事わいな?」
「かまへん、まだ納期先や。」
議員やめて設計しかしてへんから、そら今までよりは時間あるやろけど・・・。
まぁええか、どうせあらかた出来てはんねやろ。
納期あったかて、お構いナシで先々やっつけてしまうからなぁ、この人。
「ほな、山梨電話して、陽菜ちゃんにもメールしとかんと。
あの子帰ってきたら困るやろ。」
「どうせ、陽菜子は外食ちゃうんか?」
「そんでもや。」
いいもって、山梨の家に電話した。
案の定、お父さんが出てきはった。
そう言うたら、この人はもう定年で家にいてはるんやなぁ。
通りいっぺんの挨拶をして
事情は知らん顔で、志づるさんの入院先を聞いた。
「いや、明日退院してきますし。
わざわざお見舞いに来ていただくような大層な話じゃあないんです。」
「せやけど。ちょうど用事でそっちの方行きますしぃ。
入院してはるん知ってて素通りやなんて、そんな不義理できませんわぁ。」
「それが実は・・・・その言いにくいんですけど。
ちょっとウチのと、由香子さんとで言い合い言うか・・・
ケンカ言う程やないんですが、行き違いがありましてね。
それでカァーっとして入院しよったようなトコがあるんで、高城さんに来てもろたら、またウチのヤツ何か余計な事を・・・。」
ぐちゃぐちゃ言うのんに、上から畳みかけたった。
「いやっ!!いやぁー。あらぁそうなんですかっ!!いややわぁ。
ほんなら余計にお見舞い伺わんとっ!!
もうねぇー。ウチの由香子もねぇ、そんっな大事な話なんも言わんよって。
やっぱり明日伺いますわ。
いえいえ、何をおっしゃいますやらっ!!
そんなんかまいませんて、はいー。
それで、どちらの病院ですの?・・・・高津会。
ハイハイ、ヤクルトのタカツって書いてコウヅて読むんですね。
わかりました・・・・はい。失礼しますぅ。」
ふん、けったくそ悪いわぁ、ほんま。
「大阪のオバハンやのぅ。」
「ウチは奈良やで?」
「いや、お前生まれは大阪やろ、抜けへんのや。」
「ほっといてんか。」
今度は陽菜子の携帯にメールや。
「・・・・いきま・・す、と。
よっしゃ、由香子にもメールしとこか。」
「しゃべりながらやないと打たれへんのんか?」
「携帯のメール使えん人に言われとないわ。」
そらブサイクやって思うけどウチらみたいなおばちゃんは、みんな同じようなもんやろ。
あ・い・う・え・おって順番読まんと間違いそうやし
絵文字出すんは一苦労。
しかも細かいから絵文字が何の絵なんかようわからん時もある。
ちょっとしたメールに何分もかかる言うのに、返信してくる方はまた早いこと。
陽菜子に送信して、次は由香子やと携帯触ってたらもう返事が来た。
おまけに「OK」やの「了解」やの愛想もへったくれもあれへん。
「ちょっとぬくいけど、しゃぶしゃぶの材料を、買って、行きます・・・と。
おとうちゃん、しゃぶしゃぶでかまへん?」
「もうそない送ってんやろ?」
「いや、まだや。」
「なんでもかめへんけどな。由香子の好きなん買うて行ったれ。」
「・・・よいしょっと。できた。ほんなら先に銀行行こか。」
交通費と、そや、見舞いに包む分も降ろさんなんわ。
「お見舞い、なんぼしよか?」
「せんでええわい。」
「せっかくオモロいもん見に行くのにテブラ言う訳に行かんやろ。
一応はお宮参りの礼も言わなあかんし。」
「お見舞い言うよりお礼参りやのぉ。」
うまい事言いよる!
「座布団やろか?」
カーディガン持って立ち上がってたおとうちゃんに
「なんで座布団いんねん、行かへんのんか?」と返された。
なんや、わかってへんかったんか?
*
思いつく限り掃除して疲れてぼんやりしてた。
夕方や言うのに、こんなときに限って奏人は起きる気配はないし
冷蔵庫は・・・・でかける前にカラッポにしていったから
当然、何にも入ってない。
貴信は晩御飯いらん言うてたけど、帰ってきたらどない言うかわからんし。
何時に帰ってくるんやろ?
メールしてみよかな・・・・そう思ってケータイを見ると
おかあちゃんと陽菜ちゃんからのメールが入ってた。
ラッキー。
買い物してきてくれるんや。
ついでに明日の分とか頼もっ!!
食パン、たまご、牛乳・・・あ、チーズもなかった。
ハムと・・・サラダ用に野菜イロイロ。
2日くらい買い物行かんでええように、思いつくものをメールで買ってきてって頼んだ。
陽菜ちゃんも来るんや。
貴信と二人はなんか気まずいからちょうどよかったわ。
陽菜ちゃんはウチと違うて、ぽんぽんと言いたい事が言える。
雰囲気変えてもらうには一番いいかも。
貴信にメール・・・しとくかな?
高城の人間勢ぞろい言うたらビビって帰ってけーへんやろか?
でも飲みに行かれても困るなぁ。
んー・・・ええか。黙っとこっと。
あの人にしたかてウチとおるんはしんどいんやろう。
トラブった、言うて仕事行ったけど
そうそう休みの人間引っ張りださんとあかんトラブルなんてないはずや。
元・同じ職場で全部見当がつくんも良し悪しやけどな。
知らぬがほっとけ、は結構うらやましい。
*
「あれ?清水さん、休みじゃなかったんですか?」
外商一課に去年入った新人が声をかけてきた。
「ホントはね。でも早く用件終わったし家にいても暇だからさ。」
「だからってわざわざ仕事しなくったって。」
はは、と軽く笑ってごまかしてみた・・・が、同じ一課の中堅の後輩が横槍を入れる。
「なんかやらかしたんでしょう。
で、家にいづらいから来たんじゃないんですか?」
「ヤマ・・・・お前、オレを見抜くのはやめろよなー。」
「え!そうなんですか!」
新人クンは素直なもんだ。
「休暇で実家に行ってた。
予定より早く帰ってきたのはアリとして。
生まれたばっかの子供がいて、帰宅したばっかりなら普通は奥さん手伝うだろ?
なのに会社って、何もなきゃあそんな事しませんよねー、カカリチョー?」
「お前なぁ・・・・。」
「清水さんの奥さんて、あの高城さんですよね?」
大きな予定がなくて暇なのか、ペラペラ余計な話が始まった。
「なんでお前がウチの嫁さん知ってんだよ?」
「大阪店の高城さんっつったら、有名ですよ。
伝説になってんの知らないんですか?」
「ヤマ、知ってる?」
オレと違い、先天的に口が上手くて社交的な山崎はつまらない給湯室のウワサにまで精通している。
「あったりまえでしょ?
カカリチョーねぇ、高城さんが結婚するって聞いたときにどんだけ嘆いた男がいると思ってんですか?」
「オオゲサだろ。」
まったくコイツは営業向きだよ。
由香子より美人だったりかわいらしい女の子は大阪店だけでも何人もいたはずだ。
「そりゃ、お客に宝飾品コーナーまで案内させられて、そこでそのまま
『あなたに何かプレゼントさせてください』とか言われたとか、
そんな派手な伝説はありませんけどね。
外商行けば、売り場の高城さんを息子の嫁にって社長やらはワンサカいたんですよ?
店頭で口説いたりナンパしたりする客もいたし、エレガ時代のストーカーは基本だし。
大阪店で『お嫁さんにしたいNo1』と『美脚の女王』って言われてたの知ってるでしょう?」
「・・・『最終兵器タイトスカート』って言われてたのは知ってるけど。」
「はぁ~!!最終兵器ですか・・・・もうなんだか、もンのすごいですね。
一回会ってみたかったですよ。」
「残念だったなぁ、大学浪人しなきゃ会えたかも知んないのに。」
「う・・・心の傷にマスタードガスを・・・。
でも清水さん、ダメっすよ。
そんな奥さんほっといて会社なんか来たら。」
「そうですって、カカリチョー。
何があったか知りませんが、全てカカリチョーが悪いんです。
とにかくカカリチョーの責任です。
あんな美人と結婚したってだけで軽犯罪法ひっかかってんですから
とにかくとっとと帰ってください、カカリチョー。」
悪い悪いって言うな。
全てオレが・・・って、ずずんとのしかかるよ、その台詞。
「別にモメた訳じゃないよ、ちょっと見たい資料があっただけで。」
「あ。でも山崎さん・・・・オレ・・・そんなに美人で美脚ならバツイチでもいいです・・・・。
人妻・・・・むしろイイかも。
いいですっ!」
ばかっ!新人の頭を小突いてやった。
「なにがバツイチだ、縁起でもない事言うな。」
「はは、地雷踏んでやがんの。」
さっきまでパソコンに何か打ち込んでいた統括の課長も入ってきた。
「そうだ、縁起でもないこと言うなよ?離婚だなんて・・・
高城と離婚なんてオソロシイ・・・。」
うわ、来たぞ。
小心者でノルマの事しか考えてないコイツはいつも言うんだ。
「清水クン。いいね、何があってもどんな事があっても高城さんと離婚なんてしないように。
もう業務命令だと思ってもらってもいい。
わかってるね?」
「当たり前ですよー、課長。
別にもめたりしてませんから、暇つぶしに会社来たようなもんなのにカンベンしてください。
お前らがつまらない事言うから。」
ヘラヘラ笑いながら、取り繕う。
「だいたい休暇なんだろ?資料だかなんだか知らないけど終わったらとっとと帰りなさい、いいね。」
「わかりました。」
そう言うと納得したのか、それでもまだオヤジは
ブツブツ独り言を言いながらベンダーに向かって去って行った。
「なんであんなに言うんですかね。」
新人、お前は全体の売上げをちゃんと見てないのか?
「ばかか。」
先に山崎が新人に説明?・・・説教を始める。
「一課の数字、ちゃんと見てるか?」
「はぁ、まぁ・・・。」
「何がはぁまぁだ。
自分の数字ばっかり追ってちゃだめだぞ。
清水さんの売りと顧客、これが一課の肝だ、いいか?」
PCの顧客リストを開いて山崎は続けた、オレにとっては聞きたくもない話だ。
「ここから、このへんまで。
これで清水さんの売上げの半分以上、一課の売りの1/3近く。
これがな、ぜんぶ奥さんの実家関係なんだよ。」
「はー・・・・、お嬢様ってウワサでしたけどすっごい数ですよね。」
「うっかり離婚でもしてみろ、これがパァだぞ。ぱぁ!」と
ご丁寧に山崎は手のひらをぱっと広げて見せた。
「だからあのオヤジにしたら必死なの。
なくなるだけならまだしも、コレがSとかT百貨店に流れてみろよ?」
「ヤバいっすよね・・・。」
オレはちょっとムッとした顔をしたんだろう。
山崎がしまったって顔をした。
新人は空気が読みきれていないらしく
「でもウチの店の人間と再婚したらいいですよねー。」などと言っている。
「お前、今月カード取れてんの?」
「え?」
「新規の客取ってこなきゃ外商やってる価値ないぞ。」
「あー・・・・すんませんー。」
「そうだ、清水係長。」
コイツはさっさと状況判断して切り替えている。
ちょっと神野と性格似てるよな・・・・とトヨタの技術屋のヤツを思い出した。
そうだ。
アイツ誘って車で出るのもいいかもな。
スカイラインで軽くトバせるところ教えてもらうか。
「あそこの羅刹の家、どうしたらいいんでしょうね。
担当、今コイツになってるんですけどコイツ怖がっちゃって。
こないだは裏口で若奥さんが茶碗割って踏みつけてたらしいし。」
山崎は外商の中で有名な嫁姑バトルの家の話をはじめやがった。
なんでまた今よりによってそんな話を・・・。
「もういつ行っても修羅場って感じで。
いっそ別居でもしてくれりゃあいいんですけどねー。」
「オレたちは他人なんだからほっとくしかないんじゃないの?」
「それがコイツ、ばかでね。
若奥さんにどうしたんですかって聞いちゃったんですって。
そしたら延々、おばあさんのグチ聞かされて
それが本人の耳に入って、担当替えろとか、オタクの店からはもう買い物しないって・・・。」
「ホントにバカだな、お前。」
「山崎さんにも課長にも言われました。」
「ほっときゃいいんだよ、オンナのもめごとなんて。」
「でもなんか気の毒で・・・。」
ちくしょう、他人事じゃないぞ。
「そんなもんは旦那が頼りないからそうなんだよ。
外野が同情したって、ケンカのネタにされるのが関の山だ。
お前はしばらく顔出すな。
夏の中元もDMだけ送っとけ。」
「・・・・はい。」
くっそー、旦那が頼りないからかよぉ!
「やっぱオレ、帰る。」
「いいんですか、資料。」
「あー・・・忘れてた、つまんねー事言うからだ。」
明らかにヤツアタリだった。
こんなんじゃオレもあの課長みたいに裏でカゲグチ言われるかもな。
・・・気をつけよう。
「新人ー。」
「新人っていい加減、名前ちゃんと呼んでくださいよ。」
「今度、ウチ来る?
『あの人は今』って感じだけど嫁さん見せてやるよ。」
「やり!マジっすか!」
「おー、山崎も来い来い。」
無責任に招待したら怒るかなー・・・。
でも今、二人で過ごすのはなんとなく重いしキッツイよ。
じゃあ今夜にでもさっそく、と後輩二人は勢い込んでいるが
・・・ちょっと待て。
さすがにそれはマズイんじゃないだろうか?
冷蔵庫は空のはずだし、メシいらないって言っちゃったし
買い物、仮に行ってたとしてもそんなに色々持って帰れないはずだし。
「食い物ないんじゃないかな。
いきなり連れてったら最終兵器が怒るからダメー。」
「じゃあ地下でなんか買って行きましょうよ。」
新人・・・ちなみに阿波野はすっかりその気になっている。
山崎は彼女もいるし今日の今日なんて、自分がムリだろう。
「まぁ、そう焦らなくても離婚したり別居したりしないから
いつでも会わせてやるって。
嫁さんにダイエットする暇やってくれよ。」
「はははっ!マジすかぁ?」
「すごいぞー、オンナって。
子供産んだら腰やら尻がこう重力ぅーって感じで下がってんの。」
「あっちゃあー・・・・。」
「夢を壊すようで悪いけど、今、そんな美脚とか期待すんなよ。」
「でも女の人って子供産んだら脂が乗って色気が増すって言いませんか?
・・・どうなんです、実際。」
何をヒソヒソ声で言ってんだ。
「ばーか。お前はカード3件取ってくるまで来なくていいからな。」
「うそーん。」
「今から営業行くかぁ?」
「一緒に行きません?」
「何でオレが。」
そこにベンダーでコーヒーを買ってきた「ば・課長」が話に入ってきた。
「なんだったら、その松倉さんだっけ?もめてるの。
一緒に行ってやりなさいよ。
清水君、元担当でしょ?」
だからなんでこのタイミングで嫁姑に首つっこまなきゃ行けないんだよっ!
「あー!!清水係長。お願いしますっ!!
一緒に行ってくださいー!!」
両手を合わせて拝まれてしまった。
まぁいいや。
自分の家のことよりはキラクだろうし・・・・
言っちゃ悪いが自分の方がマシって思えるかも知れないし。
「しょーがねーなぁ。その代わりウチ来るときは手ぶらじゃ許さねーぞ。」
「ん?こんな感じ?」
阿波野は拝んでいた両手で自分のバストを押さえていた。
・・・気持ち悪ぃ。
ともかく、バカ一匹連れて羅刹の家を回りそのまま直帰することにした。
そう言えば。
松倉さんの家から近かったな。
由香子のバイトしてた店。
うん、由香子の好きそうなコーヒー豆でも買って帰ろう。
そう決めると気持ちと足が軽くなった。
*
呼び鈴がなった。
ダレが一番やろー、と考えながら玄関を開ける。
「んもぉ!なんぼほど買いモンさせんねんな。」
「奏人は?」
開口一番がコレ言うんも・・・さすがウチの親って感じや。
「ごめんごめん、ほんまに何もなくって。
奏寝てるから買い物も行かれへんで困ってたんよ、ありがとー。」
「なんや、寝とるんかいな。」
おとうちゃんは面白くなさそうに言うと、スーパーの袋をキッチンへ持って行ってくれた。
「しゃぶしゃぶの材料より、あんたに言われた買いモンの方が多かったわ。」
「へへっ。なんぼやった。」
「ええわ、そんなん。
それより明日山梨行くことにしたで。」
「え!ええーっ!!
行かんでええよ、やめとって!おかあちゃん。」
「心配せんでも文句言いに行くわけやあれへんて。
お見舞いするだけやん。」
「・・・・あんな人、ほっとたらええねん。」
見舞いなんか言って、おまけにおかあちゃんが頭下げたりしたら
絶対自分が勝ったと思って調子乗って威張り散らすに決まってるやん。
「そない言いな。
気持ちはわかるけど、身内でもめたら奏ちゃんがかわいそうやろ。
うまいこと言うてくるから、な。」
「交通費もったいないわ。」
お見舞い行ったからって感謝するような人ちゃうねんしっ!
「電話で、言うわけにも行かんやろ?あれ・・・貴信さんは?」
「会社行ってる。」
「なんでぇな、今日はまだ休みのはずやろ。」
「ええねん・・・それにおられたらウッとうしいし、電話とかでけへんし。」
「ふん、そらそやな。
まぁどっちゃでもええわ。
陽菜子も呼んだぁるねん、しゃぶしゃぶ用意しような。」
「そやなぁ、陽菜ちゃん6時半には来れるって。」
「あんたんトコには連絡来てるんかいな。
もう!こっちには『OK』だけやでぇー、かわいげないなぁ。」
ぽんぽん文句を言いながらおかあちゃんは袋から野菜を出して仕込みだした。
「ウチ、水菜とか洗うわ。」
「ええて。今日帰ってきてしんどいやろ?
ゴロゴロしとり。
あれやったらおとうちゃんとこ行ったりぃな。」
おかあちゃんの口癖の『あれやったら』の『あれ』ってなんやねんやろ?
そのうち、ウチにも伝染してきたりして。
あったかいお茶を入れてリビングをのぞいたら
おとうちゃんは、床に座って新聞パラパラ開いてた。
「あれ?新聞持って来たん?床座らんとソファ座ったらええのに。」
「その椅子、落ち着かん。」
ちょっと機嫌悪いんかな・・・と、思うたら
「あんな。
イヤやったらいつでも戻ってこいよ?」と真顔で言われた。
「もー、何言うてんのんなぁ。」って笑うてみせたけど
ヤバ・・・ちょっと泣きそうになった。
あかんあかん。
弱ってるなー。
「土鍋、出してくるわな。」
そう言うてウチはまたキッチンに戻った。
*
相変わらず松倉さんの家の様子はサイアクだった。
よその人間なのにウチの問題に首を突っ込むな、だの散々言いたいように言われたけど・・・。
これって、ストレスのはけ口にされてるよなぁ。オレたち。
なんですぐに「ダレダレの味方」とか言う話になるんだろ?
首だって突っ込みたくて突っ込んでるわけじゃないし
勝手なときはアンタだって、若奥さんの悪口聞かせるじゃないか。
ここのダンナ・・・気の毒だよなぁ。
ウチの2人なんかまだ外の人間に当たらないだけマシって思えるよ。
どうにかこうにか。
1時間以上に及ぶ、愚痴か悪口かよくわからない話に付きあって
オレたちは松倉家を後にした。
ちょうどいいタイミングで話し相手になったらしく
松倉のおばあさんは機嫌をどうにか直してくれ、また来るようにと
阿波野に声をかけてくれた・・・けど。
「はぁー。ダメです、僕にはムリですよ。担当戻してくださいー。」
「ダメだ。ちゃんとした営業になれるように修行の場だと思え。
お前も結婚したらああ言うのの板ばさみになるかも知れないんだぞ?」
「だいじょーぶですよ。うちのオフクロは僕に甘いですから。」
そう言うのが一番ヤバい、と思ったけど知らん顔しておいた。
・・・お前もそのうちお仲間だ、ザマーミロ。
ココロの中で舌出しながら「サテン行くか?」と阿波野を誘う。
由香子がバイトしてた『アレグロ・ヴィバーチェ』と言う
その店は松倉さんの家の最寄り駅の近くだ。
帰り道だし少しくらいの寄り道はアリだろ。
ここの女性オーナーが、由香子を気に入ってたのは知ってるけど
そのダンナのオレの顔まで覚えていたのには驚いた。
「だって、清水さんは私の理想のタイプですから。」
それはさすがにお世辞だろうけど、
女だてらにチェーン展開するほどの店のオーナーってのは気配り目配りが違う。
しかも色っぽい。
この人があと20歳若ければ、グラっと道を踏み外したかも知れないな。
カプチーノと持ち帰り用の豆とをオーダーすると
オーナーは由香子の好きそうな豆を選んで割引までしてくれた。
阿波野は肩の荷が降りたとばかり、旨そうにアイスコーヒーを飲み干した。
「ちょっとは味わえば?」
「いやぁもうノドカラカラで・・・。
じゃ、ボクは会社戻りますね。
かなり時間食っちゃったし、一応報告しといたほうがいいと思いますんで。」
「そっか、じゃあな。」
「はい。明日は出勤されるんですか?」
本当なら明日大阪に戻って、明後日から出勤の予定だった。
「んー・・・・、行くと思う。」
「無理しないで下さいね、今日、助かりました。
ありがとうございました。」
そう言って席を立った阿波野にひらひらと手を振って
手持ちぶたさになったオレはケータイをチェックした。
着信もメールもない。
ほっとした。
帰ろうかなぁ・・・多分、由香子、買い物とか行けなくて困ってるだろ。
早く機嫌直してくれないと気が重くてたまんねー。
カプチーノを流し込んで、オレも店を出た。
*
「ただいまー。」
鍵開けて入ると、玄関には奈良の両親の靴があった。
うっそだろー・・・。
とたんに胃の辺りが苦しくなる。
マジかよ。
いきなり親呼ぶか、普通?
全然話し合いとかしてねーのに・・・ちょっと呆然としてしまう。
「いやぁ、貴信さんおかえりぃ、しゃぶしゃぶやで。
ご飯食べて来てへんやろ、早よ入りぃー。」
由香子でなく、高城のお母さんが出てきて
まるで我が家のように世帯主のオレを招きいれた。
「奏ちゃんも起きてんねん、今、おっぱい飲んでやるわ。」
いつもは上着も手荷物も由香子が片付けてくれる。
まぁ、奏が出来てからは自分でする事も増えたからできないわけじゃないけど
この靴べらを引っ掛けるのは面倒だ。
リビングに入るとお父さんが新聞から顔を上げて
「おぅ、お帰り。お疲れさん。」と言ってくれた。
怒ったような顔じゃないぞ、由香子が泣きついて何か言ったって訳じゃないのか?
帰ってきたから孫に会いに来た、って事か。
でもなぁ、バレてない訳ないよな。
うわー・・・・何言われんだぁ。
まさか連れて帰るとか言わないよな。
あのお母さんがニコニコしてるのが更に怖い。
2階の部屋で着替えながらアタマの中でいろんな事がぐるぐる回った。
なぜか松倉さんの家の話も次々に沸いてきて
あのばーさまの嫁の悪口まで混ざってきた。
かあさんが何言ってたか、ちゃんと思い出せないぞ、ヤベぇ。
こんな事ならアイツら連れてくりゃよかった。
あ、連れて帰ったらもっとヒンシュクか。
「はぁー。」
仕方ない。
隠れてるわけにも行かないんだ、降りよう。
「お父さん、ビールでも持ってきましょうか?」
オレ、弱腰だなぁ。
ソファに奏人を抱いた由香子が座っている。
「あ、アレグロでコーヒー買ってきたから。
オーナーがまたバイト来ないかってさ。」
「そうなん、ありがとぉ。
せやけどバイトはまだまだ無理やんなぁ、奏。」
「すぐって事じゃないだろ。
お父さん、どうしましょう。冷酒のいいのもありますけど。」
「いや、車で来てるからいいよ。」
「帰りは送りますよ・・・ってワケにもいかないですよね。」
送って行ったら今度は自分が戻れない。
「ええやん、お父ちゃん。
陽菜ちゃんに運転してもろたらええねん。」と由香子も薦めるのに
「あいつの運転はなー・・・・。」と、お父さんは気が乗らないようだ。
「あいつの運転が何やってぇ?」
キッチンから由香子そっくりの声がした。
「あれ?陽菜ちゃん、いつの間に?」
「さっき来たとこよん。
ちゃんとインターフォン押して玄関から入ったで?」
げー、自分が思ってるよりパニクってんのか、オレ。
全然気がつかなかった・・・ってより!!
高城家全員勢ぞろいだよ。
なんだよ、やっぱり裁判でも始まるのかっ?
「みんな揃うたなぁ、ほな始めよかぁ。」と背後でお母さんの声がした。
キ、来たっ・・・。
冷や汗が背中を流れる。
「ほら、いっぱい買うて来たでー。
百貨店みたいなええもんちゃうけど一応は但馬牛や。」
始める・・・って、なんだ、鍋かよ・・・・。
「おとうちゃん、貴信さん。ほら飲むやろ?」
「ワシ、ええわ。」
・・・飲んでできる話じゃないって?
完璧に説教体勢なのか?
「じゃあウチ飲もうっかなー。」
陽菜子ちゃんの方は缶ビールのプルを開けた。
こっちは飲まなきゃやってらんないって言う事か。
うわー、被害妄想モード。
「なんちゅう顔してんのんな、貴信さん。疲れてはるん?」
・・・疲れない訳ないです。
「貴信。
あんな、明日おかあちゃん、山梨までお見舞い行ってくれんねん。
ほんで今回の事は・・・。」
「そうそう、貴信さん。
いらんお世話かも知れんけど、この話、私に預けてくれはりませんか?
ちゃあんと清水のお母さんと話さしてもらいますから。」
「え・・・あ・・・あの。」
「貴信さんは別れるや何や言うつもりはないんでしょ?」
「もちろん。そんなつもりは全然ないです。」
「本人同士が別れる気ぃないのにねぇ。
お母さん、なんやえらい誤解でもしたはるんやわ。
ねぇ、貴信さん?
せやからおばちゃんはおばちゃん同士でね、由香子には言えん事でも
ウチには言いやすいかも知れんから・・・ええかなぁ?」
「いえ、もうそう言う事でしたら・・・あの、是非、よろしくお願いします。」
ひょっとして、地獄にホトケ?
オレってラッキー状態?
「そしたら、ほら食べような。
由香子も。
おかあちゃん、奏ちゃん抱っこしといたるから先に食べ。」
「ええてー。おかあちゃん食べぇな。」
「おかあちゃんは食べたい時にいつでも食べれるけど
あんたはそう言う訳にイカンやろ?
せっかくやねんから、みんなと一緒に食べ。」
「そう?ほんじゃあいただきまーす。」
由香子はにっこりとして席につき
はい、とオレにもビールを渡してくれた。
最初は気まずいかと思ったけど、由香子は普通にゴキゲンだし
誰も山梨での話はしないし。
お父さんは黙々としてるけど、元からあまり喋る人じゃないから
別に不機嫌とか言う訳じゃないだろう。
ウチのオヤジとは似てるようで正反対の人だ。
オヤジは口を出さないけど手も出さない。
お父さんは口は出さないけど、意外にフットワーク軽く動いてる。
いつの間にか食べ終わって奏人のお守りをお母さんと交代してるし。
いい感じで飲んでると、かなり出来上がってきた陽菜ちゃんが
「おかあちゃんと山梨のオカータマのオハナシ合いって、狸と狐の化かし合いやんなぁ。」と
笑えない冗談を言い出して一瞬ぞっとしたけど
どっちが狸だ、狐だって言うのでその話はすぐに終わってしまった。
みんな、実際そんな話より奏人の話題で一生懸命だ。
日がな一日眠ってるような子供だってのに
よくもそんなに話題があるもんだよなー。
だけどお陰でオレもわだかまってた気分がずいぶんほぐれてきた。
来てもらってよかったかも知れない。
明日からでも普通にやっていけたりして、なんて思うのは虫がいいかも知れないけど。
とにかく。
由香子が笑ってる。
今はそれが一番オレをいい気分にさせてくれた。
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