バベルの図書館-或る物書きの狂恋夢

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カテゴリ: アート
 六月はあっという間に過ぎ、七月も気がつけば半ば。慌ただしい毎日が続きますが、それでも、新鮮な発見の連続なので充実しています。
 日本民藝館『作陶100年記念 バーナード・リーチ展』も素晴らしかったですし、世田谷美術館『福原コレクション-駒井哲郎1920-1976』も素敵でした。駒井哲郎の、痩せたシルエットと奇麗な手から生み出される洒脱で詩情あふれる作品世界は、作家と作品の関係に、引き離すこと不可能なリンケージがあることをよく教えてくれます。図録の造本も素晴らしく、作家の「晴れ舞台」をよく解釈したニクい作り。
 ここからが七月の話。さて、北彩子展 『私の知らない物語』、行ってきました。作品の数は多くはありませんが、ギャラリーの一角に、ビシッとした独特の空間が出来上がっていました。
 木彫とアクリル樹脂の組み合わせには、「こんな表現もアリかぁ」と目から鱗。ところで、同じFUMA CONTEMPORARY TOKYOでは、過去に金巻芳俊さんの木彫作品の個展を拝見しています。タッチは一見よく似ているのですが、しかし同じアイデンティティにまつわる「何か」を発信するにしても、やはりちょっと違うんですね。
 金巻さんは、現代人のアンビバレントで、引き裂かれて元に戻れずにいるアイデンティティを痙攣的に表現していたように感じたのに対して、北さんの、それこそ、アクリル樹脂で表現される「透明化する身体」は、“現代人のアイデンティティ不在”というイメージより、どこかぼんやりと自分が透明化してゆく。あるいは、身体の確実さに自信がないような、それでいて、そのことに気づいていないような不思議な不安を惹起させるのです。
 アンニュイ、というといささか安直ですが、そういう、もっと私的な精神性を代弁するようなスタンスではないかと感じました。
 それは、神経症的というより詩的な、つまり近代主義的というよりはガストン・バシュラール(私の大好きな思想家です)的な、どこか夢想的な喪失感なのです。非日常としての、ここではないどこかのメルヘンではなく、身近に、私的に、アイデンティティが透明化していくというメルヘン。夢見がちな、けれど限りなく“身に覚えのある”精神世界を感じさせてくれる北さんに、これからも注目していきます。(了)





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Last updated  2012/07/14 01:51:51 AM
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