第8章:降り注ぐ粉
丸太小屋到着。少年は足を踏み入れた事がない。
もしあのハガキがなかったら一生足を踏み入る事のない場所だったかも知れない。
中に友達が居るはずだ。
<バンド名は・・放浪>少年は冷静を装った。
5年ぶりの再会、だがこの頃になると少年の症状は友達のほぼ全員に伝え、
知れ渡っていた。
1から10迄とはいかないが・・。
小屋に入った。少女という名の木が少年をいち早く見つけた。
「やぁ」懐かしい声「久しぶり」少年が答える。
「出番は最後なの」「大丈夫?よく来てくれたね」少女が言った。
「う、うん、今のところ」彼女がすごく大人びて見えた。
懐かしい他の木の顔もあった。思いがけない2人目の再会。
どちらも5年ぶりの歳月を感じさせず、まるで昨日まで一緒に遊んで
いたようにさえ思えた。
ステージ上では他のバンドが歌っていた。
周りを見渡せば、皆片手に’チャーチーというものを持っている。
どうやらアルコールという成分が入っているらしい。
少年はアルコール禁止の言葉を守り通している。
「自分も飲めたらいいのに・・・」少年は初めてそう思った。
少女がバンドのメンバーや自分の友達に、少年と少年の友達を紹介してくれた。
会う人、会う人に、一生懸命に。
「中学の時の友達でね、こっちはその友達の・・・」
紹介された方も、きさくに、でも丁寧に対応してくれていた。
次だ。少年の全身の葉が揺らいだ。
どんなにこの場所に足を運びたかった事か、この目でそのステージを
見たかった事か。
ワサワサワサワサ、ザザザザ、シュシュシュシュ、他の木々たちも
ざわめき始めた。
放浪バンドの宴の始まりだ。