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東北地方太平洋沖地震の被害に遭われた方々に心よりお見舞いを申し上げます。 一人でも多くの方が救出され、一日も早く、ライフラインや食料、燃料、医療等の物資確保が出来ますようにお祈りいたします。 私の身近でも、山形県に実家がある友人は、14日にやっと無事を確認でき、宮城県に親せきがいる友人は、まだ、連絡がついていないようです。私事ですが、闘病中の母が今回の心労で病状が悪化し、緊急入院しました。病院でも毎日、不安な日々を送っています。 そんな時、友人たちが故郷のことを想い、自分たちも余震や原発、計画停電などの心配事が絶えない中で、あるコメディ映画を観て、一時、現実から離れて笑う事が出来たと言っていました。 映画のそうした側面が、少しでも皆様のお役にたてるよう、これからもよい作品をご紹介し続けたいと思います。 今回は、たくさん笑って主人公を応援して、観終わった後に心が温かく幸せな気分になれる作品-。3/11にDVD&Blu-rayが発売された多部未華子&三浦春馬主演の青春ラブ・ストーリー『君に届け』(2010年)をご紹介します。 長い黒髪と陰気な見た目で「貞子」とあだ名をつけられ、小さい時からクラスメイトから避けられてきた黒沢爽子(多部未華子)。そんな爽子だが、本当は真面目で健気でいつも周りの人への気配りを忘れないおとなしい女の子だった。高校生になった爽子は、入学式に向かう途中、道に迷っている風早翔太(三浦春馬)に道を教える。翔太は同じクラスで、明るく爽やかな性格が男女を問わず、人気の生徒だった。爽子にも他の生徒と同じように接してくれる翔太に憧れと尊敬の念を抱く爽子だったが…。 「別冊マーガレット」に今も掲載されている椎名軽穂・原作のティーン向け超人気コミックの実写映画化。2009年秋には深夜枠でアニメも放映され20代から30代の男女にまで幅広い人気を得ている純愛ストーリーです。人気の秘密は、最近流行りの携帯小説のような悲惨な出来事や過激な描写などが全くない、誰もが経験するようなごくごく普通のラブ・ストーリーであること。 “自分の中に芽生えた想いを相手に伝える”。とても単純だけれど勇気が必要でなかなかうまく出来ないこと…。どん臭い爽子は、それが尊敬なのか、恋なのかもわからずにいます。そんな爽子の姿に誰もが共感し、応援したくなる、とても繊細でピュアなラブ・ストーリーなのです。 映画版で爽子を演じる多部未華子と、翔太を演じる三浦春馬は、そんな主人公2人にピッタリのはまり役。 『HINOKIO ヒノキオ』(2004年)ではボーイッシュなガキ大将を演じていただけあり、顔立ちが凛々しくてちょっぴり怒り顔(?)な多部ちゃんですが、今回は、笑い顔、怒り顔、泣き顔、困り顔など表情豊かな攻めの芝居で観客をハラハラさせたり、胸キュンさせたりと、楽しませてくれます。実年齢よりもかなり下の役ですが、違和感なく、ほのぼのとした雰囲気で爽子になりきっています。 そんな全力投球の多部ちゃんに対し、好対照なのが『恋空』(2007年)のイケメン俳優、三浦春馬。春馬君は、“爽やか笑顔”を武器に、台詞も少ないのに大スターの風格でひと際目立っています。クリント・イーストウッドや加山雄三といった大スターと同様に、受け芝居で多部ちゃんの演技を受けまくります。 コミックやアニメファンからは、翔太のキャラが違うし、個々のエピソードの描き込みが少ないとの意見があるようですが、独立した一本の映画として観ると、王道の青春映画のパターンを守り、安心して楽しめる作品に仕上がっています。映画は連続ドラマと違い、約2時間という限られた上映時間に人物紹介を済ませ、ドラマを組み、起承転結をつけなくてはなりません。長編コミックや小説を映画化する場合、膨大なエピソードの中から何をポイントに描くのかは、監督や脚本家の考え方次第です。 本作で脚本・演出を務めた熊澤尚人監督は、爽子中心に物語を組み、原作の持つ幸福感、ときめき感といった全体の空気感にこだわって演出したそうです。そんな中にも、翔太に想いを寄せるくるみ(桐谷美玲)の嫉妬と失恋、千鶴(蓮佛美沙子)とあやね(夏菜)との友情や誤解、体育会系教師の荒井(ARATA)や両親(富田靖子&勝村政信)との関わりなど、高校生活で誰もが経験するネタも随所にちりばめられています。 雰囲気重視でゆったりテンポなので、若干、停滞気味の所もありますが、全体的には監督の狙い通り、多部ちゃん演じる爽子と春馬君演じる翔太の2人を応援したくなる、ほんわかと心が温かくなる学園ドラマに仕上がっています。2010年邦画4位に選んだオススメ作です。 次は熊澤尚人監督とオススメ作について。 1967年、名古屋市出身。成城大学在学中より自主映画を製作し、『VIDE男』が集英社BJ映像大賞に入選。ポニーキャニオンに入社し、岩井俊二監督作『スワロウテイル』(1996年)や、中田秀夫監督ホラー『リング』(1998年)、飯田譲治監督ホラー『らせん』(1998年)等のプロデュースに携わる。1994年、自主映画『りべらる』がぴあフィルムフェスティバルに入選。1999年に退社後、短編オムニバス映画『TOKYO NOIR トウキョーノワール~Birthday~』(2004年)でポルト国際映画祭最優秀監督賞を受賞。蒼井優主演の『ニライカナイからの手紙』(2005年)で劇場長編映画デビューを果たす。 熊澤監督作で一番にオススメしたいのは、市原隼人&上野樹里主演の『虹の女神 Rainbow Song』(2006年)。安藤政信&竹内結子主演『イノセントワールド』(1998年)の原作者、桜井亜美が原案・脚本を務め、岩井俊二がプロデュースしたせつない青春ストーリーです。大学の映画研究会を舞台にしているので、映画ファンは余計にグッときてしまいます。私は、上野樹里演じる佐藤あおいの心情が胸に刺さって号泣してしまいました。市原隼人、蒼井優など、岩井俊二らしい豪華キャストが出演。熊澤監督は、『君に届け』と同様に、想いを伝えられず、ぶっきらぼうにふるまってしまうあおいの複雑な乙女心を繊細に捉えています。それにしても市原隼人演じる岸田智也の鈍感ぶりったら…。 同じく男女の微妙な恋愛を綴った風変わりな恋愛ストーリーが岡田准一&麻生久美子主演の『おと・な・り』(2009年)。古いアパートの壁越しに聞こえる生活音から、何となく通じ合っていく2人を描いています。でもこの作品、下手な監督さんが演出したら、2人の行為に違和感を感じる可能性もあると思いますが、熊澤監督は、夢を目指して懸命に頑張っている都会の孤独な若者が、隣の生活音にホッとしたり、音がしないと心配したり…、といったディテールをお洒落で丁寧に描いているので、観客は無理なく2人に共感出来ます。そして、“音が鳴る”と“お隣”とをかけたタイトルにもあるように、“音”にこだわった演出が冴えています。特に、エンドクレジットの凝り方には注目です。小玉家一押しの谷村美月も出演。 最後は、熊澤監督の長編デビュー作である蒼井優主演の『ニライカナイからの手紙』(2005年)。沖縄の竹富島で郵便局長の祖父と2人暮らしの少女・風希が、カメラマンだった父を継いで東京で修行をする青春ストーリーです。最近では、『人のセックスを笑うな』(2007年)や『百万円と苦虫女』(2008年)などちょっと尖がった作品に出演している蒼井優ですが、そこでも必ず、自分の感情を率直にぶつける、ふてくされ優ちゃん、ダダッ子優ちゃんのシーンがあります。そんな素朴さと芯の強さを感じさせる蒼井優のイメージは、すでにこの時から描かれています。 熊澤尚人監督作品は、ディテールへのこだわり、作品全体の雰囲気作り、役者さんの魅力の惹きだし方などが繊細で丁寧に描かれていて、犬堂一心監督などと並んで好きな日本の監督さんの一人です。過小評価気味の熊澤作品を、ぜひ一度、ご覧になってみてください。 次回は、低予算ながら口コミでヒットした洋画から、2/4発売『ゾンビランド』(2009年)、3/18発売『キック・アス』(2010年)、3/23発売『マチェーテ』(2010年)などをご紹介します。
2011年03月18日
先日2/27に行われた第83回アカデミー賞授賞式で、見事、主演女優賞に輝いたナタリー・ポートマン。今回は、ナタリーをオスカー女優へと導いた、日本では5月より劇場公開予定のサイコ・サスペンス『ブラック・スワン』(2010年)をご紹介します。 ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は、元ダンサーの母エリカ(バーバラ・ハーシー)と共に、バレエに人生のすべてを注いでプリマを目指してきた。そして遂に「白鳥の湖」で念願のプリマの座を掴み取る。だが、可憐で優等生タイプのニナは、美術監督のトマス(バンサン・カッセル)に「邪悪で官能的な黒鳥になれるのか?」と厳しく問われる。さらに新人ダンサー、リリー(ミラ・クニス)が代役となり、彼女の自由奔放で情熱的なダンスに圧倒される。完璧な「白鳥の湖」を目指すニナは、様々なプレッシャーに押し潰されそうになりながら、次第に現実と幻覚との区別がつかなくなり、狂気の世界へと堕ちていく…。 先日、一足早く観る機会に恵まれたのですが、これが非常に面白くて、心を揺さぶられ、良い映画を観た後の興奮状態を久しぶりに味わいました。一人でも多くの方に劇場で観ていただきたいので、この興奮が収まらないうちに、勢いでお伝えしたいと思います。 『ブラック・スワン』をより深く楽しむためには、いくつかの関連作を先に観ておくとわかりやすいかもしれません。 1本目は、ミッキー・ロークをゴールデン・グローブ賞主演男優賞受賞、アカデミー賞主演男優賞ノミネートに導いた、ダーレン・アロノフスキー監督の前作『レスラー』(2008年)です。 地方巡業で生計を立てる引退間近のレスラーと、華やかなバレエ団のプリマドンナが主人公のドラマとでは一見、正反対のストーリーのように思えますが、この2本は驚くほどよく似たプロットで出来ています。ここでストーリーを詳しく語る事はしませんが、そこから、ダーレン・アロノフスキー監督の作品に対するアプローチ方法が見えてきます。 どちらも、監督が長年温めて来た企画で、自ら出資者を募り、低予算ながら作家主義を貫いた作品です。そして、登場人物を極力抑え、主人公の生活環境や人間性をじっくり描くことで一人の人間の生き様を濃厚に描き出しています。 演じる俳優たちには、極限までその人間に成りきるメソッド演技が要求されます。ですから、ミッキー・ロークはレスラーの身体を作り込み、ナタリーは1年前から毎日5時間の過酷な練習に耐え、バレリーナに成りきりました。そうした身体的な演技の上に、さらに一人の人間の内面にある闇の部分をもさらけ出さなくてはなりません。 今回、ナタリーに要求されたのは、純真な“白鳥”と邪悪で官能的な“黒鳥”の二面性を、演目の「白鳥の湖」のバレエと、ニナの心の内面との両方で演じるというものでした。ナタリーは劇中のほとんどのバレエ・シーンを自ら演じ、さらには官能を描く過激な性描写にも果敢に挑戦しています。俳優という職業も、需要と供給で成り立っている訳ですが、この年齢で、13歳までバレエを習っていて、白鳥の可憐さを持ち合わせた女優という条件にピッタリはまったのが、まさにナタリー・ポートマンでした。ナタリーは、このチャンスを逃さず、女優として最も過酷と言える要求に対して、ニナ=ナタリーしかいないと思わせる演技で魅せてくれます。 アロノフスキー監督は、そのナタリーに応え、演技では要所要所にアップを多用し、ダンスではナタリーの美しく鍛えあげた全身の肉体をカメラに捉え、ナタリーの魅力を余すところなく映し出しています。アップに耐える美しい顔立ち、可憐なバレエのポーズ、恐ろしく変貌した黒鳥の姿…。5月公開の際には、再び、劇場の大画面で鑑賞したいと今から楽しみにしています。 2本目はカトリーヌ・ドヌーヴ主演、ロマン・ポランスキー監督のサイコ・スリラー『反撥』(1964年)です。 『ブラック・スワン』の劇場スポットを観ると、まるでミュージカル映画『オペラ座の怪人』(2004年)かのようにも見えますが、アロノフスキー監督が目指したのはヒッチコックやブライアン・デ・パルマ的サスペンスと、当時20歳そこそこのドヌーヴが、男性恐怖症に病んでいく女性を演じた『反撥』なのです。 物語の前半は、プレッシャーに追い詰められていくニナの周りで起こる出来事がサスペンスタッチで描かれます。サスペンスフルなストーリーが非常に面白く、物語を推進していきます。やがて、ニナの幻覚症状が映像として観客に突きつけられ、次第に観客はニナと同様に現実と幻覚の区別がつかなくなり、サイコ・スリラー色が強まっていきます。ここはアロノフスキー監督の演出の見せ所。客席には飛び上がる女性の姿もありましたので、ホラー描写に慣れていない方は要注意です。 3本目は『ラン・ローラ・ラン』(1998年)のトム・ティクヴァ監督が描くサスペンス『パフューム ある人殺しの物語』(2006年)。 『パフューム』は、パトリック・ジュースキントのベストセラー小説の映画化。天才的嗅覚を持った孤児院育ちの青年が、ある赤毛の少女が放つ官能的な香りにとりつかれ、狂気に走っていく物語です。『ブラック・スワン』との共通点は、“究極の香水/白鳥の湖”を求めて狂気に走る主人公を描いている事と、“究極の香水/白鳥の湖”という眼に見えないものを映像で表現している事です。『パフューム』では、“人を惑わす究極の香水”の効果が、全裸の男女の群衆によって表現されました。『ブラック・スワン』でも、バレエを観た事がない人でもわかりやすい眼に見える形で表現されています。 クラシック・バレエファンからすると禁じ手かもしれませんが、これは映画という表現形態。ナタリーの演技を補うアロノフスキー監督の演出によって、新たな「白鳥の湖」を観る事が出来るのです。 サイコ・サスペンスなら、気持ちの良いエンディングは望み薄ですが、ここがまた、アロノフスキー監督のすごいところ。「白鳥の湖」の初日を迎えるシーンからクライマックスへと続く怒涛の展開とカタルシス!監督が力技で押し切る息もつかせぬ展開と、衝撃のラストは圧巻です。 最後に共演者についても触れておきます。サブカル世代のクエンティン・タランティーノが、ジョン・トラボルタやパム・グリアなど、自分の青春時代に活躍していた俳優たちを起用して再ブレイクさせて以降、次世代の映画監督たちは、タランティーノほどあから様ではありませんが、映画ファンを唸らせるキャスティングをするようになりました。クリストファー・ノーラン、ポール・トーマス・アンダーソンやウェス・アンダーソンなどがそうです。彼らと同世代のアロノフスキー監督も、本作では『レスラー』のミッキー・ロークに当たる元プリマドンナに、ウィノナ・ライダーを起用。ウィノナにも、ぜひとも返り咲いて欲しいところです。その他、ヴァンサン・カッセルやバーバラ・ハーシーも拍手もののはまり役です。ヴェネチア国際映画祭で新人俳優賞を受賞したミラ・クニスも好演しています。 すでに今年の洋画ベスト3に入るなと確信したアロノフスキー監督の力作。今年必見の1本です。 次回は、3/11にDVDが発売予定の多部未華子& 三浦春馬主演作『君に届け』(2010年)と、熊澤尚人監督作品をご紹介します。
2011年03月07日
自らの代表作である『ロッキー』『ランボー』シリーズに続きスタローンが挑むのは、往年のアクション・スターが総出演するこれまでで最高のアクション映画を作ることだった! シュワちゃん、ブルース、ジェット・リー、ミッキー・ロークも出演!今回は3/9にDVD&Blu-ray発売予定の『エクスペンダブルズ』(2010年)をご紹介します。 自らを“エクスペンダブルズ(消耗品)”と名乗る鉄壁の精鋭部隊は、ソマリアの武装海賊に拉致された人質の救出に成功。だが、チームを危機に陥れたガンナー・ヤンセン(ドルフ・ラングレン)はチームから外される。次なる依頼は、南米の島ヴィナーレの軍事独裁政権を壊滅させる事。偵察に出掛けたリーダーのロン(シルベスター・スタローン)は、軍事政権のガルザ将軍を操る元CIA、ジェームズ・モンロー(エリック・ロバーツ)の存在を知る。ロンは、ガルザ将軍の娘サンドラ(ジゼル・イティエ)と島の人々を助けるため、たった一人、島へ戻る事を決意。だが、出発の日、そこには仲間が待っていた…。 はじめて劇場スポットを眼にした時、「何これ!本当なの?」と疑った映画ファンも多かったのでは。だって、アーノルド・シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリス、シルベスター・スタローン、ジェット・リー、ドルフ・ラングレン、ミッキー・ローク、ジェイソン・ステイサムといった主役級のアクション・スターたちが一堂に会す映画なんて、80年代のアクション映画ファンにとっては、夢、また夢の話だと思うじゃないですか…。でも、スタローンは見事にやってくれたのです! そこにはスタローンの熱い思いがありました。 本物のアクション・スターでなくともCGIや3D技術で誰もがアクション映画に主演出来る現代に、もう一度、本当のアクション映画を復活させたい! スタローンは言います。「一見、時代遅れに見えるかもしれないが彼らこそ真のヒーローだ、彼らの勇姿と魂を現代に蘇らせたい。」そのためには、80年代から活躍する主役級のアクション俳優たちに出演してもらう必要がありました。スタローンは、自ら脚本書き上げ、オファーしたい出演者たちが出たくなるようなキャラクター造形に力を入れ、脚本を100回以上も書き直したと言います。 そこにはスタローンがこれまでに何度も繰り返し演じてきた変わらぬテーマがありました。それは『ロッキー』でアメリカン・ドリームを掴んで以来、追い続けて来た“真のヒーロー”であること、どんな逆境にも屈することなく再起する男のドラマ、常に弱者の味方であること、命も惜しまない男たちの熱い友情…。 そんなバイオレンスの巨匠サム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』(1969年)などにオマージュを捧げる魂のドラマに加え、男性映画の巨匠ロバート・アルドリッチの『特攻大作戦』(1967年)などのチーム作戦ものの面白さと、激しい銃撃戦と大爆発、カーチェイス、アルバトロス水陸両用飛行艇からの空爆攻撃といった最高のアクション映画を作るための見せ場を用意。 確かに、古いかもしれないし、一行で語れる単純なストーリーかもしれない。でも、スタローンは『ロッキー』以降、一貫した作家性を貫き、主演の自分ばかりでなく、各キャラクター全員に見せ場を持たせ、さらに爆発と銃撃戦などを組み合わせたアクション映画を作り上げました。これを一本の映画に収めるのは、思った以上に大変な仕事だと思います。 類似作品の『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(2010年)や『RED/レッド』(2010年)と比べれば、そのキャラクター造形の違いは一目瞭然。 『特攻野郎Aチーム』TVシリーズは、その陽気でノー天気なチームものがウリだったのに、映画版はリドリー&トニー・スコット製作のため、おバカ度が足りない大人向けのシャレた作品に変わってしまいました。リーアム・ニーソンはダンディでかっこいいですが、観客が求めるものとはずれていたのでは?と思います。一層、『チャーリーズ・エンジェル』のマック・Gか、『スタスキー&ハッチ』のベン・スティラーが監督した方が面白い企画だったのに…とちょっぴり残念です。 日本でもかなりの話題となった『RED/レッド』は、紅一点のヘレン・ミレンが目立っているものの、全体的にはブルース・ウィリス主演の普通のアクション映画になってしまい、群像劇の妙は楽しめませんでした。あれだけ個性の強いジョン・マルコビッチも目立たないし、モーガン・フリーマンの扱いも、『エクスペンダブルズ』のドルフ・ラングレンの扱いと比べると、全くキャラクターへの愛情表現が足りません。 『エクスペンダブルズ』のラングレンが演じるあのコミック・キャラの面白さったら。一番、美味しいキャラをラングレンに用意するスタローンの気遣いがたまりません。それ以外にも、ジェット・リーの絶妙な使い方や、唯一、2000年代のスター、ジェイソン・ステイサムにまで、彼女を用意したりエンディングにキュートなシーンを用意したりの気の使いよう。そんな風に、各出演者のスター性を微妙に笑いに変換するスタローンの余裕と比べると、『RED/レッド』のブルースは未だにスター性を維持したキャラクター設定なので、やはり、はじけ方が足りません。 『エクスペンダブルズ』でのキャラクターいじりのうまさは、スタローンのセンスと作品への愛情以外の何ものでもなく、まさにスタローンの才能だと思います。 そんな中、思わず泣けるのがミッキー・ローク演じるマネージャー、ツールとロンが語るシーン。ミッキー・ロークは低迷時代に自分の作品にキャスティングしてくれたスタローンへの恩返しで本作への出演を快諾したそうですが、ツールの台詞には、そんな二人の関係性や生き様を思わせる重みがあります。押さえる所はしっかり押さえて、島へ向かう。クライマックスのカタルシスを最大限に引き出すための重要なシーンです。それさえ出来ていれば、細部は荒くてもいいのです。後は突っ走るのみ! あの誰もが知る『ロッキー』(1976年)が、アカデミー賞作品・監督・編集賞を受賞し、スタローン自身が3日で書き上げたという脚本も脚本賞にノミネートされたという事実を知っている若者は、どれだけいるのでしょうか。もし、TVの短縮版や、生卵飲みなどの名シーンしか観ていない方は、ぜひ、じっくりと『ロッキー』を観て欲しいです。脳ミソ筋肉系映画かと思いきや、70年代のアメリカン・ニューシネマの影響が残る暗い作風にびっくりするかもしれません。とはいえ、ハッピーエンディングの『ロッキー』は、それまで主流だったアン・ハッピーエンディング時代の終わりを予感させるものでした。 そして、ドルフ・ラングレンをスターダムに押し上げた『ロッキー4/炎の友情』(1985年)では、現代のアメリカン・プロレスの基本形ともいえるベビー対ヒール・キャラによる勧善懲悪、脳ミソ筋肉系映画を製作。最高のカタルシスを引き出しました。 今回、本物の格闘技を披露したいとの理由から、総合格闘技界からも多数、ゲスト出演しています。スティーブ・オースティン、ランディ・クートゥア、ゲイリー・ダニエルズ、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、アントニオ・ホジェリオ・ノゲイラ、そしてNFLで活躍したテリー・クルーズも出演。彼らの格闘技による肉弾戦も見せ場のひとつとなっています。 さて、共演者にこれだけ気を使うスタローンですが、もちろん、主演である自分も手を抜いてはいません。特に、一緒に劇場で観た男性陣のおススメシーンは、ラストのマガジンチェンジと抜き撃ち。その速さと目線に注目! すでにスタローンを語るだけで字数オーバーになってしまいました…。共演者だけでなく、スタッフたちも80年代アクション映画を語る上で欠かせないキャノン・フィルム、そして現代のミレニアム・フィルムの関係者たちが製作に名を連ねています。 往年のアクション映画をこよなく愛する男たちが作り上げた魂の一本をぜひ、ビール片手に楽しんで下さい。 次回は、公開には少し早いですが、ナタリー・ポートマンがアカデミー賞主演女優賞を受賞したダーレン・アロノフスキー監督のサイコ・サスペンス『ブラック・スワン』(2010年)をご紹介します。
2011年03月05日
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