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7月はハリウッドで量産されるラブコメのDVD発売が目白押し。その中でも、『恋愛適齢期』(2003年)、『ホリデイ』(2006年)の女流監督ナンシー・マイヤーは別格。ということで、今回は大人の女性のためのフェミニズム映画『恋するベーカリー』(2009年)をご紹介します。 10年前に夫と離婚し、ベーカリーを経営しながら三人の子供を育ててきたジェーン。子供たちも独立し、幸福ながらも何か物足りなさを感じていた。そんな時、若い女と浮気の末、出て行った元夫のジェイクと息子の卒業式で再会し、ホテルのバーで意気投合。子供たちに内緒で元夫とデートすることに。自宅の増築を相談中の建築家アダムにもデートに誘われ、悩むジェーンだったが…。 製作・脚本・監督を手掛けるナンシー・マイヤーは、1949年生まれ。最近では、ジャック・ニコルソンとダイアン・キートンという大御所二人を主演にした『恋愛適齢期』や、キャメロン・ディアス&ジュード・ロウ、ケイト・ウィンスレット&ジャック・ブラックのそれぞれの恋を描いた『ホリデイ』など、都会派のシャレたラブ・コメディを撮っていますが、本作はちょっと違います。彼女が製作・脚本を手掛けたゴールディン・ホーン主演の軍隊コメディ『プライベート・ベンジャミン』(1980年)を彷彿とさせるフェミニズム漂う作風となっているのです。 『プライベート・ベンジャミン』について、ちょっと解説を。主演のゴールディン・ホーンは、70~80年代を代表するコメディエンヌ。いわるゆメグ・ライアン→キャメロン・ディアスと引き継がれている“ラブコメの女王”で、ケイト・ハドソンのママでもあります。金髪おばかさんが軍隊に入団し、成長して自立した大人の女に大変身すると言うコメディ。この作品でナンシー・マイヤーはアカデミー賞脚本賞にノミネートされ、主演のゴールディン・ホーンも主演女優賞にノミネートされています。お下品シーンもありますが、女性が観ると、スカッとする楽しいコメディですので、機会があれば、ぜひ、ご覧ください。 話を元に戻しますが、『恋するベーカリー』はシャレたラブ・コメディというよりは、『プライベート・ベンジャミン』のように女性の生き方を指南するフェミニズム作品になっているのです。前半は、『マンマ・ミーア!』(2008年)のノリで豪快おばさんを演じるメリル・ストリープに、若者はちょっとついて行けないかもしれませんが、後半は、子供たちも自立した50歳~60歳代の女性が、第二の人生をどう生きるべきか?という事を真面目に描いています。そのメリル・ストリープ演じるジェーンの選択に、私は大満足して、さすが、『プライベート・ベンジャミン』のナンシー・マイヤーだな、と大いに納得しました。選択の基準は、どちらの男性を選ぶのか? その男性とは、元夫ジェイクを演じるアレック・ボールドウィンと建築家アダムを演じるスティーヴ・マーティンの二人。 ジェイクは、若い女と浮気の末、ジェーンと別れて結婚した典型的な肉食男子。でも、若妻に不妊治療を迫られ、食生活も合わずに、元妻ジェーンと浮気をする。 アダムはバツ一子持ちで、繊細な草食男子。結婚に一度は失敗しているため、ジェーンに惹かれながらも、恋愛には慎重になっている。 アレック・ボールドウィンは、浮気症でいつも自分本位だけれど、押しが強くて女性を楽しませてくれる、母性本能をくすぐる憎めない男性を魅力的に演じています。自分勝手で大人になりきれないわがまま男だけれど、この手の男性に参ってしまう女性の気持ちもわかりますよね。 スティーヴ・マーティンは、真面目で面白みに欠けるけど、女性の気持ちを考えてくれる優しさを持った男性像を、控え目に演じています。恋愛より結婚に向いている相手ですが、ちょっとした事で傷つけてしまいそうなのがちょっと不安。 女性の皆さんは、どちらの男性を選ぶでしょうか?ぜひ、作品を観て判断してみてください。 ちなみに、ナンシー・マイヤーが描く男性は、みんなどこか少年っぽくてかわいい男性が多いのです。ですから、フェミニズム映画とはいえ、男性から観ても、楽しめる、というのはうちの主人の感想です。 ところで、本作にはダスティン・ホフマンが顔を出してます。『ホリデイ』でもレンタルビデオ店のシーンで登場したので、きっとマイヤー監督とはプライベートで仲が良いんでしょうね。そうそうホフマンと言えば、主演のメリル・ストリープとは『クレイマー、クレイマー』(1979年)で共演し、それぞれアカデミー賞主演男優賞、助演女優賞を受賞しています。どんなシーンに登場しているかは、本編で探してみてください。 次回は、7/2にDVDが発売された『バレンタインデー』(2009年)、7/14にDVDが発売予定の『そんな彼なら捨てちゃえば』(2009年)といった恋愛群像コメディと、 同じく7/14にDVDが発売予定のヒュー・グラント& サラ・ジェシカ・パーカー共演ラブコメ『噂のモーガン夫妻』(2009年)を、3本まとめてご紹介します。
2010年07月07日
2008年1月22日に亡くなったヒース・レジャーの遺作が7/2DVD発売。今回は、撮影半ばにして亡くなったヒース・レジャーの後を引き継ぎ、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの友情出演によって完成したテリー・ギリアム監督のファンタジー『Dr.パルナサスの鏡』(2009年)をご紹介します。 2007年のロンドン。Dr.パルナサス(クリストファー・プラマー)率いる旅芸人の一座が現れ、怪しい出し物“幻想館”を始めていた。“Dr.パルナサスの鏡”を潜り抜けると、その人間の欲望を満たす世界を体験出来るというのだ。だがDr.パルナサスには秘密があった。娘のヴァレンティナ(リリー・コール)が16歳になった日に、娘を悪魔のニック(トム・ウェイツ)に差し出すという恐ろしい約束をしていたのだ。誕生日の3日前、ヴァレンティナは偶然に瀕死のトニー(ヒース・レジャー)を助ける…。 ヒース・レジャーは1979年オーストラリア生まれ。『ブロークバック・マウンテン』(2005年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた後、新生バットマン・シリーズ第2弾『ダークナイト』(2008年)のジョーカー役で絶賛を浴び、亡くなった後に開催されたアカデミー賞で助演男優賞を受賞しました。そして次に彼が選んだ作品が『ブラザーズ・グリム』(2005年)でも組んだテリー・ギリアム監督作『Dr.パルナサスの鏡』です。 彼が出演している現実世界のトニーは、ハンサムで行動力があり、ヴァレンティナの心をときめかせますが、一方では口が上手くて謎が多く、どこか信用できない一面も持っています。ヒースは、そんな女性なら魅力を感じずにはいられない男性を、若干、コミカルに演じています。でも、ヒースは鏡の中の幻想世界を演じることなく急死してしまいました。もし、彼が鏡の中の世界も演じていたなら、もっと胡散臭いコミカルな演技が観られたかもしれません。そしてコミカルな中にも、人間臭く深みのある悪人像を演じていたでしょう。 ヒースの死で完成が危ぶまれた映画を救ったのが、彼と親交のあったジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの三人です。テリー・ギリアム監督は鏡の中のトニーを、ヒース・レジャーの事を本当に分かっている友人に演じてもらいたいと考え、まずは友人のジョニー・デップに相談し、最終的に、三人の出演が決まりました。この辺りの経緯は、公式サイト(日本版)に載っていますのでご覧ください。 彼らは監督と、ヒースのどの部分を鏡の中の演技に反映させるのか、話し合いそれぞれ役作りをしたそうです。それを踏まえて彼らの演技を観るのも本作の見所のひとつ。トニー役はメイクが濃いので、背格好の似ているジュード・ロウは、良く観ないと本人とは判らないほどです。中でも、性格演技派のコリン・ファレルの演技には感心します。彼は、完全にヒース・レジャーの形態模写をしているのです。コリンが体格的にも一番、似ていないのですが、声色も似せているし、仕草もヒース演じるトニーにあわせて演じています。彼はまだ、一度もアカデミー賞にノミネートもされていないのですが、主演男優賞は確実の演技力を持った俳優だな、と再認識しました。 さて、ヒースの遺作としてのイメージが強い本作ですが、本来はテリー・ギリアム監督作として観るべき1本です。 テリー・ギリアムは、アメリカ出身ながら、イギリスに渡り、60年代後半から英国のコメディ・グループ、モンティ・パイソンの一員として活躍。BBCの番組『空飛ぶモンティ・パイソン』などでシュールなアニメーションを担当した後、モンティ・パイソンの映画作品を監督することとなります。やがて映像作家としての才能を開花し、『バンデッドQ』(1981年)、『未来世紀ブラジル』(1985年)、『バロン』(1989年)、『フィッシャー・キング』(1991年)、『12モンキーズ』(1995年)などを次々と発表。類まれな映像センスと英国仕込みのシニカルな作風で独自の映像作品を作り続けています。 『Dr.パルナサスの鏡』は、テリー・ギリアム監督と『未来世紀ブラジル』、『バロン』で組んだチャールズ・マッケオンによるオリジナル脚本です。映画製作に困難が付きまとい、思うように映画を完成させることが出来ない監督の心情を、物語を聞いてもらえないDr.パルナサスになぞらえて表現するなど、自身の人生を投影した、思い入れの強い作品となっています。前作の『ブラザーズ・グリム』よりも監督の本質が出ていますが、『ローズ・イン・タイドランド』(2005年)ほどダークでもなく、誰もが楽しめる作品に仕上がっています。 最後に、本作に欠かせない出演者たちについて。Dr.パルナサスを演じるのは、『サウンド・オブ・ミュージック』(1964年)でトラップ大佐を演じた名優クリストファー・プラマー。美しい娘ヴァレンティナを演じるのはベビーフェイスに完璧なボディのトップ・モデル、リリー・コール。悪魔のMr.ニックにはジム・ジャームッシュ映画の音楽や出演の常連、“酔いどれ詩人”ことトム・ウェイツ。博士の片腕パーシーには、『オースティン・パワーズ』シリーズのミニ・ミー役で有名なヴァーン・トロイヤー。曲芸師アントンには、ロバート・レッドフォード監督・主演作『大いなる陰謀』(2007年)や、ナタリー・ポートマン&スカーレット・ヨハンソン共演作『ブーリン家の姉妹』(2008年)などに出演のアンドリュー・ガーフィールド。中世ヨーロッパの舞台や衣装に負けない存在感のある俳優たちが共演しています。 果たして、ヴァレンティナを救うことは出来るのか?Dr.パルナサスの秘密とは?彼と悪魔のニックとの関係は?トニーの正体は?人間の欲望の果てに行きつく先は…?観客は様々な謎を抱えながら、いつの間にか、テリー・ギリアムの迷宮世界の虜になってしまうのです。難産の末に出来あがった魅惑のファンタジーをどうぞ、お楽しみください。 7/2発売商品は全部で3種。本編ディスクのみの1枚組DVD、本編+特典ディスク付のDVD2枚組プレミアム・エディション、本編+特典ディスク付のBlu-ray2枚組。特典ディスクの内容は、DVDとBlu-rayどちらも一緒となっています。 次回は、メリル・ストリープを主演に、大人の恋愛をリアルに描くナンシー・メイヤー監督の最新ラブコメ『恋するベーカリー』(2009年)をご紹介します。
2010年07月07日
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