Accel

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February 18, 2014
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 青々しい緑の中で、少年達が数人集まっていた。
 大きな木々が密集し、緑の風がそよぐ。
 肌寒いその風の中でもなお、集まる少年たちは熱い目線を交わしていた。

 少年たちの真ん中に、皮で出来た帽子を被った少年がいる。
 周りに数人の少年に囲まれ、静かに佇んでいた。


 茶色の帽子を被った少年は、これで何度目であろう・・・
 同じことを、周りの少年に話した。
「あなた方がどう思おうと、私の行動は私の意志、どなたにも阻止できないはずです・・
 私は、ナイーザッツ城に行かなくてはなりません!」
 茶色の帽子の下に、輝く黄色の髪を靡かせ、深く青い瞳をきりりと上げた少年は、ラトセィス・・・
 今までずっと、自分の主張をせずに、だまってセルヴィシュテの後をついて、ここまでやってきた。
 先日、そのセルヴィシュテと離れ離れになったラトセィスは、いきなり、城に行きたいと言い出したのだ。
 班を形成していた少年たちは、勿論青くなって反対した。
 ごくごく当たり前の理由である。

 なんといっても、班の者は勝手な行動は許されない。
 そんなことをすれば、たちまち彼らは街の人々に警戒され、そしてすぐに住む場所を追われる・・・
 ハーギーを出てから、何度も、町や村の人々と交流しようとして来たが、けして心を開いて貰えなかった・・・
 このルヘルンの辺境に落ち着くことができたのも、つい最近のこと・・・
 ナイーザッツ城の近くのこの地では、まだ身を隠してはいつつも、街で仕事をみつけたり、人々との交流がようやく交わせる段階になっていた。

 班を纏めていたポネは、少年らの奥で今まで黙ってこのやりとりを聞いていたが、色の落ちた甲冑の前で組んでいた両腕を解くと、前に出た。
「・・・ラトセィス・・
 確かに、君の意志を尊重しなくてはないだろう。
 だが、他の仲間が言っているように、君は単なる一時的な客人とはいえ・・・
 今は、俺らが君の身を預かっているということ、もっと重要視して欲しい。
 俺らは、沢山の仲間の連携で、この住む場を得ているんだ。
 仲間の信頼を裏切ることはできない」

 ざわざわと風が吹いて、少年ラトセィスの皮の帽子が揺れた。
 ラトセィスは、帽子の下に表情を隠しながら、言った。
「私が勝手に出て行ったと言えば、何の問題もないでしょう」
「ありえない」
 ぴしゃり、と、ラトセィスの右脇の少年が言った。
 ポネが、再び腕を組んで言った。
「そう、ありえない。
 君が、“いつの間にか”いなくなるなんて、ありえないんだ、ここは」

 ラトセィスの瞳がきりりとつり上がった。
「ありえない、ですか」
 淡い緑の上着に包まれた左手を、大げさに上げた。
「では、こういうのもありえないですかね?
 ここの何人かの方々を、私が焼き殺した・・・
 だから追い出した、というのは?」
 左手に、右手を添える。
 ラトセィスの瞳が、軽く笑みを含んだ。

「・・・
 耳にしたことがあるでしょうか、どうか・・・
 地獄の炎の神、ガルトニルマ。
 私は、そのガルトニルマと契約し、炎を使う。
 さあ、どうです?
 私がその気になればいつでも、炎を呼んで・・・
 なんでも、そう。
 なんでも、焼きつくす事ができるのですよ・・」

 数名の少年が、ごくりと息を呑んで、ラトセィスの傍から僅かに離れた。
 ポネは、ぐっと唇を噛みしめると、大きく呼吸を整え、ラトセィスに一歩近づいた。
「ラトセィス・・・
 君は、いくつの過去を持つ?
 さっきまでは、城に行く理由は・・・
 ターザラッツの王子で、ナイーザッツに妹がいると、言っていた・・・
 そして今度は、炎の契約か・・・」
 ポネを見据えるラトセィスは、両腕を下ろすと、深く青い瞳を西へ向けた。
「どちらとも、私自身の過去、そして現在です。
 だからこそ、私は行かなくてはならないのです。」



 とうとう、班からラトセィスは出て行ってしまった。
 誰も、見送る者はいなかった。
 彼らの仲間が、今、ラマダノンへ行っている。
 その仲間が戻った時、どのように説明したらいいだろうか。

 しかし、ポネは、肝を据えるしかなかった。
 過去と現在に於いて、目を背けることができぬ事に向かおうとする者を、どうして止められるだろう・・・
 だが、同時にポネは少し弱気だった。
 ラトセィスの、自らの意志を貫く精神の強さに、押されてしまった・・・
 彼の過去を聞いた時も、確かに驚きはしたが、それよりもなお・・
 歩みだしたその道に、疑問を持ちついつ、そして周りを傷つけてもなお、進んでいく姿に、押されたのだ。

 ポネは、ナイーザッツ城の方向を、軽く見やった。

 あのように、進む方向にまっすぐだったのは、ハーギーを出る時の事だったろうか・・・


 キイッ!
 キイーーッ!

 山鳥が鋭く鳴きながら飛び立って行った。

 寒い風が吹く中、ポネは自分の陣地に戻りながらも、過去に思いを馳せずにはいられなかった・・・




 濡れた地面を踏み締めながら、ラトセィスは軽く頭を振った。
 もはや、自分の意志では炎を呼ぶことはできない。
 そう、ガルトニルマとの契約は、もうこの私が破ったのだから・・

 しかし同時に、いつでも炎が呼べるような、矛盾した自信があった。


 やはり、ガルトニルマの近くだからだろうか。

 そう、あと少しだ・・・
 あいつの、近くにいる・・・


 リュベナ、待っていて・・・
 今まで、そこにずっと預けていたが
 今度こそ、あいつの元から、君を取り戻す・・・

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Last updated  February 18, 2014 10:39:46 PM
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月夜見猫 @ 愛するケーナさまあはあと! おはようございます☆ >いつも本当にあり…
月夜見猫 @ オスン6757さん おはようございます。 >いつもありがと…
月夜見猫 @ もぷしーさん★ おはようございます。 >今まだうろうろと…
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