嫁様は魔女

嫁様は魔女

2008/06/30UP



「ストーカー、怨恨、嘱託の線はないと?」

「本人の供述は、スカイラインを安いと言った。
GT-Rと言ってしまったときに清水さんが笑ったと言うので一貫しています。

家宅捜索の経過を課長から聞きましたが、松浦パソコンからアングラ系の繋がりは出ていないようですし。
いかがわしいサイトへのアクセスも比較的ノーマルなサイトにしか行っていません。
出会い系もなしです。
電話会社で聞き合わせてもヤツのナンバーの受発信は自宅と、いくつかの店舗と塾だけでした。」

「塾?店はバイト探しの連絡だろうが塾は?」

「そっちもバイトの面接を申し込んだようです。
通信を確認できた全部の店に確認しましたが、全て求職の電話ですね。」

「高卒だろう?」

「ええ、それが松浦らしいと言うか・・・。
講師として働きたいと言って連絡した塾は、中学受験では全国屈指のブランド塾です。

当然アルバイトであっても講師には有名私学か国公立大学の学歴がなければ採用していません。
ですので松浦からの電話で最終学歴を確認した段階で面接の希望を断ったそうです。」

「それでトラブルになったということは?」

「自分自身を見ていないのに断るとはこの塾は程度が知れている。
ここから出た子供は将来ロクな人間にならない、などと暴言に近いことを言われたみたいですね。

塾内では不愉快ながらもヘンなやつだと一旦は終わったものの、
その日の夕方に履歴書を持った父親が乗り込んできて
対応した事務員は相当手を焼いたと話してくれました。」

「いつの話だ?」

「今月の頭ですね。
冬期講習の年末年始の講師の確保で募集を出していた時期らしいです。」

「犯行当日に面接に行ったアルバイト先と言うのは確認できているのか?」

「当日行っていたのは不動産屋でした。
宅建資格者への求人に、これからすぐに資格を取るからと言うのでそれでは間に合わないと断わられています。」

「受けていたのか?宅建試験。」

「いいえ。それどころか年に一度しか資格試験がないことすら知りませんでした。」

「すぐに資格を取るって?」

「自分は頭がいいのでその気さえなったらどんな事もできると・・・。」

はぁ・・・・ため息が出た。
自分の身内にこういうのがいなくて良かったなどと思ったら罰が当たるだろうか?

「それならそこで犯行に及ぶべきじゃないのか。
むしろ清水氏の時よりよりも、逆上するリアリティがあると思うんだが。
・・・そこには使える武器がなかったか・・・・。」

誇大妄想気味の松浦の心情を思い描いてみるが、どうもピントがあってこない。

「わかりずらいかも知れませんが、松浦は仕事に対して執着やプライドみたいな感情は持っていないと思います。

自分が雇われないのは、相手の落ち度か親の仕事のせいだと思っているから
傷ついたり落ち込んだりはしないでしょうし。

金にも困っているわけではないので、本気で働く気もありません。
選ぶアルバイト先も自分がその時に『カッコイイ』と思ったと言うのが基準のようです。」

「バイトの面接で断られても、ヤツにとって『切れる』要因にはならないと?」

「多分、『たかがアルバイト』と言うような気持ちがあると思います。
自分は『選ばれた人間』と思っていますから。」

「仕事探しでの失敗は逆上する要因として想定していない?」

「バイト探しで断られるより、自分の『知識』や『能力』にケチをつけられる事の方が気に障るようです。」

「だから清水氏とのやりとりで興奮したか、興奮して見せた・・・?」

「自分の言う事が認められないのが最も腹立たしい事だと思うんですよね。」

「大きな犯罪を犯して自分をアピールしてみたかった。
しかし死刑や長期間の服役はイヤだ。
世間を羨むあまりに、ほんの些細な事で逆上してしまったデンパ野郎を自己演出・・・・。

ウスッペライな。投稿小説なら間違いなく予選落ちだ。」

「ですが現実にはそのウスッペライ動機の犯行があふれてきているのも事実です。」

「・・・清水夫妻の夫婦仲が微妙なんだ。」

「会えたんですか?」

「いや、当人とは話していない。
病院に行ったら清水貴信の親が来ていた。
姑は相当由香子さんを嫌っていて、この事件の原因も彼女にあるような言い方をしていたな。」

「通り魔ですよ?なんでそんな話になるんですか?」

「自分に隠してアルバイトに出ていた。
しかもその間の子守を自分の息子にさせていた。
もし彼女がこそこそと仕事なんかに行っていなかったら、通り魔に出くわす事はなかったと言う理屈だな。」

「こじつけじゃないですか。」

「単に嫌いだから不幸の原因をすべて由香子さんにおっかぶせようとしているのか。
姑がそこまで嫁を嫌うほど夫婦仲がこじれていたのか。」

「ご近所では特に問題のあるご夫婦ではなかったですよね。
亡くなった清水さんは職場の評判もいいですし、ギャンブルや風俗に入れあげるタイプでもなかったようですし。」

「評判がいいのは彼女も同じだ。
人あたりがよく、地域の清掃活動なんかにもきちんと参加する。
人を頼ろうとしない頑なさを感じている人もいたが、
それも彼女が真面目だから頑張って背負ってしまうのだと好意的に取られている。」

「姑が変わり者なんですかね。」

「ついてくるか?」

「え?」

「午後の取調べ、なくなったんだろう?被害者の両親と妹に会いに行く。」

「そんないきなり行くって、もうホテル引き払ってるんじゃないですか。」

「つべこべ言わずにアポ取って、車をまわして来るように。」

一人で行ってもよかったが、今日はもうタクシーに乗れる気分ではなかった。




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