風光る 脳腫瘍闘病記

あんみつ



「今日こそは頑張るわ」私は朝からメラメラと燃えていた。

「オッス!」PTのO先生だ。「先生、おはよ。今日もカッコイイネ~」
「当たり前じゃん」といいつつ、ちょっと照れている。

「今日はトイレに行く練習しよっか?昨日、出来なかったしね」

トイレかぁ・・・リハビリとはいえ私も女性だ。ちょっと抵抗があった。

何しろ初めての経験でどう動けばいいか、それすら分からなかった。

先生は一つ一つ丁寧に「右手はそっちの手すり持って、左手はココ、足はこの位置につけて腰をひねって便座に座ってみて」

聞くのは簡単だったが実際やってみると全然、出来なくて10分ぐらいの練習だったが100キロマラソンし終えたぐらいの疲労度だった。←走った事はないが(笑)

「じゃあ、ちょっと外行って見る?」

「マジ?いいの?」術後、初めて外の空気に触れた。「空気美味しい~」
外と言っても病院のテラスだ。

「あれっ、あそこにいるの君のお母さんじゃない?」と先生が聞いてきた。
指さす方向を見てみるとテラスに面した喫茶店で母が友達とお茶を飲んでいる。

向こうも気がついたらしい、手を振ってきた。「も~恥ずかしい、先生、早く帰ろっ」しかし先生は私の腕をつかみ、勝手に手を振り始めた。

「ちょっとぉ~先生、やめてよっみんな見てんじゃんっ!」先生は明らかに
私の反応を見て楽しんでいた。

30分も過ぎると気分が悪くなってきた。「先生、もう帰る」私はもう泣かなかった。

昨日より15分、長く座れた。私はそれがうれしかった。日に日に車イスに座ってられる時間が長くなった。

そんある日、先生が「よしっ、明日からリハ室でリハビリするか!」

一歩前進である。

「いつかあの喫茶店であんみつ食べるぞ~」心に深く決心した。

この頃はまだ自分がその後、手首を切るとは夢にも思ってなかった。





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