そうです。"Without You" のことを書こうというわけでした。 今更この名曲のことをあれこれ書いても仕方ないようにも思ったんですが、バッドフィンガーといえば、数ある名曲の中でも、これをはずすわけにも行きませんからね。 おっとっと、こりゃまずい。「たぶん明日には "Without You" のことを書く」などと記したのに、10日以上も何も書かずにいたら、"Without You" に関するコメントが前回の日記にどんどん付いてしまったではないか。 はっはっは。…笑い事ではないか。けど、笑って許してくださいね、心優しき楽天仲間のみなさん! それにしても、10 日もさぼったのは久しぶりです。みなさんには見捨てられそうですが、誠に勝手ながら、本日あたりから復活モードです。叱咤の書き込み、その他歓迎でございます。
喫茶店といえば、普通の喫茶店ならどこにでもあった。当時から「サテン」という言い方はあったが、「お茶する」はまだ使われていなかった。 そんな普通の喫茶店に、珍しく一人で入った。目的も季節も全く記憶にない。かろうじて覚えているのは、新宿の紀伊国屋あたりのどこかだったということぐらい。 普通のサテン、…茶店って書くと「ちゃみせ」みたいでカタカナ表記してみたけれど、なんだかキラキラした布みたいだなあ…、とにかくごく当たり前の普通の喫茶店って、なぜか、ビニール・レザーでできた直角の背もたれの、ソファーのような椅子が一般的だった。それも決まって色は黒。ごくまれに、ほかの色もあったかな。 たまたま入ってコーヒーを飲んだそのサテン(喫茶店)も、ありふれた黒いビニール・レザーの、背もたれが直角の椅子だったという記憶だけは、なぜか鮮明だ。 名前も覚えていない、一度しか入ったことのないこの喫茶店で、僕は初めてバッドフィンガーの "Without You" を聴いたのだ。
今はどうなのだろう。飲食店では有線が全盛の時代だった。僕が聴いたのも間違いなく有線だったろう。よく耳にするヒット曲や有名な曲に混じって、突然おなじみの曲が全く違ったアレンジで聞こえてきた。ちょうど、ニルソンの "Without You" が流行って間もない頃だった。 ニルソンの "Without You" は、つい LP まで買ってしまうほど大好きで、何度も聴いた曲だったのに、この、ニルソンとは全く違ったロック・テイストのアレンジの、バンド版 "Without You" が耳に焼き付いて離れなくなってしまったのだ。
数ヶ月後、中古レコード店に、バッドフィンガーの "No Dice" が安く出ていた。前から欲しかったので、即買いした。何しろあのジャケット・デザインは強烈だったから、よく知っているつもりのレコードだった。 しかし、ここにあの日あのサテン(喫茶店)で聴いた "Without You" が入っていようとは、全く考えてもいなかったので、実にビックリした。何しろあのバッドフィンガーが歌っていたのだから。 そしてさらに驚いたことには、何と、"Without You" は彼らのオリジナルだった…。
ニルソンの素晴らしい歌唱力が、この曲を世界中のポップスファンに知らしめ、20 世紀の最も親しまれたバラードの1曲となったことは、間違いのない事実だ。 彼は、自身の LP に入れる曲を探しているときに「"No Dice" に入っていたこの曲を気に入って、採用したのだが、初めはジョン・レノンが作ったと思っていた…」という意味のことが、CD "The very best of BADFINGETR" の解説に書いてあった。 僕は、ニルソンの歌も素晴らしいとは思うが、それよりも何よりも、この曲を探し出した、その功績を讃えたい。さもなければ、僕ら一部の人間にしか聴かれないままの曲で終わった可能性もある。 この二つの "Without You" のできばえだが、アレンジ、歌唱、どちらをとっても、ニルソンに軍配を上げる人が圧倒的に多いのは、容易に想像がつく。同じ CD の英語の解説によると、ニルソンがレコーディングをしているのを聴いたバッドフィンガーのピートが、ローディーに向かって「誰かが俺たちの曲を向こうでやってるぞ。それがすごいんだ!」と言ったそうだ。 だが、これらは十分に承知した上で、あえて僕は、バッドフィンガーの "Without You" の方がはるかに好きだということを、告白しなくてはならない。
おなじみの名曲が詰まった "No Dice" の A 面の最後に、不朽の名作 "Without You" は入っている。 イントロ。ニルソン版はピアノ・ソロだが、バッドフィンガー版はベースをバックにチープなギター・ソロだ。 で、ここが肝心。1番を歌い終わると、2番からはコーラスが加わるのだ。さらに、おなじみの "♪ I can't live if living is without you..." のサビで、コーラスが強調される。…そう。これこそまさしく、英国伝統のバンド、バッドフィンガーの "Without You" なのだ。 楽器の編成も、この曲に関しては、変にストリングスを加えなかったところが、バンドっぽさをにじませて、好きだ。ドラムも坦々とリズムを刻み、これぞロックバンドの歌うバラードだ。 またまたチープなギター・ソロの間奏のあと、エンディングに向けて、オルガンの音が徐々に前にでてくるアレンジは、夜、暗い部屋で聴いていると、涙が出てきてしまうほど素晴らしい。 いや、アレンジが素晴らしいから涙が出るっていうのは、正しくない。 このバッドフィンガー版 "Without You" が僕の胸を打つ一番の理由は、若い日の、押さえようにも押さえられない、心の叫びのようなものが、4分40秒の間、終始感じられるからだ。最後のオルガンも、その心の叫びの延長線にある。そしてよく聴いてみれば、チープなギターソロも、歌(コーラス)を引き立てている。 バッドフィンガーの歌からは、この若さ故の止むに止まれず歌う姿が連想されるのだ。"Without You" は、その中でも屈指の代表作であるといえる。
ありふれた内容のラブソングながら、実に愛すべき言い回しが多い。一番気に入っているのはここだね。
♪ You only smile あなたは微笑むばかり But in your eyes けれどその目には Your sorrow shows 悲しみが Yes it shows... そう、悲しみがあふれる...