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副題は「商売の始め方と儲け方がわかるビジネスのからくり」。 著者は、SMG税理士事務所・代表税理士の菅原佑由一さん。 とても売れていますが、カスタマーレビューの中には微妙なものも。 私もタイトルに強く惹かれ、今回読んでみることにしました。 ***まず、タイトルに関する記述は、「1-1 タピオカ屋はなぜ流行ったのか?」で早々に登場します。その中に「タピオカ屋はどこへいったのか?」という節があり、次のように書かれています。 消えたタピオカ屋がどこに行ったかというと、 ある店は唐揚げ店になり、ある店はマリトッツォの店に変わり、 ある店は焼き芋の店になりました。 イニシャルコストを徹底的に抑えることで短期で利益を回収し、 ブームが去ったらすぐに見切りを付けて撤退する。 この変わり身の早さを活かして、消えたタピオカ屋は次のブームに乗り換え、 新たな収益を生み出しているのです。(p.21)この部分は「イニシャルコスト(開業にかかるコスト)」が、キーワードだと思いますが、そこに関してはあっさりと記述されているだけで、深掘りされることはありませんでした。これは、本書が40ものテーマをわずか191頁の中で扱っていることに起因しているのでしょう。数多くの図やグラフ等の資料が掲載されていますが、それらへの言及もほぼありません。また、「4-8 容姿端麗とは言えないアイドルがなぜ売れるのか?」というテーマについては、「熱心なファンが収益を生む」「応援する喜びを実感」の2節に分け記述していますが、「容姿端麗とは言えない」という部分に関する直接的な回答は見当たりません。まぁ、この部分を深掘りすると、このご時世、色々と問題が発生しそうではありますが。かつて『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』を読んだ時のような、ワクワク感や満足感は、あまり感じることが無いまま、読了してしまいました。
2024.08.13
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2019年4月に日本製鉄社長に就任すると、 2024年3月にはその座を退き、会長CEOとなった橋本英二さん。 2020年3月期の連結決算では、過去最大の4315億1300万円の最終赤字を記録し、 2021年3月期までは、4期連続の営業赤字に沈んでいました。 しかし、2022年3月期に黒字に転じると、2023年3月期は6940億円の黒字に。 (2024年3月期は5493億円の黒字、2025年3月期は3000億円の黒字の見通しとのこと) 70年の歴史を持ち、社員11万人、総資産10兆円という日本を代表する大企業が、 見事なV字回復を達成した背景を、本著は一つ一つ明らかにしていきます。 ***「第1章 自己否定から始まった改革 5つの高炉削減、32ライン休止の衝撃」では、「2年以内のV字回復」「上からの改革」「論理と数字がすべて」を掲げ始まった高炉休止を、「第2章 『値上げなくして供給なし』 大口顧客と決死の価格交渉」では、顧客至上主義から脱却する強気の価格交渉と、全国16拠点にあった製鉄所の6エリア集約を描く。「第3章 異例のスピードで決断 インドで過去最大M&A」では、2019年の欧州アルセロール・ミタルと組んだインド鉄鋼王手エッサール・スチールの買収劇を、「第4章 動き出すグローバル3.0 『鉄は国家なり』の請負人に」では、「メード・イン・ジャパン」の拘りを捨て、世界各地で一貫生産を推し進める様子を描く。「第5章 国内に巨額投資の覚悟 高級鋼で勝ち抜く『方程式』」では、ハイテン(高張力鋼)のライン新設(40年ぶり)と、素材メーカーにしかできない市場創造を、「第6章 脱炭素の『悪玉』論を払拭せよ 鉄づくりを抜本改革」では、カーボンニュートラルに向けた設備投資と、「水素還元製鉄」に向けての動きを描く。「第7章 『高炉を止めるな!』 八幡の防人が挑む改革後の難題」では、余剰能力削減後も、生産の空白を生まない強靭な操業体制を構築するための取り組みが、「第8章 原料戦線異状あり 資源会社に巨額出資」では、持続可能な鉄づくりのため、初めて打って出たカナダの資源会社への出資の経過が描かれる。「第9章 橋本英二という男 野性と理性の間に」には、橋本さんの幼少期から現在に至る経歴と、著者によるインタビューが掲載されている。 *** このままでは確実に潰れるという状況だったんです。(中略) まさにそんな中で、本当に自分が社長に就いて再建できるのかと思いました。 ただ、受けた以上はやるしかない。 決めたからには2年でやると覚悟しました。 現実的に考えて、当時のキャッシュアウトの状況が2年続いたら 倒れるところだったんです。(p.271)この言葉が、関係者の誰もが、当時抱いていた実感なのでしょう。崖っぷちに追い込まれ、もはや一刻の猶予も許されない絶体絶命の危機。だからこそ、次のようなリスクがあることは十分承知の上で、橋本さんの社長就任と相成った。 橋本の就任を不安視する者たちが指摘したのは、 強力なリーダーシップと表裏一体にある厳格さがリスクになることだ。 橋本は仕事について自身に厳しいだけでなく、他者にも厳しい。 その厳しい言動が各方面に及べば、 求心力を保てなくなる可能性があるとの見方だった。(p.32)まさに劇薬ですが、周囲の懸念を跳ね除けて、見事にV字回復を達成。ただ、劇薬の効果は、当人が社長に就任している時期だけには収まりません。それは、次期以降の社長が就任した後も、なお大きな影響を及ぼし続けることでしょう。日本製鉄については、今後その推移をまだまだ見守り続ける必要があると思います。
2024.07.13
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結婚とは「所得連動型の債権」という金融商品である。(p.21) 読み進めていくにつれ、この言葉の意味するところがジワジワと伝わってきます。 ・結婚と離婚で動く金は、基本的には、慰謝料、財産分与、婚姻費用の3つ。 ・養育費は、離婚成立までは婚姻費用に含まれる。 ・慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償金で、離婚の原因を作った側が支払う。慰謝料については、日本では相場がある程度予測可能で、浮気なら100万~200万円程度、アメリカのように莫大な金額になることはないそうです。さらに、芸能ニュースでいうところの「慰謝料」は、離婚に際し払った総額のことをいっており、法律用語でいうところの「慰謝料」とは違っているとのこと。 ・財産分与、婚姻費用の算定では、どちらが悪いかは全く関係なく、所得で決まる。 ・財産分与は、離婚する際に、結婚してから形成された共有財産を分割するもの。そのため、結婚前に持っていたお金については、財産分与に関しては全く関係なく、親が金持ちのボンボンと結婚しても、理論的にはそこから1円も取れないそうです。 ・婚姻費用は、夫婦間でより稼いでいる方が、そうでない方に毎月一定の金額を支払うもの。 ・これは、夫の所得、妻の所得、子供の数と年齢から、家庭裁判所ではほぼ機械的に決まる。 ・離婚後、婚姻費用の支払いが滞った場合には、預金や給料など何でも差し押さえ可能となる。これは、「夫婦は相手の生活を自分と同じレベルで維持し、夫婦の資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する義務がある」と民法に規定されているためです。これらのことから、年収1200万円のサラリーマンの夫が、専業主婦の妻に、14歳以下の子供一人を連れて実家で別居され、婚姻費用分担を請求されると、夫は月々約21万円を妻子に支払い続ける義務が発生し、コンピ地獄が始まります。これを終わらせるには、離婚を成立させるしかなく、夫は離婚裁判を起こすことに。双方が書面で相手を罵り合いますが、妻は離婚したくない、元の生活に戻りたいとも主張。それは離婚成立を困難にし、相手を有責配偶者にして、コンピ地獄を長期化させるため。その妻と10年後に離婚、結婚後築いた財産が夫の預金1000万円、妻の預金100万円である場合、夫が離婚に際し支払う総額は2970万円、以後養育費として月額17万円を支払うことに。 *** すでに述べたように、親が億万長者である無職のボンボンと、 年収300万円のOLが結婚した場合、 旦那が愛人を作って出て行った場合に、 毎月、婚姻費用を支払わなければいけないのは、OLである。 離婚するときに財産分与を支払わなければいけないのも、OLのほうなのだ。(p.112)このルールさえ頭に入っていれば、結婚・離婚に際しマネーがどう動くかについて、格段に見当がつけやすくなりそうですね。とても勉強になる一冊でした。
2024.05.18
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2022年6月の刊行。 著者は、日本経済新聞社金融部長の河波武史さん。 巻末には、1873(明治6)年の第一国立銀行(のちの第一勧業銀行)設立から 2022(令和4)年の木原正裕氏FG社長就任までの関連年表が掲載されています。 ***「序章 みずほの宿痾」では、2018年の真冬のダボスでの著者と当時のFG社長・佐藤康博氏に同行していた坂井辰史氏との出会いや、2022年に、その坂井氏の後任社長として木原正裕氏が記者会見に臨むまでを振り返り、みずほ20年の宿痾を読み解く作業をスタートさせます。「第1章 度重なるシステム障害」では、社長就任から3年を経て、新基幹システム「MINORI」の本格稼働を始め、業績回復に成功していたはずの坂井社長が、2021年2月28日と3月の3件のシステム障害を受け、3月17日に記者会見を開くに至った経緯や、みずほと金融庁の人事を巡るトラブル、背景にあったみずほの企業体質について言及しています。「第2章 トップ総退陣へ」では、2021年11月に金融庁が発出したみずほへの業務改善命令と、坂井社長と藤原頭取が揃って退陣した経緯を記しています。「第3章 世界トップクラス銀行の誕生」では、1998年8月に第一勧銀・富士銀・日興銀が統合、資産規模世界最大の銀行が誕生するも、興銀のそごう問題、第一勧銀のマイカル問題で躓き、2002年4月、ようやく新生みずほ発足にこぎつけるも、統合初日にシステム障害が発生。さらに、2000年代に入って一段と深刻になっていた不良債権問題に対して、竹中平蔵氏が推進した「金融再生プログラム」では、辛うじて国有化は免れたもののリーマン・ショックで邦銀最大の損失を出し、システム投資の原資を欠いてしまったことに言及。「第4章 統合10年たっての内なる戦い」では、2011年3月11日の東日本大震災発生直後、大規模なシステム障害が発生し、5月にはワンバンク・ワントップ構想を正式表明するも、2013年9月に反社融資問題が勃発し、翌年4月に委員会設置会社に移行した経緯を記しています。著者は、ここでみずほ迷走の3要因について言及し、再起の道について提案します。「第5章 新社長の船出」では、20022年1月の木原正裕氏FG社長就任に至る経緯と、今後のDXでの改革や海外銀行のデジタル化戦略について言及。「第6章 みずほ、再生への道」では、1989年からの日本金融転落について概観し、みずほ再生に向けての再生プランと、日本全体の金融再生プランを示します。 ***本著が刊行されてから、既に1年8カ月が経とうとしています。みずほ銀行の売上高は、2021年3月期が3兆,2180億9500万円、2022年3月期が3兆9630億9100万円、2023年3月期が3兆6,651億円となっています。そして昨日、東京株式市場で日経平均株価が1989年末につけた最高値を約34年ぶりに更新し、終値が前日比836円52銭(2.2%)高い3万9098円68銭となりました。このことは、日本経済にとって、そしてみずほにとって、吉兆となるのでしょうか。
2024.02.23
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以前、成毛 眞さんが書いた『amazon』を読みましたが、 それをさらに上回る衝撃の一冊でした。 著者の横田さん自らが、amazonの小田原の物流センターに潜入したり、 集配車両に同乗したり、英仏独で取材したりして描き出した現場の実態は、 想像をはるかに超えた過酷なものでした。また、創業者であるジェフ・ベゾスの人となりや租税回避に対する姿勢、マーケットプレイス出品者たちの悲哀、横行するフェイクレビュー、AWS導入による新聞見出し作成や写真サービス、AIアナウンサーのラジオニュース、日本最大の書店となったamazonによる直接注文が取次や出版社にもたらしたもの等々、その影響力の強さや範囲の広さ、規模の大きさに終始圧倒されっぱなしでした。 *** 「普通にアマゾンで商売をやっていたら、 レビューがつく可能性は100件で3件前後、多い商品で5件ぐらいです。 1カ月で500点売れるヒット商品で、レビューは15件前後。 2か月で、30件前後となる計算です。 だから、発売から1カ月で30件以上レビューがある商品は怪しいですね。 そんな商品の出品者プロフィールを見ると、ほとんどが中国の出品者です。 なかには1カ月で100件を超すレビューがついているのを見たことがありますが、 これはほぼフェイクレビューだと考えて間違いないでしょう。」(p.305)これは、アマゾン出品者向けの販売促進ツールを販売しながら、自らもマーケットプレイスに出品する人物の言葉。とても参考になります。 「やっぱりアマゾンはこんなやり方をするんだ、と驚く気持ちより、 納得する気持ちの方が強かったですね。 書籍や雑誌を提供した出版社に、何の相談も、通告もなく、 勝手に変更するのが彼らのやり方なんだと思いました。 いつもは、三方良しなど、耳当たりのいいことを言いながら、 結局、読者のことも、著者のことも、出版社のことも考えず、 自分たちの都合だけを優先させる。それに対する十分な説明もしない。 一連の騒動を見ていて、私からすると、馬脚を現したな、と思いました。 アマゾンの掲げる顧客第一主義は、 自社の利益に反しない限りという条件がつくんだな、と」(p.418)これは、キンドル・アンリミテッドについて事の行方を見守ってきた業界関係者の言葉。「自社の利益に反しない限り」というところが、言いえて妙だと感じました。これが色んな場面での、企業としての基本姿勢ということなんでしょうね。
2023.02.26
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著者は小林製薬会長の小林一雅さん。 1886年に雑貨・化粧品・洋酒販売の店として創業した「小林盛大堂」が、 やがて家庭用医薬品等の卸売り事業が主体となり、 1956年には大阪道修町に移転して「小林製薬株式会社」となりました。 それに先立つ1948年に、著者の父である小林三郎さんが、 三郎さんの死後、1958年には著者の母である映子さんが社長となり、 1976年には著者が、そして2004年に著者の弟・豊さんが、 そして、2013年に著者の長男・章浩さんが社長となり、現在に至っています。1964年、著者は入社後すぐの25歳の時に2週間の米国研修旅行に招かれると、26歳の時には1年間米国留学し、主にマーケティングと広告について学んだといいます。そして、その経験を活かし、1967年に「アンメルツ」を、1969年に「ブルーレット」を、さらに1975年に「サワデー」を発売し、1976年に社長に就任したのです。ニッチなマーケットを戦場とし、「小さな池の大きな魚」を釣る戦略で、「わかりやすさ」を肝にマーケティングを展開する。創造は「よいものの模倣」から始まり、「いたるところにヒントはある」。そして、「まずは、やってみる」ことが大事。こういった著者の姿勢を、本著の至る所で垣間見ることが出来、まさに「あったらいいな」をカタチにすることで、ここまで躍進してきたことが分かります。個人的には第Ⅲ部「逆境と失敗を未来の糧とする」の内容を、より深く掘り下げ、丁寧に記述してもらえると、より興味深い一冊になったと思います。しかしながら、実際にそれをするならば、第Ⅲ部の内容だけで、1冊分の本が書けてしまうでしょうし、当事者が書くよりも、第三者的なライターが、客観的にそれを記述した方が、良いものが出来上がる気もします。
2022.08.12
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その名は、何度も目にしてきた『ビジョナリー・カンパニー』シリーズ。 しかしながら、私は何故かこれまで一度も読む機会がありませんでした。 そして、今回初めて手にした『ビジョナリー・カンパニー』の原点となる本著。 シリーズ発行前の1992年に記された『Beyond Entrepreneurship』の改訂版で、 今回初めて日本語訳された一冊です。30年前の記述に、それについて現在の視点から述べた部分を加えるというユニークな構成。『Beyond Entrepreneurship』のオリジナル部分は「グレー」のページに、今回の発刊に当たり、新たに書き加えられた部分は「白」のページに印刷されていますが、オリジナル部分の記述が、現在もなお色褪せていないことには驚かされます。 *** リーダーシップとは、 部下にやらなければならないことをやりたいと思わせる技術である。(p.78)これは、著者がまとめた「リーダーシップ」の簡潔な定義。「なるほどな」と、素直に納得させられました。 「いなくては困る人」をつくってはならない。 「私」ではなく「私たち」を主語に考える。(p.219)これはジロスポーツ・デザインのビジョンに掲げられた「チームワーク」における記述。これも、素直に納得です。 成功というコインの裏面は失敗ではなく、成長だ(p.238)これは、ドーン・ウォールのフリークライミングに挑み続けたコールドウェルの言葉。彼は著者と失敗についてどう考えるべきかじっくり話し合い、この考えに至ったそうです。 現金は血液あるいは酸素のようなもので、なければ会社は死んでしまう。 しかも成長は大量の現金を食い潰す。 倒産のほぼ半分は、記録的売り上げのあがった翌年に起こるのはこのためだ。(p.321)これは、「どのくらいの速度で成長すべきか」について述べられた部分の中の一文。「好意魔多し」の典型を示すような記述に、思わず唸らされました。 成果があがらない原因は、採用の失敗、教育訓練の失敗、明確な期待事項の欠如、 質の低いリーダーシップ、評価の失敗、仕事の与え方の失敗など会社の落ち度であり、 社員の落ち度ではない。(p.442)会社として留意すべきことが、簡潔にズバリ記されています。これらのことを組織としていかに整え、運用していけるかがキーとなってきそうです。 優れた人材かどうかは、学歴、技能、具体的な過去の経験などを 主な評価基準にしてはならない(もちろんこうした要素は考慮すべきだが)。 主な評価基準は「この人物は私たちのバリューを支持するか。 私たちが大切にしていることに賛同するか。 私たちの原則を受け入れるだろうか」だ。(p.453)先の留意すべき事柄の中で、「採用」について記された部分。本著の中でも、特に印象深かった一文です。 私たちは急成長を遂げる会社が、採用基準を緩めるケースをたくさん見てきた。 「とにかく誰でもいいから採用してくれ。誰かまわしてくれ、人手がいるんだ!」 という状態だ。(中略) 急成長のプレッシャーにさらされた会社では、採用へのこだわりが大幅に薄れる。 だが採用こそ、あなたがとことん慎重になるべき分野だ。(p.323)これは、本当に留意すべきことだと感じました。現在「教員不足」に悩む教育現場でも、決して忘れてはならないことです。 結局すべては「最初に人を選ぶ」という原則に行きつく。 正しい人をバスに乗せ、誤った人をバスから降ろし、 正しい人々を重要な座席に座らせなければならない。(p.63)「人事」「採用」に関して、過不足なく言い表した一文。まさに、これでしょう。
2022.07.17
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兵庫県宝塚市の山手にある洋菓子店「スイート・ホーム」。 その経営者・香田パティシエと妻・秋子、長女・陽皆(ひな)、 次女・晴日(はるひ)と、秋子の妹・池田郁子の一家と、 ご近所に住む料理教室「オアシスキッチン」の未来先生を巡る短篇集。 「スイート・ホーム」は、陽皆が勤務する梅田地下街の雑貨店に 一人の男性(山上昇)が訪れるようになり、やがて結ばれるというお話。 「あしたのレシピ」は、「スイート・ホーム」を訪れた辰野始という男性客が、 未来の料理教室に通うようになり、紆余曲折ありながらも二人が接近していくというお話。 「希望のギフト」は、この春から同居し始めた郁子を巡る騒動の中、 晴日がテニスクラブで知り合った大学講師・明野真からプロポーズされるというお話。続く「めぐりゆく季節」は、5つの掌編で構成されており、その1つ目「秋の桜」は、大学受験の再挑戦に備える由芽を、陽皆が薄紅色の桜の花びらが載った2つのショートケーキで励ますというお話、2つ目の「ふたりの聖夜」は、未来が米国人カップルのクリスマスパーティーのシェフを務め、奮闘する未来と辰野に、香田パティシエがケーキをこっそりプレゼントするというお話。3つ目の「冬のひだまり」は、ひとり娘・由利香とその夫・幸嗣、孫のあかねの一家に、夫の正臣同様、同居したいと言い出せないでいる祐子の後押しを、郁子がするというお話。4つ目の「幸福の木」は、一緒の時をあまり過ごせていないグラフィックデザイナー・明日香とカメラマン・涼太夫妻を、隣家に引っ越してきた晴日がちょっとサポートするというお話。最後の「いちばんめの季節」は「秋の桜」の後日譚で、由芽が二次試験を終えた後、「スイート・ホーム」で常連たちと和やかな時を過ごし、2週間後に結果発表を迎えるお話。 ***「解説」にもあるように、この作品は『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』、『ジヴェルニーの食卓』等の一連のアート小説とは明らかに色合いが違います。と言うか『ランウェイ・ビート』や『まぐだら屋のマリア』、『総理の夫』とも違います。あえて言えば『本日は、お日柄もよく』が一番近いかもしれませんが、それでも、私がこれまでに読んできたどの作品とも違っていて、「何だか小川糸さんのような雰囲気が漂う作品だなぁ」と感じてしまいました。マハさんの作品の振れ幅のあまりの大きさ、その能力の高さに、改めて圧倒されました。
2022.07.03
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副題は「愛着心と危機感が生む変革のマネジメント」。 著者は、今年4月にパナソニック コネクト株式会社代表取締役 執行役員 社長・CEOに就任した樋口泰行さん。 1980年に松下電産に入社し、ハーバード・ビジネス・スクールを修了すると、 その後は、ボストンコンサルティンググループ、アップルコンピュータを経て、 日本ヒューレット・パッカード、ダイエー、日本マイクロソフトで社長を務め、 2017年に古巣であるパナソニックに復帰したという方。本著は、復帰後にパナソニックで進めてきた変革についてまとめたもの。第1章には、その最初のステップである「大きな絵」を描くこと、何で戦っていくのか、本当に勝ち抜ける領域を見定めること、即ち、事業を行う立地を見定めることについてが記されています。第2章には、個人と組織のパフォーマンスを最大化すべく、カルチャーとマインドを変えていくことについてが記されています。フォーマリティー(形式的な手続き)を排除すべく、フリーアドレスのオフィスづくりをし、ドレスコードを廃止した様子が分かります。第3章には、これまでのハード単品売りから脱却し、新たなビジネスモデルを作り直していった様子が描かれています。コネクトでは、コモディティ化するハードウェアから離れ、ソリューションシフト、ソフトウェアシフト、持続性のある収益構造へのシフトに取り組んでいるとのこと。第4章には、事業立地を整えるべく、選択と集中を実践した経緯、商品×地域×業界でポートフォリオマネジメントを推進した様子が描かれています。利益は出るか、一過性ではないかを基準にして、撤退や閉鎖を進めた様子や、ブルーヨンダーへのM&Aを進めた様子が詳細に分かります。 ***『ソニー再生』が、たいへん読み進めやすい文章で書かれていたのに比べると、本著は、書かれている内容がすんなりとは頭に入って来てくれない感じがしました。その理由は明らかで、カタカナで書かれた言葉があちこちで頻繁に登場するからです。国際化が進むビジネスシーンに、自分はついていけていないなと反省させられました。
2022.06.05
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刑事犬養隼人シリーズ第三弾。 前巻は短編集でしたが、今回は本格長編ミステリー。 今回から、犬養は高千穂明日香とコンビを組んで捜査に当たります。 ***記憶障害に陥っていた15歳の月島香苗が、母・綾子との買い物中に誘拐されると、さらに、お嬢様学校に通う16歳の槇野亜美も、下校時に誘拐されてしまいます。犯人は、犯行現場に<ハーメルンの笛吹き男>の絵葉書を残していたものの、その後、何の連絡も寄こしてこないまま、時間だけが経過していくことに。その後、月島香苗は、母・綾子の記したブログの闘病日記から、子宮頸がんワクチンを接種後に、記憶障害を発症していたということが判明。また、母・綾子は、ワクチン被害集団訴訟検討の取りまとめ役をしていました。一方、槇野亜美の父・良邦は日本産婦人科協会会長で、ワクチン推進派でした。犬養は明日香と共に、子宮頸がんワクチンやその副反応に関して、小児科医・村本隆や槇野良邦、産婦人科医・小椋を次々に訪ね歩きます。しかし、月島綾子が取り纏めをしていた子宮頸がんワクチン院内集会当日、そこでスピーチした5人の少女全員が誘拐されてしまいます。そして、しばらくすると、犯人からの第一報が。それは、一人につき10億、合計70億円を支払えというもので、ワクチン事業で潤った製薬会社とそれを推進させた日本産婦人科協会に金銭の工面をさせるよう促す内容でした。 ***この後、ワクチン禍についてのマスコミの加熱報道ぶりや大阪を舞台にしての身代金受け渡しが描かれていきます。犯人については、ミステリーに日ごろから親しんでいる人なら、比較的、早い段階で気付くことが出来る作品かなと思いました。この作品が、ハードカバーで刊行されたのは2016年1月。政府は子宮頸がんワクチンの定期接種(無料)を2013年4月に開始しましたが、直後から副反応等の症状が報告され、同年6月には積極的勧奨を取りやめていました。しかし、今年4月から、ワクチンの積極的な接種勧奨が再開されています。
2022.04.09
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副題は「変革を成し遂げた「異端のリーダーシップ」」。 著者は、2012年から2019年までソニーの社長兼CEOを務めた平井一夫さん。 連結最終損益4年連続赤字(2011年度は過去最大の4,550億円の赤字)から、 1917年度には連結営業利益7,348億円、20年ぶりの最高益を更新した方。 SCEA(ソニー・コンピュータエンタテイメント・アメリカ)、 SCE(ソニー・コンピュータエンタテイメント)、 そして、ソニー本社と、3度の経営再建を任された経緯や、 各危機をオートパイロット状態にまで回復させた様子が丁寧に綴られていきます。 また、第1章「異邦人」では、父親の転勤の関係で、小学1年生の時から、ニューヨークやトロント、サンフランシスコと、日本の公立小学校、アメリカンスクール・イン・ジャパンとの間で転出入を繰り返し、最後は国際基督教大学で学んだ様子が記され、著者の原点を知ることが出来ます。何より驚かされるのは、その文章の読みやすさ。ビジネス書であるはずなのに、まるで小説やエッセイのようにスラスラと読み進めることが出来ました。これも、平井さんの「伝える力」の一端を示すものなのでしょう。
2022.02.06
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今では、本当に身近な存在になったドラッグストア。 『医薬分業の光と影』でも、その影響力の拡大について触れられていました。 それにしても、こんなにたくさん見かけるようになったのは、いつ頃から? そんなことを知るために、本著を手にしました。 *** Dg.S(ドラッグストア)は、平成後期になって大成長しましたが、 企業の前身である「薬局・薬店」の歴史は、実は結構古いものです。 そして現在、Dg.Sは全国で2万店舗を突破しましたが、 これは、全国5万8000店舗のコンビニに次いでその数が多い業態です。 さらに、同じDg.Sを名乗っていても、 化粧品、インバウンド(海外旅行者の買物)の構成比が高い「都市型」と、 食品強化型とバランス型に分かれる「郊外型」、 調剤薬局を併設している「調剤併設型」の3タイプに分類できます。 *** こうした「便利性」と、調剤の「専門性」を強調したウォルグリーン型Dg.Sは、 コンビネーションストアに駆逐されかけていたアメリカDg.Sの 生き残りの成功例となった。 そして、このウォルグリーン型Dg.Sは、 1990年代の流通視察の際に、日本のDg.Sの教科書になった。 現在、日本のDg.Sの売場面積は300坪前後が主流であり、 近隣型ショッピングセンター出店よりも単独出店のほうが多いのは、 ウォルグリーンの影響が大きいと思われる。(p.055)ここにあるように、「便利性」と「専門性」は、Dg.Sの大きな特徴となっていますが、アメリカのDg.Sでは「調剤」の売り上げ構成比が70%を超えているのに対し、日本では、それが最も高いスギHDでも22.0%、2位のウエルシアHDが17.9%、3位のココカラファインが17.7%と、大きな隔たりがあるのが現状です。 「スーパーバイザーは、店内作業のスペシャリストでなければならないと思います。 たとえば、窓ガラスの掃除やレジ打ちなどの作業が、 誰よりも上手でなければなりません。 パートさんの掃除のやり方が間違っていたら、 その場でスーパーバイザーがお手本を示して、 OJT教育(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)ができなければならないからです。 だから、店長やスーパーバイザーは、 常にアップデートされていく最新の店内作業を習得し続けなければなりません。 店舗を回って、店長や部下に『頑張っているか』と言うだけの激励屋のような スーパーバイザーは必要ないと考えています」(p.111)これは、本著の中で私の心に最も深く突き刺さってきたところ。確かに、そうでなければならないと思いました。「激励屋」に留まっていては、何も改善されませんよね。具体的に行動で示し、見せてあげることが大切で、そのための備えが求められます。 しかし、Dg.Sの来店客の大半は、 「レジ対応が良かった」「探している商品の場所まで案内してくれた」といった 基本接客の良し悪しで、その店に対する満足度を決める。 基本接客のレベルを、店や人によるバラツキを少なくして標準化することが、 チェーンストアにおける最大の顧客満足度対策である。(中略) つまり、競争が高度化している現代は、「安さ」だけでは顧客満足度は高まらない。 「安さ」「便利さ」「接客の良さ」の すべてのレベルアップが求められているといえよう。(p.166)これも、大いに頷くしかありませんでした。危機管理については、初期対応の重要性が常に言われますが、これについては、ここに示された「接客の良さ」に繋がるもののような気がします。これがちゃんと出来ていなかったことが、躓きの第一歩になることが何と多いことか。
2021.12.19
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副題は「日本の資本主義を築いた両雄の経営哲学」。 天保11(1840)年に武蔵国榛沢郡血洗島村で生まれた渋沢栄一と 天保5(1834)年に土佐国安芸郡井ノ口村で生まれた岩崎弥太郎について、 その生涯の歩みを対比しながら、実業家として目指したものを描いた一冊。 まず、渋沢栄一については、NHK大河ドラマ「青天を衝け」で これまで演じられてきた様々なシーンが、次々に目に浮かんでくる内容。 もちろん、『論語と算盤』に書かれていた事柄も様々な箇所で登場し、 渋沢の考えや思いを再確認することが出来ました。一方、岩崎弥太郎については、NHK大河ドラマ「龍馬伝」で、香川照之さんが演じた迫真のシーンが、次々に蘇ってきました。『岩崎弥太郎と三菱四代』に記されていた内容も随所に見られ、弥太郎の激烈な人柄と人生を改めて知ることが出来ました。第1章から第3章は、二人の出生から実業家になるまでの歩みが、それぞれに記されていきます。そして、「第4章 栄一と弥太郎の邂逅と決別」に至ると、遂に二人が実際に出会い、互いの個性を激しくぶつけ合うことに。この部分が、本著の肝となる部分と言えるでしょう。しかし、私としては、続く「第5章 日本の発展に尽くした栄一」が、最も心に残りました。本当に渋沢は人格者であり、新1万円紙幣に描かれるのに相応しい人物ですね。(女性関係に関しては、現代の視点からすると、かなり問題がありそうですが) 栄一は昔、中国の周公旦が客人が訪れると食事中であっても 食べ物を吐き出してすぐに会いに行き、 その周公旦を敬愛した漢の高祖(劉邦)が洗髪中も髪をすいたまま 来客があると引見した故事に学び、 自分もそれが富豪としての社会的な責任だと考え、誰にでも会っていたのである。 しかも明らかに無理な注文でなければ、 出来るかぎりその人の願いが実現するように動いたのだ。(p.265)にもかかわらず、後継者の育成には苦労した……一方、弥太郎は後継者育成には抜群の能力を発揮。本著では、登場する場面は少なかったものの、「やはり、岩崎弥之助はスゴイ」と改めて思わされました。
2021.09.19
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島耕作シリーズの作者である弘兼憲史さんが、 島耕作と自分自身の仕事術について述べた一冊。 「第1章 島耕作の仕事論」では、島耕作がどのようにして成長していったかや、 島耕作のコミュニケーション力と情報収集術について解説。 「第2章 弘兼憲史の仕事術」では、時間の使い方やチームについての持論、 そして、40年に渡り漫画家を続けてこられた理由等について明かしています。また、「第3章 島耕作の「ライバル」たち」では、柳井正氏(株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長)、澤田秀雄氏(株式会社エイチ・アイ・エス取締役会長兼社長)、唐池恒二氏(九州旅客鉄道株式会社代表取締役会長)、新浪剛史氏(サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長)、辻本憲三氏(株式会社カプコン代表取締役会長兼CEO)、玉塚元一氏(株式会社ローソン代表取締役会長兼CEO)の6人を取り上げ、その活躍ぶりや各々の経営哲学が述べられています。第1章と第2章が、本著の核となる部分のはずですが、第3章で展開するリアルなお話の方に、より興味を覚える人もいるかもしれませんね。
2021.08.22
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1916(大正5)年に出版された『論語と算盤』の現代語抄訳版。 驚かされるのは、古臭さが全く感じられないこと。 現代語に書き換えられていることも、もちろんあるのでしょうが、 その内容が、令和の時代にも十分に当てはまり通用しそうなことが本当に多い。 それでいて、教科書に掲載されているような著名人が随所に登場し、 現役でバリバリと活動するエピソードが盛りだくさん。 大河ドラマで俳優さんたちが演じるのを見ているレベルをはるかに超えて、 自分と同じ時代を生きてきた政治家に感じるものと同様の身近さを感じさせられました。 *** 郭巨という人が、貧しいために親を養う財産がなく、 しかたなく自分の子供を生き埋めにして養う人数を減らそうとした。 そこで土を掘ったら、釜が出てきた。 その釜のなかには、たくさんの黄金があった。 そこでわが子を生き埋めにしないで親を養うことができた。 これこそ親孝行の徳であるというのだ。 もし今の世の中で、「親孝行のためにわが子を生き埋めにする」といったら、 「馬鹿なことをする」「困ったものだ」と人から言われるに違いない。 つまり、親孝行一つとってみても、世の進歩につれて、 人が何を誉め、何を貶すかの基準は変わっているといってもよいと思う。(p.110)この一文には、とても考えさせられました。まさしく、現在も全く同じ状況です。過去の行動を現在の尺度で計り、断罪してしまうことを是とする風潮に、「世の進歩」を感じながらも、一種の危うさを強く感じてしまいます。 ヨーロッパの商工業者は、互いに個人でかわした約束を尊重し、 損害や利益があったとしても、 一度約束した以上は、必ずこれを実行して約束を破らない。 これは彼らの固い道徳心に含まれる「正義」や「廉直」といった考え方が、 そのまま実践された結果なのである。 ところが日本の商工業者は、いまだに昔の慣習から抜け出せずに、 ややもすれば道徳という考え方を無視して、一時の利益に走ってしまう傾向がある。 これでは困るのだ。 欧米人も常に日本人がこの欠点を持っていることを非難し、 商取引においては日本人を完全に信用しようとはしない。 これはわが国の商工業者にとって大変な損失である。(p.168)この一文には、とても驚かされました。私自身は、一般的な日本人の行動は、これとは真逆なものだと思ってきたのですが、100年余前の日本は、こんな感じだったのでしょうか?国も、国民も「変わる」ことは出来るのですね。 ところが現代の青年の師弟関係はまったく乱れてしまって、 うるわしい師弟の交流があまり見られないのはとても憂うべきことだ。 今の青年は師匠を尊敬しない。 学校の生徒など、その教師をまるで落語家か講談師のように見ている。 「講義が下手だ」とか「解釈が劣っている」とか、 生徒としてあってはならないような口を利いている。(p.191)この一文には、ある意味とても感心させられました。こういうのって、100年前からずっとこんな感じなんですね。年上世代から年下世代への「今どきの若者は……」という言い回しは、これからも絶えることなく、ずっと続いていきそうです。
2021.08.14
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松岡さんによる「小説家として儲けて富を得る」ための指南書。 小説の書き方から出版、契約等々に至るまで、 微に入り細に入り、一つ一つ懇切丁寧に教えてくれています。 確かに「こんなの今まで見たことが無い!」と言えるレベルの一冊。 まず、物語づくりのノウハウには「なるほどなぁ」と感心しきり。 もちろん、誰にでも簡単に『想造』が出来るとは思えませんけれど…… また、Ⅱ部の内容からは、出版業界の裏舞台が浮かび上がってきます。 この辺りは、人気作家としての実体験がないと書けないものでしょうね。 けれども編集者が収入に恵まれているのは、 そのために苦労して大手出版社への入社を果たしたからです。 小説家に例えれば、ベストセラーを出し一定の地位を築いた状況に相当します。 その意味では新人作家より先に、ひとつの大きな戦いを勝ち上がっているわけです。 デビューしたての新人作家は、まだ編集者と対等な立場ではありません。(p.148)これが、本著の中で、私が最も心に残った部分。新人作家と編集者との関係だけでなく、様々な場面でこの関係は成り立つのでは?相手の立場に敬意を払うことはもちろん大切なことですが、自分の立場に誇りをもって立ち振る舞うのも大切なことです。
2021.07.04
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副題は「ブランド力を徹底検証!」。 池田駅至近に日本初の郊外住宅「池田新市街」を開発し、 1929年には、梅田駅で世界初のターミナル百貨店営業を開始。 東宝や宝塚歌劇団を生み出したのも、阪急創業者・小林一三さんです。 (「東宝」が「東京宝塚」の略称とは、本著を読むまで知りませんでした) こうして創業時からの流れを見ると、阪急は鉄道事業をきっかけに発展したとはいえ、 多くの鉄道会社のように「鉄道事業が絶対的な主」ではないことが良く分かるだろう。 鉄道事業自体の発展ももちろん必要だが、 街を発展させるための手段として鉄道を整備し、 また逆に沿線を開発することで鉄道事業の利益に結び付ける。 二つの車輪をうまく回しつつ、沿線に住む人々の生活をレベルアップするための さまざまな提案をよどみなく続ける。 それが阪急と沿線のブランド向上につながり、沿線の人々の満足度を高める。(p.66)車両の顔つきやスタイル・カラーの変化、シート、内装についての記述には「そうだったのか!」と気付かされることがとても多かったです。また、プラットホームや駅名標や自動改札、カードシステム、駅ナカ事業等の駅とサービスに関する記述も、とても興味深いものでした。さらに、沿線開発を巡って繰り広げられた阪神、京阪との攻防戦やなにわ筋線や伊丹空港アクセス戦、神戸市営地下鉄線の乗り入れ構想についても、現時点での状況や今後の展望が記されており、沿線に住む者にとっては、嬉しい構成になっています。
2021.04.04
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流行に乗り遅れましたが、やっと読みました。 1926年に米国で出版された『The Richest Man In Babylon 』を 翻訳、脚本、漫画化したもので、内容的にはビジネスマン向けの自己啓発書。 なぜ、これほど売れたのでしょう? ***プロローグ 金に動かされる現代人 元大学教授で考古学者の大場拓也が、バビロニアの発展を支えた『黄金の法則』が書かれた粘土板を、友人の勧めで解読することになります。第1章 バビロン一の大金持ち -なぜ、同じように働いているのに、貧乏人と大金持ちがいるのか? 15歳の武器職人の息子・バンシルは、バビロンの大富豪・アルカドに金持ちになる方法を聞きに行きます。アルカドは「収入の十分の一を貯金することだ」と答えます。第2章 学びの殿堂 - 大富豪だけが知っている「黄金に愛される七つ道具」 半年後、バンシルは次の教えを請うためにアルカドが開催する「学びの殿堂」に出かけます。アルカドは、そこに集まった人々に「黄金を増やす七つの道具」の全てを授けます。第3章 試練 - 価値があるのは、金貨が入った袋か、知恵が詰まった袋か? 3日後、バンシルの前に現れたアルカドが「お前は、金と知恵、どちらか一方を手に入れられるとしたら、どちらを望む?」と尋ねます。「知恵」と答えたバンシルに、アルカドはそれを証明するための旅に出るよう告げますが、その旅でバンシルは無一文となってしまいます。その時、アルカドから手渡された知恵の袋を開けると、そこには「お金」と「幸せ」を生み出す5つの黄金法則が刻まれた粘土板が入っていました。第4章 帰還 - 賢者の助言によって、貯金が懸命に働きだす その後の努力で、旅の目的を達成したバンシルはバビロンに戻り、アルカドから同志としてバビロニアの発展に協力して欲しいと頼まれます。しかし、バビロニアには北方から夥しい数の騎兵が迫っていました。第5章 ザ・ウォール -「守るべきもの」があるから人は何度でも立ち上がれるアッシリアの攻撃を、バビロニア王国は高い城壁で防ぎきります。しかし戦の中、敵兵に攻撃されたバンシルを庇い、アルカドは絶命してしまいます。第6章 奴隷だった男 - 己の心は「奴隷」のものか、「自由民」のものか 戦で両親と一切の富を失くし、失意のどん底にいたバンシルに、金貸しのダバシアが自らの奴隷時代を語ります。ダバシアから「両親やアルカドに恩を返せたのか?」と尋ねられたバンシルは、再び立ち上がります。第7章 伝承 -はるか昔の借金返済記録が、現代人を救う 必死になって借金を全て返済し終えたバンシルが、王女と結婚することになります。一方現代では、大場拓也がバンシルの残した借金返済記録を懸命に解読していました。第8章 王子の商隊 -なぜ人は働くのか。それは金のためではなかった 数年後、バビロニア王子であるハダン・グラに「何故すでにお金があるのに働くのか」と問われた義兄・バンシルは、「お金なんておまけだ」と語ります。エピローグ 最後の黄金法則 大場拓也は『黄金の法則』の解読に成功し、失った職と妻娘を取り戻していきます。お話とは別に、章と章の間には次のようなコラムも掲載されています。コラム1 収入の十分の一を貯めるとどれくらい貯まるのかコラム2 収入の十分の一を貯金しても「生活水準が変わらない」は本当かコラム3 私たちは何に投資をするべきかコラム4 現代における「懸命な投資先」とは その1コラム5 現代における「懸命な投資先」とは その2 コラム6 お金があれば幸せか賢明な投資先として「外国株式のインデックスファンド」の長期運用を推奨した箇所は、「本題のお話の流れのなかで、これはどうなの?」と、唐突に感じてしまいました。
2020.11.22
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先日読んだ『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の 第6章「美のモノサシ」で、ここ数年でマツダのイメージが大きく変わった、 現在のマツダは、日本の自動車市場においてはじめて、 世界水準でトップクラスのデザイン力を持つに至ったと記されていました。 そのデザイン面での躍進を支えいるのが、前田勇男氏のリーダーシップであり、 その到達点が「魂動:Soul of Motion」というデザイン哲学とのこと。 私は、このような変化に全くと言っていいほど気付いていませんでした。 そこで、近年のマツダの変貌を知るため、本著を手にしたのです。 ***本著は、日経ビジネス編集部シニア・エディターの山中浩之さんによるマツダの元会長・金井誠太さんへのインタビューをまとめたもの。金井さんは、車両設計が専門の生粋のエンジニアで、どん底だったマツダを立ち直らせ、フォードの支配から脱出させた人です。 大組織で、大勢の人が関わる仕事だと、 途中からやりなおすのはものすごい手間と時間とコストがかかります。 「今回はもう無理だ。次のモデルチェンジのときに最初からやりなおそう」、 という発想になる。だから「オールニュー」。 でも、またまた最初によく考えていなかったら、同じことになってしまう。(p.49)これは、金井さんの言葉。「最初によく考えること」の重要性を述べています。 じゃあ、最初からムダな仕事が起きないためにはどうするか。 仕事はまず「P」に重点を置くべきです。 しっかり考えて、あとは淡々と実行していけば成果が上がる、これが理想です。 始まる前に重点を置く。こっちは「PDマネジメント」ですね。(P.63)これも、金井さんの言葉。言っていることは先ほどと同じで、「始まる前にしっかり考えること」がポイント。 「考えて間違うこと」は、罪じゃない。 「考えないで始めること」と、 「間違えても手を打たないこと」が罪なんです。(p.65)そして、これが金井さんによる極めつけの一言。「まさに!!」ですね。 現場に無理難題が降ってくる時点でその計画は失敗であり、 やらなくてもいい仕事をさせられただけなのに……。 「英雄の誕生とは兵站の失敗にすぎない」という言葉を思い出す。(p.66)これは、著者の山中さんが、まとめのページに書いたもの。ちなみにこの言葉、林譲治さんの『星系出雲の兵站1』の帯に書かれていました。 つまり「いいものをつくれば売れる」ということですか? いや、そんなことは思っていない。 「いいものをつくらないと売れない」とはおもっていますよ。(p.260)これは、山中さんの問いに金井さんが答えた部分。山中さんは、この後(またやられた、と思っている)と記しています。さて、本著を読むきっかけとなった前田勇男氏ですが、金井さんが技術畑の人だけに、登場シーンはごく限られています。それは、2010年にミラノで「魂動デザイン」を発表した時に、靭(SHINARI)というコンセプトカーの評判が良かった時のお話。 金井 そこで「アテンザ、もうちょっとシナらせたいよね」と、 マツダの「だだっ子三人衆」が言い出した(笑い) - だ、だだっ子三人衆。 金井 デザイナーの前田(育男氏、現常務)と、例の藤原(清志氏、現副社長)、 そして毛籠(勝弘氏、現専務)。 そりゃ無理だろうとこっちも最初怒ったけど、 じゃあ、やるか、シナらせようとデザイナー陣をはじめ全員が頑張って、 やり替えた。もちろん、その後の新世代車種群も 一斉にシナらせることになりました。(p.270)マツダのデザインや、前田氏について詳しく知りたいのなら、本著あとがきの「参考図書リストにかえて」に示されている前田氏自身の手による『デザインが日本を変える』の方が良かったかも。
2020.06.13
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副題は『経営における「アート」と「サイエンス」』。 帯には『日本の人事部「HRアワード2018」(書籍部門)最優秀賞受賞!』、 「ビジネス書大賞2018準大賞受賞!」、そして「続々重版!」とあります。 私が手にしたのは、2018年12月15日15刷発行のもの。 *** 現在、企業活動の「良さ」は、様々な評価指標=KPIによって計量されています。 典型的にそれは、「資本回転率」であったり「生産性」であったりするわけですが、 このような指標で計ることができるのは、当然のことながら 企業活動の中でもごく一部の「計測可能な側面」に限定されることになります。 しかし、企業活動というのは極めて多岐にわたる複雑な要素によって構成される 全体的システムであり、従って経営の健全性は、必ずしもこのような 「計測可能な指標」によって計れるわけではありませんし、 そもそも、計られるべきではないでしょう。 しかし、残念ながら現在の日本企業の多くは、 経営に関わる人たちの美意識がほとんど問われず、 計測可能な指標だけをひたすら伸ばしていく一種のゲームのような状態に陥っていて、 それが続発する「コンプライアンス違反の元凶になっています。(p.23)あまりにも「数値」偏重で、それに振り回され続けている現状。誰もが気が付いていながらスルーしてきたことを、著者はズバッと指摘しています。そして、誰もが皆、「論理」と「理性」に頼った意思決定をしようとしたために、袋小路に入り込んでビジネスが停滞し、他者との差別化も喪失してしまったと。そして、健全な経営のためには、アート・サイエンス・クラフトのバランスが重要であるにもかかわらず、アカウンタビリティが強く求められる現在のビジネスでは、その点でサイエンスやクラフトに劣後するアートは、ないがしろにされている。しかし、不確実性の高い意思決定においては、論理的確度は割り切って、「ミッション」や「パッション」に基づいた意思決定、「直感」や「感性」といった「美意識」に基づいた意思決定が必要になり、今後、ビジネスパーソンにとって「美意識」は非常に重要なコンピテンシーになるとも。 私は「デザイン」と「経営」には、本質的な共通点があると思っています。(中略) では両者に共通する「本質」とは何か? 一言で言えば「エッセンスをすくいとって、後は切り捨てる」ということです。 そのエッセンスを視覚的に表現すればデザインとなり、 そのエッセンスを文章で表現すればコピーになり、 そのエッセンスを経営の文脈で表現すればビジョンや戦略ということになります。(p.78)その他、グーグルの社是「邪悪にならない」についての記述(p.134)や、原研哉さんの『デザインのデザイン』についての記述(p.192)等も、とても興味深く、頷ける内容でした。良く売れたのももっともだと思わされた一冊でした。
2020.05.17
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「意思決定」について書かれた一冊。 行動経済学は、人間の意思決定のクセを、いくつかの観点で整理してきた。 すなわち、確実性効果と損失回避からなりたつプロスペクト理論、 時間割引率の特性である現在バイアス、 他人の効用や行動に影響を受ける社会的選考、 そして、合理的推論とは異なる系統的な直感的意思決定である ヒューリスティックスの4つである。(p.ⅳ)本著冒頭「はじめに」で、いきなりこのように述べられているので、読み手としては少々面食らうのですが、大丈夫、心配無用!「第1章 行動経済学の基礎知識」で、実例を示しながら、分かりやすく説明されていきます。それを受け、「第2章 ナッジとは何か」が展開されていくのですが、この「ナッジ」こそが、本著の肝。「行動経済学的知見を使うことで人々の行動をよりよいものにするように誘導するもの」と、著者は説明しています。人々にとって「必要な意思決定」は何か。そして、それを阻害する要因である「ボトルネック」は何か。阻害要因を排除し、人々をよりよい意思決定へと促す「ナッジ」はどのようなものか。様々な状況について、その例を挙げながら考察がなされていきます。 ***政府や企業、様々な機関が、「コミットメント手段」や「贈与交換」「社会規範」、さらには「デフォルト(初期設定)」を利用しながら、人々の意思決定を促しているということが、本著を読んでよく分かりました。特に「デフォルト」は、とても重要ですね。
2020.04.26
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著者は田村耕太郎さん。 かつて、色々と話題になった方(らしい)。 しかし、本著を読み始めたとき、私はその方と全く気付いていませんでした。 それ故、先入観なしに読み進め、読了することができました。 *** 敵と思ってしまうほど苦手意識を感じる相手でも、飛び込んで付き合ってみれば、 意外とそれほど嫌いにはなれない相手だったりする。 そもそも、たった一度の貴重な人生を謳歌したいときに、 積極的に人を嫌いになる理由はない。 無理して好きにならなくてもいいが、 わざわざ嫌いになって敵と思う必要もないのだ。(p.58)嫌いな人や敵は、少なければ少ないほど良い。それだけ、ストレス要因が減るわけですからね。 頭に来るべき意義もない人は上手に避け、 プライドも正義感もおせっかいな心も捨てて一目散に逃げよう。 そして、できるだけ早く相手に忘れてもらおう。(p.66)これは、本著のタイトル『頭に来てもアホとは戦うな!』について述べた部分。自分にとって意義のない相手からの仕掛けには、決して乗ってはいけません。 人間は感情の動物である。 自分の気を済ませるために相手を不快にさせてしまえば、 敵は増やしても、仲間はできない。 そんな状態で成功できるだろうか? 腰を低くしてフレンドリーにすれば敵はできないし、 応援者は増える可能性が高い。(p.86)一時の感情に任せ、相手を叩きのめし、鬱憤を晴らしても、後に残るのは苦い思いだけ……「あるある」ですね。 うまくいかないことがあっても 「それくらいのことは人生よくある。ビジネスをやっていれば当たり前のこと」と 平然として笑顔を見せる。(p.106)この域に達することが出来れば、どれだけ素晴らしいことでしょう!私は、まだまだ修行が足りません。 そもそも、この世には”不本意な人事異動しかない”と思おう。 希望通りの人事が行われる可能性など本当に小さい。 なぜなら、全員の希望を聞いていたら人事など行えるはずもない。 また、その人にとって何が本当に最適で最高な人事なのかは、 配置されるほうにも配置するほうにも完璧にわかるわけではない。(p.127)まさにその通り……ですが、これも、この域に達するのは、そう簡単なことではない…… ドラマや映画の世界に出てくるような、素敵な職場を想定して社会に出るから、 そうではない現実にぶち当たるとストレスを感じてしまう。 世の中は自分に都合よくできておらず、それどころか多くの場合、 「自分にとって理不尽だ」と感じるくらいでいいのである。 不機嫌な職場環境でも、心持ち一つでストレスはコントロールできる。(p.159)期待値を上げ過ぎず、目の前のことに一生懸命に取り組むなかで、自分と自分の周囲を面白く、そして楽しくしていこうということですね。 自分がコントロールできないことについて、あれこれ悩んだり、心配したり、 イライラしたりしても仕方がない。 そして基本的に他人の気持ちはコントロールできない。 これは家族でも友人でも恋人でも社員でも同じだ。(p.167)これは素直に納得。そうありたいです。 敵との関係改善は、地道に時間をかけてやるのが筋だ。 よって、一緒にいる時間を増やしていくことが事の本質である。 ギクシャクしても真摯に向き合う時間を共に持つことが大事なのだ。 時間というのは貴重なものであると同時に、関係改善の最高の妙薬だ。 何事も地道にコツコツと積み重ねてきたものだけが本物になる。(p.178)これも得心。こうあらねばと思います。
2020.04.05
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副題は「仕事と人間関係を劇的によくする技術」。 思わず手に取りたくなるようなネーミングで、よく売れました。 そのためもあってか、カスタマーレビューへの投稿数はかなりのもの。 ところが、その中身を見ると、結構厳しい意見が多い……。 読み進めると、「なるほど」と納得させられました。 「良いこと書いてるな!」と、感心させられるところも数多くあるのですが、 「……」と、こちらがフリーズしてしまいそうになるところも結構多い。 この振れ幅が、半端ないのです。色んな商品を、自分の目で、直にじっくり見てみたいと思って出かけたお店で、入店早々、店員さんにつかまってしまい、色々と話しかけられ、説明され続けて、結局、自分の思いを何も達成できないまま、店を出ることになってしまった感じ。まぁ、私にとっては、とても苦手で、心地よくない状況になってしまいました。もちろん、こういった対応を好ましく思い、そんな店員さんとの相性がバッチリ、という方もたくさんおられると思います。そんな方たちにとっては、とても参考になる一冊になるのではないでしょうか。実際、この本は、たくさん売れているわけですから。
2020.02.23
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副題は「部下が自ら成長する『気づき』のポイント」。 帯には「自分で『答え』に気づいた時 部下は劇的に成長する。」 「『教える』から『気づかせる』へ」とあります。 この本の内容を、明瞭かつ的確に表したものです。 これは、まさに今、学校でやろうとしていることと同じ。 『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』にも書かれている 「教師が教える授業」から「子どもが学ぶ授業」への大転換、 様々な学校で行われている数々の実践と同じですね。 ***リーダーが部下との間に信頼関係を築くために、相手のことを、どんな人なのか感じ、客観的に見て、よりフィットしたかかわりをしていかねばならないと、著者は言います。そのために、次の事柄について今一度思い浮かべてほしいと。 ・一言でいうとどんな人物か ・どんな経験をしてきたのか ・好きなことは何か ・大事にしている価値観は何か ・どんな経験や出会いが部下の考え方や価値観を形づくってきた(と思う)のか ・現時点で仕事に何を求めているのか ・どういう時にやりがいや喜びを感じるのか ・仕事で大事にしていることは何か ・強みは何か ・今の職場でどんな課題を抱えているのか、もったいないところはどこか ・繰り返し見受けられる思考パターンは何か ・今どんな壁にぶつかっているのか ・どこを伸ばしであげるとさらに輝くのか ・今までの枠を超えて行くために何が必要なのか ・今までの枠を超えることができたらどんな可能性があると思うのか ・どのようなサポートがあると伸びるのか ・会社の状況・組織方針と照らし合わせて、 どのような具体的な目標を設定するとバランスがとれるのか(p.068)これだけのことを本当に把握・理解できていたならば、その部下との接し方や関わり方は、随分奥深いものになっていくことでしょう。これは、学校における教師と生徒との関わりにおいても同じですね。学校においては、それに加え、保護者や家庭環境の把握・理解も必要となるでしょう。 どうなるかというと、 前者の「意見は同意していても、聞き手の相手を受け入れない」向き合い方は、 話し手の心が折れ、信頼関係も損なわれていきます。 逆に後者のように、 「意見が違っても話し手の話を尊重しながら、聞き手が自分の意見も伝えていく」 ほうがずっと信頼関係を築けるようになったのです。(中略) 部下が話しかけているのにパソコンに向かい合ったまま目を合わさなず会話したり、 腕組みをしながら話を聞いたりするなど、 思い当たることがあるのではないでしょうか(p.090)これは本当に気をつけたいところですね。特に上司と部下との関係にあれば、上司の方は、知らず知らずのうちにそうなってしまっているかもしれません。教師と生徒との間でも、そうですね。
2019.07.21
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ホリエモンがAIについて書いた一冊。 私がこれまでに読んだAI関連の書籍は、 『AIに心は宿るのか』『AI vs 教科書が読めない子どもたち』 そして『神童』くらいのもの。 それでも、本著の中に登場する事柄は、結構既知のものが多かった。 AIがロボットのような「身体性」を得た時、 AIがさらに進化のジャンプを果たすということも、 いずれかの書籍で触れたいたように思う。それでも、本著で紹介されているAIロボットの様々な実例は、とても興味深いものばかりで、新たな気付き、発見があった。 いずれ、ひとりに1台、 何なら複数のアンドロイドを所有して、 面倒ごとはすべてロボットに任せ、 自分は好きなことだけやっているという時代になるかもしれない。(p.88)本当に、そうなるかもしれないとも思う。しかし、その時にする「好きなこと」って? いま、AIやロボットはものすごい速さで、 私たちの社会から「面倒くさい」「つらみしかない」 という仕事や作業を奪っていってくれている。 同時に、お金がなくても暮らしていける社会制度と食料供給の体制も、 整いつつある。(p.185)「お金がなくても暮らしていける社会制度と食料供給の体制」は、ベーシックインカムという、政府が生活費として、すべての国民に一定額を支給する制度と、農業の完全自動栽培による、野菜・穀物の各家庭への配布により実現すると言う。その時、人にとって「生きる」とはどういうことになるのだろう?
2019.04.21
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「ある種の行動様式・思考様式を持った特定の人物像」。 これが、本著におけるオッサンの定義です。 「中高年の男性=オジサン全体に適用できるものではない」と、 著者は「はじめに」の中で予め断っています。 そして、本著の中でしばしば使われる「大きなモノガタリ」とは、 「いい学校を卒業して大企業に就職すれば、一生豊かで幸福に暮らせる」という 昭和後期の幻想のことであり、「現在の50代・60代の『オッサン』たちは、 その喪失以前に社会適応してしまった『最後の世代』」であるとしています。そんな彼らは、1950年代から70年代までの「教養世代」と、90年代以降の「実学世代」に挟まれた「知的真空世代」であり、「アートにもサイエンスにも弱いオッサンたち」とされています。そして、そんな彼らが社会や会社の上層部で実権を握っていることが問題なのだと。 *** 「数」がパワーとなる現代の市場や組織において、 構造的に最初に大きな権力を握るのは、 いつも大量にいる三流から支持される二流ということになります。(p.39) 二流の人間が社会的な権力を手に入れると、 周辺にいる一流の人間を抹殺しようとします。(p.41) 二流のリーダーが率い、三流のフォロワーが脇を固める一方で、 一流と二流の人材は評価もされず、したがって重用もされず、 日の当たらない場所でブスブスと燻ることになります。(p.42) 組織のポジションと能力や人格には、 統計的にあまり相関がないことがわかっているからです。(p.101)このようにして、世代を経るごとにリーダーのクオリティが低下し、組織が劣化していくと、著者は言います。 個人の能力開発の70%は、実際の生活経験や職業上の経験、 仕事上の課題と問題解決によって発生します。(p.147) 良いリーダーは、良い職業体験によって作られ、 その良いリーダーがまた良い業務体験を人に与えてリーダーを育成する。 つまりリーダーというのは 一度生まれると拡大再生産される傾向があるということです。(p.151)リーダーのクオリティが低下し、組織が劣化する中で、どのように良い職業体験を積ませ、良いリーダーを育てるか。「支配型リーダーシップ」から「サーバントリーダーシップ」への転換。これが、一つの道標となるかもしれません。
2019.03.24
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「イオンを創った女」とは、小島千鶴子のことである。 イオン名誉会長・岡田卓也の実姉であり、 三重県四日市市の岡田屋呉服店がジャスコへ、 さらにイオンへと発展していく基礎を築いた人物。 千鶴子は5人姉弟の次女、卓也は最年少で唯一の男子だったが、 千鶴子が11歳の時、父・惣右衛門が43歳の若さで急逝してしまう。 その後は、33歳の母・田鶴が女手一つで呉服店を切り回していたが、 その母も心労から病に倒れ、千鶴子が20歳、卓也が10歳の時に他界する。 母が療養に入ってからは、長女・嘉津子が店を取り仕切っていたが、その姉も千鶴子が23歳の時に亡くなってしまう。その結果、残った姉弟の中で唯一の成人者であった千鶴子が、末弟の卓也が岡田屋を引き継ぐ日に向け、代表取締役として奮闘することになった。 ***本著では、小島千鶴子にまつわる数々のエピソードが紹介されているが、『戦後の収束』という書物で得た、第一次大戦後のドイツ狂乱インフレ収拾策を活かし、1946年のインフレによる新円切り替えを前にして、会社に残っていた現金を全て商品に換えたという逸話が、最も印象に残った。 つまるところ、人材を育成しプールしておくことが経営者の責務である。 そうして人材の層に厚みができれば、それは組織の生命力そのものであり、 そいうった組織は永続性が保証されるのである。(中略) 教育は訓練とは異なり、一朝一夕に効果が出るものではない。 この時間に耐え、これに要する経済的負担を投資と考えることこそが 未来を拓く要諦である。(p.218)事を為すことは難しい。そして、その成し遂げたことを維持・継続していくことは、より難しい。ましてや、それをさらに発展・向上させていくとなれば、これはもう至難の業である。が、それを目指さない限りには、維持・継続など到底できないだろう。
2019.02.03
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帯には、CONTENTS 第1章◆電通とは何か、鬼十則とは何か、 第2章◆日本企業の特徴と働き方の現実、第3章◆ドイツに学ぶ生き方と働き方、 第4章◆働き方改革の落とし穴、第5章◆これでいいのか!マスメディアの実態、 第6章◆デジタル時代の若者の生態と第4次産業時代の到来、と記されています。 私にとって、とても興味深い内容ばかり。 価格は1,980円+税なので、たっぷりと堪能できることでしょう。 早速ネットで発注、大いに期待しながら家に届くのを待っていました。 けれど、発注の前に、本著のページ数を確認するのを忘れてた……届いたのは、166ページの超コンパクトな一冊。ここに、CONTENTSで示された内容が、全てギュッと凝縮されている!?読み進めてみたものの……そりゃぁ、この紙幅の中に、これだけの内容を、読者の期待を裏切らないレベルで詰め込むのは至難の業、ですよね……。電通について、鬼十則について、新入社員の自死事件については、また改めて、他の書籍を当たってみます。それでも、本著により、電通が「広告代理店」ではなく「広告会社」であること、「インターネット広告」でつまずいたことは分かりました。
2019.01.27
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『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? 』以来、 久しぶりに西村氏の著作を読みました。 対人関係において、自らの立ち位置をどのように設定しているかや、 西村氏の人となりが、本著を読み進めていくと分かってきます。 さて、本著には西村氏の「論破のテクニック」が、多数紹介されています。 人は怒りの感情にかられると、 通常の行動パターンと違う行動パターンを取るようになります。(中略) 多くの場合、冷静さを欠いた発言というのは、 論理性を欠くので説得力が低下します。(p.32)これは、感情的になってはいけないということ。逆に、相手を感情的にさせて、こちらが優位に立つ方法も指南してくれています。 要は、主観には答えがないので本質的には説得が不可能ということ。 なので、主観が交じる議論というのは「やるだけ無駄」度が高いわけです。(p.84)これも納得ですね。西村氏は、そういう議論には出来るだけ加わらないようにしていると述べています。 実生活でも論破力は諸刃の剣だということをまず知っておいてほしいと思います。 夫婦ゲンカで相手を論破しても、いいことなんてまったくないでしょう。 たとえば営業マンだったら、相手にモノを買ってもらうことが目的ですよね。 大事なのは「いや、いらないよ」と言われないようにすること。 つまり論破しようなんて考えるよりも、 酒でも飲みに行ってお客さんと仲よくなるほうが、効率がいいわけです。(中略) その場で相手を言い負かしても、「もうおまえからは絶対買わねぇ」となったら、 まったく意味がないでしょう。(p.19)これが、本著の中で私が最も印象に残ったところ。 相手を言い負かすことが「勝利」とは限らない。ところで、本著の至る所で「おいら」とか「~のですよ」とかいう表現が見られますが、これって、実際に著者自身が記した表現なのでしょうか?
2019.01.14
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今や、誰もがその名を知っているアマゾン。 しかし、本著を読むと、実はアマゾンについて何も知らなかったと気付かされる。 今、ビジネス界で何が起ころうとしているのか。 それを知るために、絶好の一冊! ***本著を読んで、まず驚かされるのは、アマゾンの貪欲な投資姿勢。97年の上場以来、株主に配当を一度も支払うことなく、毎年数千億円を費やして、最強の物流システムを築き上げた。これにより、商品の注文翌日配達が可能となった。また、FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)は、アマゾンに出品する中小企業に、倉庫、在庫管理、決済、配送、カスタマーサービスまでを提供するという仕組み。FBAを利用する出品業者は、自社製品をアマゾンの倉庫に送るだけという便利さ。この仕組みが、アマゾンの品揃えを桁違いなものにした。そして、AWS(アマゾンウェブサービス)は、巨大なサーバーを用意し、その中のシステムを、オンラインであらゆる企業に提供するというもの。AWSを利用する企業は、独自にシステムを開発・運用するよりも、遥かに安いコストで高性能なシステムを使用できるので、CIAもその顧客。つまり、それを利用する側にとって、非常に都合の良い数々の仕組みやインフラを、積極投資でいち早く作り上げたのがアマゾンであり、もうそれを利用しない手はないという状況が、世界規模で出来上がりつつあるというのだ。それは小売業の範囲に留まらず、ITや金融業界をも席巻する勢いである。このまま、あらゆる分野でアマゾンの一人勝ちが進んで行くと、私たちの様々な個人情報が、アマゾンに集約され、そこに繋がる者たちに、知らぬまに利用されてしまうことになりかねない。便利さとトレードオフの関係で差し出さねばならないのは、そういうものである。
2018.12.01
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インターネットの普及により、 私たちは、情報を「大量に、手早く、手軽に」入手することが可能となった。 が、膨大な情報の中から、真に必要で重要なものを入手することは容易ではない。 そこに質を求めるのなら、なおさらである。 そして、アウトプットというものは、情報入手の容易さに比例するものではない。 もちろん、インターネット上での発信の手軽さは、飛躍的に向上したが、 そこに溢れかえっている情報の中から、 自分の発信した情報を探り当ててもらうことは、容易ではない。本当に重要な情報は、誰もがアクセスできる場所や方法で、そんなに簡単に手に入れられるものであろうはずがない。また、世の中に求められるような情報を発信しようとするならば、他には見られない、オリジナリティに溢れるものを創造する力量を要求される。 ***さて、本著は「アウトプット」について述べた一冊である。第1章の小見出しは、「日本の大人はアウトプットが不足している」「相づちはアウトプットではなくリアクション」「インプットはもう十分に足りている」というような感じ。続く第2章のタイトルは「書くアウトプットがいちばんラク」で、サブタイトル「書ければ、必ずお金になる」に続く。小見出しは「簡単に書け」「800字と思うな、100字×8だと思え」「媒体を意識せよ」「都都逸調にリズムを整えよ」等々。そして、第3章「やるほどうまくなる!話すアウトプット術」のサブタイトルは「説得、プレゼン、雑談のコツ」。 文章もそうだが、しないでいると、 みるみるうちにそのスキルが低下していってしまう。(p.86)この部分は、大いに頷ける。書くことも、話すことも、サボっていると忽ちレベルダウンしてしまう。 NHKのアナウンサーの読む速度は、1分間に300文字と言われている。 プレゼンでもこれにならい、1分間で300文字のペースを目指したい。(p.106)私はこれまで、1分間に400文字が標準的な速度だと思っていたので、正直驚いた。これは、かなりゆっくりな速度だ。しかし、「早口になり、聞き流しを誘発する」ことは防げる。話し手も、ゆとりをもって、落ち着いて話をすることができそうだ。 私には、この第3章が最も有益な部分であったが、第4章『印象を操作する「見た目」のアウトプット術』第5章『インプットするなら「知識」ではなく「技法」』第6章「アウトプットを極上にする対話術」も、それぞれ面白かった。
2018.10.21
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著者は、起業はやめておけという。 飲食店経営など、もってのほかだという。 全くのゼロから事業を立ち上げ成功させられるのは、選ばれた人だけ。 ベンチャーキャピタルの業界でも「千三つ(0.3%)」といわれるのだと。 そこで、お薦めなのが、後継者問題に直面する中小企業の個人買収。 つまり、現社長から会社を買い取って事業を承継、自ら社長になれと。 前近代的な中小企業の経営を、大企業勤務で得たノウハウで改善するのは簡単。 そこで得られる役員報酬とキャピタルゲインで、資本家・資産家を目指そうと。著者は、今年40歳になる、株式会社日本創生投資の代表取締役CEO。中小企業に対する事業再生・事業承継に関するバイアウト投資を行っている。かつて、ソフトバンク・インベストメントで、ベンチャーキャピタリストとして、ベンチャー投資や、投資先でM&A戦略や株式公開支援を行った経験を持つ。また、兵庫県議会議員を務めた経験まで併せ持つ。さらに、加古川市長選に立候補するも落選し、神戸市長選では、樫野孝人候補(落選)の事務局長を務めた経験も。なかなか多種多様な経験をお持ちの方です。
2018.07.08
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副題は「本当に戦えるリーダーになる7つの裏技」。 帯には「きれいごとだけでは、人は動かない!」。 つまり、ロジカルシンキングや財務関係知識、プレゼンテーション力、 資料作成・エクセル活用スキル等のブライトサイド・スキルだけでは不十分。 そこで必要とされるのが、ダークサイド・スキル。 「思うように上司を操れ」「KYな奴を優先しろ」『「使える奴」を手なずけろ』 「堂々と嫌われろ」「煩悩に溺れず、欲に溺れろ」「踏み絵から逃げるな」 そして、「部下に使われて、使いこなせ」の7つについて、本著では述べている。 *** 小さな意思決定といっても、いまある状況に手を加えるとなると、 あちらを立てればこちらが立たないケースの連続なので、 リーダーたるもの、みんなから好かれるというのはどだい無理な話である。(中略) 部下から好かれることとと、上司として敬意を払われることは違うのだ。 近づきすぎると、好かれるかもしれないが、お互い緊張感がなくなり、 いざというときに厳しいことを言えなくなる。 だからといって離れすぎても、信頼関係が築けないから、 自分の手足となって動いてもらうことはできない。(p.105)この匙加減が、なんとも難しい。そして、「調和」を重んじ、集団をまとめることよりも、「畏敬」の念を抱かせ、集団をまとめることの方が遥かに難しい。「相手に恐れと敬意を抱かせれば、相手を動かすことできる」と言われても…… 時間のない中間管理職にとって、5分、10分の細切れ時間も貴重なので、 ネットサーフィンをしている暇などないし、 50代になると体力も衰えてくるので、長時間労働にも耐えられない。 だから、生産性を上げなければ、まともに仕事もこなせないし、 最悪の場合、病気になってしまうかもしれない。 それがミドルの現実だ。(p.184)この部分は、大いに共感できる。まさに、50代は時間と体力に気を配りながらの職務遂行が必要不可欠。そもそも、昔々は「人生50年」と言われ、20~30年前は55歳定年が主流だったのだ。医療や衛生環境、栄養状態の改善が進んだとはいえ、50代は決して若くはない。 ほうっておくと同質化して、大企業病に陥ってしまう組織を変え続けるには、 いま言った、仕組み化と社風、あとはすぐれた改革型のトップが出てくる。 この3つぐらいの保険を張っておけば、たいていの企業は生き残れるはずです。 (p.251)本著のパート3は、本著著者であるIGPIの木村氏と、『無印良品は、仕組みが9割』の著者でもある良品計画の松井対談となっており、上記は、対談中の松井氏の言葉。これも言うは易く行うは難し、である。
2018.05.20
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ホリエモンの教育論。 タイトルは極めて興味深い。 そして、それはきっと的を得たものに違いない。 第1章の見出しである『学校は国策「洗脳機関」』についても。 そして本著のいたるところから、 ホリエモンが、人や社会をどのように捉えているかがよく分かる。 「人はGとLとに分かれていく」や 「マイルドヤンキーも一つの幸せ」という言い回しはその一例。彼が生きている世界では、学校なんて必要ないということになるのだろう。周囲のことなど気にしないで、自分の考えで、どんどん進んで行けばいい、枠にはめられ、それを我慢するなんて愚の骨頂、自分は、そんな奴らとはとは別の世界を生きているのだと自負しているのだから。しかし、それがホリエモンなのである。それでこそ、ホリエモンなのである。そして、彼に学校は必要ない。でも、この世に学校が必要ないわけでは決してない。 *** ところが、インターネットの登場がその構造に風穴を開ける。 実はカースト制度は、ヒンドゥー教の経典に書かれていない、 新しい職業については寛容なのだ。 つまり、低いカーストの人間が政治家になることは許さないが、 20世紀になって初めて登場したIT産業に関わることは許すのである。(p.67)不勉強にも知らなかった……。このことを知ることが出来ただけでも、本著を読んだかいがあったというものだ。
2018.04.29
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ホリエモンと井川氏の対談を書籍化したもの。 井川氏とは、かつて大王製紙の会長を務めていた際に、 カジノで使った106億円余を、子会社から資金として借り入れ、 特別背任で懲役4年の実刑判決をくらったという人物である。 この二人の共通点は、かつて東大で学んでいたということと (ホリエモンは文学部中退、井川氏は法学部卒)、 刑務所での暮らしを経験したことがあるということ。 それが本著タイトルの由来である。そこで語られている刑務所内の話やビジネス会の夜の話は、一般世間の慎ましやかな生活しか知らない者にとっては、かなり現実離れした内容。刑務所内の話は当然のこととしても、二人の口から出てくる酒席や女性の話には、相当驚かされる。彼らは、限られたごく一握りの選ばれた人間なのだと強く思わせられる。だからこそ、強烈な個性で、常人ではなし得ないことをなしてきた。しかし、そこに共感を覚える人は、そんなにはいないのではなかろうか。カスタマーレビューの結果は、それを物語っている。
2018.04.07
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岩崎弥太郎に始まる「三菱」の歴史。 戦後の財閥解体を経て、1950年代に入ると再集結開始。 2017年3月期における、グループ上位10社の総資産額は400兆円超。 グループ全体38社だと、推定450兆円に達するという。 三菱油化の天下り受け入れ拒否から三菱化成との合併劇まで 1993~1994年当時の金曜会の会員企業数は現在より1社多い29社。 その顔ぶれには若干、変化が見られるが、 この間、変わらずに中枢をなしてきたのが 三菱重工業、三菱東京UFJ銀行、三菱商事の御三家なのである。(p.50) 現在の主要企業は三菱地所、三菱東京UFJ銀行、三菱マテリアル、三菱電機、 三菱ケミカル、日本郵船、明治安田生命保険、東京海上日動火災保険、旭硝子、 キリンホールディングスの10社。 外様は三菱自動車工業、三菱UFJ証券ホールディングス、ニコンなど15社。(p.72)本著は、この三菱グループの強さの秘密を明らかにしようというものだが、第1章は、なぜか「三菱自動車の行方」。本著は2017年7月の発行なので、新しい情報も掲載されているが、内容的には2016年09月発行の『不正の迷宮 三菱自動車』の方が、当然詳しい。そして、第3章が三菱東京UFJ銀行、第4章が三菱商事、第6章が三菱重工業と、御三家について、現在の状況が述べられている。三菱東京UFJ銀行について述べられる、旧三和銀行や東京銀行出身者の立場や、三菱UFJ信託との関係は、まるで池井戸潤の世界。また、三菱商事については、住友や伊藤忠、三井物産とのせめぎ合いよりも、ローソンに関わる記述の方が興味深かった。さらに、三菱重工については、造船業や小型ジェット旅客機の厳しさよりも、原子力事業の不調の方が気になった。そして、本著の核となるべき内容が記されているのは、第2章の『最高意思決定機関「金曜会」の秘密』と、第5章の『三菱を動かす慶応ねとワーク』ということになるのではなかろうか。本著のタイトルからすれば、この部分にもう少し力点を置いてほしかった。
2018.02.04
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本著の表紙には、 バッタコスプレで、捕虫網を手に構えている人物が写っている。 これが、本著の著者・前野ウルド浩太郎さん。 裏表紙には、全身緑タイツでバッタの群れの中に立つ姿も。 まるで、お笑い芸人である。 しかし、彼は正真正銘の昆虫学者で、バッタ博士と呼ばれるほどの人物。 その研究にかける熱意、姿勢はまさに本物。 それでも、やはり一般的社会人から見ると、かなりぶっ飛んでると言わざるを得ない。本著は、そんな前野さんが、バッタ研究を日々の生活の糧とすべく遥々アフリカはモーリタニアにまで出かけ、悪戦苦闘の末に、ポスドクを脱却していく様が描かれている。彼の執念と生まれ持っての強運(?)が、ひしひしと伝わって来る。ターニングポイントとなったのは、「プレジデント」誌の石川さんとの出会いだろう。この人との出会いなしには、その後の前野さんの人生は語れない。もちろん、その出会いを引き寄せたのは、前野さんのブログだったのだが。
2017.12.30
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6つの章からなる一冊ですが、 本著のタイトルである「部下に残業させない課長が密かにやっていること」は、 その第4章のタイトルと全く同じものです。 即ち、この章が本著のメインになる部分ということでしょう。 そして、そこに記されている、残業をなくす3つの基本課題とは、 一つ目が、仕事の配分を見直し、その仕方の指導を強化すること、 二つ目が、部下たちの意識や行動の変革を促すこと、 三つ目が、マネジメント。そして、その実現のための手立てとして、部下に習い事をさせること、時間の費用対効果を考えさせること、そして、部下にオーバースペックな仕事をさせないこと、が紹介されています。さらに、部下に連続9日休暇を取らせて、残業を25%削減させた例を紹介しているのですが、これがなかなか興味深い。 これは部下の一人のAさんが 「海外で行うイベントにどうしても参加したいので、1週間休ませてほしい」 という有給休暇申請の打診から始まった。(中略) いい機会だと考えた課長は「君が9日連続(平日は5日)で休んでも 組織が回るような段取りをしてほしい」と伝えた。 Aさんは有給申請の打診から1カ月近くの期間があったので、 忙しい仕事の合間に担当業務の進め方や段取り、 困ったときの問い合わせ先などをマニュアル化した。 また、仕事上、関係する他部署の担当者にも、 案件によって誰に問い合わせすればよいかなどの資料を整備した。(p.114)この部分は、大いに共感しました。なぜなら、私自身も「自分がいなくても回るチーム」を作ることをその時々、その場その場での最終目標にし続けているからです。そして、それが出来上がったとき、そのチームでの私の役割は終わりということです。本著では、さらに、課長自身が仕事に集中する時間を確保し、部下にも仕事に集中できる環境を整える必要性が説かれています。この第4章以外では、第1章の「なぜ日本の会社は残業が多いのか」に示された、「だらだらと長時間労働になってしまう8つの原因」に、大いに納得させられました。
2017.12.09
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世の中には、投資が好きな人もいれば、そうでない人もいます。 保険が好きな人もいれば、そうでない人もいます。 ギャンブルが好きな人もいれば、そうでない人もいます。 上の三つについて、私は全て後者。 なので、本著なんか読まなくていい人の筆頭のような気もしますが、 自分のそんな姿勢が、本当に良いものなのかどうかを確認すべく、 本著のような書物も、適宜読むようにしています。 そして、いつも「このままでいいか」ということになっている次第。 ***最近、私の周辺で、生命保険の勧誘の方が来られる頻度が、急速に高まりました。本著によると、金融機関の方々は、現在かなり苦しい状況に追い込まれており、その脱却のため、躍起になっておられるとのこと。でも、そういう方が来られると、私はとても鬱陶しく感じてしまうのです。 「生命保険」は、命をかけたクジのようなもので、 自分が死亡したり病気で入院したりといった不幸な目にあわないと、 保障に支払った保険料はほとんど戻ってきません。(p.57)まぁ、そういうことなんですよね。でも、万が一のことがありますから、多少なりの備えはしています。 とにかく、死亡保障は、大黒柱が倒れてしまったら困る金額を 「生命保険」で補うという考え方でつければいいでしょう。(p.62)じゃあ、次は投資についてです。全く興味関心がないので、私自身が持っている知識は極めて少ないのですが…… QUICK資産運用研究所が、2016年10月に、 1483本の「毎月分配型投信」について調べたところ、 買って1年間保有し続けたとすると、8割の投信が分配金の半部以上を 元本から削って支払いう状況になっているということでした。 全額を元本から出しているものも2割(286本)あったそうです。(p.99)運用益だけで分配金を賄えない状況であるだけでなく、「毎月分配型投信」は、そもそも構造的に再投資が出来ず、手数料が高いものであるとのこと。このことは、次のような事態を生み出します。 運用が良くも悪くもないそのままの状態が続くとしたら、(中略) 確実に、預けたお金は減ります。 勝ちも負けもしないでいるあいだも、 必ず金融機関に手数料だけは払い続けなくてはならないからです。(p.104)次は「個人年金」についてです。従来型のものに加え、「年金」と「投資信託」が合体した「変額個人年金」があります。そして、「個人年金」には、強制的に加入させられる場合があるそうです。それが「確定拠出年金」。企業と政府、金融機関の思惑が一致し、2001年にスタートした日本版401Kです。この「確定拠出年金」を導入している企業では、社員は、これで老後資金を積み立てなくてはなりません。「確定拠出年金」で、企業は退職金の運用を社員に任せ、自らの負担を軽減出来ます。また、社員が株や債券を買ってくれると、貯蓄から投資への流れが社会に出来上がり、株価上昇や景気回復が望めるので、政府にとっても有難いことです。さらに、金融機関にとっては、社員から将来に渡って手数料を稼ぐ好機となります。 ただ、仕事が忙しくて運用にはあまり興味がないという人も多く、 会社で「確定拠出年金」に加入している人の6割は、投資などせずに 定期預金などの元本が保証されるものに加入しているようです。(中略) 銀行に貯金を入れておくならばいくばくかの利息がつきますが、 「確定拠出年金」の場合、会社の規約にもよりますが、 運用にかかる費用を個人が負担するケースもあります。 そうなると、預金では年間で数円の利息しかつかないものに、 高い手数料を払うことになります。(p.179)私は、こういう状況にはなっていませんが、周囲には結構いるようで、たいへん気の毒なことだと思います。最後に、締めの一文を。これより優雅な老後を希望するなら、投資も真剣に要検討でしょう。 ちなみに、生命保険文化センターのアンケートでは、 実際に介護にかかっている費用は1人平均550万円なので、2人でも1100万円。 医療費は、老人の場合は高額療養制度などで負担が極端に低くなっているので、 200万~300万円あれば大丈夫。 つまり葬式代も含めて1500万円あって、あとは年金の範囲内で暮らせれば、 老後は何とかなります。 これで足りなかったら、高齢者の9割近くが持ち家なのですから、 それを売ればいい。(p.212)
2017.11.19
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『先に生まれただけの僕』第5話(11月11日放送)で登場した 「PEP TALK(ペップトーク)」。 ドラマの中で登場していたのは、 岩崎由純さんの『心に響くコミュニケーション ペップトーク 』でした。 私もそちらを読んでみようかなと思ったのですが、最新情報も欲しかったので、 今年6月に発売されたばかりの本著の方を読んでみることにしました。 著者は、岩崎由純さんと共に 一般財団法人日本ペップトーク普及協会を設立した浦上大輔さんです。 ***まず、ペップトークとは何なのか?これまで、あまり耳にしたことがない言葉でしたが、次のように説明されていました。 ペップトークとは、たった1分で相手のやる気に火をつける話術として、 スポーツにおいて監督やコーチが試合前に 選手たちの士気を高めるためにかける言葉でした。 その後、コーチングの技術として多くの企業が導入し、 主にリーダーがチームや部下のやる気を引き出すスキルとして発展しました。 また今では、励ましの技術として誰でも使えるものとして、 全米では広く親しまれている話し方です。(739) ※注 かっこ内の数字は電子書籍における位置を示しています。以下同じ。なるほど。「気の利いた激励の言葉」のことなんですね。でも、その「気の利いた」というところが、なかなか難しい……そこで、そんな言葉をかけるためのポイントが示されていきます。 【ペップトークの5つのルール】 1.ポジティブな言葉を使う 2.短い言葉を使う 3.わかりやすい言葉を使う 4.相手が一番言ってほしい言葉を使う 5.相手の心に火をつける本気の関り(745)なるほど、なるほど。試合前、緊張感が最高潮に高まった中で、選手たちの胸の内にスッと入り込んでいく言葉とは、こういうものなんだろうなと、誰もが納得出来ると思います。 【ペップトークの4ステップ】 1.受容(事実の受け入れ) 2.承認(とらえかた変換) 3.行動(してほしい変換) 4.激励(背中のひと押し)(821)「受容」とは、相手の「感情」と「状況」を受け入れ、それを伝えること。「承認」とは、「マイナスの部分」から「プラスの部分」へと焦点を変えること。「行動」とは、ポジティブな言葉で、してほしい行動を伝えること。「激励」とは、気合を入れたり、安心感を与える言葉を伝えること。「なるほどなぁ」と、これも納得です。けれど「いつでも、誰にでもうまくいくものなの?」とも、思ってしまいます。 なぜ同じ言葉を投げかけているのに、こんなにやる気が違うのでしょうか?(中略) それは、相手の心の状態に合わせて声をかける必要があったということです。 言い換えれば、心の状態によってやる気になるスイッチが、 人それぞれ違うということだったのです。(1426)やはり、語りかける相手をしっかりと見つめて、その状況や心情を正確に把握していなければ、適切な声かけは出来ないようです。 実はペップトークは何を言うかということも大事ですが、 誰が言うかも大事なのです。 あなたが相手にとって信頼される存在であればあるほど、 ペップトークは相手の心に響きます。(1279)やはり、最終的にはこういうことになるのでしょう。でも、ペップトークが相手の心に響くような関係を築くためにも、普段からペップトークを心がけることは、とても有益だと思いました。それは、常に相手の身になって考えるという姿勢を維持することですから。
2017.11.19
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著者の丹羽さんは、伊藤忠商事社長に就任すると、その不良債権処理に当たり、 翌年度決算で、同社史上最高益を計上させた人物。 本著を、タイトルから本の読み方について書かれた一冊だと思い手にする方は、 「ちょっとイメージが違った」ということになるかもしれません。 もちろん、そこには「読書」についての著者の思い、考えが記されています。 しかし、随所に出てくる著者の体験談、回想シーンは、 まさにビジネス書に相応しい内容で、読み応え十分。 だからこそ、多くの人に読まれることになったのでしょう。 *** 最近、ある週刊誌の取材を受けて、その週刊誌を久しぶりに読んでみたのですが、 そのくだらない内容に驚きました。 ある老舗の週刊誌はスクープを連発して話題になっていますが、 そのスクープ記事にしても芸能人や政治家の不倫騒動だったり、 野球選手の賭博問題であったり、有名タレントの独立騒動だったりと、 愚にもつかないものが圧倒的に多い。 どうしてそうなるかというと、大衆の関心は他人の不幸を見聞きすることにあり、 心のなかは「ねたみ、ひがみ、やっかみ」に満ちているからではないでしょうか。 (p.76)これは、週刊誌だけではなく、ネット上の様々な情報も同様で、まさに、現代の日本社会を的確に表現した一文だと思います。そういうことばかりに関心を向ける人々に満ち溢れ、そういったニーズを掘り起こすことに躍起になっている送り手がいる。 その人が本をふだんから読んでいるかどうかも、すぐわかります。 読書家の人は論理的な思考ができて、話す言葉が整理されている。 この人は読書をしていないなという人と比べると、 コミュニケーションに信頼感があります。 ふとした振る舞いに人間的な幅や余裕が感じられる。(p.167)先日、ロンドン世界陸上で監督を務めた伊東浩司さんのお話を聞く機会がありました。その中で、「選手たちは人前で話せるよう、トレーニングを積んでいる」そして、「人前でしっかりと話すことが出来る選手が伸びる」と仰っていたことが、とても印象に残りました。私は、そのお話を伺いながら、本著に書かれていた上記の部分のことを思い出していました。キーワードは「論理的な思考」ではないかと。そういうものが、日々の練習にも通じているのでしょう。
2017.10.22
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どういう人が本著を手にするのでしょう? もちろん、ほとんどが就活に臨む学生に違いありません。 でも、数ある就活本の中から本著を選ぶのはどんな学生? きっと、DaiGoさんがTVで繰り広げる心理戦を見たことのある学生たちでしょう。 だとすれば、本著の中で最も強く興味を持つのは、 「第2部 好感度は作れる - 面接を支配する7つの戦略」に違いないです。 かくいう私も、その部分を読んでみるために本著を購入。 第1部と第3部は、まぁ「付録」ですね。 面接をする企業の側に立ってみてつくづく思ったこと。 それは、面接官の能力は極めて限定されている、ということでした。 普通、就職面接では、受験者の人柄や業務をこなす能力、学識、 コミュニケーションの円滑さ、それらの総合的なバランス…… などなどを見ている、ということになっています。 残念ながら、それはすべて嘘、もしくは勘違いです。 面接官にそんな能力はありません。 面接する人は、単に好感度だけで合否を決めています。 実際にその人が有能かどうか、とは関係なしに、 「どれぐらい好感度を与える人間か」によって面接の結果は決まるのです。(p.058)これが本著の大前提。でも、実際のところ、この記述に反論出来る面接官は、そんなにいないと思います。まぁ、面接試験なんて、この程度のものです。さて、面接における7つの戦略については、その締めくくりのページに、それぞれ2~3のポイントが示されています。その中で、主だったものは次の通り。 ・目立った特徴は、その人を優秀に見せ、短所・欠点を見えにくくする。 ・面接で知性的と評価されるためのポイントは、 1.視線 2.声 3.顔立ち - である。 ・面接はQ&Aである、という思い込みをまず捨てよう。 ・嘘はその場で考えるとバレる。事前に考え、人に話して練習した嘘=脚色は、 面接で十分に使える武器になる。 ・男性面接官は美女にもイケメンにも弱い。第1部や第3部は、DaiGoさんの人となりが表れています。同じような生き方を目指す人には、参考になるかもしれません。ただし、これは就職試験直前に読んでもダメかも。特に第1部は、キャリア教育の早い段階で読むとイイでしょう。
2017.08.20
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リーマンショック後の2009年12月に、中小企業金融円滑化法が施行されて以来、 約40万社の企業が、銀行からの借金返済猶予を受け、延命されたという。 倒産企業は、2010年以降7年連続で減少しているそうだが、 それでも、2016年に倒産した企業の数は8,164件にのぼる。 本著は、2015年5月から日本経済新聞電子版で掲載が始まった 「企業信用調査マンの目」という、倒産事例を扱った記事をまとめたもの。 234ページの紙幅の中に、37の事例と4つのコラムが記されているが、 1事例当たりの文字数に制限があるためか、淡々と事実が示されていく感じ。社会や消費者のニーズの変化に対応できなかった……と、後から言うのは容易いこと。時代は放っておいても確実に流れ過ぎ去っていくし、人々の心情もそれと共に移ろっていく。同じものが、ずっと必要とされ続けることなど、そうそうあることではないし、次に何が必要とされるかなど、誰もが簡単に推し量ることが出来るものではない。それ故、次々に古きものは消え去り、新たなものが生まれてくるのである。長きに渡って生きながらえることは、相当に難しい。
2017.08.11
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『東芝解体 電機メーカーが消える日』を読んで、 ここに至った東芝の経緯を改めて知るため、本著を読んでみました。 発行はおよそ1年前なので、情報としては古くなりますが、 ウエスチングハウスの赤字が明らかになった頃の状況を知るには良いと思い。 そこでは、当然のごとく権力闘争や派閥争いが日常的に繰り広げられており、 恩義ある前任者が始めたことを、後任の者が簡単に止めることなどできない構造が存在。 そして、一度ポストに就いてしまえば、自分の思いを前面に出すことより、 ポストに就いた者として、期待される振る舞いを優先せざるを得ない。ここまで傷口が広がる前に、どうして誰も止めることが出来なかったのか?第三者が、後になって言うのはとても簡単なことですが、リアルタイムで事に当たる当事者にとっては、とても難しいことなのでしょう。それでも、誰かがいつかはやらねばならなかったはず。成長戦略だけではなく、撤退戦についての具体的指針を、どの企業もしっかりと持ちあわせておくべきだと思いました。成熟した社会となった日本という国も。
2017.07.02
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NEC、富士通、日立製作所、東芝、沖電気工業は、 NTTを家長とする「電電ファミリー」のメンバー。 これらの企業は、ドコモの指示を待つことに終始。 自らスマホを開発したり、世界規模の販売網を構築したりはしなかった。 もう一つのファミリーは電力10社を家長とする「電力ファミリー」。 東芝、日立、三菱重工などの重電メーカーが設備を作り、 その下に古河電気工業、住友電気工業、フジクラの「電線御三家」と、 大崎電気工業、東光電気、富士電機、三菱電機の「電力計四天王」が連なる。戦後、巨万の富を分け合ってきたこの二つのファミリーの瓦解の発端は、日米構造協議の過程で始まった通信自由化と電力自由化。そこへリーマン・ショックと東電福島原発事故が追い打ちをかけたため、現在、日本の電機メーカーは、全滅へのカウントダウンが進んでいる。 あまり知られていないが、東芝には防衛装備部門があり、 地対空ミサイルを開発・製造している。 一方、原子炉は発電装置であると同時に、 核兵器の原料となるプルトニウムの製造装置でもある。 両方の技術を持つ東芝は「核ミサイルを作れる会社」だ。(中略) 東芝はこのほか防衛省にレーダーシステムも納入しており、 毎年、同省から500億円前後の受注を得ている。 レーダー、空対空ミサイル、赤外線シーカーなどを手がける 三菱電機は約1000億円、 NECは無線通信装置などで約800億円、 富士通は通信電子機器で約400億円を防衛省から受注している (いずれも2013年度実績)(p.76)このような事情から、国としてもこれらの企業を潰すわけにはいかない。しかし、東芝は減損を穴埋めするため、メディカル事業はキャノンに、白物家電は中国の美的集団に売却し、半導体部門をも切り離す。もし原発が国有化されるなら、総合電機の東芝は事実上消滅してしまう。副業は切り捨てたが、世界に通用する製品やサービスのないNECに未来はあるのか?ソニーは、リカーリングビジネスで、脱エレクトロニクスを成し遂げられるのか?パナソニックは、B to B(企業を顧客とするビジネス)企業へと転身できるのか?日立は、火力・原子力事業を切り離し、白物家電を売却後、どこに活路を見出すのか?富士通テン、ニフティ、パソコン事業を手放した富士通は、これからどうなるのか? フィンランドの通信機器大手ノキア。 同社は2014年、かつて世界一だった携帯端末事業を 米マイクロソフトに売却した。 従来型携帯電話からスマートフォンへのシフトに乗り遅れ、 一時は破綻も懸念される状態で、完全な「負け組」と見なされた。 だが、2016年、ノキアは通信インフラ大手の仏米合弁の アルカテル・ルーセントを約2兆円で買収し、 同市場で世界ナンバーワンに浮上した。(中略) かつて電線からテレビまで作るコングロマリットだったノキアは 1990年代の初頭、最大の輸出先であるソビエト連邦の崩壊で、 倒産の危機を迎えた。 この時、ノキアは持てる経営資源のすべてを携帯電話に集めて生き残った。 ノキアは経営の力で2度甦ったと言える。 オランダの電機大手フィリップスも、1990年代に経営危機を迎え、 2000年代初頭には半導体やテレビから撤退した。(中略) だがフィリップスは死んではいなかった。 デジタル機器の事業を売却して得た資金で医療機器メーカーを次々に買収し、 今や「医療のフィリップス」に生まれ変わり、 電機メーカーだった頃よりもはるかに高い利益率を叩きだしている。(p.102) 純利益国内1位の電機メーカーとなった三菱電機は、機械メーカーへと転身していた。シャープを傘下に収めた鴻海は、EVに進出すべくテスラやアップルと手を組む? ***本著の中でも特に興味深かったのは、2011年に当時のシャープ・町田会長が、台北にある鴻海の技術開発拠点を視察した際のエピソード(p.17)と、2010年当時、米国大型スーパーのパンや牛乳を売っているのと同じフロアで、60インチの中国製大型液晶テレビが10万円前後で並んでいたエピソード(p.118)。日本企業のガラパゴスさが、嫌と言うほど伝わって来るエピソードであり、グローバル化が叫ばれながら、視線は内向きのままだということを露呈している。まぁ、それでも海外にはノキアやフィリップスのような成功例もあるのだから、日本の電機メーカーも、何社かはきっと生き残ってくれることだろう。でも、それは総合電機企業としてではないと思われる。多くのメーカーは、既に白物家電部門を切り離している。この波は、家電量販店にも間もなく及んでいくに違いない。こちらの方の生き残りは、さらに厳しいものとなるのだろう。
2017.06.18
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『君はまだ残業しているのか』で、 その著者であるトリンプ・インターナショナルの元社長・吉越浩一郎氏と 巻末で特別対談をしていたのが、本著の著者・東レの佐々木常夫氏。 今回、その著作を始めて読んでみました。 長男が自閉症という障がいを持って生まれ、 日々、学校や地域でトラブルに巻き込まれがちでした。 自責の念から、妻はうつ病と肝硬変を患って 入退院を繰り返すようになっていました。 3人の子供の世話と妻の看護のため、 毎日6時に帰らざるをえない状況になっていたのです。(p.2)このような状況の中、佐々木氏は39歳で課長、49歳で部長、そして、57歳で事務系同期のトップで取締役に就任しますが、取締役は2年で解任され、関連会社に移ることになりました。それまでの昇任と最後の解任の理由、それがこの一冊に記されています。 昨今、働き方を見直す動きが広まりつつありますが、 一方で企業の競争は激しさを増しているため、 現実的には仕事が増えている人が多いようです。 こうした背景から、「すぐやる」ことを”是”とする風潮が強い。 拙速を良しとする本や、スピード仕事術のようなものも多く見受けられます。 これは一面正しいところもありますが、大きな間違いです。 膨大な仕事を効率化したいならば、最速で最大の効果を出したいと望むならば、 すぐ動くのをやめましょう。 この本は、「考えて動く」ことを追求してきた 私の知見とノウハウをまとめたものです。(p.6) ***1章の「いきなり走り出してはいけません」では、佐々木氏が、30歳代で東レの繊維企画管理部に戻った際、3週間の間、朝から晩まで書庫にある30年分すべての書類に目を通し、資料整理をしたというエピソードが、強烈に印象に残りました。この作業が、過去の優れた遺産の素早い活用へとつながっていったのです。そして、このエピソードをしめくくるため、最後に示されたエッセンスが、「プアなイノベーションより 優れたイミテーション」。大いに納得です。4章の「時間を味方につける戦略を考える」で、最も印象に残ったエッセンスは「長時間労働は 常識、責任感などの欠如の表れである」。ワーク・ライフ・マネジメント推進における第一人者の面目躍如の言葉。 まず、「常識の欠如」と言う理由は、 労働基準法によって、労働時間には上限が決まっているからです。 上司がこの時間を超えるほどに部下を働かせているならば、 常識が欠如しているということです。 また、コストと成果のバランスを求められるのが仕事というものです。 成果に比べ多くのコストを投じる、 ちっぽけな成果のために多くの時間をかけるというのは、 「バランス感覚の欠如」と「プロ意識の欠如」を感じざるをえません。 残業や休日出勤をすれば、家族との時間や趣味の時間が削られます。 それを部下に強要するのは、 部下のそれら大切な時間を奪っていることにもなる。 心身にストレスを与え、健康を損なう危険性もある。 こうした多々あるリスクに気づけないというのは、 どう考えても「想像力の欠如」があります。 そして、こうした長時間労働につぶされている部下がいながら、 口出しせず、相談にものらず、放置しているようなリーダーは、 「責任意識の欠如」が著しく、リーダー失格であるともいえます。(p.99)5章の「人に強くなるコミュニケーションの習慣」では、『今すぐプレイングマネージャーをやめ「ヒマな自分」をつくりなさい』というエッセンスが心に残りました。部下が、いつでも話しかけられる状況を作り出すことが大事なんですね。 そして、7章の「正しい自己愛が人を成長させる」では、日本理化学工業会長の大山さんのエピソードが印象的。知的障がいを持つ従業員たちが一生懸命働く様子を大山さんから聞かされ、それに対して、お寺の住職から出た言葉がとても印象的。 人間の究極の幸せは、人に愛されること、人にほめられること、 人の役に立つこと、人から必要とされることの四つです。 働くことによってこれらは得られる。 だから彼らは自らの幸福のために、働きたいと考えているのです。(p.181)わずか200ページ足らずの一冊ですが、その密度は濃厚で、どの部分からも学ぶべきことが多いものでした。
2017.05.14
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先日、風邪で欠勤したアルバイト女子高生から、 セブン-イレブン加盟店が罰金を取っていたというニュースが流れた。 本著は、そんなブラックバイトについて 『ブラック企業』の著者・今野晴貴さんが著した一冊。 ***2014年に社会問題となった、すき家のワンオペ。ファミリーマートのフランチャイズ運営会社での問題や、しゃぶしゃぶ温野菜での暴言・暴行も問題になったし、大手個別指導塾明光義塾の運営会社には、是正勧告が出た。過剰な責任を負わされた上に、シフトにどんどん組み込まれ、自分がいないと職場が回らない状況に追い込まれていく学生アルバイト。長時間の深夜勤務に、遠隔地へのヘルプや急な呼び出し、ミスをすれば罰金、ノルマが課され、自腹購入も度々。授業はもちろん、テストも受けられず、就活さえままならない。心身を病んでいるのに、有期雇用契約で辞めさせてもらえない。場合によっては、損害賠償をちらつかせて脅される。実際に、強迫や暴力を受けるに至ることも。そんな学生アルバイトが主に従事するのは、外食、小売り、教育業界。中でも、居酒屋、コンビニ、個別指導塾や、ファミレス、スーパー、アパレル小売店で、問題の多くが発生。何れも労働の単純化・定式化・マニュアル化が進んだ職場である。そこは、想像の職場共同体であり、やりがいや達成感を得られる場所。経営に疑似的に参加させることで、責任意識が高められていく。が、それらはアルバイトである学生に求められる範疇を、大きく逸脱してしまっている。そして、学生たちがそこまでしてアルバイトをする背景には、学費の増大と家計状況の悪化、そして奨学金の問題がある。第4章の「どうすればいいの?-対策マニュアル」は必読では最後に、本著の中で私が最も気になった箇所をご紹介。 一方で、個別指導塾の業態には「教育らしからぬ」要素が見える。 従来の学習塾がそれなりに教育に関心を持つ層によって担われていたのに対し、 個別指導塾は特別な教科の指導力を要求されるものではないためか、 小売りや飲食業のフランチャイズ店舗を開業するように、 もっぱら「利益」を目当てに開業するオーナーが多いというのだ。(中略) 余談だが、同様の傾向は保育所や介護施設にも見られる。 民間への事業開放の中で「ビジネスチャンス」とだけとらえて、 素人の経営者が福祉や教育の事業に乗り出すことが増えているのだ。(p.115)
2017.02.04
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カスタマーレビューの評価は、ものすごく高いです。 スラスラ読み進めることが出来るし、 ボリュームもそんなにないので、あっという間に読了。 そして、「なるほど!」と思わせられるところもありました。 ただし、お話としては残念なところが多々見受けられます。 『もしドラ』や『夢をかなえるゾウ』は遥か彼方の存在ですし、 同じテイストの『仕事は楽しいかね?』ともかなり差があります。 面白いことは面白いのです……ベースはいいんだけどなぁ…… *** 多くの人を幸せにするには、まず自分を幸せにすること。 次に自分の身近な人たちや、自分の愛する人たちを幸せにすること。 そうやって広げていくもの。 そうでないといくら「もっと幸せを」と言っても、 それは虚しい空論であり、ウソだ。 ウソはいつか必ずばれる。 自分の幸せ、家族や従業員の幸せを犠牲にした経営は、 最終的に誰のことも幸せにできない。 わかるね? 経営は、人間を幸せにするためにある。主人公・池田に向けて書かれた、指南役の近藤からの文章。本著の中で、私が一番心に残った箇所です。
2017.01.25
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2013年6月出版の『40歳を過ぎたら、三日坊主でいい。』の新書版。 本著巻末「おわりに」によると、 内容については、時間経過に対応する程度の訂正を行っただけとのこと。 なので、ほぼほぼ同じ内容のものということでしょう。 「三日坊主でいい」から「定時に帰りなさい」へのタイトル変更は、 読者の購買意欲をより高めるべく、時勢に即しなされたものだと思います。 先日読んだ『残業ゼロがすべてを解決する』等々、 私もこの手の本は結構読んできましたが、最近ではトレンドになっていますからね。 *** 忘れるためには、何事も他人事としてとらえるという方法がある。(中略) そのような感じで、自分の体験も客観視すればいいのだ。(中略) 悶々と悩むのは、その問題に心がとらわれているからで、 問題との距離感が近すぎるのだ。 距離感が遠くなれば、悩み続ける時間も減る。 そうすると、自然と問題が解決する場合も多いのである。 哲学者でもないかぎり、悩み続ける意味はない。(p.80)本著で付箋を貼った唯一の箇所。「ホント、そうだよなぁ」と思うのですが、実際に行動に移すとなると、これが結構難しい……。本著全体が、こんな感じですかね。
2017.01.08
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岩崎弥太郎と弟の弥之助、 そして、弥太郎の嫡男・久弥と、弥之助の嫡男・小弥太。 幕末から明治、大正、昭和という激動の時代を、 三菱の看板を背負い、生きた4人の男たちを描いた一冊。 と言いながら、その紙幅の半分は弥太郎の記述に費やされており、 残されたうちの半分で弥之助を、 もう半分で、久弥と小弥太を描いている。 タイトル通り、弥太郎メインの一冊である。 ***「第1章 竜馬を支えた商売の天才、岩崎弥太郎」では、土佐の地下浪人の家柄に生まれた弥太郎が、長崎の土佐商会主任となって、そこで坂本龍馬に出会い、明治になって、大阪で三菱商会を立ち上げるまでが描かれる。「第2章 弥太郎の野望-政府との果てなき闘い」では、三菱商会が、政府の支援を受けた日本国郵便蒸気船会社と競い、台湾出兵を機に躍進、外国汽船会社を駆逐するも、政府援助の共同運輸会社と激闘の最中、弥太郎が没するまでが描かれる。「第3章 温厚沈着な経営者、岩崎弥之助」では、副社長として兄・弥太郎を補佐し、三菱を日本一の海運会社にした弥之助が、社長になって8カ月で共同運輸との合併を決意、海運業から撤退するが、陸の三菱社を創業して多角的経営を展開、三菱合資会社を設立するまでが描かれる。「第4章 久弥と小弥太の拡大経営」では、29歳の若さで社長となった久弥が、金融、商事貿易、製紙、農牧事業に注力し、38歳で社長となった小弥太が、コンツェルン形態を整え、三菱財閥と称されるようになった様が描かれる。 ***もちろん、紙幅を割いた分だけ、弥太郎についての記述が最も読みごたえがあり、その気性の激しさや、それ故の波乱万丈の人生が伝わってくる。『龍馬伝』での、香川照之さんの演技が目に浮かんでくる。が、私が最も興味を持ったのは、弥之助である。それは、現在の三菱の土台を作ったのは、間違いなく弥之助であり、その多角的経営の成功なしには、現在を語ることは出来ないからだ。さらに、社長を退いた後の様々な活動にも、興味津々。そして、それをうまく引き継ぎ、さらに発展させた久弥も興味深い。若くして社長の座に就き、余力を残しながらバトンタッチを果たしただけでなく、余生は、自らの興味ある分野に力を注いだ生き方には、誰もが羨望の眼差しを向けることだろう。
2017.01.07
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