銀の鬣●ginnotategami

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●先生、私、結婚するわ




電話の向こうから、
懐かしい声が聞こえました。
「先生、私、結婚するわ。うん、5月に式、来てな」
問題児だったmaiからの電話です。

先生の私が、「問題児」なんて言うと問題あるけど、
でも、その通りmaiは問題児でした。
毎日、自分の体を傷つけて 中学にやってきます。
自虐的なんです。腕や手首に傷が絶えない。

「痛いと感じる時だけ、生きてると思えるから」
父親はおらず、母一人子一人。
家も貧しく、とても高校進学の余裕も無いのです。
子供たちの生活を救うには、教師は無力です。

だから、昼食の時間になると、
お弁当を持ってくることが出来ないmaiは、
学校を出て、何処かに雲隠れしてしまいます。
結局、その度に、私が街中を探し回ることに。

maiは、一つ間違えると、とても危険な中学生でした。
ある時、耳に安全ピンを刺したまま、学校に来ました。
友達たちは、驚き、いやがり、避けてしまいます。
先生方も、決して優しい眼ばかりでは無かったはず。

「彼方が自分の体を傷つけるのは大嫌い」
私は、この子と勝負することに決めました。
「今から、先生は自分の腕を切るから」
不思議と痛くなかった。傷口に赤い血がにじんだ。

「イヤ!先生やめて!お願いや!」
「私も何時もそう思っていたわよ、maiやめて!って」
もちろん、私は大人、手加減はしたけれど、
それっきり、maiは自分を傷つけなくなりました。

10歳年上の人、いい人だそうです。
「中学出やから、ちょっと劣等感なんやけど」
大丈夫よ、っと励まして、心がうれし泣きしました。
もう問題児はいなくなりました。

"嬉しい話"を母に話したら、
「何で、教え子の方が先に結婚するん?」
「もう、それはそれ、これはこれ。私は彼女の最後の恩師よ」
でもうれしいよ おめでとう。


(「ショート&ショート」小物語Vol.3)


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