夢工房 『浩』~☆”

夢工房 『浩』~☆”

サイ(超能力学級) 2



加藤が『夜船閑話』をたどたどしく読んでいる間、

沢村は保護者会とのやり取りを思い出していた。

保護者40名を前にして、

正面のテーブルには校長、教頭、教育委員会の担当、

沢村が座っている。

レジ目を配布し終わると、

教育委員会の秋山が口火を切った。

「なぜ、当校にそういう特殊クラスができたか

説明しておきます。

いままで現場ではそういう能力に取り扱いが難しく、

逃げ腰で腫れ物に触らないようにしてきました。

あまりにも最近の出来事には科学的に不可解なことが

多くなってきました。

10数年前、さかんに世間を賑わした『おれおれ詐欺』も、

声紋認識機能の搭載により沈静化できたようですが、

それ以上に巧妙な手口が増えてきたのは一例です。

つまり、心理的に暗示をかけることによって

証拠もなく第3者から特定の口座に、

現金を振り込ませるような手口まできています。

防犯意識があるかたでも、

この手口にかかってしまっています。」

質問する保護者。

「それがつまり超能力者の仕業としているわけですか?」

「当局とも慎重に操作をすすめていますが、

一つの可能性としてとらえてください。」

「それと、ここで学校特殊クラスができる

というのに関係があるわけですか?」

教頭が続けた。

「実はいままで、くさいものに蓋をするように

学校現場では手を出さなかった

超状現象の類、実はデータとして残していたのです。

テレビ等ではやった超能力ブーム以来、

学校内でスプーンを曲げたり、

壊れた時計を動かしたり、

後者のほうはうれしい限りでしたが、」

「そうそう、内の子もできたのよーww」

「あら、そう。」

「あとはこの辺りに特別なパワーポイントが点在し、

能力開発がしやすいというデータです。

実はそういうわけで出身小学校とも連携をとり、

皆さんの大切なお子様たちを

特別クラスで更に才能を伸ばしていこうとしたのです。」

教頭が沢村を紹介する。

「クラスを受け持つ沢村です。

そういう能力は本来どなたでも持っている能力です。

例えば、手を合掌するようにしてこすってみてください、

それを少しずつ広げると冷たい

風が通り抜けるようになりますね。

こんどは、おにぎりをつくるように丸めてください。

そうです、なにか感じられると思います。

実は大気中の“気”がそれになります。」

思い思いに各自がやってみる。

「そうねー、

そう言われればそういう感じもするかしら・・・。」

「普通の勉強が

おろそかになったりしないかしら、

クラブ活動とかにも。」

「そうですね、普通の中学生と同じような授業を

するつもりです。

ただ一週間に2時間だけ、

そういう授業を持たせていただく。

超一流のスポーツ選手とかは、

一種のスーパー能力とも考えられますよ。

心身のコントロールができて始めて結果をだせるように、

もちろん不断のトレーニングを積んだ上ですが。」

「そうねー、内の子―

お勉強がもし駄目でも一億円プレーヤーになれば

それはそれでいいわよねー。」

「そうねーwww」

「ただお願いがあるのですが、

学校での出来事をなるべく家族で聞いてあげてください。

どう感じたかを聞いてみてください、

そして感情表現が上手くなると自分が見えてきて、

心身ともにコントロールしやすくなります。

あとは、過度に期待しないように、

重荷になっていろんな重圧からストレス過多に

陥ったりもしますから。

授業ではいろんな事を実験したり、

過去のいろんな本を読んで研究したりしますが

中には『夜船閑話』の本も使います。

これは長寿健康を保つ手法が書いてある本ですが、

この近くの松蔭寺を建立されたご住職さんのものです。

基本は呼吸法と瞑想法ですが、

人間本来もっている自然治癒力の

すばらしさに感動です。

仰向けになって、手足をのばしリラックスして

ゆーっくり数を数えながら息をすって、

またゆーっくりかぞえながら息を吐いたりします、

心気が臍下炭田に下りていき、

気持ちが集中されていきます。

あとは、普通に座禅をしながら

頭の上にバターを置いているイメージで瞑想する方法。

体温で温まり溶けて伝わっていき

体の中から足先までほどよくあたたまり、

心の悩みも体の病も溶かしきっていくように

気持ちがよくなります。

是非ご父兄の皆様も一読され実践されればと――――、」

「何が故ぞ、馬こきを咬んで午枕にかまびすし。

読み終わりました・・・。」

(先生!先生――――――!!)

読み終わった加藤、

目の前で顔を両手でビローンと広げていた。

そのイメージに椅子からこける沢村教師。

ゴーンと遠くで鐘の音。

教室には誰もいなかった。

12月2日の夕焼け

青木真理は最近までタロットカードに夢中だった。

以前は学校から帰ってすぐ自分の部屋にこもり、

占いに興じて夕飯も忘れるときも。

学校には一度カバンの中にしのばせていったが、

沢村に感づかれて没収され、

放課後まで、気の抜けた思いをしたのだった。

がそれ以来手にしていない。



「真理んち、結構ひろいね――、」

庭先の石畳を数えながら望月と清水が着いてくる。

「私の部屋へは玄関はこっちだから――――、」

庭木の山茶花がちらほら咲いている、

手入れが行き届いている庭園を眺めて、木戸から

真理の部屋へ向かう。

正面玄関とは違ってサッシの開きドア。

「棟続きだけど、お客さん用の玄関と分けてあるの。

今日はこっちからごめんね。」

「いいよー、そんなの気を使わなくて―――、」

「そうそう、」

「こっちこそ、なんか手ぶらできちゃって、」

「ささ、こちらへどうぞ。」

6畳くらいの部屋、3方が襖になっている。

南面に向かって平机。本棚。

たたみ部屋のほぼ真ん中にテーブルが置いてある。

「とりあえず、待ってて。」

しばらくして、お盆に三つの茶碗と

きれいな色の和菓子が3個乗っている。

「なんか、落ち着いちゃうね。」

「こんなところと、

タロットなんてすごくミスマッチだよ。」

「あはは、」

「クラス内で真理の

タロットがいつも当たるって評判で――――、」

「自分でも不思議なくらい、

だから今じゃ頼まれないとやらないの。」

「そーなんだ、ますます興味津々だねー、」

「って言うか―――、なんでも当てちゃうの?」

「気持ち悪いくらいねww。」

「そうだー、沢村の恋占いってできるかな―――?」

「いまだに独身で――、

そろそろ身を固めさせてやろうと思わない?」

「やってみるわねー。」

手馴れた手つきで真理はカードをきる。

その優雅なカードさばきに望月と清水は見とれている。



教室の戸締りをして職員室に向かう、沢村。

明かりは付いているが人気がいない廊下は薄暗くも見える。

「!」

気を感じた沢村、いきなり両肩から白い手が伸びる。

その手の一方をとったと同時に半身になり、

跳ね飛ばす。

ちらばる日誌、書類。

相手も飛ばされながら両足で着地、

ふわっと長い髪が落ち着く。

「だいぶ、上達したわね。」

ポンポンと上着をはたく女性。

一緒に散らばった紙を拾う、

「【夜船閑話の音象(音を聞いての印象)、思ったイメージ

など書く。】

聞いていて不思議な手法のイメージかなぁ。」

次のも読み上げる。

「最初はたどたどしい加藤も最後のほうは

上手になった、なせばなる!加藤!君はえらい!」

「意訳を勉強した後でまた聞いて見ると、また一層

迫力が感じられる?今一、理解不足~修行不足なり~。」

「なかなか、面白そうですね。」

「どうも、」

「お茶でもどうですか?」

「はいはい、牧野先生のお誘いなら――――。」

「と言っても職員室のお茶ですけどww。」



沢村、湯飲み茶碗に注がれたお茶をすする。

「お茶って温かいのがやっぱいいな――――。」

「そうね――――、

でも今の若い人たちも冷たいお茶を飲んでいるようだけど、

それはそれで。」

「お茶は暖かくして飲むのが一番。

もともとは沈静効果、熱を冷ます効果があるのに、

寒に冷だと、冷えすぎちゃうかもね。」

「お詳しいですね、お茶といえば栄西のまえにも、

最澄や空海もお茶をもってきたんでしょ?」

「餅茶といわれるもので、

当時は上流社会でだけ使用されていたらしい、

煎餅のようにうすく固めてそれを食したり、

粉にして飲んだり、

面白いのが宋の時代に一時はやった抹茶、

日本で生きつづけて中国では

その文化が続かなかった。」

「縁というのは不思議ですね――――、」

牧村教師の視線が絡みついた。

配達後の西の空

青木真理が手際よく7枚のカードを

テーブルの上に置く。

一番上に『力』右下に『悪魔』

左下に『魔術師』真下に『節制』

右上に『太陽』左上に『月(逆さ)』

真ん中に『死神』が来ていた。

「なに、香澄――!」と望月。

「携帯で写真なんか撮っちゃだめ!」

と真理も言ったが―――――。

「カシャ」と乾いた音が残った。



牧野は腰掛けていた椅子で長い足を組み替えた。

タイトスカートの端がつりあがる。

沢村は一瞬、虚をつかれる。

とたん牧野の髪の毛がふわぁーっと舞い上がった。

部屋全体にひろがる髪の毛。

それが大蛇のような太さの束になる。

次の瞬間、沢村の首、手足にまとわりつく。

まるで生きているようにきつく縛りこむ。

あえぐ沢村。

牧野の目は赤くつりあがり裂けた口が近寄った。

ジリジリジリジリ―――――――!!!!

大音響と共に天井のスプリンクラーから水があふれ出る。

牧野の上にもふりそそぎ、髪の毛が緩んだ瞬間、

沢村はやっと印を切った。

「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前

煩悩即菩提ー

喝ー!

崩れ落ちる牧野、そして元の姿に。

「だいじょうぶですか―――!」

「な、なんだ!飯田!」

「いやー、先生の身になにかあったと察して―――――、」

「違うよ、

ネットハッキングでモニタリング。」

と、渡辺も来る。

通産省と文科省で設置されたモニターは、

校内の主要ポイントで熱差映像、

キルリアン映像をネットで本省へ送っている。

渡辺は火災報知器を強制始動させたのだった。

「う、うーん、」

「牧野先生!」

頭からつま先までぬれた牧野に沢村は上着をかける。

「しばらく他言はするな、

心霊的には憑依とよばれる現象だろう、

マイナス波動のエネルギーの物質化、

それが当人の意識に乗ってきた可能性も大。」

「つまり過失割合、0対10ではないということ?」

と渡辺が聞く、

沢村、濡れた顔を拭きながら、

「それにパワーポイントはプラス・マイナス関係なく

エネルギーを増幅するんだ。」

「渡辺――!俺、意味わかんね――。」

と、飯田。

「とにかく、このままじゃまずいから、

牧村先生を保健室まで連れて行くよ。」

「一応、僕らもついてってあげるか?

牧野せ、いや沢村先生になにかあったら、」

「下心なんかないわぃ!へっくしゅ!

職員室の机の上がびしょびしょだ、

たのむぞ、渡辺、飯田、」

「頼むぞって――――、」

バケツと雑巾を両手に見送る二人。

後から、来た職員、光景に呆然。

木の粉ねんど01

内閣危機管理室の隣にできた情報解析室。

世間を騒がせたオカルトブームに反対をしている大塚教授、

サラリーマン霊能者として一世を風靡した高槻光が

分析班の情報を解析している。

「もっと、精度の高い予知はないのか――――。」

困惑の首相。

西暦2012年に始まった世界各地の同時群発地震に

日本ももれはなかった。

予知連の研究者は群発の部分エネルギーが

分散されると言い切っていた。

サンアンドレア断層の異常で西海岸が沈み始め、

中東では10数年前からのイラク戦争は泥沼化。

一部の国とイスラム圏の争いを呈していた。

それでも、世界的な規模の不況にならないのは

EUに大きな被害がでていないこと、

東アジアでも異常気象はひどくはなっているが、

台風によるものばかりだった。

中国の食料事情は台風などで不自由な分、

アメリカからかなりの部分穀物を輸入し備蓄。

中国はアメリカのいいお得意さんになった。

結果、環太平洋で日本はアメリカや中国に見放された

孤児状態。

国内のおもだった資産家はオーストラリアに

安住の地を求め移動さえしていた。

加えて、国会での民自党の岡川代表に追及されている

「超能力法案」への是非は、

日本の将来の明暗を分ける悪法と―――――。

「今、世界で起きている超状現象を分析するに、

政府は研究機関へのなんらかの明確な指示や

国民への情報開示をしているのですか?

超能力法案は単に国民にこれから国を挙げて取り組みますと

言っているにすぎない。

すでに持っている大国から重要な情報を解析し、

国民に開示したほうが安心なのではないですか?

安易に能力者の名簿が作られると、その人たちをめぐる

拉致やテロ活動も懸念されますが、

総理のお考えを聞いておきたいと思います。」

「2012年以降の諸現象についてはいろんな機関と連携し、

分析している状態でまだ確固とした結論には

至っておりません。

政府としては国民に安易に結論を出さず、

正確な情報を今分析し

いろんな角度から安心で未来に夢がある国土の

再生を目指しています。

また超能力を持っている人たちが仮に登録されたとしても、

国によって保護されるし、

また自らをそういった危険から身を守れる方たちを

もって基準選考する予定です。」

「次に、

10数年来続いているイラク戦争への――――――、」



アメリカの偵察衛星によると、

日本本土のずれは顕著になってきているという。

「MRIの大きなもので、

日本各地の断層や火山地帯の磁場の流れで

判断できないか?」と大塚教授。

「そんなことをしたら逆にパワーポイントを刺激するのでは

ないですか?

そういう地学的なことだけじゃなく、

人間の感情の集積との関連性も視野に入れないと―――。」

と、高槻光。

「なにかい、

君は人間の感情もひとつには原因があると――――?」

と大塚。

「ひとつの可能性としてです。

ガイア理論、地球が生命体とすれば当然、

陸上のすべての生物とも感応するはずです。」

「でも、それは素粒子、

光量子でもまだ未決の部分でしょう。」

係官が分析結果を持ってくる。

「青葉台中学校―――、

富士山に近すぎるがここで沢村に

頑張ってもらわないことには。」

と、二人は言った。

かつて、超状現象の類は一部の民間が研究をしていたが、

12年以降、すべて危機管理室の管理下24時間体制で

観測体制にはいっていた。

いかなる兆候も見逃さないという構えだ。

民間に任せていては企業の宣伝に終始し、

客観的に国民に情報を提供できないと踏んだか

らでもある。

「大塚教授、ここのところはどう解析しますか?」

映像は牧村が沢村のエネルギーを吸い取っているような

イメージだった。

「このデータだけではわからんな―――、」

「それじゃ、人間がくしゃみをしたら地球がふるえる、

そんな直結的なデータがいいのですか!」

と、興奮気味の高槻。

その瞬間に室内が揺れる。

「いや――――、」

黙りこんでしまう大塚。

15日の夕焼けでした~^^☆





















© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: