魂の叫び~響け、届け。~

粉雪舞う熱情の中に・前編


YUE☆彡ちゃん から強奪して来たコードギアスのスザルルSSです。



勝手なお持ち帰りは厳禁!!
持ち帰りたい方は 必ず ご本人の承諾を得て下さいませ。


何て言ったらいいのか…

YUEちゃんの言葉の放つ魔力ってスゴイなぁ、と、いつも思うのですよ。
これからも沢山沢山お話書いて欲しいです!!

2007/07/29

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粉雪舞う熱情の中に・前編


「お兄様、お疲れですの?」
それはナナリーの何気無い問掛けから始まった。ルルーシュは一瞬返答に詰まる。
学生と『黒の騎士団』の二重生活は、誰にも云えないし気付かれる訳にもいかない。最愛の妹、ナナリーにさえも。否。最愛の妹だからこそ、巻き込む訳にはいかないのだ。こんなイレギュラーな活動に。
「ああ、勉強が少しね。アッシュフォード家の世話になりながら無様な成績は取れないだろう? その立場に恥じない成績を保たないといけないからね」
心配そうに顔を曇らせるナナリーの豊かな髪を撫でてルルーシュは応じた。嘘ではない。実際、無様な試験結果を出す訳にはいかないのだ。そのくせこのところ授業では寝てばかりのていたらく。自ずと勉強に向かうしかない。
「お勉強の事だけですの? それならお兄様でしたら大丈夫ですわね。シャーリーさん、お兄様はとても頭がいいと仰ってましたわ。でもスザクさんのクロヴィスお兄様の件は、ゼロの騒ぎで解放されたそうですけど、軍隊とお勉強の両立は大変ではなくて?」
「…………ッ!」
ナナリーのもっともな指摘に、ルルーシュは思わず拳を固めていた。掌に爪の食い込む鈍い痛みで我に返る。
「お兄様?」
「……ああ、スザクは大丈夫だよ。生徒会でバックアップしてるし、軍でも課題をみてくれる人はいるらしい」
ブリタニア軍に面倒見て貰うくらいなら自分を頼って欲しいとルルーシュは思うのだが、スザクは妙な処で遠慮する。
「成績上位をキープしなきゃならない君にはこれ以上甘えられないよ」
一緒に勉強しないかと云う誘いはそんな科白で一蹴されてしまった。スザク自身は心遣いのつもりだろうが、ルルーシュには結構な痛手である。どんなやんちゃも二人なら怖くなかった。そんな幼少の頃とは違うのだ。そう思い知らされたひとことだった。
「そういうナナリーこそ勉強家じゃないか。咲世子さんに教わった折り紙も上手になって。日本の文化を吸収するのはいいことだよ」
「ええ、そう思うわ。私、見えないけど肌でとても季節を感じるの。四季がはっきりしてて本当に素敵な国ね。季節ごとのお祝いもあるのよ。七草粥に桃のお節句、子供の成長のお祝いに七夕と菊のお節句、覚えたのよ。凄いでしょ
う?」
誇らしげなナナリーに、思わず顔が綻ぶ。ルルーシュはそれら五節句をスザクから教わった。千年以上の伝統文化なのだと、自分の事の様に自慢してみせたのだ。
『スザクが威張る事じゃないだろう?』
 と小突いたのは、伝統を重んじる日本文化の美しさに、少し悔しい気がしたからなのだろうと今では思う。
「さあナナリー。今夜は冷える。ベッドへ行こうか」
 くしゅん! とナナリーが小さなくしゃみをしたのを見て、ルルーシュはナナリーの車椅子に手をかけた。と、ナナリーはルルーシュの手を探ってそっと重ねた。
「ねぇお兄様、スザクさんをお招きしてティーパーティーがしたいわ。咲世子さんが今度ケーキを焼いてくれるって云うのよ」
「咲世子さんのケーキか。それは素敵だ。是が否でもスザクを連れて来なくてはね」
「皆で食べられる様な大きなプリンを一緒に作りたいわ」
楽しそうに話すナナリーの様子に、ルルーシュは思わず破顔する。
「バニラビーンズ入れて、甘い香りのプリンがいいな」
「お兄様ったら!」
クスクスと声をたて、ナナリーが笑った。


C.Cはさも退屈そうに云った。
「ティーパーティーとは、呑気なものだな。アッシュフォードの家も平和なのか」
「さぁな。俺達二人にとって安心出来る場所を提供してくれてる内は、精々利用させて貰うさ。ナナリーの望む事ならな」
ナナリーをベッドへ運んで、自室に戻ったルルーシュは冷ややかにそう云った。本気で信じられるものは己自身しかない。そういう温度を感じさせる言葉だった。
「C.C。今更云うまでも無いが、くれぐれもスザクに姿を見られるなよ。俺達二人に関わりがあることを知られたくない」
「そうだな。私にとっても都合が悪そうだ。身を隠してはおくが、ナナリーから漏れないようにするのはお前の役目だ、ルルーシュ。後は勝手にしてくれていい」
「何が『勝手にしてくれていい』だ。ここは俺とナナリーの生活エリアだ。C.C.。貴様に許しを乞う理由など無い筈だが? いつの間にそんなに偉くなった?」
相変わらずのマイペースなC.C.に、些かの苛立ちを覚えて語気が荒くなる。そんな自分の大人げなさに余計苛立つのだが、のらりくらりとかわすC.C.もどうかと思う。
「そうカリカリするな。カルシウム足りないのか?」
「何故そんな話になる!?」
 C.C.にはペースを狂わされっぱなしである。シンジュクで出会ってしまった事が運のツキか。
「まったく……」
ナナリーには『昔に戻って3人で楽しもう』と告げる事にして、C.C.との戯れを打ち切ったルルーシュは、依然C.C.に奪われているベッドを放棄してソファの毛布に潜り込むのだった。

「巨大プリンを作るティーパーティー? いいよ、乗った。『黒の騎士団』が今は潜伏してるから、ウチの部署も閑古鳥なんだ。時間あるし、付き合うよ。3人でだなんて久しぶりだ」
教室の片隅。スザクは屈託なく笑ってそう応じた。ナナリーの希望を無気に出来ない者がここにも、である。ルルーシュは苦笑するしかない。
「すまない。勝手ばかり云ってるな、お前には」
「いいよ、ナナリー姫のご所望とあればいくらでも喜んで。それに」
スザクは悪戯っぽく笑う。
「勝手ばかり云ってる方が君らしいよ。会話もおぼつかなかった、出会ったばかりの頃の君に比べたら、多少の我儘云ってくれた方がずっといい」
「……それでは俺が我儘云ってばかりみたいじゃないか。不本意だ」
ムッとした口調で応じると、スザクはさも可笑しそうにあはははは、と声をたてて笑った。
「いつまでも子供じゃないからね、僕等も」
ふと真顔になってスザクは云った。その横顔はやけに大人めいて見えて。
「ピーター・パンにでもなりたいか?」
「嫌だな、それは」
指を組んだ両腕を伸ばして応える。
「子供の腕力じゃ守りたいものも守れない。子供には手に入らないものもあるし、早く大人になりたいよ」
「……そうだな」
力が欲しい。欲しいものを手にする力。ブリタニアを、父皇帝を倒す力。ナナリーとスザクと、そして大切な皆に平穏をもたらす力が欲しい。
ギアスの力と『黒の騎士団』が、今のルルーシュの力だ。これだけであの男――皇帝を倒せるかは己の器次第である。
――倒してみせる。
ルルーシュは胸中に誓う。権力が欲しいわけではない。政権を握りたいわけではない。望むのは母を見殺しにしたあの男の失脚だ。
「……ルルーシュ?」
スザクが心配そうにルルーシュの顔を覗き込んだ。
「何か考え事? 黙り込んじゃって。僕に出来る事なら協力するよ?」
「否、いいんだ。これは俺の闘いだ」
「闘い? 穏やかじゃないね。……やっぱり、皇帝陛下の……お父さんの事?」
 眉を顰めてスザクは云った。鋭い処を突かれてルルーシュは答えに迷う。峻巡ののち、「ああ」と短く返答した。
「駄目だよ。ブリタニアの国家転覆なんて。世界で混乱が起きる」
「『世界』とやらのために、ナナリーの見えない目を見過ごせとでも? ナナリーのために世界は平穏でなくちゃならないんだ。俺は俺達の平穏のためになら悪にだってなれる」
強い言葉でルルーシュは云った。母を目の前で亡くしたショックが原因らしいナナリーの見えない目。父王を倒した処で治るものでもないだろう。しかしだからと云って何もしないままではいられない。
「ナナリーはルルーシュが悪になってまで救おうとすることなんて、望まないんじゃないかな。犠牲の上の幸福なんて幸福じゃないよ」
「……ブリタニアを壊す計画についてはどうしても平行線だな」
ルルーシュは苦笑した。ナンバーズの中でも特別な『名誉ブリタニア人』。その地位にあるスザクに無茶は出来ない。それは理解しているつもりなのだが。
「お前は今のブリタニアを受け入れられるのか? 何もかも台無しにした国家だぞ」
「うん、そうだけど……今の僕はブリタニアの職業軍人だから。もう立派な同族殺しの殺人者だ」
同族殺しの……。一瞬、クロヴィス殺害の瞬間が脳裏をかすめたが、罪悪感を抱くにはルルーシュの罪は重すぎた。腹違いとはいえ、実の兄を殺害したのだから。罪悪感程度でそそげる罪ではない。『罪悪感』よりもっと心に重い罪。
「お前のは罪ではない。任務を遂行しただけだ。悪いのは腐りきった軍の上層部だ」
「それは責任の摩り替えだよ。ひとごろしはひとごろしだ。僕の罪だよ」
「もう止せ。こんな善悪論は不毛な上に楽しくもない。法で裁けない罪で自分を追い込むのは止めろ」
自責の念に捕われていくスザクを見かねてルルーシュは云った。ブリタニア軍人だからと云うだけの理由で大量殺戮を尽した自分には分不相応だが、人殺しに捕われているスザクは見てられない。
「……そうだね。こうして君と同じ学校に通えてるのも軍の計らいなんだ。感謝すべきかな? ティーパーティー、楽しみにしてるよ」
 始業のチャイムと共にそう云って、スザクは自分の席へ足を向けた。ルルーシュは人の命に過敏なスザクを思いながら教科書を揃えた。


『黒の騎士団』強化に向けて志願者を選別する事だけは怠らず、コーネリア軍の動きを観察する日々の中で、ナナリーと約束したパーティーの日がやって来た。
校舎の中庭には白いテーブルクロスに飾られた円卓が据えられ、細やかなパーティーの様相をかもしだしている。
果たして軍に呼び出されはしないかという懸念の元、妹ナナリーの白き騎士スザクは花籠を手土産に二人の生活スペースであるクラブハウスを訪れた。
「お招きありがとう、ナナリー。冬薔薇だよ。軍舎の庭にあるんだ。こっそり摘んで来た」
車椅子の前に膝を着いて、スザクは持って来た花籠をナナリーに渡した。ナナリーはその芳香に包まれてうっとりと笑んだ。
「いい香り…ありがとう、スザクさん。咲世子さんのケーキはデコレーション始めてるそうなの。私達も大きなプリン作りましょう」
「楽しみだな。厨房へ行くよ、ナナリー。スザクもこっちへ」
ナナリーの車椅子を押してスザクを誘う。
「お兄様、プリンお好きね」
「本当に、昔から変わらないね、君は」
「それは誉めてるのかけなしてるのかどっちなんだ、スザク?」
車椅子のナナリーも交えて、こんな他愛のない会話が嬉しい。父王皇帝に見限られた末端の皇族。それがこんなに自由で居られるなんて。……例え、籠の中の鳥でも。
「え、ボウルでそのまま作るの? 正気……じゃなかった、本気?」
「巨大プリンと云っただろう? ボウルじゃ小さいか?」
「だってプリンは蒸すんだよ? 火通るかな」
「……蒸すのか?」
迂濶にも調理方を知らないルルーシュだった。ナナリーはさも可笑しそうに笑って、
「なめらかなプリンになるんじゃないかしら。耐熱のガラスボウルにしましょう」
 と、途方に暮れている兄達に提案した。
「トロトロよりプルプルが好きなんだが……」
ルルーシュが溢すのを聞き逃す二人ではない。幼い頃を知る者は始末が悪い。
「知ってる。伊勢エビのお造りとか好きだったよね」
「こっそり『蒟蒻ゼリー』食べてましたものね、お兄様ったら」
「そういう事しか覚えてないのか? 忘れてくれ」
不都合な記憶だけ都合よく抹消可能なギアスだったら……と考えたか否かは定かではない。
「それよりプリンだ。……グラニュー糖90gに牛乳550cc、卵黄2個に全卵1個? 2個分の卵白はどうするんだ?」
咲世子が用意してくれたレシピを見て考えるルルーシュにスザクが提案する。
「卵白はメレンゲにしよう。泡立てた白身に砂糖入れて焼くんだ。ゼラチンとコーンスターチがあるならマシュマロもいいね」
その言葉にナナリーが驚く。
「スザクさん詳しいのね!」
「ああ、軍に料理好きな人――セシルさんって女の人なんだけど、いつも食事まで面倒見てくれるんだ。……なんというか……微妙なセンスしてるけど」
「微妙なセンス?」
微妙なセンスの料理好き……迷惑そうに感じるのは考えすぎか。ルルーシュは思ったが言及しなかった。『微妙なセンスの料理』に余程のものがあったらしい事は、何か思い出したらしいスザクの面持ちから察せられたからだ。 その一件でスザクがブリタニア人の味覚に疑問を抱いた事は押して知るべしといった処か。まさかおにぎりにブルーベリージャムが入っていたとは、さすがのルルーシュにも想像の限度を越えている。
まぁ、その『微妙なセンスの料理』による被害について悶々とするスザクはそっとしておいて、キッチンの食材を物色してみる。と、存外製菓食材が備蓄されていた。
「ゼラチンもコーンスターチもあるぞ。手製のマシュマロでも披露してもらおうか」
「あ、キルシュワッサー発見! おいしいマシュマロ作れるよ」
製菓用酒を見つけたスザクが微笑む。とにかく目指すはボウル丸ごとプリンだ。
スザクが上手に卵白と卵黄を分ける。ナナリーがハンドミキサーでツノが立つまで泡立てた卵白に砂糖とゼラチンとキルシュワッサーを加えて更にかきまぜ、コーンスターチに窪みを作った型に流しこんで冷まして固める。
一方ルルーシュは卵とグラニュー糖をよくかきまぜ、牛乳を加えて更にかきまぜた。耐熱ガラスボウルに丸ごとプリンだ。念入りに、である。バニラビーンズも加えてホイルで蓋をして、蒸し器で蒸しあげる。咲世子のケーキも出来上がって、さあティーパーティーだ。
F&Mのブレンドティーを入れるのはルルーシュだ。3人とティーポットの妖精の分のリーフを入れてよく蒸らす。テーブルには大きなガラスボウルのプリンが堂々居座って微笑ましい。 中庭は建物に囲まれて風は少ない。ナナリーとスザクと3人でお茶とテーブルを囲むのは何年振りだろう。
久しぶりのお茶会は和気藹々と過ごされた。キルシュワッサーの薫るスザク手製のマシュマロは絶品だったし、プリンも懸念よりプルプルなのが3人を楽しませた。
しかし季節は冬。冬至を過ぎて日が長くなったとはいえ、夕刻も16時ともなれば寒い。
「さあそろそろパーティーはお開きにしようか。ナナリーは女の子なんだから躯を冷やすのはよくない」
カタン、と椅子を引いてルルーシュは云った。
「スザク、今夜は泊まって行けるのか?」
「うん、官舎に届け出してきた。もう少し一緒にいられるよ、ナナリー」
「素敵! ねえお兄様のお話相手になって差し上げて。最近ゲームに没頭してらっしゃるみたいなのよ」
「ゲーム? 賭けチェス以外にも? それは気になるね。ルルーシュ、白状する覚悟は?」
「さあどうかな?」
片方の口角をあげて意地悪く笑むと、ルルーシュはテーブルを片付けた。
「スザクはこれを運んでくれないか。力仕事は俺には向かない」
と、スザクにティーセットやプリンのボウル、マシュマロの皿等を積み上げたトレイを押し付ける。そしてナナリーの膝にはテーブルクロス。
「咲世子さんに洗濯を頼んでくれ。俺はテーブルを倉庫に片付けて来る」
「力仕事しないんじゃないの?」
スザクの問にルルーシュは何気無く応じる。
「倉庫は知らないだろ? 案内する手間を省きたい。食器を片付けたら俺の部屋に」
「何を企んでるんだろうね、我等がプリンスは?」
スザクが悪戯っぽくナナリーに語りかける。ナナリーは困ったように笑った。
「さぁ……お兄様のお考えは底知れないものがありますから」
「ふたりとも俺を何だと思っている?」
スザクとナナリーのやりとりを聞いたルルーシュは不機嫌顔で問う。と、スザクは素直な笑顔で応じた。
「何って、ありのままの君だよ。僕変なこと云った?」
「否もういい。後でゆっくり……な、スザク」
「了解」
云って、それぞれの荷物を片付けるため、その場を散会した。


倉庫にはC.C.がいた。スザクに使わせるつもりだったエキストラベッドを占領して、だ。
「おいC.C.。そのベッドは……」
「何だ? お前のベッドなら男ふたりでも充分寝られるだろう? 私はここのベッドで妥協してやる」
「何が妥協だ……ッ」
がっくりと肩を落としてルルーシュは応えた。ふたりでも充分寝られるベッド。それが問題なのだ。
「理性に自信がないか?」
「…………ッ」
「スザクとやらを見る目を見れば判る。特別なのだろう? お前はゲイだったのか?」
「そんなんじゃない。スザクだからだ」
他の同性には感じた事のない想いを抱いていた。だから7年前は……あの頃は戯れのように触れ合えていたのに、今の自分には邪な情念が含まれているのであの頃のように触れられない。
客室に使える空き部屋はある。しかし同じ部屋で語り明かしたい思いも手伝って、自室に招きたくなったのだ。
スザクが関わると理性のたがが外れている。
「ふ……っ。自覚しながら情動が抑えられないとは、俺も修行が足らないな」
ルルーシュは自嘲気味に笑った。笑うしかない。同性の性に触れたいなんて。
 7年前の触れ合いなど、スザクが未だ覚えているとは思えない。たった10歳で知った、性的欲求の発露など。
「今日の俺はどうかしている。7年ぶりのお茶会に浮かれているとは……」
「本当にどうかしているな、ルルーシュ。報われない恋だ、そんなもの」
「報われようとは思わないさ。疎いからな、あいつは」
「嘘つきだな。報われない自分ヘの慰めか?」
「報いを求めるのは恋じゃない。ただのエゴだ。俺はスザクを愛したいだけの話だ」
「認めたな」
C.C.は意地悪く笑んだ。ルルーシュはハッとする。スザクの存在は云わばルルーシュの弱点だ。彼がいる事で行動は制約される。それが例え――ゼロであっても。
ルルーシュがゼロである事はスザクにもナナリーにも気付かれてはいけない。只でさえブリタニア軍人と皇族の人間だ。ブリタニア国家転覆を図るゼロの立場では二人を守れない。
求めるのは二人を守る力であった筈なのに、ゼロはスザクとナナリーを危険に晒す。それは酷く不本意だ。
――しかし。
後戻りは許されない。ルルーシュは自分が選んだ道を行くしかないのだ。母の謀殺。その真相を暴く為にも。そしてそれがナナリーの目に光を取り戻すきっかけになればと。
そのためならば――最早、手段など。
選べやしないのだ、と。 自分は知っている。
だからこそその前に、スザクを欲しいと思った。仲間として迎えたい。しかし彼はブリタニア軍人で。拒否されるならばせめて……。
せめて、触れたい。
誰よりも近い場所で彼に触れたい――愛したい。汚れた欲望。罪にするには純粋なこれは恋か。C.C.が指摘するような感情なのか。 ――判らない。けれど。
 ただ、触れたいと。
「スザクを部屋に呼び出してある。C.C.お前はくれぐれも……」
「判っている。ここからは出ないと約束しよう」
「いつもそれぐらい物分かりがいいと助かるんだがな」
「何を云う? 私ほど物分かりのいい女はいないぞ」
  C.C.は悪戯っぽく笑った。


「待たせてすまない。珈琲を煎れて来たんだ。飲むだろう?」
ルルーシュの私室の前に佇み主を待っていたスザクは、飼い主を待つ忠犬のようだとルルーシュは思ったが、口には出さなかった。昔から犬ころのようだとからかっていたので、今更そんな事で怒るスザクでもないだろうが、余計な冷やかしをするつもりにはなれなかった。
――緊張している? 俺が!? 冗談ではない。
「良かった。丁度欲しかったんだ。ありがとう」
云って、スザクは両手の塞がったルルーシュの代わりに、ルームキーナンバーを押す。シュンッと静かな音を立てて開くドアに、ルルーシュは先に足を運んだ。
スザクは何気無いそぶりでルルーシュのベッドに腰を降ろす。ルルーシュは自分のデスクにトレイを置いてスザクにカップのひとつを渡すと、自分の椅子に座って珈琲に口をつけた。スザクは外の寒さに冷えた手を温めるように両手でカップを包んで珈琲を口に運ぶ。
暫しの沈黙。
「スザク……」
「ルルーシュ!」
二人同時に互いの名を呼び合い、思わず顔を見合わせると、今度は同時に吹き出した。
「何を云いかけた?」
「ルルーシュこそ」
「否、こんな時間は久しぶりだな、と思ったから……」
珍しく歯切れの悪い口調でルルーシュは応じた。スザクはさも可笑しそうに笑った。
「今日はずいぶんしおらしいね。ガサツになったと思ったのに」
誰のせいだ、と云いたいのを辛うじて堪える。俺らしくないとは自分が一番実感している。想う人を目の前に二人きりで、平静を保とうとする方が無茶な話だ。
「ねえ、外」
立てた親指で窓の外を指してスザクは云った。いつのまにか窓際のデスクの椅子に座っているルルーシュの隣に立っている。
「ずいぶん陽が陰って来たね。雨……否、雪かな、この寒さだと」
「あ……ああ、そうだな。地球温暖化が進んでるが、それでも雪は消えないんだな」
「自然の神秘だね。雪は好きだよ。汚れを埋めて消してくれる気がする。僕はあまり綺麗な人間じゃないから」
スザクは曖昧に笑った。『父親殺し』の罪を背負ったスザクの両手は血に染まっている。望む望まないに関わらず。
「雪は……」
ルルーシュは云った。
「雪は自分がどんな色なのか忘れてしまって白いのだと云った奴がいたが、それでも白い雪は綺麗だと俺は思う」
罪の色をも忘れて白を纏い、何もかも白く染めて汚れを隠し、純粋に誠実であれと。
「……ありがとう」
窓の外ではいつしか本当に白い雪が舞い始めた。夜までには街中を白く染めるであろう粉雪。空調の行き届いたクラブハウス内では判らないが、外は相当寒いのだろう。
「早めにお開きにして良かったみたいだね」
「そうだな。ナナリーに風邪をひかせる処だった」
カップをソーサーに戻したルルーシュは、椅子に座ったまま長い脚を組み、窓の縁に左肘をついてしなやかな指先で唇を辿った。スザクはその傍らに立ち、冷めた珈琲に口をつける。
外はいつしか吹雪の様相になってきた。春になればこの窓からは桜吹雪が見られる。その時まで自分はスザクと今の心地好い関係でいられるだろうか? テロリストと軍人で。
――思い悩むだけ無駄だ。
ルルーシュのデスクの端に身を預ける姿勢で、窓外に舞う粉雪を、珈琲カップを片手に見つめるスザクを見遣ってルルーシュは思う。国家反逆を望んだのは自分自身だ。軍に身を置くスザクと敵対するのは必然である。否あるいはスザクを仲間に――無理だ。スザクは容易には信念を曲げない。
やはり距離を置くのか。こんな――手の届きそうな場所に居るのに。
寄りかかったデスクの端を掴むスザクの左手に、ルルーシュは自分自身のそれを重ねた。
「ルルーシュ?」
驚いた顔でルルーシュを見つめるスザクに、ルルーシュは返す言葉を見付けられない。突然手を握られたスザクは、それだけの事で胸が熱くなるのを感じて動揺した。それは7年前、じゃれるように触れ合った膚の温もりを思い起こすのには充分な温かさで。
――先に視線を絡めとったのはどちらからだったのか。見つめあう眼差しは逸らせない。ただ互いの瞳に映る己の、戸惑う表情だけが見てとれた。
重ねられた手の指先が絡まり、強く掴まれた腕は引き寄せられて、ルルーシュの右腕がスザクの首にまわされると――自然、降りた瞼。重ねられる唇。
(7年前と同じ味がする)
頭の中は混乱しながらもどこか冷静で、そんな昔の事を思い出していた。7年前もこんな風に……口付けを交した事があった。好奇と戯れと、少しの願望から――。
執拗なまでの口付けは互いの舌を絡めとって吸い上げる息詰まるキス。7年前と違うのは、口付けがただ触れるだけでは終わらない事か。求めあうまま口腔を探る舌を吸ってルルーシュは呼気を乱した。
「ん……っ」
ルルーシュが声にもならない吐息を漏らすと、スザクの方から唇を解放した。執拗に絡め合った舌先で唾液が細く糸を引く。何と無くバツが悪くて、互いに視線を逸らした。最初に掴んだ片手は握り合ったままで。
「吃驚した」
ぽつり、とスザクは云った。
「あ……否その……すまなかった」
  咄嗟にルルーシュは謝る。夢中で口付けてしまった事を自覚して、顔が熱く
なるのを感じた。
「え? なんで謝るの? っていうかルルーシュ、何赤くなってるの?」
「何ってキ……」
キスしてしまったから、と云い掛けて止めた。このリアクション、スザクにはキスぐらいなんでもないらしい。こんなに動揺している自分が馬鹿みたいだ。初めてでもないのに。
……否、初めてと大差ないかも知れない。実際のファーストキスは7年前、当時10歳のスザクだ。しかし、あの時はただの好奇心で、戯れに唇を重ねただけの事だった。しかし今回は違う。心が、躯が、自然スザクを求めるのだ。剥き出しの肉欲。なんと無様な!
「ねぇルルーシュ?」
自らの欲望に思い悩むルルーシュに、屈託のない笑顔でスザクは云った。
「もう一度しようか、キス」
「…………ッ!?」
それは考え込んだ事も恥じらいも吹き飛ぶ発言だった。
スザクと、もう一度、キス?
するのか?
自分が?
まさか!?
「ルルーシュの唇、さっきのプリンみたいだ。ぷるんとしてやわらかい。もう一度キスしない?」
「スザクお前何云って……」
「7年前は何度もしたじゃない、キスぐらい。あ、もしかしてシャーリーの事好きだったりする? 僕じゃ迷惑だった?」
「…………心配するのはそこか?」
「……あれ? 何か間違えてる、僕?」
天然である。だからこそ憎めないのだが。そしてそんな処が好きだったりもするのだが。
クッ、とルルーシュの唇から笑いがこぼれる。
「……クッ……はははははッ! それでこそスザクだ。それならいっそ、一緒に大浴場に行かないか? このクラブハウスにはシャワールームとは別にあるんだ、大浴場が。裸の付き合いもまた一興、だろう?」
半ば冗談、それこそ何云ってるの? ぐらいでスルーされるものと思って云い出した提案は、実現されては寧ろ困る部類だったのだが。
「いいね、それ。外が雪景色で寒々としてるから、ゆっくり温まりたいし。そうだ、背中流すよ?」
「……本気か!?」
「冗談だったの?」
酷く残念そうにスザクは応えた。今度は『叱られた子犬』の様である。垂れた耳と尻尾が見える気がする。
それにしても、だ。
今日のスザクはずいぶん『接触』を求めている……様に思えるのは気のせいか。『触れたい』と云う欲望に侵されているのは自分だと思っていた。しかし、それを越えてスザクは、キスといい風呂といい『接触』を求めて来る。何故だ? 以前のスザクは個人主義で、べったりした付き合いは好まなかった筈なのだが。
「……どうかしたのか? 今日のスザクはおかしいぞ。キスといい風呂といい、そんなにべったりしてどうする?」
「ううん、どうもしないよ、ルルーシュ。ただちょっと……人恋しいかなって」
 云ってスザクは笑った。切ない笑み。何かを押し殺しているような……。
「ねぇ、ルルーシュが皇子の頃、ユーフェミア皇女殿下とは親しかった?」
話題に繋がりの見えない、些か唐突な問に面食らう。が、ルルーシュは追求せず記憶の糸を辿った。
「ユフィか? そうだな、歳も近いし、よくナナリーと三人で遊んだものだった。今となっては懐かしい話だ」
「仲良かったんだ?」
「否、ユフィが特別って訳じゃない。ゼロに殺されたクロヴィスなんかとは喧嘩ばかりしていた。シュナイゼルに到っては思い出したくもない。皇族の子供として育ったからな。その辺りは立場に甘えていたよ。……ユフィがどうかしたのか?」
ユーフェミアは第三皇女、ルルーシュは第11皇子。その立場に差は少なくな
い。しかし母は違えど、ユーフェミアの姉コーネリア、クロヴィス、シュナイゼル……兄姉仲は悪くなかった。今彼等さえも憎むのは、母マリアンヌをみすみす見殺しにした父皇帝の血を引いている者として、だ。個々が嫌いな訳ではない。だからこそ、クロヴィス殺害の後、暫くは思い出しては嘔吐したものだ。罪深きは同族殺し、だ。
 ルルーシュはふと考え込んだ。それを遮るスザクの言葉は思いがけないもので。
「ユーフェミア様に一度、祖界で会ったんだ。」
これにはルルーシュも少し驚く。
「ユフィに会った? それで言葉を交したと?」
「うん。日本、お気に召したみたいだったよ。ブリタニア人が皆君やユーフェミア様みたいに好意的なら、日本人もこんな軍人の顔色を窺う生活しないでいられたかもしれないんだけどね」
「ブリタニア人には日本など植民地エリア11だ。踏みにじるだけだろう」
ルルーシュは吐き捨てた。皇位継承権を捨てて日本に亡命したルルーシュには、ブリタニアより寧ろ日本が母国だ。ここは誰も、ナナリーを傷つけない。そんな日本を占領下に置くブリタニアは彼にとっては敵国だ。母を殺害された身でも平穏に暮らせる筈だった新天地を、そこにルルーシュとナナリーが暮らしていると判っていながら侵略してきたのだから。
「うん、だからユーフェミア様みたいな人が嬉しくて。一般のブリタニア人にはない発想は皇族だからかなって。そうしたら……君を思い出した」
「俺がユフィと似てるとでも?」
「似てるよ。君もユフィも日本に優しい。ほっとするんだ。ブリタニアにもこんな人がいるんだって」
「その俺とユフィの父親は、日本の侵略者なんだぞ?」
「『君は』違うよね?」
眼差しに射抜かれる。父皇帝の様にはなりたくはない。それは誰よりも何よりも強く望む事。『自分は違う』。侵略者ではない。だから『黒の騎士団』を組織して――。
「ブリタニア軍人がそんな事を云っていていいのか? スザク。お前のいる組織は『エリア11』を総括するものだぞ」
「組織の前に、僕はひとりの日本人だよ。だからそれでも親しく付き合える君が大切なんだ。ブリタニアに制圧されたこの世界で、唯一君だけが」
そう、云って。
スザクはそっとルルーシュに頬を寄せた。スッとかすめるように唇を滑らせて。
「キスがしたいな」
ルルーシュの肩に額を押し当て、うつむいて呟く声は弱さを孕み。ルルーシュはそんなスザクの背中に腕をまわしてそっと抱いた。
「……ああ、そうだな。キスぐらい大した話じゃない。しても、構わないよ。スザ……」
ルルーシュの言葉が途切れたのは彼の意思ではなく、スザクの唇が、その名を呼ぼうとしたルルーシュのそれを塞いだからだ。しっとりと舌先で辿る唇は甘い。
「君を抱きたいって云ったら、君は怒るかな」
「……大浴場へ行こうか」
濃密な口付けを味わって離れた唇で、スザクは大胆な言葉を口にする。ルルーシュは直接には応えず、兄妹の生活エリアに借りているクラブハウスの大浴場へスザクを誘った。それがスザクの問掛けの回答だった。


普段あまり使われる事のない大浴場のバスタブに熱い湯が張られる。それを待つ間にふたりは言葉なく着衣を解いた。10代も半ばを過ぎた少年にしては線の細い体躯と、正規の訓練で鍛えられた筋肉質の弾力に富んだ躯。体格差になんとなく悔しさを感じて、ルルーシュは大浴場の隣のシャワールームに入った。
シャワーの熱い湯が白い膚を叩く。みずみずしい少年の肌は湯を弾いて、上気した桃色に染まる。
そこに、タオルを腰に巻いただけのスザクが顔を出した。精悍な躯つきを目にして、これからふたりどうするのかと思いをはせてしまったルルーシュは、視線を外してシャワーの湯が流れて排水口に渦巻くのに目を遣った。
「やっぱりルルーシュって綺麗だ。元が白いから、お湯で薄ピンクになってるのがよく判る」
「……見ないでくれないか?」
スザクの視線が気恥ずかしくて、ルルーシュは濡れた髪をかきあげながら応じた。
「こんなに綺麗な君を目の前にして、見ないでいるなんてもったいないよ。見せてよ、もっと、君の全てを」
「馬鹿を云ってないで、もう風呂の湯も溜ってるだろう。向こうへ行こう」
促して、ルルーシュはシャワーのコックを閉めると大浴場へ繋がるドアに手をかけた。すると、ドアノブの手にスザクの手が重ねられた。壊れ物に触れる様に優しく震える掌で。
「スザク?」
「……ごめん、何でもない。背中流すよ。7年前に一緒に風呂入った時みたいに」
「力任せは勘弁してくれよ。それこそ7年前みたいに」
「酷いよルルーシュ。僕だって加減ぐらい判る」
「ふ、どうだか」
小さく笑って、ルルーシュは今度こそドアを開く。広い浴槽のある大浴場が目の前に現れた。普段あまり使われる事は無いが、砂世子によって清掃の行き届いたバスルームである。
「スザク、お前先に座れ。俺はシャワー浴びたから、先に洗って差し上げよう」
「ルルーシュ……僕が背中流すって云ったのに」
「つべこべ云わずに座るんだ、スザク」
ルルーシュはアッシュフォードの紋がプリントされた、学園専用の椅子にスザクを座らせた。バススポンジにボディソープを含ませ、バランスよく筋肉のついたスザクの背中を洗い清める。7年前にはお互い大差なかった体格が、今では随分と違う。
「腰は細いくせに、何だこの肩幅と胸の厚みは!?」
「何だって云われても……そうだね、きっとルルーシュ位なら腕に収まるよ。……試してみたいな」
「それじゃセクハラだ、スザク」
ルルーシュは思わず呆れ顔になる。健全な男子高校生が、同い年の同性を抱き締めてみたいなんて。そう云えば軍隊に同性愛はつきものだ。スザクもルルーシュ以外の男に抱かれでもしたのだろうか?
「まさか!」
ルルーシュの問にスザクは首をぶんぶん横に振ってみせた。
「僕がキスしたり抱き締めたりしたいと思うのは、ルルーシュ、君だけだよ。軍人だからって男だなんてとんでもない。女性の軍人だっているし、多分ウチの上司はそういう非生産的な事は好まないと思うよ」
「非生産的ね……確かにな」
ルルーシュは苦笑した。同性を好きになった事を悔やむ訳じゃない。生命を産み出す為の愛は生あるものの本能だ。非生産的な愛にこそ真実がある、とまでは云わないが、同性愛は否定されるべきものではない。
「スザク……好きだ」
スザクの頭を抱き込んで、ルルーシュは小声でそう囁いた。認めるのは悔しいが、それが真実だった。好きなのはスザクだ。他の誰でもない。幼い頃から、スザクだけは特別だった。いきなり殴られた野蛮な出会いさえも、今はいとおしい思い出。
「うん。僕も好きだよ、ルルーシュ。君だけは特別なんだ」
7年前の戯れの口付けはスザクが仕掛けた稚拙な罠。ブリタニアの親愛の挨拶がキスだと云うなら、ルルーシュはスザクにキスしてもいいはずだ、と誘ったのだ。そこで頬にキスしようとしたルルーシュの顔を引き寄せ、唇を重ねた。悪ふざけの筈のキスが、想像よりずっと心地好くて、それからふたりは何度も口付けを交したのだった。結果、それがファーストキスになったのだが。
ルルーシュにはユフィという異母兄妹の初恋があったが、スザクにはルルーシュが初恋だった。ルルーシュにはセカンドラブだが、その恋心は今も変わらない。スザクが好きだ。その腕の抱擁はとても安心するし、彼を腕に抱く事は幸せだ――今こうして素肌で触れ合うことも。
暫くされるがままルルーシュの腕に身を任せていたスザクだったが、次第に前のめりの姿勢になった。
「……スザク?」
訝しげにルルーシュは問掛ける。腹でも痛いのだろうかと思ったからだった。
「ごめん、ルルーシュ。見ないフリして」
俯いたままでそういうスザクは耳まで赤い。……となれば問正したいのが
人の常と云うものだ。
「馬鹿だな。顔真っ赤だ。どうかしたのか?」
「見ないフリしてってば」
動揺を禁じえない調子でスザクが云う。これだけ狼狽えるとなると……?
「まさかお前……」
「ちょっ……ルルーシュ! 駄目だってば……あ……っ」
腰の辺りから右手を滑り込ませるルルーシュに、スザクは身動いで拒む。しかし抵抗は逆効果で……。
指先に触れてしまったモノ。それは硬く屹立した――。
「――スザクッ!!」
思わずスザクを抱き締めていた腕を離して、今度はルルーシュが赤面する方だった。
「生理現象だよ。仕方ないじゃないか」
「開き直るな! 何が生理現象だ!!」
「ルルーシュに好きだなんて云われて平静を保てたらその方がおかしい。不感だよ、その人」
真顔でスザクはそんな科白を云って退ける。それではルルーシュが誘惑でもし
てるみたいではないか。
「誘惑だよ。君の、その眼差しも、抱き締めたら折れそうな華奢な体つきも、全部誘ってる」
「お前……俺をどういう目で見てたんだ!?」
真剣な眼差しでそんな事を云い出すスザクの視線が気恥ずかしくて、ルルーシュは思わず問正した。誘ってる、だと?
「なら君はどういう目で僕の事を見てたの? 僕が鈍いから知らないとでも思ってた?」
「止めろ止めるんだ、スザク……ッ!」
「君の方こそ、こんなになってる」
スザクの手がルルーシュの下肢に忍び込んだ。そこはもうスザクのそれと変わらない熱を孕んでいた。
「さっきははぐらかされたから、もう一度云うよ。君を抱きたいって云ったら、君は怒る?」
「……怒るぐらいなら、風呂になんか誘わない。察しろよ、それぐらい!!」
スザクがルルーシュをそういう目で見ていると云うなら、こんな浴室なんかで無防備な様など晒せない。ならばこういった状況になるのを期待していたというのか、自分は!? 顔が熱いのは、大浴場という場所柄に昇る熱気のせいではない。
ルルーシュはスザクの首に腕をまわして肩口に顔を埋めた。そして聞き取りにくい低い声で呟いた。
「こんな事許すのなんかお前だけだぞ、スザク。光栄に思うんだな」
「……いいの? 僕よく判らないから、きっとルルーシュ辛いよ?」
「それでもいい。今よりもっと、お前に近付ける」
腰のタオルの、布切れ一枚さえ、今のふたりには邪魔だ。もっともっと傍で君を感じたい。スザクを抱き締める腕を解いて、ルルーシュは徐にスザクのタオルをはぎとった。硬く屹立したそれを前に息を飲む。暫しの峻巡の後、スザクの下肢に顔を埋めた。
「ちょっ……ルルーシュ!? 駄目だよそんな……んッ……」
「……ふっ……こんなにして、お前こそ何考えてた……?」
スザクのそれは口を大きく開かないと咥えられない程に屹立していた。身動ぐスザクはしかし本気で抵抗はしない。最初こそルルーシュの頭を引き剥がそうと拒んだが、その力が抜けて逆に抱え込む形になる。口腔の奥まで侵略するそれを、ルルーシュは丹念に舐めあげた。咥え込んでいた唇を離すと、それは唾液と先走りに濡れてぬらぬらと艶めきヒクついていた。快楽に耽り、さらなる快感を求めて焦れる様な――。
「ルルーシュ……ッ?」
こんなに煽り立てられて解放するなんて、半ば拷問に近い。今この欲望を放つ手段なんて……?
「待ってよルルーシュ。君今何考えてた? 僕にはそんな……」
「何だ、判ってるなら話は早いな。続きは俺の部屋だ。いずれにせよ、俺のベッドで一緒に眠るんだからな」
「ソファで寝るよ」
「客をソファなんかで寝かせられるか? 俺はお前なら一緒でも寝られる」
滲んだ汗をシャワーで流しながらルルーシュは事も無げに云う。『一緒に寝る』の意味が、7年前とは違うと判っていないのか!?
「なんて顔してるんだ、スザク。『7年前とは違う』と云いたいのなら、子供じゃないんだ。それぐらい判ってる。『眠る』のではなく『寝る』のだとな」
「ルルーシュ……ッ! その余裕、滅茶苦茶にしてあげるよ。僕の本気を見せてやる。泣かせてやるんだから!」
「ふ……ん……それは楽しみだ。さあ部屋へ行こう」
汗と先走りに濡れた部位をシャワーで流して、ルルーシュは云った。



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