本丸より (50)

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浦島太郎の玉手箱

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浦島太郎は亀を助けたばっかりに、竜宮城へ行く事になって、そして、ほんの数日と思って過ごした時間が、地上では遥かに速いスピードで「時」が過ぎ、陸に戻った時の彼の驚きは、きっと想像を絶するものだったに違いない。

わたしは大学時代に教養学科の単位取得のために、無難と思われた「児童文学」を選んだ。そして、シンデレラから日本のおとぎ話まで持ち出して、論文を書いた。そのどれもが、今まで誰も書いた事のない内容だったためか、教授は戸惑いと同時にユニークさを認めてくれて、成績は良かった。

わたしが書いた論文の一つは、

「シンデレラの継母と彼女の姉妹達に対する弁護」

と言ったものや、

「雀の恩返しのおばあさんの言い分」

そして、「浦島太郎と宇宙時間について」

といったものだった。

竜宮城でしばらく楽しく過ごした後、両親のことが心配になり、地上に戻る決心をする。そんな浦島太郎は乙姫様から「玉手箱」という贈り物を貰う。

決して開けてはなりませんよ。

という言葉と一緒に。なぜ、開けてはいけないものをわざわざ土産として彼に渡したのだろう。

それは、「開けてはいけない」と言われれば言われるほど、人というのは開けたくなるもので、彼女はきっと、彼にそれを地上に戻って開けるために、そう言ったのだろう。

地上に戻った浦島太郎の「現実」は「時」が遥かに過ぎ、親も死に、知り合いもいない、そんな世界に戻ってきて愕然とする。そんな孤独を誰が想像できようか。そして、彼は「決して開けてはいけない」と言われていた「玉手箱」を開け、“彼”の「時間」が一気に過ぎてゆき、年老いた浦島太郎になり、そして、一説では鶴になって飛んで行ったとも言われる。

「決して開けてはなりませんよ」

玉手箱。それは、地上に戻った時の浦島太郎への精一杯の優しさに思えてならない。

親も死んで、知り合いもいない世の中に突然舞い戻った彼を襲う孤独と悲しみは計り知れない。それを救うのが「玉手箱」だったと思う。

一気に時は過ぎ、戸惑う。

わたしはもしも今、それを開ける事ができるのなら、玉手箱を開けたい。

自分の中の時計と現実の「時間」が一致しない。

Loneliness is tough.

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