ハンサムネコ ☆アビ☆

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因縁



作 秋山末雄

 「とうとう降ってきやがったな」
俺は、いつもの愛用のコウモリ傘を手に、家を出た。
1日の仕事は、可もなく不可もなく、いつものごとく平凡に終わった。
雨が止みそうなので、夕方のラッシュアワーをはずすように、時間を調節して会社を出た。小雨になった頃をみはからって、俺は、愛用のコウモリ傘を手に、駅まで10分ほどの道を急いだ。途中で雨は止んだ。
 電車が着くまで、7、8分の間があった。
 プラットホームの人影は、まばらだった。
 コウモリ傘をたたんで、ゴルフのスイングをはじめた俺は、ついつい夢中になっていて、雨の滴がスイングした左の方向に飛びちっているのを忘れていた。
 気がつくと、左の方向に電車をまっていた男が、いきなり、つかつかと俺に近づいてきた。
 「しまった!まずい!ヤバイ!」
 その男は、黒のサングラスに、黒の革ジャン、ほほのあたりに切り傷があり、どう見たってヤクザだ。
 「何と云ってあやまろうか」
 俺は、びっしょりかいた冷や汗を見ぬかれぬよう、頭の中で思案をめぐらした。
 それより、突然、鉄拳をくらったらどうしよう、鉄拳くらいならまだましだ、ポケットの中のドスが光ったらどうしよう、それよりいきなりピストルが火をふいたら・・・・・・。
 俺の身体は棒のようにつっぱったまま、足はガクガク、ふるえが止まらなかった。
 ついに目の前に歩みよったヤクザ風のその男は云った。
 「てめえ、さっきから見てりゃあいい気になりゃあがって、いいかげん見ちゃあいられねえぜ、なんじゃい、そのスイングは・・・・・・」
 男は、有無を云わさず、いきなり俺のコウモリ傘を奪うと、目をギラギラ光らせて云った。
 「こうだよ、こう!こうやるんじゃい!スイングは!よーく見ちょれ!てめえ!腕のふりも、足の位置も全くなっちゃあいねえなあ、てめえ!」



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