世界で一番愛する人と国際結婚

遠距離恋愛のルール




ブランが日本を発つ直前の12月、彼は諸手続きや、連日の
フェアウェルに忙しく飛び回っていた。
おまけに私も仕事が絶好調に忙しかった。


会えるのが、仕事中の休み時間だけの時もあったが、特に寂しくは
なかった。年末年始は、アメリカの彼の実家に招待されていたからだ。
その後、2人でフロリダに旅行に行くことにもなっていた。


そのまま結婚につながるのだろう、と勝手に思って安心しきっていた。


実際、彼の家族や旧友には大歓迎された。マイアミも楽しいひと時だった。


だが、私の楽天的思考は覆された。気がつくと、
Marriage のMの字も出ないまま、私は日本に帰国した。




終に遠距離恋愛がスタートしてしまった。


ブランからメールや電話は毎日来た。更に2ヶ月後、ブランは
Vacationで日本にやってきた。またしても、楽しい、楽しい
あっという間の出来事だった。


そして更に2ヶ月後、今度は私が休暇を取り渡米、ニューオリンズに
一緒に旅行した。


その際、今度は夏休みに、ハワイで待ち合わせしようという話になった。


遠距離恋愛になって4ヶ月弱。その間に3回も会っているし、
連絡も毎日取り合っている。私たちには危機感がまるで
なかった。ずっとこのまま付き合っていけそうな雰囲気だった。


さすがに、私は結婚のことを再度聞いてみた。


この話になると顔が曇り、考え込んでしまうブラン。


『結婚のことは考えているけど、でも、まだ分からない。』


辛そうに言った。


『僕は何かおかしい。それは分かっている。カウンセリングを
受けようと思っている。』


離婚して以来、結婚がとても怖いのだそうだ。
私に会う前まで、再婚は全く考えていなかったので、困惑してしまう
のだそうだ。


私は悲しかった。彼はコミットメント・フォビアだったのだ。

コミットメント・フォビアと別に、ストリンガーというタイプも
あるのだそうだ。


NYなど都会に住む、高学歴高収入の男性に多いそうだ。
比較的もてるタイプで、常にガールフレンドには不自由しないが、
決して長続きしない。40代になっても50代になっても独身で通す。
結婚歴のない人が多い。


彼がストリンガーではないことが分かった。離婚などが引き金になる、
コミットメント・フォビアという結婚恐怖症ならば、治る可能性もある。


ただ、もう3年半付き合ってまだ結婚するかどうか分からない
のでは、5年付き合っても10年付き合っても分からないのではないか。


彼からの愛情は常に感じていた。優しくて、何の不満もない恋人だった。
だが、婚約をしないで、遠距離のまま付き合いを続ける意味が
あるのだろうかと、疑問に思った。


私が今40代か50代だったらよかったのに。


もうとうに結婚して、辛い離婚を経験して、あとは自分の恋愛を
楽しむだけの、ブランと同じ人生のステージだったらよかった。


いえ、例え今私が離婚歴のある50歳だったとしても、
ここまで好きな人なら私は結婚したいと思うだろう。
彼にコミットメントして欲しかった。
愛は形に見えないから、それを誰からも分かる方法で見せてほしかった。


すぐに結婚をしないまでも、婚約という形を取れないのであれば、
遠距離恋愛を続けたくないと思った。


結婚=最高の愛情表現、愛の証


と考えていた私にとって、彼が結婚をしたい程までに私を愛していない
のならば、もう遠距離恋愛は止めようと思った。


4月のニューオリンズの夜は爽やかで心地よかった。


ジャズを奏でるサックスの音が遠くで鳴っていた。


これが最後の夜


そう決めたら、彼にはもう笑顔で接することができなかった。

翌朝、ニューオリンズのホテルから、私は一人空港に向かう
タクシーに乗った。

私は彼と同じ日にフライトが取れず、1日早く発つことになっていた。

タクシーを止め、彼が私のスーツケースをトランクに乗せて
いる間に、私は黙ってタクシーに乗り込んだ。


タクシーは動き出した。


右横で、彼が今にも追いかけてきそうな勢いで、必死で手を振って
いるのが分かった。ブランは、まっすぐ前を向いた私の横顔を
見つめていた。

私は背筋をすっと伸ばして座り、そのまま前方を向いたまま、
決して振り返らなかった。

彼の顔を見ると自分が粉々に壊れてしまいそうだった。
彼には笑顔も涙も見せなかった。毅然とした態度を崩さなかった。


つづく


© Rakuten Group, Inc.
X
Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: