猫のお手伝い

猫のお手伝い

漂白の牙


デビューが熊の話で今度は狼かいと、突っ込まれそうなのは本人十分承知の上だろう。
けど、そんな中傷はどうでもいいくらい、狼という生き物への畏敬と愛がこもっている。

ご承知のとおり、ニホンオオカミは絶滅している。
地元が奈良なので、最後のニホンオオカミといわれている剥製くんの写真も拝んだことがあった。
そのとき、思った。「なんや、犬やん!」

そう、狼といえば、シートン動物記の「狼王ロボ」がそのイメージの全て。
眼光鋭くがっしりとした体躯で威風堂々、
群れを率い、美しい伴侶ブランカを携える犬科最強の生物!
あるいは、キプリングの「ジャングルブック」ばりに狼に育てられた少女の実話のように、
捕食者でありながら弱者をいとおしむ愛情あふれる生物。
それが狼。

なのに写真の中の剥製くんは、ちょっと大きい貧相な柴犬(いいすぎ?)に見えた。

それくらい、実際の狼を知らなさすぎる。
作品中にも、普通の日本人がイメージする狼に最も近いのがジャーマンシェパードだとあった。
確かに。
しかし、ヨーロッパ狼は赤頭巾ちゃんを飲みこめるくらい大きいので、
われわれがニホンオオカミをイメージできないのもいたしかたない。

物語はその絶滅した狼が人を襲うという事件をもとに展開する。
誰も知らない狼。存在しないかもしれない狼に襲われた3人。
恐怖ばかりが伝染病のように充満する。
ハリウッド恐怖&パニック映画ばりの展開。
野生の狼にも似た孤高の主人公。短い章立て。狼の陰に見え隠れする人の存在。

かなりここでネタばれしているので恐縮だが、書評ではないのでまあいいか。

人物造詣が劇画チックだとか、過去に縛られる日本人にありがち展開とか、
数え上げればそういう非難はあるのだろうが、これはエンターテイメントなのだ。
ロマンなのだ。

吹雪のやんだ朝、陽光のもとに姿を現した神々しい姿、
まさしく大神の名に相応しい、ニホンオオカミ。
赤く輝くその姿に、やっぱりいたんだというつぶやきを読者は漏らすはず。
本当に、郁夫と狼との遭遇場面はすばらしかった。
かくやと思い描く、夢の一瞬。
それゆえに、神をも恐れぬ人間の所業の結実、狼犬の存在は不気味極まりなかった。

実際、ムツゴロウさんのところに狼犬はいるわけで、
そのスレンダーでしなやかな体躯を持つ生き物を不気味だとは思わないし、
かえって犬にないハングリーさが美しいとさえ思うのだが、それはそれ。
エンターテイメントだから。

ラスト、主人公とヒロイン恭子の前に現われる幻の狼たち。
東北の見事な雪景色の中に悠然とかまえる赤い大神たちの姿は、
日本が失ってしまった美しさと神秘を全て体現していた。
その情景が本当ならば、本当かもしれない、そんな夢を思い描く作品。
ロマンだ!

さて、熊、狼と、日本人がかつて神とあがめてきた動物シリーズできてるんだから、
やっぱり次は蛇でしょう!
違うの?


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