嫁様は魔女

嫁様は魔女

硝子窓(姉の婚約)



なんで由香子がいたんだ?

今日オレは、コイツらと久々に飲みに行く約束をしてた。

由香子は仕事、奏人は由香子の親元で預かってもらってる。
仕事が済んだら由香子には奈良で泊まってくるように言ってあった。

夜はオレ一人、久しぶりの自由だ。

一時、由香子がアルコールにハマってしまって、
どうなってしまうんだって感じだった。

その原因は山梨のオレの親だとばかり思っていたら
それだけじゃない、オレが構ってくれないからだと言う。

構えって言ったって、仕事から帰って来りゃあ疲れもするし
毎日アイツが面白がるような話題があるはずもない。

逆に聞くから話せって言っても、
ウチこそ話題なんかあるはずないやんって不機嫌になるし。

どうもなんだか歯車があわないなぁ、と思ってたら
ひょっこり由香子に仕事が舞い込んできた。

すっかり乗り気で保育園に奏人を入れて働きたいと言う。

冗談じゃない。
奏人はまだ赤ん坊だ。

おまけにその話は一見いい条件に見えてまったく現実的じゃなかった。

本人ばかりか、オレの仕事まで調整して入らなきゃいけない仕事なんて
『外に出たいだけ』でするもんじゃない。

赤ん坊預けて、そんな必死で働いてたら生活に困ってるように見える。
まるでオレに甲斐性がないみたいじゃないか。

一旦は諦めた由香子だったが、
次は月に4,5回オレの休みの時だけ行きたいと言い出した。

このままだとアルコール依存症になる、だの
母親だけが育児をしてればいいと思ってるのかと脅かされて
結局そのくらいならと譲歩した。

今は毎週、バイトに出てる。

バイト先であったことを話したり、
自分なりに売り上げをアップさせる方法を考えたりで由香子が明るくなったのは事実だ。

奏人に対してイライラする事も減ったようだし、隠れて酒を飲んでる様子もない。

オレもそうやって明るくなった由香子と過ごすのは楽しかった。
一緒に出かけたり、家でも話す時間を持つようにもなった。

少しやせて、いかにも産後って様子もなくなったし
納得ずくではなかったにせよ、結果オーライと思ってたのに。

今日も6時過ぎには戻るんじゃなかったのか。
その足ですぐにも奈良まで行かなきゃなんないはずだろ?

もう7時半じゃん。
なんで神野と二人でしゃべってんだよ。

しかも家の前で。

落ちかけの陽と、ガレージの明かりに照らされて朱色に染まった由香子が
オレの知らない『女』に見えてかっとなった。

子供じみてるんだろうか?

神野を迎えに呼んだのはオレ。
そこにたまたま残業で遅くなった由香子が鉢合わせただけ。

遅刻したフォローで一緒にいてくれたと言う説明を聞いて納得はした。

でもたまたま偶然なのか?

いつも暇だ暇だってボヤいてるくせに
神野が来る時に限って、タイミングはかったように残業があるって?

簡単にケータイやメールで連絡取り合えるよな。

・・・そんなつまんない事でオレの頭は一杯だった。

でもムカつくからコイツには言わない。

「さっき、由香子から何もらったの?」

「タンブラーです。キャンペーンの景品のサンプル品らしいですよ。」

カップホルダーに突っ込んだタンブラーを神野が渡してくれた。

「へぇ、いいなぁ。スクルドだっけ?」

スーパーカーみたいな高級車がデザインされたタンブラーだった、
二つある。

「赤と黒か、どうすんの?」

「どうすんのって、わかってるくせに!」と神野は照れ笑いを浮かべた。

そうか。

頭に来て忘れてた。

コイツ、交流会の女の子とつきあいはじめたってウワサだったよな。

はは。

しょーもねーなぁ、オレって。

だけど不安なんだ。

由香子がイってないのを知ってる。

わかんないワケないじゃん、つきあい長いのに。

・・・。

二人目でもできりゃ寂しいだの構ってくれだの言う暇もなくなるし
仕事も辞めてくれるだろうと、オレは意識して由香子を抱いてる。

前みたいにキレイになってるのもあって愛情が戻った・・・って
言うと語弊があるかも知れないけど。

いかにも妊婦とか産後って感じ・・・・萎えてた、ぶっちゃけ。

理由はいろいろだけど、とにかくオレは由香子を抱きたいと思って抱いてたんだ。

感じてるかどうかなんてちゃんと反応でわかるんだよ。

なのにおとなしく抱かれてる。

なにかあるのか?

そんな風に考えるよ、オレは。

飲み会が終わって帰ったオレは酔いも手伝って、
無性にこのくだらない愚痴をこぼしたくなった。

誰に・・・?
こんな愚痴こぼす相手なんかいねーよ。

交流会、会社・・・そんな連中はありえない。
オレってホント友達いねーなぁ。

誰かに『お前はアホだ』って言って欲しい。

ただの妄想だって誰か決めつけてくれ。

・・・女の気持ちかぁ。

指が勝手に妹のケータイの短縮を押していた。

こじつけだよなと自分でもわかってるのに。

そんなウジウジしてるオレに100%「バカ」と言ってくれるであろう相手に電話をかけた。

果たせるかな。
妹の理恵は期待通り

「ばかじゃん!」と言ってくれた。

そしてそこまで期待してねぇよって事も・・・。

いわく。

「何、自分で悲劇に酔ってんのぉ、脳みそ海綿体になったんじゃない!?」

妹よ。
その間違いはお前が思ってるより遥かに恥ずかしいぞ。

『体』と『状』では下半身と脳みその差があるのだ。
今度彼氏ができても絶対言わないように。

おまけに

「なにぃ?今までイけてると思ってたのぉ?
どこの皇帝よ。
前はイってた?勝手に思ってるだけでしょおー。
そんなの由香子さんがうまく演ってただけじゃん。
それとも何?
そんなにすごい自信満々の必殺ワザでもあるわけ!?」

ぎゃははは、ときたもんだ。

確かにそんな匠の技なんかございません、悪かったな。

とどめは

「ってかさー、おにいちゃん友達いないのぉ?
んな事あたしに電話してくる時点で終わってるし。」

確かにくだらない事を言うと笑い飛ばして欲しい気分だったけど
そこまで落としてくれとは頼んでない。

明らかな人選ミスだった。

お前なんか『体』と『状』を間違えて彼氏にドン引きされるがいい。

友達がいないんじゃない。
こんな話したらカッコワルイからしないだけだっつーの。

「あのさぁ、妹しか友達いない人の昭和の恋バナ聞いてるほど暇じゃないんだけど。
今、何時だと思ってるのぉ?」

「え、あー・・・・何時だ?」

「じゅ・う・い・ち・じっ!
あたし、見たいドラマあるから。」

ぴっ、とケータイの電話は切れた。

ま、そうだよな。
ウワキなんてあるはずないって。
オレ、何しょおもない事で悩んでたんだろ?

しかし。

あらたな悩みができた。

がーん。
今までイってたと思ってた方がそもそもカンチガイかよぉ?

ウソだろ、マジ?自信なくすよー。

でもまさか由香子にゃ聞けないよなぁ。

『イってる?』

潔癖な由香子に張り倒される自分が想像できた。


・・・あほくさ。

寝よ。

*

「長電話ね、こんな時間に大きな笑い声なんか出してたら品性疑われるわよ?」

おっとぉ、おかあさん上がって来ちゃった。

「品性疑うような電話かけてきたのおにいちゃんだもん。」

「貴信?珍しいわねぇ、あの子がこんな時間に。奏ちゃんが寝てるんじゃないの?」

「由香子さん達は奈良にお泊まりみたいよ?」

「やっぱり。そんなときにしか好きに電話もできないのね・・・はぁ。
それより何の話だったの?
ウチじゃなくあなたに直接かけてくるなんて。」

「べろべろに酔っ払ってたからねー、変な愚痴ばっかり言ってた。」

「ストレスたまってるのかしら?かわいそうに。」

「って言うよりヒマなんでしょ。
わけわかんない妄想の世界に酔ってたもん、おにいちゃん。」

「いやだ、うつ病とかノイローゼじゃないでしょうね。多いらしいわよ、最近。」

「ないないーっ。あの見栄っ張りの天然ボケに限って。」

「何言ってるのよ。あんな嫁と実家に気を使ってどれだけ苦労してるか。
心配だわ、なんて言ってたの?」

「えー。ホントにバカ話だよ?本気にしない?」

「そんな事わからないわよ、なんて?」

「ぜーったいありえないだろうけどさ、由香子さんが浮気してたらどうしようとか。」

「なんですって!?」

「だからぁ、本気にしないの!
まるっきりお兄ちゃんの妄想なんだから。
家に帰ったら玄関先で、由香子さんと自分を迎えに来た後輩だかが喋ったってだけの話なんだよ?」

「貴信がそんな事ぐらいでそんな風に言うなら、そう言われる何かがあるのよ。
あの嫁に。」

「ないない。マジメでしょ、あの人。」

おにいちゃんておとうさん似かと思ってたけど
実はおかあさんの方が性格似てるかも、妄想系。

「だって聞いてよ。
その後輩はお兄ちゃんが飲み会行くのに自分で家に呼んでんのよ?
由香子さんはたまたま残業でその時間に帰ってきて。」

「残業?」

「うん。たまにバイト行ってるって。」

「なんですってぇ!?」

ありゃ!しまった、地雷踏んだかな?
えー・・・っと。

「おかあさんだってたまに農園の手伝い行ってたじゃん、そんな程度らしいけど?」

「馬鹿言うんじゃありません、奏ちゃんはまだ赤ん坊よ?
そんな時に母親がバイトなんて!
しかも残業で夜になるって、無責任でしょ!何やってんの、あの人は。

お母さんが農園に行ってたのは、あなたが小学生になってからよ。
それもウチが貸してるから仕方なく行ってたの。一緒にしないで。」

「いいじゃん、おにいちゃんがいいって思って行かせてるんでしょ?
ほっとけばいいんだって。
また胃潰瘍になるよ?」

「大体あの人は・・・。」

あと2分で始まるなぁ、ドラマ。

録画しよ。

絶対今から30分は語られるわ。

うっかり口すべらしたのはあたしだけどサイテー、ツいてない。

文句あるならおにいちゃんか由香子に言えばいいじゃん。

いつもの『由香子って人は』話にテキトーに相槌打ちながら、
おにいちゃんて、やっぱりおかあさん似だと思った。

どうでもいいことでココまで話ふくらますのって才能だよね、一種の。

車のショールームの景品を、しかもサンプルをその後輩にやってたのが
なーんで特別って思う?

耐える姑も、浮気されてるオレもそんなの正直どうでもいい。

あんたら自分が一番かわいそうなのが好きなんでしょ?

早く出てってくんないかな。

もうすぐカレから『オヤスミ』コールの時間なんだから。

*

♪くーもりガラスをぉー、手ぇでふぅいてー♪

おかあちゃん。
グラス拭きの時は必ずこの歌を歌う。

昔の演歌やんな。

♪あなーたぁ、あしたがみーえまーすぅかー♪

ウチは今日バイトの間、一日奏を預かってもらい
夜寝かしつけるところまでやってもらった代わりに
元後援会の人との会合に使うグラス(大量!)を磨く手伝いをさせられてる。

「そんな薄ボケた明日なんかいらんわ。
見たかったらガラス叩きわったらええねん。」

帰ってきたばかりで、横で遅い夕飯を食べてる姉の陽菜ちゃんの台詞。

ほんまにサバサバしてるって言うか。

「情緒のない子やなぁ、陽菜は。」

おかあちゃんが歌をやめて言うた。

「歌の心やん、わかるか?二人の明日をさがす不安な気持ち。」

「わからん。欲しけりゃ獲る、あかんもんはあかん。そんなもんやろ?」

「ちゃうねんて、もう。
そんな色気のない事言うてるからあんたは彼氏もでけんのや。」

「言うたかて不倫の歌やろー、それ。」

一瞬ドキっとした。

確かこの後

『愛しても愛しても、ああ、人の妻』って続くんや。

さっきやりとりしたメールを思い出した。

「それにな、ウチちゃんと彼氏おるし。」

「えええっ!」
「聞いてへんで。」

瞬時にメールのことなんかふっとんでいく。
ウチはおかあちゃんと同時に叫んだ。

「言うてへんもん。あ、それとすぐ結婚するから。」

「なんでそんないきなり。」

こんな泡を食ったしどろもどろのおかあちゃん、見た事ない。

「そやろ、ウチもそんな気なかってんけどな赤ちゃんできてん。」

ウチはグラスを落とし、おかあちゃんはもうこれ以上は開かないって位その目を見開いた。

「あ・・・あのな陽菜子、赤ちゃんて。」

「なぁびっくりするやろー、今日検査薬で試したら陽性やってん。
キースもすぐ結婚しよって言うてくれたし。」

「きいす?また変わった名前なや。」

「おかあちゃん!ちゃう、外人や!」

「ピンポーン、さすが由香ちん。」

「ピンポンじゃないやろがぁ!!」

なんちゅうデカい声!!
とうとうおかあちゃんの電撃落雷が落ちた。

「あんたね!彼氏で赤ちゃんで結婚で外人って一体どうなってんのんな!
わかるように説明してみぃ!」

「そやからそのまんまやん。
カレシがいます。計画外に子供ができましたがキチンと結婚して
社会的責任を全うします。
カレシの名前はキースで、アメリカ人です。」

「・・・あかん、くらくらする・・・。」

おかあちゃんは一気に血圧が上がったんか、真っ赤な顔でその場につっぷした。

「せやから自分の明日は自分でって。」

「ひ、陽菜ちゃん・・・そう言う問題じゃないと思う。
そや、仕事どうすんのんな。
それに検査薬って、病院行ったわけじゃないんやろ?」

「仕事?やめる。
ほんで安定期に入ったらアメリカ行くわ。」

「アメリカ!?行くの?」

「うん、当たり前やん。結婚すんねんし。」

「ゴメン。悪いけどそのキースって人・・・。」

信用できるん?

「そやなぁ、ほんなら今週末でも連れてくるわ。
ええやろ?おかあちゃん。」

「ええやろってあんた・・・・。」

さすがのおかあちゃんも呆然として何を言うたらええかわからん状態や。

「おとうちゃんに聞こか?」
自分で自の顔を指差してあっけらかんと陽菜ちゃんは言うた。

「ちょっと待ち!みんながみんなあんたみたいな精神構造してへんの。
おとうちゃんには、おかあちゃんから話する。
今みたいにいきなりおとうちゃんに言うたらいかんよ。」

「なんで、すぐわかる事やろ?」

「モノには順序言うもんがあるんや・・・・。」

「そう言うもんなん?」と陽菜ちゃんはウチを見た。

「まぁ・・・、そうちゃう?」

この姉。
いっこ年上、でもたった一つ違いと思えんほどしっかりして頼りになって
頭もよくって、ウチと違うてまさに竹を割ったような性格。

キツイ事言うても嫌味にならん陽性のトコが羨ましい。
こんな話題ですらまるっきり緊迫感がないんがスゴイわ。

仕事もやたらにできるみたいで、多分年収600万超えてる。
結婚して生活レベル下がるんなんてアホらしいって言うてたのに。

なんや、この変わりよう。

しかも・・・肝心なところの回路壊れてるし。

「あのな。おかあちゃんでもこんだけびっくりして血圧あがんねん。
あんたの勢いでおとうちゃんに言うたら、それこそホンマに逝んでまいやるわ。
それとこう言う話題はご飯食べてるついでにするもんとちゃうの、わかる?」

「だって今帰ってきたとこやし。
言うんやったら早いほうがええかなーと思うて。」

「はー・・・・あんたちゅう子は。
子供の頃からびっくりさしてくれたけど、この年なってこんだけ驚かされるとは。
ほんで?そのキース言う人、アメリカ人?」

「うん。」

「何やってはんの。」

「証券会社の人。仕事の事はあんまりよう知らん。」

「・・・あんた英語喋れたか?」

「ちょっとはな。でもキース、日本語ペラペラやから大丈夫。」

「日本で仕事してはるん?」

段々おかあちゃんの言う事が具体的になって来た。
ウチも興味津々で一緒に聞く。

「うん。でも来月本国に帰るんやて。
せやからそこで別れやなしゃーないなぁ、て思うてたらできとってん。」

「ソレって大丈夫なん?陽菜ちゃん。だまされたりしてへん?」

「もう、由香子はネガティブやなぁ。大丈夫やって。
もともと結婚して一緒に来てくれって言われとってんやん。
生理けーへん言うたら、その場で市役所行きやったわ。」

「何しに?」

「国際結婚の婚姻の方法の確認に。書類も取ってきやったで?」

「はぁ。」

「そんで今日、検査薬陽性やったって言うたら大喜びしとった。
すぐヒナコのファミリーに会いに行くって。」

「その人、年いくつなん?」

「31、そうそう由香子。
こう言う時って男同士はどっちがオニイサンになるんやろなぁ?
貴信さんの方が年上やけど、妹のダンナやしなぁ。」

「陽菜ちゃん。悩むとこが違う。」

「なに?式場とかドレスか?」

「それも違うから。」

「由香子。陽菜に言うてもムリや、あんたとは全然考え方ちゃうから。」

「失礼やなぁ。なんかウチ非常識みたいやん。」

「そうは言わんけどな。あんたはともかく自分の事しか考えやんやろ。
由香子は人目優先やからな。」

なんかウチは優柔不断の八方美人て言われたみたい。

「それより。あんた妊娠してるいうのにこんな時間までほっつきあるいて
何考えてんのんな。
さっさと風呂入って休み!最初が大事やねんで。」

「いやーん。すっかりお・ば・あ・ちゃ・ん。
金髪の孫やで。かわいいでぇー。」

「ええから・・・・。
もうあんたとしゃべっとったら疲れるわ。
おとうちゃんに何て言うか考えるし・・・。
あんたはいらん事いいなや!ええな。」

おかあちゃんはウカレ気味の陽菜ちゃんにキッチリ釘をさした。

「はいはーい。
じゃあ作戦決まったら教えてなー。」

そう言うて陽菜ちゃんはキッチンを出て行った。

「もうーあの子だけは・・・。」

「でもスゴイわ。ウチやったら絶対あんな風に笑うて受けとめられへん。」

「アホ言いな。」

「え?」

「あの子は見えんとこで悩むんや。」




『ヒミツのSheちゃん日記』


これから貴女をいざなうのは、誰の日常の中にも潜む闇の世界。

明日は貴女の番かも知れません。

ヽ(゚ロ゚; )キャアア!!三三\(  )/三三キャアア!!( ;゚ロ゚)/

ようこそ。

私はSheちゃん。

ごく普通と自分では思ってるわ。

そうね、そこらの方よりちょっと良妻賢母かも知れませんけど。

私には息子がおりますの。

もう目の中に入れたうえに、ハバネロの目薬を入れても痛くないほど大事な息子。

その宝物ともいうべき息子に、とんでもないムシがつきくさりやがりましたの。

よりによって、ウチのターチャマに!!

「Hey! You!! ヤっちゃいますわよ!」


ターチャマについたYouの駆除方法。



残らずUPさせて頂きます。





「って、何コレ?」

陽菜ちゃんにPCを見せられてあっけにとられた。

予期してない妊娠、結婚、おまけに相手がアメリカ人で
大好きな仕事を辞めて渡米しやなあかん、なんて。

明るくサバサバ振舞ってても、不安になって困ってるんやないか?
こんな時こその姉妹やと思うてウチは陽菜ちゃんの部屋をノックした。

「はーいー、由香子?」

PCに向かって、振り向きもせんと返事した陽菜ちゃん。
もしかして大事な調べ事?
そら悩むよな、もしかして泣いてたらどうしようと思ったのに。

「いらっしゃーい、奏ちゃん寝てるからゆっくりできる?」

「うん、いけんで。奏はおかあちゃんが見ててくれるし。」

「ほんま?ラッキー。由香子に聞きたい事いっぱいあんねん。」

やっぱり。
一応、結婚も妊娠もウチの方がセンパイやもんな。

国際結婚の事はわかれへんけど、できる事だけでもしたらな。

「うん、なんでも聞いて?」

「助かるわぁー。コレみて。」

で。

見せられたんが

『ヒミツのSheちゃんの日記』

ウチが今まで愚痴ってきた事が事細かに、しかもおもしろおかしく
姑、つまりSheちゃんの目線で書かれてる。

「ナニ、これ?」

「見たまんまやん。最近さぁネタあんまりないやんー?
アクセスさがってんねん。
なんかオモロイ話ない?」

「・・・・・っんもおーっ!!
人がマジメに心配してんのにぃ。」

「ウチもマジメやで?ほら、アクセスカウンター見てえ。
ランキングも2ケタやで?
書籍化されてドラマになったら、ウチの役って誰にしよかって思って。」

「あほやろ、ねーちゃん・・・・。」

「なんでよ。印税10%ととしてミリオンセラーになったら8000万は固いで!
これから自分で稼がれへんねんもん。
もう不安で不安でたまらんわぁー。」

論点が・・・だいぶちゃうやろ!

「あほな話はおいといて、仕事どうすんのんな?
あんだけがんばってたのに?」

「ん?辞める。」

「ええの・・・?」

「だってお金儲けが好きなだけであの仕事が好きなんちゃうもん。」

「そう言うもんなん?」

「なんでもええねん。
別に自分で稼がんでも、その分ダンナががっつり稼いでくれるんやったらそんでええし。
誰が稼いでもウチのお金や。」

「向こうで産むん?」

「だって産婦人科で分娩やってくれるとこって少ないやん。
それやったら向こうの方が確実っぽいし。」

「え、でも英語やで。どうすんの。
いっぱいいっぱいの時に指示されてもわかれへんで?」

「そんなにいっぱいいっぱいやったら、日本語でも耳はいらんて。
それに世界どこでもスル事は一緒やん。
あっこからひねり出すだけの話やろ?」

「そんな簡単な話ちゃうねんで!お産って危ないねんから。」

「大丈夫や、そのためにキースおんねんやろ?」

ニヤっと笑う陽菜ちゃんを見て、根本的に違うとこがわかった。
相手の事。
心の底から信頼してるんやわ。

「そんでも、なんでアメリカなんか行くのんな。ウチ困るわ。」

「さみしい?」

「だって愚痴れる相手おらへんようなるやん。」

「何言うてんのんな。
先にウチ置いて嫁に行ったんは由香チンの方やんかぁー。」

ははは、と陽菜ちゃんは笑う。

ウチは。

笑われへん。

「それにな。
今はメールでソッコーやん。いじめられたらいつでも言うといで。」

陽菜ちゃーん、ちょっと甘えたくなるよ。

「すぐアップするから。」

「あ!そう!!」

もう、ちょっとでも感動しそうになったウチがあほやった。

「でも国際結婚って、普通に結婚するんとはちゃうんやんなぁ。」

「そうみたい。」

「調べたりせーへんの?」

「今日結婚しよかと思うたとこやからなぁ。」

お気楽な調子で陽菜ちゃんは笑う。
多分、相手の人がちゃんとしてるん・・・・かな?

「なぁ。そのキースってどんな人なん?」

「見たい?」

「うん、実は一番興味アリ。」

そっか、と言うて陽菜ちゃんはケータイの画像を開きはじめる。

アメリカ人。金髪?30何歳とかって・・・どんな感じやろ?

はっきり言うてウキウキしてた。

この陽菜ちゃんを結婚する気にさせる男なんておれへんと思うてたもん。

「はい。」

と陽菜ちゃんは、彦根城のキャラクターストラップのついたケータイを開いて渡してくれた。

「はい?」

そこには。

とてもアメリカ人とは思えない。

それ以前に人間とも思えない・・・。

「ニャンマゲやん!!」

こっちをむいてポーズを決めてる被り物のニャンマゲ。

一体何をどうしたらこんな写真が。

「陽菜ちゃん、ふざけてんとキースの写真見せてよ。」

「だから。コレ。中身キース。」

「証券会社とか言うてへんかった?」

「仕事はそうやで。これは趣味て言うか旅の思い出。」

どうやって・・・・どうやって借りたんやろ、このヌイグルミ。
ってコレが趣味って。

「その人、ホンマに大丈夫なんー!?」

ウチはさっきまでと別の意味で心配になってきた。

アキバとか日本橋で、アニメキャラクターの格好をして闊歩する外人さんの姿が頭の中を怒涛の勢いで駆け抜けて行く。

「外人と付き合ってるってだけで違う目で見られるやん?
ウチはキースの事外見で判断されたくないねん。」

「じゃあ。」

「うん、写真はこんだけ。
まぁ来週かその次になるかわからんけど、当日のお楽しみにしてよ。
それよりさぁ。
最近、姑も小姑もおとなしいの?
なんなら貴信さんのうかつな話でもええねんけど。」

そう聞かれて、ウチはアル中になりかけた事だけ内緒にして
いろんな愚痴を言うた。

陽菜ちゃんが妊婦さんになったって気安さもあって、そっちの話題にもなる。

「そら、仕事やめて家に置いときたいからやん。」

「家で子供とおったらシンドイ言うてんのにやで?」

「二人に増えたらそんなん言うてるヒマないと思うてんやろ。
忙しいんと、気持ちが退屈なんとはまたちゃう話やのにな。」

「そうそうそう!!それがわかれへんねんやんー!!」

「会話ないん?」

「最近はさー、喋るけどなんかお互い頑張ってますって感じ。」

「ふーん。そう言う時って浮気とかしたくなれへんのかなぁ、貴信さん。」

「え?」

「だって。家に帰っても嫁はん、いっつも疲れた顔して
なんかないーってよっかかってくるんやろ?」

「それが自分でもアカンと思ったからバイトしたいって言うたのにさー
バイト始めたら始めたでなーんか、我慢してやってますオーラがでてるんよ。もあもあっと。」

「そら、あんたをを外に出したくないんよね。きっと。」

「そんなん。黙って家事と育児していつもニコニコはありえへんやろ?」

「おかーたまがそうやったんちゃう?」

「えー・・・・・。」

ちょっと考える。

「うーん、子供にはそう言う顔してたかもなぁ。
でもお義母さんて、お義父さんにはめっちゃ冷たいねんやん。
全然愛情ございませんって感じ。
それって、そう言う若い時の積み重ねを恨んでる感じせーへん?」

「あー。ガマンしてたらダンナには冷めるかも。
じゃあさぁ。
実はこっそり浮気とかしてたりせぇへんかなl。
ほんで理恵は別の男の子供やねん。」

「昼ドラー!!
でもお義母さんにそれはないやろー。
レンアイなんてバカのする事やとでも思ってそう。」

「じゃあ。あんたは?」

・・・・ウチ?

「由香チンは新聞配達の少年によろめいたり
宅急便のオニイサンにときめいたりせーへんの?」

ちらっと心をよぎったもんがあったけど、ソレは意識的に気がつかない事にした。

「そんなん色ボケババァみたいに言わんとってーや。」

「えー。オネエサンが教えてあげる、とかないのぉ?」

その日は、夜中に奏人がおっぱいを欲しがるまで
姉妹二人でアホな話をして過ごした。

心によぎったソレを冗談半分でも言うてみたいと思ったけど
口に出したら当たり前の感情になるような気もした。

陽菜ちゃんと二人でゆっくりと話をしたのは

この夜が最後、やったと思う。
























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