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息抜きの間の人生
短編小説 秋風
秋風に落ち葉が揺れる 川沿いの桜の木は完全に枯葉になってしまった。 自転車でそのマラソンコースを走りながら、悠里はため息を付いた。
「は~ 今回も駄目か・・・」
リクルートスーツに身を包んでいるのは、就職活動の帰りだからだ。
「やっぱ、資格とか要るのかな」
ぶつぶつと独り言を言いながら、家へと向かう
「ただいま~」
玄関を開ける。
「おかえり~、ご飯!ご飯!」
勢い良く猫が走ってくる。
「ミーヤ、お前の頭の中は食う・寝る・出すだけだね」
足元でごろごろ言っているミーヤの頭を軽く撫でる。
「そうだよ。楽しみはご飯・寝るだよ」
ミーヤは走り、器の前に座る。
「・・・いいね、お前は」
「なに~、また、駄目だったの?」
尻尾を勢い良く振りながら、不機嫌そうに言う。
「うん、駄目だわ~」
戸棚から餌の袋を取り出しながら、答える。
「だからさ、家業を継ぎなよ!せっかくの能力が無駄になるよ」
視線を餌袋から離さずにまたミーヤは言う。
「でもさ、家業は今おばぁちゃんがやっているじゃない」
からからと器に入れながら、また、ため息が出た。
かりかり と音をたてて、ミーヤはドライフードを食べる。こうなるとしばらく、会話は出来ない。その間に自分のためのコーヒーを入れる。
前の仕事を辞めて、2ヶ月 簡単に仕事が見つかると思っていたのだがそうはいかなかった。 職安には人が溢れて、派遣会社には資格がないからと断られ、貯金はそこを付いてきた。 家賃を滞納している まだ、7日過ぎただけだが・・・
「困ったな」
ボソッと 言葉が口を出た。
「困るなよ~、ちょっと~、僕の人生もかかっているんだよ」
器から顔を上げて、ミーヤが言う。
「・・・」
(やっぱり、家業を継ごうかな・・・?)
ミーヤを無視して、コーヒーをすする。
しかし、その突飛な家業はなかなか勇気がいる仕事だ。
いわゆる、表の仕事ではない。闇の家業だ。
町のメイン通りにある小さな本屋 悠里の祖母 花代の経営する本屋
「夢幻堂」ここはただの本屋ではない。
現存しない本・妖書・怪書の類を扱うのだ。
「継がないのなら、何で僕と契約したのさ」
ぽろぽろとこぼしながら顔を上げる。
「こぼさないでよ。こぼしたのを食べないんだから」
「うー」
また、器に顔を向ける。
「契約」 これは自分の意思ではない。気づいたら契約が終了していたのだ。
「契約は自分の意思じゃないもん」
つぶやき、また、コーヒーをすする。
今回は聞こえなかったようだ。
確かに、家業を継がなくては、とは思う。しかし、それはかなり勇気のいることだ。
そして、自分に能力があるのは十分自覚している。だから、この人間の言葉を発する猫と生活しているのだ。
この猫の本当の姿は竜神だ。
なぜ、猫なのか。
それは、契約の時、私が猫が良いと言ったらしいが、そんなことは覚えていない。
私は血が濃いのだ。遺伝学的に言えば隔世遺伝だ。祖母も濃い血の持ち主だ、ただ、私の母はそんなに濃い血ではない。そして、妹もだ。
私に凝縮されたらしい・・・。
「でも契約した以上は、継ぎなよ家業。自分の知らない世界を知ると面白いよ」
顔を洗いながミーヤは言う。
「まぁ、そうかもね。でも、勇気がいるよ」
「勇気ね~。まぁ、そうかな~。でもさ、花代はやっているし、まだ続けている」
「うっ でもおばぁちゃんは昔から、修行していたし・・・」
「そうかもね。でも、悠里ほどの血ならそんなに修行はしなくて十分だよ。僕が保障する、本に入れば、頭の中で思い描いたように自分の世界を作れるよ」
甘い言葉をミーヤはささやく。
「・・・あんたは言葉がうまいよね。実際はそんなに甘くないことぐらい知っているよ」
「・・・まぁ、宝の持ち腐れです」
ふいっ と顔を背け、自分の座椅子に座る。
「もう、一ヶ月して仕事が見つからなかったら、家業を継ぐよ」
「・・・それ本気?」
丸まりかけていた、ミーヤが止まる。
「・・・うん、最初はおばぁちゃんの手伝いね」
この言葉が現実になるとは思っても見なかったのだ・・・
一ヶ月もあれば、仕事が見つかると思っていたから。
前の二ヶ月で仕事が見つからなかったのに、いい根性である・・・。
「家はここに住めばいい」
そう、祖母が言った。
本屋の二階・・・。
八畳が二間 しかも、一つは書庫になっている。
得体の知れない本の宝庫だ・・・。
実質、一間である。
「狭いよ、これだけだと・・・、自分の本もあるし」
「ただの本だろう。こっちの本は意思がある本だから大事にしないといけない」
さらりと祖母は言う。
「・・・あのね、今はなくても。そのうち、持つよ。意思・・・」
「時間がかかりすぎる」
あっさりとかわされる・・・。
「何の為の契約なんだい」
ボソッと祖母が言う。
「・・・?」
分からない? どういうことだ?
「ミーヤ! 指導しとけ、この家の中なら術は使ってもかまわん」
「・・・あ」
分かった。 この本屋のからくりを利用すればいいのだ。
「でも、気を抜いたら。異次元に行っちゃうからな」
心を読んだように、ミーヤが言う。
「今から、修行開始だね。悠里」
分かってはいたがはめられた気分だ。
家業を完全に継ぐのは先のようだ・・・。
とりあえずは、家賃と食費がかからないことでよしとしよう・・・。
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