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雇われない働き方

◆収入は上がらない前提でどう暮らす? 雇われない働き方でパラダイムシフト

めでたく世界有数の長寿国となった日本で、幸せなはずの長生きを「リスク」ととらえる、憂うつな状況に陥っているのは残念なことです。その不安を打ち消そうと、年金保険や医療保険を買ったり、資産運用で収益を上げたりしようとするのですが、そのことで新たな不安や悩みが生じてしまうこともあるようです。加入している保険会社の経営は大丈夫だろうかとか、新商品が出ているようだけど乗り換えた方がいいのかとか、安定的な運用と言われたのにずいぶん損をしてしまったなど。

私がファイナンシャルプランナー(FP)になった当時、将来の収支予測を行うキャッシュフロー表の作成に際しては、収入の伸び率を3%程度に設定するのが当たり前でした。それがだんだん2%、1%と下げざるを得なくなり、現在ではリスク管理上、収入は上がらないものとして予測することが多くなりました。そして、特に若年世代の方には、収入を途絶えさせないことがどんな資産運用にも勝ることをお伝えしています。これからの生活設計は、従来通りのプランニング手法だけでは難しい時代に入ってきたようです。

家族1人に収入源を集中させないというリスク管理

例えば、結婚したら妻は配偶者控除が使える103万円に収入を抑えるのが得とか、社会保険料負担が発生する境目である130万円の壁など、制度に自分の生き方を合わせる時代が続きました。しかし、これからの生活設計において、今の制度を前提として損得を論じることはあまり意味がないと思われます。

高度成長時代は、女性が家事や育児を担当して銃後の守りを固め、男性が大黒柱となって働くという効率の良い労働力提供体制がうまく機能しました。企業は終身雇用を前提とした給与体系と福利厚生制度でそれに報いてきました。

配偶者控除が創設された1961年から50年近くがたたとうとしています。時代は大きく変わり、厳しいグローバル競争、低価格競争にさらされる企業は、これまで国に代わって担ってきた勤労者の生活保障分野から手を引き始めています。正規雇用・非正規雇用にかかわらず、賃金が伸びていくことは考えにくいでしょう。

そうであれば、家族の中で収入源を1人に集中させないことがリスク管理になります。暮らしは10年、20年、30年と続いていきます。配偶者控除の廃止に反対するよりも、雇用形態にかかわらず、同一労働・同一賃金の確立や処遇の公平性を求めていくことが理にかなっています。働きたい人や働かなくてはならない人が安心して働けるための、保育や介護のインフラ整備も不可欠です。

収入は、必ずしも雇われる働き方から得られるものに限定する必要はありません。周りを見渡して、「あったらいいな」と思うサービスを自ら事業化することも選択肢の一つです。

今から15年ほど前、地方都市で保育サービスの会社を起業した女性にお目にかかりました。彼女は第1子を出産後、仕事に復帰するために保育園を探しましたが、どうしても預け先を見つけることができませんでした。そこで彼女は「ないんだったら私が作ればいい」と発想を転換したそうです。

また、雇い雇われる関係ではなく、「一緒に出資し、一緒に働き、一緒に運営する」という協同労働のための法律「協同労働の協同組合法(仮)」の議論がスタートしています。不安定な労働市場からの賃金のみで生活の糧を得るのではない、もう一つの働き方が求められていることも背景にあるでしょう。

既存の制度では、中小企業等協同組合法に基づく企業組合法人がより近いため、便宜上、企業組合として活動している団体もあります。しかし、株式会社への移行を目指すことが一般的である企業組合は理念と相いれない部分もあり、協働労働の協同組合法の制定に期待が寄せられています。

また、会員からの出資が認められず、金融機関からの融資もほとんど受けられないNPO法人からの期待も大きいようです。スペインではモンドラゴンという協同組合が大企業に匹敵する事業体を形成しています。

「マイナス25%」を実現する働き方、暮らし方とは?

人生80年、90年が当たり前の時代。生活設計においても、これからの50年がどのような社会になっていくのかをとらえる視点が重要になってきます。このようなことを考えている折に、「気候変動と企業・金融」というシンポジウムに参加する機会を得ました。

主催はインテグレックスという会社です。インテグレックスはSRI(社会責任投資)のための調査会社として、2001年度から毎年、全上場企業を対象にCSR(企業の社会的責任)調査を実施し、SRIファンドへの投資助言や情報提供を行っています。

これまでは倫理コンプライアンスを実現するためのマネジメントシステムに焦点を当てた調査を行ってきましたが、2008年には気候変動問題に関する企業のマネジメントシステムに関する独自調査も行っています。

シンポジウムが行われたのは10月8日。その日は鳩山首相が温暖化対策技術の開発、省エネ型ライフスタイル推進を柱とする「グリーン・イノベーション(技術革新)計画」の実施を表明した日でもあります。講演者は国連環境計画・金融イニシアチブ特別顧問の末吉竹二郎氏、大和総研・経営戦略研究部長の河口真理子氏、環境省・総合環境政策局の黒川陽一氏の3名。

シンポジウムでは、マイナス25%を実現するためには、家や工場のエネルギーの使い方、街づくり、働き方、暮らし方など、まったく違う社会を作らなくてはならない、従来の当たり前と思われてきたシステムを変えていかざるを得ないといったことを、それぞれの立場で訴えていらっしゃいました。当然ながら個人の生活設計においても発想の転換が求められます。

地産地消、在宅勤務、エネルギーや食の自給自足など、様々なキーワードを思い浮かべながら、今の延長線上にはない新しい社会が要請する暮らしに想像力を働かせる必要があります。

そして、そのような社会で求められるサービスとは何でしょうか?

運用益に多くを望む生活をやめるという選択

少子高齢社会を逆手にとり、独居老人や低所得の若者、子育て家族などが孤立せず、しかもプライバシーを保ちながら疑似大家族のように暮らすコミュニティホーム。共働き家族のために朝食や夕食を提供したり、予約制でお弁当の用意をしたりする共同ダイニング。このような集約化は高齢社会にふさわしいだけでなく、工夫次第でエネルギーコストの抑制にもつながりそうです。

個々の家庭がそれぞれ車で買い物に行くのではなく、パンや生鮮食品などを積んだ移動コンビニ車(昔、大規模団地などでありました)が回ってきてくれるサービスも地域によっては喜ばれるかもしれません。新しい協同組合法が制定されることにより、外部からの資本による改造ではない地域密着型の様々なサービスが生まれ、いつまでも安心して暮らせる街づくりができるかもしれません。

私自身は2年くらい前から、何をするにもお金がかかる生活を前提として「もっともっと貯蓄を殖さなくては」と焦るのは止めにしようと思うようになりました。少ないお金でも楽しく心豊かに暮らすことができれば、運用益に多くを望まなくてもすみます。

市場は個人の力でコントロールできませんが、自分の暮らしは自分でコントロール可能です。その準備のために、来年から農業を学ぶ教室に通う予定です。ゆくゆくは「半農半FP」の生活を目指して、拠点となる場所を探そうと思っています。今後の大きな流れを注視するとともに、まずは少しずつ私自身の暮らし方を変えることから始めます。

2009年10月27日(火)

内藤 眞弓(ないとう・まゆみ)

フィナンシャルプランナー。1956年香川県に生まれ、日本女子大学英文科卒。13年間、生命保険会社での営業を経験した後、独立系のフィナンシャルプランナー集団「生活設計塾クルー」(毎月マネーセミナーを開催)のメンバーに。家計運営に次々と新しい考え方を取り入れ、それぞれの生活スタイルに合った家計運営術をコンサルティングしている。著書に『医療保険は入ってはいけない!』、共著に『新版 生命保険はこうして選びなさい』『年金はこうしてもらいなさい』などがある。

(出典:日経ビジネス オンライン)


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