ココロ ニ アカリ ヲ・・

ココロ ニ アカリ ヲ・・

クリア 終章

エピローグ

hosibluemoonandstar


 大学を卒業した後、僕は地元の役場に就職することができた。
 ここで働く人々はのんびりとしていて毎日が穏やかに過ぎていく。

 僕は6時きっかりに仕事を終らせ、市内まで1時間半車を走らせた。
 大学時代は車を所有していなかったので、大学の駐車場に初めて駐車。
 卒業して二年ぶりのキャンパスは、もうどこかよそよそしい。
 僕は植木を囲むレンガの上に座り込み、木々の隙間から、いくつかの星が優しく灯り始めるのをぼんやりと見つめる。

 働き始めた今でも夏のベタベタしたむせ返るような風が吹くと、ふっと思い出すのだ。
 ユカの泣き笑いの顔と、ノースリーブの肩と、キャンパスを囲む活き活きとした鮮やかな木々を。
 僕の想い出はいつも灰色のフィルターがかかっているようにぼやけていたのに、あの日からクリアになった。

 しばらくすると約束していたユカが姿を現した。白と黒のチェックのミニタイトスカートに体にぴったりフィットした白いブラウスを着ている。
 僕の姿を見つけると、口角を右に上げニッと笑うと、小走りにかけてきた。
「ごめーーん。待った?」
 僕は煙草をぷかぁっと吐く。
「はぁ、20分待ちました。」
「ごめーーん。でも私は6時に仕事がきっかり終る公務員とは訳が違うんですからね。」
 ユカは高校の日本史の先生になった。
「学校の先生も公務員じゃんか。」
「テストの採点や会議とかあって新米の私は簡単に抜け出せないんだから。」

「なぁ、なぁ。お前そんな格好で男子校の生徒教えてんの?」
 ユカは胸を腕でキュッと寄せて、口角を右にあげてニッと笑う。
「うふふっ、挑発的でしょ~。意外と私、生徒に人気あんのよ~。私が通ると男の子達がヒューッって口笛吹くんだから。」
「うーーんそれは、人気というより、ひやかされてるんじゃないのか?」
 そして僕はまた煙草をぷかぁと吐いて、ユカの肩をぽんぽんと叩いた。
「お前さぁ、くれぐれも高校生に手をだすんじゃないぞ。犯罪だからな。」
「んっふっふ。それがさぁ、寂しくて寂しくてイライラしてるって感じの男の子がいてさぁ。」ユカはニカッと不敵に笑った。
「あ?」
「なーーんかほっとけないのよねー。」クルクルにカールしてる肩より長く伸びた髪を思わせぶりにいじくる。
「悪い事は言わないから、そいつが高校卒業するまで待て。」
「えーーーっでもその子まだ高校1年生なんだよ。はぁぁぁ。」
 本気でため息をつくユカに僕は爆笑。
 そして思い出したように、背広のポケットから白い封筒を出した。

「これ結婚式の招待状、絶対来てくれよなー。」
「ふーん。やっぱあの顔だけの天然女、ミチルと結婚するんだー。」
「お前相変わらず歯に衣きせないやつだなぁ。」もちろんミチルは顔だけの天然女なんかじゃない。まぁ、酷評すればそう言えなくもないかもしれないが・・・。
 ともかく、幸せな僕はちっとも腹が立たない。ユカは口が悪い所が面白いのだ。
「ユカは大事な友達だから、絶対きてほしいけど。嫌か?」
「とーーんでもない。成人式の時の振袖着て張り切って行くんだから、役場の有望株紹介してよ。」
 ユカはくったくなく笑ってウィンクした。

 そう、僕達は結局、友達以上恋人未満を超える事はできなかった。
 ユカは僕にいつも恋愛の相談を持ちかけては愚痴ったり泣いたりを繰り返し、僕はその度に背中をさすって慰めた。


 僕達は、恋人同士になれなかったけれど、こうやってお互いをいたわったり、からかったりしながら、傷つきやすい心を笑いとばして鍛えてきた。

 人の性格なんて簡単に変わるものじゃない。
 僕は今も相変わらずの器の小さいつまらない堅物男だ。
 ただ、少しだけ以前より生きるのが楽になったように思う。
 ユカも相変わらずだけど、最近は寂しいと泣かなくなった。

 煙草を靴で揉み消し僕は立ち上がった。 「なぁ、夕飯食べたか?」
「ううん。お腹ぺっこぺこ。」
「んじゃ、食べに行くかっ!」
「いやったー。当然ケイのおごりだよねっ?」
「あーー?普通は結婚祝って、ユカがおごるのが筋だろ?」
「がーーん。今日可愛らしい生徒達にジュースたかられたばっかなんだよぉ。40人分。」


THE END



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