文春新書『英語学習の極意』著者サイト

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May 23, 2009
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じつは、5月22日で50歳になった。昭和34年(1959)の生まれ。

50歳というのは、サラリーマンにとって勤務先を辞めても企業年金を確保できるかどうかの境目。だいじな意味がある。

コラム配信を始めたころは
「教壇に立ちつつ本を出し講演などできれば、収入は落ちても心ゆたかに暮らせるだろう」
と、50歳が来たら早々に勤務先を辞められるような人生設計が理想だった。
実際に本を出したり個人イベントをやってみて、現実の厳しさを知った。

『リーダーズ・ダイジェスト』 を紙の雑誌として復刊するのも、時代の流れからすれば絶望的で、「商社マンに技あり!」 のタイトルは当分変えられそうにない。

みんなから誕生日を祝ってもらうには、勤務先の部の全員 (20名ほど) にケーキを配って
「ごちそうさまです。おめでとうございます」
と言ってもらうのが手っ取り早いが (勤務先で新人のころ 「誕生日にはケーキをもらうのではなく自分からひとに配るのだ」 と指導されたときは驚いたものです) 、家族にそれをもらしたら 「やめておけ」 と言われた。

「50歳になりましたと言われても、どう反応したらいいか困るじゃないの」

それもそうだ。ああ、50歳とは、化け物か。



ミュージカルの神さまが、思いきりすてきなプレゼントを用意してくれた。

ちょうど22日の産経新聞に、ぼくの崇拝する 岡幸二郎 さんのインタビューが出ていて、北千住のシアター1010で24日までミュージカルをやっているという。

The Game of Love.jpg
「The Game of Love ~ 恋のたわむれ」

ミュージカル 「プロデューサーズ」 のウーラ役の輝きでぼくの女神となった 彩輝 (あやき) なお さんも出てくる。

そのほかも豪華キャストだが、その東京公演が21日~24日のわずか4回というもったいなさだ。

22日の公演は午後2時からだった。
勤務先に午前中だけ出て、午後は半休をとって観劇することにした。自分への誕生日プレゼントとして。



舞台左手で3人がピアノ、バイオリン、チェロを弾く。
楽団はシンプル。旋律は半音階を多用して流麗。

いい男、アナトール (岡幸二郎さん演) が、5人の女性とそれぞれに恋をする。
5つのエピソードの相互関係は全くない。
5つの別々の小品と思って観ればいい。

アナトールの親友マックスは、放浪する小舟のようなアナトールにとっての錨 (いかり) だ。
演じる今井清隆さんは、江守 徹さんの味わい。

劇場じゅうが盛り上がったのが、第2幕前半のイローナ (寿ひずるさん演) とのエピソード。

アナトールの結婚式当日の朝10時。
これから結婚式ということで、ようやく起き出てきたアナトールは、寝室の扉の向こうの女性にやさしく声をかける。
あろうことか、花嫁とは別の女性が寝室にいるのだ。

ひとつ前のエピソードの女性は、かつての恋人にして今は薄幸の美しき人妻ガブリエル (彩輝なおさん演) で、クリスマスの夜の街角の つかの間の再会だった。

花嫁をさしおいて独身最後の一晩を過ごすなら、どんな若い女性と……と期待をもたせておいて、扉の向こうから登場するのは怪女イローナだ。

演ずる寿さんには失礼ながら、一晩の相手として思いがけぬ年齢の女性が登場する落差を滑稽に料理するのかと想像していたら、そうではない。

寿さんは一直線に恋する女性として豊満、あでやか。
一途 (いちづ) であるがゆえのコミカルさ。
深情けが並外れていて、やがてペーパーナイフを振り回して迫力の心情吐露。
アナトールもマックスもたじたじだ。

乗りにのった寿さんの歌唱はあの岡さんをも凌駕して、劇場は拍手がしばし止まなかった。

作品のタイトル The Game of Love を 「恋のたわむれ」 と訳したのはうまいが、「恋のルール」 と訳したほうが原意に近い。

おたわむれ ではなく、それぞれに真剣勝負なのだ。だから、恋。

「恋のゲーム」 では、ゲームセンターの電子音が響く。
英語の game は、ルールにもとづく真剣勝負でもあるから、そのまま日本語で 「ゲーム」 と訳すると軽くなってしまう。

キャメロン・ディアス主演の What Happens in Vegas は、邦題 「ベガスの恋に勝つルール」。

たとえ結婚できない恋でも、恋と呼ぶならそれを 「たわむれ」 と呼ぶのは軽すぎる。



5月22日にはアフタートークもあって、ダンディな治田 敦 (はるた・あつし) さんの司会で、岡幸二郎さん、彩輝なおさん、菊地美香さんが話した。

堂々2時間余りの2幕ものの公演初日が5月21日というのに、練習が始まったのが4月26日だったそうだ。
無謀とも言える短さだ。

舞台にほとんど出づっぱりで歌もセリフも多い岡幸二郎さんは、 「これは間に合わない」 と本気で悩んだそうで、ホテルに罐詰になって合宿状態で集中練習したら一気にセリフと歌が頭に入ったと。

治田さんが披露した、彩輝なおさんの練習中のエピソードも面白かった。

宝塚でずっと男役をやってきて、4年前の5月22日に宝塚から飛び立ち、それ以降は舞台でも女性を演じている彩輝なおさんだが、今回ダンスのシーンで治田さんとペアを組んだとき、治田さんの肩ではなく腰に手を回してしまった。
ついつい無意識に2度ばかり。

「腰にがしっと手を回されたので、それじゃわたしは少女役かと思いましたよ。彩輝なおさんの男役の舞台歴が、こんな形で出てくるとは」
と治田さんが会場の笑いを取っていた。

彩輝なおさんの 「プロデューサーズ」 のウーラ役のことも話題になった。
彩輝さんのあの演技は、映画版のユマ・サーマンさんに引けをとらない完璧なものだったとぼくは思っているのだが、同感の人々が多いらしく、彩輝さんのウーラ役に言及があったところで会場から拍手がわいた。

岡幸二郎さんも 「プロデューサーズ」 でゲイの演出家カルメン・ギアを丁寧に演じていた。

「プロデューサーズでもご一緒したんですが、岡さんと演じるシーンは無かった。今回は岡さんに正面からぶつかってゆく役で、ご一緒できてよかった」
と彩輝なおさんが言うと、岡さんは一瞬だけ回想する顔になって
「……そうですね。ストーリー上、ウーラとカルメン・ギアは絡まなかったですよね。ぼくらが舞台を温めてからウーラが登場する、という感じで」
と、会場をなごませた。

帰宅してプログラムをよく読んだら、アフタートーク司会の治田 敦さんは 「レベッカ」 で知能障碍 (しょうがい) 者のベンを好演したひとだった。

22日のトークでは、彩輝なおさんの演じたガブリエルに言及しながら、
「ガブリエルという薔薇がありましてね。白い花びらにうっすらと紫のまじる花なんですよ」。

男が花を語るのは、とてもダンディだ。

(24日まで北千住のシアター1010で。5月24日千穐楽の残り席は、22日夕方の時点であと15席ほどだった。
このあと月末まで、27日が福岡 (西鉄ホール) 、29日が大阪 (シアター・ドラマシティ) 、31日が名古屋 (中日劇場)
これだけの内容のミュージカルが、たった7回の公演で終わりとは、惜しい! ぜひ再演を。)





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最終更新日  May 23, 2009 10:39:09 AM
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