2002年10月12日
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 木漏れ日が優しく、足元に積もった落ち葉を暖めている。
その落ち葉を踏んで、私は日光の林の中を歩いていた。
目指す滝は、その林の先にあるはずだった。

 ただ黙々と、足元を見つめて歩く。

 梢に残された枯葉は、冷たい風に吹かれて、今にもちぎれそうにカラカラと音を立ててしがみついている。いつもなら喧しい野鳥の声さえも、聞こえない。深まった秋から逃げるように、暖かい地方に渡っていったのだろうか。

 踏みしめていた足元の枯葉から、たっぷりと吸い込んだ太陽の匂いが、立ち上ってきた。
 この匂いは、どこかで嗅いだ匂い。
そう・・・子供の頃に、両親と林の中を歩いたときの、懐かしい匂いだ。いつの間にか、私のそばには、いるはずのない両親がいた。一緒に枯葉を踏みしめている。カサカサと、乾いた音を立てて、カラカラと、風に吹かれる音を立てて。

 滝を目指しながら、ツイッと林の奥に目を走らせる。子供の頃の思い出は、枯葉の下から小さい顔を見せている、キノコを探すことから始まっていた。無意識に、キノコを求めていたのである。

 始めての場所で、食べられるキノコが簡単に見つかるはずがない。両親が私の耳元で、「ふふ・・・」と笑ったように感じた。日溜まりにさしかかっていて、ほの暖かい風が、耳元をそっと吹き抜けたのだった。

 人の思い出は、どこかで意外なことが引き金になって、くるくると涌き出るものらしい。
 枯葉の香りと乾いた風邪の音が、両親を、私のこの旅にも連れてきてくれた。帰宅したら、一緒に歩いた山道の話をしてあげよう。きっと、久しく暮らした故郷の野山に、想いを馳せてくれることだろう。

 枯葉に呼び寄せられた私のタイムスリップは、滝の音で現実に引き戻された。

 寂光の滝が、林の奥で、優しい姿を見せていた。
この滝は、日光48滝の1つに数えられる、名瀑である。





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最終更新日  2002年10月13日 01時40分43秒


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