時々鬱々日記

時々鬱々日記

チチエセ(1) エヘヘ、ウフフ


>>                            >>  
>>   その「豆腐屋のご隠居」は本当にテレビが好きだった。
>>   年の頃は70歳くらいの男のひとで、豆腐つくりで働きすぎたのか
>>  腰が曲がり、車いすで私の向かい側のベットに入院してきた。
>>   「やっこらしょ」とベットにのぼり,横向きに座るなり病院にそなえつ
>>  けのテレビリモコンを手にして、パチンとテレビをつけた。
>>   そしてテレビがつくと、大変満足そうに写った画像をじっと眺めて
>>  いた。
>>   しばらくすると、リモコンをあちこち押し始めたが、画が出てこない
>>  のでイライラし始めた。
>>   どうやら8チャンネルがお好みのようだった。
>>   私はその様子を見ていて気の毒になり、私用のリモコンを貸して
>>  あげると、きれいな画像が写って来た。
>>   本人は大変満足そうに,横に寝そべった。
>>   寝そべった状態でも、顔はテレビに釘付けで「エヘへ,ウフフ」と
>>  声を出しながらまるで子供のように無邪気に喜んで見ていた。
>>   先日私は,不本意にも,大神戸三菱0b
>>  ゴルフ会でブッチギリの優勝をしてしまった。
>>   優勝すると,翌月の準備が必要で,それには専用のアタッシュケース
>>  を持ち回りしなければならなかった。
>>   実はこのアタッシュケースが曲者だった。重さが3,4キロもある
>>  ヘビー級の代物である。前任者との引継ぎのあと、このアッタシュケ
>>  ースを雨も降るのに不覚にも3時間ほどあちこち持ち歩いてしまった
>>  のである。
>>   案の定,後で肩と首筋パンパンに張ってパニックを起こし、おまけに
>>  高血圧を起こし動きがとれず,寝込んでしまった。
>>   なんとか歩けるようになったので,やっとのことで三菱病院内科病棟
>>  の4人部屋に転げ込んだのである。
>>   そこには,中年の糖尿病患者と眼を患った人との3人が一緒だったが
>>  翌日一つ開いたベットにこの「豆腐屋のご隠居」がポリープの手術で
>>  入院してきた。
>>   朝起きると,すぐにテレビをつけチャンネル選択をしてから洗顔や便所
>>  などの用事をすます。それが終わると朝食画来るまで,ベットに横向き
>>  に座りチャンネル片手に「エヘへ,ウフフ」と声を出して笑いながら画面
>>  をみている。
>>   私からは彼の顔が丁度横向きにみえることになるが、その様子を見
>>  ていると,高血圧でボーとした頭だがこちらまでなんとなく楽しくなって
>>  くる。
>>   ポリープの手術は簡単に終わったようで,2時間ほどして車椅子で
>>  戻ってきた。
>>   戻ったとたん,横に寝ころび、早速リモコンでテレビのスイッチオンだっ
た。
>>   横で見ていると,豆腐屋産だけあってどうやら,マーボ豆腐や肉団子など
>>  の料理番組がお好みのようであった。
>>   そのときの顔は正に「えびす顔」だ。
>>   これだけ幸せそうにテレビを見ている姿を見ていると私は又もや嬉しく
>>  なった。
>>   あるとき「そんなにテレビを見ると眼が疲れませんか」と聞くと「いや
なに
>>  画をじっと見るのではなく,ほとんど見流しですよ」といっていた。
>>   彼にとってはテレビはバックミュージックみたいなものであったのだ。
>>   三日目に主治医がこられ、「そろそろ退院するか」と元気よく声をかけ
>>  られた。
>>   ご隠居さんは,嬉しそうな顔はせず,ぐずぐずしながら「家にいてもなに

>>  することがないのであと2,3日居らせてください」といっていたが,結局
>>  翌日の昼からしびしぶ退院していった。
>>   やさしそうな奥さんがきて荷物をまとめはじめたがその間中ご隠居さん
>>  はまたテレビを見ながら「エヘへ,ウフフ」と声を出して笑っていた。
>>   すべての退院段取りが終わり、いよいよ車椅子へ移動し終わりやっと
>>  テレビのスイッチがきられた。
>>   そしてあまったテレビのカードを私にプレゼントしてくれた。
>>   これでまた淋しくなってしまった。
>>   これほどテレビに親しみ愛着をもっていたご隠居さんは,家に帰ってか
>>  らもテレビを友達にして「エヘへ,ウフフ」と笑って人生をエンジョイして
いく
>>  にちがいない。
>>   しかし、後で考えてみると彼は「テレビを流し見をし、エヘへ,ウフフ」

>>  笑うことで病の苦痛と不安をから逃避する方法を見出していたのかもし
>>  れない。
>>   もう,「エヘへ,ウフフ」の笑い声を聞くことが出来ないが、豆腐屋のご

>>  居から一時の安らぎを与えてもらったことに本当に感謝している。
>>            平成15年5月31日作成



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