ボロ邸生活日記

ボロ邸生活日記

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 「君は僕と同郷の出身だろうと思ってね」
 振り向いた先に居たその男は、確かに故郷の人――日本人の成年のようだった。
 「……そうだよ」
 ここに日本人が居るのは珍しい。
 ただ、それだけだった。
 彼は無関心そうに返事をすると、そのまま何事も無かったかのように去ろうとした。
 「急ぎの用でもあるのかい?」
 ……しかし、男は話しを止めようとしない。
 (うるさい)
 人と関わりを持つと、ろくな事が無い。
 この男も、石を投げてくる連中となんら変わる事は無いんだ。
 ……だが、本当に?
 気がつくと、彼は足を止めて青年の方に振り向いていた。
 「日本語を聞くなんて久しぶりなんだ。せっかくだから、ゆっくり話したいと思ってね」
 「そうか」
 久しぶり、か。それは、彼にとっても同じ事だった。
 しかし、何故足を止めてしまったのだろう?
 彼は自分の無意識の行動に戸惑った。
 答えはすぐに出た。
 こんな風に優しく話しかけられたのは久しぶりどころではなく、彼にとって初めての経験だったのだ。


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