c - Rakuten Inc
100万ポイント山分け!1日5回検索で1ポイントもらえる
>>
人気記事ランキング
ブログを作成
楽天市場
168093
ホーム
|
日記
|
プロフィール
【フォローする】
【ログイン】
DERICIOUS!
桜に仰ぐ 5
「うん?」
「さっきの話やけど、うちの高校にこれから富士日の出パンから朝、パンを卸しに来る時にな、母さんは、絶対に、絶対に絶対に、うちの高校、来んといてや」
「え?何で?」
「何でって。。。俺、恥ずかしいやん!もし母さんが学食に来たって分かったら、清水も頼重も、絶対に母さんに会おうとするで。俺、そうじゃなくても学校でマザコン認定されとるで、嫌なんやって。お願いやで、もし母さんがパンの搬入で行けって言われても、どんな理由付けてもいいから、断って欲しいねん」
「ええけど。。。お母さん、これからもっとテルちゃんに、邪険にされていくんかと思ったら、ホンマ悲しいわぁ。母一人子一人やって言うのに。テルはそんなに、お母さんが嫌なんや?」
美里がもの凄く悲しそうにそう言ったので、俺は適当な理由をこしらえた手前、言い淀んだ。しかしながらここで引くわけにはいかなかった、先生達が朝パンの管理を請け負ってくれるようになるまで、俺は執行部の皆と腕章を付けて販売にあたらないといけない。もし美里がうちの高校に搬入で来た場合に学食で美里と鉢合わせになって、俺が生徒会に入っていることが美里にバレてしまう。たとえ美里が子供の親離れが進んだと言って悲しい思いをしても、美里にうちの高校に来させる訳にはいかなかった。
「仕方ないやろ、俺だって、こうやって大人になっていくんや。米山先生も言うとった、大人は窮屈なものなんやって。母さんにも子離れして、俺と一緒に大人になってもらわんと」
「ひどい。。。お母さんの楽しみ、何も無くなってしまうやんか。。。テルちゃんが私から離れたら、私はもう、悲しいだけの生活になるのに。ああ、嫌や、子離れ、お母さん全力で、引き伸ばしてみせるわ」
「母さん!駄々こねる子供みたいな事、言わんで!お願いやから、うちの高校へのパンの搬入は、別の人に頼んで!ほやないと、俺、母さんと絶交して、それから一言も口聞かんでな」
「そこまで言われたら。。。分かった。パンの搬入、頼まれても他の人にやってもらうわ、それで、ええんやろ?」
「ありがとう、うん、お願いやで。今日、テレビ見ながら、肩もんだるから」
「じゃあこれから、出来るだけ毎日、肩もみしてくれる?きっとテルちゃん、今しかそんなんしてくれんやろから。。。」
「そんな事、無いて!肩くらい、母さんがヨボヨボになったって、ずっともんだるで!」
「そう?。。。ああ、悲しい。お母さん、子離れ出来る自信、全然あらへんわ。。。」
「まぁ、ボチボチな?母さん、肉じゃがめっちゃ美味しいで」
「良かった。うん、美味しいなぁ。この、甘こってりのジャガイモ」
「スプーンで汁ごとすくって、煮汁をたっぷり吸った柔らかいジャガイモと白いお米とグジャグジャに混ぜて食べるんも。。。あ!なぁ、うちのご飯って、ちょっともち米入っとるんか?」
「よう気付いたねぇ!うん、入っとるよ、ほんの少しやけどね」
「ささみ。。。詳しい先輩に、聞いたんやけど。やっぱり入っとるんや!先輩、凄いなぁ」
「よい舌してるんやね、その子。ササミ?うちの肉じゃがは、豚肉やで?」
俺は篠宮先輩の事を話題に出して、しまったと思った。言わんかったら良かった、篠宮っていう苗字だけで、先輩が良いとこの坊ちゃんやって感づかれてしまう、そしたら何でそんな子と面識あるんやって、生徒会と俺が紐付いてしまうやんか。
「あ、あーー、美味しかった。テレビでも見よっと。母さん、ほな後で、肩もんだるで」
「うん、お願い。何年ぶりやろなぁ、テルちゃんから肩たたきしてもらえるなんて」
俺は少しずつ、美里に対して嘘というか、話せない事が増えていくことを、心苦しく感じだしていた。こうやって、どんどんどんどん、それらしく捏造した嘘が、積み重なっていく。頼重は、いつか必ずバレると言っていた。だけどこうも思った、俺の始めた嘘は、美里が俺に海士部史郎の存在を隠しているせいなのであって、俺が悪いわけじゃない。俺は美里の方から、事の真相を話して欲しいんや、だからそれまでは、嘘をつき続ける、俺が生徒会に入った事を、隠し通してみせる。
俺は後ろ暗い気持ちを無理やりに心の奥に追いやった。
テレビを見ながらソファーに座る美里の後ろに立って、肩をトントンと叩いた。若く見えると思い込んでいた美里の頭髪に、白髪が混じっているのを発見する。俺が成長するのと同時進行で、美里も年を取っているのだ。俺は叩く手のスピードと力を加減しながら、「痛ない?丁度いい?」と尋ねた。
「うん、丁度いいよ」
「やっぱり、凝ってるんやなぁ」
「仕事が手作業やで、余計にね。まぁ、しゃあないよ」
首筋から肩までを、力を入れてもみながら尋ねた。「母さんて、意外とグルメなんやね?だって、もち米入れとるんちゃうかって教えてくれた先輩の家、料理人の人が食事用意してはるんよ。プロの料理人やで?海苔も、ええ海苔やって言うてはったわ」
「もち米入れるんはね、私の母。。。テルちゃんのおばあさんが、何でもこだわる人で。私は色々とやかましく厳しく、何するにしても律して教育されたんよ。。。」
「そうなんやぁ?俺って、おばあちゃんおったんやな」
突然、美里から美里の母親の話が出てきたので、俺は内心驚きながら話を続けた。
美里は首筋を揉まれるのが気持ち良いらしく、話す声もリラックスしていた。美里は緩い声色で答えた。
「当たり前やろ?そのうちに、話すけどね。テルは、高校生活、楽しいか?」
「楽しいで。今、めっちゃ楽しい、大変な事もあるけど」
「良かった。お母さんにとって、それが一番の望み。。。」
美里はそれだけ言うと、リラックスして眠たくなってしまったのか、たまに首をカクッと揺らして、船をこいでいた。俺は肩をもむのを止めて、「母さん、もう休んだら?」と促した。美里は「そうしようかなぁ。。。」と言いながら、そのままソファーに寝転がってしまった。
俺は美里の部屋から毛布を持ってきて、美里の上にかけた。朝起きた時に、美里は俺との会話を覚えているだろうか。
俺は美里の口からおばあさんの話を聞かされた事が意識の端に引っかかり、その日ベッドに潜り込んだ後も中々寝付けなかった。
次の日俺が学校へ登校すると、校舎を歩いている最中から、何やら生徒達の様子が騒がしかった。俺の隣を歩いていた女子がBクラスに入っていって、その子に他の女子が駆け寄って楽しそうに何やら話していた。
俺がCクラスに入ると清水だけでなく他の生徒達までもが、「あっ、海士部来たぞ!おい、朝パンって何やねん?!」と尋ねた。俺は昨日の生徒会長とのやり取りを思い出して、もう篠宮先輩が広報長に頼んで動いてくれたのかと驚いた。
俺より早く来ていた頼重が「テル、朝パンの情報、今朝掲示板で張り出されとるらしいぞ!」と興奮気味に言った。清水も目を輝かせて笑顔で俺に言った。
「俺、早く来てたから掲示板見に行ってみたんやけど、『朝パンの販売が始まります』、『日取りが決まり次第、内容は追って各クラスに配布します』ってそれだけ書かれた張り紙が、生徒会からのお知らせの所に貼ってあったで!」
「お前が来たら、一緒に見に行こうって思ってたのに!お前、いっつも遅いんやって!」
「マジか!篠宮先輩、仕事早っ!俺もこの目で見たい、けど今から職員室の前まで行って戻ったら、1限ヤバいもんな」
「次の休憩で、見に行ってみようぜ!」
「ヨリ、テンション高いな!」
「当たり前やろ、これで俺ら、昼休みの間の地獄から、解放されるやろし!」
「生徒達の間で、掲示板見たヤツから人から人に伝わって、今その話題で持ち切りやって!」
「おい、ヨリ。。。それって、俺らって。。。ヤバいやん!!」
「想像してたより、テンション上がるよな!朝パンの事で、全校生徒が騒いでんねんで?!」
「俺も、用意してなかったわ。。。ワックワクが、止まらないぜよ。。。」
「それって誰のつもりなん、坂本龍馬ってこと?」
「いやだからその、時代の革命児的なね、そういうイメージで」
俺がニヤ付きながら口ごもっている最中に、他の男子生徒が「なぁ、だから『朝パン』って何なん?!」と勢いづいて尋ねてきた。俺と頼重が生徒会執行部だということは、昼休み時間の騒動で知らない生徒は居ないくらい知れ渡っていた。俺と頼重は1限が始まるまで、朝パンの武勇伝をクラスの皆に聞かせながら得意気になっていた。
俺と頼重は結局、掲示板に張り出された掲示物の確認は昼休みに行く事にした。というのも、授業の合間の10分休憩の間中、朝パンの話を聞き出したいクラスメイトや、他のクラスの1年に俺と頼重で話をし続けたからだ。俺と頼重の話を聞いた他のクラスの奴らが、それをまた他の生徒へ、その日の休憩時間は学校中が突然その存在が明らかになった「朝パン」の噂話で、普段より騒がしくなっているようだった。
俺と頼重は清水と一緒に、腕章は付けずに学食の自販機まで出かけた後で、職員室を出てすぐ前の廊下の校舎側の壁のボードにある掲示板を確認しに行く事にした。クラスを出て学食まで、ビクつきキョロキョロしながら廊下を歩いていく最中も、生徒達は普段より賑やかそうにしている。自販機で頼重と清水がパックのジュースを買う間も、誰も俺達を襲ってこなかった。
俺はその時点でひとまず安心していて、頼重に「なんや、もう怖々廊下歩かんでも、大丈夫かもしらんなぁ?」と話を振った。頼重はストローを挿したジュースのパックを手に持ちながら、「生徒同士で、噂が独り歩きで広まって、そっちの話に夢中なんかもしらんな」と答えた。昨日までとは違う昼休み時の校舎内の様子に、頼重もホッとしているようだった。
「なぁ、早く掲示板見に行こ」
「せやな。行こか」
「待って。ほんなら俺も、学食の自販で初めて飲み物買ってみたい、記念に。どれがおススメとかある?」
「俺は、バナナミルクかな」
「いや、ミックスやろ!」
「分かった、苺ミルクにするわ」
「何で俺らに聞いたん?!」
「冗談やって。ほな、清水のおススメにする」
俺はそう言うと100円玉を自販機に入れて、ミックスジュースのボタンを押した。
ジュースのパックを取り出しながら、「今日くらい、贅沢してええはずやんな」と独り言のようにつぶやいた。水筒にお茶を持ってきているので、特別買う必要は無いんやけども。
3人で掲示板の前へと向かいながら、俺は清水にいつ言い出そうかと思案し続けていた話を切り出した。
「清水。。。最初に謝らせてくれ、すまん!実は、日の出パンの説得の時に、俺、清水の名前、使わせてもらってん」
「えっ、何で?!」
「美里が、日の出パンで働いとるやろ?もし俺が言い出した朝パンの企画がダメになった時に、美里が会社の中で立場が悪くなるんが怖くて、清水の名前、とっさに借りてん。執行部の先輩にも、だから俺が日の出パンの説得の時に、俺のこと清水って呼んでもらうようにした。朝パンの話が工場でも知れ渡って、だから美里は清水が朝パンの企画通すのに本社の人間説得した、清水が生徒会に入部しとる、って思っとる。清水に断りも無く、お前の名前借りてしまって、ゴメンな!」
俺はそれだけ一息に言うと、ようやくパックにストローを挿し込んだ。清水は少し困ったように笑うと、「俺、テルちゃんの役に立てたって事やろ?全然ええよ?」と言った。
「今まで黙っとってゴメン、ずっと言わな言わな、って思ってたんやけど」
「ううん、テルちゃん忙しそうやったし。俺、ちょっと寂しかったから。俺の知らんところで、俺がテルちゃんの生徒会活動に参加出来てたんやって、むしろ誇らしいかも」
「良かった。。。ゴメンな」
今まで、清水に黙って美里に清水の名前を使っていた事、生徒会でも使った事を、ずっと後ろめたく思っていた。俺はようやく清水に打ち明けられた反動もあって、清水おススメのミックスジュース(ミルク入り)をゴクゴクと喉を鳴らして飲んだ。その後で、「あっ、これ美味っ!」と言いながらパックを見た。清水は俺の様子を嬉しそうに見ると、「ほやろ?」と言った。しかしながら、やっぱり断りもなく名前を使ったのは良くなかったかなと思った、清水は少しテンションが下がってしまっている。しかし、俺にはまだ、たとえ清水が嫌がったとしても、どうしてもやってもらいたい事がある。俺は清水をまじまじと見ながら、さらに続けた。
「そんでな。。。これから、朝パンの販売あるやん?。。。清水、生徒会の朝パンの販売、手伝ってくれへん?」
「俺?俺が生徒会に混じってもええのん?」
「その場におってくれるだけでいいねん。。。美里が、日の出パンからのパンの搬入に、来るんちゃうかって俺は思ってて。美里が日の出パンから高校に朝パン卸すって話、夕食の時に持ち出してきた時に、俺、美里は絶対に搬入で来んといてくれって、強く言ったんやけど。。。そしたら美里が、子離れを全力で遅らせる、とか意気込んでる様子見てて。。。逆に、『来ちゃった(ハート)』とか言いながら来るような気がするんやって。その時に、清水に俺の仕事、代わって欲しいねん、腕章付けてその場におってくれるだけでいいから。俺は、二人の手伝いで販売に加わっとるって話にするで。朝パンの販売は、先生達の方で最終取り仕切ってくれるんやけど、それまでの短い間だけ、生徒会でやらんなんくて」
俺がそこまで清水に話すと、清水は真顔になり鼻息を荒くして、「やる」と短く一言だけ言った。その様子を黙って見ていた頼重が、清水に「何いきなりガッツいとんねん!」と突っ込んだ。
「朝一番で、これから毎朝、美里さんに会えるかもしれん、って事やろ。。。やる、というかむしろ、やらせてください。。。」
「よ、良かった。清水、困るやろなって、勝手に名前使った上に、一緒に朝パンの販売してくれなんて図々しすぎるよなって、言うのずっと躊躇ってたんやけど」
「生徒会の人達は、俺がテルちゃんの腕章付けて立ってても、何も言わはらへんよね?注意とかされるんやったら、困るんやけど」
「俺が説明するし、生徒会の先輩達は俺が清水の名前使わせてもらった事知っとるし、母親に内緒にしとる事も知っとるで、多分大丈夫。その時学食に、他の生徒も沢山いてるやろし。朝パンの搬入の車が来た時にだけ、腕章付けておってほしいんやけど」
「ええよ!どーーんと、任せてくれ!俺、毎日早起きして、学校来るよ、テルちゃん、いや、テルの為やったら。。。」
「出た、テルは俺の息子モード。。。」
「もしかしたら、来んかもしれんのやけど、それでもいい?」
「ええよ!俺、二人が生徒会でつるむようになって、仲間外れみたいで寂しかったで、むしろ混ざりたいわ」
3人で並んで歩きながらそこまで話をしたところで、職員室前の掲示板の前へたどり着いた。俺と頼重は清水が「ほら、コレこれ!」と言って指差した掲示物にじっと見入った。
俺と頼重はしばらく何も言わずにそれに見入っていた。頼重はポケットからスマート電話を取り出して、「俺、写真撮っとこ」と言って画面を何度か触った。俺もそれをまじまじと見て、ついに実現するんだと、胸を高鳴らせた。
清水が言ったように、朝パンの販売が決まった事と、販売開始の日付が決まり次第追ってクラスに配布するという短い文章だけが、A4サイズの紙の中央上部に書かれているだけの掲示物だったけれど。ここまでの、突発的に予想外に起こった数々の困難が、全て報われたんだという喜びに、俺は感極まっていた。ところがその時に、職員室の入り口とは反対側の廊下の向こうから、「おい!」と俺達に呼びかける声が響き渡って、俺は頼重と一緒に体を強張らせながらそちらを見た。
廊下の向こうで、俺と頼重に壁ドンで威嚇してきた野球部の先輩達が通路を塞いでいた。職員室が俺達の後ろにあるからか、先輩達はそれ以上近づいてこない。俺が「何ですか?!」と大き目の声で応えると、『素振り練習に付き合ってもらう』と俺達に言ってきた一番怖そうな先輩が、「『朝パン』って、お前らが進めたってホンマか」と尋ねてきた。
頼重が「そうですけど!」と答えた後で、「何か未だ、文句あるんですか?!」と付け加えた。先輩達は一定の距離を保ったまま、頼重の問いかけには答えずにこちらを見ていたかと思うと、背中を向けて俺達から離れていった。
「オオカミみたいやったな。何が言いたかったんやろ、やっぱ、怖っ!」
清水がそう言うと俺は頷いて、「何やったんやろな」と緊張しながら呟いた。
「自分らぁで、噂話の確認しに来たんやろ。俺ら二人が進めたって、俺らの武勇伝が3年の先輩のとこまで伝わっとる証拠や」
頼重がそう言うと、俺と清水は頷いて、「噂話って、携帯電話より広まるん早いな」「いや、携帯の方が断然早いて」と内緒話のように小さな声で囁き合った。俺達は廊下にまた先輩達が現れるんじゃないかと怖がりながら、掲示板を後にしクラスまで戻った。
戻る途中、残りのミックスジュースを吸い上げながら、俺はパックをまじまじと見て言った。
「俺、こんな美味いもの知ってしまったら、これから食後にお前らと一緒になって毎日ジュース買ってしまいそうで、怖いわぁ」
「次は、バナナジュースにしてみ?絶対そっちの方が美味いってなるで」
「いや!ミックス一択やろ、バナナは確かに美味いけど、たまにでいい!」
「俺は、もしまた買うとしたら、次こそは苺ミルクにしよっと。だけどなるべく、お茶で我慢して」
「なぁ、聞いていい?テルちゃんってお小遣い、幾らもらってんのん?マクド行く時も、ちょっと気になってたんやけど。聞き辛くて流してたんやけど」
「俺?俺は、一万五千円」
「何やて?!俺より多いやん!やったらジュースくらい、しぶらんでもええやん!」
「美里がな。。。昼食代に毎日、五百円渡してるっていう計算で、一月が三十日、それをおにぎりで満足してくれたら、五百円×三十日で、一万五千円渡す、って言うから。頼重はだって、五百円くらい昼飯代に、親から貰ってんやろ?」
「俺は、千円やけど」
「やったら、俺の方が少ないやん」
「いや、俺が一番少ない!俺お弁当作ってもらってるけど、五百円貰ってない!俺はお小遣い、月、三千円なんやけど!勘違いやったんか、沢山貰ってるって、思ってた!俺、おカンに抗議する!」
「多分その弁当が、千円の計算なんとちゃうか?」
「そんな馬鹿な!俺なんや、今、めっちゃショック。。。」
「実は俺もな、高校入学してから毎月一万五千円くれるって、めっちゃ多いやんって、思ったんやけど。お金の使い方を、自分で考えて欲しいって。失敗も、したら良いって。お金って、人の心を買えてしまう怖い物でもあるけど、お金が無いと何も始められないのは本当やから、自分で考えて上手に使えるようになって欲しいって、美里は言ってた。だから自分で加減して、使うようにはしてるんやけど。一日百円でも、毎日使ったら三千円も減るって考えたら、勿体なくて。俺、多分貧乏性なんやん」
「慣れると、普通なんやけどなぁ。俺は食後は絶対、飲まないと、逆にストレス溜まるわ」
「俺も~~、やけどちょっと、見習おうかな、テルちゃんの節約術」
「多分、無理やで」
「ヨリ、言わんとって~~、俺も言いながら、無理やろなって思うし」
「ほやけど、毎日ジュース飲んで三千円飛ぶやん、清水欲しいものあったら、どうしてんねん」
「俺は、『これが欲しい』って親に言って、そしたら買ってくれたり断られたり」
「なるほど」
教室に戻ると、朝パンの噂話をもっと詳しく聞きたいと、他のクラスの一年が楽しそうに俺達に集まって来た。その日は一日、学校中が朝パンの話題で持ち切りで、生徒達は何か新しい事が始まったというワクワクを互いに共有したがっているように見えた。
俺と頼重は帰りに二人になった後で、ひとしきり朝パンが実現しかけている現状を称え合っていたのだけれど、清水の話になった時に、頼重が「ほんでも、清水には後ろめたいよなぁ、未だ隠してる事、あるし」と呟いた。俺はそれまでのテンションを落として、頷いた。
「清水の名前借りた理由を、本人が納得してくれたんは、助かったけど。海士部史郎っていう決定的な秘密を明かせんせいで、何となく全部がつじつま合わせの嘘みたいになってしまってるのが、どうにも歯がゆくて、ホンマに心苦しくて」
「清水が納得してくれたんは、美里さんのおかげでもあるけど、嘘付かんなんのは美里さんのせいでもあり。複雑やな。だけど、仕方ないやろ、悩んだって隠し続けるしかないんやで、割り切らんと。それよりも美里さん、やっぱりお前に金の使い方、勉強して欲しいんやな、これから手に入れる大金を、使いこなせるようになる為の最初のステップとして」
「だけど、金額にしてみたらヨリの方が多いやん!」
「いや、多くないって。だってお前のおにぎりの代金は五百円の内訳に入ってない。俺は確かに千円貰っとるけど、コンビニで飲み物と食べ物買ったら、千円弱くらい行くし。お前はご飯にプラスアルファーで、全然使わんかったら、毎月一万五千円溜まるんやで?俺より多いやろ」
「美里の考えは、俺には分からん。俺は美里の子供やけど、美里じゃない。親子であったって、別人やで、当たり前やけど。だから美里が何を俺に隠してて、その上で何を望んでるのか、言ってもらわん限りは、俺には何も分からない。だけど俺かて、友達とマクド行く楽しみとか、削りたくない大事な楽しみだってあるから。上手に使いたいな、とは思うけど」
「美里さんがお前に何を望んでるかなんて、悩んでもしゃーないって、割り切るのにも慣れようぜ、悩んだって、今はどのみちどうにもならんのやで。それよりも、お前の昼ご飯のおにぎりは、プライスレスなんやで。。。それは美里さんの愛やろ、五百円以上の価値、いや、金なんて関係ない、言わば、プライスレス。。。一個一万円でも、安いって感じる人にとっては、安い。俺が逆に、お前から五百円でおにぎり売ってもらえるって言われたら、俺買うのになぁ」
「そんな大層なもんとちゃうよ!だって昨日の夜のおかずと、朝食に作ったおかずが、米の中に入って海苔まいて握ってあるってだけやで?お前らホンマ、美里が好きよなぁ。清水のお弁当の方が、よっぽど手が込んどるって思うし。愛って、それぞれやと思うし、結局金じゃない。それぞれ親から、得難いモノを、受け取ってるんやて。お金には換算出来ない、大事な沢山のものを。自分が受け取ってるものは、無いものみたいに、ゼロ円みたいに思ってるけど、ヨリから見た俺のおにぎり以外のもの、もしもそれぞれが与えてもらってる全部に、金額が付いてたら良いのになぁ。そしたらそれも、プライスレスで出るはずなんやて」
「俺が親にコンビニでええよって言ったら、ホンマにそうなった手前、手作りのおにぎり、羨ましいんかもなぁ、ましてや、美里さんが握っとるってなったら。美里さんがテルを、大事にしてはるん、知っとるで余計やわ」
「頼重は昼飯じゃない別の形で、愛を受け取ってるってだけやろ。親がどんな親であっても、子供にとって替えは、おらへんのやわ」
「それはまぁ、そうかもな。やけどもし、俺が買ったサンドイッチとかパンとか、おにぎりとかとお前のおにぎり交換してくれ、って言ったらしてくれるか?」
「いや。。。俺は、おにぎりが食べ慣れとるし。。。かと言ってコンビニのおにぎりって、米があんまり美味ないし。。。たまにやったら、良いけど。。。」
「お前、知らん間に舌肥えさせられとるんやって。じゃあ、明日から一個で良いで、おにぎりと交換してくれ!一番高いのと交換で、良いで!」
「い。。。やっぱ、嫌!そんなに、欲しがられると!」
「何でやぁ!毎日じゃなくて、たまにで良いんやって!俺にも美里の愛を、分けてくれぇ!」
「イヤ、嫌!」
家に帰り着くと、俺より早く美里が帰って来ていて夕飯の支度をしていた。俺は、今日は早番の日やったんやんな、朝、俺が起きた時には家出てたしと思いながら、「ただいまぁ、今日、何するん?」と尋ねた。
「今日は、コロッケにするよ。一つは昨日の肉じゃがの残りと合わせて、肉じゃがコロッケ味。後は、カレー風味とか、色々。。。」
美里はそう俺に返しながらも、茹で上がったジャガイモをボールの中で潰していた。俺は自分の部屋に戻り、普段着に着替えた後、美里の隣で食器を洗う事にした。
こういう日が、要注意なんや。俺は美里の隣で、ちらりと美里を盗み見た。朝パンの販売に美里が搬入で来るとしたら、美里が早番の仕事の日やと目星をつけた。早番でない日は美里は俺より早く起きて、朝食を出したりおにぎりを握ったりしているけど、早番の日はテーブルに朝食とおにぎりの入った巾着袋が置いてあって、美里は既に家を出ている。パン屋の朝は、早いのだ。少なくとも美里が朝起きた時に居る日は、美里が朝パンの販売に来ることは無いだろうと考えながら、俺は食器を洗った。
「有難う」
「うん。俺も、コロッケ手伝おうか?」
「いいよ。料理は私がやるで、テルちゃんはテレビ見たり、本読んだり、勉強してくれててもいいけど」
「あ、じゃあ、テレビにしよっかなぁ~~」
「はいはい。明日の天気、見てくれる?」
「ええよ~~」
俺はテレビを付けると夕方のニュースのチャンネルに切り替えてそれを見た。今になって思うと、美里が俺に天気の確認をさせるのはつまり、毎日のニュースを知らぬ間に俺が見るように仕向けていたのだ。俺と海士部史郎との繋がりを知るまでは、何とも思っていなかったけれど。
テレビ画面では収束しないシリア紛争の様子を取り上げていた。俺はそれを見ながら、「何で、戦争って無くならへんのやろ。戦争なんて、ぶっ壊すだけ、無駄なだけやのに」と美里に聞こえるように言った。美里は黙々と、コロッケを作っている。俺は続けた。
「だって、おかしいやん。戦争って、終戦後に犯罪って事に、なったんじゃないの?日本だのイギリスだのの色々な国のトップって戦争犯罪人として裁かれて、絞首刑になったんやんな?そやのになんで、戦争って未だに続いてるんやろ」
キッチンから、揚げ物中の油の、ピチピチという音が聞こえている。美里はそれでも返答はせずに、コロッケを揚げていた。
「明日、晴れやって!」
俺がそう言うと、「良かった!洗濯物乾くし」と返事が返ってきた。どうやら聞こえてはいるらしかった。
「出来たよ~~、食べよ~~!」
俺はテレビを付けたまま久々の揚げたてコロッケに胸を躍らせ、キッチンの方へ向かった。
「美味しい~~、サックサク、揚げたてコロッケ最高!」
「良かった、そんなに美味しそうに食べてくれたら、作った甲斐があるわ」
黄金色の小判型を、一口また一口と頬張って、俺は嬉しくなった。食べるというのは純粋で原始的な喜びなのだ。コロッケを一口食べては、アツアツの白い米を頬張る。肉じゃがの残り汁と僅かな具材が混ざったコロッケは、とんかつソースを付けなくてもそのままで美味しい。
俺が食べるのに夢中になっていると、美里は「戦争っていうのは、目に見えとるだけでは、ないんやで?」と独り言のように言った。俺は、「母さん、前もそう言っとったな、戦争は終わってないって」と口を動かしながら返した。
「目に見える形の戦争。。。決して、先進国では起こってないやろ。街中土埃が舞うような、発展途上の国で起こってる。やけどどうやってそんな貧しい国が、拳銃だの爆弾だの、手に入れる?売りさばいて金にしとる国が、あるっていう事や、戦争が起っとらんと金も権力も保持出来んっていう国が。戦争が起こる理由は、結局金や。金と、権力。戦争っていうのは、弱い国と強い国が起こしとんや、それは病人と医者の関係に似とる」
「病人と医者?」
「戦争が国の資金源になっとる国ってどこか、分かるか?世界で一番強い国や」
「アメリカってこと?」
「そうや、メリケンや。病人がおらんと、医者の存在意義がないのと一緒で、世界で戦争が起こり続けてないとワールドポリスとしてのメリケンの存在意義も薄れるやろ。メリケンが、権力を握っとるっていうのは、確かに世界の平和維持の為に役立っとるで。ほやけども、世界が全くの平和になってしまったら、存在意義だって無くなるんや。やけどな、世界が完全に平和になるなんて、結局はあり得へん。国同士で条約結んでも、平気で破ってくる国もあるでな。どの国の歴史見たって、より強い権力がより多くを保持する為に戦いを起こしてきた。ポツダム宣言後の世界が平和を保ってるようにいくら見えても、どの国も領土を広げて多くを勝ち取りたい、侵略戦争は、目に見えない形で未だに続いとるんや。その見張り役としてのワールドポリスは、だから必要や。役割を担っとるんが、合理主義のメリケンやって良かったと思うわ、中国やったら世界無茶苦茶になっとったやろでな」
「犯罪がこの世界から根絶したら、警察だって要らんようになる、っていうのと一緒か」
「そうやね。病人がおらんかったら、医者も要らない。犯罪も病気も、根絶するって事はない。。。やけど、ほんの少ししかおらん、ってなったら、犯罪も病気も、ミイラ取りがミイラに、そいつらがばら撒くっていう事や、自分らの権利と、金の為に。そしてな。。。人間の果ての無い権力と金と欲の、一番根底にある動力が、宗教、あるいは思想なんや。宗教って、各々の神は誰か、っていう話やな。何を信じるか、何が本当か。宗教なんて、有って無いような精神領域の問題が、人類のあらゆる動力の根源にあるんや。だから世界の歴史、社会の動きを学び理解していくのに、宗教と哲学は人間の動向のベースとして、網羅しておかんとあかん」
美里はそこまで話した後で、はっと我に返ったように笑顔になって「そやけどテルには、あんまり関係無かったな」と言った。そしてコロッケを口に含み、「揚げたてのコロッケの、ホクホクのジャガイモ!」と言いながら食事に集中し始めた。
「宗教って、不思議よな。日本の宗教って言うたら、仏教?」
俺が切り出すと、美里は口の中に入っていたものを飲み込んで、お茶を飲んだ後、何となく話し続けたくなさそうに答えた。
「日本は今、チャンポン宗教やろ。。。10月はハロウィン、12月はクリスマスのお祝いして、正月は神社にお参りする。何でか分かるか、日本は終戦後に、現人神の天皇様が人間宣言で人間に降格させられて、日本国の神を失ったんや。それまでは日本人は天皇家を、正真正銘の神やと信じとった。今となってはもはや、天皇様を神やなんて思う日本人はおらんやろ、そういう教育を受けとる。メリケンの草案を元に成立した日本国憲法、教育方針、日本は実質、メリケンの属国や。幸いやったんは、メリケンが世界でもマトモな国で、日本国憲法はマトモな憲法やで、これで良いって日本が自発的に受け入れられたっていうとこやな。。。テルちゃんも、一般教養として知っといた方がいい事ではある、神を失うっていう事は、国の軸を失う事や。日本は今神を失って、周辺国のもくろみ通りの洗脳を、浴びるように受け続けとる。それはテレビであり、新聞であり。マスメディアの中に、日本を諸外国にとって都合の良いだけの国にしようと企む赤側の奴らが、潜んどるんや。だからテルちゃんは、テレビを見る時、ただ見るんじゃない、『自分の目で見る』んやで。自分の頭働かせて、自分の目で見て、彼らが何を意図しとるか、見抜いて、見張るんや。情報はそもそも、洗脳やで。誰もが自分達に都合の良いように、洗脳を仕掛けてくる、やけどもそれを、正しく読み取るんや。それが自分の頭で、目で見るっていうこと」
美里は食事を続けながら、自分に納得させるように何度か頷いた後で続けた。
「天皇家こそ、日本の歴史や。天皇様は、悠長な事やってないで、今からでも遅くないから、若い側室何人でも迎えて、男の子産ませんとあかんのやって」
美里は思い出したように俺の方をパッと見て、「私、要らん事喋ったわ」とモグモグと咀嚼している口元を手で隠した。俺も口を動かしながら、「侵略って、何でやってくるんやろな。だって侵略って、他の国の歴史や、文化を、消滅さして、自分らの国と一緒にする、って事やんな。それって、めっちゃつまらん、って思わんのかな。例えばやで、このコロッケかって」
俺はそう言いながら、揚げたてのコロッケを箸で持ち上げてしばらく見つめた。
「コロッケが侵略されて、消滅したらやで?俺、嫌やわ、コロッケが食べられんようになるなんて、こんなに美味しい物が。から揚げもそうやし、カレーも。カレーでしか楽しめない味が、侵略されたら、消滅するなんて。戦争って、普通に考えたら、だから無駄なだけやし、無益なだけやとしか、思えんのやけどなぁ。ロシアはボルシチやろ?中国は肉まんとか点心、アメリカはハンバーガーやろ、日本は寿司。。。お互いの良さを残した方が、自分も色々美味しく味わえて、嬉しいはずなんやけどなぁ」
美里は今度は、俺の方を向いてうんうんと頷いた。そして、「互いの存在価値を、認め合い、かつ守る、っていう事やな、それが相手の為だけやなくて、自分の為にもなる。それが本当に実現出来たら、きっと世界は平和になる。。。テルちゃん、良い所付いとるわ」と嬉しそうに言った。けれどその後、美里は表情を曇らせて、「やけど、出来んのや、未だに。出来てない、だから、戦争は終わってない」と付け加えた。
「自分の存在価値に、自分で満足出来ん奴らが、他人から盗るっていう手段を選ぶんや。。。どこの国でも、おんなじ事、やっとる。持たざる者が、持つ者から盗る。持つ者は守り、持たざる者は攻撃し続ける。持つ者は右翼、持たざる者は左翼や。。。自分で自分の価値を生み出す事が出来んからって、それを他人のせいにしたり、他人から盗ったり、それを神のせいにする。大抵の持たざる者の集団は、無神論者や。自分達の人生の不満を、自分では解決出来んから盗るようそそのかす、弱者が弱者をそそのかして、数で勝ろうとするんや、それが左翼」
「それって。。。商業組合と労働者階級の闘い、とかいうやつ?」
「うん?」
「最近読んだ本で。。。あっ、何でもない!」
俺は慌てて、残りのご飯を口に詰め込んで口の中を一杯にした。一緒に、お味噌汁を口に含む。思わず、『誰がために鐘は鳴る』の話の内容を思い出して口からポロっと出してしまったのだ。俺が長い間飲み込まないように口を動かして黙っていると、美里は「フランス革命の事か?そうやで、合っとる。階級制度に対する平民の暴動やな。。。やけど、階級制度なんてない、資本主義国家の日本ですら、それは起こっとるって事や。。。赤の連中が平の市民たきつけて、日本に中韓のモラルを植え付けてきとる。日本は戦後、少しずつ少しずつ、低俗になってきとる。何が怖いって、赤の奴らには、守る物が無い。だから壊す事をいとわない。尊ぶべき命なんて無いで、平気で捨てるし奪う。守る物があって命を懸けた日本の特攻隊とは、似て全く非なる者や。やけど、いずれにせよ、「国家を守る為に命がけの社会」になんて、したらあかんのや。「誰もが守られる社会」にせんとあかん、それは身分が高かろうと低かろうと。だけど、下の奴らは盗ろうとする、攻撃をしかけてくる、それをするのが当然だと、自分達弱者は権力社会の被害者だと。労働者階級の奴らの主張は一貫してる、自分達にトップは要らない。。。彼らは、自分達より上の存在を消滅させる事で自分達が幸せになれると考えた。そういう国家の見本は韓国に実現されとる、あの国が、幸せになんて見えるか?自分達の不具合は全て、優れた存在のせいやと考える、国民モラルが低いだけの国が。整形の何が悪い、歴史修正の何が悪い、悪いのは悪いと思うモラルのせいやって。日本が何で他の国より幸せか、国民モラルが高いからや。一般的な知能レベルや、技術に対する探究心と完成度の標準レベルが高い。韓国、あるいは有能な統治者が育たない国はどうか、上司を殺し、親を殺し、大統領を刑務所に入れ、神を殺す、低いレベルで留まる事を自由とした国が、自分達以上に有能な他国を下げるしかない、迫害しかやる事ない、そのくせ『自分達は被害者』やと喚き散らす、その実、自分達は努力せず技術の向上にも貢献せず、持っとるヤツから奪いとるっていう加害者のくせに。世界的に見ても最低の国やろ、そんな国とは向き合うだけ損や。『結局、平和な社会を実現する為には、上の奴らが下の奴らをコントロールするしかない。上のレベルを上げる事でしか、下の奴らの生活レベルを上げる事は出来ない。だから争いや犯罪を極力防ぎながら、下の奴らまで安心して暮らせる国家を創造する為には、保守政権が実権を握るしかない』」
美里はそこまで言ってから、「これは。。。私が幼い時に、母からよく聞かされた話なんやけどね」と、どこか虚ろで、悲し気な表情で付け加えた。
俺は少し考えてから、「ほやけど。。。俺にも、揃ってて欲しいモノが揃わずに、それでも生きていかなあかんかった人達の気持ち、分かるで。。。だって俺、お父さんていうのがおらんし」と何気なく言ってしまった。はっと顔を上げて見た美里の表情を前に、俺は俺がこれまで犯したどんな間違いよりも、罪深い事をしたんやという気持ちが瞬時に沸いた。
美里は持っていた箸を少し米の残った碗の上に揃えて、「ごめん、お母さん揚げ物沢山して、ちょっと油酔いしたみたいや、しばらく横になるわ」と言うと俺の方を見ずに立ち上がった。そしてそのまま、美里の部屋へ入っていってしまった。
俺はやってしまったと思いながら、美里の残していった食べかけのコロッケを見つめていた。自分の分は食べ終えて、美里の食べ残しを一つのお皿に寄せてラップをかけると、俺も自分の部屋に戻った。
「テルちゃん、最低や。。。テルちゃんは最低の息子やで!!女手一つの美里さんに、大事に育ててもらっといて。。。俺が、美里さんの代わりに、テルちゃんに天誅下す!!」
次の日の昼食時に、昨日俺が美里にやらかしてしまった失言のことを話すと、清水はわなわなと震えながら、突然立ち上がって、両手で俺の顔を思いっきり挟むように平手打ちにした。俺は耳をつんざくようなパチーーンという音と、目の玉飛び出るくらいの両頬の痛みに驚いて、反射的に「痛ったぁーーー!!」と叫んだ。
「美里さん、朝はどんな様子やった?」
頼重が尋ねたので、俺は両頬を両手でさすりながら「無言やった。。。俺も、何言っても泣かしそうで、逆に何も言えんかった」と答えた。
「これを、お前が食べる、権利は無い」
頼重はそう言うと、開いた巾着の上にあったもう一個のおにぎりを、サッと取って立ち上がり、少し離れたかと思うとラップをむいて、もの凄いスピードで食べ干した。
「あっ、俺の、コロッケおにぎり!」
「もち、あっむ、まい!れっして、しかっし、うむぅ」
「な、何やて?」
「お前!絶対俺のおにぎり食べたかったってだけやろ!」
「うむ。。。非常に、美味かった。代わりに俺のパンを、やる」
「何でちょっと片言やねん」
「許さへん。。。おにぎり一個くらいで、俺はテルちゃんのこと、許さへんよ!!」
俺は水筒からお茶を注ぎながら、「違うんやって。。。言葉が、足りんかった。確かに俺に、父親っていうのがおらんで、劣等感とか悲しさとか、感じながら生きてきたんもホンマやで。そやけど、そのせいで誰かを傷つけても当然やとか、グレて社会からはみ出ようとしたり、非行に走ったりせんで育ってきたんは、美里が十分な愛を与えてくれたからや、有難うって、続けたかったのに。美里が部屋に入ってしまったから、言えんままになってしまって」と渋々言った。
「だけど、どうしたら良くしていけるんやろか、っていうのは、考えんなん事なんやろうなって、困ってる人が、いてるんやったら。自分にとっての自分、生まれた環境、親、全部、本人には選べんもんやで。たまたま良かった人間は、生まれた事を、問題にすら思わんでどんどん育っていける。そやけど、そうじゃない人間だって、世界には沢山いてはって。生まれた国のモラルなんて、自分一人で明日までに変えられるようなモノじゃない。。。何も選べない状態で、気が付いたら自分が始まってて、産み落とされてて。だけど俺が思うんは、結局は受け入れるしかないし、受け入れた上で、前進するしかないやろ、っていう。嘘で作ったり、あるって思い込むっていうのは現実逃避でしかないけど、それをせずには生きていけないっていう人もいるかもしれなくて。それがドラッグとか、犯罪に手を染めたり、っていう事に繋がっていくわけで。でもそれだって、イメージでしかないのに、って。部屋に戻ってベッドに寝転がった時に、色々と考えてしまった」
「俺は、ほっといたら良いと思うけど。困りごとなんて、誰にだってあるんやし。そいつらが、不幸かどうかなんて分からんし」
「ああ、ヨリ、マジそれな。俺が片親ですって、大人に言う時いっつも思うんは、『勝手に可哀想がってくれるなよ』って、米山先生の時も、そうやったけど。片親やから、イコール可哀想っていうレッテルがな、悲しいっていう気持ちは無い訳じゃないけど、正直関係ないよって。両親揃ってても、悪い事したがるヤツはおるやろし。可哀想がられると、マウントとられたみたいで、余計腹立つっていうか。勝手に上やとか下やとか、余計なお世話やって、レッテルの方が、かなんのやって。俺が美里の話聞いてて思ったんは、勝手にレッテル貼るのって、違うよなって。傷つけたかったんやなくて、俺かて、片親っていうレッテルで嫌な思いもしてきたけど、俺はだからって自暴自棄になるほど悩んだ事もないし、実際は美里と二人の生活でも、幸せやで、って。それが言いたかったんやけど。。。」
「それは何か、俺らが両親揃ってても、『美里が母親の俺の方が幸せ』っていう、自慢か」
「いっ?!言ってない!ひがみが過ぎる、俺は上とか下とかいうのはイメージでしかない、案外皆与えられたモノで楽しく生きとるんじゃないかって!」
「俺も天誅に加わる、清水、俺が脇抑え込むから、お前はテルのパイを揉め」
「イエス・サー!」
「おい、止めろ、やっ、止めて、ダメやって、あっ!あっ、かんっ、て!」
「ボッキするまで揉みしだけ」
「アイアイサー!!」
「いや、こしょばい、こしょばいだけやから!!」
「美里さんがお前から受けた悲痛は、こんなもんやないんやーーー!!」
「ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい!あひゃひゃ!あぁ!」
「生徒会執行部員の方々へ、連絡です。。。本日の放課後、不定期会議の為、生徒会執行部の皆さんは、生徒会室に、集合してください。。。繰り返します、本日の放課後。。。」
「来た!来たぞ、テル!!」
頼重はそう言うと、俺の両脇をがっしりと抱え込んでいた力を緩めた。俺は涙目になりながら、「天の助け。。。」と弱々しい声で言った。
「野郎どもから、何回も胸揉みしだかれるなんて、トラウマになりそう」
「こんな事言ったら、避けられてしまうかもやけど。。。俺が、立ちそうになったわ」
「清水はそっちの気あるって、ちょっと思ってたけどな」
「いや、美里さんのパイやって思いながら揉んだら」
「いくら何でも、そんなペタンコとちゃうやろ」
「清水、キモいわ。。。見て俺の涙目」
「それよりもテル、朝パンの販売、来るぞ。実際の販売はいつからやろな、ああーー、ワクワクしてきた」
「俺も、生徒会入っといたらよかったわぁ、楽しそう」
「今日の放課後か。。。緊張も、するけど」
「5、6限の授業、頭入らんやろなぁ」
俺と頼重が6限後直ぐに生徒会室に向かったにも関わらず、前後のドアが開いたままの生徒会室には、各トップの先輩達が既に教卓前に集まって何事か話し合っていて、その慌ただしそうな様子に教室へ入っていった部員たちはやや駆け足になりながら、机を会議用のロの字に並べ直すのに加わった。俺と頼重も、生徒会室内にいる執行部員達の姿が目に入るやいなや、未だ片付いていない机と椅子へ駆け寄って移動させた。
教卓前には議長と生徒会長、副会長の二人、会計長、広報長、そして庶務長の渡辺先輩、日の出パン本社へ向かった先輩達が集合して、真剣な表情で会話を続けている。前の入り口から庶務係2年の先輩がプリントの束を持って入ってくると、渡辺先輩は顔を合わせて何事か笑顔で呟いた。2年の先輩は急ぎ足でそれを1年の座る後ろの机の上に並べると、周囲に目を配らせた。「庶務ーー!」
俺も頼重も先輩の方に駆け寄った。他の庶務も寄ってきて、先輩は「海士部君の前が一枚目、亀原君が二枚目で。。。」と説明し、俺達は一枚ずつ右側に手渡しながら、5枚一揃いの冊子を、端のホチキス係まで手渡しで送る作業を黙々と続けた。今日は臨時の会議である事に加え、今年の生徒会執行部初めての大きな企画だからという理由もあるだろう、皆新鮮な緊張感に背中を押されながら、慌ただしくも慎重に作業を進めた。角を留められたプリントの束は流れるように他の部員達によって四角く並んだテーブルの一つ一つに向きを揃えて並べられていった。
会議用の机とプリントの配置が終わると、一年と二年の庶務部員達はそれぞれ席についた。
庶務以外の2年の先輩は既に席に着いていて、配ったプリントを手に取り静かに読んでいた。俺達庶務も席に着くと流れ作業で作った小冊子を各々手に取り始めた。
俺はドキドキしながら「『朝パン』販売における規約について」と表題が書かれた一枚目のプリントを正面からまじまじと見つめ、充実感にひとしきり浸った後で次のページをめくった。
チラッと教卓の方にいる各トップの先輩達に目をやると、先輩達はまだ話し合っている。今日は米山先生が未だ来ていなかった。先輩達は先生が来るのを待っていて、それまで出来るだけ打ち合わせをしておくつもりなのかもしれない。
俺は先輩達の様子も気にしながら、二枚目のページに目を通した。
二枚目には朝パンの販売が正式に決定したこと、富士日の出パンから送られてきた契約書などの書類に校長先生直々の判が押されて、日の出パン、高校両側共に承諾が既に得られていること、これらの内容を次の一斉ホームルームで全校生徒会員に告知し、アンケートを取り直した後で、次の週頭の月曜日、朝パンの販売を開始する、販売時間は朝8時15分から45分まで、という旨の事が書かれていた。
3枚目は高校と富士日の出パンとの間で交わされた契約書のコピーで、そこには日の出パン側は卸すだけで販売には関わらない事、パンの搬入時刻等、パンの梱包仕様、日の出パンとの話し合いの席でトップのおじさんが俺達に言った事等が書かれていて、文章の最後には校長の名前と、日の出パン取締役の印鑑がそれぞれ押されていた。
本格的な企業との契約書を目の当たりにして興奮しながら、次の4ページをめくると、俺と頼重、それから庶務の皆にも意見をつのって修正した、ネコちゃんのイラスト入りのアンケートが綴られていた。そして次のページに、朝パン販売時の生徒会執行部の動きが羅列されていて、朝8時には遅くとも販売担当になった部員が集合していること、販売部員の人数は少なくとも4名、内一名は会計係、売り上げはノートに記録し、会計が集計すること、初日の販売個数は100個で、初日の売れ行きに応じて次の日から個数変更有、販売場所は学食の入り口前、学食内の長テーブルを2台移動して、2名が販売、1名がお金の管理、1名が後方でパンの補充と管理、8時45分になったら強制的に販売を停止し、1限目の授業に遅刻しないように、と書かれていた。
俺はその小冊子を、何度も何度も読み返して、具体的に動き出した充実感に浸っていた。自然と顔がニヤついてしまう。庶務長の渡辺先輩も、忙しそうなのに笑顔だったのはきっと俺と一緒で、今日の不定期会議がただの面倒ではなく、心から楽しみだからに違いない、俺はそう思いながら冊子をテーブルに置いた。
皆が席に着き、それぞれに冊子を見終えても米山先生は来ないままだった。生徒会長は各トップに頷いて席に着かせ、全員がロの字の机の各々の席に着くと、生徒会長は立ち上がったまま、「起立」と声を張り上げた。ガタガタと椅子の動く音が教室内に響き渡る。
「礼。これより、生徒会執行部、第三回会議を開始する。着席」
生徒会長は腕時計をちらりと確認した後で、机を囲んで座っている執行部員達が全員揃っている事をぐるりと見渡した後、一度頷いた。
「ここ数日の間、学校内が『朝パン』の事で浮足立っていたのは、皆も知っての通りだと思うが、日の出パンとの交渉の結果、『朝パン』の販売が、正式に決定した。既に手元にある本日のレジュメに目を通した部員もいるだろうが、2枚目は朝パン販売に関する決定事項案、これは各自よく読んでおくように、冊子の3ページ目は、日の出パンと高校長との間で正式に結ばれた契約書のコピーだ。3ページ目を開いてくれ」
俺達は冊子の3ページ目を開いて、皆で確認した。庶務の一年執行部の奴らが俺と頼重の顔を笑顔で覗き込んで「おい、やったな!」、「良かったね!」と口々に小さく褒めてくれた。俺と頼重は、嫌でも溢れてくる笑みを見合わせて、再び成果の実感に胸を熱くしていた。やっぱり皆に褒められると、喜びの実感が違うものだ。
生徒会長はしばらく俺達庶務の様子を見て頷いた後、話を続けた。
「この通り、正式に『朝パン』の販売許可が下り、明日の一斉ホームルームで生徒会員全員に『朝パン』の販売が始まる事を告知した後、来週頭、月曜日から朝パンの販売がスタートする。今日、不定期会議で皆を集めたのは、執行部全員に『朝パン』の決定事項を早急に告知したかったからなんだが。。。」
生徒会長がそこまで話したところで、米山先生が開け放した後ろの入り口から駆け足に入ってきてドアを閉めた。教卓前の先生の机の所までたどり着くまでに、乱れたままの荒い呼吸を整えている。生徒会長が「米山先生、どうでしたか?」と尋ねると、先生は息を整えながら、笑顔で「何とか、協力を得られそうだよ」と答えた。
先生はそのまま、少し息が整うのを待って、篠宮先輩の右後ろに立って話を始めた。
「まず、日の出パンへ出向いてくれた各トップの皆、頑張ったね。そして、庶務の海士部君が、今回特に頑張って、日の出パンの重役を説得してくれたんだ、皆で拍手」
先生がそう言うと、執行部のトップの先輩達も笑顔で俺に拍手を送ってくれた。俺は照れ臭いのと嬉しいのとで、頭を少しかいてお辞儀を小さく何度もした。先生は話し続けた。
「しかしながら、日の出パンとの交渉から販売許可をこうして得るまでの手順が、学校側との折り合いをすっ飛ばして、生徒会でやや強引に進めてしまった手前ね。学校側が、そもそも朝パンとは何ぞや、っていう所から進んでないんだ。校長先生は、ハンコを押していただいたり、その為の説得と説明を済ませているから、許可自体は正式に降りているんだけど。校長先生以外の先生は、『朝パン?、何の話だ』っていう、完全にノータッチの状態で。僕が校長先生にしたように、月曜日の朝礼の時に説明と説得はしたんだけど。何の相談も無く、生徒会で勝手に進めた事だろうと、他の教師達は乗り気じゃないんだ、最終的には教師で朝パン販売の取締りをお願いしないといけないのに。取り急ぎ、一人でいいから来週の月曜日の販売に参加していただけないだろうか、とお願いしたら、朝練で早朝から登校してきている、バスケ部顧問の西川先生が渋々引き受けてくださった。明日の一斉ホームルームで、アンケートをとる事もお願いしてあるから、これで実質、学校側も朝パンの販売に動き出せるようになったからね」
先生がそう言うと、生徒会長は先生に向き直って、「米山先生、執行部の無理を学校側に通していただき、有難うございました」と頭を下げた。俺と頼重も顔を見合わせて立ち上がり、「先生、有難うございました!」と大きな声で言いながら頭を下げた。
先生は笑顔で「これは僕の当然の仕事。アンケートのプリントはホームルームの前に各クラスのクラス委員が取りに来るから、庶務は用意お願いするね」と言った。そしてようやく一息という感じで、生徒会準備室のドアの前の先生の席に腰を落ち着けた。
先生が席に着くと生徒会長は副会長の吉岡先輩に目線で合図して机の上の紙を触り少し押した。吉岡先輩は頷き立ち上がって、紙を手に持ち先輩の後ろ側にいる先生の所へそれを持っていって何やら話していた。
生徒会長は背後の二人の様子を気にせず、立ったまま会議を進めた。
「米山先生のお話の通り、学校側は未だ『朝パン』の販売に対して認知すらままならず、その中で事態は駆け足に進んでいる為、我々生徒会執行部は一層主体的に朝パンの販売を取り仕切らねばならない。来週月曜日の、『朝パン』販売の初日に動員される西川先生はあくまでも補佐的な立ち位置しか期待出来ないだろう。一応、本日の目的であった朝パンに関する告知は以上なんだが」
篠宮先輩はそこで話を区切り、執行部の皆を見渡した。
「『朝パン』の初日の販売に、自発的に参加したい者はいるか。今後、教師側が朝パンの販売を取り仕切るまで、毎朝朝パンの販売に携わる役員を、決定しておかなくてはならない。これは、明日の会議でも良いんだが」
「はい!」
「海士部は、自発的に参加したいだろう、とは思っていたが、他の皆はどうか」
俺は間を置かず手を上げて、朝パンの初日販売動員に加わる意思を示した。もちろん頼重も直ぐにその後手を上げて、「はい。俺も参加します」と連なった。
「うむ、亀原。残り2名、販売には最低でも4名は必要だ。申し訳ないが、会計は強制的に、一名初日の販売に加わってくれ」
生徒会長がそう言うと、会計長の菅原先輩が手を上げて、「では、俺が」と名乗り出てくれた。これで、あと一人。
「はい。私は庶務のトップなので。海士部君と亀原君の責任者として参加します」
「よし、じゃあこれで、初日の販売員は決定だな。俺も参加するが、俺は販売ではなく、監修という立ち位置で入る。初日の動向次第で、動員する販売係の人数を微調整するが、一週間のローテーションを明日決定するので、部員達は各々何曜日を担当するか、心積もりしておくように。本日は以上だが、何か意見のある者はいるか」
篠宮先輩がそう促したが、誰も手を上げない。俺は一旦静かになった中で、「はい」と言いながら右手を上げた。
「海士部、何か補足しておきたい事か」
「いえ、補足ではありません。。。ただ、これだけは執行部の皆さんに、言っておきたいって思ってて」
篠宮先輩と執行部の皆が俺に視線を向ける中で、俺は言葉を選びながら発言した。
「僕の、思いつきの企画を、まず庶務係のみんなに、そして日の出パンの交渉には、各トップの先輩方に助けていただいて、学校内に波風というか、自分自身、男子生徒達から毎日全力で追い立てられて、こんなに辛い事になるなら、言い出さなければよかったと、後悔した日もあったけど。この企画が通って、篠宮先輩と、米山先生が苦心して通してくださって。全部、執行部の皆さんの助けがあったおかげです、有難うございました」
俺がそう言って頭を下げると、広報の先輩が「海士部君の為、やないからね。『朝パン』の企画は、海士部君が企画して、執行部の皆が認可した。その時点で、生徒会全体で責任を負ってるんや」と大き目の声で応えた。するとすぐ後に、会計の菅原先輩も、「責任もやけど、喜びも、執行部で分かち合うべき、ほやろ?やで、『海士部のせいで、朝パンの販売っていう面倒が増えたやんけ』、とか言って、俺らがお前をいじくる事もないで、心配すんな」と笑って言った。
「そ!そういうつもりやなかったんですけど!」
俺が困ったようにそう返すと、執行部全体に笑いが起こった。
篠宮先輩が笑いの最中に、「海士部、だけど今回の企画はお前の存在無しには通らんかった。せっかく通した新しい企画や、皆で、学食問題の改善の第一歩として、『朝パン』の販売、気を引き締めてかかろう」と促すと、皆それぞれに「はい!」とか「せやな!」と賛同した。
皆の様子を確認しながら先輩は頷いて、「ではこれで、生徒会執行部、第三回会議を閉会する。起立!」と続けた。執行部の皆が揃って立ち上がった。
「礼!有難うございました!」
「有難うございました!」
「ホノカ、渡辺庶務長!急がんと、間に合わんやろ」
生徒会長が教卓前から声を張り上げると、庶務長は生徒会長に向かって頷いて、「庶務の皆、ここから私達は仕事やで」と庶務係を集めた。俺達は渡辺先輩の周りに集まった。
「明日の一斉ホームルームで配る、『朝パン』販売に関するお知らせと、アンケートのプリント2枚、全校生徒分のコピーを今から用意するで。そんなには時間かからないけど、コピー室使えるのが6時半までなんよ。なんで、ちょっと急ぎで今からコピー室に皆で向かいます。どうしてもの用事がある人は、今抜けて帰ってもいい」
「それって、どのくらい時間かかるんですか?」
「うーーん、1時間ちょっと、くらいかな。2枚ずつやから、大した量じゃないんだけど」
「1時間やったら。。。今5時過ぎやで、間に合わんのでは?!」
「だから生徒会長、時間気にしてはったんか」
「もう米山先生に確認もらって、2年の子にコピーに向かってもらってる。コピー自体は、30分とかからない。私達はコピー室から書類を手分けして生徒会室に運んで、各クラス毎に枚数割り振っていく」
「全クラス分てことは。。。一学年がAからFの6クラス、各クラスが三十。。。」
「6クラスかける、各クラスがマックス36名、かける3学年分、6×36×3、648枚に、各クラス、プラスアルファー4枚で、720枚。それが、2枚ずつ」
「1440枚?!と、とんでもない数やん。。。」
「頭で思ってるほどの枚数じゃないよ、見てみたら分かるけど。さぁ、ここからは男手の番やで、コピー終わったプリント、運んでくるんや。女子も半数は一緒に行って、出来たとこから貰ってきて。あとは教室で待機」
「わ、わっかりましたぁーー!!」
俺達1年と、数人の2年の先輩で、やや早歩きで職員室の準備室の隣の隣のコピー室へ、「廊下は走行禁止」の手前、皆駆け足になりそうな早歩きで、忍びの忍者のようにこそこそと向かった。
コピー室の前辺りで、コピー機の稼働するウイーンウイーンという音が鳴りっぱなしになっている。俺達は狭いコピー室に何人か入ると、「出来たやつ、運びます!」と言いながら室内を見回した。室内は思いのほか狭く、電気は付いているけど窓が無いので薄暗かった。
「そこ、積んであるやつ、出来てるから、持ってって!」
先輩がコピー機に視線を落としたまま、書類の束を指差した。一番最初の4センチくらいの厚みになった束を、頼重が持って先に部屋を出ていく。
コピー機は俺達が待っている間も下の段から紙を吐き出し続けていて、俺は手持無沙汰に待ちながら「時間、間に合いそうですか?」と尋ねた。
先輩は余裕そうに笑いながら、「2枚分なんて、大したことないって。直ぐやで」と答えた。
「たった2枚のプリントで慌ててどうすんの。体育祭、文化祭はこれの比やないよ。生徒会室中、プリントだらけになるんやから、冊子作るのに」
「そ、そうなんや。。。」
「ほい、出来たで。まずこんだけ、持ってって」
「はい!」
俺が早歩きで最上階の生徒会室まで戻ると、生徒会室では机を並べ直して、頼重が枚数を数えながら、縦3列横6列に並んだ机の上に配置している最中だった。戻って来た俺に渡辺先輩が、「海士部君も、半分他の子に渡して、一クラス40枚、しっかり数えて配置していって」と指示した。俺は頷いてプリントを受け取りに来た女子に半分渡すと、まだプリントが置かれていない机の上で、プリントの枚数を数えていった。
「な、なんやこれ、コピーしたプリントってえらいキレイに揃ってて、めくりにくい。。。」
俺がまだ少し粗いままの息を整えながら、プリントの右角を指でめくろうとするものの、上の一枚と下の何枚かが一緒にめくれてきて、上手く数えられない。俺の様子を見ていた先輩が寄ってきて、「これ使い」と言って指サックを置いていった。
「あ、有難うございます」
直ぐに指サックを人差し指にはめて、プリントの角をめくると、面白いほどスイスイと紙がスムーズにめくれる。俺は笑顔になって、「これって、よく文具屋で見るけどこんな便利なんやぁ」と独り言を言った。
俺が数え終わり次のテーブルに移ったのを見計らって、先輩が俺の数えたプリントを数え直しに来た。俺が不思議そうに先輩を見ると「ダブルチェックや、常識。1年は慣れてないやろで尚更」と先輩は答えた。前を見ると、頼重が数え終えたプリントも、2年の先輩が数え直している。
俺は数えながら、「先輩、世の中色んな便利なモノがあるんですねぇ。俺、指サックって見た事はあったけど、使ったんはこれが初めてです」と話しかけた。
「そうやね、使わない人には全くそうでもなくても、使う人にとっては目から鱗、ってものは、沢山ある。人も一緒、人はそれを、偏見と呼ぶ。海士部君、集中して数えないと、枚数間違うよ」
先輩はそう言いながら、シャッシャッシャッシャッ!と小気味よい音を立てて、すごいスピードでダブルチェックをしている。俺は驚いてそれを一目見た後で、真似をするように集中して紙の端をシャッシャッ!とめくった。
先輩の紙をめくるもの凄いスピードと音に触発され、真似しながら集中して紙をめくっていると、途中で「あっ、枚数忘れた」と最初から数え直す羽目になってしまった。先輩は脇目に俺の様子を見ていて、「慌てんでいいから、正確にな」と助言した。
「あっ、足りひん」
28枚まで数えたところで、あと数枚枚数が足りず、キョロキョロしていると後ろのドアからコピーを持って女子が来たのを、「こっち!ください」と言って手を上げて催促した。女子はコピーの束を俺に渡して、再び教室を出ていった。
「ふぅ。ああっ!重ねてしもた。。。」
俺はせっかく数えた束の上に、受け取ったコピーを重ねて枚数が分からなくなってしまい、もう一度最初から数え直しを始めた。
「地味な作業なのに。。。一筋縄ではない。。。」
俺は眉をひそめながら、集中し直して枚数を数える。40枚揃えて机を移動したところで、他の机のダブルチェックをしていた先輩が待ってましたと戻って来た。俺は先輩のシャッシャッシャッシャッ!というすごい音に惑わされないように、これまで使った事のないほどの集中力で枚数を数えた。
先輩が無言で机を移動したかと思うと、一枚余分を持って同じ机に戻って来た。俺は内心、(一枚足りひんかったんや。。。)と落ち込みながら再び枚数を数えるのに集中した。
「ふえぇぇぇ。終わった。。。」
黒板左角上の時計を見ると6時ちょうどで、俺は並んだ机の上に、2つずつセットになった紙の束を、体というよりは頭的に疲れ果て、恨めしい気持ちで見つめた。全クラス分の配布物を用意するだけで、こんなに消耗するのか。今まで、中学の時はホームルームの時間に前から流されて配られた連絡物を、何とも思わずに受け取っていたけれども。この苦労を、誰かがやってたんやなと思い直しながらため息をついた。
廊下側の窓にもたれかかっていると、頼重が意気揚々と「終わった終わった、案外楽やな」とニコニコしながら話しかけてくる。俺は「なんでお前、そんな元気余ってんのん」と返した。
「お前こそ、何でや。紙数えるだけやのに」
「いや、渡辺先輩のシャッシャッシャッシャッ!っていうもの凄い紙めくる音に対抗してたら、気疲れしてしまって」
「なんで張り合うねん、相手は丸2年同じ事やってきとんやぞ、勝てるわけないやろ」
「それは、そうなんやけどね。。。俺、枚数数えるの、間違えてたし」
「それこそダブルチェックの意味があったっていう事や。俺かて数え間違えてたみたいやけど、逆に間違えても大丈夫なんかって気楽やったわ」
「お前はザ・他力本願やな。。。」
「いいやん、他人に力借りれる時は借りたら」
「みんな、お疲れ様!想定よりも早く終わったわ。ほな、鍵締めて帰ろか」
「はーーい」
「疲れたなぁーーー」
「今年最初の大き目の仕事やったなぁ」
生徒会の教室は庶務係だけになっていた。庶務係の皆がぞろぞろと教室から出て、最後に渡辺先輩が教室のドアを閉めて鍵をかけた。俺と頼重が教室から離れかけて振り返ると、渡辺先輩が廊下逆側の準備室の方へ向かったので、俺は「先輩?帰りはらへんのですか?」と声を投げた。
先輩もやや大き目の声で、「私は米山先生に生徒会室の鍵渡してから帰るで!海士部君も亀原君も、お疲れ!明日も忙しいから、よう休みや!」と返した。俺達は頭を下げてから、下駄箱へと足を向けた。
俺が疲れ果てて黙ったまま歩いていると、頼重がぼそりと「渡辺先輩と篠宮先輩。。。準備室でエロイこと、今頃やってたりして」と呟いた。
俺は驚いてせき込んで、「ヨリ、いかがわしいわ!んな訳ないやろ、先生おるし」と返した。頼重は「先生、多分今職員室やで。お前が戻ってくる前に、生徒会から出ていったん見たし」と暗い声で言った。
「ハハハ、落ち込んでんのか!諦めるって言ってたくせに」
「そこまで本気やなくても、好意を持ちかけてた相手が、他の奴と出来てるかもってなったら、心を揺さぶられるもんやろ。『ホノカ』、やって。名前で呼び合う仲なんやって、見せつけられたら余計、闘志を煽られるし、モヤモヤするわ」
「篠宮先輩は、名前で呼んだだけ、って感じやと思ったけど?」
「いいや、違う。お前が渡辺先輩の話持ち出して色々聞いたから、篠宮先輩、俺らに『こいつは俺のやから』っていう意思表示をしはったんや」
「考え過ぎとちゃう?」
「いや、間違いない。渡辺先輩も、篠宮先輩好きやろ。皆の前で、名指しで呼ばれて。今頃二人は、熱い抱擁とチューを。。。」
「や、やめろ!なんや、キモい。。。他人を勝手に辱めるな」
「俺の想像力は、俺の持ち物や。。。ああ、渡辺先輩。。。」
「二人きりになったって、絶対何もしてないて。それより明日、ネコちんに絵まで描いてもらって作った、アンケートが全生徒にお目見えするぞ!今日も俺ら、生徒会の仕事頑張ったし、早く明日にならへんかなぁ~~!」
「明日。。。明日は、楽しみや。。。はぁ、これが、恋煩い。ああ、渡辺先輩。。。」
「あー、また戻ってしもた」
「おーい!追いついてしもたわ!」
後ろから声が飛んできて、頼重はあからさまにビクッ!と、俺は直ぐに後ろを振り返った。
「渡辺庶務長!今、噂しとったんですよ!」
俺はニヤニヤとしながら頼重と渡辺先輩を交互に見た。頼重は気まずそうに、そろりと後ろを振り返る。キキッ、とブレーキの音を響かせて、渡辺先輩が俺達の隣で自転車を止めるとそのまま降りて、俺達に並んで歩き始めた。
「私の噂話って?」
「先輩、先生に鍵渡せたんですか?」
「鍵渡せるまで、先輩帰れないやろなって、話してたんです」
「鍵はスグル君に渡したから。二人は歩きなん?」
「俺ら、高校の近所なんです」
「そう。私はちょっと遠いで、自転車なんや」
「あの、先輩って。。。篠宮先輩と、仲良いんですよね?」
「仲が良いって言ったら、スグル君と米山先生の方が、よっぽど仲良いよ!」
「生徒会長と米山先生が仲が良いのは、確かに。でも先輩と生徒会長、幼馴染なんですよね?」
「幼馴染ってだけよ」
「ホンマに、それだけなんです?」
「どういう意味?中学の時は、今よりもう少し、一緒の時間が長かったかな。やけど、高校入学後は。。。スグル君って、女子からの人気が半端でないんよ。私が近くで親しそうにしてたら、女子に何言われるか、分からんし」
「あ~~、なるほど。。。」
「付き合ってはるんとちゃうかって、テルと話してたんです」
「付き合って?、ないない!!勘違いも、いいとこよ!ほな私、帰路が長いから、もう行くね、二人とも、今日はお疲れ様。明日からもっと執行部で動いていかんなんで、体十分に休めとくように。じゃあね」
「先輩もお疲れ様で~~す」
「さようなら」
「うん。さよなら~~」
自転車をこいで進んでいく、渡辺先輩の後ろ姿を見つめながら、俺はちらりと頼重の方を見た。いつになく真面目な表情で、俺の視線を無視したまま、先輩の姿を見つめ続けている。
「なぁ、あれ、どっちやと思う?」
頼重が俺に尋ねたので、俺は「どっち、って?」と返した。
「先輩は篠宮先輩のこと、好きやんな」
「う~~~ん、どっちかって言うたら、そうかなぁ。相手は篠宮先輩やし」
「あーーーーっ!!やっぱ、そうやんなぁ」
「いきなりおっきな声、出すなて。気まずくなって、話続けたくないみたいに、急いで帰りはったし、そうなんちゃう?」
「やけど、片思いなんやわ、まだ。渡辺先輩の片思い。まだ、実ってない」
「両想い、かもしれへんけど、付き合ってはいないのは事実やろな」
「俺、ほんならまだ、チャンスあるやん」
「そうか?!」
「先輩が卒業するまで、1年ある。生徒会執行部の、庶務係っていう立ち位置、篠宮先輩よりも、俺の方が渡辺先輩に、近いし、長い時間一緒におれる。1年のうちに、俺の方に、惚れ直させたらいい。よし、やる気出てきた」
「望み薄やと思うけどなぁ!まぁ頼重はしょんぼりしてるより、元気な方が頼りがいがあるで」
「しかし、俺めっちゃビクッてなったわ。壁に耳あり障子に目あり、帰り道中ホノカあり、やな」
「ヨリの反応、面白かったぁ。。。清水もおったら良かったのに」
「俺、先輩の名前叫びながら、両腕をこう、ギュッとして、唇付き出してムチュムチューーっとか、やる寸前やったから、ほんま命拾いしたわ」
「やっとったら、もっと面白かったのに。。。」
「それはそうと、菅原先輩って、めっちゃええ人とちゃう?」
「菅原先輩、会計長?」
「うん。執行部の皆、実際は内心、朝パンの販売の為に、朝普段よりも早起きして学校に来んなんようになって、嫌やな、面倒やなって本心あったと思うんや。俺らは自分らで企画して通したで、自発的に販売もやりたいって思えても、他の執行部、特に庶務以外の先輩達は面倒やっていう本心があったと思う。ほやけど、ああして菅原先輩がお前を皆の前でなじった事で、面倒やって後ろで言えん空気作ってくれはった。菅原先輩って、篠宮先輩にも車の中でヤジ飛ばしてはったけど、案外情味が深い人なんかもしれへんよな」
「ホンマや。。。ヨリ、よう気付いたなぁ。俺、完全になじられただけやと思ってたけど。日の出パンからの帰りの車の中と一緒で、菅原節というか」
「ツンデレ、って言うんかな、ああいう人のこと」
「うん。そう考えたら大分、優しいなぁ」
家に帰り着き食器を洗いながら、渡辺先輩の事でソワソワしている時の頼重の様子を思い出し、どうして人は恋をすると可愛く見えてしまうのかと考えていた。どちらかと言うと常に仏頂面のヨリでさえ、あのように可愛いキャラクターのように見えてしまうのだ、いつもより自信無さげなのに、気持ちの全部で想い人と向き合う、強く真っ直ぐで純粋な好意。目は、心は、その人を前に、その人だけを見ているのだというような。だけどあの、渡辺先輩の方に振り向いた時の、気まずそうなヨリの表情!思い出し笑いをしながら流水で流していると、「ただいまぁーー」と言って美里がドアを開けて入ってきた。俺は水を止めて、「おかえり」と返した。
俺の言葉足らずで美里を傷つけてしまった後でも、美里は何事も無かったかのように振舞っていた。それでも気持ちが入っていないような話し方や、普段より口数が明らかに少なかったり、寂しそうな表情は隠れようがない。俺はきちんと、自分の気持ちを言わなければ、伝えなければと頃合いを見計らっていた。
「ご飯、出来たよ~~」
「麻婆豆腐やん、久々やぁ」
「豆腐がアツアツやで、やけどせんように食べや」
「大丈夫やて。。。うん、分かったぁ」
子供やないんやで、と言いかけて、今はいつもの状態ではないんやからと、言葉を選んだ。俺はご飯にたっぷりとかけたマーボー豆腐をれんげスプーンですくって、フーフーと息を吹きかけながら食べると、向かい側に座っている美里をちらりと見た。食べるのに集中しているように見せて、何も話しかけてこない。怒っているのか、それとも悲しみにまだ沈んでいるのか。俺はアツアツの豆腐と甘辛いソースが白い米に絡む旨みに舌を喜ばせながらも、「お母さん、ごめんよ」と切り出した。
美里は無言で、麻婆豆腐を食べている。これは、怒っている時の反応だ。しかしながら俺にも言い分があり、それは説明すれば納得してもらえると信じていた。俺はしばらく食べるのを止めて、美里に話しかけた。
「俺な、母さんを責めたり、文句言ったりしたかった訳やないんやって。俺は、母一人子一人でも、十分、幸せやで。だけどいつでも、自分以外の人間は、それを信じてくれへん。俺、ずっとそういう、『足りん側が当然のように向けられるレッテル』と、対峙しながら、『違うよ、違うよ』って悩んできたんや。母さんが言う、赤側っていうの、左翼やんな、そっちの人達に対する偏見も、一緒なんとちゃうかなって。足りんままでも、全員じゃなくても、自分なりの幸せを大事にしながら、それに満足して生きていけてる人達も、おるんとちゃうかなって。だから俺、父親がおらんけど、だから不幸やなんて、思った事ないで、それは母さんが俺を、大事にしてくれてるからやで、俺がぐれたり不幸やって何か壊したりせんでおられるんは、母さんのおかげなんやて、だから、いっつもありがとう」
俺がそう言って美里をじっと見ると、美里は少しだけ手を止めたけれど、再び手を動かして食べ続けた。ひょっとすると今日は、もう会話が出来んかもしれない。俺、美里が絶対に言ってほしくない事を、きっと言ったんや。俺にとってそれほどでなくても、美里にとっては重要なこと。俺は迷いながら、話を続けた。
「母さん、俺が小さい頃から、何事にも有難い、感謝しろって、口酸っぱくして言ってきたやろ。それが功を制してきたみたいで。俺は、父親がおらん事で、足りん部分もあると思うけど、得をしとる部分も、あるって思ってる。例えば、母さんが俺を大事にしてくれたり、友達が俺を大事にしてくれたり。憐れまれたくない、負けるか!って、色んな事に頑張れたり。清水が言うとった、足りん事を有効に使えたら、それは強みでしかないって。その気持ちって、与えられてる現実と、前向きに向き合って感謝する事で起こるんやと、俺は思っとる。お母さんのおかげやで、色んなケースがあるとは思うけど、少なくとも俺は、幸運やって思ってるよ、自分の現状。だからお母さん、お父さんの事で、自責したり、悲しんだり、怒ったり、せんとって。それと、足りん側の人達に対する、ネガティブなイメージだけの、レッテル貼りも」
俺の話す言葉を、視線を合わさずに聞きながら、美里は思い詰めた表情を崩さなかった。何の返事も返ってこないまま向き合いながら、諦めて食事を再開した時、美里は小さな低めの声で、「そいつらが、テルの大事な人の命を奪ったとしても、同じ事言えるか?」と呟いた。
「え?」
「何でもない、この話は、もうおしまい。お母さんも、テルちゃんに賛成や。悩んでも悔やんでも、もうどうにもならない事、引っ張り出してきてグズグズしてたら、美味しいご飯が勿体ないでな!」
「そう、そやで!俺もなかなか、言うやろ?やけど、ごめんな」
俺はそう言って、笑顔を作って麻婆豆腐を食べ始めた。しかしながらはたと気付いた時に、目頭から涙がにじみ出てきているのに気が付いて、慌てて手で拭った。
「あれ?何でやろ。。。俺、別に、悲しいとか苦しいとか、ないんやけど。。。勝手に涙が。。。俺やっぱ、疲れてるんやな」
食べる手を止めて独り言のようにそう言いながら涙を拭っていると、美里も手を止めて悲し気な表情になりながら言った。
「テルちゃん、お母さんの方こそ、ごめんな。テルが幸せやから問題ないから、大丈夫、とは私は思ってないんや。私は、テルを父親の分まで大事にする、愛するって、努力してるつもりでも。どんな言葉を使っても、これはお母さんの責任や、失態なんや。私かて出来る事なら、テルに父親を。。。」
美里はそこまで言いかけて、パッと表情を明るくした。そして、「湿っぽくなるしかないで、止めよか。人生には受け入れていかんと仕方ない事が、年を重ねていく時間の中で、どんどん増えていくんやから。それを受け入れて、それでも前に進む事を、大人って言うんやとお母さんは思う」と強い語調で言った。
「ほやな、俺も、そう思うわ」
「うん。お母さんかて、いつかは死ぬんやで?」
「要らん事、言わんとって。俺はそれだけは、ほんまに耐えられんで」
「やで、大事にしてや」
「するよ、しとるし。やけど俺は思うけど、あんまり過剰に愛し過ぎるのも、健全ではない」
「あら、まぁ!別にお母さんは、テルが一生マザコンでもいいのに」
「う~~ん、やっぱり片親やとな、『普通』っていう感覚は分からんままになるで、そこは悩みの種やわぁ」
「『普通』なんて、多分両親揃ってる家庭の子でも、分からへんと思うよ?」
「そう?そうなんかなぁ」
「多分、ね。『普通の家庭』。。。お母さんにも分からへんわ。悩みなんて、人それぞれや、有っても無くても」
「あぁ、麻婆豆腐が幸せそのものやったら、誰でも幸せになれるのに」
「食べるっていう事は、純粋な喜びやで、そうかもしれんね。この麻婆豆腐は、お母さんが作ってるで、美味しいんやで?」
「なんかそんな事、ヨリが言ってたわ。。。母さんの愛が、おにぎりを美味しくしとるんやって。だけど、俺はそれは、同意しかねるんやけど」
「それは、ヨリちゃんが、絶対正しい!」
「いやぁ、違うと思うけどなぁ~~」
『生徒会執行部より、お知らせです。本日5限の一斉ホームルームにて、生徒会執行部から、全生徒会員に、告知があります。各クラス委員は、昼休みに、生徒会室まで、配布物を、取りに来てください。繰り返します。生徒会執行部より、お知らせです。。。。』
教室で昼食を食べている間に校内放送が流れて、俺と頼重は口を動かしながら顔を見合わせた。
「なぁ、俺ら何も言われへんかったけど。俺らも、生徒会室に行って、手伝ったりせんで、いいんかなぁ」
「多分、良いんちゃう?ホームルームを仕切るんは、クラス委員やろし。だって、生徒会執行部がおらんクラスもあるやろ?」
「それもそうか。じゃあ、クラス委員集めて、生徒会長がプリント渡す時に、説明しはるんかなぁ」
「そうちゃうか?。。。ほんでも、気になるよな。行ってみるか?」
「うん、行ってみよ」
「なぁなぁ、俺は?俺も行っていい?」
「清水は、教室で待機」
「うう。。。分かった」
食事を終えて生徒会執行部の教室がある廊下に出た時に、篠宮生徒会長が大きな声で話す声が、教室の外まで響いていた。俺達は足音を立てないようにそろそろと近づいて、廊下側の少し開いた窓から中を覗き込んだ。
教室では生徒会長が教壇に立ち、大き目の声で話し続けている。篠宮先輩と向かい合って座っている生徒達は、昨日3×6に並べ直してその上に2束のプリントを用意した各々の席に、静かに座っていた。
「なので、今回の『朝パン』販売に関して、教師側は熟知しておらず、むしろ非協力的な態度を示す懸念がある。担任の先生に説明を求めても、恐らく頼りにはならないのでそのつもりでいてくれ。15分~20分程度をアンケートの時間に割き、回収後、十分休憩の間に、アンケート用紙を今各々座っている机に置きに来るように。急な決定で、クラス委員の皆には戸惑っている者もいるかもしれないが、この企画は生徒会全員が主体になって押し進めるべき案件だ、今後の学食改良に具体的な変化を起こす重要な第一歩目となるだろう、皆、よろしく頼むぞ。何か、質問はあるか」
頼重が俺の肩を小突いて、ジェスチャーで人差し指を廊下の階段の方に向けて動かし、生徒会室から離れようと示してきた。生徒会長が説明を終えて、教室からクラス委員達が出てくるからかと分かると俺は頷いて、再びコソコソと生徒会室から遠ざかった。
間もなく生徒会室のドアが開け放され、ゾロゾロと手にプリントの束を持った生徒達が出てきた。談笑しながら通り過ぎていくクラス委員の生徒達を後目に、皆が遠ざかっていった後で、生徒会室に戻ってみた。
教室には篠宮生徒会長と、副生徒会長の二人と、米山先生が、先生の机の辺りに集まって話をしていた。俺と頼重はどうしようかと教室の外で顔を見合わせていると、米山先生が俺達に気付いてこちらに視線を向けた。先生の視線の先、篠宮先輩が笑顔のまま俺達を振り返って、「海士部、亀原。教室の外から覗いてるん、見えとったで」と声をかけてくれた。
俺と頼重はえへへと笑いながら「ちょっと、気になって来てみたんです」と答えながら中に入っていった。俺達が近づくと、副会長の先輩達は先生に頭を下げて、教室から出て行った。
「米山先生、生徒会執行部の俺らが、次のホームルームで何かやらんなん事って、ありますか?」
俺が尋ねると米山先生は、笑顔で頷きながら答えた。
「二人は、特別には何か発言したり、説明したりする必要はないよ、それはクラス委員の子達の仕事だから。だけど、もしクラスで君達に意見を求める生徒が居たら、その時はイレギュラーに説明に加わってもいい。クラス委員の子達も、ついさっき説明を受けただけで、連絡事項の紙に書かれてる以上の事は答えられないよね、だから補足の為に発言するのは、したらいいよ。他のクラスの先生には無理でも、僕は朝パンの企画の事を熟知しているし、僕からも生徒の疑問に答える事は出来るけど。海士部君も亀原君も、既に他の生徒達から生徒会執行部である事を広く認識されているだろうから、名指しで君達に説明を求めるクラスメイトは、いるかもしれないね」
「俺、なんかドキドキしてきた。上手く答えられるかな」
「とりあえずは、クラス委員に進行任せて、どうしても知りたいっていう意見が出たら、答えたら良いんとちゃう?」
「ほやな。だけど先生、補足の説明は先生にお願いしたいんですけど、ダメですか?」
「いいよ。じゃあ、そろそろ昼休み終わるから、戻ろうか」
「はい」
5限の一斉ホームルームが始まった。俺と頼重は自分の席に座ったまま、事の成り行きを見ていた。学級委員の二人のうち女子の並木さんが2種のプリントを一番前の机に配って歩いて、前川君が教卓でプリントが後ろの席まで渡るのを待っていた。
俺の所にもプリントが回ってきて、俺はそれを前の生徒から受け取って後ろに回した後、堪えきれない含み笑いを浮かべながら2枚のプリントをまじまじと見つめた。
プリントが手元に来た生徒達が、皆口々に楽しそうに話し始めていた。女子達は「イラスト入ってる、上手すぎるんだけど!」とか、「可愛い」「これって、篠宮先輩やんな、男の方!絵の篠宮先輩もカッコいい、やったぁ!」「だけど、アンケートって回収されるやん!」「えー?!嫌や、私これ欲しいわぁ」と言っていて、男子達は、俺の狙い通り、「お!ボイン!」「これは良いボイン!」とか喋り合っている。
俺は好感度バッチリの皆の反応にしめしめと思いながら聞き耳を立てていると、「でもさぁ~~、『今日、学食にせぇへん?』って、学食って正直一部の男子しか利用してないやん、『いや、せぇへんよ!』って感じなんやけど」という声も聞こえてくる。
俺は心の中で、(そうや、だから、変えたいんよ)と頷きながら、「早朝学食前で販売される『朝パン』についてのお知らせ」というプリントの内容を再確認した。
「早朝学食前で販売される『朝パン』についてのお知らせ
生徒会執行部より、生徒会員の皆様に、お知らせです。
令和〇年5月○○日月曜日より、早朝、学校食堂前にて、新たにパンの販売、
通称「朝パン」の販売が開始します。
販売時間は午前8時15分から45分までの30分間、
販売日は祝日を除く、毎週月曜日から金曜日です。
価格は2個100円、パンの種類の選択は出来ません。
パンの販売業者は富士日の出パンです。
購入可能個数は一人につき一個までです。
パンの販売個数は百個です。販売は売り切れ次第終了となります。
購入希望者は、規定の時刻に学食前へ集合してください。
パンの賞味期限は販売された日の正午までですので
次の日に持ち越さないよう、出来るだけ早めに食べ切るようにしてください。
販売終了時刻の午前8時45分で強制的に販売は終了しますので
希望者は早めの行動を心掛け、午後9時の一限の授業開始時間に
遅れないよう注意してください。
以上」
「なぁ!これって海士部が企画したってヤツやろ?!」
クラスの中から男子生徒の声が飛んできたので、俺は朝パンの販売告知のお知らせプリントにから顔を上げた。俺が顔を上げてクラスを見ると、他の生徒達も「これが朝パンやんな!いよいよ販売って事やんな?」と俺に尋ねてくる。
俺は「そうやで!やけど今は、クラス委員が仕切るで!」と答えて前川君の方を見た。前川君はパンパン!と手を叩いて、「静かにしてください!これより、生徒会執行部からの連絡と、アンケート調査を行います!最初に、『朝パン』についてのお知らせのプリントを見てください」と壇上から言って、ホームルームの進行を始めた。
「はい!このプリント、よく読んでください、ここに、『朝パン』の販売についての詳細と、販売開始日、販売開始時刻が書かれています!『朝パン』というのは、本校で初めて新たに販売が決定した、早朝に販売されるパンの通称になります。販売日時は来週の頭、月曜日から、販売時刻は午前8時15分です!8時45分には、強制的に販売が終了されるので、45分以降の購入は出来ません!百個という数に限りがありますので、購入を希望する生徒は、早めに販売場所の学食前に集合してください!以上、何か質問はありますか!」
「は~~い」
「北山君、何ですか!」
「百個って、少なくないっすかぁ?早朝販売されるって、朝練の運動部が購入にめっちゃ有利やん、昼のお弁当とかパンみたいに秒で売り切れるとしたら、結局サッカー部と野球部とバスケ部が買い占めて、終わりじゃないかって思うんですけど~~?」
「。。。米山先生、どうですか?」
前川が米山先生に助言を求めると、米山先生は頷いて、先生の席で立ちあがり説明した。
「北山君の指摘はひょっとするとその通りになる懸念もあるけれども、『朝パン』の販売時刻は午前8時15分、昼食時の学食売店の状況とは違って、販売開始前に集合していてくれれば、運動部だけでなく全生徒が購入は可能です。あと、初日の販売にはバスケ部の顧問の西川先生が入ってくれるから、運動部で買い占めないように指導してもらえると思う。早朝とは言え、15分から30分、今までより少し早めに学校に来てくれれば購入出来るから、希望者の生徒は早めに集合して待機していてください。パンの販売個数は初日の状況に応じて増減は可能だと思う、『朝パン』の企画は初めての試みだから、探り探りフレキシブルに変更を加えながら、一番適した個数や方法を見つけていく事になります。ひょっとするとそれほど購入希望者が集まらない、っていう可能性も無くはないからね。試行錯誤で改良を加えていくことになるので、結局は生徒の意向次第ということです。他には何か、質問はないかな?無ければアンケート調査の方を進めるけど」
先生が尋ねてもクラス内がざわつくだけで誰も質問をしなかったので、先生は前川君に「じゃあ、前川君」と言いながら前川君にアンケート調査に移るよう促した。前川君は頷いた。
「はい!じゃあ、今から20分、手元に配ってあるアンケートに答えてください!20分後に、後ろの席から前に回して回収します!それでは、開始してください」
アンケートの記入時間が設けられると、先ほどまで雑談まじりのざわめきに包まれていた教室内がやや静かになった。後ろを振り返って、クスクスと笑う女子の微かな声が、時折静かな教室の中に響いている。俺は机の上のアンケート用紙に向き合い、もう一度イラストを見つめた。
『今日、学食にせぇへん?』と言いながら、女子も学食を利用する。三学年まで学食を利用しないままだった篠宮先輩のような生徒まで、学食を気軽に利用するようになる。俺にとってそのイラストは、学食問題が改善された後の理想像だった。問い一から問い一五まで、何度も頼重と庶務の皆で練り直した。問いに対する自分の現状を、シャープペンシルで書き込んでいく。これが最新の、学食利用状況の結果になるんや。俺は早々とアンケートに答え終わった後から、自分以外の全生徒会員の集計の結果の方が気になって仕方がなかった。俺は不必要に周囲の回答が気になって、キョロキョロと左右の生徒がどう書いているのか、知りたい知りたいとソワソワし続けていた。
「アッンンッ!ゴホン、ゴホン!」
頼重がわざとらしい咳払いをした時に、自分が座りながら膝をやや伸ばして、前の席の女子の方に身を乗り出していることに気付いて俺は周囲を伺いながら腰を落ち着けた。頼重が再び「んんっ!グフッ」と咳払いに混ぜて笑いを堪えている。俺は落ち着きを取り戻して、アンケートの回答に当てられた20分が過ぎるのを大人しく待った。
「20分経ちましたが、未だ回答し切れてない人は居ますか?居なければ、回収しますので後ろから前へアンケート用紙を回してください!」
「はい!」
「何ですか!」
「このアンケート用紙って、もらえないんですか?!」
「もらえない、と思いますが。。。」
前川君は視線で米山先生に意見を求めた。米山先生は頷いて、生徒達の方に向き直ると「余分が今4枚あるから、欲しければどうぞ」と答えた。
すると、突然女子達が「はい!私、欲しいです!」「私だって欲しいんだけど」と口々に言い始め、途端にクラス中にざわめきが起こる。その中で、男子までもが同じ事を言い出した。
「いや、俺だって欲しいんやけど」
「なんで?ホモなん?」
「女子のイラスト、可愛いやん」
「俺かって、ボインのイラスト欲しいわ!」
「ちょっ、静かにしてください!4枚しかないので、4人までです!」
「これは、予想してなかったなぁ。。。どうしようか」
先生が立ち上がって独り言のように呟いた。俺も、予期せぬ事態にどうするべきなのか分からない。先生が俺の方に視線を向けたけれど、俺は頭をかきながら首をちょっと傾げる事しか出来なかった。頼重はというと面白そうな表情で俺の方を見ていた。
「分かった、もしかするとよそのクラスでも同じ事が起こってるかもしれないから、生徒会執行部で審議して、決定次第、今回のようにクラス委員から配布する事にするから。今は不公平が出てもいけないから、しばらく待つように」
「えーー、今欲しい。。。」
「俺は別に待てるわ」
「静かにしてください!ここからは米山先生から連絡があります!」
女子のクラス委員の並木さんがアンケートを回収して、前川君に渡して二人が席に着くと、米山先生が普通のホームルームの授業を始めた。
ジャンル別一覧
出産・子育て
ファッション
美容・コスメ
健康・ダイエット
生活・インテリア
料理・食べ物
ドリンク・お酒
ペット
趣味・ゲーム
映画・TV
音楽
読書・コミック
旅行・海外情報
園芸
スポーツ
アウトドア・釣り
車・バイク
パソコン・家電
そのほか
すべてのジャンル
人気のクチコミテーマ
花のある暮らし、宿根草
ガーベラとアークトチス。教会カフェ…
(2026-05-13 11:39:58)
手作りの庭とガーデニング
ちなみに
(2026-05-12 12:15:01)
フラワーアレンジメント
4月の花屋フラワーアレンジ
(2026-04-26 12:51:23)
© Rakuten Group, Inc.
X
共有
Facebook
Twitter
Google +
LinkedIn
Email
Create
a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧
|
PC版を閲覧
人気ブログランキングへ
無料自動相互リンク
にほんブログ村 女磨き
LOHAS風なアイテム・グッズ
みんなが注目のトレンド情報とは・・・?
So-netトレンドブログ
Livedoor Blog a
Livedoor Blog b
Livedoor Blog c
JUGEMブログ
Excitブログ
Seesaaブログ
Seesaaブログ
Googleブログ
なにこれオシャレ?トレンドアイテム情報
みんなの通販市場
無料のオファーでコツコツ稼ぐ方法
無料オファーのアフィリエイトで稼げるASP
評判のトレンドアイテム情報
Hsc
人気ブログランキングへ
その他
Share by: