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第27回つくばマラソン
第27回つくばマラソン
2007年11月25日(日)
『悲願の本州遠征』
右隣にはトン子さんがいてくれる。ついさっきまで一緒にいたNO.71さんはどこへ行ってしまったのだろう。後方からichanさんが近づいてきて俺とトン子さんを撮影してくれる。ichanさん、どうもありがとうございます。鮮やかなウェアに身を包んだNAOJIさんの姿も見えている。俺には一生無縁だとばかり思っていた悲願の本州遠征が現実のものとなった。これは地道に真面目?に転職もせず、20年間勤続してきた自分自身に対する褒美なのだ。家族に宣言した3時間20分切りをなんとしても、石に噛り付いてでも成し遂げてやる。俺はやれる。俺はできる。俺はやってやる。
号砲一発。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
昭和62年4月、横浜の某私立大学を卒業した私は自身の希望と両親の勧めもあって札幌本社の会社にUターン就職をしました。配属部署は2度替わりましたが幸いというのか20年間ずっと札幌勤務です。とてもヒマな部署で8年を過ごすとあたかもそのツケが回ってきたかのように多忙を極める部署に異動になったのは12年前。その後心の病に罹った時期もありましたが、マラソンと出逢ったことで今では健全な日々を送れています。まさに「人間万事塞翁が馬」
その勤務先には入社5年・10年・20年・30年と勤続表彰があります。5年は商品券(だったはず)。10年は金一封。以降はそれに加えて特別休暇が与えられます。今年が対象者の私は金○○万円と特別休暇3日間。私は考えました。
「大して物欲のない俺なのでこの金一封を物体に変える手はない。人事部へ確認すると特別休暇も細切れでの取得は不可で連続取得が必須だそう。これは悲願の本州遠征だ。海を渡って本州の大会に参加しよう。この絶好の機会を逃したらいつまたチャンスが廻ってくるか知れたものじゃない」
私は考えました。候補に挙がったのは 『つくばマラソン』 『青梅マラソン』 『荒川市民マラソン』 『長野マラソン』 の4大会。実際に検討します。
「うっかりしてエントリーを忘れてしまった東京マラソンはもう仕方がない。なのでこの4大会中で検討しよう。まずはつくばマラソン。11月25日(日)の開催か。おっ!その前の金曜日は祝日だぞ。初めての本州遠征での上京がフルマラソン前日はちょっとシンドいかも。まずは筆頭候補だな。青梅マラソンと荒川市民マラソンだがこれらはいわゆる年度末に開催される大会。魅力はあるけど3日間の特別休暇消化は少々厳しいかも。そして長野マラソン。確か人気NO.1のこの大会に食指が動くのだけど、潤沢とは決して言えない遠征資金だけに本州入りしてからの移動費用がネックだな。」
数秒間沈思黙考の末に私は決めました。それがこの『つくばマラソン』です。年度末無関係で休暇も取りやすい&暑からず寒からず絶好の開催時季&北海道マラソンと秋の大会で蓄えた走力の残りで好走が期待できる。これらの理由によるものです。
『上京』
初めての本州遠征は11月23日(祝)自宅至近の空港連絡バスターミナルからスタートしました。55分間のドライブの末、新千歳空港へ到着。偶然この前日から販売を再開した北海道名物『白い恋人』は全くの売り切れ状態です。
その理由で大会翌日に私をもてなしてくれる走友へのお土産をチョコレートにしました。
羽田空港から私鉄とJRを乗り継ぎ、都内某所の妹夫婦宅でまずは荷を解きます。今年の夏1週間という短期間札幌に帰省した妹と甥っ子ですが、都合が悪く逢うことができなかったので今年の正月以来の再会です。到着したのは午後8時前。まずは再会を祝して乾杯。それから飲むわ飲むわ。祝日にもかかわらず半ば仕事で外出していた義弟が帰宅してからも乾杯の連続。おかげでいったいどうやって布団inしたもんだか。これでウルトラは3日、フルは2日、それ以下の距離は前日を休肝日にする自分なりのルールを違えてしまいました。
翌日は2人いる甥っ子の弟に近所を案内してもらうなどして極力リラックスを心掛けました。午後4時過ぎに妹夫婦宅を出発し、今宵の宿である
ホテルニューグリーン御徒町
に荷を解きました。
ここは去年の9月に転倒して大腿部を骨折した祖母を見舞いに
家族全員で上京した際
にも利用したホテルなのですぐに見つかりました。昼食をうどん大盛りで済ませていた私ですが、腹ペコの私はさっそく吉野家へ出向き牛丼の特盛りをペロリ。更にはその至近の小町うどんできつねうどんをペロリ。そして夜食と明日の朝食用としてコンビニの(AMPM)でおにぎり6個に塩風味の焼きそばにバウムクーヘン2個にバナナ2本に2リットルと500mlのミネラルウォーター各1本を買い込んでホテルへ戻ります。
これで仮に明日のレースが失速して終わったとしても「ガス欠」だけは理由にできなくなりました(笑) そしてうまい具合に休肝日の大会前日も午後11時前にはスンナリ眠りに付くことができたのです。
大会当日は午前5時に起床。モーニングコールと携帯電話の目覚まし機能でスッキリした目覚め。苦手なホテルでの一泊でしたが乾燥した空気で喉をやられることもなし。まずは順調です。シャワーを浴びて完全に目を覚まし朝食です。前述のおにぎりのうち4個に焼きそばにミネラルウォーターを次々と胃の臓へ。食欲も平生と変わらず。身支度を済ませて6時30分に出発します。今日は午前7時発のつくばエクスプレスに乗車して途中の駅で女性走友のNO.71さんと待ち合わせし、会場入りすることになっています。ホテルから10分ほど歩くと秋葉原駅。新しく開通した鉄道らしく深~い位置まで掘って作られたホームへ下るエスカレーターはランナーと思しき人達でごった返しています。
定刻の7時、静かにつくばエクスプレスは出発。自他共に認める「鉄ちゃん」の私は外の風景に目をやりっ放しです。途中の某駅で乗車車両を事前に打ち合わせ済みのNO.71さんと合流する予定でしたが、ちょっとしたアクシデントがあってそれは叶わず(笑)、バスに乗り換える駅でようやく再会。これはあの暑かった9月9日の2007北海道マラソン慰労会以来のこと。相変わらずステキな笑顔です。
長い行列に並んでようやくバスに乗車。しかしかなりの台数のバスが用意されており、ある程度の人数が乗車するとすぐに出発します。どれぐらいでしょう、10分と少々でしょうか、バスに揺られてつくばマラソン会場に到着しました。
とにかくすごい数の参加者。ゼッケン受渡箇所も複数どころの騒ぎじゃありません。その雰囲気に飲まれ完全に舞い上がってしまっている私は自分の受渡場所を探し当てられないのだもの。どうにかこうにかゼッケンを手にして北海道から参加している走友を探します。するといました。NAOJIさんとichanさんです。更にその奥にははやと丸さんの姿が。仲間の顔を見つけて私は平常心を幾分取り戻すことができました。そしてもう一人大切な仲間のトン子さんを探します。しかしなにせ物凄い人の数。全く見つけることができません。延々と携帯電話でトン子さんのいる場所を教えてもらい、ようやく合流。大きなブルーシートに荷を解かせてもらいました。
9時30分スタートのフルの部。時は既に8時半を回っています。エネルギーゼリーを所望し着替えていると時ならぬ便意発生。仕方がなくたくさん用意された簡易トイレの一つにに並びます。しかしその行列は遅々として進まず、思う存分用足し(笑)ができたのは並び始めて20分後。スタートまで15分しか残されていませんでした。出走前のアップを兼ねて脱兎の如く荷物のある場所に戻り、トン子さん&NO.71さんの美人熟女ランナーにけしかけられながらワセリンを脇の下と内股へ入念に塗り込みます。今回で15度目のフルマラソン参加ですがこれほど忙しないスタート前は初めてでした。そして小走りにスタート地点へ。スタートとゴールが違うことをこのとき初めて私は知りました。走ることに対しては万全の準備を心掛ける私ですが、コースに関する予備知識はいつも空っぽで出走するのです。
今日の必達目標は3時間19分59秒以内でのゴール。
『4分35秒~40秒/kmを維持して30kmを2時間16分~18分程度で通過。残り12kmが5分/kmまで落ちたとしても3時間18分。見逃しがちだがいつも最後にしっかりその存在感をアピールする0.195kmに2分弱を要しても目標クリア』
というもの。
右隣にはトン子さんがいてくれる。ついさっきまで一緒にいたNO.71さんはどこへ行ってしまったのだろう。後方からichanさんが近づいてきて俺とトン子さんを撮影してくれる。ichanさん、どうもありがとうございます。鮮やかなウェアに身を包んだNAOJIさんの姿も見えている。俺には一生無縁だとばかり思っていた悲願の本州遠征が現実のものとなった。これは地道に真面目?に転職もせず、20年間勤続してきた自分自身に対する褒美なのだ。走友会のイベントで大勢を前に宣言した3時間20分切りをなんとしても、石に噛り付いてでも成し遂げてやる。俺はやれる。俺はできる。俺はやってやる。
号砲一発。
『リラックスリラックス』
足踏み状態を経てロスタイムは27秒。左回りのコース走路。バス停留所らしき場所のところどころに軽い段差があり注意が必要です。私の近くでドサッと音がして誰かが転倒したようです。瞬時に(まさかトン子さんじゃないよな?)と気になり、左右と後方に目をやると当のご本人は手を振りつつ「大丈夫だよ~」 良かった。ホッとした。数千人が参加する大会の割りに走路はスムーズに流れておりストレスは皆無。マイペースを思い出すまでさほどの労苦を覚えずに済んだのは幸甚でした。
10kmのスタート地点を通過して吹奏楽に見送られ、巨大な「つどーむ」のようにグル~ッと左回りの走路を1周。途中1ヶ所あった軽い上りをクリアしてスタート地点をわずかに過ぎたところが最初のチェックポイント。
5km地点通過:23分34秒。(4分44秒/km) ロスタイムが27秒あったことを考えると予定通りですね。
見覚えのある地点を右折し、その先を左折するといよいよ公道へ。土浦つくば線学園東大通りなる名称だそう。片側3車線の左側2つを完全に大会用に規制してくれており走りやすいことこの上なし。歩道側にはビッシリとは言わずとも要所要所で声援を贈ってくれる人がいて感激。少々ペースアップを図ります。
10km地点通過:46分23秒。この5kmのラップ:22分49秒。(4分34秒/km) よしよし、いいペースだぞ。
ここであれっ!と思ったことが一つ。GTMailSのあるフルマラソン大会ならばまず間違いなく10kmポイントごとにマットが敷かれていてタイムを計測するのにこの大会はないのです。参加者人数が多いことによるものなのかそのマットがないのです。おどろきでした。
内心(今日のこの大会のメール配信先に設定させてもらっている人たちはさぞかしやきもきしていることだろうに・・・。ゴールまで一切マットがないとは考えづらいからこれは一刻も早くそれが敷かれているところまで辿り着いて安心してもらわなければ)
ここで高名な走友会のメンバー二人を捉えます。「ほら、あそこに会長がいるぞ。抜いちゃえよ。」 「イヤ~俺は新参者だからそうは行かないさ」 「遠慮しないで行っちゃえよ」 「イヤ、やばいよ」 てなムダ話をしているこの二人とその会長をその直後に捲らせていただきます(笑) でもこの会長は結構な高齢と思しき風情。頑張っているなぁ。
右前方に筑波山らしき名山を望みながら左折。いつも悩まされる尿意が今日はおとなしくしてくれています。ラッキー。対向車線側に30kmポイントが見えてきました。ここにはタイム計測用のマットが敷かれています。(そうか、そうだったのか。30kmにはマットが敷かれているのか。10kmポイントにはなくて30kmにはある。ではきっと20kmかハーフポイントには待望久しいマットが敷かれているのだろう)
左側に大きな貯水池らしき場所を見つつ次のポイントへ。
15km地点通過:1時間09分19秒。この5kmのラップ:22分56秒。(4分36秒/km) 精密機械のように想定ラップを刻んでいますね(笑)
大きな交差点を左折。ここには高校生と思しきスタッフが大勢いて大声で声援を飛ばしてくれています。それまでは無味乾燥な巨大学園都市の敷地内を常に左に見ながらのコースでしたがここでついに『大いなる田舎 茨城県つくば』が本領を発揮し始めます。北海道から参じた人間が言うのもなんですが、とにかく行けども行けども田園風景。それもすっかり刈取りが終わった状態。気が滅入りそうになる頃合でもあるのですが、そこは心温かい田舎の父さん母さん達がところどころにいて声援を贈ってくれます。
そんな時、私の目を釘付けにしたのは一軒のコンビニエンスストア。北海道に本社のある『セイコーマート』です。オレンジ色のその店舗と看板は本州の人に馴染みがないのでしょうが、我々道産子には馴染みも馴染み。大馴染み。何かこう救われたような心境になりペースアップに成功しました。その至近にはラーメン店があり芳香が漂ってきます。(ヤバイ!もう腹が減ってきたぞ。これは適宜エイドでバナナを手にするべきだな)
先頭集団が迫ってきました。いやもう速いのなんの。『疾風の如き』の比喩が最適としか言いようがありません。しばらく行くと女性の先頭ランナーが。小柄なその人は2年連続(だったかな?)サロマ湖100kmウルトラマラソンを制覇している翔ひろ子さん、その人でした。速い速い。
20km地点通過:1時間32分30秒。この5kmのラップ:23分11秒。(4分38秒/km) 先頭ランナーに目を奪われてペースアップできていませんね(汗) そしてここにもGTMailSのマットは敷かれていませんでした。
この辺りだったかで沿道に置かれた物に私は泣きそうになります。一つは( You Can Do It )と書かれた手作りのフリップ。私は胸中( Yes! I Can Do It! )と叫びます。そしてもう一つはカセットテープから流れてくる音楽。それは名曲『負けないで』 洞爺湖マラソン~北海道マラソンに次いで今シーズン3度目の落涙危機でした。
ハーフ地点通過:1時間37分18秒。そこそこマジ走りをした
札幌マラソン
のタイムと大差ありません。体調万全で助かった。
先行するランナーが来るわ来るわ。しかし北海道&札幌の大会と異なり知っている顔を見つける可能性は著しく低いので真っ直ぐに前を向いて疾走します。15km地点先の左折ポイントを過ぎて30分強。距離にして約7km。(いつまで走らせるのだ。どこまで行ったら折り返しをさせてくれるのか)と訝しがり始めた頃ようやくそのポイントが見えてきました。さぁ後半だ。
『快調だったのは30kmまで』
いよいよ後半戦。後続ランナーが延々と帯を作っています。折り返し前よりも遥かに多いその人数に目が回りそう。しかし不安な心境でつくばエクスプレスに乗った私と最寄り駅で待ち合わせてくれたNO.71さん。スタート直前の緊張を解してくれたトン子さんとichanさん。そして私をネットランナーの世界へといざなってくれたカリスマランナーNAOJIさんの姿をなんとしても確認しなければ!
結局鮮やかなFRUNのウェアに身を包んだichanさんとNAOJIさん、大勢の男性陣に取り囲まれながら懸命の走りを続けるトン子さんとはエール交換が出来ましたがNO.71さんの姿を確認することはできませんでした。(結果3時間31分台の好タイム)
25km地点通過:1時間55分40秒。この5kmのラップ:23分10秒。(4分38秒/km) 対向車線に目をやりながらのわりには好ラップか。
空腹を覚え始めた私の目はエイドステーションを鋭く捉えます。そこにはバナナが。空腹を抑える即効性のあるバナナをわしづかみにして貪ります。何本を胃袋に収めたことでしょう。記憶違いでなければ半分にカットされたそれを3~4本。よしっ!これでもう大丈夫だ。
高校生と思しきスタッフが大勢いる交差点を今度は右折。息も絶え絶えになりながら走って(歩いて?)いる終末者がいます。(最後まで勝負を捨てないで。自分から白旗を挙げないで)と祈ります。
30km地点通過:2時間18分52秒。この5kmのラップ:23分12秒。(4分38秒/km) 予定通りの通過タイムに意気軒昂の鼻高々。
『地獄以外の何物でもなし』
((今大会初めて通過するタイム計測用のマット。嗚呼良かった。これで女房に通過タイムが配信されることだろう。これで安心してくれることだろう。スタート前に想定した30km通過タイム『2時間16分~18分』を見事に実現できているぞ。2時間20分を下回っているのだからここまでの平均ラップは4分40秒以下だろう。このあとの12kmが5分/kmまで落ち込んでも計算上は3時間19秒弱。何だ、それでよいのか。イケるぞ。ヤレるぞ。念願の公認コース3時間20分切りは濃厚だぞ。))
こんな甘い考えを露ほどでも抱いた男を待ち受けることとは『30kmの壁』ですね。 土浦つくば線学園東大通りの復路に入った瞬間、軽い向かい風と意欲の衰えを感じ始めるのです。往路では全く気にならなかった排気ガスが。時は正午。上空から降り注ぐ太陽光も気になり始めるのです。と同時に太腿前面の疲労感をも覚え始めます。行けども行けども変わらない『左には車、右には巨大な学園都市』 この光景にヤラれてしまい苦しさの余りチェックポイント以外では初めて時計に目を落とします。
((おや!もう24分以上が経過しているじゃないか? 今まで5kmのラップは23分前半を正確に刻んできたのだからヘンだぞ。ははぁ~わかった。きっと35kmポイントを見逃したんだな。そうじゃなければおかしいもの。そんなに激しくラップが落ち込んだとは思えないし。なのでラップを取ってしまえ。エイッ!))
しかしその100mちょっと先に設置されているものとは『35km』の表示です。私はこの距離表示に不信感を抱きつつラップを計ります。内心(ウソだろ~)と思いつつ。
35km地点通過:2時間44分02秒。この5kmのラップ:25分10秒。(5分02秒/km) 直近5kmから約2分の激しい落ち込み。目標タイムクリアまで残り:35分57秒。
エイドがありますがバナナを手にする体力すら残っていません。スポーツドリンクを喉に流し込み、真水を頭から被って遠のきそうになる意識を呼び戻し、脚にもかけて痙攣防止を図ります。その先にはなにやら跨線橋らしきものが見え始め、その上を先行するランナーが走っているではありませんか!パンフレットのコースマップをいつもロクに見ない悪癖がここで露わになるわけですね。グルッと右回りの上り坂は距離にしてせいぜい100m程度。勾配もごくわずか。しかし今の私の目にはそれが峻険な氷河のように映っています。喘ぎながら、そして心酔するK先生直伝走法でそこをどうにかクリア。軽い下りで息を整えます。
その先は『残り5km』から先のカウントダウン表示が見えるたび覚束ない頭で目標達成への残りタイムを計算したものです。35km地点通過時点で残りを5分程度で行ければ悲願成就と知っていた私ですが、地獄のような『30kmの壁』にすっかりヤラれていたのでそのラップを刻み続けるのが困難になっていたのです。苦しかったなぁ。
自問自答を繰り返す自分がいます。
「ここまで粘ったのだからもういいじゃないか。お前は良く頑張ったよ」 「そうか。そうだよな。。じゃ、潔く今日の目標を3時間25分以内に下方修正しようか」 「ダメだったら! 目標達成のチャンスがあるならば最後まで諦めちゃダメだってば!」 「でもつらくって苦しいんだよ。今回の目標は来年の洞爺湖マラソンで達成すればいいじゃないか」 「前半起伏が多く、後半は温泉街がなかなか近づかないジレンマでペースダウンしてしまうあの大会でお前は最後まで粘る自信があるのか? 今年のように後半のペースダウンでギリギリ目標クリアならず、の憂き目に遭うのがオチじゃないのか? いいのか?それで、お前は」 「イヤだ。俺はこの大会で3時間20分を切るためにわざわざ札幌から来たのじゃないか。このままじゃオメオメ帰れないぞ!」 「じゃぁ、頑張れ!頑張り抜け!」 「ヨッシャッ!」
私は粘ります。残り5kmだったかから表示され始めた看板と睨めっこ。意識は朦朧。両腕は鉛のように重たい。腹筋も限界近く。太腿前面は痙攣寸前。太腿裏側は半ば痙攣。ふくらはぎはほぼ痙攣。足底は激痛。そんな状態にまで至っても意欲は増すばかり。何故なら生半可な気持ちでこの大会に参加したのではないのだから。『残り○km』の表示を確認するたび今のタイムと目標タイムを計算すると苦しいながらも5分/kmを2~3秒上回っても目標をクリアできると知ります。1kmごとのラップは5分/kmをわずかに下回っていたので「これはイケる!」 だがしかし肉体的限界は間近。そして精神的粘りも風前の灯。
スタート直後に(>途中1ヶ所あった軽い上り)と感じた上りも今では地獄そのもの。ついに(フッフッ、ハッハッ)の呼吸もが(ブッブッ、ハッハッ~ グッフッ、ハッハッ)へと変化が。
40km地点通過:3時間08分50秒。この5kmのラップ:24分48秒。(4分58秒/km) 限界間近。目標タイムクリアまで残り:11分09秒。ギリギリか。
今日3度目のスタート地点通過。通過回数を重ねるごとに顔が苦悶で歪んでいく実感が。首筋と両腕と呼吸と腰と両太腿と両ふくらはぎとの疲労が限界に至っている。見知らぬ男性が俺のチーム名を大声で叫んでいる。声を返す余裕のない俺は軽く頷き手を挙げるのみ。しかし胸中は(ありがとう)と叫んでいるんだ。イチョウと思しき木々もが俺の力走を称えてくれている。苦しい、苦しい、苦しい、苦しい。こんなスポーツ2度とするものか。軽い左カーブ。見えてきた。ようやくゴールの競技場が見えてきた。走路の両サイドでは俺達の力走を称えてくれる応援が鈴なりだ。頑張って良かった。本当に頑張って良かった。やはり俺はこのスポーツと縁を切れそうにない。このスポーツのおかげで心の病という地獄と絶縁できたのだから。
競技場に入ったところで時計をチラリ。そこには『3時間18分02秒』と記されている。残りは400mトラックを4分の3。九分九厘目標クリアは可能だろう。しかし俺は最後まで全力を果たすのだ。余力を残すなんてことはご法度だ。 夢遊病者のようになってフラつく女性走者がいる。さぞ無念だろう。こんなになってもゴールを目指しているのか。それに比べりゃ今の俺の苦しみなんてちっぽけなものだ。俺は最後まで頑張る。頑張り抜くんだ。
ラストの直線。フィニッシュゲートが見えてきました。
血の一滴まで使い果たした初めての本州遠征終焉の瞬間です。私はバンザイをしつつ時計を止めてこう叫びました。
よっしゃ~~~っ!!!
公認コースで初の3時間20分切り達成。死力と全力とを使い果たした男の結果です。
~5km:23分34秒。
5km~10km:46分23秒 (22分49秒)
10km~15km:1時間09分19秒 (22分56秒)
15km~20km:1時間32分30秒 (23分11秒)
20km~25km:1時間55分40秒 (23分10秒)
25km~30km:2時間18分52秒 (23分12秒)
30km~35km:2時間44分02秒 (25分10秒)
35km~40km:3時間08分50秒 (24分48秒)
40km~フィニッシュ:3時間19分36秒 (10分46秒)
~ハーフ:1時間37分18秒
ハーフ~フィニッシュ:1時間42分18秒
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