ハルジオン


ハルジオン

(私・・・ここで死ぬかもしれない・・・) 

闇が、すべてを覆い尽くしている。
前も後ろも、今ここが何処なのかもよく判らない。
ただ判るのは、私は今大きな木の幹にもたれて、死にかけてるってことぐらい。

(・・・そっか、任務・・・ちゃんとできなかったんだ・・・)
やっとのことで、それだけ思い出して、私は荒い息をつきながらうずくまった。
(思えば・・・なんてない生き方してたな、私って。)

里で育って、忍の修行をして・・・一人前になって・・・それなりに、任務もこなしてきて・・・
他の人たちと、何ら変わらない・・・・下っ端の、忍者。
忍として、優れているわけでもない。皆も認めるようなすごい功績を残したこともない。
至って、並に育ってきた。

(たしか、死ぬ間際って、走馬灯みたいになるんだよね・・・?)
昔の思い出を、思い出す、走馬灯。それすらも・・・
(全然、思い出せないな・・・・いいことなんて、何もなかったから・・・)
突然、涙が出てきた。
それは、死ぬかもしれないから悲しいのではなくて。
今まで、生きてきて・・・・自分が、なんの変哲もない雑草に思えて・・・別に、私なんかが死んだって、誰も悲しまないんじゃないかって思って・・・だから、悲しかった。

(私が死んで、誰かが、悲しんでくれる?泣いてくれる?)

(・・・ううん、そんなことないよね。きっと、何もなかったかのように・・・皆、私のことを忘れてしまうよね・・・)
「・・・もう、いいよ・・・」

「・・・ぶ?」

(・・・何?私、死んだんじゃ・・・?)

「大丈夫?」
「!!?」
あれ・・・?
「私、生きてる・・・?」
「?びっくりしたよ。任務帰りに、この森を通りかかったら、君が倒れていて。俺がみつけたからよかったものの、他の里の奴らに見つかってたら、えらいことになってたと思うから。」
「あ、貴方が・・・助けてくれたの?」
「うん、まァ、そうだけど。」
そうなんだぁ・・・私なんか、助けても・・・何も、ないのに。
「ん?・・・どうしたの?嬉しそうじゃないね。」
「えっ?いいえ、別に・・・なんでもないわ。ただ・・・」
「ただ?」
「なんで・・・私なんか助けたの?」

ちょっと聞いてみただけだったのに、彼は面食らった感じで、私を見た。

「なんで、助けただって!?」
私は、ちょっと怖くて、小さく、コクリ、とうなずいた。
「そんなこと!!何言ってるのさ!!君は俺の仲間じゃないか!!なんで助けたのって・・・俺が訊きたいよ、何でそんなこと言い出すのか。」
「だって・・・」
瞬時迷い・・・私は恐る恐るいってみた。
「私って、誰にも必要とされてないから・・・」
「・・・ハイ・・・?」
「?・・・おかしい?」
「あ・・・いや、おかしいっていうか・・・君って・・・どうして、そう思うのさ。」
「・・・私、里のために尽くしたこともないし、すごい功績を残したこともないの。それで・・・いざ死ぬかもしれないって思ったら・・・誰も、私が死んだって、なんにも思わないんじゃないかって・・・そう、思うの。」
彼は少し考えると、今度は穏やかな眼で私を見た。
私は・・・何故だか知れないけど・・・その眼が、すごく好きになった。
(綺麗・・・この人の、眼・・・)

ぼんやりと、そんなことを考えてたら、彼か口を開いた。
「・・・馬鹿だなぁ。誰も、そんなこと思っちゃいないよ。寧ろ、皆悲しむだろうさ。きっとね。」
「でも・・・」
「少なくとも」
「え・・・?」
「俺だけは・・・・君のために泣けるよ・・・必ず・・」
あれ・・・なんだろう・・・何故だか判らないけど・・・すごく、どきどきしてきた。
こんなこと、今まで一度だってないのに・・・

「あのね。」
「!?何?」
「俺から見たら・・・君は、雑草だよ。」
(!!やっぱり・・・そうだよね・・・)
「でも、俺も雑草さ。底ら辺に生えている、なんの変哲もない、雑草。」
「そうなの?」
「・・・それでもね、そんな草花にも、立派な名前もある。生き方って言うのがあるんだ。」
「立派な、名前・・・生き方・・・」
「そう。何もしなければ、その名前も、存在も腐っちゃうだけだしね。」

何も、しなければ。

その名前も、存在も腐ってしまうと、彼は言った。
(私は・・・)

(私は、自分から、何かをしようと、したことがあった・・・?)

(皆が認めないのはそれは、私が、そうしようとしなかったからじゃないの・・?)

(だったら・・・!!)

そうなるよう、前に進めばいい。皆が認めるまで、頑張ればいい。
何で、こんなことに気がつかなかったんだろう。
今まで、全部、人の所為にしてた。
自分から、頑張ろうともしなかった。
なのに勝手に、自分でいろいろ決め付けて・・・何もしようとしなかった。

「・・・人には、その人にしかない価値ってものがあるもんさ。誰でもね。」

それ以来、私は積極的にいろんなことに取り組んだ。
そして、もう一つ。
私は、彼のことが好きになった。




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