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桜に仰ぐ 3
「無理に、決まっとる。そんでな、学食で食料ゲットした奴らは、絶対に学食で食べない。何でか分かるか?盗られるかもしれんで、恐ろしくてそんな事出来ひんのや。その場で、弁当開けて食べてみ?買えんかった奴らのにらみの中で、どんだけ美味しくても喰った気なんかせんやろ。戦利品、ゆっくり安心して味わって食べたいやん、やで教室戻る。結果学食は一時的に男子生徒が増える時間帯はあっても、他の時間はがらんとしたままや」
「なるほど、やっぱり、あまりにも競争率が高いのは、悪循環やな。学食で全校生徒が楽しい昼休みを過ごす為には」
「せっかく、白い内装で広いし、キレイやのになぁ~」
「もったいないやんな」
俺達は教室に戻ると、清水の近くの机を寄せさせてもらって、いつも通り昼食をとった。頼重がゲットしたお弁当を真ん中に置いて、3人で少しずつつつきながら食べた。
「学食の弁当、美味しいやん!これで、250円?絶対、買うわ」
「いい塩梅やなぁ、薄すぎず濃すぎずで、この焼き鮭、塩の辛味だけじゃなくて、ほんのり甘いわ」
「ご飯も、美味しい。べったりしてないし。卵焼きも美味しい~~」
「なるほど、これは秒で売れるわな」
「これ、あと50円上げてもらってもいいから、もっと数増やして卸してもらえへんやろか。獲り合いにならんくらい。コンビニのお弁当って、500円くらいするやん。しかもこんなにおかず入ってないのに。安くなくていいから、コンビニで買うより学食で買えた方がずっといい」
「売れば売るほど、利益が出んからっていうことなんかな」
「学生相手やで安く売らんなんて思てるからやろ?コンビニで500円出すんやったら、50円上げてくれてこっち買えた方がええわ」
「色々、変えたいね。うずうずしてきたわ」
「この弁当、渡辺庶務長が食べたら、考え変わるやろなぁ」
「女子は卒業するまで、絶対食えんで、このままやったら」
「そやね。俺ら、本気で策を練らんとあかんかもな」
学校から帰ってきて家に着くと、ネコちんがアンケートのイラストサンプル上げてくれるまでは出来る事もないので、気は引けたけれども、俺は美里の部屋を捜索することにした。
部屋に入ってまず本棚を確認したけれども、探していたものは見つからなかった。タンスの引き出しを上から開けてみた。化粧品、洋服、下着。。。細々とした文房具。焦点を絞っていた、「誰がために鐘は鳴る 下巻」は、タンスの中には無さそうだった。
「隠してるんか、それともそもそも下巻を美里が持ってないか。。。隠してるとしたら、押し入れの中かな」
俺はふすまの右側を開けて、布団が畳まれている押し入れの中を覗き込み、段ボールが無いか探してみたけれど、上の段には布団しかなかった。下の段にも布団が重なっている。
ふすまをずらして下の段を見てみると、衣装ケースと一緒に幾つか段ボールが重なっているのが見えた。俺は段ボールを手前から一つずつ開けて、中身を確認した。
もし、大量の金が入っていたら、どうしよう。タンス貯金てやつ、それとも、海士部史郎が子孫に残した、遺産の一部。。。想像力を膨らませながら箱を開けたけれども、金も通帳も入っておらず、本が何冊も入っていただけだった。
民法典、民法判例集、やたらと民法と書かれた沢山の本が入っている。六法全書も見つかり、俺は次第にドキドキと心臓が高鳴るのを感じていた。
一番奥の段ボール箱の中には哲学系、思想系の本が入っていて、その一番下に、探していた本はあった。
俺は段ボール箱の中から「誰がために鐘は鳴る」の下巻を手に取ると、ページをパラパラと開いた。裏表紙と一番最後のページの間に、淡いピンク色の封筒が入っていた。
封筒を開いて二つ折りになっていた便箋を開いた。桜のイラストが右下隅に入っている便箋。俺はそこに記されている文章を読んだ。
「珠典(つかさ)
春になると倶楽部で恒例の花見に集まるのですが、あの人は花見会の最初に、必ず両手を合わせて桜を仰ぎました。それに習い私達も、空に透かし見た薄紅の花に向かい、合掌し、目を閉じたものです。
桜はまるで、微笑みながら音もなく涙を落とすように、はらはらと散ります。この花に、日本の歴史が、心が、息づいている。
『何を願うたのですか?』と、あの人に尋ねた事があります。そうするとあの人は元々しだれた目じりをもう少ししならせて、穏やかに微笑み、言いました。
『願うたのではありませんよ』と。『願いとは、他人に望むこと。私の心にあるのは、願いではなく、宣言です。そして弔いと、拝聴』と。憂いのある、桜のような微笑みで。
それ以上は言及なさらなかったけれど、彼の心にあったのは世界大戦で帰らぬ人となった戦死者達のようでした。無論戦死者だけでなく、全日本国民を代表し、A級戦犯の汚名を着せられ、絞首刑を受けた、東條英機、土肥原賢ニ、武藤章、松井石根、広田弘毅、板垣征四郎、木村兵太郎ら7人の英雄達のことを。彼は花見の後に、『彼らも、もう一度桜の花咲く姿を、見たかっただろうに』とこぼしていました。『彼らはこの桜のごとく、誠に美しく、誇り高く、散っていきました』とも。
『 桜よ。この国は、お国の為に命をかけて果てた戦士達のごとき崇高な志を、未だ失
ってはいないだろうか。私に、私達にこの国を、守り抜いていけるだろうか。
命がけでならねばならぬ、それが大和の国の日本男児なり。我ら、志は、自らの命
をかけて果てた、戦士達と等しく生きる、さもなくば死者も同然なり。
私は彼らに代わり、桜の花咲くを見よう。今年も一年、美しい季節を迎えられた喜
びと感謝の気持ちと共に。
日本国が、いついつまでも、この桜のごとき美しい国家である為に、私も自らの命
をかけて戦い続けると、再び訪れた春を迎えられた、喜びと共に今年も誓う』
貴方の父はこの国の為に自らの命をかけて散った戦士でした。彼は日本の為に、私の為に、私達の為に、貴方の為に、戦ったのです。
春が再び訪れ、桜の花を仰ぎ見る時に、貴方は必ず貴方の父を思い出し、貴方の成すべき使命を命がけで果たす事を、心の内に宣言なさい。海士部史郎は、貴方の中に生きている。
珠典、貴方は信頼のおける殿方と結婚して、必ずや男児を産みなさい。それまで海士部の性を途絶えさせてはなりません。
もし相手が貴方の要求を呑まない時は、金銭を掴ませなさい。金より人を容易に操れる道具は無い。相手の何倍も、頭を使い、注意深くコントロールしなさい。
貴方が女性である事など微塵も感じさせないほど、雄々しくありなさい。
一鶴」
(これ。。。これで、決まりや。疑いの余地なし、やろ。。。)
床に出した沢山の本に囲まれながら、俺は手紙を読んだ後も、長い間そのままその便箋と向き合っていた。色々な思いが、頭の中を一度に駆け巡る。便箋を持つ両手が入り過ぎた力で震える。
始めに、美里がこの事実を俺に黙ったまま今の生活を続けている事に対する不信感、次に自分が本当に海士部史郎という公人の子孫であったという驚き、不思議な高揚感、そして最後に、「俺の父親は、離婚しているだけで、生きている可能性が高い」という希望。嬉しさと、驚きと、僅かな怒りと、けれど総体的には強い力強さが自分から湧き上がってくるのを感じて、俺は少し怖くなった。無言で便箋を封筒に戻し、俺はそれを本には戻さずに、本は他の本と同じく元あった箱に戻して、箱を押し入れに仕舞いなおし、ふすまを閉め、手紙だけを持って美里の部屋を出た。
俺は何も考えずに、衝動的にその手紙をリュックに入れると、家を出て、頼重の家へとチャリを飛ばしていた。
ピンポンを押して玄関先で待つと、頼重は普段着に着替えた姿で外に出てきて、「どうした?っていうか、携帯無いとやっぱり不便。。。」と言いかけて、俺の様子がおかしいのに気付くと、「ちょっと待っとってくれ」と言って一度家の中に戻った。しばらくしてから再び玄関のドアを開けたかと思うと、「外がいい、中がいい?」と尋ねた。俺が「どやろ、外、かな」と答えると、頼重はそのままスニーカーのつま先をトントンとやりながら外へ出てきて「ほな、公園にでも行くか」と言って隣に並んだ。
公園に着くまで、自転車を押しながら黙っていた俺の隣で、頼重も同じスピードで並んで歩きながら何も言わずにいた。
入り口でチャリを停めて、ベンチに向かい腰掛けると、俺は「見つけたんや、決定的な証拠」と切り出し、リュックの中から薄ピンク色の封筒を出して、並んで座っている頼重に渡した。
頼重が封筒から便箋を出して読みかけた時に、俺は「その手紙だけじゃなくて、民法の本とか、お前が言ってた六法全書も、見つかった。その手紙は『誰がために鐘は鳴る』の下巻の、一番後ろのページに挟んであった」と説明した。心がソワソワして、息が上手く出来ない。どうしてこうなっているのか、手紙が見つかった今でも、それが事実であるという実感までは沸いてこない。けれど畏怖のような寒気が、背筋を強張らせてもいた。頼重が「間違いないって事や」と言いながら手紙を俺に戻した。
「テル、ここからどうする?美里さんに、問い詰めるつもりか?」
「いや。。。俺は、美里が自分から打ち明けてくれるまで、待ちたい。やけど、この手紙は本には戻さん。俺が持っとく」
「美里さんが、手紙が無くなってる事に気付いたら?」
「気づいたら、ええんや。美里がそれに気付いたら、嫌でも俺に打ち明けんことには仕方が無くなる。俺が手紙を持っとるっていうことは、俺が海士部史郎の存在に気付いたっていう証拠でもある。それでも、黙っとるとしたら。。。それはそれで、いい。俺は、表向きは何も知らんまま、ただの母子家庭の母と子、それだけの関係性を続ける」
「嘘付いたままでか?そんなん、嫌やろ。気持ちが落ち着かんし、親子の信頼関係も」
「信頼関係なんか、とっくに失われとるやろ!ずっと、嘘付いてたって事なんやで。俺に本当の事隠して、何事もなかったみたいに、俺の前で、演じとるんや、美里は。ごく一般的な母子家庭の苦労の多い母親を。俺はそれが、今は全然許せへんのや。クソより嘘が嫌いやって、言うとったくせに。自分が一番おっきな嘘付いてるやんか」
「何か理由があるんやろ」
「そら何か、あるんやろうなぁ?父親の事も、お金の事も、美里自身の事も、そうやし。俺のおじいさんの事、おばあさんの事。俺は何にも知らされへんで、高校生まで育って、ただ従順に。こんな気持ちになるんやったら。。。こんな秘密、はなから無い方が、良かった」
「何と言っていいんか、分からんけども。そやけど、俺に言わせれば、お前はただラッキーなだけやぞ、お前もそうとは思わんのか」
「俺は。。。今、自分の存在が、これまでの自分が、嘘になってしまったみたいで、怖いんや!今まで信じとった俺のリアルな生活が、まるで作り物やったみたいに、嘘の上に存在してるみたいに!何が本当で、何が嘘なんか、美里の振る舞い、俺との生活の全部、今の今まで、ずっと俺を騙しながら、美里に対する不信感が、ふつふつと湧いてきて、俺の前で、苦労の多い母親、ずっと演じてたんやな、って思ったら、俺のここまでの人生まで、偽りやったみたいに。。。」
「お前はお前やて。今は、突然事実が目の前に現れて、混乱しとんやろ。ゆっくり考えたら、そんなに悪い話にはなってないって、落ち着いて見れるようになるて」
「俺は、ヨリにしかこの話、出来へん。。。」
「それでいい、少なくとも今は。どうもないて!、大丈夫や。。。」
頼重はそう言いながら、気持ち丸めてしまっていた俺の背中をゆっくり撫でた。俺はふっと気が緩んで、泣き出してしまった。
「俺はな。。。母子家庭やけども、自分が与えられた人生に、満足して生きててん、美里っていう母親がいてて、沢山の友達がいてて、何も不足はない、これはこれで、俺は俺の今が好きやて、満足してるんや、してたんや、そやのに。。。!」
「何か失くしたみたいに言うけど、お前何も失ってないよ?美里さんが黙ったまま、何も明かさんままが、不服なんかもしれへんけど。それかて、時間が来たら打ち明けようって、思ってはったんやないのかな、例えば、大学生になった時に、とかな。携帯電話、大学生になるまで待ってくれ、って、そういう意味と違うか?」
「大学生になったら、携帯良いって、言うとった」
「そやろ?だから、テルが大学生になるまでは、美里さんは黙ってるつもりやった、それを俺が少し早く気付かせてしまった。美里さんには美里さんのタイミングがあって、テルが海士部史郎の存在を知るのは、本当ならもう少し後にしたかったんとちゃうかな。それに、美里さんかて黙ったままテルと一緒におらんなんのは、苦しいんとちゃうか。むしろ何も知らされずに生活してきたお前の方が、美里さんより苦しみは少ないはずやで」
「そう、かもしれへん。美里はあと2年後に、打ち明けるつもりで。そやったら、この手紙、戻した方が、やっぱり良いかな。俺も美里に打ち明けてもらうん、待とうかな。今まで通り、何も知らない息子で居続けるのも、親孝行かな。。。」
「どうやろな。これは、お前と海士部史郎を繋ぐ、決定的な証拠やから。もし少しでも早く美里さんから打ち明けてもらいたいんやったら、持っといた方がいいやろし。本から手紙が無くなってるのに気付いて、美里さんがどうしてもテルに打ち明けるしかないって気持ちになるのを促す為にも。テルが気付いてるって美里さんが分かったら、お互いに知ってるのに普通の生活続けてるのも、ぎこちなくなってくるやろうし」
「俺は、なるべく早く美里から打ち明けられたい、海士部史郎との繋がりを、知ってしまったからには。ほやけども。。。美里が絶対に自分から打ち明けてくれるって、信じたい気持ちもホンマやで。。。やっぱり、上巻の写真と同じように、この手紙も下巻に戻すわ」
「テルが、決めたらいいと思うで」
「うん。美里が自分から打ち明けてくれるって、信じるわ、俺。そんで手紙は元の場所に戻す、今日中にでも。美里にとっても、すごく大事な物やろうし」
そこまで話し終えると、俺はようやく気持ちが落ち着いてきて、「海士部史郎のこと、ヨリと一緒に突き止められて、俺ホンマ良かったと思うわ、マジありがとう。自分一人やったら、もっとパニックになってた、きっと。秘密共有出来る相手、ヨリやなかったら、あかんかったと思う」と言った。頼重は「礼なんかええって、ほんならなるべく早く、戻ろか」と言って立ち上がった。
そやなと合槌を打ってベンチから腰を上げた時に、「俺って。。。じゃあ、政治家目指さんなんのかな」とボソッとこぼした。すると頼重は、「俺はお前が、やりたいようにやるんが一番良いと思うし、それを美里さんは望んどると思うで」と言った。
「まぁ、そうなんやけども。。。こんな手紙、読んでしまったら。。。」
俺が言葉を濁すと、頼重は笑って、「もう今日は、何も考えんとけ」と言って歩き出した。
再び二人並んで、チャリを押して歩きながら、俺は「俺の実の父親、生きてるって事やんな。。。」と再びこぼした。すると頼重は「離婚しただけで、きっと生きとるんやろ。嬉しいか?」と尋ねた。
「実はそれが、めっちゃくちゃ嬉しい。。。それだけはホンマ、良かったって思う、単純に」
「テルの父親って、どんな人なんやろ。背は高くないんとちゃうか?」
「まぁ、そうかもしれない。美里は女にしては、低くないし」
「声があからさまに、嬉しそうやな。俺もテルの父親、会ってみたいわ」
「俺も、会いたいよ。めっちゃ、会いたい。ホンマに生きとるんかな、夢みたいや。。。」
「なんや、ほんなら全然、良かったやんけ!」
「複雑にはなってきたけども。とりあえず俺にとって、それだけは希望というか、喜び」
頼重に礼を言って分かれると、俺はチャリをこいで家まで戻った。
家に戻り、美里の部屋に戻ると、俺は手紙を本の一番後ろのページに戻した。段ボール箱に本をしまう前にもう一度、手紙を読み直した。薄ピンクの封筒は、少し角がぼんやりと茶気てもいて、部分的に濃いめの肌色のようになっている。俺は美里の母親であり、俺のおばあさんと思われる「珠典」という名前と、文章の一番下に書かれている、珠典おばあさんの母親であり、海士部史郎の養女であり側妻でもある、俺のひいおばあさんである「一鶴」という名前を、心に深く刻むようにまじまじと見てから、目を閉じた。物心ついた時から、自分の身内は母である美里一人であったけれど、今ここに、自分のルーツであるおばあさんやひいおばあさんの存在が確かにあるのだと思うと、揃わなくても仕方のない事と諦めきっていたパズルのピースが、しっかりと埋まるような安心感と充実感を感じた。
手紙を戻してなるべく元々あったように段ボールの中にしまい込み、他の段ボールの並びも、元あったように出来る限り戻した。多分、写真でも撮影してなければ段ボールの配置がどうかなんて事、判別がつかないだろう。
(これで今は、いい。母さんが海士部史郎のことを自分から打ち明けてくれるまで、俺は待つし、必ずいつか話してくれると、信じる)
美里の部屋から出て、その日の課題を済ませると、俺はベッドの中に潜り込み、狸寝入りをする事に決めた。少なくとも今日のうちは、母さんとどう接していいのか、分からない。態度がぎこちなくなってしまうかもしれない。感情のコントロールが出来なくなって、問いただしてしまうかもしれない。俺の父親は今、生きているのか、生きているのなら、どうして合わせてくれないのか。
父親の存在は、俺にとって、生活の折々でその不在に心をすり減らされるものだった。母親が優しくて、友達から羨まれるほどの美人なのだから良いじゃないかとか、そういう問題ではなかった。別の何かで間に合わせのきく存在ではないのだ、お父さんというのは、だって、自分の半分を、作ってくれている存在なのだから。俺はやっぱり、普通に父親のいる友達が羨ましくて、それを実感する度にこれが俺にとって、恐らく最も大きなコンプレックスなのだと思い知って来た。美里に対して、最も問いただしたい真実は、実父についての事だった。どうして、海士部史郎の事を黙っているのだろう。それさえ打ち明けてくれれば、離婚しているだけで本当は生きているかもしれない、父親にだって自由に会えるはずなのに。
美里が帰ってくるまでも後も、狸寝入りをしてやり過ごせたとしても、絶対に眠れないだろう、と、ベッドに潜り込んだその時までは思っていた。だけど自分が思っていた以上に神経を使ったせいか、俺はその後間もなく眠りに落ちた。夢に入り込むまでずっと気にしていたこと、俺のひいおばあさんの「一鶴」という名前、あれは何と読むのだろう、イッツル、それとも一は、ただの棒で、ツルさんかもしれない。様々な読み方の推察を浮かべながら、俺は自然と眠りに落ちていた。
「今からお前に合わせる方は、のちに総理大臣になられるやも知れんお方だ。断じて失礼のないように」
長い廊下を速足に歩きながら、私は上司に「承知しました」と答えた。勿論、改めて言われずとも、承知している。少し喉が渇いている、緊張しているのか、しっかりしろ。
自分に言い聞かせながらも、肩や指先に力が入り過ぎているのを感じる。女でありながら、ようやくここまで来たんだ、決して、しくじるまい。
大きなドアを引いて、上司が先に中に入れと促す。中に足を踏み入れると、窓越しに背中を向けて立っていた法務省法務大臣であるその人が、ゆっくりとこちらに振り向いた。
上司が私よりも前にさっと出て、頭を下げるのにシンクロするように私もさっと頭を下げた。上司が前に歩み出たので私もそれに習い、やや離れたところで足を止める。
上司は若くして就任した法務大臣である海士部史郎に何事か囁くと、私を呼んだ。
「宝示(ホウジ)、来なさい」
「はい」
私は海士部史郎の前に立つと、そこへ着くまでにポケットから出しておいた名刺を差し出した。海士部史郎がそれを受け取った時に、ようやく私は彼を正面から見た。
若くして法務省法務大臣にまで上り詰めたその人は、私が想像していたよりもずっと威圧感が無く、物腰が柔らかな、新聞や雑誌などで知っていたままの風貌であった。
しかしながら高身長で、背筋が通っており、幹の太い大木のようでもある。
私の上司より、十五、六は若いんじゃないか。なのにどうだ、この貫禄。
海士部史郎は私の名刺をしばらく見つめ、それを秘書に手渡しながら、「失礼、これは、名は何と読むのかな?」と私に尋ねた。私は声色がひっくり返らないよう高ぶる気持ちを抑制しながら、答えた。
「はい、イッカクであります」
「イッカク!何と勇ましい。イッカクと聞くと、一角獣を連想してしまいますが」
「さようですね、アハハハハハ。。。」
上司と海士部史郎がやや軽薄な笑い声をもらした時に、私はここでバカにされては困ると、「そうです、私はまさしく獣です。しかしながら、聖獣ですが」とぴしゃりと言った。
「これ!たかが弁護士の身分で、さらには法務大臣の前で自分をケモノだなどと!」
「し、失言、失礼しました」
上司が叱責したので私は即座に頭を下げた。海士部史郎は笑いながら、「大いに結構。私は、戦後の日本国を誠の独立国家へと導くため、志高き若き勇士達の、力を借りたい」そう言って私に右手を差し出した。
私は頭を下げたまま、一歩引き下がり、握手を拒んだ。「恐れ多きこと。内閣府総務省、海士部法務大臣にご指名いただきました、弁護士の宝示一鶴と申します、どうぞ何なりと、お申しつけください、必ずや、海士部法務大臣様のお役に立ちますれば」
「大変優秀と聞いております。よろしく頼みますね」
「はい!」
「では本日は、顔合わせだけで。失礼します」
「失礼いたします!」
ドアの外へ出て再び速足に歩きながら、「息まきよって。出だしからそれでは、先が思いやられる」と再び叱責を受けた。私はしかしながらまだ興奮冷めやらぬままで、「申し訳ありません」と答えた。この長い廊下を、これから幾度となく行き来することになるのかと、期待に胸を膨らませながら。
「テルちゃん?テル?ご飯出来てるよ?」
美里が俺の部屋のドアを開けて、入ってきたような記憶が、目を覚ました時にはうすぼんやりとは残っていた。俺はその時熟睡していたので、美里がご飯が出来ても部屋から出てこない俺の様子を気にして部屋に入ってきた時も、美里の声で目を覚ます事もなく寝入っていた。
美里は俺を起こさないようにそっとベッドに近づいて、「寝てるわ」と呟いた。ベッドに近寄り、膝を床について、直接体に触れないように、掛布団の上から手を当てる。
「テルは、絶対にお母さんが、守るさかい」
俺は結局朝になるまで、美里が独り言のように囁きかけたその声にも、目を覚ます事なく熟睡し続けた。
「一角獣って、あんた、馬やなくてツルやろ?」
タバコの煙をくゆらせながら、尾崎が乾いた笑い声を上げる。私は「ここで下に見られたら、一生『女以上』の人物と扱ってもらえないと思ったんだよ」と言い返した。すると尾崎はニヤニヤと笑いながら、「ケモノやて!笑かすわ。体もよう売らんくせに。ツルみたいにスラっとした長い脚やったら、あんたの貧相な体でも、使い物になったかもしれへんけど、加えてその背の低さではねぇ。。。」と言ってテーブルの下から靴の先で私の足を下から撫で上げる。私は尾崎のもう片方の足を蹴りとばした。
「痛たぁ!脛はあかんやろ!」
「お前みたいな失礼な男、多方面にパイプがある記者やなかったら、絶対つるまへんわ!」
「あーぁ、出てもうたわ関西弁、田舎モンやて思われるで直す言うてたのに」
「気性が荒くなるんはお前のせいやし、関西弁出るんはお前の前でだけや!私はな、女使って成り上がるなんて普通の女のやり方で勝ち上がるようなアホとちゃうんじゃボケ!ケモノはケモノでも、聖獣や!あとな、タバコ煙いんやて、私の前では吸うなや!」
「タバコの煙にくらい慣れとかんと。毒にも馴染めんと、これからのし上がっていかれへんで、大層上品な、鶴のケモノはん」
「私の話はいい、海士部史郎の弱みは?不倫でも、殺しでも、何でもいい」
「それがなぁ、浮いた話が全っ然、無いんやあのおっさん。政治家のくせに」
「ホンマに魂入れて探したんやろな?」
「無いもんは、無い」
「尾崎、使えんな」
「ほんで、お前からのネタ提供は?」
「ギブが無いのに、テイクがある訳ないやろ!海士部史郎本人が真っ白けやったら、嫁は?子供が権力使ってハチャメチャやっとるとか」
「嫁さんはおるけど、子供はおらんで。嫁さんも調べたけども、どうにも大人しいというか」
「チッ。何か一つでもいいから、弱み握っときたかったのに」
海士部史郎との顔合わせは、私の上司が総務省の上層部と強い綱があり、海士部史郎の方から女性の優秀な弁護士を紹介してほしいとの通達により実現した。
戦後の日本の六法を根底から変えていくのに、海士部史郎と接点が出来た事は願っても無い幸運だった。
私は立ち上がると、伝票を握り込んで、「ここの代金くらい、出したるわ」と言って席を立った。尾崎が「ごちそうさん」と言う。私は軽く手を上げると、喫茶店から出た。
弁護士事務所に戻ると現在引き受けている最中の事件の処理にとりかかった。法務省法務大臣である海士部史郎は刑法・民法を取り締まるトップだ、海士部史郎とのお目通りが叶った事は、私の弁護士としてのキャリアの上で非常に大きな意味がある、どのような経緯でもいいから、もっと海士部史郎に近付かなくてはならない。
日が落ち町明かりが街頭を照らし始めると、私はとあるバーに出かけた。薄暗い店内に入ると黒いチョッキを着た店員が「何名様で?」と尋ねる。
私が「ホトトギスに聞きました」と答えると店員は「こちらへ」と促す。カーテンの奥の部屋へ通され、ドアの前でノックをする。
すると今度は「申の刻は何時?」と問う声がする。私が「15時から17時」と答えるとコツリと小さな鍵の開く音がして「入れ」と返事があり、私はゆっくりとドアノブを回してさらに濃い暗がりの中に入った。
私が入ると冷笑と共に「また、あいつか」と嘲るような声がする。私は無視しながら空いた席に座った。
「誰だ女をここへ入れたのは。女はいかん。女は裏切る」
「しかし女を丸め込めるのは結局女よ。この国の男は先の戦争で尻子玉ぬかれたままだからな」
「バカも女も使い様ってことさ」
「女は結局甘い、弱い。こいつが俺達の会合の弱点になっても知らんぞ」
あらゆるあからさまな陰口を無視しながら座っていると、入口にいたのとは別の黒いチョッキの店員が飲み物を持ってきて私のテーブルの前に置いた。私はそれには口を付けずに、僅かに向いた私への注意が逸れた後の室内の会話に聞き入った。
「やはり、日韓併合が終わりの始まりだった。。。終戦直後、完膚なきまでに朝鮮クソ土民どもを抹殺しておけばよかったものを」
「ヤクザだろうと売女だろうと、根絶やしにしておかなくてはならなかった」
「どうにもならんよ。上の奴らは、朝鮮女のご奉仕がもう忘れられんのさ。日本女はあのように過激にはやってはくれないからな。おやおやここにも、一匹メスが」
「メスは学など持たず子供を産んで増やす、それだけをしていればいいんだ、どうせ付け焼刃の教養など飯の代金にもならないのに!」
ハハハハハといかにも愉快そうな笑い声が部屋中を満たす。私にとってはお前らとてクソ野郎だ、自分より弱い相手を卑下して勝ったつもりでいる単細胞が。
かと言って朝鮮人どもを保護してやる団体側のつもりもないが。被害者産業は社会を腐らせる、丁重に祖国へご退去いただかなくてはならない。
私はここからのし上がらねばならぬ、こいつらを説き伏せて全日本国民の大和魂をたきつけて、奮い立たせねばならぬ。その為には、男だけでは不十分だ。男は負けてしまった、先の戦争で。女相手にせいぜい吠えていろ、メリケンのナニをしゃぶらされ続けているチンカス共が。
「一人一人の、志が大事なのだ。男だろうと女だろうと、関係ない。この国は未だ、戦争の真っ最中ぞ。北からソ連が、西から中韓が、東と南から韓国を操るメリケンが、日本を腑抜けにしようと頭脳戦をしかけてきている。このような小さな会合でまで嘲り合っていてどうする、時間の無駄だ!朝鮮ヤクザどもを侮るなよ、体しか売る物がない阿呆共と軽視しているうちに、日本人は陰部から入り込んだ朝鮮の血によって性根まで腐らされるぞ」
私がそうたきつけると、「そうだ!」と小さく同意する声が上がる。
「そうだ、敗戦により牙も爪も剥がれた寅である日本政府が表向きには諸外国に舐められいいようにするしかないと言うのなら、我らのような影の先鋭部隊が、侵略者共から女子供を、日本の現在と未来を、守らねばならぬのだ!」
そうだ、そうだと室内に熱がこもり、私達は正午まで存分に語り合う。
我らは昭和特攻隊残党部隊、志は、第二次世界大戦で特攻隊として死にそこねた若者達の集いである。私達「明星特攻隊」は、戦後の日本国を誠の独立国家たらせる為、自らの命をかけて戦う兵士の集いなり!
「皆さん、奥の部屋でお待ちです」
それまで入った事もないような、厳かな日本庭園の料亭を案内されながら進んでいく。武者震いで強張る指先と背筋を意識的に緩めながら、滑るように先を案内する和装の女性のうなじを見つめていた。選ばれた特別な権力者だけが利用する隠れ家というものがある、私もいよいよそこへ足を踏み入れたのだと、気持ちが高ぶる。しかし落ち着いていなくてはならない。そして慎重でなくては。
女将が膝をついてふすまを開き、「どうぞ」と言って促した。私は背筋を伸ばし直し、呼吸を一つ深くして平静を装い中に足を踏み入れた。
「あぁ、宝示さん。待っていましたよ」
部屋の上座に海士部史郎が座し、左右に三十代から四十代の様々の顔ぶれが並んで座っている。そこにいる全員が一度私の顔を見上げ、そしてそれほど間を置かずに各々の会話に戻った。私は入り口側の空いた席に正座した。グラスが回ってきて、隣の男が私のグラスに冷酒を注いだ。
「それでは、皆さん揃ったところで。本日は『曙倶楽部、桜に集う会』の会食を楽しみましょう。新たな会員、宝示さんを紹介しておきますね。宝示さん」
海士部史郎が挨拶の続きで私の名を呼んだので、私は正座のまま、背筋を正し一礼した。
「宝示一鶴です。よろしくお願いいたします」
「私は、いつの時代も若い精鋭達が国家を盛り立てていくと思っています。皆さんの自由な意見が聞きたい。一人一人、心に思い描く国家の理想像は違うものだ、それを共有し、ぶつけ合い、高めていく事こそが、豊かな社会、国を作っていく。美味しい料理とお酒をいただきながら、心ゆくまで語り合いましょう。ここに集った私達は、互いを尊重しながらも高め合う同志だ。形ばかりですが、曙倶楽部、始まりの音頭を」
海士部史郎がそう言ってグラスを掲げると、皆もグラスを空に掲げ、私も同様にした。
「乾杯」
「乾杯!」
まさしく、光と影と思いながら、明るい室内で朗らかに談笑し合う人々を見つめる。ここに居る者達は、育ちが良く、学歴も立派で、まるでそれがあるべき当然の結果であるかのように栄光を勝ち取ってきた奴らだ。明星特攻隊の奴らはと言ったら、暗がりを好みくすぶり続けているけれども志だけは高いつもりでいる二流の集まり。それでも、日本を良くしたいという熱い情熱はきっと同じだ。だが暗がりの中で何を吠えていようと、国に変容は起こせぬ。結局は明るい所まで昇りつめた人間にしか日本は、国家は、六法は変えられぬ。
「理想像を、常に持ち、そこへ向かう努力を怠ってはならないのだ」
「そうだ、現状維持では足りぬ、理想を掲げ、そこへ向かう」
「向上心無き者、持たざる者が持つ者に対して向けてくる敵意とやっかみ、犯罪すれすれの攻撃の、なんと無駄なことか。あいつらを、いずれ討伐せねばなるまい」
「左翼は弱者をそそのかし味方につける、しかしながら実際はその弱者からも搾取するのだ、強者から盗れとそそのかすだけでなく」
酒が入り言動に熱がこもってきた皆に、海士部史郎が言う。
「しかしながら鳥が空を自由に飛ぶ時、蝶が、昆虫が花から花へと飛び回る時、左右の羽が必要なのは当然ですよね。私達は右翼ですが、一国家が自由に世界という舞台を飛び回る為には、左翼も必要なのです。そして左翼、野党は右翼、与党がコントロールしなくてはならない。右翼が主導権をすべからく行使しなくては、国家の安定は保たれない」
その言葉に、皆が頷きながら加わる。
「正義でなくてはならぬ。晴れ晴れとした美しい青空を自由に羽ばたく時に、誰もが憧れ、そこに理想を見出し、自らもそうありたいと願う主導者は」
「正義で、善であらねばならぬ」
「悪ではならぬ、ぬかるみの雑草の中でも生きられる黒々とした虫では、日の光に当たれば目を伏せられるか殺されるだろう。だが、悪や闇は、正義が生み出すものだ、正義や夢の副作用として」
「それを、いかに右がコントロールするかなのだ、そのコントロールの方法は」
「結局は飼い慣らすより他無い」
「その考え方はいかがなものか、そのような上からの制御が、余計な反発を産む」
「どのような言葉を使ったとしても、やる事は同じだろう」
「いや、言葉こそ大事だぞ、私達のような六法を扱う者達にとっては特に」
「闇が光を、正義を喰らう時、日本国は終わる、それだけは避けねばならない」
「しかし悪が民意を丸め込み彼らが悪を選ぶなら、いっそ朽ち果てるより他無い。結局は国家とは民意なのだから」
「国民総人口の6割。。。いや、8割は、何も考えていない、誰かに言われた事をそのままやるだけの能無しだ。民意を国家と言うのはおかしいだろう」
「そうだ、能無しは何もかも失うまで失敗していることに気付かない。実際には洗脳されているだけで自分の頭なんぞ使っていないのだから、どこまでも間違っていく、結果朽ち果てる。悪に洗脳された民意を国家とは言わないのでは?」
「さよう、結局民意とて操るものだ、良い洗脳をしかけるか、悪い洗脳をしかけるか」
「だからこそ我々が、良い洗脳を仕掛けていかなくてはならない、それが政治家の仕事だ」
「その通り!」
「私は」
酒が深くなり気質が高ぶり始めた会員達の掛け合いの中に、私が一言言いかけると突然周囲の空気が少し冷め、皆が私の方を見つめた。やはり新参者の私を、未だ仲間とは思っていないというわけか。私は少し緊張しながら言葉を続けた。
「私は、国家において最も守られるべき法とは、基本的人権の尊重だと思う、それは『何人にとっても』です。。。私達は様々の理由をつけて、相手を自分以下に見、相手の権利を自分の持ち物のように言及し、振舞う事がある、権力者であればなおの事、自分より劣っていようと、また劣っていまいと、個人の権利を尊重するという視点が無ければ、民は付いては来ない」
私がそう言うと、「これだから、女は」と誰かが言った。私は続けた。
「誰かが、言わなければならない、キレイゴト、甘いだけの理想と言われようとも、誰かが本気で主張しなくてはならないんだ。それを、正義が行わずして、誰がやる?正義は、守らねばならぬのだ、弱い人々であろうと、強い人々であろうと、平等に。いつでも立ち返らねばならない、基本的人権の尊重、平和主義、国民主権。誰が秀でているのでもない、誰もが平等であり、誰もが尊重されるべき社会という理想像に」
「おい、新参。俺達とて、そのような戯言は分かり切っている、今は腹を割って、嘘偽りない心の内を吐露し合っているのではないか、水を差しやがって!」
「だからその、お前達の『俺達の方が上だ』という物言いを戒めたらどうなんだ!」
「何を言っているのか、俺達は人の上に立ち、人々を先導していく者達ぞ。国の民を動かしていくのに、俺達は上位なのだという心意気が無くてどうする!」
「上に立つ者が、下に属する者をたとえ心の内だけでも見下していては、下の者達は反発するだけで付いては来ないと言っているんだ!」
「いいや、逆だ。下の者達は『何も考えたくない』し『何の責任も追いたくない』のだ、だから上に立つ者に全てを決定してもらい、事態が怪しくなってきた時にはそいつに全責任を被って欲しいのだ、彼らは平等なんざ求めていない、自分達の人生が『そこそこまーまー』に平穏無事に済んでいればそれで満足、むしろ何らかの自己判断を求められるような厄介事は避けたいのだ、首輪を外して好きな所へ行けと言われても野良になるだけ、むしろ首輪を付けて飼われた方が安心という奴らだ。奴らは付いていくかいかないかを自ら決定したりなどしない、与えられたものが自分にとって不都合でないというだけで完全に満足出来る、俺達がそのような無責任な能無し共を、まとめて引きずっていくのだ、理想の国家へ!」
私は絶句し、言い淀んだ。彼らはまるでスイッチが入ったかのように、「そうだ、俺達が国民を、個人の権利を放棄し何も決定しない国民達を、引きずっていかなくては。。。俺達がコントロールしなくてはならない」と確かめ合うように言った。私は背筋が凍るような気持ちになって、「正義とて、度が過ぎれば、悪に転ずるぞ」と忠告した。
「宝示君の主張した、相手を尊重する気持ちは、無論大事にしなくてはならない。そしてもう一つ大事な事は、人は一人一人だということ。私達が国民を先導する時に、私達の声は、全体ではなく一人一人に届かなくては意味が無い。総体的なイメージに言及することは、常に空に石を投げるようなものです」
海士部史郎がそう言うと、その場にいる皆が高まり過ぎた士気を下げた。次の海士部史郎の言葉に耳を傾けている。私もその場にいた皆と同様に、彼の方を見つめた。
「それぞれの経験の中に。。。具体的な事実があっての言及であって、空論でなどない事は既知している、しかし。。。私達は志を一にするあまり、柔軟な物事の捉え方が出来なくなってしまう事がある。やはり、宝示君を招き入れて良かった」
海士部史郎がそう言うと、途端に場の空気が和らいだ。先ほどまでのはりはりとした士気が、会食の始まった時のように穏やかになった。
これが、人を先導するということか。この集まりの男達は、海士部史郎の言葉なら受け入れられるのだ、同じような事を言っても、私の言葉では反発するというのに。
これが人の信頼を得るということ。。。人は、自分より格下だと思っている相手の言葉は、いかなるものであろうと飲み込む事は出来ないのだ。。。
「正義は、誰の心にも宿っている。しかしながらそれは脆く、持続しがたく、しかしながら悪行には容易く転んでしまう、それが人の心」
悔しい、そう思った。私は女で、基本的に舐められている。ここに集う彼らの心を動かせるのは、海士部史郎その人なのだ。
「平の民が弱者なのではない、弱い心に付け入る輩が、戦後この国に潜伏してしまっている。敗戦国の弱みに付け入り、諸外国の侵略者の望み通りに、民を操ろうという輩が」
「そうだ、そいつらからこの日本国を、守らねばならない、守る為にはどうするか」
「攻撃は最大の防御。メリケンが作り上げた戦後の憲法では、我らは丸腰のままだ」
彼らは海士部史郎に合いの手を打った後で、海士部史郎の言葉を待った。海士部史郎は一呼吸おいて、こう言った。
「憲法第9条、改正」
「おお、そうだ。。。憲法第9条の改正こそが、日本の誠の夜明けなのだ!」
「そうだ、そして我らが海士部法務大臣こそ、それを実現する!」
「海士部法務大臣を、内閣総理大臣に!!」
「我らは日本の夜明けを、大臣と共に実現するのだ!!」
男達の士気が再び高まり、憲法第9条のどこをどう変更するかの討論に発展したところで、私は席を立ち、廊下の辺りで風に当たりながら一息入れた。
やはりトップの奴らのプライドと言ったら、半端ではないなと思いながら休んでいると、後ろから海士部史郎がやって来て「疲れさせてしまいましたね」と私に声をかけた。
私は即座に立ち上がり、頭を下げながら「いいえ、この上ない機会をいただき、感謝の念しかありません」と声色を硬くして答えた。海士部史郎は笑いながら廊下に胡坐をかき、私は失礼のないように近過ぎず遠すぎずの位置に正座した。
「実は、貴方を招き入れたのには、男達の空気に風を通すのだけが目的ではないのです」と私に言った。私はもう少し海士部史郎の方に身を寄せて、言葉を待った。
「あの者達の中に、裏切り者がいます」
「めっちゃ凄いやん、期待以上なんやけど」
「お前、ホンマ絵上手いんやな」
「こんなん、ザラやて」
頼重の携帯に、昨日中にネコちんからアンケートのイラストが出来たという連絡が入り、俺と頼重は1限の後の十分休憩で、ネコちんの所へ仕上がりを確認しに向かった。
A4の用紙に描かれたイラストは市販されている漫画のクオリティーそのもので、絵に詳しくない俺から見るとプロの漫画家の仕事のようにしか思えない。朝パンを押したいと言った言葉を覚えてくれていたのか、各問いの文章の最初か最後の部分に、色々な種類のパンのイラストが入っている。
「これ、生徒会の奴らが見たら、ビックリするやろなぁ」
「もうこれで、通したいわ、早く木曜日にならんかな」
「待て、問いの内容、もう少し詰めとこ、俺ら二人だけでこれ以上改良の余地が無いところまで」
「そやな、そしたら、それに合わせてまたイラスト修正してもらっていい?」
「ええよ。それコピーやし。デジタルデータあるから、細かい修正も簡単やで」
「ありがとう、恩に着る」
「見返りは、何がいいやろな、タダっていう訳には。生徒同士やで、お金っていうわけにはいかんやろけども。。。」
「ほんなら。。。美里さん関連で」
「お前、何を要求するつもりや?!パイ揉ませてくれとかは、あかんぞ!?」
「それは、ちょっと無理やけど。。。」
「だってネコ柳、入学式の列にこっそり紛れ込んでたって!」
「させてくれるんやったら、喜んで。。。俺も、男やし」
「あ、アホか、あかんに決まっとるやろ。。。大体、パイが揉める権利っていうのは俺が言い出した訳じゃなくて、タケが!」
「もう二限始まるで、十分なんて直ぐやな、報酬の事は、この案件が通ってから決めてもええやろネコ柳」
「別に、こんなちょっとしたイラストのことで、何ももらわんでもええけど。くれるって言うんやったら、遠慮なく」
「ネコちんにはこの他にもまだ頼みたい事あるから!とりあえず、クラス戻るわ!ありがと!」
「いえいえ」
「ほなまた後で!」
教室に戻った後で、二限の授業中にも、こっそりネコちんが描いたイラストを机の上に出して見ながら、俺は表情を綻ばせた。
このアンケートやったら、メンドクサイとかじゃなくて、見た途端に気持ちがわぁって明るくなるやんな!大成功間違いなしやて。
ニマニマしながら、女の子のイラストを見つめる。うん、可愛い、めっちゃボイン。
ボインは神。ボインに敵なしや。
ところが、ボインに敵は間違いなく居たのだ、それを後に思い知ることになって。
木曜日の放課後、生徒会執行部の活動日がやってきた。その日も各トップの元で各々の活動を進めることになり、俺と頼重はソワソワしながら、1年Bクラスの生徒が意見箱から回収してきた数枚の意見書を見ながら、アンケート用紙を出すのを今か今かと待っていた。
その週の意見書にも、やはり学食と学食の売店に関する不満が一番多く書かれていた。
「今までは、学食に関する意見書はスルーしてきたんだけどね。毎週書かれてるけど、もうこの問題は済んだからって」
渡辺庶務長が厄介事と向き合っているという感じでため息を一つついて、「それで?海士部君と亀原君は、どうしたいんやっけ?」と尋ねた。俺はすかさずに、用意してあったアンケート用紙を4つ並べた机の上に出した。
すると案の定、「おお!」とか、「何これ、めっちゃ上手、可愛い~~」といった反応が返ってくる。俺は鼻の下を得意気に人指し指で擦って、「これやったら、ええでしょ?」と言った。
アンケートの問いは、最初にネコちんに渡した時からもう少し増やして、その問いごとにパンのイラストを入れたり、絵と文章の配置を整え直したりしてもらった。
皆がテーブルの中央に向けて体と頭を乗り出して、問いの文章を読んだりイラストに指差したりしている中で、案の定高杉萌咲が「否!!このアンケート、おかしい!」と突然手を上げた。
「出た~~、高杉モエ。。。」
「安心しろ、お前は間違いなく何かしらの因縁を付けてくるって思ってたで」
「私、ずっとおかしいおかしいって思ってたんや!なんで、少年誌の漫画の女子って、主人公は必ず胸が異常なほどデカいわけ?!こんなデカい胸の女子高生、いてるわけないやん!」
「それ、私も思ってた。。。嫌やんな、女は胸さえデカければいいって男子の趣向。。。まじキモ過ぎ」
「このくらいの胸のサイズの女の人、いてるやん、袋とじに。。。なんやったら、もっとでっかいお姉ちゃんも沢山、このサイズやったら、むしろ控えめな方やで。お前ら、見た事ないのか?」
「もっとデカい胸の人がいるから?!、そういう、問題じゃ、ないって言ってんの!!」
「そーや、そーや!!」
「こ、これは、想定外の部分で反発が」
「ボインは男の夢やぞ。絵の中でくらい、夢見せてくれたってええやんけ、別に女子の全員がボインやないといかんなんて、主張してないで」
「当たり前やろ!!」
「まぁ、全女子が皆ふくよかなバストやったら、男達は言う事ないけどなぁ」
「それは、聞き捨てならんわ」
渡辺庶務長までもが参戦して、庶務の集まりは男子バーザス女子の言い争いに発展してしまった。
「胸が大きな女の子の絵が入ってるってだけで、男達を乗り気に出来るんですよ!女の子には分からないかもしれない、男達がどれだけボインに夢と希望を託しているか。。。」
「海士部君まで。。。」
「お前らも、何とか言えよ、男やろ、ここは引けへんねん!」
「いや俺は、別に控えめなサイズでも。。。」
「あっ!裏切るんか?!モテるつもりか、女子に良い顔しやがって、本音言えや!」
「小さいとか大きいとか、男ってまじキッショい」
「そうやわ!!逆に、女の子が言い出したらキモくないわけ?!チン。。。」
高杉が興奮しながらそう言いかけてやめた時に、一瞬女子が引くのが分かった。男達は少し興奮気味に面白がって、表情をだらしなく緩めている。
頼重が面白そうに、「チン、何やて?遠慮せんと、言うてみ?」
「な、何も言ってないわよ、つまり、逆に大きいとか小さいとか、女子が言い出したら、それはつまり、だから男子の個人的な、えっとその。。。」
「この話は止めましょう。海士部君、これは庶務長命令です。女の子のバストのサイズを、標準に描き直してもらってね」
「わ、分かりました。。。」
「俺らは、むしろその先に興味津々やのに。。。なぁ?」
「生徒会はお楽しみ会じゃないの。ここからは真剣に、アンケートの内容について議論しましょう。そして、このアンケートをもう一度とる必要が本当にあるかどうか」
「はい。。。」
「そうよ、さすが庶務長。。。」
つい先ほどまで机に嚙みつかんほどの勢いで意見していたモエが、恥ずかしそうに言い淀んでいる。そこへ、米山先生がやってきて「また賑やかになっていたみたいだけど、どうした?」と声をかけた。
「あっ!米山先生!先生はボイン派ですかそれとも控えめ派ですか?!」
「えっ、な、何?僕はどちらかと言うと足フェチだから。。。」
「なるほど~~足ね。大人の男っぽいな」
「ブッてるだけかも、先生の、正直な意見が俺は聞きたい」
「足か、それとも尻かっていう話題も捨てがたいな」
「うん、尻も捨てがたい」
「スタァァアーーーップ!!先生、朝パンの話はどうなりました?富士日の出パンとの交渉ですが」
渡辺庶務長が、外人なまりの発音で大きな声を張り上げストップと叫んだ時に、その場にいた全員が体をビクッと揺らして静止した。先生は驚きながら、「富士日の出パンね、電話して、聞いてみたよ。案外、すんなり通りそうだった」と答えた。
「ほ、ホンマですか?!」
「うん。むしろ、ぜひ販売させてほしいって。学生さんのお役に立てるならと」
「2個、100円で?!」
「そうだね、そういう話が出ていたから、2個で100円くらいで、と言ったら、結構ですと」
「こんなにすんなり通るんや、俺も、母親にほのめかすような感じで、聞いてみたんですよ、そしたらやっぱり難しいかもしらんて、食中毒の対策が以前より厳しくなってるって母親は言ってて」
「海士部君のお母さんの話は出さなかったけど、電話で応答してくださった工場責任者の方は、『良いですよ』という回答だったよ」
「ほな、アンケート進めても良いんですよね?!庶務長!」
「先生、良いですか?」
「朝パンの話をメーンで進めて、一緒に学食の利用状況のデータ取り直し、メニューに対する意向調査を入れるのは良いんじゃないかな」
「そうですね、それで行きましょう!」
俺は先生からのゴーサインが出た事で、飛び上がりたいほど嬉しくなっていた。笑顔で頼重とグーを合わせる。その様子をモエが悔しそうに睨みつけている。
「このアンケート、もう一つ、問題があるわ」
「なんや、まだ非難したりんのか、高杉」
「男子生徒のモデルって、どう見たって、篠宮生徒会長やろ?このアンケートを見て、生徒会長本人はどう思うやろか?描き直した方が、良いんやない?」
「だけど、カッコよく描けてるで?」
「元がカッコいいんやから、当たり前やないの!」
「むしろカッコよくない男子生徒の絵だったら、篠宮先輩やて思わへんから良いんちゃう?」
「本末転倒、そんな事したら、女子がその気になってくれへんやろ!」
「じゃあ、別のカッコいい男子生徒をモデルにし直したら?」
「高杉さんの指摘は的を得ているし、篠宮君がどう反応するかは確かに問題やな」
「庶務長。。。」
「ほーーらね?」
「だけどこればっかりは、本人次第ね。博打よ、博打。描かれてる男子生徒のモデルが自分だと、気付かないかもしれないし。モデルで描かれてるのが内心気に入って、すんなり採用されるかもしれない。だけど、もし勝手に絵にするなと激高された時には、ご破算になるかも」
「博打やな。。。どうするテル、避けるか。。。描き直してもらう?」
「いや。。。もし嫌がられても、説得する!いかに生徒会長が、女生徒の人気を獲得しているのか、生徒会長がモデルになってるってだけで、このアンケートに対する興味、それと学食に対する関心が、半端なく増幅すると思う。ボインを妥協したんや、ここは、どうしても引けない」
「まぁ、やってみたら良いんじゃない?じゃあ、この議題、来週会議を設けてもらって、上げるわね、良い?」
「は、はい!」
「いよいよここからがホンマの闘いやな。。。」
「じゃあ、絵はこれで進めるとして。アンケートの内容に変更した方が良い部分、加えた方がいい問い、庶務の中で意見出しましょう。問い一、全校生徒の学食利用状況を把握する問いは、必要だと思うけど、何か意見は?」
「異議なし」
「同じく、異議なし」
「あっ、問い一は頼重。。。亀原君が、最新のデータをもう一回確認し直した方がいいやろって入れたんです」
「言葉遣いは大事よ、細かい言い回しで、『もっとこう変えた方が良い』という意見あったら、どんどん出してね。海士部君と亀原君は、二人でここまで詰めてくれた訳だけど、各問いに対してまだ何か補足したい所があったら意見して」
「はい。すみません、朝パンが実現可能になってきたので、増やしたい問いが。。。」
「良いわよ。貴方がこのアンケートを最終的に形にして持ってくるんだから、皆に意見を仰いで、アンケートモデルの紙に書き足していって」
「はい。朝パンの販売時間の事なんですけど。。。」
生徒会活動が終わった後、俺と頼重は一緒に下校したのだけれど、満足感で胸が一杯になっていたからか、下駄箱で靴に履き替え、校門を出た後も、お互いにしばらく黙ったまま並んで歩いた。
ふいに頼重が、「アンケート、通ったな。。。これ、めっちゃ嬉しない?」と言い出したので、「嬉しい。。。俺ら、一つ新しい歴史を、高校に刻み込もうとしとるんやて。。。」と同意した。
「富士日の出パンも」
「それが一番びっくり!、ネコちんにもめっちゃ感謝や、あのイラスト見た時の、皆の反応。ネコちんの絵あっての成功やて」
「まだやで、庶務長から会議にかけてもらって、そこで生徒会長の承諾を得んと。それより俺が一番ホッとしとるんは、お前の事やけどな」
「え、俺。。。?」
「海士部史郎の事が事実やって証拠出てきた時、お前めっちゃ取り乱しとったやんか。次の日、大丈夫かなて心配してたけど。案外普通やったで。それが逆に俺は心配やったんやけど。その後も全然変わりなく、平気そうにしてるから」
「心配してくれてたんは、何となく分かってたで、ありがとう。何か特別な事があったって訳じゃないんやけど。あの日帰ってから、狸寝入りしてやり過ごすつもりでベッドに潜り込んやけど、ホンマにそのまま寝入ってて、気が付いたら朝になってて。普段よりは早めに起きて、美里が朝ごはん作ってくれてるの見た時に、『何も変わってないわ』って、すっと実感したんや。お腹がめちゃくちゃ空いてて、美里と普通に会話して、一日が始まった後で。ぐっすり寝たんが、良かったみたいや。俺、海士部史郎の話がホンマやったんやって事実と直面した時に、なんや自分が、もう一人出てきてしまったような気持ちになって。俺の知らん、有名人の血縁の、金持ちの、父親も実は生きてる、俺の知ってる自分じゃない、もう一人の自分が。やけど。。。俺は俺やし、美里は美里やし、目を覚ました時に、それまでと何も違わない俺と美里がおるだけやった、海士部史郎が血縁におるって分かったところで、実際は何も変わってないんやって、ようやく、すんなり。心に落としどころが見つかったんかな、うまく言われへんけども」
「それ、俺めっちゃ分かるで。。。『もう一人のテル』やろ。。。俺の中にも、テルが海士部史郎の、有名人の子孫かもしれんって情報が確からしくなってきた時に、今まで俺が知っとるテルじゃないテルが、俺の中に突然生まれたような感じや。それで、そいつが『ホンマのテル』みたいな顔して、俺の中に居座り始めて、それでお前に距離を置いた接し方になってたんやけど。お前に海士部史郎の話教えた後で、お前がその事を嫌がったり、苦しんだり、泣きはらした目で学校来たりしたのを見てたら、こいつはやっぱり、俺が知っとるテルやったって。その時に、頭の中だけに突然現れた、有名人の子孫のテルっていうイメージだけの別物が、おらんようになった。おらんようになった時に、俺が俺の中に作ってた『金持ちの有名人のご子息のテル』に、汚い性分というか、『ホンマはこうなんやろ』って、俺の願望を取り込んだような人物像を、勝手にそれらしく作ってたことに気付いて。俺、やっぱりお前が海士部史郎の子孫かもしれへんて気付いた時に、お前に嫉妬してたんや。お前と距離を置いとる間、俺結構性格悪かったんやなって、後から思った。ごめんな」
「お前の、おかげやと思ってるよ、俺は。。。お前がそういう事実があるって分かった後でも、全然変わらんまま俺と向き合ってくれてたから、俺は何も変わってないんやて、信じられたんやと思う。お前が変わらんでいてくれへんかったら、俺はもっと自分て何なんやって、もう一人の自分像と自分を行ったり来たりして、無意味に苦しんでたと思う。今俺が普通にしてられるんは、ヨリのおかげなんやて、ありがとう。お前が性格、悪い訳ないわ」
「そう言ってもらえると、お前を心の中でちょっと悪い奴にしてた俺の気持ちも救われるんやけども」
「生徒会入って、どうなるかと思ってたけど、楽しいやんな!俺ら今、全力で高校生エンジョイってるって感じ!生徒会、悪くないな!」
「今は上手く行っとるで、そう思うんやて。ほやけど、やっぱり自分らぁが学校動かすって、やりがいが半端ないな!」
「あ~~、早く来週にならんかなぁ~~!」
「えーーーっ?!やっぱりダメって、何でですか?!?!」
3限の国語の授業の後で、俺と頼重は米山先生に呼ばれ、後日富士日の出パンの本社から、「朝パンの販売は出来ない」と電話があった事を聞かされた。
「工場長は大丈夫だろうと承諾してくださっていたんだけどね。本社の方に確認したら、賞味期限前とは言え、売れ残りを、ましてや高校生相手に販売する、これはPTAが問題視した時には心象が悪いと言い出して、無理になったと。賞味期限もその日の3時までしか無い訳だし、春秋冬は良くても夏場食中毒が発生する危険性がある、そうなった場合賞味期限ぎりぎりの商品を販売した事を浅はかだったのではないかと問題視されかねない。申し訳ないけれども無かった事にしてくれ、ということだったんだ」
「そんな。。。そんな!!俺は、諦めませんよ。。。せっかくアンケートも出来てきてるのに!」
「過剰な問題意識と予防対策、ほんま無駄やわ。。。」
「だけどね、企業側に立ってみれば、その判断は致し方ないのかなとは思うよ」
「じゃあ、一つ問題が起こる度に、どんどんどんどん出来ること、狭めていくんですか?!誰の為の判断なんです?!世間っていう、実際は無関係の奴らの反応が怖いからですよね?!見せかけだけの話というか、ウザイ世の中!」
「君達の気持ちは分かるよ。だけどね、大人達は未だ未成年である高校生に、万が一の事があってからでは遅い、大人が守らなくてはいけない、だから安直な決断は出来ない。結果的には、君達の為になると大人達は判断しているんだ」
「そんなん、嘘や。。。自分達が厄介事を持ちたくないってだけのくせに」
「問題が起こってからでは、目も当てられないんだよ。。。子供に問題が出た時の、大人の反応というのはね。世間の目も、より過剰に働くだろうし」
「先生、俺は諦めません。日の出パンの本社の大人達を、説得します、熱意で!」
「ほやけどテル、どうすんねん」
「俺ら生徒側も、大人達も、納得する中間のやり方を、見つけるんや。。。どうしても販売してもらいたいっていう、熱意は態度で示す、大人達に俺達の昼食事情を知ってもらう、その上で、どうしても朝パンの存在が必要なんやって納得させるんや。先生、4限て他のクラスで授業入ってますか?あと、携帯電話って持ってますよね?!」
「僕は4限は空いてるし、携帯も持ってるけど」
「やっぱり、先生も持ってるんや。。。」
「当たり前やろ。。。自立した大人やし」
「当たり前ってことはないよ、未だにガラケー使ってる友人もいるよ?」
「先生、ガラケーかスマホかっていう話ではないんです。。。」
「米山先生、お願いがあります!4限終了10分前から学食にスタンバってていただいて!4限終了のチャイムが鳴った後からの学食の状態を、先生の携帯のカメラで動画撮影していただけませんか?!」
「学食の動画を撮影すればいいんだね、いいよ」
「なるべく、売店のお弁当とパンの販売状況の全様が見える丁度いい位置で撮影してください」
「分かった。撮影してみるね」
「よろしくお願いします!」
「頼重、清水、行くぞ」
「なんやテルちゃん、鼻息荒いね。学食で食べるんやんな、お弁当持って」
「そや、今米山先生が動画撮影してくれてはるさかい」
「俺、絶対に朝パンの販売、実現させたい、実現するんやから」
「こんなに興奮気味のテルちゃん、見た事ないわ」
「米山先生ってご飯どうしはるんやろ」
俺と頼重と清水は昼食を持って学食へと向かった。俺が少し速足に向かおうとするのに合わせて、二人も駆け足気味についてくる。
「米山先生!」
「海士部君、撮れたよ」
俺達は学食の長テーブルの所で座って待っていた米山先生の元に駆け寄り、先生が画面を上に向けて再生した動画を、3人で覗き込むようにして見入った。
動画で見ると、なおさら僅か数分の間に繰り広げられるお弁当とパンの争奪戦の様子がとてつもなく酷い事がよく分かった。2分ほど再生した動画を先生が止めて、俺達は「やっぱり凄いな」「これは、マジやな」「今までけが人が出てないのが不思議なくらいや」と呟いた。
「僕も昼食時の学生食堂の様子、初めて見たんだけど。これは放置しておくと、逆に問題になるレベル」
先生はそう言って、長テーブルに座った。先生の隣に清水が、俺と頼重が二人の向かい側の椅子に座って、それぞれお弁当を広げた。米山先生もお弁当を持参してきていた。
「先生もやっぱり、お弁当なんですね!お嫁さんの愛妻弁当ですか?」
「あはは。僕は独身だよ。お弁当は自分で作ってるんだ」
「あっ、米山先生、お弁当食べてる。私も一緒に食べたい」
その時女生徒が米山先生を見つけて手を振り、米山先生が微笑んで軽く手を上げた。俺はその様子を見ながら、「米山先生、女子にモテるでしょ?無駄に」と言った。
「モテそう。先生、優しいし、女に好かれそう」
「普通だよ。若めの男の先生が好かれる程度にしか」
「先生、料理もするんですね」
「独り身なんて、家に帰っても寂しいだけだからね。疲れてても、次の日のお弁当の用意するのが習慣になってるんだ」
「わぁ、美味しそうやぁ。。。食べたい」
「いいよ、好きなの食べて」
「じゃあ、卵焼きもらお」
「それ、半分にしてくれ」
「俺は、先生が食べる分無くなったら困るで」
俺はそう言いながら巾着の中から大きなおにぎりを一つ出し、サランラップを外して食べ始めた。先生から卵焼きを貰って嬉しそうにしている清水が、「それも、食べたい」と言って俺のおにぎりを狙っている。
「清水も今日はお弁当あるやろ、自分のにしなさい!」
「なんでや、楽しいやん、米山先生とご飯一緒に食べられるなんて、レアやで?」
「米山先生、あんまり学食では食べないんですか?」
「あんまりと言うか、教師達は、普段は職員室で皆食べてるよ。僕は今日は、せっかくだから昼食時の食堂の様子を把握するのも兼ねてね。ここまで酷いとは、想像していなかったから。職員会議で問題にしなくてはいけない。生徒達が4限後、教室を飛び出していくのは知っていたけどね。まさか廊下も、全速力で走ってるんだよね」
「めっちゃ、走ってますよ!スポーツクラブの男子生徒達のエンタメ競技化してますよ」
「それも、まずいなぁ。。。4限の授業が無い教員達で、廊下を走らないように監視付けて指導もしないと」
「だけど、暗黙の了解みたいなところも、あったんですよね?」
「こうして記録とっちゃうとね。。。改善策を講じないわけにもいかない」
「マジか。。。俺、スポーツクラブの奴らに、どやされるわ。。。アイツら、毎日楽しみでスピード競ってるもんな。運動神経良いから、階段もいかに早く下りるかっていう技術を、忍者が訓練するみたいに楽しんでるのに。。。今までケガもしてないのに」
「今までは、ケガ人が出てないだけ。これから、出てくるかもしれない。今までは運が良かっただけ。やっぱりこの現状は、問題がある」
「なんや、窮屈やなぁ、大人の世界は」
「大人の世界は、窮屈なんです、当然。君達はそうやって、大人になっていく」
「大人になるって、憂鬱やぁ」
「先生、その動画持って、一緒に富士日の出パンの本社へ、説得しに行ってもらえますか?」
「行くのはいいよ。だけどこの動画を見せて、どう説得する?」
「朝パンの販売があれば、昼のお弁当とパンに対する需要を、必ず減らせると思うんです、朝パンの必要性を熱く語ります。そして、賞味期限が3時まででそれ以降に生徒達が絶対に食べないよう、昼食時間までに食べられなかったパンは持ち帰らないよう徹底する事も誓います。昼食時間終了時に学食で食べなかったパンは、必ず回収する。朝販売されなくてもどのみち処分されるパンなんだから、良いですよね、勿体ないけども。それを必ず徹底すると必死に説得して、頭を下げます。俺は、朝パンを絶対に販売までこぎ着けたいんです。朝パンが、4限終了後の廊下問題も、秒で売り切れるお弁当とパンの問題も、どちらも解決してくれると信じています。そして、競い合う事なく食料を確保できた生徒達が、学食でご飯をそのまま食べるようになり、学食が賑わうようになると。朝パンが、様々な学食問題を、一気に解決してくれるはずなんです」
「なるほど。海士部君の意向は分かった、だけどその前に、ここまでの事実を一度生徒会に上げよう。少し、問題が重なってきている、問題が出てきている現状を、生徒会の上の子達が把握していないというのは良くない。日の出パンに軽く電話確認をする程度で済んでいたら、アンケートを生徒達に取るか取らないかまで庶務でまとめたものを、会議で審議するというので良かったんだけど。日の出パン本社に直接出向いて説得するとなると、事態が動き過ぎてしまうから、一度生徒会長、スグル君まで話を通そう」
「分かりました。。。俺は本当は、日の出パンからの朝パン販売の承諾がもらえるまで、進めてから生徒会で問題にしたかったんです」
「焦らないで。君の熱意は、スグル君にも伝わる。実はこの学食、2年前まで木造の、古い建物のままだったんだ。クーラーも古いタイプのが付いてて」
「そうやったんですか?!」
「うん。君達1年は、新しくなった学食しか知らないけどね。2年前に学食が問題視されてアンケートを取った時に、当時1年の庶務の一員だったスグル君が、学食があまりに古いから、新しくしたらどうかと提案した。そのおかげで、天井は以前よりもずっと高くなり、内装も白くして明るくなった。しかしながら学食の食べ物が改善された訳では無いから、昼食時でも学食がガランとしたままなのは変わってないんだけれど。だから君の意見には、スグル君はきっと賛同してくれる。スグル君も学食という場所が、もっと学生全員が集いやすい場所になればいい、その為に変化を起こしたいという気持ちがあるんだよ。だから焦らず、今は生徒会に審議を仰ごう」
「次の木曜日に、ということですか?」
「いや、恐らく明日から、4限後に教師達が走る学生に対して指導が入っていくだろうから、イレギュラーな集合をかけて、不定期の生徒会会議を開くことになる。明日校内放送を入れてもらうから、放課後二人は生徒会室に集合するように」
「わ、分かりました。。。」
「いきなり、篠宮先輩とやり合う事になるのか」
「大丈夫、君達が思ってるほど、スグル君は堅物じゃないよ。じゃあ、僕は動かないといけないから、もう戻るね。君達はゆっくり食べて」
米山先生はそう言って立ち上がった。清水が「先生卵焼きごちそうさまでした、美味しかったです」と言い、頼重も「俺も」と言って座ったまま頭を下げた。先生は笑って僕らに手を振ると、学食から出ていった。
「米山先生って、普段は口調も柔らかくて、フワーーッとしてるけど、いざ何かするってなるとビシッとしてて、カッコええなぁ」
「うん、何で生徒会担当してはるんか、納得や」
「明日か、心の準備出来てないんやけど、俺」
「俺もや。。。篠宮会長、どんな反応するんやろ。怖いし不安」
「篠宮先輩モデルの絵もあるし。。。あっ、そうや!一応ここまで出来てるアンケートのサンプル、会議の前に生徒会執行部全員分のコピー、出してもらった方がいいんちゃうん?」
「なるべく早く生徒会室向かって、サッとコピーさせてもらおう」
「それがええな」
「なんや二人、ここ最近ずーーっと忙しそうやな。俺はちょっと、寂しいわ。。。」
「ごめんな。昼食は絶対、一緒に食べよ」
「うん、絶対やで」
「俺らも食べ終わったし、戻ろか」
「ほやな。ほやけど明日以降、スポーツ部の男どもに指導が付いて、4限後走れんようになるやん。不満出そうやな。。。」
「あ~~、色々と、めっちゃ怖いし、不安や。。。」
「まぁ今まで見逃されとったんも問題やろから、ええんちゃう?」
「間違いなく文句は言われるやろけども」
「ところで、米山先生の卵焼き、美味しかったん?俺は食べれんかったけど」
「うん。まあ、普通?」
「普通やな。男の人やし」
「そうなんや。。。逆に、普通の卵焼きの味って、どんな味か気になるな。。。」
「マズくはないよ。やけど美味しかったかって言われると。俺ら、こうやって大人になっていくんやな」
「なるほど大人って、こういうことなんやな。。。」
「生徒会執行部員の方々へ、連絡です。。。本日の放課後、不定期会議の為、生徒会執行部の皆さんは、生徒会室に、集合してください。。。繰り返します、本日の放課後。。。」
次の日、米山先生から言われた通り、昼休憩の間に不定期会議の集合の連絡が放送された。そしてもう一つ、4限の終了時に教室から走り出た男子生徒達は、数か所に待ち構えていた先生達から、「廊下は走らない!」という指導を受ける事になった。その日の学食の売店の様子がいつもとどう違っていたかは分からない。俺達は6限が終了した後に、なるべく急いで生徒会室へと向かった。
俺と頼重が生徒会室に向かうと、待ち構えていたように渡辺庶務長が入り口にいて、「アンケートのコピーよね、今日は私が取ってくるから、貴方達は机を会議仕様に並べ直しておいて」と言った。俺は手に持っていたアンケート用紙を直ぐに渡辺先輩に渡した。
「今日の会議、途中で海士部君に発言してもらうから、その時に海士部君は『朝パン』を提案して。学食問題の具体的な解決策を提案した代表としてね」
「わ、分かりました。。。上手く言えるかな」
「私達も、フォローするから」
先輩はそのままコピー室へと向かってくれた。
「発表か、緊張するけども。それよりもなんや、緊急で徴集かけられたせいか、空気が慌ただしくて、恐ろしいわ」
「俺もや。今は机、並べ直ししよ」
「そうしよ」
俺達はテーブルをロの字になるよう並べ始めた。一人二人と生徒会執行部員が入ってきて、何も言わずにそれに加わる。そのうちに渡辺先輩が戻ってきて、並べ終えたテーブルの上に、一部ずつアンケートのコピーを並べていった。俺は次第に心臓がドキドキと高鳴ってくるのを感じていた。
会議って、もちろんやけど、俺も発言するんやんな、殆どは、渡辺庶務長がリードしてくれるとは思うけど。
そのうちに議長が入ってきて、庶務長と打ち合わせをしている。俺達1年は大人しく並び終えた机のそれぞれの席に座って、会議が始まるのを粛々と待った。
庶務長と話し終えた議長が、生徒会準備室の方へ移動し、しばらくした後で篠宮生徒会会長と副会長の二人と、議長が出てきて、最後に米山先生が出てきて準備室のドアを閉めた。
全員が揃ったのを確認すると、議長が音頭をとった。
「起立、礼。これより、生徒会執行部、第二回会議を開始します。着席」
全員がガタガタと音を鳴らしながら座り直すと、議長は音が静まるのを待って会議を進めた。
「本日の議題は、突発的に発覚した、校内秩序の乱れに関する問題と、現在庶務係から会議に上げようとしている、学食問題に関する報告の二つです。まず最初に校内秩序の乱れに関する問題ですが、四限終了後、教室から学生食堂までの間の廊下を全速力で疾走する特定の生徒達がいるようです。この問題は米山先生が昨日事件を確認された後、既に本日より先生方の方で対処が行われています。ですので本日以降、それらの特定の生徒達が廊下を疾走するのを止めるまでの間、四限終了後の廊下に先生方が見張りと注意に入られます。生徒会執行部の方々はこの事実を共有し、何故先生方が廊下で見張っているのか疑問視する生徒がいた場合、説明等にあたってください。
次に、庶務係から会議に上げようとしている学食問題について、執行部に意見を仰ぎたいそうです。ここからは渡辺庶務長より発表があります。渡辺庶務長」
議長がそこまで進行すると、庶務長の名前を呼んだ。庶務長は「はい」と言って立ち上がった。
「現在、庶務の間で学食問題を再考し、アンケートを取り直すのはどうか、という議題が上がっています。二年と三年の生徒会執行部員は既知の事実ですが、学食問題に関して、二年前にも同様のアンケートを実行しており、この件に関して変更は不要と結論が出ているのですが。今年改めて、庶務一年の生徒と米山先生により学食問題の事実確認を行ったところ、売店に急いで向かうあまり、生徒同士で事故が発生し得るほどの競争購入が、毎日なされていた事を突き止めました。本日最初の議題に上がった、校内秩序の乱れは、一年庶務部員と米山先生が突き止めたこの事実によって発覚したものです。売店のお弁当とパンの購入の為に、特定の生徒達の間でケガを伴うほどの競争が行われていた事が発覚した今、学食問題は何らかの具体的な改善を行う必要があります。その解決方法として、庶務係一年の海士部君から具体的な提案がなされました、ここからは、海士部君。。。」
渡辺庶務長が窓際の後ろ黒板側の席から、俺を伺うように見たので、俺は拳を強く握りしめながら庶務長に頷いた。庶務長は、「庶務係一年の海士部君から発表します」と続けてもう一度俺を見た。渡辺庶務長が、ここまで俺の提案が必要不可欠なように進めてくれたんだ、頑張るしかないと、俺はめちゃくちゃに緊張しながら立ち上がった。
「海士部です。俺。。。僕は、学食問題を解決する具体的な方法として、『朝パン』を提案します。朝パンとは、生徒達の登校時、運動部の朝練が終わるくらいの時間帯を狙って、学食の売店で早朝に販売するパンのことです。『朝パン』を導入するメリットですが、まず一つ目に、朝にパンを販売して、朝練後の運動部員達の空腹を朝の時間帯に満たす事で、昼食時間に集中し過ぎるお弁当とパンに対する購買行動を融和出来ます。二つ目に、売店のお弁当とパンに対する購買競争が落ち着く事で、学食でそのまま食事をする生徒が増えていき、学食が賑やかになります。三つ目に、朝パンを卸してもらう事で、今まで販売されていなかったパンの販売が学食で可能になるかもしれないと思っています。以上です。。。」
俺がそこまで説明して、渡辺庶務長の方を見て座ると、庶務長が立ち上がって俺の提案に補足した。
「現段階で、海士部君の提案する『朝パン』の事で、この提案を実行するのが有意義かどうか、執行部に中間決議を仰ぎます。皆さん、いかがですか?」
渡辺庶務長がそこまで言うと、議長が立ち上がった。
「以上が現段階の庶務からの提案なのですが、どうして中間決議を仰いだかと言うと、庶務が米山先生に依頼して、海士部君が提案した、『朝パン』を卸してもらうとしている『富士日の出パン』に電話で確認をしたところ、難しいという回答があったそうです。ここから富士日の出パンに交渉を進めるとなると、学食の売店に朝パンを導入する前提で動く必要があるわけですが、庶務の方では、集中し過ぎる昼食時の売店の競争購入を融和する為にも、ぜひとも進めていきたいそうです、他の係の皆さんは、どうですか?」
渡辺庶務長と米山先生が事前に事態を共有していてくれたらしく、俺の言葉足らずを補足しながら、庶務長と議長が上手に決議をあおってくれた。俺は生徒会執行部の先輩達の反応、とりわけ篠宮会長の意見を心臓が縮こまる思いで待った。
他の生徒が意見を言おうとしないを見かねて、米山先生が立ち上がって、説明に加わった。
「学食問題は、二年前にも同じ議題で、生徒会執行部が進めようとした時に、一度流れたっていう事実があるよね。その時は、学食の利用者が一割しかいないのに、学食を改良する意義はあるのか、っていう所で、有意義ではないと結論が出た。だけど、僕が昨日学食で撮影した動画を見てくれたら、分かるんだけど。。。学生達、とりわけ男子生徒達が、危険なほどに集中的に、学食売店のお弁当とパンを毎日買い求めているという事実が発覚したんだ。生徒会長と副会長、議長には、その動画を見てもらったから、学食問題をこのままにしておくのは、危険だろうっていう認識は共有しているんだけれどもね。問題は、その方法なんだけど、一つの具体的な改善策として、一年の海士部君が、富士日の出パンの廃棄前のパンを、非常に安価で朝練の学生達に販売するのはどうかって提案してくれたんだ。僕が庶務に代わって富士日の出パンの工場に確認した時には、販売に前向きな反応だったんだけど、後日本社との兼ね合いで、やはり出来ないという話になってしまった。それでも海士部君は、朝パンに希望を見出していて、どうしても販売許可をとりたいと、庶務の皆も僕も、もう少し説得してみようという方向で動きたいんだけれども、その前に、生徒会執行部の意見を仰ごうという話になったんだ。それで、今日イレギュラーな会議をもうけたんだけど、どうかな。もしかしたら結局話が頓挫するかもしれないけれど、海士部君の提案する朝パンを、進めても良いだろうか?」
(米山先生が、結局全部説明してくれたーーー!!)
ここまでの不足をさらに全部補って、米山先生が生徒会の先輩方に意見を仰いでくれたのだけれど、それでも先輩方は乗り気そうな反応をしなかった。
「はい」
会計トップの菅原先輩が手を上げたので、議長が「菅原会計長、どうぞ」と言った。
「まず、今回問題視されている、4限後の突発的集中的な売店購入ですが。これを解決するのに、どうして朝にパンを販売する必要があるんでしょうか。問題は、生徒達の行動が過激過ぎることと、それが規制されないまま野放しになっていたからであって、先生方が指導に入られた今、問題は解消に向かっているのでは?あと、朝パンの販売というのは、ターゲットはスポーツクラブの、朝練の男子生徒で、特定の生徒が得をする為にわざわざ販売するのは無意味では?めぼしを付けているパン屋の卸業者からは、既に断られているんですよね?だったらそれで終わりにしても、いいのでは。何よりも。。。2年前に既にアンケートで答えは出ている、学食は全校生徒の1割弱しか実際には利用していないのだと。たった1割の、部活動で究極的に空腹を抱えた男子生徒の為に、朝にパンを販売するというのは、いかがなものだろうか」
「そうよね。。。私もそう思うわ」
「2年前に有意義でない事はデータで出たのに」
「おい、二年と三年の先輩のテンション、こんなに低いんやな」
「渡辺庶務長が、最初進めたがらへんかったかったワケや。。。そやけど俺、あんなに学食問題変えようと意気込んでたのに、朝パンめっちゃ良いアイディアやって、めっちゃ自信あったのに。先輩達の意見聞いてたら、そっちの方がもっともやって思えてくる。ほやけども。。。」
俺は頼重と、小さな声でぼそぼそと会話した後、「はい!」と手を上げた。その時には、空気にも飲まれなくなってきていた。議長が「庶務係海士部君、どうぞ」と促した。
「俺が朝パンを販売したいのは、お弁当とパンに対する需要が、現在販売されている以上に、もっと多いだろうと推察したからです!二年前に調査したというアンケートですが。。。どうして学食を利用する生徒が全体の一割しかいないのか、一割の生徒の分しか、購入したい弁当とパンが販売されていないからというだけで、もっと販売の量を増やしたり、もっと学食のメニューを充実させたりすれば、生徒達は学食を今以上に利用するようになるんじゃないかと。一割しか利用したくないのではなくて、一割が利用出来る分しか、売店のお弁当とパンの用意が無いってことです。それと、俺が学食問題を解決したい理由は、学食を今以上に活気付けて、学食という場所を、もっと生徒達の交流が深まる場所にしたいんです、せっかく、学食って広いし綺麗やし、昼食時だって沢山の生徒が席を埋められる座席が用意されているのに。二年前のアンケートでは、理由が消極的なのか積極的なのか、判別がつけられないような問いの内容ですよね?俺は、学食を積極的な場所にしたいんです!だから今回は、アンケートで学食に対する興味が判別が出来るだけでなく、積極的に利用を促すような内容に考えたんです、庶務内でも皆で意見を出し合って、作り直したんで、今年もう一度調査してみたいんです!」
「海士部君は、俺達先輩が行った調査が、不十分だったと言いたいんだね?」
「へっ?!いや、そうではなくて!」
「なんやこれ、大分複雑やぞ。。。先輩らのプライドの問題でもあるんか?」
頼重が小さな声で俺にささやく。俺は無言で頷いた後で、「とりあえず、今年取り直したいアンケートの案も、庶務でつくったんで!配布されてるアンケート、先輩方、どうですか?!」
「いや、絵は上手やけど。。。中学生じゃないんだから、わざわざイラスト入りって」
「だけど興味は沸きますよね、前向きに答えようって気持ちに、自然と」
「それは、そうかもしれないけども」
「先輩達が興味が無いのは、自分が学食を利用しないからですよね。確かに九割の生徒が、先輩達と同意見かもしれない。だけどそっちの、九割の生徒達の気持ちを、たまには学食を利用しようかなって、気持ちが変わるような働きかけをするにはどうするか、って考えてほしいんです。何の為?生徒達の、交流の為です!」
「篠宮君はどうなん?黙ってるけど」
渡辺庶務長が、生徒会長に意見を求めた。篠宮先輩はアンケート用紙をじっと見つめている。
俺は正直、生きた心地がせず、玉が縮こまっていて、その時めちゃくちゃに緊張していた。俺は丁寧に伺うように、弱気になりながら生徒会長に尋ねた。
「それ、どうですか。。。生徒会長。絵がめちゃくちゃ上手な俺の友達に、描いてもらったんですけど」
俺が庶務長に引き続いて尋ねたけれど、篠宮生徒会長はしばらく黙ったままだった。
「この男子生徒のモデルは、もしや俺か」
生徒会長の第一声がそこだった事に、庶務の一年達は喜んだようだった。小さな声でヒソヒソと話している。
「やっぱり気付きはったで!」
「そこが気になったんや、生徒会長」
「この流れどうなん、アウトかセーフか、どっちやろ」
「庶務でも描き直した方が良いんじゃないかって意見が出てたから、嫌なら描き直してもらえるけど」
「俺は、こんなに体が細いと思われているのか?鍛えているつもりなんだが」
「予想外の反応してきたで。。。全く先が読めへん」
「イラストやで、多少デフォルメはされてるけど。そういう風にスラっとして見えてるで、生徒会長」
一年達がヒソヒソと話している時に、生徒会長が大きく咳払いをした。俺は自分でも想像していないくらい緊張していて、心臓がその瞬間にドキーンと強く波打った。
「イラストはこのままでも構わん。俺はそもそも、海士部同様、学食がもう少し生徒達に利用されるべきだと考えていた。学食の売店問題も、先生が指導した程度では、何度も戻ってしまうか、学生達がフラストレーションを募らせるかで、解決策としては不十分だろう。もしも朝パンというのが実現可能なのであれば、試験的にやってみるのは有効ではないだろうか。それによって、状況に変化があれば、さらに少しずつ改良を企画していくのもいい。俺はそう思うが、皆の意見も出してみてくれ」
「キターーー!!鶴の一声ーーー!!」
「これで、朝パン企画、ほぼほぼ進められるんとちゃうか」
「どうやろな、篠宮先輩と3年の先輩は同等かも、俺ら1年と違って」
「とりあえず、会長、絵は気に入ってるぽいな」
「そうやな、おい、テル、ホッとしたやろ」
「め、めっちゃしとる。。。ものの数分で、死にかけたけど、生き返ったみたいな気持ち」
横並びに座っている庶務の1年達が、ヒソヒソ声で話し合う中で、2年と3年の先輩達がまだ不服そうに顔を見合わせている。
「はい」
「広報トップの高田さん、どうぞ」
「学食を生徒達があまり利用しない理由の一つとして、篠宮君が『学食の建物が古過ぎるのも一因なんじゃないか』と上げて、学校側が承諾し2年前に新築されたけど、結局大きな変化は起こってないですよね。この事実は、生徒達が学食という場所に新たな要求など求めていない一つの結果だと思うのですが、どうでしょうか」
「同意、結局俺達皆、弁当やろ?ていうか篠宮だって、弁当やんな」
「篠宮君のお母さんがPTA会長をなさってるから、受諾されたけど。篠宮君個人の特権乱用というか、ねぇ?」
「私達は、学食が綺麗になっても、そもそも全然利用しないから恩恵無いし」
先輩達から否定的な意見がわらわらと出る中、渡辺庶務長が口を挟んだ。
「だけど少しは、学食に集う人数も増えてるんじゃない?夏場は特に」
「前の古い学食だって、一応クーラーは付いてた。古かったから、音も煩いし大して涼しくならなかったから、その部分は確かに今の方が良くはなったけど」
「そういう事か。。。学食案件って、篠宮先輩の弱点というか」
「篠宮先輩を非難出来る材料になってるのか、だから余計に改善しても意味ないって」
「学食問題に先輩達からネガティブな発言が出る理由って、アンケートの結果が全部じゃなかったんやな」
「なぁ、渡辺庶務長って、生徒会長と仲良いんかな?庶務長会長に、名指しで意見仰いでたし」
俺がそう言うと、頼重は少し表情を曇らせた。
「庇うような意見してはったし、そうかもしれんな」
俺と頼重がヒソヒソと言い合う。俺はたまらず、椅子の音をガタッ!と大きく鳴らして立ち上がると、「知らぬは仏ばかりなり!!」と叫んだ。
突然立ち上がった俺に、その場にいる全員が注目した後で、クスクスと笑い声をもらした。議長がすかさずに、「海士部君、発言したい時は挙手でお願いします」と強い口調で言った。俺は「すみません、だけど、はい!」と言って立ったまま手を上げた。
「海士部君、どうぞ」
「はい。そもそも僕が、学食があまり利用されてない現状を勿体ないと思ったのは、今の学食がすごくキレイで、天井が高くて広くて、居心地が良くて、水もタダで飲めるし、僕は2年前の古い学食は知らないけれども、もし古いままだったら、そうは思わなかったと思うんです。先輩達、学食のお弁当食べた事ありますか?多分、というか絶対、食べた事無いと思います、だってスポーツ部の男達が秒で買い占めてしまうから。逆に、先輩達は損をしてるかもしれないんです、美味しいお弁当を、スポーツクラブの男達だけが独占している現状が続いていることで。学食を建て直しても、それほど学食の利用状況に変化が無かったとしても、新しくなるのは良い事じゃないですか!僕ら、仏になるには早過ぎる、学食の現状が少しでも良くなったのなら、僅かでも前進ですよね、僕らは若いんだから、間違いでも良いから、少しでも改善の余地があるんだったら、試してみるのだって、経験じゃないですが、むしろ大人になったら、色んな危険に備えなきゃいけなくて、間違えるどころかやる前から何も出来なくなるんですよ、良いですかもう一回言わせてください、『僕たちは若い』!!僕たちは、仏さんのように悟って、どんな苦しみも無に昇華してしまえるほど、大人じゃない、だけどそれで良いんや、だって学生やし!沢山悩んで、苦しんで、だからこそもっとやれるって頑張れる。仏になるには早すぎる、止まってたらダメだ、僕ら高校生は、大人と違って成長期なんや、マイナスになってもそれを補ってプラスに巻き返せる、現状維持では年寄りと一緒じゃないですか!僕ら年をとればとるほど、全然新しいことに挑戦しないで、現状維持になっていくのに。仏に近づいてるジジババみたいなやり方じゃ、勿体ない、仏のようにやっていては、苦しくもないけども、新しい楽しいに出会えない!僕らの苦しみを、楽しみを、知らぬは仏ばかりなり!僕らは沢山間違えて、沢山苦しんで、仏の境地では分からない面白いをどんどん増やしましょう!やってみてダメだったとしても、それだって僕らの学校の、一つの歴史やと思うんです!また一つ、この学校の新しい歴史を作りましょうよ!だから、どうか朝パン、やらせてください!!」
俺がそう一息に言って頭を下げると、頼重が立ち上がって「俺もこいつの朝パンに賛成してるんで」と言って、一緒に頭を下げた。すると庶務の一年達も立ち上がって、「海士部君は男子生徒の胃袋を救いたいってずっと言ってるけど、私は単純に富士日の出パンのパンが好きなので」「私は今までお弁当だったけど、学食の売店がそんなに人気なら私だって食べてみたい」「俺も朝パン、良いと思うんで」と、口々に言いながら頭を下げていった。皆が頭を下げ終わった後に、議長は「繰り返しますが、発言したい生徒は挙手でお願いします」とやや大き目の声で言った。
「はい」
一年の庶務の中でただ一人、座ったままでいた高杉萌咲が手を上げた。議長が「高杉さん、どうぞ」と言うと、高杉は立ち上がった。
「私は、2年と3年の先輩達と同様、反対側にいました。なので、先輩達の意見に同感です。ですが。。。『朝パン』が実現出来るか出来ないかは後の話としても、それを試してみたからと言って特別なデメリットも無いのかなと。デメリットが無いのなら、やってみたら良いんじゃないかな、と今は意見を変えたんですが、先輩方はどうですか?」
高杉が先輩方に尋ねると、先輩方は「それも、そうやな」「確かに」と顔を見合わせている。篠宮生徒会長は腕を組んだ状態で目を閉じており、頷く事も発言もしないままでいた。
そこまで話が進んだ時に、議長が「では、多数決をとります」と切り出した。
「海士部君と庶務係で進めていた、『朝パン』導入の議題を、生徒会執行部の認可で進めることに賛成の方は挙手をお願いします」
議長がそう言った後で、俺と頼重は即座に挙手を、他の1年達もさっと全員が手を上げた。2年と3年の先輩方も、顔を見合わせながら手を上げる。
議長も副会長の二人も手を上げて、最後に篠宮生徒会長が手を上げて目を開くと、議長は一呼吸置いて、「全員賛成により、海士部君の『朝パン』を執行部全体の議題として今後進めていくことが可決されました」と声を張り上げた。庶務係の皆が、笑顔になってお互いの肩をたたき合う。
篠宮生徒会長が手を上げたので、議長が「篠宮生徒会長」と促した。一度に賑やかになった声が、一瞬で収まる。篠宮先輩が立ち上がり、発言した。
「朝パンの販売の為には、富士日の出パンとの交渉が必要だと思うが、海士部と米山先生と、庶務の何人かで本社へ出向く際には、俺も立ち合おう。この件は発案者の海士部がいる庶務係が先導して進めている訳だが、日の出パンからの販売許可が出なければこの話は頓挫し、学食問題の改善を進めるにしろ、一から考え直しになる。今の段階では、海士部の出した、早朝にパンの販売をしたいという『朝パン』の提案を、生徒会全体で認識し、許可した、今日の会議で議論すべき内容は、ここまでで良いだろうか」
篠宮先輩がそう言うと、生徒達は頷き、それぞれに「異議なし」と言った。
「会議の冒頭で議長が説明した通り、四限終了後廊下を走る生徒達の問題については、昼休みにはそれぞれ昼食を済ませた後で構わない、皆腕章を付け、先生方の補佐として執行部でも見つけ次第、注意を促すように。以上で生徒会執行部、第二回会議を閉会する。起立!」
ガタガタと椅子の音が鳴り、皆が立ち上がる。生徒会長はさらに続けた。
「礼!ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
「おい、やったな俺ら!!」
「『朝パン』、こうなったら絶対、実現させたいわぁ」
「海士部君、やるやんか」
「いや!庶務の皆が全員で後押ししてくれるなんて、びっくりやて!ありがとう!!」
「やけどまだ喜ぶんは早いで、日の出パン本社を説得出来るかどうか」
「そうやな、それが一番の懸念やな」
「ほやけど今は、喜んだらええやん!」
「そやな!」
会議終了後に、庶務係の皆で後ろの黒板の前辺りで、お祭り騒ぎにはしゃいだ。俺と頼重は手をパチンと合わせて、笑顔になった。
だけど、一番の懸念はそれでは無かった。もっと深刻な問題が、次の日に控えているというのに、浮かれ気分の俺達は気付いていなかった。
不定期会議後、生徒会執行部員は翌日から、4限終了後の十分間程度の間、先生方の補佐として腕章を左腕に付け、廊下を走って学食まで向かおうとするスポーツ部の主に男子生徒達に注意を促すという仕事にあたった。しかしながらスポーツ部の男子達は4限終了のチャイムと同時に教室を飛び出していくので、執行部の生徒が廊下に出た時にはその仕事はほぼ用無し、という状態だった。けれど、一応学食まで速足で向かい、学食までの廊下にはもう走っている生徒は居ない、ということを確認しなくてはならない。要所要所で待機していた先生達にお疲れ様ですと軽く頭を下げながら、俺と頼重はCクラスから出ると学食まで向かった。
学食にたどり着くと他の執行部の生徒達も何人かいて、それぞれに「お疲れ」と言いながら集まった。篠宮生徒会長が「廊下を爆走してきた生徒達の指導は、先生方がほぼカバーしてくださった、実際俺達の出来る事は少ないようだな」と言い、俺達は「そうですね」とそれぞれに同意した。
「だが、休憩時間中にフラストレーションを募らせる輩も出てくるかもしれない。執行部は各々で昼食を済ませた後、来週の活動日までの間、廊下での走行防止を徹底し、昼休憩の間腕に腕章を付けて、廊下を走る生徒には注意を促すように。ここに集まっていない執行部員も数名いるみたいだが、そいつらに出会った時にはそうするよう伝えてくれ」
「分かりました」
「了解です」
「では、解散」
俺と頼重が教室に戻ると、清水がお弁当を机に出して待っていた。
「なんや、忙しそうやな」
「ちょっとばかし、生徒会の仕事してきたわ」
「見るか?カッコええやろ、この腕章」
「うん、学校の重役って感じ」
「腕章付けたままご飯食べよか、どうせ食べ終わったら見回りせんなんし」
「そうなん?俺、めっちゃ寂しいわぁ。これからずっと?」
「ううん、来週の木曜日までだけ」
「良かったぁ。もうご飯、食べよ」
「そうしよか」
「すまんな、清水」
「仕方ないよ。二人とも生徒会なんやし」
「もしやったら、俺と頼重は腕章付けとるけど、清水も一緒に廊下の見回り行く?」
「ええのん?うん、行く!」
「俺らのクラスから学食までの廊下見回ったら、戻ってこよう?」
「ほやな。多分その程度で良いやろ。逆にあんまり厳粛にやったら、煩がられるんも困るし」
「やんな」
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