晒し場

晒し場

ことり編 5話 本当の出発



 4月も終わり、徐々に暑くなっていく気候のさまを見せ始めている。
「お~い。」
「何?武さん。」
 呼び止められた旭は呼応するように振り向き、用件を確認しようとする。
「電話、なんかお前の事を知ってるみたいなんだが・・・。」
「?」
 武の言葉に疑問を感じながらも電話の受話器をとる。
「もしもし?」
「よ!旭。」
 聞きなれた声が、受話器を通して耳に響く。
「秋・・・人?」
「そうだけど・・・どうかしたのか?」
「いや、ううん、何にもないよ。」
 突然の相手・・・それは、ここに転校してくる前・・・いや、もっと前から一緒にいた、幼馴染の月島 秋人からのものだった。
「なんだ、もうすぐゴールデンウィークで休みだろ?」
「そうだけど・・・それで?」
「いや、ちょっと言い辛いけど、お前一人暮らしだろ?あてっ、さっき知らない人が電話にでたな。」
「知り合いだよ。いまちょっと訳があって家に泊めてるんだ。」
「ふ~ん。で、俺もそっちに行っていいか?」
「へ?」
 秋人の突然のお願いに少し戸惑うが、旭はすぐに返事をする。
「別いいけど・・・。」
「分かった、家の位置がどの辺りかよく分からないけど・・・そういや、何ていう学校に通ってるんだっけ?」
「風見学園だけど・・・。」
 旭には質問の意図が理解できなかったが、言いたくないわけではないため答える。
「分かった、じゃあそのうち行くから、ちゃんと覚えておいてくれよ。」
「うん。」
 久しぶりに親友と・・・幼馴染と会う。だけど、旭はそれを素直に喜んでいるだけなんてできない。
「今・・・会っても大丈夫・・・だよね。」
 その声は、これから起きる事を案ずるように発せられていた。

5月2日

 今日も、長く長く感じられる授業から開放され、放課後となる。
(・・・いる。)
 教室の窓から眺めた校門。そこには、誰かを待つように人が一人立っていた。その人は、どう見ても風見学園の生徒には見えない。
「・・・行かなきゃ。」
 誰もいなくなった教室の中で旭は小さく決意をする。

「秋人・・・久しぶり。」
「あぁ、旭。久しぶりだな。」
 校門へと向かった旭。彼を待っていた人間。二人が交わした最初の言葉はこれだった。
「秋人、悪いけど会ってほしい人がいるんだ。ちょっと、着いて来てくれる?」
「いいよ。」
 旭の行き先が分かっているように、秋人は旭に着いて行く。

 旭が連れて来た先は、この島でもっとも大きいと言われている・・・今は枯れてしまった桜の木。
「もう少し、待っててくれる?」
「あぁ。」
 そう言い残すと、秋人を置いて何処かに行ってしまう。

『ピンポーン』
 家の呼び鈴を鳴らす音が音源から少し漏れながら近所に響く。
「は・・・い。白河です。」
 インターホンからは、あまりにも弱々しく、風に乗ればすぐにでも消えてしまうような声が聞こえてくる。
「旭だよ。」
「旭・・・君。」
「ちょっといいかな?今。」
「ダ・・・メ。お願い。私に・・・構わないで・・・。」
 ことりの声を聞く限りでは、外に出てこようと意思は一切感じられない。
「駄目だよ・・・ことり。」
「え?」
 インターホンから、今度は驚きの声が聞こえてくる。
『ガチャ!』
 旭は、玄関へと近づいていき、扉を開ける。入ってすぐに靴を脱ぎ捨て、ことりの所へと走っていく。
「旭君、どうして?」
 彼の行動が理解できないことり。そんな彼女に、旭は行き場の無い苛立ちを感じてしまう。
「どうして・・・ずっと逃げてるの?」
「・・・そんな分かったように言わないでよ・・・。」
「分かってなんかいないよ・・・何も言わないあんたの事なんか!誰も分からないよ!」
「・・・。」
「何があったの?」
「・・・。」
「黙ってちゃ分からないよ・・・。何か・・・言ってよ。」
「・・・。」
 旭がいくら必死になって問いかけても、ことりはそれに返事をする事はない。
「どうして・・・どうして?」
「・・・聞こえないの・・・。」
「え?」
「声が聞こえないの・・・?」
 どういう意味だと旭は思う。現実にことりは旭の声に反応しているからだ。
「どういうこと?」
「心の声が・・・みんなの・・・。」
(心の・・・声?)
 旭は少し戸惑う。
(もしかして・・・あの娘や朝倉さんが言っていた事って・・・)
 その時、旭の中でバラバラになっていた事が一つに繋がった。
「ことり・・・詳しく教えてくれる?」
「う・・・ん。」

ことりは話した。今まで頼ってきた能力の事。そして、その能力に頼って生きてきた・・・だけど今、ことりにその能力は無く、どうやって人と付き合えばいいか分からない事。
「ことり・・・よく、話してくれたね。」
「うっ・・ひっく・・・。」
 目から涙を出しながらも、力いっぱい旭に事の顛末をつげた。
「じゃあ、行こう。」
「え?」
「ことりに会って欲しい人がいるんだ・・・来てくれる?」
「うん。」

「ごめんね、秋人。」
 旭は戻ってきた。この桜の木に・・・。
「遅いぞ。」
「ごめんごめん。」
 秋人に笑いながら旭は言葉を返す。
「ん?後に誰かいるのか?」
「あ!そうだよ。ほら・・・。」
 そういうと、旭の後から見え隠れしていた存在が前にでる。
「え・・・・。」
 秋人の目は驚愕の目となる。
「こと・・・・り?」
「うん・・・久しぶりだね・・・秋人君。」
 お互いに存在を確かめ合う。ただ、お互いの言葉は二人を確信させた。
「あぁ、久しぶりだな・・・本当に・・・。」
「そう・・・だね・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
 しかし、お互いに言葉が続かない。
「ごめんな・・・って言ってどうにかなるもんじゃないんだけどな。」
「ううん・・・私のほうこそ・・・ごめんね・・・。」
「あの事故のせいで・・・ことりは・・・。」
「言わないで・・・思い・・・出したくない・・・から・・・。」
「でも・・・俺は嫌なんだ!」
「・・・。」
「いつまでも!あんな事を引きずってるのはゴメンなんだ。」
 叫ぶように秋人は喋る。
「ことりも・・・本当はそんなんだろ?旭だって・・・。」
「僕もだよ・・・ことり・・・。」
「・・・。」
 三人の間に長い沈黙が流れる。この時間が永遠と感じられるほど、黙り込んだままことりは下を向き、旭と秋人はことりを見つめている。
「私も・・・だけど・・・あの時のこと・・・。認めると・・・認めると・・・。」
 何かを言おうとする。だけど、その後の言葉が続かない。続けたくないとことりが思っているからだ。
「あれは・・・誰のせいなんかでもないよ・・・。」
「え?」
 ほぼ、泣き出してしまった状況のことりを、旭はコワレモノを扱うように丁寧に言葉をつむぐ。
「あの時・・・の事・・・忘れるなんて無理だと思う。いや、忘れちゃいけないんだ。ことりはきっと本当は自分のせいだと思ってたんでしょ?自分があの時帽子を飛ばしていなかったらって・・・。」
「う・・・ん。」
「でも、今まではその帽子を取りに行った秋人のせいにする事で奥のそこに沈めていたんだ・・・心の奥に・・・。でも、心のどこかでは自分のせいだと・・・思っていた。でも、それを認めると、『自分のせいで両親を死なせてしまった。』 ことを認めてしまうと思ったんだよね。」
「うん。」
 瞳から涙をあふれさせながらも旭の言葉に頷いていく。
「ここからは二人でお願い。ことり。秋人。」
「あぁ・・・ことり?」
「はい・・・。」
 二人は、旭の提案を了承する。その旭は、二人から少しはなれ、様子を伺うようにたっ立っている。
「秋人君・・・本当にごめんなさい!」
「ことり、謝るな・・・謝れると・・・。」
「ダメ!」
「ことり?」
「謝らせて・・・でないと私・・・いつまでも変われない!」
「ことり・・・。」
「私・・・あの時・・・秋人君にどれだけひどい事を言ったか・・・覚えてるから・・・今でも・・・だから・・・。」
「・・・。」
「ごめんなさい。」
 秋人に向かい、深く頭を下げ、言葉を出すことり。
「言えたよね・・・ことり。」
 二人を眺めていた旭が言葉を掛ける。
「え?」
「心なんか読めなくても・・・ほら、こうやってきちんと思いは伝えられる・・・でしょ?」
「旭・・・君。」
「旭?どういうことだ?」
「とにかくめでたいの・・・ほら。」
 旭は二人の肩に手を回し、それぞれの体と顔を近づける。それは、かつて三人が押さなかった時のような光景であった・・・。




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