3~手術からわたしのネコへ



今でも時々、思います。
もし日曜日でなかったら。

わたしがあの時ベランダに出ていたのは、それが日曜の昼間で、洗濯物がよく乾きそうだったからで、それがもし平日だったら、彼女はどこかで力尽きていたかもしれず、それからの16年弱という月日は無かったのかもしれません。

とにかく電話帳で病院を探しました。ダンボールを抱えてバスに乗り込む…運転手さんは怪しいと思ったかもしれませんが、それどころじゃありませんでした。

たどり着いたのは、高速バスで40分かかるペットショップと病院が一緒になったような、大きなお店。シャキッとした感じの良い看護士さんと、メガネをかけた色白のヒョロッとしたお医者さんがいて、宮沢さんを診てくれました。
割れた骨盤が尿道を圧迫しているのでこのままでは尿毒症になるとかで、先ずは、管を通して尿を出す作業。
『この、足の傷から見て2日程は動かずにじっとしていたようですね』
そうか、そして健気にわたしの所へ…えっ?汚いリボンの飼い主のところへは?
そんないろんな思いを胸に、これからの説明を聞いていたのですが…

覚えてません。

うぅ、となったきり、わたしはよろよろとトイレに向かいしばらく蛇口の前から離れられなくなり…多分、看護士さんに助けられ。
その後、お茶を出してもらってました(これだけはハッキリ覚えているのですが、緑茶でした)。
『大丈夫ですか?』と背中をさすってもらったような、かすかな記憶が。

あぁ、情けないことですが、わたしは外科的話に本当に弱いのです。
すぐ関節がふにゃふにゃになるのです。

だから、とにかく手術をしなきゃならないということだけ理解して、先生にお任せして帰ってきました。

二日後。
宮沢さんは、下半身をグルグルに巻かれた状態でわたしの前に現れました。
ほんのりピンク色できれいでした。
奇跡的だったそうです。

これだけ酷いと、普通は折れた骨が内臓に刺さっていたりするのに、刺さっていなかったのが良かったそうです。

とはいえ、やはり手術は大変だったらしく、他のクリニックからもう一人先生に来てもらって、看護士さんと3人がかりで…7時間。7時間っていえば、ほとんど、一日の労働時間です。
7時間の手術なんて、聞いたことない。
そんな長時間、宮沢さんもですが、先生方もさぞかし大変だったのではないかと、本当に感謝するばかりでした。

グルグル巻きになった宮沢さんを連れ帰ったわたしがまずしたこと、ネコのトイレを作りました。
そして、名前を変えました、『宮沢さん』からわたしの姓へ入籍しようと思ったのです。

思えば変な話です。

でも、そのときは真剣にそう思ったのでしょう。
よれよれのネコの面倒を見ていく、というのはわたしにとって大きな覚悟だったに違いないからです。
そしてわたしはリボンを切りました。

そして彼女の呼び名は『宮沢さん』から『つれみ』に変わりました。


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