家庭保育室太陽

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自閉症とその家族2


自閉症児とその家族/2 違い、見分けつかない
お気に入りのぬいぐるみは、常に同じ場所。少しでも動いているとパニックを起こす=千葉県内の保健師宅で




  ◇「賢い」が痛みに無頓着/人間関係うまくいかない/「検診すり抜け、多いはず」

 「言語に遅れがなく、知的に問題がない場合どこにも療育の場はありません」

 千葉県に住む保健師の女性(41)からアスペルガー症候群の長女(6)について書いた手紙が届いた。自閉症スペクトラム(連続体)の中に含まれる障害だ。言葉は話せるが、微妙な皮肉や冗談が分からない。興味の範囲は限られ、対人関係がうまく行かない。それがなぜなのか、自分自身もよく分からない。

 保健師の自宅を訪ねた。「お母さん、もう一つお菓子食べていい?」。長女はうれしそうに菓子を口に入れた。ごく普通の小学1年生。自閉症児の父である私(記者)が見ても、全く健常児との違いが分からない。

 1歳半で人気ドラマの主題歌を正確に歌った。「この子は賢い」。祖父母は喜んだ。感覚がおかしいことに気付いたのは、3歳のころだった。風呂で足に青黒いあざを見つけた。「これ、どうしたの?」。けがをしたことの自覚が長女はなかった。

 怖いもの知らずで、蜂の巣に手を突っ込んで刺され、3メートルもある滑り台から飛び降り転がってもけろりとしていた。やってみたいことは即実行。スーパーでは香ばしいお茶の大きな缶に腕を突っ込んだ。保健師は平謝りし、ほうじ茶を1キロも買い込む羽目になった。

 アスペルガー症候群の中には、痛みに対する反応が過剰な人や、逆に無頓着な人がいる。味覚や臭覚が過敏で、特定の会社のレトルト食品だけ嫌がったり、特定の香水を付けた人が苦手だったりすることもある。

 長女は怒ると両足でジャンプしながら、2~3時間も泣き叫ぶ。「聞き分けがない子」という視線にさらされながら、保健師はやっと気付いた。

 「しかっても、『なぜいけないのか』をこの子は理解していない」

 発達心理学を専攻した精神科医を探し、今年1月にやっとアスペルガー症候群と診断された。入学式は迫る。知能は高いのだから、普通の教育を受けさせたい。障害だとは言わずに入学させた。

 入学式の帰り道。子供たちがかけっこを始めた。追い抜かれた長女は怒り出した。「あやまってよ!」。相手の子は理由が分からない。保健師がなだめても30分以上パニックが続いた。こんなトラブルが入学後も相次いだ。とうとう6月8日、担任への連絡ノートで「実は……」と障害を告白した。目を合わせて注意をそらさせず、単語を区切ってゆっくり話してくれるよう頼んだ。帰宅した長女は「今日は先生の言っていることが分かった」とご機嫌だった。

 自閉症スペクトラムは、新生児100人に1人はいる。わがままでも、親のしつけが悪いのでもない。そういう特性の先天性障害なのだ。特性を理解すれば対処方法はある。「3歳児や就学時の検診をすり抜けている発達障害児はとても多いはず。保健師としても痛感します」【神戸金史、写真も】=つづく

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 ◇幅広い発達障害の種類

 発達障害は自閉症、アスペルガー症候群、注意欠陥多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などが含まれる。自閉症は知的障害がある場合と、知的障害を伴わない「高機能自閉症」があるが、いずれも(1)対人関係や社会性の障害(2)言葉や目線などコミュニケーションに問題(3)パターン化した行動やこだわりが強い、という症候が見られる。アスペルガー症候群は言葉の遅れや知的障害はない。これらを「自閉症スペクトラム」という。

 一方、ADHDは(1)不注意(気が散りやすい、長続きしない)(2)多動、多弁(3)衝動的に行動する、の特徴がある。LDは全般的な知的発達に遅れはないが、読み書きや計算など特定分野に偏りがある。【鈴木玲子】



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