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まるで映画「レナードの朝」のような劇的な話だが、
これは2017年5月26日、
米カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の研究者らによって
米国神経学会のオンライン学術誌
「Annals of Clinical and Translational Neurology」
に発表された研究結果。
れっきとした事実なのだという。
カリフォルニア大学の公式ウェブサイトに掲載された発表によると、
研究にあたったのは同大医学部の
ロバート・K・ナビオー教授をはじめとするチームだ。
ナビオー教授らは以前に神経障害を持ったマウスを対象とした実験で、
「スラミン」という薬を投与したところ、
自閉症に似た症状を持っていたマウスの行動が改善されたことを確認していた。
スラミンは1916年にドイツで開発された薬で、
本来はアフリカ睡眠病や河川盲目症(オンコセルカ症)という、
アフリカで見られる寄生虫が原因で発症する
病気の治療に用いられている。
このスラミンを人の自閉症患者に投与すると安全に
症状を改善することができるのではないか、
またスラミンを投与することで
自閉症のメカニズムが解明できるのではないか
と考えたナビオー教授らは、
5~14歳の自閉症患者の男子10人を対象に、
比較試験を実施したという。
まず、10人を年齢や重症度、IQによって5組に分類し、
各組の一方にはスラミン20ミリグラム/キログラムを、
もう一方には同量の生理用食塩水を、
いずも1回だけ静脈注射で投与した。
その後6週間に渡って自閉症診断チェックシートや観察試験、
行動調査、臨床評価、インタビュー、
絵を見せて会話や単語を発してもらう
「ボキャブラリーテスト」
などを実施し自閉症の改善状況を分析している。
その結果、
スラミンを投与された子どものみコミュニケーション能力や発言、
行動内容に改善が見られ、
自閉症患者には難しいとされる同じ作業を繰り返すことも落ち着いてこなし、
見知らぬ大人とも冷静に会話するといった様子が確認されたという。
12歳のころからほとんど何も話さず、
家族にも一切興味を示さなかった14歳の患者は、
スラミンの注射からわずか1時間で室内にいた医師や看護師に興味を示し、
16歳の兄と一緒に遊んだり父親と仲良く会話する状態にまでになった。
この父親はカリフォルニア大学に対し
「10年以上さまざまな治療法を試してきたが、
スラミンの投与ほど劇的な変化が起きたことはなかった。
わずか6週間で数年分の変化が起きたような気分だ」
とコメントしているほどだ。
他の治療法や治療プログラムとの相乗効果も高く、
学校に行き自閉症ではない子どもたちと
普通に遊ぶことができた子供もいたという。
ナビオー教授らの分析によると、
スラミンは細胞の異常な反応を引き起こしている物質が機能しないよう作用しており、
これによって正常な神経伝達ができる状態になっていることが確認された。
ただし、この細胞の異常反応だけが自閉症の原因ではなく、
遺伝や環境要因などが複雑に影響していると考えられるため、
ナビオー教授も
「スラミンが唯一絶対的な治療薬ではない」
と断言している。
またスラミンの効果は一時的で、
投与から数週間で改善効果は完全に消えてしまったという。
その他にも、
スラミンは長期間大量に投与し続けると吐き気や腹痛、
低血圧、腎臓障害などの重い副作用が起きることが確認されており、
自閉症の治療のために長期間複数回投与することが
安全なのかは大規模な追跡調査を実施しなければわからない状態だ。
そもそも米国食品医薬品局は
米国内でスラミンを治療に用いることを承認しておらず、
購入もできない。今回発表された論文でも、
重要な注意事項として
「スラミンには予測できない毒性や副作用があり、
研究以外で使用することは禁忌である」
と明記されている。
ナビオー教授らは現在スラミンのさらなる有効性検証を進めるとともに、
スラミン以外の薬で同様の効果を発揮するものがないかも探索し、
新薬開発に向けて研究を進めているという。
【J.Cast https://www.j-cast.com/healthcare/2017/06/15300525.html?p=all 】
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