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ザ・スーパー・ポップ宣言
NEO RECYCLE CIRCLE
「NEO RECYCLE CIRCLE (ネオ・リサイクル・サークル)」
「ザ・ポップ宣言(仮題)岩谷宏」
ネオ・リサイクル・サークルの想い出(おしゃべりマガジン ポンプ発の音楽サークル)
1980年代初頭、手持ちのレコードをカセットテープに録音しあい音楽生活を豊かなものにしよう!といった主旨の全国規模の音楽サークルがあった。サークルの名前を「リサイクル・サークル(RECYCLE CIRCLE)」という。検索してみてもほとんど情報が無いので(ばるぼら氏の著書「岡崎京子の研究」という本に少し記述がある)僭越ながら一時編集長を務めたこともある私が当時を振り返ってみようと思う。
まずは設立の背景について。音楽雑誌ロッキング・オンの創刊メンバーの一人、橘川幸夫氏がインターネットや電子掲示板、BBSの先駆けともいえる全投稿型マガジン「ポンプ(おしゃべりマガジン)」を創刊したのが1978年。読者の中心が高校生から大学生という若く活気に溢れた投稿雑誌だった。ロッキング・オンとは違い、音楽に留まらず多種多様な話題が読者の住所氏名付きで投稿されており往年のニフティ・サーブや2ちゃんねるを彷彿させる画期的なメディアだった。ロック的視点から常にメディアとはどうあるべきものか?と考えていた岩谷宏氏だが、それを同じ仲間でより意識の高い橘川幸夫氏が実現した感じ。
私が最初にポンプを手にしたのは確か中学三年生か高校一年生の時だったとおもうが、当時田舎に住んでいた私にはちょっと年上の意識高い系な人々の日常的で等身大の話題を読むのは刺激的で楽しかった。読者同士で今でいうオフ会的なものが行われたり派生的なサークルが作られたりと行動的な人の活躍を見るのも田舎の少年にとっては刺激的だった。当時の常連投稿者で後に一番有名になったのは漫画家の岡崎京子さん。他には尾崎豊、デーモン小暮氏なども投稿していたという。私も何回か投稿し掲載されたことがあり、そこからダイレクトに手紙が届き、交流が続いたりもした。
この雑誌ポンプやロッキングオン誌上で告知され発足したのが「リサイクル・サークル(RECYCLE CIRCLE)」である。発起人は千葉に住む高校生のN.M.氏。手持ちのレコードをカセットテープに録音しあい音楽生活を豊かなものにしよう!といった主旨のサークル。会誌には会員の名前、住所、電話番号、録音可能なレコードのリストが掲載。会誌にはそれらの情報が全てタイプされている。会誌のサイズはB5で第1号は約50ページ。会誌第1号には「ポンプに広告が出てから3ヶ月がたちました」とあるので、恐らく1980年が実質的なサークルの開始時期。会費は会誌の実費のみで会員は自分の聞きたいレコードを持っている会員に録音を依頼し、会員は無料でそれに応えるというもの。具体的には直接相手の連絡先にカセットテープと返信用の切手を郵送する。著作権に絡む事案なのでいろいろと試行錯誤があった模様。そういった単に録音の依頼をしあうだけではなく音楽情報の交換やレコードの売買情報、ミニコミやサークル、自主制作レーベルの告知、イラストの掲載なども。
会員は多い時で400名ほど。会員NO.1はロッキングオンの人気ライター四本淑三氏で恐らく名誉会員的位置づけ。会員NO.2が発起人で代表・編集長のN.M.氏(実に行動的でロック的で魅力的な文を書く人だった)。私は会誌第2号からの参加で会員NO.376号。岡崎京子さんは記念番号的に会員NO.400だった。当ブログではお馴染みレゲエガイドブック「STRICTLY ROCKERS」の著者である菅野和彦氏が会員NO.10。「よい子の歌謡曲」のライターをされていた波田浩之氏が会員NO.382。ポンプやロッキングオンに投稿するような人が多かったので行動的で文を書くことが好きな人が多かった印象。ネットを検索すれば「今では有名人」的な人も多いのかも。
音楽のジャンルは限定されていた訳ではないけどロック中心で当時全盛だったニューウェーブ、レゲエも多かった。ソウルは皆無に近かったですね。当時プログレやハードロック中心に聞いていた私はそこでニューウェーブやレゲエに感化され、カセットテープをあちこちに送りまくり安価に興味のある音楽を大量に聴ける環境にのめり込んでいました。お小遣いは全部カセットテープ代や郵送用の切手代につぎ込んでいた感じ。因みにレンタルレコード店が繁盛するようになる数年前の頃ですね。会誌第1号から第4号までがN.M.氏編集長のRECYCLE CIRCLE時代で以降は大阪のT.I.氏が編集長を務める「ぞんびさあくる」時代へと続きます。(続く)
画像は雑誌ポンプとRECYCLE CIRCLEの1,2,3+4号及び3+4号掲載の岡崎京子さんのイラストと会誌の一部
関連記事:
ロッキングオンの時代。第二十八話■岡崎京子ちゃんのこと。(橘川幸夫氏)
ネオ・リサイクル・サークルの想い出 2(ぞんびさあくる時代と岡崎京子さんのことなど)
『ぞんび さあくる』vol.1-5 1981-1982年
(vol.5は紛失、どなたかお持ちの方貸して下さい)
会の発足人でもあったN.M.氏が家庭の事情で編集長を務められなくなり、代わりに大阪のT.I.氏が編集長を務める「ぞんびさあくる」時代へと移っていきます。ダークなイメージのサークル名が何やら不穏な空気を感じさせますが、巻頭の挨拶で「原発の汚水処理」との発言があることからどうも嫌々ながら引き受けた模様。サークル名変更とともに会誌のスタイルが変わり、それまで全てタイプで打たれていたものから各人が割り振られたスペースに自由に手書き原稿を書き、それをまとめるという形式に。このことにより各人の表現の幅が広がり、より個性が発揮されやすくなり紙面が面白くなっていく。今でいう音楽ブログの記事を1冊にまとめたようなものだ。それまでもお勧めの音楽が手軽に聞かせてもらえるという点で重宝していた会誌も、会員の表現を含めてお勧めの音楽を体感するという面白みが加わり毎号毎号の発行が心底楽しみで待ち遠しいものとなる。レンタルレコード店すらなかった時代の田舎住まいの高校生には実に刺激的なサークルであった。(この頃会誌でよく目にしたアーチストは、SLITS , CAVARET VOLTAIRE , PHEW , SCRITTI POLITTI , BLACK UHURU とか。)
中でも私のアイドルだった岡崎京子さんの原稿は毎回イラスト中心のセンス抜群のもので目を見張った。公にするのも気がひけるのですが、あまりにも素晴らしい内容なのでそのうちの一つをご紹介。どうです、高校生にしてこのセンス!(少しシミで汚れてます。) 結局『ぞんび さあくる』は5号で終了、次の編集人は発起人のN.M.氏とも交流があり、ポンプ界隈でも精力的に活動されていた吉祥寺在住のS.T.氏*に変わることになる。(下記リンク先参照:近年はミシュランガイド日本版の仕掛人として活躍されている模様)
その際に新サークル名募集ということだったので、当時ペンギン・カフェ・オーケストラの1stが話題だったこともあり私は名前を「ペンギン・サークル」にするようS.T.氏に手紙を出した。そうしたら暫くして一通の葉書が届くのだが、なんとそれは全く予期しない岡崎京子さんからのものだった。「T.K.氏*に頼んだSLITSのレコードは私が借りているから録音が遅れる。」「ペンギン・サークルという名前は私がボツにした。」「ははははははは」という何とも彼女らしい人を食ったような、それでいて親近感を醸し出すような豪快で気さくな感じのものだった。ハガキの日付は82年4月25日になっているから私が高校3年生、彼女が短大1年生の時の話である。その日以来このハガキが私の宝物になったのは言うまでも無い。
* S.T.氏、T.K.氏ともに単行本「くちびるから散弾銃」だったかの友人の近況回顧みたいなコマに登場する。
関連記事:
ロッキングオンの時代。第二十八話■岡崎京子ちゃんのこと。(橘川幸夫氏)
NRC(ネオ・リサイクル・サークル)の想い出 3
前回
ネオ・リサイクル・サークルの想い出 2(ぞんびさあくる時代と岡崎京子さんのことなど)
の続きです。
82年春からポンプ界隈でも精力的に活動されていた吉祥寺在住のS.T.氏に編集者が変わりサークル名がNRC(ネオ・リサイクル・サークル)となる。S.T.氏が大学に合格し自由時間が多くとれるようになったことが理由と思われる。
第1号ではオレンジジュースの大き目の紹介がある。当時ロッキングオンなど音楽誌ではほとんどプッシュされていなかったようなこうしたマニアックな音楽が、感受性の高い会員により大きく紹介されたりしたのも魅力の一つだった。同時に突如の伊藤つかさブーム。NEW WAVE系が主流だったサークルに何故かロリータ系アイドル歌手ブームが起こり(一番騒いでいたのは私だが)今にして思えば先の読めないこうした会員の嗜好の多種多様性もまた面白かった。他にこの頃紙面を賑わせたのはDURUTTI COLUMN、PIL、WIRE、PSYCHIC TV、AZTEC CAMERA、戸川純とか。音楽誌との温度差を感じることは多かったし、実際にどういうアーチストがどういう風に聴かれているのかを感じることが出来るのも興味深かった。
岡崎京子さんが表紙を描いたのは3号分。第2号は1コマ漫画風になっている。( 「PHEWの終曲やります」@NHKのど自慢 → 「(歌う前)カーン(鐘一つ)」というもの)また、この頃会員NO.16のT.K氏主催のイラスト版NRCという位置づけの「I&I」という冊子が発行されたんだけど恐らく岡崎京子さんも参加していたと思うので彼女の研究家は要チェック!(少なくともVOL.7まで出ていた模様。)
製本が東京で行われるとのことで当時田舎住まいの高校3年生だった私も数度参加させてもらった。吉祥寺のS.T.氏宅で10人ほど集まり、ホチキス止めする程度の作業だったので実質的に会員同士の交流会・オフ会みたいなもの。みんなでカレーを作って食べたり、オレたちひょうきん族を見たり。岡崎京子さんに「田舎ではカレーに茄子なんて入れないでしょう?」と馬鹿にされながらも「伊藤つかさの家が同じ下北沢で知ってるから教えてあげる!」と地図を描いてもらったことは昨日のことのように覚えている。(その後私が伊藤つかさを追っかけてサイン&握手を求めたのは言うまでもない。)
S.T.氏編集のNRCは85年夏までの3年間でVOL.1からVOL.19まで(他に別冊が1冊)。その後就職活動の為か編集者交代となるんだけど何故か私に声がかかることになる。
伝説の音楽サークル NRC(ネオ・リサイクル・サークル)の想い出 4
S.T.氏が就職活動の為編集者交代となるんだけど、後任が内定していた小金井市在住のS.S.氏が大学受験に失敗してしまい、何故か私に声がかかり代表編集者を務めることになる。これは責任重大!と真面目にサークルの運営に取り組む。会員募集の告知をロッキングオン誌に出し、減少傾向にあった会員数を増やしたり。製本は当時笹塚駅付近に住んでいた私のアパートで行う。集まるメンバーも吉祥寺のS.T.氏の頃から少し若返った感じ。
岡崎京子さんが表紙を描いたのは2冊。事前に何の連絡もなく封筒に入れて原稿が送られてきたんだけど、VOL.20は完全に漫画仕立てでトーンや修正液の生感覚がダイナミックに味わえる素晴らしいものでした。そして裏表紙は彼女の記念すべき処女単行本『VIRGIN』の広告になっています。『この本はスクリッテ・ポリッテのグリーンくんにささげるわ』など、彼女のポップ感覚溢れる宣伝文は今読んでも楽しい。
VOL.22では彼女の単行本の宣伝とお手伝い募集の告知が。高校時代からのファンであった私は強くお手伝いに参加したいと思ったんだけど、一方『有名人に意味なく群がる人間』みたいで嫌だなという実に下らない意地が出てしまい結局参加せず仕舞。今にして思えば実に勿体ない機会損失でした(笑)。因みにVOL.21の表紙は私の作品。大友克洋のAKIRAの真似ですね。この頃の原稿を見ると会発足当時は高校生が多かったけれども、徐々に大学生など大人になっていくにつれて表現の幅が拡がり、音楽の嗜好も先鋭化したりと成長していたな、と感じます。
私が代表編集者を務めたのは約1年間、会誌はVOL.20~24までの5冊と短かったけど、なかなか貴重で面白い体験が出来ました。特に周囲の大学生とは一味違った活動、音楽生活を送れたことは私の人生のちょっとした自慢かも。
後任のS.S.氏が大学に合格したことに伴い私は代表編集者を退任。VOL.25、26を経て会はNETWORK RECYCLE CIRCLE(略称はNRCのまま)へと改名。残念ながらS.S.氏が「忙しい」という理由で会誌発行が遅れたり、新規会員募集を行わなかったりで会の盛り上がりに欠けてしまった印象。そして1989年4月頃のVOL.12発行後は何の音沙汰もなくなってしまい、事実上サークルは解散状態という実に残念な結末を迎える。
以上で80年代に存在した伝説の音楽サークルNRCのお話はおしまいです。音楽に人一倍貪欲だった私はいろんな人にお世話になり、時に無礼で迷惑な行為も多かったかと思います(ごめんなさい。)そして、この場を借りて会員だった皆さまにお礼申し上げます。楽しかったひと時をどうも有難う!
追記:『橘川幸夫 / ロッキング・オンの時代』において発起人のN.M.氏、第3代編集長のS.T.氏に関する記述があります。なおその中でリサイクル・サークルについては『レコード交換の会』と(誤ってますが)紹介されています。
以上
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