そよ風のように☆

そよ風のように☆

君に恋した夏(5、悠一編)



レニークラヴィッツの「I'll Be Waiting」。

携帯に出ると、ざわざわという雑音と彼女の声が聞こえた。

「あ・た・し」

酷く酔っているようで、いつになく子供の声のようだった。


「・・・(また)よっているのか?」

どうせ、また奴絡みで落ち込んでるんだろうということは、
日ごろの経験から推測できる。全くコイツは。

「ピンポーン。なんで分かったの?」

なんで?答える気にもなれない。

「おまえ、今どこ?今から行くから」

お決まりのせりふをはく。聞こえてきたのは、すすり泣きのようだった。


これもいつも通りだ。
「う・・・。何年たってると思ってる・・・ヒクッ・・のよ。」
「ん?何?すぐ行くから待ってろ」


それに混じって、あの曲が流れてきた。

また、あそこか。


流れてきた曲は、ACE OF BASEの「LIFE IS A FLOWER」。

俺は車の鍵を持って、Aobへ向った。

そして、俺もお決まりのように彼女を迎えに行くんだ。



何年たってるのか?変ってないのは、俺達も・・・か。

★☆★☆

あるビルの地下に降りていくとそこにAobがある。
カウンターがあり、カウンターには7~8人が座れる。
他には2~3テーブルがあって、20人入るかどうかといった小さいbarだ。

足を踏み入れるなり、甘いマスクに顎鬚というハンサムな男は俺を見るなり、
「悠一君、お疲れ~。姫ねちゃったけど。」

「マスター。美華は?」
カウンターの一番隅の机に顔を埋めている女をマスターが指差す。

俺はおおげさに呆れた顔を作る。
「マスター。もう美華に酒飲ませないでね。」
「俺は止めたんだけね。」

どうだかと思ったが、言わないでおいた。


俺は美華の清算を済ませ、美華を抱えて車に乗り込んだ。

助手席に乗せて、運転しようとした時。

突然、また泣き出した。

「うわぁっ。」

よく見たら、助手席で眠っている。

「・・驚かすなよ。・・・。あいつのどこがいいのかねぇ。」

人差し指で彼女の涙を拭いた。

いつもは、強情で意地っ張りな美華が泣いている。

ドクン。

ドクン。

加速していく心臓。

思わず、抱きしめてしまいたい衝動にかられる。

それが出来ない自分に苛立ちを覚えた。

「くそっ!」
なんで、あいつなんだよ。

赤のスポーツカーは急発進で走り出した。




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