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第1話「儀式」
「あ~、退屈だな・・・」
放課後の教室で九藤 彰は誰に言うでもなく、そう呟いた。
「九藤、作業をしたらどうだ・・・?」
教室内には彰を入れて4人の生徒がいる。その中の一人、六条一哉が彰に向けて言う。今は文化祭の数日前で放課後残って作業しなければならないクラスも出てくる。このクラスがその中の一つである。
「つまんねーだろ、作業なんて・・・」
彰は視線を二人で作業している千鳥姉弟に向ける。
「なあ、千鳥姉弟」
二人の容姿は似ている。いや、似すぎている。
男女の見分けはつくが、私服だとどちらがどちらだか見当もつかない。制服を交換しても、おそらく誰も気がつかないだろう。
「姉弟でくくるな!オレには恵留って名前があるんだ!」
「そうよ!九藤君、こんな奴と一緒にしないで!」
「こんな奴だと!!」
二人は凄まじい剣幕で睨み合いっている。
「ま・・・まあまあ」
なんとか二人をなだめ、話を切り出した。
「なあ、あの噂を試してみないか?」
この街周辺にある学校に存在する都市伝説の類。
――――『仮面の儀式』――――。
もう一人の人格を呼び出し、未来の出来事を告げてもらう・・・・という戯言のように聞こえさえするが、その真偽は定かではない。
では、何故・・・?
試してみる価値はある―――。
そう、彰は感じたからだ。彰には願いがあった・・・。
その願いはまだ誰にも話した事は無い。
果てしなく嘘のように聞こえ、話せば必ず笑われるであろう。
この世界の再構築・・・。
それが彰の願い。
この儀式で何かが変わり得るなら・・・・・・・。
「噂・・・?『仮面の儀式』のことか?」
一哉が話しに絡んでくる。
「ああ」
「『仮面の儀式』・・・・・本気か・・・・・?」
恵留の顔は真剣だ。何か知っている。そう確信を得るには十分だった。
「本気さ」
恵美は何も知らないようだ。
同じ千鳥家でもここまで違うものか・・・。
「試して・・・みようぜ・・・?」
「仕方ないな・・・」一哉が言う。
「何か考えがあるんだろ?やってやるよ・・・」恵留が続く。
「わ、私も!」さらに恵美が続ける。
「よおっし!やろうぜ!」
この時、誰も気づきはしなかった。
この世界が本当に変わってしまうなどとは・・・。
彰に少しずつ生まれてきたひずみにすら・・・。
儀式の用意は鏡が人数分。今回だと4枚を教室の4角にそれぞれ向かい合う形で設置する。そして教室の中央から鏡を見据えて立ち、呪文を唱える。
「いいか、いくぞ・・・」
『我、汝を求める。汝、我を求めよ・・・』
そして、鏡に向かって歩く。
手を触れる。
願いを、唱える・・・。
『オレに過去を見せてくれ・・・』恵留が唱える。
『恵留に負けたくない・・・』恵美が唱える。
『誰かを守れるように・・・もっと強くなりたい・・・』一哉が唱える。
そして・・・
『オレに世界を変えるほどの力を!』
彰が・・・唱える。
『汝らの願い・・・、確かに聞いた・・・』
「な・・・!?」
まず一哉が驚きの声を上げる。
「なんなんだ・・?今の声は・・・」
それに続くように恵留が。
たった一人、確信を持った目で虚空を見つめる彰。
「よく来てくれた・・・闇の使者よ・・・」
その何も無い虚空より、なんの力も持たない一般人が見て取れるほどに禍禍しい力をたたえた、文字通り、『闇の使者』が現れた。
その姿は半分以上が闇と同化し、残った見えている部分は、明らかに人間の形を形成していた。
「ほう・・・私の姿が見えるんですね・・・?」
闇の使者が手を伸ばし、彰の顔を撫でる。
「この魂・・・もしや・・・!」
闇の使者に驚きの表情がありありと浮かぶ。
「黒天童子様・・・!」
「な・・・黒天童子だと・・・!!」
恵留の顔が変わる。怒りとも驚きともとれる顔つきになる。
「しかし、魂がまだまだ弱い・・・。鳥使いのせいか・・・」
闇の使者の殺気が恵美と恵留に向けられる。
「死んでもらうとしましょうか・・・」
手から放たれた闇の弾丸が二人の心臓めがけて飛んで行く。
「紅天!!」
恵留の左手の人差し指に納まった指輪から赤い鳥が羽ばたく。
赤い鳥は恵美に迫った闇の弾丸を打ち落とし、恵留自身は右に大きく跳び回避、そして恵美の近くに着地する。
「大丈夫か!?」
「う・・・うん・・・」
恵美の鳥使いとしての力は弱い。恵留の10分の1もないはずだ。
「剣聖までいるのか・・・童子様、如何なさいますか?」
「全員生かしておこう・・・」
予想外の発言に闇の使者がたじろぐ。
「何故です!?このような連中、害にしかなりません!やはり人間に染まりすぎましたか・・・」
彰の一部だけ開放された力が解き放たれる。
闇の者との接触が閉ざされた彰の力をわずかに目覚めさせる。
「今の力があれば、お前ぐらい楽に殺せるぞ。ベルよ・・・」
「ヒッ・・・・すみません・・・・・出過ぎた真似をお許し下さい・・・・」
闇が一瞬小さくなる。
「では・・・・何故・・・?」
彰はかすかに笑う。
「封印が解けてなくともこの世界を再構築することは容易にできる・・・」
封印が施され、当時の100分の1未満の力になろうとも、今の彰を止めることができる者はこの世にいない。
「ベル・・・行くぞ。もうここに用は無い」
「はっ」
彰の背中に蝙蝠の翼が生える。
砂埃を上げ、空中へ舞い上がる。
「待って!!」
恵美が叫ぶ。
「私にも・・・・力をちょうだい・・・」
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