まずは『ウォッチメン』から。 80年代のアラン・ムーアと作画家デイヴ・ギボンズによる傑作グラフィック・ノベルを、『300<スリーハンドレッド>』(2007年)のザック・スナイダーが監督。 1940年代、凶悪犯罪に苦しめられるアメリカ国民を救うため、正体不明の仮面のヒーローたちが登場。当初、国民の喝采を浴びた彼らだったが、やがてその行動に疑いがもたれるようになる。そして1970年代半ば、ヒーロー活動を禁止するキーン条例が施行されることになった。こうしてヒーローたちは歴史の闇に消えていった…。しかし米ソの冷戦が頂点を迎えた1985年。ある殺人事件をきっかけに、正義のヒーローたち“ウォッチメン”は再び、行動を起こすことになる…。 舞台になるのは、私たちが知っている現実とは異なるパラレルワールド。この世界では、ベトナム戦争でアメリカが勝利し、ニクソン大統領はウォーターゲイト事件で失脚せず、なんと連続5期の大統領の地位にあるのです。この設定だけでもアメリカ現代史を知っている人は興味津津になるのではないでしょうか? 原作のグラフィック・ノベルは、SFの最高峰ヒューゴ賞をコミックとして唯一受賞し、タイム誌の長編小説ベスト100にも選ばれた作品。 アメリカ現代史の中に、コミック・ヒーローを配し、時代の波に翻弄されるヒーローたちの苦悩を通して、アメリカの正義とは?アメリカン・ドリームとは?人間の本性とは?といった命題に挑んでいます。2009年、オバマ大統領誕生以前のアメリカは、世界中から非難を受け、愛国心と強大なパワーに支えられて築いてきた正義と平和が崩れつつありました。映画は時代の空気を無意識に表現すると言われますが、真の平和、真のヒーローを問う『ウォッチメン』は、まさに、そんなタイムリーな時期に製作されたのです。 原作が、大人向けコミックのため、映画でもR-15指定の残酷描写があり、観る人を選ぶ作品ではあります。ですが、原作の世界観をそのまま表現しており、登場人物のキャラクター造形やヒーローたちの衣装やメイクのセンスが素晴らしく、ストーリー、CG映像、キャラクター描写、アクションシーン、挿入される音楽などのバランスも良く、全体的な完成度が非常に高い作品です。 キャラクターの中では、ジャッキー・アール・ヘイリー演じるロールシャッハと、マリン・アッカーマン演じるシルク・スペクターが最高!刑務所でのシルクのアクション・シーンは文句なしのカッコよさです。 また、映画の脚色が見事なので、原作を読んでいなくてもアメリカ現代史に詳しい方は楽しめると思います。観た後に原作に挑戦すると、作品の理解がさらに深まり、もう一度、映画を観直したくなります。版権問題等の諸事情があったようですが、本来なら、アカデミー賞脚色賞、監督賞にノミネートされても遜色ない作品だと思います。 DVDは2種発売されており、特典ディスク付の2枚組スペシャル・コレクターズ・エディションと、番外編「Tales of the Black Freighter」が収録された3枚組コレクターズBOXがあります。