嫁様は魔女

嫁様は魔女

2008/10/29更新中


その一言でメモを取っていた山口がぎょっとして顔を上げた。

(それ、言っちゃいますか?)

証拠も確信もない、私個人のただの勘・・・と言うヤツだ。
被害者家族に対して安易に口にしていい事ではないのは充分承知している。

しかしこの母親に『心理的な味方』と思わせるメリットを私は選んだ。

「もう一度言います。
松浦が貴信さんを恨んでいた、動機を持っていたとなれば『計画性』を持った犯罪と言う事が立証可能になります。
精神鑑定の結果がどうなろうと、それを論破できる材料になるんです。」

「・・・貴信は、人の恨みを買うような子ではありません。」

「そうですね、ご主人からもそのように伺っています。
ですがご本人に責任のない逆恨みのようなケースも残念ながらありえますよね。
我々は貴信さんの交友関係を全て確認したいと思っています。
職場やご近所の人間関係については別のものがあたっていますが、
プライベートのほうはご家族にご協力いただかないとなかなか・・・。」

「大阪と山梨で離れて暮らしております。よくわかりません。」

「仕事の交流会のメンバーの方にあの車を譲り受けたとお聞きしましたが。」

「・・・ええ。」

「貴信さんのご自宅に来られたり、車のやりとりをされたりと随分親しくされていたんですね。」

「そんな事は私でなく由香子さんに聞いてみられたらいかがですか?」

「奥さんはちょっとまだドクターの許可が・・・。」

「心配いりませんわ、仮病です。同情を引こうとしてるんです。」

「これはまた、なんというか・・・手厳しいですねぇ。」

「そういう甘えた人なんです。泣けば周りがどうにかしてくれると思って。
男心を手玉にとるのがとってもお上手・・・・そう、そうよ理恵?」

理恵と呼ばれた被害者の妹がなんとも複雑な表情で母親の顔を見る。

「ねぇ、あの人浮気してたわよね?」

やっと出たか!
平然とした態度を崩す事はなかったが、私は身を乗り出すような思いで彼女の話を促した。

「由香子さんは浮気されていたんですか。ご主人との仲は?」

「刑事さん、本気にしないで下さい。
もうおかあさんってば、何言い出すのよっ!」

「だって、あなたが貴信から電話があったっていってたんじゃないの。
それに・・・いつだったかまだ奏人が小さいのにウチに男友達を呼んで大騒ぎしてたわ。」

「ヘンな言い方しないでよ。
あれは酔っ払って電話してきたときの冗談でしょ?」

「その電話はいつ頃だったか覚えておられますか?
酔って由香子さんの浮気についてお話された、と言う事ですか?」 

「だからホント、そういうんじゃないんです。ちょっとした愚痴っていうか冗談ていうか・・・。」

「冗談、ですかね。
実はとても深刻に悩んでいて、それこそアルコールの力でも借りないと相談できなかったとは考えられませんか?」

「だってそんな深刻な話じゃなかったんです。」

「由香子さんが浮気してるって言ったんでしょう?」

「言ってないよ!」

「どんなお話だったか覚えておられますか?」

「えー・・・・まぁ、なんとなくは。」

「思い出せる範囲でいいんです。」

彼女は両親の顔をチラチラと窺いながら、言葉を選んでいる様子を見せた。

「んーーと、なんて言うか・・・・2人って夫婦じゃないですかぁ。
でぇ・・・あ、演技されてるって愚痴ってました。」

「演技って何なの?」
母親は演技や隠し事があるなんてやっぱり浮気だと憤慨しているが・・・。

「夫婦関係がうまく行っていない?」

「いえ、仲はよかったと思います。だってうまく行ってるからこそ
由香子さんがイってないかもって話もでるんじゃないですか?」

「何を意味のわからないこと言ってるの、理恵。」

ここは母親の話は聞こえない事にしておこう。
キチンと意味がわからないほうが本人のためだろう。

「ノロケっぽい愚痴って思うんです。
その後アタシが冗談で由香子さんが浮気してるかもとか、そんな話を母にしたかも知れませんけど。」

「実際浮気している様子はないと?
由香子さんはかなり美人ですよね。
お仕事も接客業でその気になれば、という事は考えられそうですが。」

「んー・・・多分ムリと思います。
あの人確かに美人だけど根がクライっていうか重いタイプなんですよね。
つまみぐいして遊べるほど要領よくないんじゃないかなぁ。」

「本気だとしたら?
例えば浮気のつもりが本気になり、身動きが取れなくなって思い余る・・・。」

「思いつめそうって言えば思いつめそうなところはあるけど・・・・
やっぱりムリなんじゃないかなぁ。それどころじゃなかったと思うし。」






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