よりみちのつもりが、はまっちゃいました・・・

贅沢 or ステイタス?


芦屋が有名でしょ。
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その芦屋のなかでも、
かなりセレブだと言われてる土地が、
六麓荘(ろくろくそう)っていうところなんだ。
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以前僕が働いてたアパレル会社の社長宅が、
その六麓荘にあるんだよね。
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ある行事で、
そちらにうかがうことになった。

JRの芦屋駅から少し距離があるんだけど、
上司からは、
「芦屋駅でどこのタクシーでもいいからつかまえろ。
 六麓荘の○○さん宅、って言えば行ってくれるから。」
とのこと。.
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タクシー乗ってみると、
ドライバーさん、ホントにわかってくれた(驚)

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途中、名の知れた企業のオーナーさんの表札もいくつか目に付いて、
その六麓荘一帯は、いかにもセレブな雰囲気。
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お宅について、
またまたびっくり。
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庭に普通に川が流れてる。
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大きい庭の方には、
サッカ-のハーフコートがあって、
ゴールも設置されてる。
(一人息子さん、サッカーやってたんだよね。)


敷地面積は4万坪なんだって !
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ある営業社員の、
「俺たちの売ってるブラウスの1枚1枚が
 この土地になるんか?」

って言葉が印象的だった。
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実はこの日、
社長の葬儀だったんだ。

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社長は人望が厚いひとでね、
会社が立ち上がった頃も
ご夫婦で懸命に努力してきたひと。
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社長は韓国出身のひとでね、
会社設立の昭和30年代には、
周囲の偏見なんかで なかなか取引も進まず、
その30年後には年間100億の売り上げにまで持って来たひと。
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決して贅沢するひとでは無くてさ、
自分で電車に乗って早朝に出社したり、
気づけばビルの玄関の掃除をしてたり、
気さくに守衛さんに声をかけたりしてた。
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僕が経済的に困ってるときも よく声をかけてくれたり、
いろんな話をしてくれた。
体のことも心配してくれたなあ。

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ある給料日のことだった。
社長室に呼んでくれた。

(ときどき社長室で、
 こっそりお菓子なんかをくれる かわいいひとなんだよね。)
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どこかのお土産かなんかをくださるのかな(笑)? なんて考えながら
社長室にうかがうと、
社長はニコニコしながら右手を差し出した。
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「いつも よう頑張ってくれてるなあ。
 他の社員のこともあるから、
 すぐに給料をあげてやることは出来んのや。
 だから、これは社長の気持ちや。」
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右手には1万円札が・・・。
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固辞する僕に、叱るように話しながら、
社長は僕の右手を取って、
そのお金を握らせてくれた。
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もちろん経済的にも助かるのは事実。
だけど、その気持ちがうれしくて、
申し訳けなくて。
そしてありがたくて・・・。


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社長に父親のようなものも感じてたかなあ・・・。

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70代後半の社長、
体力的にはもう厳しかったんだよね。
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そんな社長にとって、
芦屋に建てた邸宅は、
大切な城だったんだと思う。
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決して贅沢ではなくてね。

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そう、
苦労した結果の
自分へのご褒美であり、
家族を守る館であり、
日本で成功したことのステイタスであり、ね。
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社長はいま、
京都の あるお寺に眠ってるんだ。


“和歌山、回想 ”





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