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DERICIOUS!
桜に仰ぐ 4
「あっ!廊下、走らんとってください~~」
「聞いとるような、聞いてへんような感じやけど」
「まぁちょっと速度落としてくれるくらいで、ええんちゃう?」
「これって意外と、楽しいなぁ~」
「そうか?」
「俺も腕章、付けたい~~」
「廊下は走らないよ~~。学食行く時も走らないでね~~」
やや大き目の声で、楽しそうに廊下を走ってはしゃいでいる生徒に注意しながら歩いていく。
学食の前までたどり着いた時に、俺が「ほな、今日はこんな感じでええかな」と言って、同じ道を戻りかけたその時だった。
「おい!!お前やろ!そこのチビ!」
学食に向かって、3年の校舎から、手をポケットに突っ込んだ男子生徒が5人、いかつい表情で俺達に向かって歩いてくるのが見えた。
俺は少したじろいで、「なんやあの先輩」と呟くと、頼重が「あれ、野球部やわ」と言いながら気まずそうにしている。清水は「ふぇぇ、よう分からんけど、ごっつー怒ってはるで」とヒソヒソと言った。
野球部の生徒達らしき男子5人の先輩が、俺達3人の前に立ちはだかると、硬い声色で「お前らやろ、学食で米山と、コソコソやっとったもんな!お前が余計な事するから、俺らの楽しみが減ったやんけ!!昨日今日と、弁当も買い損ねるし!お前がチクったんやろ、要らん事すんなや!!」と怒鳴った。俺は「ひっ!」と声をもらして固まった。
「あれ?お前、一番タッパあるやつ!」
野球部の5人は頼重にもすごみ、「見覚えあるわ、仮入の時におったな」とケンカを吹っ掛けてくる。
「生徒会でいらん事するくらいやったら、野球部の万年ベンチにおったらよかったのに!」
「アハハハハ!ホンマやて、その程度のガタイやったら使い物にならんやろけど、先公とつるんで要らん事するくらいやったらなぁ!」
「いずれにせよ、あのスピードで廊下走るなんて、遅かれ早かれ止めるべきやったんじゃないんですか?」
「ああ?!お前らのせいで堅苦しい話になっとるんやろが、落とし前つけさせてもらおか」
俺達はじりじりと壁際に追いやられながら、怒りモードを爆発させている5人に囲まれていった。5人ともガタイが良く、背も180センチ以上あるんじゃないかというほどに高いので、威圧感が半端ではない。頼重も背は高いけれど、比ではなかった。
背中が廊下の壁に付いた時に、一人の先輩が真ん中にいた俺の首スレスレの位置に手をバンッ!と付いてきた。俺は心の中で(お助けぇぇ!)と懇願した。
(これが漫画で噂の、壁ドンてやつ、人生初の壁ドン、やけど、種類が違う!めっちゃ怖いヤツ!!俺の人生初の壁ドンの相手が男、めっちゃ可愛い女子、じゃなくて!!)
俺の右側におった頼重が、壁ドンを仕掛けてきた先輩と俺の間に入って、「先輩、暴力は止めてください」と強気に言いながら俺をかばった。
「なんや?『先生に言いつけるぞーー』ってか?」
「試しにやってみろや、警察沙汰にしたるで」
俺は頼重の後ろから顔を出して、「先輩方、どうかあともう少しだけ、待ってもらえないですか?!」と必死に訴えた。
「待ったら、どうなんねん。逃げ口上は止めや」
「ええと、学食で買えるパンと弁当、量を増やしてもらえるようにするつもりなんで!」
「俺らはな、学食の弁当を獲得する為だけに学校来とんねん!!」
「いや、それはおかしいやろ!」
「それが今まで、一番の楽しみやった、って言うとんねん!!俺らの楽しみ、奪われてしもたやんけ、階段を2段飛ばしに降りる時の快感。。。どうしてくれんねん!!」
「それは、学校の外の、別のアトラクションで楽しんでもらって。。。階段なんて、何処にでもありますからぁ」
「弁当っていう、本気で獲得したい宝あってのマジレースやろが!!」
「先輩達って、あれやろ、ベンチ組なんやんな、やで鬱憤晴らしに競争して」
「喧嘩吹っ掛けてきとんかオラァ?!」
「ヨリ、なんで油注ぐかな。。。」
「学食のお弁当、美味しいですよね。。。だけどその美味しい弁当、先輩方だけしかいつも買えない、っていう不公平もありますし、他の生徒の為にも」
「早いもん勝ちや、他の生徒の話なんか、知るか!!」
「お弁当は生徒達に平等に、購入されるべきや!」
「ああ?!」
「先輩!!ちょっとだけ、待っとってください!!すみませんけど、競争はもう出来んようになるけれども、生徒会執行部が、先輩達の学校生活に、お弁当獲得競争に代わる新しい喜びを増やせるように、努力しますから!!」
5人のうちの一人が、壁ドンを仕掛けた男子生徒の肩をぐいと引いて、頼重の前に躍り出た。
「お前、名前は」
「亀原頼重や」
「後ろのチビは」
「あ、海士部輝航です」
「しゃーないで、待ったろやんけ。その代わり」
その先輩は左手で、俺と頼重にダブルで速度のない壁ドンを仕掛けると、低い声で「もし、何の変化も起こらん上に、堅苦しい監視だけ増えるっていう事態になったら。。。俺らの素振り練習に、付き合ってもらうでな」と言って、他の男子達をまとめて歩き去った。
「素振り練習て、何。。。怖っわ!!」
「バッド振り回して、ボコボコにするっていう意味か。。。どうしよ、頼重」
「こうなったら、朝パンを実行に移すしか、俺らの命が助かる方法は無いんやて」
「えらい奴らに、目つけられてしもたなぁ」
「ほやけどヨリ、カッコ良かったで、テルちゃんかばって。俺はテルちゃんの左側やったで、出来んかったけど。右側に立っとったら、俺がやったんやけどな」
「ホンマかいな?!」
「うん。テルちゃんの体にガバッと被さるように抱きついて、『殴るなら、俺を殴れや!』ってね!」
「じゃあそれは、素振り練習が現実化したらやってもらって」
「あ、俺その時は、教室におろうかなぁ~~」
「清水よ。。。」
「その時は清水は教室におったらええ。今日は近くにおってくれるだけで、心強かったで」
「そんなぁ、冗談やのに」
「いずれにせよ、後に引けんようになってしもたわ。。。」
「せやな。富士日の出パンを命がけで、説得せんと」
「という訳なんです。。。庶務の女子の皆さま、アンケートの女子のイラストに、どうかボインを復活させてください!!平に平に、この通り。。。」
次の生徒会執行部の活動時に庶務係で机を囲んで集まった時、俺は座りながら両掌と額を卓上にべったり付けた。いつものように机4つを繋げた天面の上には、俺と頼重が意見箱から持ってきた大量の意見書が散らばっている。
庶務係の生徒達が意見書を一枚ずつ読んで、失笑していた。誰彼が我先にと、それを読み上げる。
「見てこれ、酷いよ。『アマベとカメハラマジで殺す』、だって」
「『アマベとカメハラという生徒を生徒会執行部から辞めさせてください』、すごい集中攻撃、何でなん?」
「『アマベとカメハラっていう先公の犬、俺達の楽しみを返せ』、全部二人に対する悪口」
「これなんて、『殺、殺、殺、殺!』って、どんどん字が殴り書きに」
「実は野球部の先輩から壁ドンされた後、昼食時間の見回りの度に、スポーツ部の男子から追い詰められて、毎日毎日。。。どうやら、その野球部の先輩が、4限後の売店競争を出来なくした主犯が、俺と頼重。。。亀原君やって言い回ったらしいんです」
「壁ドン?」
「うん。ガタイの良い男からの壁ドン、しかも2回。全然ロマンチックじゃないやつ、めっちゃ怖かった」
「私、二人が追い回されてるのは見た、何でかなって思ってたけど。腕章付けてる手前、騒動に巻き込まれたくないから、見回りの時間ずらしたり、なるべく学食の近くは見回らんようにしたり」
「いや、俺かてそうしてたわ」
「なんや、だから他の執行部の奴らを全然見んかったんか。俺らしか見回りしてないんかって思ってたけど」
「私は二人に会ったで、見回りの時に。やけど全速力で逃げてたやん!」
「そういう事か」
「すごい枚数よ。。。1年分はあるんやない?ていうか、意見書の余り、無かったやろ」
「はい、一枚も残っていませんでした」
「補充しとかないとね。。。誰か、意見書のコピー行ってきてくれる?」
「私、行きます」
「おねがい。。。それで、どうしてそれが女子のイラストを元に戻すことに繋がるの?」
「たとえ殆ど意味が無いとしても、やれる事はやりたい。。。どうにかして、男達を味方につけたいんです。。。ボインの女子のイラストが描いてあるアンケートが執行部から配布されたら。。。きっと男子生徒達は喜ぶはず。。。今俺らが起こそうとしてる変化に、少しでも好印象を持たせたいんです」
「胸の大きい女の子のイラストが描かれてるってだけで?男って、えらい単純やな」
「単純なんですよ!!お願いします、ボインの女子生徒イラストを復活させるには、庶務係の姫様方の了承がないと。。。よろしくお願いします!!」
「私は反対!」
「も、モエ。。。頼むで、俺らの学生生活かかっとんねんて!」
「女の子にとって、バストを強調したり意識させられたりするの、不快でしかないんよ!女は色気出しとけば好まれるっていう、男性の既成概念がどれだけ女性の心に傷を負わせてるか、考えたことあるの?!」
「それは、お前が控えめやからやろ?」
「なっ、なんやってぇーー?!」
「世の中には、それを自分の魅力やって、思ってる女の人だっていてるんとちゃうん?逆に、魅力を開放するというか、ガチガチにせんで自由に感じる、っていうのも大事ちゃうかと」
「そんなん、男の側の幻想やわ!」
「高杉さん、まぁええやん。この女の子のイラストだって、気持ち悪いくらい爆乳、って訳じゃないし。男からしてみたら、イケメンを採用する女子の気持ちだって、差別やって言い出すかもしれんし。どっちもどっちやろ?」
「ほ、ほやけども、私は、他の皆が良いって言うても、反対!」
「高杉、他の女子も、頼む。。。今回ばかりは、俺と頼重の未来の為に、大目に見てください。。。」
俺がもう一度おでこと両手のひらを机の上にべったり付けて懇願すると、渡辺先輩は「仕方ないわね」と言って庶務の女子に尋ねた。
「私は高杉さんの気持ちも分かるわよ、だけど、海士部君と亀原君が受けている集中攻撃は、生徒会執行部全体の問題でもある。。。皆、どう?」
「そもそもホンマにそのイラスト、必要かな。。。まぁ、正直どうでもええけど」
「良いんですか?!ほな、イラストこのままで、いきますよ?!」
「事態が良くなるなんて、全然思えないけどね。それでこの意見書を出してきた男子生徒達の怒りが和らぐ。。。信憑性は皆無やけど」
「いいんです、微々たる効果でも。縄跳びの縄は、手首のスナップで小さく振っても、遠くには大きく振動する、微々たる変化を甘く見てはいけない。。。」
「もっともらしい事言って!海士部君は自分がボインが好きってだけなんやろ?!」
その時Dクラスの可愛い女子が少し声高にそう言ってきたので、俺はドキッとしながら「い、違うよ、俺は別にそこまでデカくなくても!」と言った。ああ、可愛いな、アーケービーに入れるで~~って普通に会話を続けたかったけれど、別の問題が勃発しそうなので押しとどまった。
「そうなんや」
「いや、口だけやで。男は結局、ボインが好きなんやから」
「その話はもう止めにして。じゃあ、アンケートのイラストは最初のままで、描き直し無しで良いわね?」
「良いでーーす。そやけどこの意見書の量、ホンマすごいな。。。」
「2年間庶務やってきたけど、初めて見たわ、もっと意見書に余分があったら、それも全部二人への文句で余り無くなるんちゃう?逆に、来週までの分、あんまり補充せん方が良くない?」
「それも、そうやな。。。じゃあ、今週から少し少な目に補充しましょうか」
「賛成ーーー」
2年庶務の先輩がコピー室から帰ってきて、俺達は皆でA4の用紙を4等分に切り分ける作業をした。
「皆でやったら、あっという間に終わるからね」
「はーい」
本当にあっという間にカットが終わり、一人が補充に向かったところで、篠宮先輩が「机はそのままでいいから、皆その場で聞いてくれ」と言って立ち上がった。
「前回の臨時会議の後から、昼食時の見回りを執行部の皆にお願いしているが、もう少しの間続けてくれ」
執行部の皆が「分かりました~~」と声を上げている中で、俺はたまらず一人、「マジですか?!」と大きな声を出してしまった。
すると篠宮先輩が、「何か問題でもあるのか」と尋ねたけれど、俺は言葉を濁し、「い、いえ、何でもないです。。。」と小さく声をもらした。
渡辺庶務長がすかさず挙手をし、「はい。生徒会長、それは、未だ4限後に廊下を走る生徒がいて、先生方からもう少し続けようと意見があったからですよね?」と尋ねた。生徒会長が答えた。
「そうだ、未だに4限終了のチャイムと同時に走って学食まで向かおうとする生徒が何人もいる。先生方が何度指導しても、何人かは全く止めようとしないらしい。それで生徒達の走行が治まるまでは、執行部でも昼食時に注意を促すことを徹底してほしいという話になった」
「海士部君と亀原君だけ、見回りを控えさせたいんですが」
「何故だ」
「今週分の意見書を見てもらえば理解が早いんですが。。。」
渡辺先輩はそう言うと立ち上がって、篠宮先輩の立っている机の上に意見書の一部を置いて元の席に戻った。篠宮先輩が一枚を手に持って、失笑している。
「これは、酷いな」
「酷いですよね。今まで見逃されていた学食までの競争が、海士部君と亀原君の働きによって規制が入った事で、二人が目の敵にされてしまっている現状があるんです。二人が見回りに出ると、特定の男子生徒達の怒りが増長されてしまうので、良くないかと」
「そのようだな、分かった。庶務係の海士部と亀原は、昼食時の見回りを特別に免除することにしよう、異論がある者は?」
「異議なし」
「異議なーーし」
「では、二人は昼食時の見回りは、逆に控えるように」
「あ、ありがとうございます!!」
執行部での決定が下りて、俺がホッとしていると、頼重は少し表情を暗くし、「そやけど、なんや負けたみたいで嫌やな。。。」とボソッと言った。渡辺先輩がすかさずにそれに反応した。
「勝ち負けじゃないの、海士部君と亀原君は今、特定の男子生徒の暴走因子になってるんだから、彼らが過剰に反応しない為にも、二人は大人しくしているべき」
「分かりました。腕章付けなかったら、教室に引きこもっとらんでももいいですよね」
「それは自由にして。とにかく、見回りの仕事はしなくていいから」
「俺は助かります、だってアイツら、弁当が獲得出来なかった鬱憤を、俺に回してきてるってだけなんやから。。。」
「ほやけど、いつまで逃げ続けるんやろか」
「そやな、なんで俺らが追い立てられる事に。。。だって俺らは、男達の迷える胃袋を救いたかったってだけやのに、なんでこんな事に」
「いずれにせよ、いつか問題にしなくてはいけない事やったんやから。校内環境正常化の為に必要だった一歩だと思う。貴方達がその為のひずみを受けることになってしまったけれど、変化を起こすと文句は必ず出るんよ。問題解決の為に生徒達の不満を引き受けるのも、執行部の大事な仕事。大人しくしていなさい」
「分かりました」
頼重が納得し大人しくなると、渡辺先輩は微笑んだ。
「どんな不和も、いずれは収まるから」
渡辺庶務長と小さな声で話している最中にも、生徒会長は話を続けていた。
「それと、執行部で進める事が決定した、海士部提案の『朝パン』だが、電話での米山先生の説得により、今週の土曜日に、富士日の出パン本社の方へ執行部の数名で出向いて、話を聞いてもらえる事になった」
「や、やった!」
俺は思わず小さく声を上げて表情をほころばせた。頼重も「おっ、来たっ!」と気持ちを上げた。
「執行部から出向くメンバーだが、執行部の各トップと、米山先生、朝パンの企画者である庶務係の海士部、亀原のつもりでいるが、何か意見のある者は」
ようやくこの時が来たと気持ちを昂らせながら俺は生徒会室を見回した。篠宮会長も端からぐるりと見まわしている。意見を出す生徒がいないのを確認すると、生徒会長は「では、今指名した執行部員は、3限終了後、校門前に集まるように。米山先生が車を出してくださるから。俺は少し遅れて皆に合流する。米山先生と富士日の出パン本社へ向かったら、先に話を進めかけていてくれ」
生徒会長が各トップにそう言うと、先輩達はそれぞれの席で座りながら頷いたり、「了解です」と言った。俺は鼻息が荒くなりそうになりながら、富士日の出パンの本社の大人達をどう説得するべきか、頭を働かせかけていた。
「はい」
高杉がおもむろに挙手をし、生徒会長が「高杉」と言うと俺はギクッとして、またモエかよと思いながら高杉を見た。どんな問題点を指摘するのかといぶかっていたら、高杉は普通に生徒会長に質問した。
「どうして生徒会長は後から合流なさるんですか?」
「ああ。。。そうだな、説明しておいた方が良いだろう。『朝パン』の企画だが、富士日の出パンも学校側も、難色を示している。実は、富士日の出パンと交渉する事を、まだ米山先生以外の教師側、学校側には伝えていない。俺が当日に『もう他の生徒達は日の出パンへ向かったのですが』という事後報告の形で、強行突破することにした」
「えっ?!じゃあ、朝パンの企画が通るかどうかって、土曜日にかかってるってこと?!」
俺が思わず大きな声で話に加わると、生徒会長が「そういう事だ。乾坤一擲」と付け加える。高杉がさらに、「じゃあ、土曜日に日の出パンと交渉する話は、執行部内の極秘案件、外部に一切他言無用ですね?」と言うと、生徒会長は無言で頷いた。
「私も、一緒に行きたいです」
高杉が再び挙手をしてそう言うと、生徒会長は「いいだろう、高杉も土曜日の3限後、校門前に集合するように」と許可した。
「他の執行部員、特に庶務内には加勢したい者もいるだろうが、高杉のみにしてくれ、あまりの大所帯だと、校門前で目立ってしまい良くない」
「了解です」
「了解しました」
庶務係の、特に一年の生徒達が声に出してそう言った。ひょっとすると、皆自発的に加わりたかったのかもしれない。俺は日の出パンとの交渉が、土曜日の説得にかかっている、一か八かの案件なのだと知らされた後で、より一層心臓の鼓動を高鳴らせていた。
「俺らの命も、土曜日にかかってる、っていう事やな」
声のトーンを落として、頼重が俺に呟いた。俺は野球部の先輩5人に脅された「素振りの練習」の事を思い出し、無言で何度も頷いた。
もし、朝パンの企画を実現出来なかったら。この一週間で起こった襲撃リンチとスポーツ部男子達からの暴言が、3年間ずっと続く。俺と頼重の学校生活は、終わったも同然ということなのだ。まさしく、富士日の出パンとの交渉は、今後の高校生活をかけた、大袈裟でも何でもない、命がけの決戦となってしまった。
次の日の金曜日の昼休み、俺と頼重と清水は普通に教室で昼ご飯を食べた。その時に清水が、俺達が腕章を腕に付けないままでいるのに首を傾げて、「今日は、二人昼休みの校舎回り、せえへんのん?」と尋ねた。
「俺らは逆に、教室で大人しくしとれって執行部から言われとんねん」
「そうなんや。。。その方が、まぁ、ええやろな」
清水はそう言うと含み笑いを口の中に押し込むように右手を口元に当ててクククと笑った。俺はため息を付いて、「渡辺庶務長の、おかげやて」とこぼした。
「二人と一緒に一年の階から一歩外に出る度に。。。『あっ!!アイツらや!!』って、男の先輩らぁが、目つり上げて追っかけてくる。。。」
「学食に対する、これまでの不服が全部、今俺らに向いとんねん。。。弁当もパンもゲット出来へんかったヤツは、その日の不満も全部合わせて、抑える事なく俺らに」
「今は走れんで、競歩みたいになっとるらしいけど。先生の言う事聞いて、速度落として自己規制入れた奴らの方が損してるで、余計な。未だに全速力で走っとるヤツが、結局弁当と売店のパン、獲得してるっていう」
「あーーーもーーーー、怖い。。。昨日まででとりあえず、先生達の見回りも終わって、ようやく少しは穏やかになると思っていたのに、このザマやって」
「それも、明日までやって、思いたいよな。明日の交渉次第」
「日の出パンが朝パン販売してくれへんかったら。。。どうしたらいいんやろか」
「交渉次第で、天国と地獄やて」
「やな。。。」
重暗い気持ちと一緒に昼食を食べ終わると、頼重が「食後の甘い飲み物が飲みたい」と言い出した。俺は、「それ?!もう絶対、飲まんとイヤって感じ?飲めないと暴走しちゃうって感じなん?」と眉をひそめながら言うと、頼重は「食後のジュースが無いと、食べ終わった気がせんで」と返す。
清水が「テルちゃんは、教室おって良いで?直ぐ戻ってくるから」と言ったけれど、俺は「いや、頼重だけを一人戦場に送り出すわけには」と重い腰を上げた。
1年の階から階段を下りて、学食の前の自販機まで、キョロキョロしながら校舎をゆっくりと歩いた。腕章を付けていないからか、これまでのように渡り廊下の辺りで2年の男子生徒に見つかって追いかけられる、というのは起こらなかった。
「なんや、やっぱり腕章付けてへんかったら、見分けつかんもんなんやな。ホッ。」
「どれにしよかなぁ。今日は、苺ミルクの気分」
「俺は、バナナシェークの気分」
「はよせいて。。。ドキドキが、止まらないぜよ、変な汗も出てきた、見てこれ」
「わっ、じっとりというか、べったりやなぁ」
「手のひらに汗かくのって、精神性発汗やっていう。。。」
二人がパックのジュースを買い終わって、自販機に背中を向けて教室に戻りかけたところで、「おい!!おったぞ!!」と遠くから声がして、俺らはそちらを素早く振り返りながら、足は既に駆け出していた。
「おった!!腕章付けてないけど、あの二人や!!おいコラ!!校舎を走るなって言い回っとったんは、どこの誰や!!お前らやろ!!」
「ひっ、来とる来とる、全力やで」
「もう嫌やーーー!!お前らの怒りは、違うやろ!!今日お前らが食い物ゲット出来んかったんは、他の奴らの方が早かったせいであって!!」
「お前らのせいに決まっとるやろがぁーー!!どうしてくれるんじゃ、ボケェーー!!」
「今日こそボッコボコにしたる!!」
「おーー、怖い怖い」
「頼重、ずるいわ足長いからって!あーーー!!もう止めてーーー!!」
3人の中で結局俺は一番後ろになりながら力の限り逃げて、一年の階まで猛スピードで走った。後ろを振り返る度に、男子生徒が増えている。一年の階までたどり着くと、先輩達はその前辺りで足を止めて、それ以上は追いかけては来なかった。けれど沢山の罵声が、その階の廊下に響き渡った。
「俺の、から揚げ弁当。。。食べたかったのに、お前のせいやぞ!!海士部と亀原とかいうヤツ!!」
「いつもやったら、ゲット出来たんや!!どうしてくれるんや!!」
「逃げるな、土下座しろ!!」
「あかん、俺らが教室に入るしかないで」
俺は息を切らしながら、先にたどり着いていた頼重と清水に背中を持たれながら、Cクラスの中に逃げ込み、廊下に顔を出さないようにして隠れていた。しばらくすると罵声も止み、教室から顔を出して廊下を確認した後で、深くため息を吐き出す。
「俺らアイツらの、弁当競争に代わる新しいエンタメにされとるんや」
他のクラスの男達がCクラスを覗き込んで、笑い声を上げながら俺達に話しかけた。
「毎日毎日、ようやるよな!」
「見とる方は、おもろいわ」
その中にタケもいて、タケが俺に向かって、「よっ!有名人!」とはやし立てた。
「このクソタケ~~、そやけどお前は、弁当ゲット出来てるんか?」
「俺は、ゲット出来たり出来んかったりで。俺は先輩に気に入られとるでな」
「ほやで。こいつは要領良いで、弁当買っても先輩から何も言われてへんけど。殆どの1年は、弁当買ったら何されるか分からんで、参戦すらしてへん。2年と3年の、スポーツクラブの男子の特権やで、特に弁当は」
「そうなんや。。。知らんかった」
「そやで。。。俺らかって、弁当買えたら買いたいけど」
今までそれほど面識が無かったクラスメイトが、俺に話しかけてくる。俺は「お前はちなみに、何クラブ?」と聞くと、「バスケットやで」と答える。
「学食のお弁当って、ホンマ戦争やねん。俺ら1年でお弁当戦争に参戦出来るんは、先輩に気に入られとるヤツだけやで」
「男子の中でも、走って買いに行く事すら出来へんていう現状があるんかぁ」
「うん。やで、海士部と亀原が追っかけまわされるん見て、やっぱりこうなるんやぁって、思い知らされるわ。もし弁当買えても、同じバスケ部の先輩から、『先輩差し置いて何ゲットしとんねん』って目つけられたらって思ったら」
「うかつに、買いに行く事すら躊躇われるんか」
「そうなんよ。学食カーストや」
俺と頼重は思わず顔を見合わせて、お互いに頷きあった。
「やっぱり。。。学食問題、ほっといたら、あかんな」
「学生全員が、恩恵を受けるべきなんやで、学食は」
「学食を利用せんでもいい、っていう生徒が大半なんは、それはそれで良いんやけど。一部の奴らだけでなくて、利用したい生徒の全員が恩恵受けられるように、変えていかんとあかんよな」
「その為に、具体的に、どう動くか。。。最初の一歩目として、何としても朝パンを、実現せんと」
「朝パンを足がかりにして、他も変えていけたらいいよな」
「ほやけどタケって、ホンマ世渡り上手よね」
「何かとああいうタイプは、得やな。。。お調子者の、風見鶏」
「俺の話?よう聞こえんけど、俺がイケメン過ぎて、女子だけやなく男子からも好かれるから、嫉妬してしまうって?」
「まぁ、あいつはほっといたら良いとして。。。」
「おーーい!俺は、先輩らぁに、お前らの事良いように言っとるんやでぇーー?」
「絶対、嘘やな。先輩には先輩に良いように、言ってんやで」
「ちょっ!あーーもう、全然聞こえへん。。。」
「明日どうやって説得するか、俺とヨリで、よくよく作戦たてとかんと」
「ほやな。まずは米山先生に撮ってもらった動画を見てもらって。。。」
「お待たせ、じゃあ皆、乗って」
米山先生が白いファミリーカーを校門の外の際に停めて、校門前に集まっていた執行部達を呼んだ。俺達はいそいそと、白い車に乗り込んでいく。
「車の中で、話し合いをどう進めるか、皆で把握しておきたいから、庶務係が主立って説得するよね、だから渡辺さんは助手席、高杉さんと亀原君、海士部君は前側の席、他トップは後ろ側に座って」
「はい」
「じゃあ、出発するよ」
校門から離れ校舎が遠ざかり、公道に出ると米山先生に俺が話しかけた。
「すみません、みんなにお願いがあるんですけども。俺、母親が富士日の出パンの工場で働いてるって話したけども、この話が上手くいかなかった時に、ひょっとして親が辞めさせられるんじゃないかって、心配なんです。なので、日の出パンの本社の人達の前でだけ、俺の事を清水って呼んでもらえないですか?」
この理由に加えて美里に生徒会に入っている事を知られたくないのもあって、俺は海士部の名前を伏せてもらうように皆に頼んだ。米山先生は運転しながら、「そうだね。だけどこの話が通った時には、本当は海士部ですって、きちんと訂正するんだよ。今回だけは、清水君の名前を借りてもいいけども」
「はい!みんなも、それでいい?」
「ええで、辞めさせられたら困るよな」
「分かった、清水君ね」
「みんな、ありがとう」
名前を偽る許可を皆から得られたところで、俺はさらに話を進めた。
「先生、日の出パンとの交渉の打ち合わせ、亀原君とも話し合ったんですけども、最初に先生に撮影してもらった動画を、富士日の出パン本社の方々に見てもらったらどうかと思うんです」
米山先生は車を運転しながら明るい声で答えた。
「ああ、良いね、うん。動画はね、実はもう、日の出パンの方にメールで送付して、見てもらってあるんだよ」
「そうなんですか?!」
「それで日の出パンが、とりあえず一度顔を合わせて話し合いましょう、と今回の場を設けてくださることになってね」
「じゃあ、うちの高校で昼食の強奪戦が毎日起こってるっていうのは、日の出パンは知ってるってことで」
「そうそう。このような現状があるから、パンの販売をお願い出来ないだろうかって」
「俺達はほんなら、もっと詳しい学食の状況を説明して、日の出パンていう大人側に、学生を助けてくださいって、『泣き落とし』で了承してもらう戦法が良いんかな」
「最終的には、そういう方向で許可してもらうしかないんだろうけれども。日の出パンの方では、売り上げよりも、厄介事を避けたいんだよ。相手が企業ではなく、学生だからね。『最近の学生は、大人を手玉に取るからイヤなんだよなぁ~~』とこぼしてらっしゃったよ。『弱者の暴力を大いにふるってくる』とも」
「弱者の暴力??何ですか、それ」
「世論に訴えて、弱者の立場を利用する戦法が、まかり通ってるからってね」
「消極的やなぁ」
「小さな問題が、大きな破滅を産む情報化社会っていうのは、現実だから。企業側の言い分も、分かるんだけどね」
「熱意と、誠実な気持ちで、信頼関係を築いていくしか無いって事や。今は俺らは、日の出パンから疑われてるって事ですよね」
「石橋の端と端に立ってるって事だね。信頼関係、そうそう、その通り」
「じゃあ、俺らの作戦は、『誠実な心』で日の出パンに『信頼させる』、その為に、どれだけ日の出パンの、賞味期限前のパンが俺達に必要か、そして日の出パンにはデメリットよりもメリットがあるよ、っていう事を、情熱的に説明するってことで」
「そうだね。だから追い詰めるのではなくて、持ち上げるように説得するのがベターだと思うよ。日の出パンとの交渉は、海士部君。。。じゃなかった、清水君がメーンで進めるのは決定として。まず、学食では圧倒的に需要の方が勝っていて、供給が足りていないんだ、というところから始めて。。。。」
「ふむふむ。。。」
「君の日の出パンに対する思いの丈を、君が思うように話すのが、一番伝わると僕は思う。海士部君。。。清水君の説得を聞いていて、補足の必要があると思ったら、僕からも補充するから」
「はい、分かりました」
「皆も、それぞれ補足したい、これは加えたいっていう思いがあったら、手を上げて清水君に加勢することにしよう」
「分かりましたーー」
「了解です」
米山先生の運転で、俺達は1時間半ほどかけて、市内の日の出パン本社へとたどり着いた。
日の出パンの敷地内に入ると、警備のおじさんが手を回して、駐車場まで先導した。俺達は倉庫の前の駐車場で車から降りて、そこで待ち構えていた本社のおじさん達に連れられて、会議室へと入っていった。
入り口のドアから離れた側の長テーブルに、俺達は車に乗り込んだ順で入り口側から先生、渡辺庶務長、俺、頼重、高杉と庶務が並び、その横に副会長、議長、書記、会計、広報トップが並んだ。
入り口ドア側の、俺達と向かい合うように日の出パンのおじさんおばさんが並んで座り、最後に入ってきたおじさんがドアを閉めたところで、日の出パンの重役トップと思われる60代くらいのおじさんが、咳払いをして始めた。
「米山先生より、学生達に早朝に販売するパンのお話をいただいたのですが。。。まずは、送付いただいた動画ですね、これを拝見しました。これは。。。単刀直入に申し上げて、半ば脅迫のようにも受け取れるわけですが」
「そのようなつもりは、一切ございません。ただ、高校の学生食堂で毎日起こっている悲惨な現状を、日の出パン様にも共有いただきたく送付したまでなのですが、脅しのように受け取られてしまったことは、こちらの不備でしかありません、大変申し訳ありませんでした」
「このような有様を我々が認識してしまっては、学生相手に何の対応も見せなかったのかと、世間で問題視されかねない。学生という立場を利用した脅しと我々が受け取るのは、当然ではないですか」
「おっしゃる通りです。ですが、学生達が学食のことで問題を抱えている、これは事実であり、大人である私達社会人が、何らかの対応をして改善への対策をとるというのは、社会義務だとは思いますけれども」
「ほら!脅しじゃないか。。。先生が、学生の我がままの片棒担ぐなんてねぇ」
「私は、学生達の高校生活を後援するのが職務です。しかしながら、日の出パン様がパンの販売を学生にしなくてはならない、という義務はありません。本日は、生徒達の思いを直にお伝えし、販売を受諾していただけるよう、説得にまいりました。どうか生徒達の声に、耳を傾けていただきたい」
米山先生がそう言って、俺の方を見て頷いたので、俺は向かい合って座る日の出パンの取締り役の大人達に、何か言おうと口を開きかけた。その時に日の出パントップのおじさんが、「米山って言うたら~~、あそこの息子やろ、ほら、米山税理士事務所の所の」と、俺が何か言うより先に米山先生に向かって話し始めた。
米山先生はおじさんに向かって、「そうです、私の父ですが」と答えた。するとおじさんはニヤニヤと笑って、「私の知り合いにも、米山税理士さんとこでお世話になってるって人、何人か知ってるけどね。子供の前でこんな話、したくないけれども。どうしましょ、脅しには脅しで対抗せんとね、大人同士やし」と言った。米山先生は落ち着いた口調のままで返答した。
「私は税理士ではなく教師です。父の仕事には一切関与しておりませんので、そうしたければどうぞ、お好きに」
「なんや、あんた父親が大事やないんか、親の跡も継がん心配もせん非情な息子持って、可哀想に。泣いてやめてくださいとでも言ったら、少しは考えてやったけどな」
「子供達の前で、人の弱みに付け込み権力でねじ伏せるやり方を示す。。。恥ずかしくないんですか。父の跡は上二人が継いでいます、貴方には関係のないことだ」
「子供言うたかて、直ぐに大人の社会に出ていくんやから。これも社会勉強の一環やろ。大人のリアルを知るのに早過ぎるって年齢でもないわいな」
「私は貴方に頭を下げませんよ、この子達に、権力には結局屈すしかないのか、言いなりになるしかないのかと間違った教えを信じ込ませたくない、子供達の希望に満ちた目の輝きを失わせたくないですから」
「おっしゃる事はご立派ですけどねぇ、やっとる事は一緒やってこっちは言うてるんですよぉ、こっちが強者の権力なら、そっちは弱者の権力を使ってはるんやて、弱者やったら権力使っても汚なないって?全く、だから弱者相手の仕事なんぞ、不毛でしかないんや」
米山先生がされる必要のない干渉と暴言を受けているのが我慢ならず、俺は二人の会話を聞きながら居ても立ってもいられなくなって、「違うんです!!」と大きな声で二人の間に割って入った。日の出パンのおじさんはびっくりしたように、眼鏡の奥の目を大きく開いた。
「なんや、びっくりした。生徒さん、名前は」
「あま。。。清水です」
「アマシミズ君?」
「違います、清水、清水です!!違うんです、米山先生に学食の動画を撮影してもらうようにお願いしたんは、僕なんです!米山先生が脅そうとしたやなんて、そんなん、誤解です!!」
「たとえ君が動画撮影を依頼した本人やとしても、それを利用したんは米山先生や。結果的に弊社が何らかの対応をしないと、まずい流れが出来てしまった。こうなると十分に推察した上で、この先生は弊社に動画送りつけてきてんやで、汚い大人のやり口や」
「だけど、僕らはどうしても、日の出パンさんの賞味期限前のパンを、販売していただきたいんです!!4限直後の、学食売店の様子、動画で見ていただきましたよね?圧倒的に、売店で購入したい生徒達の需要に対して、供給が足りてないんです。あの競争が毎日毎日、うちの高校の昼食時に起こってるんです。スポーツ部の生徒達はそれぞれのクラスから学食まで、全速力で走ります。スポーツ部の男子達は運動神経が良いから、今までは誰も大きなケガをしていません、だけど、放っておいたらいつかケガ人が出てしまう。日の出パンさんのパンがあれば、うちの高校男子生徒達の、未来のケガ人を未然に防げるんです、日の出パンさんのパンは、救世主なんです、どうかうちの高校の、男子生徒達を救ってください、この通りです!!」
俺はそう言うとガタッと椅子を後ろに膝裏で押して立ち上がって、直角に腰を折り曲げて深々と礼をした。すると日の出のおじさんは、「ちょっと!!そういうの、止めなさいって!」と慌てて言った。
「高校生に頭下げさせたなんて話が大っぴらになったら、PTAから何どやされるか分かったもんやない。とりあえず、座ってください、清水君」
おじさんがそう言ったので、俺は椅子を戻して座り直した。俺が正面を向くと、おじさんは咳払いを一つ二つして、「とにかく、話だけは聞きましょう。その為にわざわざここまで来はったんやさかい」と、あまり乗り気ではなさそうに言った。俺は表情を明るくして、「ありがとうございます!」と言った。
俺は今度こそと思って、口を開いた。
「まず、うちの高校でパンを販売していただくことは、日の出パンさんにも、大きなメリットがあります。日の出パンさんで朝焼いたパンの賞味期限は、次の日の午後3時までですよね?」
俺が尋ねると、重役のおじさんは白い被り物と白い制服を着た、工場長と思しきおじさんの方を向いて「そうやったっけ?」と尋ねた。工場長のおじさんは「はい」と答えて頷いた。
「朝焼いて売れ残ったパンは、次の日に持ち越せないので、社員の方が持ち帰ったり、廃棄されたりしていると聞きました」
「そうなん?」
「はい、そうです」
再び工場長におじさんが尋ねた後で、おじさんは俺をやや訝しげに見た。
「あんた、清水君、よう知ってはるねぇ」
「と、友達の親が日の出パンさんで、働いてはった事があって、聞いた事があるんです」
「ふーん、誰?」
「名前は、おじさんが怖いので言えません。。。」
「怖いて!!まぁええわ、ほやけど今は、廃棄前のパンの持ち帰りはさせてないはずやけど?」
「そうなんですか、知らんかったなぁ?」
美里から聞いて知っていたけれど、俺は素知らぬ体で何度も頷きながらそう答えた後で、話を戻した。
「その次の日3時に期限が切れる、廃棄寸前のパンなんですけど。捨ててしまうのなんて、勿体ないやないですか、今まで捨ててたパンが、売り上げになると考えたら、大きな儲けですよね?」
「まぁ、そやな」
「次の日に持ち越せない、今まで廃棄になっていた日の出パンさんのパンを、うちの高校の朝練の男子生徒をターゲットに、早朝に格安で、販売させてもらいたいんです。2つセットで、100円とかで。セットにする組み合わせは、選べんでもいいです、なるべく同じ種類がセットにならんように、適当に袋詰めしてもらうだけで。日の出パンさんのパンは、とっても美味しいので、朝練後の腹ペコの男子生徒達やったら、どんな味のパンでも、美味しいっていうだけで、喜んで食べると思うんです」
俺がそう言った時に、高杉が手を上げて、「私も日の出パンのパン、大好きです」と加勢した。直ぐ後で、議長と会計の先輩も同じように加勢した。執行部の前に並んだ重役の人達の表情が、フワッと和らいで笑顔になっている。おじさんも女子生徒が大好きと言ったのが嬉しかったのか、明らかに笑顔になっている。高杉、グッジョブと思いながら、俺は説得を続けた。
「僕も、日の出パンさんのパン、めっちゃ好きなんですけど、駅前にイートインの店舗あるけど、学生が気軽に立ち寄るには、パンの値段が高めなんですよね、一個150円とか、高いやつは250円とか。だからこそ、日の出パンさんの高級おしゃれパンが2個100円で食べられるっていうのは、学生にしてみたらもの凄いお得感がある。日の出パンさんにしてみたら、もう廃棄が決まってるパンやから、売れたら売れただけ、得しかないですよね?次の日の開店時、10時からの販売には間に合わなくても、早朝に6時半とか7時に午後3時期限の品物がさばけるとなったら、問題無いと思うんです」
「う~~ん、そこやな。。。絶対に早朝に食べ切るかどうかは本人の勝手やけども、それを学生さんが結局食べずに持ち帰って、中毒が出た時には、目も当てられんで」
「そんなん、どんな食べ物でも一緒ですよ!市販のパンかて、販売から期限が来たら、何%オフとかで売りはりますやん!」
「いや、一緒ではない。。。うちは焼きたてやで、防腐剤とか入れてないもの。市販のパックのパンと、一緒にされたら逆に困る。街のパン屋もスーパーのパン屋も、コンビニのパンも、素人さんはどれも一緒やろって思ってるやろけども。どれもこれも、一緒じゃない、どこの企業も、それぞれでこだわっとるんや、全然違うモノが入っとる。うちは本来焼きたてが店内で食べられるパンが売りなんや、賞味期限が午後3時では、販売から余りの時間がギリギリ過ぎるで。しかも学生さん相手となるとなおさら、安全第一で販売せんと。問題無いとは言えない」
「それも、対応考えました。持ち帰りを一切禁止にして、学校出るまでに食べられへんかったパンは、返金対応するんです。持ち帰った生徒のお腹事情はあくまで自己責任。これで、どうですか?」
「う~~ん、どうやろね」
「じゃあそれは、今は保留にしておいて。日の出パンさんにとってのメリットもう一つ、僕ら執行部では、早朝に販売してもらいたい日の出パンさんのパンの事を『朝パン』って呼んでるんですけど。朝パンを食べる事によって、それまでちょっと高いからって敬遠してた生徒達にも、100円やったら買ってみるかって試しに食べることで、日の出パンさんのパンって美味しいんやって、知れ渡りますよね。そしたら、『日の出パンさんのパンをもっと食べたい、朝パンていう自分で選べないパンだけじゃなくて、他のパンも食べてみたい』って親にせがむと思うんです。親は子供の食べたい需要には、弱いです、ほな買ってみよかってなると思う。そしたら朝パンは、日の出パンさんの宣伝にもなります。広告宣伝費一切無し、販売するパンは今までなら捨てられてたパンやから、実質ゼロ円、やのに儲けは天井知らず、さらに新しい顧客の獲得まで出来るっていうわけです」
ここまで話したところで、頼重が手を上げて、「朝パンは朝練の男子だけやなくて、朝ごはん食べずに登校してきた生徒達も利用すると思います。なのでなるべく沢山販売してもらえば、特定の男子生徒という狭い層だけやなくて、全校生徒が買い求めるようになるし、そうなったら自ずと客層も広がるんとちゃいますかね」と付け加えた。俺も頷いて、「日の出パンのパンって生徒会の間でも、どちらかと言うと女子が興味を示してたんで、朝パンが販売されたら、男子だけやなく女子が買いたがるのかなと思いますけど。女子って、休みの日に、男子よりも外でお茶したがるから、日の出パンに対して朝パンで馴染みが出来たら、休みの日は日の出パンのイートインで、っていう生徒も増えるかもしれない」と言った。
日の出パンの重役の並びの人達が、この説得には「なるほど」と興味を示し始めた。
横一列に並んだおじさんのうちの一人が、「朝100円で販売するパンを選べないようにする事で、逆に選びたい購買意欲をあおる、っていうことか」と言った。俺は、「そうです、そういう事です」と頷いて同調した。
渡辺庶務長が「はい」と手を上げて、「私も、アマ。。。清水君が『朝パン』の企画を出してくる前まで、日の出パンのイートインに、入ってみたいと気になりながらも実際には入った事がなくて。だけど今回庶務の女子生徒達が美味しいと話していた事もあり、執行部として検証も兼ねて入って食べてみたら、本当に美味しくて大好きになりました。学生で、私のように興味はありながら素通りしていた子達が躊躇っていた入店の一歩を踏み出す、今回の朝パンの企画によって日の出パンさんのパンに対する興味と認知度がぐっと広がるのは間違いないと思います」と付け加えた。
俺は渡辺庶務長のアシストに何度もそれそれと頷いて、「日の出パンさんの売りは、焼きたてパンがイートインで食べられる事なんですよね?『朝パン』は焼きたてやないけども、だからこそ、じゃあ焼きたてのパンはどんなに美味しいんやろかって、イートインで食べる事にも興味がわくだろうし、先輩のように生徒達の実際の行動に繋がるってことですね」と言った。
トップのおじさんも前のめりになって、「清水君はなんや、商売人のお家の子か?」と尋ねてくる。俺は美里の手前、少し語調を弱めると「いや、僕のとこは別に普通の家ですけど」とボソッと答えた。
日の出パン重役の人達が顔を見合わせて小さな声で相談し始めていた。顔つきが明らかに変化している、朝パンの販売を現実的に検討し始めてきてくれているのが見て取れた。米山先生がその時に、「最初にお話しを持ちかけた、工場長の方は『良いですよ』と快諾してくださっていたんですけれども」と一声かけた。すると日の出パントップのおじさんは「そういう話やったね」と答える。
「結局、御社様が一番気にしてらっしゃるのは、体裁ですよね。学生相手だと、一般層に向けた販売より、何か問題が起こった時にはデメリットが大きくなると」
「それも、ありますよ、もちろん。ですけどね。我々は学生さんの大事な命を、軽々しくは扱えない、念には念を入れて、厳重に対策を講じた上での決定を下す義務があるんですよ、大人ですからね!一番大事なのは、学生さんの健康や」
俺はホンマかいなと思いながら、米山先生と顔を見合わせて訝しげに微笑む。
日の出パンの重役達がその後も相談し合う中で、俺はそわそわしながら頼重とも顔を見合わせた。朝パンの販売には、男子生徒達の胃袋だけやない、俺と頼重の学生生命もかかってるんや。
少しした後で、日の出パントップのおじさんが咳払いをし、「分かりました、いいでしょう」と言った。俺と頼重は思わずお互いに笑顔を交わした。頼重のそれは心底ホッとした時の笑顔だった。
「あくまでも試験的に、まずは1ヶ月、おたくの高校に朝パンの販売を試行することで決定しました。それと一つ、これだけは変えさせてもらう。販売するパンは、朝一で焼いた分ではなく、午後に焼いた分、次の日の深夜0時までが賞味期限のパンにすること。これやったら、食べれんで持ち帰って食べたとしても食中毒の懸念を減らせる。それで、売れ残って店舗から回収されてきたパンを、一パックの味が被らないように簡易袋詰めにし、2個1セット100円で販売させてもらいます。売れ残った分と、学校内で食べられなかった分は、袋が開いてなければ返金回収、一つ食べて後は残った分に関しては、返金無し、各々で廃棄してもらう。この形でよければ、後日契約書を作成しますんで、責任者は米山先生か、学校側の印をいただいて、その後で学食さんに卸させていただきます。販売は学校側でやってもらえるんですよね?」
「も、もちろんです、はい!」
「ほやけど、じゃあ朝一の分は結局、廃棄になるって事ですよね?勿体なくないですか?」
「余計な事は、気にせんでええ。おっちゃんらぁはな、学生さんの健康が最優先なんやさかい。それで納得出来んのやったら、この話は無かった事にしてもらう」
「いや、それで良いです、余計な事言って、すみませんでした」
「え?販売って、生徒でやるんか?」
「別に、ええやろ?袋渡して、100円玉もらうだけやし」
「そやけど、売れたお金の管理とか、集計とか。会計がやってくれるん?」
「いや、執行部全員でやるって事やんな」
「庶務が率先して販売するにしても、お金に関しては会計がやるんが筋ちゃう?」
「販売は、学校側が動員してくれるだろうし管理も教員で補填するだろうけど、それまでの売り子は執行部でやる事にはなるかな」
「じゃあその時のお金の取り締まりは、会計がやるやろ?」
「金だけ会計で、売り子は皆で」
米山先生と執行部トップ達で話し合っていると、しびれを切らしたように「卸すだけで、販売は、うちはやりませんよ?」とおじさんが念を押してくる。俺達は向き直って、「はい、それでいいです!」と答えた。俺達は堪えきれず、ワァッ!と喜びの声を上げた。
米山先生が立ち上がり、日の出パントップのおじさんと握手を交わしている。お互いに何事か呟き、頭を下げ合っていた。
その時に、会議室のドアがおもむろに開いて、生徒会長が姿を現した。生徒会長は「遅れて申し訳ありません」と言いながら会議室に入ってきた。俺達は笑顔で生徒会長に声をかけた。
「篠宮先輩!」
「会長!」
「みんな、どうなった?話し合いは。。。」
しかし、笑顔で生徒会長を迎えたのは俺達執行部員と米山先生だけでは無かった。日の出パンのトップのおじさんは、途端に満面の笑顔になると、「篠宮さんとこの、おぼっちゃん!!」と声色を明らかに上げて生徒会長の手を握った。
「なんや、篠宮さんとこのぼっちゃんが居てはる高校やったんか、はよう言いなはれ!」
「どうも、この度は日の出パンさんにご無理をお願いすることに」
「何が無理ですかぁ~~、喜んでやらしてもらいまっさかい!ちょっと誰か!茶ーー出せ、茶!!」
「いえ、お気遣いなく、長いはしませんので。では、朝パンの販売許可はいただけたので?」
「頂けたも何も、ぜひやらせてもらいますっていう話になっとりましたんや、清水君も大層熱心な子で」
「清水?」
生徒会長が俺達の方を見て、目で訴えてくる。俺は篠宮先輩の前に覆いかぶさって、「あーあー!あの!快諾くださって、本当に有難うございました!!」と日の出パンのおじさんに笑顔で頭を下げた。生徒会長はそれで察したのか、それ以上何も言わずに俺と一緒になって頭を下げた。
俺が笑顔のままで顔を上げたその時に、だらしのない笑顔になっていた日の出パンのおじさんが表情を変えて、「あれ、君、清水君。。。どっかで見た顔やなぁ、いつやろか。。。」と真顔で俺の顔をじっと見つめてきた。俺は慌てながら、「全くの、完全なる初対面ですけど?あれですかねぇ~~、俳優さんとか?」と言って笑った。それでもなお、おじさんは真顔で俺を見つめてくる。
「おっちゃんな、一回見た顔は忘れへんねん。。。何処でやったかなぁ。。。見覚えがあるっていう事は、どっかで会ってるはずなんやけど、清水君と」
「た、他人の空似ちゃいますかぁ?俺は、おじさんに面識、全然無いですよ?」
「ほやろうなぁ。。。やけど、どっかで。。。」
「うちの母が、よろしく伝えてくれと、申しておりました」
生徒会長がおじさんに話を振ると、おじさんは即座に俺を無視して生徒会長に笑顔で向き直った。
「お母様が?!私ね、お母様の日舞、大好きなんですよ、もうドーーンと任せてください、誠心誠意、朝パン販売に協力させていただきますんでぇ」
助かったと思いながら俺が長テーブルの前にいる頼重と執行部の皆の方に戻ると、頼重が遠目に生徒会長とおじさんの姿を見ながら、「結局、篠宮先輩が全部持っていったなぁ」とボソッと呟いた。俺も彼らの姿を一緒に見つめる。
「俺、今やったら、学食問題に乗り気じゃなかった執行部の先輩達の気持ち、分かるわ。。。」
「俺もや。。。もしかして、最初から篠宮先輩出しといたら良かったんちゃうん?ていう。見てみ、あのへりくだり様。。。どっちが上か、分からんで。。。」
頼重も同意した。今日は様々の大人の裏事情を見てしまった一日だった、俺はそう思いながら、ホッとしたついでに疲労感に襲われた。体と言うよりは心に、どっと疲れが押し寄せる。自分でも尋常じゃないくらい、気を張っていたのだ。
「つ、疲れた。。。」
俺がそう言ってテーブルの天面に右手のひらを付いて腰を曲げると、高杉が含み笑いを浮かべて顔を覗き込んだ。
「し・み・ず・君!やったやんか!」
高杉がそう言って左肩をパン!と叩くと、俺は叩かれた部分を撫でながら、「高杉、お前調子ええよなぁ、執行部ではあんなに否定的やったのに」とこぼした。
「素直に褒めとんやで、喜んだら?」
「女子高生の『大好き』はおっさん達には効果大やったと思うで、グッジョブ」
「ほやろ?フフフ」
「やけどお前、段々キャラが崩れてきたというか、最初の頃はもうちょっとお高く留まった感じというか、品があったのに。それが地やったんか?」
「はぁぁ?!せっかく人が褒めてるってのに、亀原って無神経やんな?!」
「『カメハラ』、呼び捨て!分かったわ、根が男っぽいんやな。。。」
他の執行部達も寄ってきて、「やったなぁ~~、『清水』!」「よく頑張ったよ、『清水君』!」と楽しそうに声をかけてくる。俺は疲れ顔のまま笑いながら、「ホンマ、良かった。。。これで命は、繋がった。。。」と弱々しく言った。
渡辺先輩が「清水君。。。良く頑張ったね」と言って微笑んできたのが俺はしみじみ嬉しくて、感極まりながら「先輩のおかげです、庶務長の合いの手も、日の出パンの重役の人達の心を決定的に動かしたって俺は思います、有難うございました」と返した。
本社からぞろぞろと出てきた後で、篠宮先輩が皆に、「一足遅く到着してしまったな、すまない。学校側を納得させるのに、思いのほか手間取ってしまった」と先輩も疲れた様子で言った。俺は首を振って、「学校側と対等にやり合えるなんて、先輩にしか出来ませんよ、それに。。。こっちにも篠宮先輩が来てたら、俺らが頑張って説得しなくたって、通ったやろし。。。」と少しテンションを落としながら言った。俺も疲れていたのもあって、自分で思っているよりも悲壮感が強く出ていたかもしれなかった。先輩は少し笑って言った。
「いや、きっと俺が頼んだ程度では、朝パンの企画は通らなかったと思う。米山先生とも、そう話し合っていた。俺はもし話が通らなかった場合の最終手段のつもりで、後から合流する事にしていたんだが、思いのほか学校側がしぶってな。日の出パンの方は、海士部が頑張ってくれたんやな、お前、やるやないか。この企画の発案者だけの事はあるな。見直したで」
篠宮先輩が褒めてくれたのが、ひょっとしたら気を使っての事だったかもしれなかったけれど、俺は疲れていたのもあって、素直に先輩からの言葉を喜んだ。
「はい、頑張りました。。。結果、日の出パンが販売してくれる事になって。。。嬉しいとか楽しい、っていうよりも、安堵の気持ち。。。良かった、って。。。ホッとしてます、なんせ俺と、亀原君の今後の高校生活生命がかかっていたんで」
「学校側は、変化を嫌がる。一つ決まった事をずっと続けるのは良くても、新たに変化を加える時には、異常に慎重になるんや、というのも、一つの変化は様々な余波をもたらす事がある、高校生っていう、多感な年齢の人間をまとめていく時に、現状維持こそ最適だと信じているきらいがある。学校というのは極めて古典的な組織や、今回、海士部は『朝パン』という新しい企画を学校に通した。これは、海士部が思っているよりも、ずっと偉大な功績や。海士部はようやったんやで、誰よりも、自分を褒めたりや」
篠宮先輩の言葉が、疲れた自分の気持ちにジンと沁みてきて、俺は瞳を潤ませて、泣きそうになってしまった。その時に、スポーツ部の先輩から昼休みの度に追い立てられたこと、文句を言われたこと、辛かった事を一度に思い出して、だけどそれが報われたのだと思うと、余計に深いところが満たされるように感じた。
「先輩、有難うございます」
「俺は何もしてへんよ、海士部。。。いや、清水やったかな?」
先輩が笑ってそう言うと、執行部の皆も一緒に笑った。皆から肩を叩かれたり、良かったなという言葉をもらう。篠宮先輩は時計を気にした後で、皆に言った。
「謝ってばかりになるが、学校側とやり合った後、電車でこちらへ向かって、疲れてしまったんだ、なので車を呼んである。迎えに行くと言って聞かなくてな。。。」
先輩が話している最中に、黒いリムジンがさーーっとやってきて、俺達から離れた所で静かに止まった。俺が口を開けて見ていると、白い手袋をしてスーツを着たおじいさんが、運転席から出てきて後部座席のドアを開けて待った。先輩は困ったように笑いながら、「すまないが、俺はこのまま直帰させてもらう。皆は米山先生の車で、自分達の家の近くまで、送ってもらうかして。では、また学校で」と言って俺達に軽く手を上げた。篠宮先輩は米山先生に頷くと、先生も頷いて、先輩はそのまま黒いリムジンの後部座席に乗り込み、その車はまたさーーっと日の出パンの敷地内から出て行ってしまった。
「篠宮先輩って。。。本当に、お坊ちゃんなんやな」
「俺、リムジンてドラマとかでは見た事あったけど。。。ほんまもん見たんは、これが初めてや。。。」
「正真正銘の、お坊ちゃんよ」
渡辺庶務長が少し呆れたように言った。米山先生が間を置かずに、「僕らも、帰るよ。車に移動しよう」と言って歩き出した。俺達はあまり会話をせずに、車に乗り込んだ。
車に乗り込むと、俺と頼重は無言で顔を見合わせ、そのまま心の内に、本当に面白い事があるみたいに、ニヒヒと笑い合った。朝パンの販売を取り付けた嬉しさが、後から後から込み上げてくる。
帰りの車では、助手席には一番家が近い高杉が座って、渡辺先輩は俺の隣の席に座った。
誰も言葉を発しないままの車の中で、会計トップの先輩がふいに、「篠宮め、こういう時くらい一緒の車で帰ったらいいのに」と呟いた。すると広報の先輩も、「全くやて、本人は何とも思ってないやろけど。あんなおっきな車で帰って、嫌味やんな」とこぼした。
「『電車に乗って疲れてしまって』、やって。毎日電車で通ってる俺、どうなんねん」
「鈍感もええとこよね。何がかなんて、自分の行動が私らにとって嫌味に映ってるって、一切気付いてないところ」
「そうそう!」
突然噴出した、篠宮先輩への愚痴に、俺と頼重は再び顔を見合わせた。目を見開いて、苦笑いを浮かべ合う。
渡辺先輩を見ると、後ろの座席に座っている先輩達に混ざろうという気配は無く、他人事のような面持ちで前を見据えている。俺は先輩達に尋ねた。
「篠宮先輩って、1年生の時から、ああいう立ち振る舞いというか、根っからのお坊ちゃんなんですか?」
「当たり前やないの!骨の髄までお坊ちゃんよ!」
「今日かって、海士部君が一生懸命説得して『朝パン』実現させたのにさ。。。終わりの方にポロっとやって来たと思ったら、日の出のおっさんの態度激変するし。海士部君かて、そこまでの説得何やったんやって、白けたやろ実際」
「いやぁ。。。先輩が学校側と話付けてくれなかったら、日の出が販売許可してくれたって、あかんようになってたやろし。。。」
「違うやろ!だから、結局篠宮の鶴の一声で決まるんか、俺らの存在意義って何なんや、って怒るとこやで!」
「そうそう、海士部君こそ、ちょっとくらい愚痴ったら?!海士部君が頑張ったんやし!」
「それは、篠宮先輩も認めてくれはったし。。。」
「どうだか。篠宮君の本心は、そうやないかもやで?海士部君に花持たせただけちゃう?それがまた、嫌味なんよ」
「そんなぁ。。。篠宮先輩がどんな風に言っても、悪く言われるんは可哀想ですよ」
「何なん?私らは、海士部君の為に苛立ってるんよ?!」
「いやぁ、俺は苛立ってないですし。。。」
「スグル君が言ってたことは、本心だよ。昨日も僕に、彼の力だけでは通らないだろうから、執行部の皆で彼が来るまで何とか説得してくれって言っていたから」
米山先生が運転をしながら口を挟んだ。米山先生がそう言うと、先輩達は「米山先生は、何かと篠宮の肩持つからな。本当だかどうだか」と不服そうに言った。
「確かに、篠宮先輩が会議室に入ってきて日の出のおっさんの態度がガラッと変わった時に、『これが現実か』って、無常感というか、虚脱感というか、白けたんはホンマに」
頼重が後ろの先輩達に同調すると、先輩達は満足そうに、「亀原君は分かるヤツやな」と言った。そして、声色を険しくしながら、「副議長は、完全に篠宮の犬やし」と言い、さらに「庶務長は、篠宮君と仲良しやもんねぇーー」と、嫌味たっぷりに言い放った。
その言葉には反応せず、無言を貫いたまま、庶務長は俺の隣で前を見据えていた。俺は、「やっぱりな」と思った。臨時会議の時も、渡辺庶務長は篠宮先輩を庇うような発言をしていたし、それに、渡辺先輩が篠宮先輩の事を話す時に、特別な親密感があるような声色が混ざっていたからだ。渡辺庶務長は結局押し黙ったまま、後部座席の先輩達の言葉に、同調も否定もしなかった。
俺は、「だけど、篠宮先輩かて、好き好んでお坊ちゃんとして生まれはった訳ではないし、お坊ちゃんにはお坊ちゃんなりの苦労があるというか。こうやって何かとハブにされたり、嫌味言われたり」
「ハブになんて、してないやろ!俺は、こういう何か一つの事を皆で成し遂げた時には、たとえ嫌々やとしても、皆と一緒におったらいいのに、って言ってんねや!篠宮が自分で一人外れたことやっとんやろ!」
「スグル君が僕らと一緒の車に乗り込んでいたら、定員オーバーだっただろうし。後ろの席はギュウギュウに詰めて座らないといけなかったと思うよ?」
米山先生がバックミラーをチラッと見た後でそう言うと、会計トップの先輩は悔しそうに、「後部座席がギュウギュウになったって、定員オーバーで万が一ポリに捕まったって、それでもいいから一緒に帰ったらいいのにって思っただけや」と言った。俺はそれを聞いて、「何や、安心した」とこぼした。
「何笑っとんねん、ニセ清水!」
「笑ってないですよ」
「声が、笑っとるやんけ」
会計の先輩がキレ気味にそう言ったので、俺はボソッと、「だって先輩、篠宮先輩の事大好きやん、と思って」と加えた。すると車の中がシーンとなって、その後で渡辺先輩が堪えきれなかったのか、フフッと笑い声を押し殺した。
すると会計の先輩が、恥ずかしそうに「今日のお白け一番は、篠宮やなくて、ニセ清水や」と言った。すると皆が失笑しながら、「確かに」と言って車の中が珍妙な空気になった。
「ホンマやな」
「ニセ清水。。。いや、海士部、KY」
「ところで、清水って誰?」
「清水は、俺の中学からの同級生で」
車内で笑いが消化不良になったままのところに、米山先生が「これも、言うな、とはいわれてないけど」と切り出した。
「2年前の学食建て直しの時は、スグル君の一存で決行されたよね、その時はご両親もバックアップで学校側にかけあってくださった。結果的にあまり変化が生まれなかったから、生徒会の中でも学食改良に否定的な意見が今回も出ていたけれど。スグル君は朝パンの企画は、ご両親には一切打ち明けずに、学校側に通すことにしたんだ、一度目は良くても、二度目は結果が出ていない分、ご両親、というか彼の父親からの支援を得られないだろうとスグル君は言っていた。それでも強行で、スグル君は彼の親の権力を使ってでもこの企画を通そうとした。多分、時間がかかったのは、ご両親に学校側が確認を仰いだ事で手間取ったんじゃないかと。彼はご両親にバレないように電車で日の出パン本社まで来たけれど、車で帰るよう指示されたのは、ご両親が日の出パンとの交渉の事を知って、彼が何の相談もせずに学校側に折り合った事を、叱責する為だと思う。その事があるから、スグル君は疲れていたんだと思うよ、電車で来たから、というのは都合を合わせただけで」
米山先生が打ち明けると、車の中はシンと静まった。
後部座席で先輩が、「じゃあ、母親がよろしくっていうのは、嘘か」と言った。誰も合いの手を入れず、皆黙っていた。
「これから父親から怒られるって分かってるのに、『清水やったかいな』って、俺に冗談返したり」
俺がそう言った言葉にも、誰も反応しない。
「『何もしてへん』、やって。めっちゃ一人で、一番重いとこ背負ってんやん」
広報長もボソッとそう言った。各々の呟きはまるで独り言のように、走行し続けている車内で宙に浮いていた。
会計長が「篠宮って、そうやって不具合が起きてても、おくびにも出さんのよな、恰好ばっかりつけて」と言った。
「何がムカつくって、容姿までカッコいいところがね」
「なぁ?可愛げがないよなぁ」
広報長と会計長がなじってみたものの、結局その後、誰も言葉を発しなかった。
俺は皆が黙ったままの車の中で、篠宮先輩の父親って、篠宮先輩の倍の倍は、怖そうやし、厳しそうやんなと思った。先輩が怖く厳しい印象で下の俺らと向き合いはるんも、先輩の父親がそうやからなんやろうと。車で帰って来いと強制送還させられて、これから父親から怒られ、問い詰められる事が分かってるのに。俺の功績を褒めたり、清水やったかと冗談を言ったり。電車で来たから疲れたと、嘘を言ったり。皆が心配しないように、苦しい部分を一人で引き受けて、この企画を通してくれはった。
俺は、ホンマにホンマの功績は、やっぱり篠宮先輩にあるんやと実感した。そして先輩はホンマは、皆と一緒に車に乗りたかったんやろうなと思ったら、何ともいたたまれない気持ちになった。俺は黙ったまま、篠宮先輩の居ない車の中で、先輩の事を好き勝手に言い合った事を、心から謝りたい気持ちになっていた。
僕らはその珍妙な空気のまま、家が近くなってきた順に車から降りていった。俺と頼重は同じところで降ろしてもらって、先生と先輩方にお辞儀をして手を振りながらさようならと言って別れた。
俺と頼重は二人きりになったところで、ようやく顔を合わせると、「おい」「やったな」「俺ら、助かったんや!」と徐々にテンションを上げた。
俺と頼重は肩をがっしりと組んで歩きながら、「『朝パン』、実現するで!」「するする!やけどここから、まだまだやらんなん事ある、忙しくなるでな!!」と言い合った。
「ほやけど今は、全力で喜ぶとこやろ!!」
「そや!!今喜んどかんで、いつ喜ぶねや!!」
「俺ら、やったぞ!!」
「やったーーー!!!」
俺と頼重は歩くほどにテンションを上げて、飛び跳ねながら帰った。精神的な疲れも、吹っ飛んでしまっている。
「篠宮先輩、大丈夫かなぁ?」
「大丈夫やろ、相手親やし」
「篠宮先輩って、凄いよな、大人と対等にやり合えるん、あの人ぐらいやて」
「俺らがガキ過ぎるって、思ってはるかもしれへんけど」
「実際、ガキ過ぎるんやて!!でも俺らかって、頑張ったで?!」
「そうやで、特にテルは、頑張ったって、日の出パンのおっさん、落としたでな!」
「それはお前も、執行部の皆も、おってくれたから出来たんやで!俺、執行部入らんかったら良かったって、追っかけまわされてる時本気で思ってたけど!今はめっちゃ、充実やて!」
「俺もやで、俺もいらん事やってもうたんかなぁって、野球部の先輩が言ったこと、万年ベンチでも、生徒の一部から敵視されるよりはずっとマシやったかもしれんて、あっちの方が正しかったかもしれんて、後悔しかけてた。でも、この企画、通せた!やっぱり生徒会にして良かったって、だから今、嬉しいんやな!」
「ほやで!あっ!!どうしよう。。。」
俺は途端に不安になって、マックスまで上がっていたテンションを仕舞いこんだ。先生は朝パンの販売は、最終的には教員側が取り締まるって言ってはったけど。それまで執行部で売り子と会計する間、日の出パンとパンとお金のやり取りする時に、日の出パンから美里が動員されたとしたら。その時は俺、一時的にでも隠れとかんと。
「美里のこと、忘れとった。。。」
「生徒会執行部におる事、言うしかないんとちゃうか?」
「だけど何で隠したんや、って問い詰められたら?」
「勘ぐられる。。。やろな」
「日の出パンの人達には、俺、清水って事になっとるし。美里も『朝パン』の事、知る事は避けられんやろけど。『朝パン』の管理を学校側がするまで、美里には清水が来たんやって、思い込んどって欲しい。それまで隠れ続けんと」
「おい、それマズいで。。。だって清水は卓球部入ったって美里さんに言うたんとちゃうんか。ほんでテルも一緒に卓球部に入ったって」
「ホンマや!!。。。どうしよう、マズい。。。」
「黙っとるより、バラした方が気持ち的にも楽なんちゃうか?」
「いや、俺は美里の口から、海士部史郎のこと打ち明けてほしいんや。それまで。。。どんなにつじつまが合わんでも、俺が海士部史郎の存在に気付いてる事、隠し通したい」
「そうや、生徒会は、通常のクラブと掛け持ち出来るで、清水が卓球部と生徒会どっちも入ってる、ってことにしたらええんちゃうか?」
「それや!!ヨリ、冴えとるわぁーー!」
「やけどな、結局付け焼刃、どんどん嘘の積み木が重なっていくで。隠し続ける限り、それはどんどん積みあがって、必ずいつか崩れる、時間の問題やと思うけどな。。。絶対にバレるんは確定」
「そんなん、言わんといて」
「バレるまで、隠し通したいんやったら、俺も協力するけどな」
「そうしてくれ、頼む。なぁ?!せっかく朝パン決まったんやで、今は全力で、楽しい気持ち発散しよう?!なんか、歌うたおうぜ!」
「よっしゃあ、『アンパンマンは~~きみっさー!!ヘイ、ユー!』」
「ユーウーキーをーーだしーーてぇーーカモーーーン!!」
「『朝パンマンーーはーーオレーーやーー!!ヘイ、ユー!!」
「チーカーラーのーかぎーーりーーカモーーーン!!」
「『朝パンマンはーーーオレーーやんーーイェーーーイ!!」
俺と頼重は、木曜日を待ちきれずに、月曜日の昼食時間、それぞれ昼食と飲み物を手に持って、生徒会準備室へと向かっていた。
3限の国語の授業の後に米山先生に、朝パンの販売が決定したからには、学生達にアンケートを出来るだけ早くとりたいんですがと言うと、米山先生は「じゃあ、スグル君に相談してみたらどうか」と答えた。
「スグル君は、昼ご飯は生徒会準備室で食べているはずだよ」
「昼食時に伺っても、邪魔くさがられないですかね?」
「多分、大丈夫じゃないかな。他の執行部達も、何か個人的な相談がある時は皆そうしてるから」
俺と頼重は腕章を付けずに、なるべくスポーツ部の先輩達に見つからないようにしながら生徒会準備室へと向かった。
生徒会準備室のドアを俺がノックして、大き目の声で「篠宮先輩、いらっしゃいますか?」と声をかけると、「ああ、入れ」と返事が返ってくる。
俺がドアを開けて頼重と並んで準備室に足を踏み入れると、篠宮先輩は中央のローテーブルにお弁当を開き、昼食の最中だった。
生徒会準備室には、教員の準備室のようにローテーブルとソファーまであるのかと驚いたのも束の間、俺は先輩のお弁当を目にしてもっと驚く事になった。隣の頼重も、同じように驚いている。
「何か相談か」
「せっ、先輩、先輩のお弁当。。。毎日お正月なんですか?!」
「ん?いや、これは普通の弁当だが。。。」
「重箱入りて、どう見ても花見かお節か。。。」
頼重もそう言うと、先輩は俺達が手に昼食を持ってきているのを見て、「お前達も未だなら前に座って食べや」と促した。
「失礼します。。。」
「失礼しまーす」
俺と頼重がいそいそと革張りのソファーに腰をおろすと、先輩は頷いてコップにお茶を注ぎ、一口飲んだ。
俺は先輩のお弁当をまじまじと見て、なるほどこんな豪華なお弁当を毎日用意してあるのなら、学食へ足を運ぶ訳が無いし、現状を把握していなくても当然だと思った。先輩は学食がもっと利用されるのに賛成だと言っていたけれど、しかしながら本人は卒業するまで、学食で何か食べようなんて気は、さらさらないのだろうと。
頼重がコンビニ袋の中からおかずパンを出して封を切って食べ始める。俺は自分の大きなおにぎりが何だか恥ずかしかったけれど、巾着袋から一つ出してサランラップを外した。
「篠宮先輩のお弁当。。。めっちゃ美味しそうですね」
「よかったら、食べるか?」
「えっ?!良いんですか?!」
「良いで、好きなやつ、取り」
「じゃあ、お言葉に甘えて。。。」
俺はお箸を持っていなかったので、櫛に刺さった閉じた扇子のような形の肉の焼き物を、指でつまんでもらった。一口噛んだ瞬間に、肉がホロッと崩れる。すかさず頼重が、「俺も、欲しい」と言ったので先輩が笑って重箱を頼重の方に押した。
「やっぱり、お正月やないですか。こういう食い物、正月に見た事ある」
「海士部が食べたんは、末広鳥やな」
「もう、めっちゃ美味しいです。。。先輩、幸せ者ですね、こんな贅沢な料理、お母さんから毎日作ってもらえるなんて」
「うちの母は、弁当なんぞ作らんさ。これはうちの調理場の者が用意してくれてるだけで。お前のは。。。花火の火薬玉みたいに見えるけど、おにぎりやな」
「めっちゃ、恥ずかしい。。。先輩のご飯がこんなに豪勢やって知っとったら、教室で食べてから来たのに」
「テルのおにぎり、見た目よりも美味しいですよ」
「俺ももらったんで。良かったら先輩、かじりますか?」
篠宮先輩は少し困ったように笑った後で、「じゃあ、いただくよ」と言って俺からおにぎりを受け取り、一口かじった。
先輩が少し躊躇いながら小さな口で一口おにぎりをかじった後で、何度かうんうんと頷き、もう一口かじると俺の方におにぎりを戻した。俺は先輩がおにぎりにかぶりつき口を動かす様を目の前で見ながら、その先輩の姿が凄く可愛い生き物のように見えて、胸をときめかせていた。篠宮先輩は、断ったら失礼やからって、かじってくれたんやとは思うけれど。俺は先輩がらおにぎりを受け取りながら尋ねた。
「どうですか?」
「うん、美味しい。その米、ちょっともち米が混ざっとるな。海苔も、ええ海苔やで」
「そうなんや??」
「そんな事まで分かるんですか」
「うちの白米も、もち米入れとるって調理長が言うとったけど、似とるで。普通の米に少しもち米入れると、炊き上がりの米がねっとり、艶っとして、美味しなるんや
。炊き立ての時は大差なくても、冷めた時にはよう分かる、もち米入っとる方が断然美味しいねん」
「知らんかったぁ」
「テルのおにぎりが美味しいんは、美里さんの愛のせいやと思とったけど」
「美里さん?」
「テルの母親です」
「お母様か。。。何にでも、エビデンスはある。気のせいや魔法っていうことはないわな。ましてや、愛」
「いや!美里さんの愛は、間違いなく魔法をかけるんですよ。愛は全てを輝かすんです!おにぎりも美味しくなるんですよ!」
「そうなん?ふふっ、ほな、そういう事にしとこか」
先輩が笑いながら自分のお弁当に戻り、「そんで、何か相談があったんとちゃうんか?」と尋ねた。「急ぎで進めたい、『朝パン』の事やろ?」
「そうです、朝パンのアンケート、庶務部で内容つめて、臨時会議で配布して、執行部の皆にも確認してもらったやつですけど。日の出パンとの正式な契約書というのが完了するより前に、アンケートだけ先にとった方がスムーズに事が運ぶと思って。なるべく急ぎで進めたいんです。というのも、俺ら二人、昼食時間に学食行くのも、命がけのままなんで。いち早く生徒達に、『朝パン』の存在を知らせたいんです」
「スポーツ部の、学食競争抑制されて怒り狂っとった奴らが、『朝パン』が販売されるって分かったら、俺らが動いたんやって知って、少しは静まるやろうと」
「海士部と亀原には、集中的に被害がいってしまって、難儀やったな。ホンマは生徒会執行部全体で被らなあかん難やったのに」
「俺らが執行部に通す前に、勝手に動いたせいで起こった事なんで。俺らよりも、先輩、日の出パンから帰った後、ご両親と大丈夫でしたか?」
「心配してくれとったんか。そんなん、どうもない。一言の断りも無く、事を押し進めたんは、叱責されたけどな」
「大丈夫やったら、よかったです。俺らもやけど、執行部の皆も、車の中で、心配してましたよ」
「執行部の皆が?それは嘘やろ」
「いや、会計長が、『どんだけ車がギュウギュウになっても、ポリに捕まっても一緒に帰ったら良かったのに』って。皆、ホンマは日の出パンからの販売許可を得られた喜びを、篠宮先輩とも分かち合いたがってたんです」
「俺は、そういうんはええ。トップにはトップの、立ち位置っていうもんがある。執行部は、友達ではない。仲良しこよしの集団ではないんやで」
「そんな、先輩達は、篠宮先輩ともう少し仲良くしたいだけやと思うけど」
「ええか。一つの集団組織で、何か一つの企画が上手く行こうが行くまいが、必ず不服は出る、それを誰かが受けなあかん。それを受けるんはトップの仕事やし、時には厳しい事も言わんなん。全員合致で通せる議題ばかりやない、そういう時に独断で決断を下さんなん時もある。仲良しこよしでは、人の上に立てんで。煙たがられるトップがおることで、下が団結する。俺には俺の立ち位置っていうのがあるんやて」
先輩は重箱のおかずを細いお箸でつまんで食べながら、「ホンマやったらお前ら二人が受けとるスポーツ部の奴らからの怒りも、俺が引き受けんなんとこや。せやけど、俺が見回りに出た時は、大人しくしとる奴らばっかりでな」と付け加えた。
「相手が一年の俺らやで、それまでの鬱憤をはらしやすいんや」
「それは、あるな」
「俺らで勝手に動かんで、先輩に相談しとけば良かったんやわ」
「うん。そやけど、お前ら二人がある程度まで動いてくれたおかげで、学食問題を再考出来たんや。これは言わんなんと思とった、ようやってくれたな」
先輩はそう言うと、軽く微笑んだ。
「意見書見てたら分かると思うけど。2年前にも学食問題が議題に上がって、アンケート取った時に、そもそもごく一部の生徒しか学食を利用していないと結論が出て、けれど学食に対して学生達から不満がある、っていう事実は解消されないまま残った、せめて学食の建物を新しくしたらどうかと俺が提案して、俺の親のバックアップもあって実行されたけれども、不満は何も解消されないまま。結局、見て見ぬふりが最善のような空気が出来てしまった。執行部内には学食問題に消極的な意見しかない、俺もそれ以上動きたくても動けない条件が揃ってしまっていた。それを、お前らが変えてくれた、お前らが動いてくれた。お前ら二人が自発的に動いてくれへんかったら、朝パンの企画は恐らく議題に上げた時点で立ち消えにされていた。何としてもお前らが上げてくれた朝パンの企画、通したいと思ったで、俺も多少、無理をしたけどな。やで、海士部と亀原は、ホンマによくやった」
俺は篠宮先輩からの賞賛に、パァァッと嬉しくなって、「有難うございます!」と返した。頼重も、嬉しくてジンと来ているようで、「ほな、俺らが追っかけられた甲斐は、十分あるって事やな」と表情をほころばせながら言った。
「うん。それで、アンケートと一緒に、『朝パンの販売が決定した事』を、生徒会執行部からのお知らせっていう文面で、別用紙で配布した方がいい。アンケートは回収してしまうで、生徒達に朝パンの情報を手元に残る形で配布しよう。広報に掲示物でも張り出してもらわんなんのと」
「分かりました、それは、イラストとかは。。。」
「そんなに、凝らんでええで。文字だけの簡単なお知らせで。手間もかかるやろ?頼んだら広報が作ってくれる。自分で全部揃えてしまわんで、他の執行部に仕事を任せるんも大事やで。朝パンの販売が決定したっていう内容の連絡物は、早い方が良いやろ。それは俺が広報に進めてもらうように依頼しとくで」
「はい!よろしくお願いします。それとあの、篠宮先輩。朝パンとは別に、お弁当の事で俺に提案があるんですけど。お弁当を購入出来るのが、今は足の速いスポーツ部の先輩方に限定されてしまっているじゃないですか。それを、例えば火曜日をレディースデー、水曜日は1年、木曜日は2年、金曜日は3年、ていう感じで、強制的にお弁当が買える対象を曜日ごとに設定するのはどうかな、って思うんですけれども」
「そうやな。スポーツ部の男子生徒からは、不満が出るやろけど。学食の風通しは良くなるのか」
「朝パンの販売が始まってからで、いいんですけど。朝パンが始まったら、それに合わせて変化起こしても、順応してくれるんやないかなって」
「それ、ええやん。お弁当食べた事が無い女子の目が変わりそうやし、安心してお弁当が買えたら、そのまま学食で昼食食べて、学食も賑わうようになるかもな。『自分達だけが買える』っていう優越感で、対象の生徒がその日くらい学食行ってみよって、行動促せるやん」
「あー、ヨリ、ホンマそれ。執行部の皆さんにも、提案なんですけど。一回、お昼に学食のお弁当を、執行部の皆で生徒会室に一同に集まって食べるっていう、試食会を開きませんか?執行部の先輩達、皆学食問題にめっちゃ消極的やないですか。学食のお弁当、食べてみたら、考え変わると思うんです。執行部のメンバー分のお弁当を、例外的にお弁当屋さんに用意してもらうのって、難しいですかね?」
「ええで。それは俺が米山先生と相談して、学校側に出来るかどうか確認とる。次の生徒会会議の時に、海士部が提案したらええ」
「ほ、ホンマですか?」
「学食問題に関して、俺が働きかけるより海士部が動いた方が、生徒会の奴らが賛同しやすいっていう空気が出来とるで。何か提案したい事があったら、今日みたいに相談に来てくれたら、俺が動けるところは動くで」
「有難うございます、俺、何が出来るか、もっと色々考えてみます」
「うん。いい流れが出来とるうちに、動くんが得策やと思うで」
「はい。篠宮先輩、仮入部の時は怖そうやって思ってたけど、こうやって対面で話してみると、めっちゃ物腰柔らかいんですね」
「まぁ、俺も役割的なところは意識してやってるけどな」
「あの、すんません」
「なんや、亀原」
「俺。。。飲み物買ってきても良いですか?」
「ええよ。別に俺に断らんでも」
「ほな、行ってきます」
頼重が出ていった生徒会準備室に、俺一人で篠宮生徒会長と向き合って、俺はそれまで準備室内で感じていなかった緊張感を唐突に高めた。先輩と二人きりで、何を話してよいやら、それは畏怖からの緊張と言うよりは、生徒会活動が始まり交流を深める中で、既に篠宮先輩を崇拝しかけていた自分の感情から、ときめきのドキドキに近い緊張感だった。
俺が膝をさすりながら先輩の方を見ると、どういうわけか篠宮先輩が俺を見る視線が鋭くなっているのに気付かされた。あれ、先輩の雰囲気が変わったような?と思っていると、篠宮先輩の方から先に口火を切った。
「海士部。。。変わった苗字や。確か歴代の政治家に、海士部史郎っていう法務大臣がおったはずやけど」
全く予期していなかった切り出しに、俺は一瞬で頭がこんがらがって、口をアウアウと何回か空で動かした。どうして、篠宮先輩が俺の秘密を知っているのか?と思った後で、あっそうか、違う違う、これは俺の秘密と言うよりは、海士部史郎という公人の噂であって、俺が海士部史郎の噂の一部だから、先輩は海士部史郎の話がしたいのであって俺の話をしてる訳じゃない、だから篠宮先輩からその話題を切り出してきてもそれがイコール俺の秘密と結びついている訳ではないのだとか、その話題が出た理屈を少しでも整理し自分にすんなり落とし込むのに一瞬では時間が足りなかった。混乱する中で、そうだ篠宮先輩はあくまでも海士部という苗字が同じだという話しかしていない、何も暴かれてなどいないと自分に信じ込ませ、一瞬で絡まりもつれた頭の中は全く整理されていないままなのに、俺は海士部史郎と俺の繋がりを隠そうと必死に返答した。
「海士部史郎?!だ、誰ですかその人、ホウム。。。何ですか?アッ、ホームセキュリティー??家を守る大臣、いや、そんな訳ないですよね!俺、政治になんて全然詳しくないから~~、先輩は政治、詳しいんですかね?」
「政治家を目指しているからな。歴代の総理大臣の名前くらいは空で言える。法務大臣までは言えんけどな」
「そ、そうなんや~~、さすが、生徒会長ですね~~。あっ!先輩って、渡辺庶務長と仲良しなんですか?!日の出パンから帰りの車の中で、広報長がそう言うてはったから~~」
篠宮先輩の鋭くなっていた視線は、俺が慌てて喋る会話の途中で、徐々に柔らかく戻ってきていた。先輩はじっと俺の姿を見つめたまま、「ホノカか?ホノカは、幼馴染なんや」と答えた。渡辺庶務長の話を出した時に、生徒会長は視線も肩の張りも指先も、幾分力が抜けたように俺には見えた。なので俺は必死にこの話題を保つ事にした。
「俺と頼重、亀原君も幼馴染なんですよ、俺と頼重は幼稚園の時からですけど、篠宮先輩と渡辺先輩はいつからなんですか?」
「俺とホノカは小学からやな」
「渡辺先輩も、先輩と同じようにお育ちが良いお家なんです?」
「ホノカの両親は、少し特殊でな。市内の舞台設備関係の仕事をしとる。俺の母親が日舞の先生をしとるんやけど、舞台の関係で、親同士が馴染みなんもあるんや」
「そうなんやぁ~~。そう言えば、日の出パンの重役のおじさんも、先輩のお母さんの日舞が大好きやて、言うてはりましたもんねぇ!渡辺庶務長って、女子やけど、落ち着いててしっかりしてて、カッコええよなぁ。俺、先輩の下で動いてみて、もう尊敬してきてるんですよ」
「ホノカは、面倒見がええんや。それよりも、お前は政治家目指さへんのか?」
「えっ?!ど、どうして、意味が分からない、将来の夢は、俺まだ全然決めてないですけども??」
「そうか。。。もし六法全書買うんやったら、最新のを買えよ。民法、刑法は毎年改正されとるでな」
「は、はぁ。あっ、頼重、まだ帰ってこえへんのかなぁ~~。俺もそろそろ、クラスに戻ります~~」
「あぁ。俺は昼食はここでとっているから。何か提案があったら、来たらいい」
「分かりました、また来させてもらいます。先輩、お弁当美味しかったです、それから、学食問題も、色々有難うございます、ほなお邪魔しました~~」
俺はいそいそと手荷物を持ち、ソファーから立ち上がってドアに向かうと、頭を下げながらそう言って、ドアを閉めた後で心臓がドキドキとしていた。
そっと閉じたドアの前でしばらく心臓の高鳴りに動揺しながらその場に立ち止まると、ドアの向こうから、先輩のクックックッという笑い声が聞こえてくる。俺はやや速足になりかがら、生徒会準備室を後にした。
パタパタという輝航のスリッパの音が遠ざかっていくのを耳にしながら、篠宮は思い出し笑いで再びクックッと押し殺した笑い声をもらしていた。輝航の口にした言葉を思い出し、堪えきれず一人に戻った室内で一言呟いた後、口を大きく開けて軽快に笑った。
「ホーム・セキュリティー!あっハッハ!」
「あ、おかえり」
「おかえり~~」
「ヨリ、何で戻ってこんねん!途中で出くわすと思ったのに、教室戻っとるし!」
Cクラスまで戻ってみると、頼重は清水と一緒にパックのジュースのストローを口に咥えていた。
「飲み物買いに自販行った後で、また野球部の先輩に追っかけられてな。走って逃げるんに、生徒会準備室へ向かう気は起こらんかったわ」
「お前が戻ってくるまで待つつもりやったのに!俺、先輩と二人きりになって。。。」
「気まずかったやろ?俺でも二人にされたら困るわ、会長と何話したん?」
「ヨリ、あのな、生徒会長。。。」
俺はそう言いかけて、言葉をつぐんだ。教室には、清水や他の生徒達も居る。俺は頼重と清水の向かいの席に腰を下ろして、話題を切り替えた。
「清水、生徒会長が教えてくれたんやけど、俺のおにぎりの米な、もち米がちょっと混ざってるんやって」
「もち米入ってたら、美味しいん?」
「艶っとしてもちっとする、やったかな?先輩のお弁当、料理のプロの人がこさえてはるらしいんやけど、先輩のとこの白米に似とるって。やで、美味しいみたい」
「そうなんやぁ。俺はてっきり、美里さんの愛がつまっとるからやと」
「いや、テルのおにぎりが美味しいんは、美里さんの愛のせいやで。愛はジュエルより、全てを輝かすんやで」
「ナディア来た、お前も好きやな、さっきもヨリ同じこと言っとったわ」
「いーーぃまーーキーミーのーー目にぃーー」
「歌うな、歌うな」
「それ、完全にバレとるやん。ていうか、まんまと自白したな」
清水と分かれた後、頼重と帰り道の公園に立ち寄って、篠宮先輩と二人きりになった時の状況と会話を、頼重に話して聞かせた。頼重は思い悩んでいる体で、両腕を前で組み、眉をひそめた。「先輩の狙いは、何やろな」
「俺、先輩が海士部史郎の話持ち出してから二人で準備室の中におる間、ずっとドキドキしてて、誤魔化そうとして他の話題に振っても、何度も政治に話絡めてきはるし、切り上げるしかないと思って準備室の外に出てドア閉めたんやけど。その時、クックックッ、って、先輩の笑い声が聞こえて、何企んではるんやろって、怖くなってドキドキがもっと酷くなって」
「いつから、気付いてはったんやろな」
「仮入の時からやと思う。。。あの日、先輩俺だけ『海士部』って、名指しで呼びはった。あの時から既に先輩は、俺と海士部史郎に何か関連があるんじゃないかって、訝ってはったと思う。その次の執行部の活動日も、俺ずっと先輩から、鋭い視線向けられてるの感じてた。先輩のあの視線の理由、今になってやっと分かった。先輩俺が政治家になるって思い込んで、その上で俺をライバル視してはるんや。。。俺、政治家になる気なんて、毛頭無いのに。先輩の鋭い視線の理由は、だからほら、ヨリも言っとったやろ、『もう一人のオレ』ってやつ。海士部史郎の子孫で、なんかすごい権力と金持ってるっていう設定の、想像上のオレに対して、先輩は強烈なライバル視をしてはるんやわ。だけどそれは、噂話の中の俺であって、思い込みの情報で勝手に作られた海士部輝航であって、俺じゃないのに」
「どうやろな。篠宮先輩は、お前の生徒会での行動力目の当たりにして、お前がお前に対して見積もっとるほど軽くは、テルのこと軽視してはらへんのとちゃうかな。それに、お前はホンマに海士部史郎の子孫なんやで。お前がその事実を受け入れてなくても、お前が政治家の血を引いとる事も、莫大な遺産を相続する可能性があることも、噂話なんかやない、紛れもない事実なんやで。篠宮先輩のライバル視っていうのは、そういう意味ではあながち過大評価でも何でもないやろ」
「そんなん、困るわぁ!俺は政治家目指してないのに、勝手に敵視されるなんて!俺は篠宮先輩に、既に崇拝と好意しかないのに!」
「ほやけど、先輩がお前が出ていった後で笑ってはったんは、多分お前が予想外にボロ出して、あまりにも分かり易く慌てて、自白したんが面白かったんやと思うけど」
「俺かて、焦ってたんやて!先輩が全く用意してない所、突いてきたから!」
「語るに落ちる、ってやつ。『あ~~そうなんですか?』って、それ以上喋らんかったら良かったのに」
「後からは、何ぼでも言えるんやて」
「気がかりなんは、先輩の狙いやな。何の為に、テルにカマかけはったんか。単純な興味か、それとも他に理由が。言いふらしたりはしはらへんやろ、先輩はその辺の犬畜生とはちゃうで。弱みを握って、支配下に置く?う~~ん、何やろなぁ」
「俺と海士部史郎に血の繋がりがある事はバレてないよな、だけど俺が海士部史郎の事で何か知っとる、少なくとも海士部史郎っていう人物を、俺が知ってて、海士部史郎に対して俺が特別に意識してる事がある、っていうのは、バレてしまったけど」
「テルが自白したでな」
「そやけど!それはもう仕方がないとして。。。先輩は、何が知りたいんやろう。もし海士部史郎の子孫っていうのがホンマやって分かったら。。。未来の政治家のライバルを、今のうちに潰す、とかかな。。。」
「どのみち今は、分からへん。それよりも!篠宮会長と渡辺先輩、幼馴染て、やっぱり並々ならぬ関係やったんやな。俺、渡辺先輩のこと、好きになりかけてたのに。篠宮先輩が恋敵やったら、諦めるしかないわ」
「えっ、ヨリも?!俺も、渡辺先輩って、良いよなって思ってて。大人やし、頼りになるし、優しそうやし」
「テルは、Dクラスの女子やろ?この前、ちょっと声上ずってたやん」
「その子も、良い。アーケービーに普通にいてそうやんな。俺、ああいう普通っぽいけどちゃんと可愛い子、好きやわぁ」
「俺は、渡辺先輩、けっこうマジやったんやけどな。渡辺先輩も、会長のこと、絶対好きやん、何となくやけど。あーぁ、こんな形で初恋が終わるなんて」
それだけ言うと頼重はベンチから立ち上がって、「篠宮会長のことは心配しても仕方ないで、もう帰ろか」と言った。
「篠宮先輩やったら、悪いようにはしはらへんわ」
「そやな。。。俺も、そう思う」
家に帰り着き、食器を洗い終えてリビングでテレビを付けてしばらく見ていると、美里が帰って来た。俺はいつものように荷物を引き受けて、食材を冷蔵庫にしまい込むとリビングに戻った。夜ご飯を作りながら、美里が話しかけてきた。
「今日ねぇ、テルちゃんとこの高校に、朝、パンを卸すことになったから、っていう話があったのよ。テルちゃん、知ってる?」
俺は話が進んだんやと内心喜びながらも、言葉を選んで返答した。
「そうなん?、そう言えば清水が、これから学食の売店で新しく、パンを早朝に販売するって話、しとったような~~」
「そうそう、清水君!清水君がうちの本社の上の人達を、説得したんやって!ほやけど清水君、卓球部に入ったって、テルちゃん言ってなかったっけ?」
「生徒会はなぁ、他のクラブと兼任でも良いんやって。清水、頑張っとるんやん」
「セイ君、すごいねぇ、物腰が柔らかい、可愛らしい子やと思っとったけど。生徒会なんて責任ある仕事やる子やったんやなぁ。しかもうちの会社の大人を説得したなんて、すごい子やぁ」
「ほ、ほやんな?!うん、あいつホンマ、凄いよ!俺も、そう思うよ!」
俺は母さんが結果的には俺をべた褒めしていることで得意気になりながら声を躍らせた。そしてもし俺が生徒会に入ったと打ち明けていたとしても、こんな風に喜んだに違いないと思い、だったら最初から言っておけばよかったと後悔もした。そのうちに美里が「出来たで~~食べるよ~~」と言った。
「わぁ、肉じゃが?!」
「うん、肉じゃが、久しぶりに無性に食べたくなってね。テルも好きやろ?」
「めっちゃ好きやで。いただきます!」
「肉じゃがの前に、サラダを先に食べや」
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