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楽天ラウンジでの最後の映画紹介は、前回に続き、“生涯のベスト10(洋画編)”の残り5本をご紹介します。前回は、衝撃を受けた5本でしたが、残りの5本は、映画の醍醐味を味わえるセレクトになりました。 6本目はセルジオ・レオーネ監督が西部開拓時代に生きる人々の人間模様を描く「ウエスタン(原題:Once Upon a Time in the West)」(1968年・英米合作)。 レオーネ監督は、クリント・イーストウッドを一躍スターに押し上げた「荒野の用心棒」(1964年)、「夕陽のガンマン」(1965年)などのヒットでマカロニ・ウエスタンの代表監督として知られています。本作は西部開拓時代を舞台にしながらも、原案にはダリオ・アルジェントやベルナルド・ベルトルッチも参加しており、女性が主人公の壮大なイタリアン・オペラとして観ることが出来ます。 単身、未開の地へやって来たジルを演じるクラウディア・カルディナーレ、ハーモニカを吹く無口なガンマンを演じるチャールズ・ブロンソン、ならず者の親分フランクを演じるヘンリー・フォンダ、ジルを見守るシャイアンを演じるジェイソン・ロバーズ。豪華スター俳優4人には、それぞれエンニオ・モリコーネによるテーマ曲が与えられ、曲にシンクロさせて彼らが登場し、それぞれに交差しながら物語が進行していきます。 レオーネ監督のはったりの利いたアクション・シーンや超クローズアップ撮影は、現代も多くの監督がマネていますが、映像と音楽と感情の流れがあいまったレオーネ監督のアーティスティックな手法には及んでいません。ペキンパー監督同様、ワン・アンド・オンリーの存在だと思います。 本作では、古き良き開拓時代の終焉が抒情的に描かれると共に、夢を追ってやって来た人々の苦労が、たくましく生きるジルを通して描かれており、女性にもおススメです。 7本目はジャン=ポール・ベルモンド主演、ジョゼ・ジョヴァンニ監督・脚本の犯罪映画「ラ・スクムーン」(1972年・仏)。 伝統的な仏ギャング映画“フィルム・ノワール”の中で、70年代の代表作に数えられる1本です。自身がギャングであったジョヴァンニが獄中で知り合った男の半生を抒情性豊かに映画化。ラ・スクムーン=死神と恐れられた主人公ベルモンドと、ミシェル・コンスタンタン演じる無二の親友、そして彼の妹でベルモンドの恋人クラウディア・カルディナーレの三人の愛と戦いを描く十数年の物語です。 男の美学を追求した情感溢れるタッチは仏映画独特のもので、身震いするほどのかっこよさ。「冒険者たち」(1967年)、「サムライ」(1967年)、「さらば友よ」(1968年)などで一時代を築いたメロディメーカー、フランソワ・ド・ルーベによる手回しオルガンを使ったテーマ曲と、そこに登場するベルモンドの伊達姿。一度観たら脳裏から永久に離れません。特にラストシーン!男の背中に感じる哀愁という言葉は、このシーンのためにあるのです。 8本目はリチャード・ハリス主演のパニック・サスペンス「ジャガーノート」(1974年・英国)。 大西洋上、ブリタニック号に仕掛けられた時限爆弾から乗客1,200人を救うべく決死のミッションに挑むプロの男たち! 監督はビートルズ映画や「スーパーマン」シリーズでお馴染みのアメリカ人、リチャード・レスター。アメリカ発のパニック映画と、英国伝統の冒険活劇が奇跡の融合をみせた本作は、70年代に大流行したパニックブームの中で今尚、熱い支持を集める傑作です。爆弾解除サスペンスの定石である、赤と青のコード、どちらを切るかは、この映画から始まりました。(ちなみについ最近では「崖っぷちの男」(2011年)でもやっています!) パニック映画といえば、「タイタニック」(1997年)のように、大破していく船と逃げ惑う乗客を描くと思われがちですが、本作では、危機に立ち向かうプロフェッショナルたちによる男のドラマを描いています。「羊たちの沈黙」(1990年)のアンソニー・ホプキンス、「LOTR」のビルボ・バギンズ役のイアン・ホルム、オマー・シャリフ、シャーリー・ナイトら英国スター総出演。中でも爆弾処理犯の主人公ファロンを演じるリチャード・ハリスと、助手のチャーリーを演じる「欲望」(1966年)のデヴィッド・ヘミングスの手に汗握る爆弾処理シーンには心拍数が急上昇! 余興係のロイ・キニアといった脇キャラまで丁寧に描き、人間ドラマと極限のサスペンスを緩急をつけて見せきる演出は、今の映画にはない職人技が光っています。 9本目はイギリスの名匠デヴィッド・リーン監督が描く「ライアンの娘」(1970年)。「アラビアのロレンス」(1962年)、「ドクトル・ジバゴ」(1965年)と同じ脚本、撮影、編集、音楽(モーリス・ジャール)による大作ですが、2作に隠れて目立たない名作です。 独立戦争前のアイルランドの港町で暮らす人々が、時代の波に翻弄されながらもたくましく生きていく姿を描いた本作は、特に女性におススメの作品です。 リーン監督作の特徴は雄大な自然を余すところなく捉えた美しい風景をバックに繰り広げられる様々な人間模様。本作はアイルランドのディングル半島で撮影されていますが、冒頭からあまりの映像の美しさに、いきなり心を鷲づかみにされます。そして、欲望のままに行動する美しい若い妻ロージーと、ロバート・ミッチャム演じる夫である教師の無償の愛を描く人間模様は、男女の愛の本質に迫るもので見応えがあります。 壮大な景色と冒険譚では「王になろうとした男」(1975年)や「冒険者たち」(1967年)などとも迷いましたが、ロケ撮影への執念のこだわりと、そこに生きる人々を丁寧に描き出す作品の重厚感とスケール感ではリーン作品以外にないでしょう。これぞ、映画館の大画面で味わうべき映画の代表格。アカデミー賞撮影賞、助演男優賞受賞作です。 最後にご紹介するのは“アメリカの良心”フランク・キャプラ監督&ジェームズ・スチュアート主演で贈る感動ドラマ「素晴らしき哉、人生!」(1946年・米)。 人生に絶望し自殺しようとする主人公ジョージの前に天使が現れ、ジョージがいなくなった世界を体験させます。そこにはジョージの想像を越えた事態が待っていました。 これまで誰かに勧めて感動しなかった人は一人もいないという程、人の心を打つ作品です。鑑賞後には誰もが“人間に生まれて良かった”と心から思えるはず。アメリカでは今もクリスマスに必ずTV放映や上映会があり、映画ファンを越えた国民に、世代を越えて語り継がれている作品です。私もこれを観た時、「人生には辛い事も多いし、悪人も存在するけれども、本来、人間は善良なんだ。」と、心の底から勇気をもらい、力づけられました。自殺者が急増する現在こそ、多くの方に観て欲しい不朽の名作です。 今回選んだ10本には、SFファンタジー、コメディといったジャンル映画は選出できませんでした。またの機会に、ジャンル別のベスト10も選んでみたいと思います。 引き続き、“生涯のベスト10(邦画編)”などを、映画ブログ(FC2ブログ:cinemanc)にてご紹介していきますので、興味がありましたら、見に来てください。 これまで、お付き合いいただきまして、ありがとうございました。
2012年07月12日
これまでに観た映画の中から“生涯のベスト10”を選ぼうと考えてみたものの、年齢やその時の状況によってもベスト10は常に変化していくものです。そこで洋画に関しては、「傑作・名作100本」というような本や雑誌の特集などに出てくる王道作品はなるべく選ばずに、自身が強く影響を受けた作品の中から順不同で10本を選んでみました。 1本目はアカデミー賞作品・監督・脚色賞を受賞したジョン・シュレシンジャー監督作「真夜中のカーボーイ」(1969年・米)。 テキサスからニューヨークへ出てきた青年ジョーとスラム街に暮らすラッツォとの友情を描くアメリカン・ニューシネマの代表作ですが、シュレシンジャー監督はロンドン出身のユダヤ系英国人。人間への鋭い観察力と辛辣さで、いたたまれなくなるほどリアルに当時の若者像を描き出しています。その一方で、社会の底辺でもがく彼らの生き様を抒情性豊かに描き、若者たちの孤独を見事に捉えています。 主演はアンジェリーナ・ジョリーの父であるジョン・ヴォイト(ジョー)と、アメリカン・ニューシネマに欠かせない名優ダスティン・ホフマン(ラッツォ)。特にホフマンの神がかった演技は必見です。ジョン・バリーの音楽も素晴らしく、未だにこれを越える青春映画には出会っていません。 2本目は「7月4日に生まれて」(1989年)、「JFK」(1991年)等でお馴染みの社会派監督、オリヴァー・ストーンが「プラトーン」(1986年)でアカデミー賞監督になる直前に撮った「サルバドル/遥かなる日々」(1986年)。 フォト・ジャーナリスト、リチャード・ボイルの実体験を基に書かれた小説の映画化です。 ベトナム帰還兵である監督は、ベトナム戦争への恨みを描いた作品で知られていますが、私は「サルバドル/遥かなる日々」に最も大きな衝撃を受けました。エルサルバドル内戦の真実を暴くというジャーナリズム精神は勿論ですが、オリヴァーが描いているのは“ゲス野郎に芽生える良心”。ジェームズ・ウッズ演じるリチャードは酒と女に溺れ、取材費を使い込み、日々の生活にも困る身分ですが、あることをきっかけにジャーナリストの使命に目覚めていきます。オリヴァー自身が役に乗り移ったかのようなリチャードのキャラ。そしてウッズや相棒を演じるジェームズ・ベルーシの名演。まだ若く無名の監督が描く荒削りながら真に迫るストーリー、観客をぐいぐい引き込んでいくパワフルな語り口…。オリヴァーのその後の活躍を予感させる活きの良さと、力強いメッセージに魂を揺さぶられました。 3本目は“バイオレンスの巨匠”サム・ペキンパー監督作「ガルシアの首」(1974年)。故・淀川長治氏が“最も醜い反戦映画”と評した「戦争のはらわた」(1977年)、西部開拓時代への郷愁を綴る「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」(1973年)も捨てがたいですが、中年男女の悲哀を描く本作は、歳を重ねて観直す毎に新たな発見があり、今ではベスト作となりました。 初めて観た時は、バイオレンス描写の凄まじさと、首を届けようと命を賭ける男の執念やヴィジュアルの異様さにばかり気を取られます。でも、二度、三度と観るうちに、苦しい生活から抜け出し、わずかな幸せを勝ち取ろうと最後の賭けに出たベニーの気持ちが痛いほど伝わります。 「夜の大捜査線」(1967年)での悪徳警官、「デリンジャー」(1973年)での名台詞「孫子の代まで語り草」が印象的な激シブ俳優、ウォーレン・オーツの名演も忘れてはいけません。 ペキンパー監督は、映画に人生の全てを捧げ、映画に食いつぶされた映画人の一人。考え抜かれた編集やスローモーションを多用したバイオレンス描写では、ワン・アンド・オンリーの存在であり、テーマ性やストーリーの明確さでも作家性を貫いた尊敬すべき存在です。 4本目は、クリント・イーストウッド監督・製作・主演のボクシング映画「ミリオンダラー・ベイビー」(2000年)。 幸せな家庭を知らずに育ったマギー(ヒラリー・スワンク)は、ボクシングを通して生きる価値を見出し、トレーナーのフランキー(イーストウッド)と親子よりも深い絆で結ばれていきます…。この作品に出会うまで、まさか男性映画の象徴でもある俳優クリント・イーストウッドが撮った作品をベスト10に入れようとは思いもしませんでしたが、クリント様も大家族の主。娘や孫娘への愛情が作品に表れています。 安楽死や尊厳死、宗教的な問題も取りざたされましたが、そうしたテーマが物語上にあっても無くても、マギーの境遇を思うと、本当に幸せと思える瞬間を味あうことが出来て良かったと思います。マギーの純粋で真っ直ぐな生き様に心を打たれました。 本作は低予算映画ですが、予算がなくてもよいストーリーとよい役者が揃えば、これだけの作品を作る事が出来る…というお手本のような作品。アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞、助演男優賞を受賞。映画の神様が降りてきた奇跡の1本です。 5本目は、ウィリアム・スタイロン原作のピューリッツァー賞受賞小説を、メリル・ストリープ主演で映画化した「ソフィーの選択」(1982年)。 監督は「大統領の陰謀」(1976年)や「ペリカン文書」(1993年)などサスペンスを得意としたポーランド系ユダヤ人のアラン・J・パクラ。40年代、南部からニューヨーク、ブルックリンへと出てきた青年スティンゴは、そこでソフィー (メリル・ストリープ) とネイサン (ケヴィン・クライン) に出会います。ソフィーの腕にはアウシュヴィッツ強制収容所の刻印が刻まれていました…。 20代の時に初めて観て号泣した作品です。若者の成長物語からナチスのホロコーストへと転じるドラマティックなストーリーと、メリルとケヴィンが演じる魅力的な登場人物たちに引き込まれます。メリルは本作でアカデミー主演女優賞を受賞しており、全出演作中でも代表作といってよい作品です。(本作は、なぜか日本ではDVD化されておらず、米国版を観るか、昔に発売されたビデオレンタルをレンタル店で探すしかありません。) 次回は、6本目から10本目までをご紹介します。
2012年07月10日
アカデミー賞関連作品や話題作が続々と公開された2012年上半期。今回は、その中からおススメ作8本をご紹介します。 まずは、6/13にDVD&Blu-rayが発売された「ドラゴン・タトゥーの女」(2011年)。スティーグ・ラーソン原作を「ソーシャル・ネットワーク」(2010年)のデヴィッド・フィンチャーが映画化。主演のルーニー・マーラはアカデミー賞主演女優賞にノミネート。ハリウッド・アクション大作としては上出来の、スタイリッシュで見応えのある娯楽作品に仕上がっていますが、原作者が描こうとしたスウェーデンが抱える社会問題やテーマ性は薄れてしまいました。原作本や母国スウェーデン版「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」を観ていない方は、この機会にぜひ、触れてみてください。 次は6/16にDVD&Blu-rayが発売された「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」(2011年)。ジョナサン・サフラン・フォア原作の9.11後の喪失と再生を描く同名小説の映画化で、アカデミー賞作品賞ノミネート作です。父親を亡くした少年が、父の遺品の中から出てきた鍵の秘密を探ろうと、ニューヨーク中を探検する物語。祖父や、街に暮らす人々との交流を通して少年は成長し、閉ざされた心に変化が訪れます。想像とは違った方向に話が進んでいき、思わぬラストが…。ありきたりの感動ストーリーにしていない所が魅力の作品です。 3作目は7/18にDVD&Blu-rayが発売予定の「戦火の馬」(2011年)。スティーヴン・スピルバーグ製作・監督でアカデミー賞作品賞他にノミネート。第一次大戦下のイギリス。少年アルバートと、彼が大切に育てた馬ジョーイが共にフランスの前線へ送られ、離れ離れになりながらも強い絆で引き寄せられていく感動ストーリー。子供でも観られるファミリー・ムービーなので、馬のジョーイがかなり擬人化されて描かれています。でもそこはスピルバーグ作品、語り口も滑らかに、作品世界に引き込まれるあっという間の146分です。 4作目は8/3にDVD発売予定の「人生はビギナーズ」(2010年)。「サムサッカー」(2005年)で注目されたマイク・ミルズ監督が、ガン宣告を受けた父親が息子にゲイであるとカミングアウトするという、自身の自伝的体験を映画化。「サウンド・オブ・ミュージック」(1964年)のトラップ大佐、クリストファー・プラマーが父親ハルを演じアカデミー賞助演男優賞を受賞しました。戸惑う息子オリヴァーを演じるユアン・マクレガー、オリヴァーの恋人アナを演じるメラニー・ロランも、それぞれ悩みを抱えながらも家族を受け入れていく姿を好演しています。「サムサッカー」ではオーソドックスな演出をしていたミルズ監督ですが、今回はデザイナーやミュージシャンとしての一面を作品に反映して美術や衣装、音楽をおシャレに演出したり、オリヴァーのナレーションを入れて淡々と物語を進めたりと、自身のパーソナリティをかなり作品に反映した意欲作となっています。 5作目は、8/24にDVD&Blu-rayが発売予定の「ヒューゴの不思議な発明」(2011年)。ブライアン・セルズニック原作をマーティン・スコセッシが監督したファンタジー・アドベンチャー。映画創世記に活躍したジョルジュ・メリエスやハロルド・ロイドなどへのオマージュが全編に散りばめられ、映画の誕生や歴史を知ることが出来る映画ファン必見作となっています。当時、動く映像を初めて観た人々の驚き、子供たちの羨望の眼差し、映画が人々に与えた夢や希望が、3D映像で現代に蘇えります。3D作品は数あれど、これだけ優れた使い方をしたのは巨匠スコセッシただ一人。映画を心から愛するスコセッシだからこそ成せる技でしょう。謎のからくり人形から始まる少年と少女の冒険物語が、後半、ベン・キングズレー演じるパパ・ジョルジュの物語へと移っていくため、面喰う人も多かったようですが、DVDでじっくりと観直せば、印象が変わると思います。上半期に観た映画で最も感動した上半期ベスト1に決まりの映画愛に溢れた作品です。 6作目は9/5にDVD&Blu-rayが発売予定の「バトルシップ」(2012年)。ハワイ沖での合同軍事演習中に突如、エイリアンの襲撃に遭い、日米の軍人がエイリアンと戦うという昔懐かしい魚雷戦ゲームをベースにしたSFアクションです。大味のアクション大作ですが、何が気に入ったかといえば、キャラクター配置がほぼ「宇宙大作戦(スタートレック)」に置きかえられること。戦艦といえば「スタートレック」。現に、主人公のアレックス・ホッパーは、若き日のカーク船長に似た恐れ知らずの性格で、ナガタ役の浅野忠信はスポックに当たるような頭脳派でクールな性格。「スタートレック」の1話にもありそうなストーリーとコミカルな演出。そして、クライマックスに登場するのは、ハイテク機器が制御不能になり絶体絶命の彼らを救うためにやって来た退役軍人たち。クリント・イーストウッドの「スペース カウボーイ」(2000年)以来、高齢のかっこいいオヤジたちが世界を救います。ビールのお供に最高のバカバカしくも楽しい1作です。 7作目はアカデミー賞脚本賞を受賞したウディ・アレン監督&脚本のファンタジー・コメディ「ミッドナイト・イン・パリ」(2011年)。婚約者とパリにやって来たオーウェン・ウィルソン演じるギルは、夜の街で20年代のパリへタイムスリップ。フィッツジェラルド、コクトー、ヘミングウェイ、T.S.エリオット、ダリ、ピカソなど名だたる有名人と出会います。はまり役のオーウェン、美しいマリオン・コティアール、ダリを演じるエイドリアン・ブロディなどいつもながら出演者も豪華。スノッブなウディが描くスノッブで嫌味な男ポールやレイチェル・マクアダムス演じるイネズのキャラもありがちで笑えます。ここ最近のウディ作品の中でも一押し作。劇場を見逃した方はぜひ、DVDでご覧ください。私の中では上半期ベスト2の作品です。(ソフト発売日未定) 最後は「きみに読む物語」(2004年)のライアン・ゴズリングが主演のクライム・アクション「ドライヴ」(2011年)。ウォルター・ヒル監督、ライアン・オニール主演の「ザ・ドライバー」(1978年)にオマージュを捧げたクールな演出で、監督のニコラス・ウィンディング・レフンはカンヌ国際映画祭監督賞を受賞。ジェイムズ・サリス原作のストーリーの良さもありますが、キャリー・マリガン、ロン・パールマン、オスカー・アイザックといった配役も絶妙で作品の世界観を深めています。ゴズリング演じるクールなだけではない人間味に溢れたドライバーの役作りもいい感じ。カルト作品として長く語り継がれる事間違いなしの作品です。(ソフト発売日未定) さて、6月も終わり、2012年も下半期に突入しました。楽天ラウンジのリニューアルに合わせて、私の映画紹介も終了となります。これまで、お付き合いいただき、ありがとうございました。あと残り数回のご紹介となりますが、次回からは、生涯のベスト10に入れたい作品を何作かご紹介したいと思います。最後まで、お付き合い下さい。
2012年06月30日
2012年は、お正月映画「ニューイヤーズ・イブ」と「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」で景気良く始まりました。6月現在、邦画「テルマエ・ロマエ」が50億円超の大ヒットを飛ばし、洋画は「メン・イン・ブラック3」が絶好調。映画界にもようやく明るい話題が増えてきて嬉しい限りです。 今回は、年末年始興業のお正月映画と2011年に紹介しそびれた洋画の中から、良作7本を一気にご紹介したいと思います。 まずは、「プリティ・ウーマン」のゲイリー・マーシャル監督によるお正月映画「ニューイヤーズ・イブ」(2011年)。前作の「バレンタインデー」(2010年)は恋愛オンリーでしたが、「ニューイヤーズ・イブ」では、仕事や家族、夫婦の悩みなどが大晦日の一日を舞台に描かれ、よりドラマティックでお正月にふさわしい感動ストーリーとなっています。特に娘ヒラリー・スワンク&父ロバート・デ・ニーロのエピソードや、看護師ハル・ベリーのエピソードには、ジーンときます。そんな中、サラ・ジェシカ・パーカーだけは「SATC」のセルフパロディ的役柄で、ラストに大袈裟演出で登場…。これは観てのお楽しみ。カップルにピッタリの1本です。 2本目は、シリーズ4作目となる「ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル」(2011年)。実は4作目にして、4作中、最も出来のいいおススメ作となっています。これまでの作品はトム・クルーズのプロモーション映画の色合いが濃く、チームメンバーや相手役の女優や悪役俳優も目立たずじまいのトム映画でした。でも、今回は違います。トムは、出演者全員に見せ場を与え、チームものとしても機能しています。さらに、「Mr.インクレディブル」(2004年)や「レミーのおいしいレストラン」(2007年)など、ピクサーアニメの監督&脚本を手掛けたブラッド・バードが監督したことで、トムがはじめてイーサン・ハントをセルフパロディ的に演じて笑いをとり、軽やかなアクションとテンポある演出で、トム・クルーズファンならずとも楽しめる娯楽アクションに仕上がっています。「ハート・ロッカー」(2008年)のジェレミー・レナーや、ポーラ・パットンのクールなアクションも見応えがあります。 3本目は、アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたジル・パケ=ブランネール監督による仏映画「サラの鍵」(2010年)。ナチス占領下のフランスで、フランス警察の手でユダヤ人が迫害を受けた“ヴェルディヴ事件”を基に描くタチアナ・ド・ロネ原作の映画化。クリスティン・スコット・トーマス演じるジャーナリストのジュリアは、事件の取材を通して、ユダヤ人の少女サラの数奇な半生を知ることになります。ナチスではなく、同じフランス人の手によってなされた非人道的な行為。事件を追うジュリアに自然と感情移入ができ、サラの残酷な運命と数奇な人生に思わず涙が溢れます。そしてサラと現代に生きるジュリアが繋がっていくストーリーが秀逸です。事件を風化させないためにも多くの方に観ていただきたい号泣必至の感動作です。(6/22DVD発売) 4本目は「50/50 フィフティ・フィフティ」(2011年)。実際にガン宣告を受けたウィル・ライザーによる自伝的脚本を、親友のセス・ローゲンが映画化。「(500)日のサマー」(2009年)、「インセプション」(2010年)のジョセフ・ゴードン=レヴィットが主演し、セス・ローゲンが自ら親友役を演じる他、「マイレージ、マイライフ」(2009年)のアナ・ケンドリック、「ヘルプ ~心がつなぐストーリー~」(2011年)の悪役も記憶に新しいブライス・ダラス・ハワード、そして大御所アンジェリカ・ヒューストンと芸達者な俳優陣を集めたハートフル・コメディとなっています。27歳で独身のイマドキ青年がガン宣告を受けるとはどういう事なのか…。結婚していない彼は、親や彼女に頼る訳にもいかず、自分でなんとか乗り越えようとします。シリアスな内容を笑い飛ばす演出は、かなり難しいと思いますが、本作では絶妙にマッチしていて、とても身近な事に感じられ、素直に共感出来ます。草食系も肉食系も演じ分けるジョセフですが、今回も難しい役どころを自然体で演じていて感心しました。(7/3DVD&Blu-ray発売) 5本目は、カズオ・イシグロ原作をミュージックビデオ界で活躍するマーク・ロマネクが監督した「わたしを離さないで」(2010)。「17歳の肖像」(2009年)のキャリー・マリガン、「アメイジング・スパイダーマン」(2012年)で主役のピーター・パーカーを演じるアンドリュー・ガーフィールド、「つぐない」(2007年)のキーラ・ナイトレイという英国の若手実力派が共演し、シャーロット・ランブリングが脇を固めた本格的な英国文芸作品です。オリジナルに臓器を提供するためだけに生きるクローンの物語ですが、SF色はなく、幼少期から過酷な運命を持ちながら懸命に生きる3人を詩的に描き出す青春ストーリーとなっています。ヴィジュアル重視の抑えた演出の中、キャリアの長いキーラの演技が際立っています。 6本目はキアヌ・リーヴスが主演したクライム・サスペンス「フェイク・クライム」(2010年)。無実の罪で服役した男が、出所後に本当に銀行を襲って本物の犯罪者になろうとするという異色サスペンス。キアヌが強盗を行うために銀行の隣の劇場で役者となって芝居をしたり、共演女優と恋仲になったりと、全編、ウソっぽいストーリーですが、「マイレージ、マイライフ」でジョージ・クルーニーの相手役を務めたヴェラ・ファーミガや、ジェームズ・カーンなどの共演者が大人のムードを醸し出し、全編にシニカルな笑いが散りばめられているので、なんとも不思議なトーンでついつい観てしまいます。捻りが効いて、ちょっと変わった作品が観たい方におススメです。 最後は、名匠ロマン・ポランスキーの秀作ミステリー「ゴーストライター」(2010年)。ベルリン国際映画祭銀熊賞受賞作。元英国首相(ピアース・ブロスナン)の自叙伝のゴーストライターに抜擢された作家(ユアン・マクレガー)が国家機密を知ってしまい命の危機にさらされるという極上のサスペンス。「SATC」ではコメディ路線のキム・キャトラルも、ここぞとばかりに力演をみせ、オリヴィア・ウィリアムズ、イーライ・ウォラックなど出演者も豪華共演。重厚な画面作り、オーソドックスな演出技法、大人のムード、魅力的なキャラクター描写、観客を引き込むストーリー展開、最後まで飽きさせない語り口の旨さなどなど、さすがの完成度。ブロスナンはブレア首相を思わせるアメリカびいきの役で、風刺の利いたストーリーも魅力です。 今年2月には芝居を映画にしたポランスキー監督作「おとなのけんか」(2011年)も公開。こちらはジョディ・フォスター、ケイト・ウィンスレット、クリストフ・ヴァルツ、ジョン・C・ライリーの演技だけでみせる小品ですが、ほぼ一部屋と廊下だけで展開していく物語を飽きさせずにみせる演出が光っています。彼らの演技合戦も見どころあり。あわせてご覧ください。(7/11発売) 次回は、2012年上半期の洋画おススメ作をご紹介します。
2012年06月16日
前回につづき、“2011年邦画ベスト10”の6位から10位をご紹介します。大作、話題作に限らず、埋もれがちな良作から選んだベスト10です。6位「マイ・バック・ページ」(公開:2011年5月~)妻夫木聡&松山ケンイチ共演の青春ドラマ。作家・川本三郎が自ら綴った回顧録を基に学生運動が日本を覆った1969~1972年、ひとりの若いジャーナリストが体験した衝撃の事件を描く実録ものです。当時を知らない世代の山下敦弘監督が演出しているので、今風の演出には若干、違和感を感じますが、青春ドラマに定評のある監督だけに現代の若者にも共感出来る作品に仕上げているのは、さすがです。若手俳優たちの熱演も見どころで、70年代のアメリカン・ニューシネマが好きな世代には嬉しいエピソードもあります。7位「冷たい熱帯魚」(公開:2011年1月~)1993年の「埼玉愛犬家連続殺人事件」をベースに、園子温・監督&脚本で贈るサスペンス。遺体を始末する過程を延々と映し出したり、女性の色香をねっちり撮ったりと、終始、人間の狂気をブラック・ユーモアと露悪趣味で描いた問題作ですが、実力派監督の演出手腕は見事の一言。監督独特の演技指導で俳優たちの演技を極限まで引き出しているので、吹越満、でんでんといった役者陣の鬼気迫る演技も見どころとなっています。完成度の高さは2011年の邦画の中でもピカイチですが、単にこの男性視点の素材が好きではないのでこの順位にしました。今作は観る人を選びますが、次作の「ヒミズ」(2011年)は万人におススメ出来る社会派青春ドラマです。8位「大鹿村騒動記」(公開:2011年7月~)2011年7月19日に亡くなった名俳優、原田芳雄の遺作となった阪本順治・企画&監督&脚本の人情コメディ。長野県の大鹿村に代々受け継がれている“村歌舞伎”と、それに関わる人々を描いています。とにかく、大御所俳優陣の豪華共演に目を見張ります。原田芳雄、大楠道代、岸部一徳、石橋蓮司、三國連太郎…。三國連太郎との親子共演となる佐藤浩市は、この中では“若手”。“村歌舞伎”を紹介するご当地ムービーである一方、“老い”や“死に様”もテーマのひとつとなっていて、考えさせられます。この俳優陣の配役の凄さを実感出来る世代にとってはVIPな作品です。 原田芳雄出演作品については、あらためてご紹介したいと思います。心よりご冥福をお祈りいたします。9位「少女たちの羅針盤」(公開:2011年5月~) 成海璃子&怱那汐里共演。福山市を舞台に伝説の演劇集団“羅針盤”を立ち上げた女子高生4人の青春と殺人事件を描く、水生大海・原作ミステリーの映画化。 女優映画という観点では「八日目の蝉」も良かったし、演劇&青春映画という観点では「行け!男子高校演劇部」もおバカで楽しくて捨てがたい作品でしたが、そのどちらのテイストも楽しめるのが本作。殺人事件の犯人は誰か?という謎ときと、演劇に打ち込む女子高生4人の熱血青春もの、そして若手女優陣の演技など、様々な要素が詰まって年齢を問わず楽しめる良質の娯楽映画です。(※中村蒼主演の「行け!男子高校演劇部」のラストは爆笑の連続!ぜひレンタルして観てください!)10位「明日泣く」(公開:2011年11月~) 阿佐田哲也(朝だ!徹夜だ!)名の麻雀小説『麻雀放浪記』でお馴染み、色川武大・原作小説を「不良番長」シリーズのベテラン監督、内藤誠が映画化した青春文芸ドラマ。若い頃から様々な職を転々とし、ギャンブル、ジャズ、映画、寄席を愛した無頼派作家による自伝的小説を基にした異色作となっています。低予算映画ながらムードたっぷりに作品世界を表現し、主演の斎藤工も好演しています。「不良番長」つながりで梅宮辰夫や島田陽子も特別出演。色川武大のようなアウトローな生き方は、若い時は誰もが一度は憧れるもの。世間とかけ離れた世界を垣間見れるのも、映画の醍醐味の一つ。大人のための文芸作品を観たい方におススメです。 次回は、2012年公開の洋画の中からおススメ作をご紹介します。
2012年06月10日
約6か月ぶりのご紹介となりました。 前回の告知通り、ここは遅ればせながらも“2011年邦画ベスト10”をご紹介したいと思います。 2011年の邦画興行成績は、1位の「コクリコ坂から」でも50億円に満たないという、これまでにない厳しい結果でした。(ちなみに2010年の邦画興行成績1位「借りぐらしのアリエッティ」は82.5億円。) その他、三谷幸喜監督の「ステキな金縛り」、二宮和也&松山ケンイチ共演、コミックの実写映画化「GANTZ」、TVドラマの映画化「SP 革命篇」や「相棒-劇場版II- 警視庁占拠!特命係の一番長い夜」などが順当に上位を占めました。 そんな中、フジの人気ドラマ「鹿男あをによし」のスタッフが同じく万城目学の原作を映画化した「プリンセス トヨトミ」が大ヒット。久保ミツロウ原作コミックで、テレビ東京放映時と同じ森山末來主演作「モテキ」も口コミで伸びてじわじわと成績を伸ばし、共演の長澤まさみが再ブレイクを果たしました。 今回も、そうした話題作に限らず、埋もれがちな作品の中からも良作を選んでみました。1位「一枚のハガキ」(公開:2011年8月~) 1912年生まれ。4月に御年100歳を迎え、このほど5月29日に惜しくも亡くなられた映画監督、新藤兼人が自身の体験を基に監督・脚本して描いた戦争ドラマです。2011年の邦画の中で、2位以下を大きく引き離して圧倒的に1位の作品だと思います。 出演の豊川悦司、大竹しのぶ、六平直政、大杉漣らは、人間の喜怒哀楽を全身で表現し、まるで生の芝居を観ているかのような大迫力。そんな役者たちの大芝居にも負けないハイテンションな演出が全編に漲っています。エキストラの兵士たちひとりひとりの点呼を丁寧に撮り、新藤監督が背負った仲間たちの命の重みを感じさせるシーンもあれば、男女の恋愛をユーモラスに描くシーンもあります。 生きるとは?戦争とは?生き残った新藤監督は今、何を思うのか?各シーンのひとつひとつに、一世紀を生き抜いてきた新藤監督にしか伝えられない、戦争体験者による生のメッセージが込められています。 映画監督には遺作となる作品が必ずありますが、これだけ次世代への力強いメッセージが込められた美しい作品を遺す方は、数えるほどしかいらっしゃらないと思います。 心よりご冥福をお祈りいたします。2位「探偵はBARにいる」(公開:2011年9月~) 大泉洋&松田龍平主演の男度満点のハードボイルド・ミステリー。東直己の“ススキノ探偵シリーズ”から『バーにかかってきた電話』を「新仁義なき戦い/謀殺」(2002年)やTV「相棒」シリーズの演出も務める橋本一監督が映画化。ストーリー良し。役者良し。演出最高!という、2011年の邦画中、群を抜いて面白いアクション・エンンタテインメントに仕上がっています。冒頭から、東映の深作欣二監督は当然ながら、東宝の岡本喜八監督をも思わせる男臭さと切れ味の良いアクションが炸裂。TV「傷だらけの天使」(1974~75年)や「探偵物語」(1979年)を彷彿とさせる70年代ドラマの雰囲気もガッツリ味わえます。適役の大泉洋を始め、松田龍平、浪岡一喜らのキャラクター描写も抜群。端役のチンピラたちの小芝居にまで気が配られ、出演者はみな、一様に楽しそう。興業12億円を記録し、続編製作も決定。過小評価気味の橋本一監督の実力がやっと認められてきた感あり。この東映テイストが現代の若者にも受け入れられている事も嬉しい限り。だって、誰が観てもカッコイイでしょ!橋本監督の次回映画作は6/30公開予定の「臨場 劇場版」。勾うご期待!3位「奇跡」(公開:2011年6月~) 「誰も知らない」(2004年)の是枝裕和監督が同じく子供を主演に描く感動のファミリー・ムービー。小学生漫才コンビの“まえだまえだ”の好演が微笑ましく、後半の「スタンド・バイ・ミー」(1986年)的な子供たちの冒険とその顛末に、爽やかな気分になれる感動作です。両親が離婚し、離れ離れに暮らす仲の良い兄弟二人という設定から、現在のリアルな家族像がみえてきます。二人の両親や彼らを取り巻く人々のドラマも丁寧に描き込んだ、是枝監督らしい1本です。4位「毎日かあさん」(公開:2011年2月~) 西原理恵子原作のエッセイ漫画を、元夫婦の小泉今日子&永瀬正敏共演で実写映画化したファミリー・ドラマです。ファミリー・ドラマと言っても、原作者の西原理恵子と、元夫で他界したフリー・ジャーナリストの鴨志田穣の生活を描く自伝的作品なので、ほぼリアリティ・ドラマのノリで観られます。それも、元・戦場カメラマンでアルコール依存症の夫との戦いの日々や、漫画家として原稿に追われ、子育てにも奮闘する西原理恵子の生活は想像を超えるハードさ。同じ女性として、ただただスゴイと感心します。子役を含めて配役がいいし、適度に笑いを入れてシビアな話を中和している小林聖太郎監督の演出が光っています。5位「コクリコ坂から」(公開:2011年7月~) ジブリが久しぶりに「耳をすませば」(1995年)のような珠玉の少女ものを作ってくれました。『なかよし』に連載された少女コミックを、大幅に内容を変えてアニメ映画化した宮崎駿・企画&脚本、宮崎吾朗・監督作。1963年、オリンピック前年の横浜を舞台に、16歳の少女、海と17歳の少年、俊の高校生活を描いた爽やか青春学園ドラマです。歴史ある建物、通称カルチェラタンを巡る騒動や、海と俊の恋愛などが、坂道が印象的な港町の情景と共に美しく描かれています。60年代という時代設定の作品は、とかくノスタルジーに流されがちですが、本作では、主人公たちのキャラクターが活き活きと描かれており、当時の時代の空気や人々の活気、実直な若者たちの会話が心地よく、明るく楽しくなれる作品になっています。 次回は2011年邦画ベスト10(6位~10位)をご紹介します。
2012年06月09日
2011年の洋画界は、遂に最終章を迎えた『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2』が世界興行歴代3位を記録したほか、『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』といった人気シリーズが上位を占めました。 洋画は昨年同様に豊作年で、日本では興行成績が振るわなかった作品の中にもたくさんの良作がありました。今回は、2011年に劇場公開された洋画の中から『英国王のスピーチ』『ソーシャル・ネットワーク』『マネーボール』といった話題作にも引けを取らない洋画ベスト10を選んでみました。1位『ブラック・スワン』(公開:2011年5月~)ナタリー・ポートマンが全身全霊のベスト・アクトを観せてくれた“女優映画”であり、観客の想像を超える映像世界へと導いてくれたダーレン・アロノフスキー監督の“作家主義”でもある快作。好き嫌いが分かれる作品ですが、今年観た映画の中で、これほど、普段は使っていない五感を刺激され、鑑賞後に映画を観たという充実感に浸れた作品はありませんでした。バレエを素材にしたアート映画と思わせて、心理サスペンス、ホラーを巧みに絡め、最後はスポ根映画のような力技のクライマックスで締めるアロノフスキー監督の渾身作です。2位『トゥルー・グリット』(公開:2011年3月~)アクの強い作風で知られるジョエル&イーサン・コーエン兄弟が現代に蘇らせたリアルで深みのある本格西部劇。ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ヘイリー・スタインフェルドら俳優陣の配役の妙と、彼らの味のある演技を惹きだすキャラクター描写の旨さ。笑いとアクションを交えた緩急のあるストーリー展開。同年公開の『シリアスマン』と対極をなす作品作りに、コーエン兄弟の実力を思い知る1本です。登場人物をヒロイックに描きつつも、決してただの善人には描かない所はさすがです。3位『キッズ・オールライト』(公開:2011年4月~)レズビアンの母二人と精子提供で授かった母違いの姉と弟の4人家族。幸せな家族の前に現れた生物学上の父親(マーク・ラファロ)に戸惑い翻弄される家族たちを描くホームドラマ・コメディです。アネット・ベニング&ジュリアン・ムーアというアカデミー女優たちの胸のすくような台詞の応酬に大爆笑の107分。サラリとした脚本に見えて、実は真に迫っていてドキッとすることも。人は誰にも欠点があって、失敗もするし、喧嘩もするけれど、最後にはわかりあえる…そんなリアルな家族像に大いに共感させられます。4位『ツリー・オブ・ライフ』(公開:2011年8月~)“映像の魔術師”テレンス・マリックが『ニューワールド』(2005年)以来、6年ぶりに監督・脚本した壮大なる宗教哲学考。カンヌ映画祭パルム・ドール受賞作。1950年代、テキサスの田舎町に住むある平凡な家族の日常を描きながら、マリック監督の思考は地球誕生、人類創世、死後の世界へと広がっていきます。マリック監督だけが到達した人間という存在への洞察力の考察と深遠なる生命の営みへの賛歌。彼の眼に映る世界は、神の慈悲に溢れ、静寂と穏やかな光に包まれています。マリック監督の創造の海に身をゆだね、しばし現実を忘れるひと時です。5位『アレクサンドリア』(公開:2011年3月~)実在の女性哲学者ヒュパティアの悲劇を、『海を飛ぶ夢』のアレハンドロ・アメナーバル監督が映画化。史実を大胆に脚色し、将来の総督と奴隷という二人の男性から愛された一人の女性の半生を少女漫画ばりの大メロドラマで描き上げ、観る者を酔わせてくれます。レイチェル・ワイズほか俳優陣の力演や、時代考証のしっかりとした深みのある人間ドラマ、アメナーバル監督の情熱的な語り口には見応えがあります。信念を貫いた一人の女性の生き方として、特に女性におススメです。6位『ヒアアフター』(公開:2011年2月~)クリント・イーストウッド監督が、スティーブン・スピルバーグと『硫黄島からの手紙』(2006年)以来のタッグを組んだ感動ドラマです。交通事故や津波で突然、大切な人を失くして心に深い傷を負った人々が、死と向き合い生きる希望を見出していくストーリー。様々な国の見ず知らずの人々のエピソードが、次第に惹き寄せあって一気にまとまっていく脚本は見事です。彼らを待ち受ける感動のラストに心から共感出来ます。7位『127時間』(公開:2011年6月~)落石に右腕を挟まれた青年登山家の奇跡の6日間を『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)のダニー・ボイル監督が映画化。原作者で実際の体験者であるアーロン・ラルストンの強靭な肉体と精神、ダニー・ボイル監督のポジティブでパワフルな製作姿勢、主演したジェームズ・フランコの豊かな演技力…その全ての要素が相乗効果を与え、明るく生きる希望に満ちた感動作へと仕上がっています。それにしても死が迫った時に見た、アーロンのあの不思議な体験は何だったのか…、生命の神秘を感じます。8位『リアル・スティール』(公開:2011年12月~)落ちぶれた元ボクサーが、息子が見つけた拳闘ロボットと共に戦い、親子の絆と誇りを取り戻していくというドリームワークスが贈る今年最高のファミリー・ムービー。『ナイト・ミュージアム』のショーン・レヴィ監督が描くのは、70-80年代LOVEのスポ根ドラマ。リチャード・マシスンの短編を基にした脚本を大幅に変更し、『チャンプ』(1979年)を下敷きに、クリント・イーストウッド主演『ダーティファイター』(1978年)やスタローン×ドラゴの米ソ対決が熱い『ロッキー4』(1985年)で味付け。主演はヒュー・ジャックマンとくれば、ほかに何の不満がありましょうか。無駄なシーンは一切なく、理屈抜きに楽しめるエンタテインメント映画の極み。もちろん、ロボットたちも大活躍。ちなみに『ロッキー4』ファンには、ドニー・イェン主演の香港アクション『イップ・マン 葉問』(2010年)も必見です。9位『イリュージョニスト』(公開:2011年3月~)ジャック・タチが遺した脚本を『ベルヴィル・ランデブー』(2002年)のシルヴァン・ショメ監督がアニメ映画化したジブリ公認のハートフル・ドラマ。唯一、アニメ作品から選びました。映像化不可能と思われた幻の脚本を、ここまで完璧に映像化したショメ監督のセンスの良さと完成度の高さに感服しました。50年代のパリやロンドンを再現したノスタルジックな映像が、哀しくも美しいタチの脚本を見事に表現しています。CGアニメ全盛の時代に手描きアニメのぬくもりを感じる作品です。10位『ザ・ウォード/監禁病棟』(公開:2011年9月~)『ハロウィン』(1978年)、『遊星からの物体X』(1982年)などのSF/ホラー作品で絶大な人気を誇るジョン・カーペンター監督10年ぶりの新作サスペンス・ホラー。精神病棟に送られた20歳のクリスティンの周りで起こる不可解な殺人事件。一体、何が起こっているのか…。クリスティンを演じるアンバー・ハードの男前演技や、先の読めないストーリーと驚愕のラスト。久々の大御所監督の復活が嬉しい秀作ホラーです。監督の想像力に舌を巻く『エンジェルウォーズ』ともカブる部分のある脚本で、どちらを選ぶか迷いましたが、ここは大好きなカーペンター作品を選びました。 次回は2011年邦画ベスト5をご紹介します。
2011年12月31日
落石に右腕を挟まれ、たった一人で断崖絶壁に取り残されたら…。青年登山家が体験した驚愕の6日間を『トレインスポッティング』(1996年)、『スラムドッグ$ミリオネア』(2008年)のダニー・ボイル監督が映画化。今回は、1/7にDVD&ブルーレイが発売予定のジェームズ・フランコ主演作『127時間』(2010年)をご紹介します。 27歳の青年登山家アーロン・ラルストン(ジェームズ・フランコ)は、金曜日の夜、いつものように一人でユタ州のブルー・ジョン・キャニオンへ出かけた。ところが、ロッククライミングの最中に落石に右腕を挟まれ、身動きできなくなってしまう。誰にも行き先を告げていない。水は150ccしかなく、軽装で装備も少ない。持てる知識と経験を総動員して脱出を試みるが、岩を削ればさらに腕が食い込み、ますます自体は悪くなるばかり。大声で叫んでも誰も気づかない。アーロンは、はじめて自分勝手に生きてきた自分の半生を振り返る。両親、友人、恋人、彼らの事をもっと想いやるべきだった…。衰弱しながらも、生きたい、もう一度、生き直したいという想いが強くなる。アーロンは夢とも現実ともつかない世界を見ていた。やるしかない-。生きるためにアーロンは究極の決断を下す。 アカデミー賞作品賞、主演男優賞、脚色賞等、主要6部門にノミネートされながら、惜しくも受賞を逃した2010年洋画ベスト10に入る必見作です。 まだ観ていない方の中には、この過酷で悲惨な6日間を観る勇気がないと躊躇している人もいるかもしれません。でも、この作品の監督・製作・脚本は『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー賞8冠に輝いたダニー・ボイルだと言う事を忘れてはいけません。『スラムドッグ$ミリオネア』は、貧しく悲惨な子供時代を送った青年が最後まで夢と希望を持ち続け、未来を勝ち取っていく成功物語。そんな作品を作る監督が、悲惨で暗い作品を作るはずがありません。 『127時間』は、ある青年が、どんなに過酷で苦しい状況でも決して諦めず、たった一人で逆境に立ち向かい、奇跡の生還を果たすという愛と勇気の物語です。鑑賞後には、誰もが明るく前向きな気持ちになれる感動作なのです。 ではなぜ、これほどまでに人々に感動を与える作品を作る事が出来るのか…。その答えは、これまでのダニー・ボイル作品の中にあります。 ジェームズ・フランコ演じるアーロンが元気いっぱいにブルー・ジョン・キャニオンへと向かうオープニングは、1996年のボイル監督の出世作であるユアン・マクレガー主演の『トレインスポッティング』を思い起こさせます。分割画面を多用し、軽快な音楽とテンポの良い編集で、陽気でエネルギッシュなアーロンの若さに溢れた魅力が存分に表現されています。観客の誰もがアーロンに親しみを感じた、開始から15分が経った頃、衝撃の展開が始まります。そう、アーロンの右腕が岩に挟まれるのです。このダニー・ボイルのストーリーテリングすなわち語り口の巧さは見事です。 ボイル監督は、絶望的な状況に転じても冒頭のアーロンの心の高まりを持続し続け、決して暗いトーンの物語にしません。岩に挟まれてからも、アーロンはあらゆる知識を総動員して岩を取り除くための様々な方法を試します。夜には体温保持に努め、ロープにぶら下がりながら身体を休めるなど、山岳のプロらしく冷静に行動するので観ていて安心感があります。 その後もじわじわと時は過ぎていき、寒さや飢え、嵐など、彼には様々な難題が降りかかります。この、どうすれば現状から抜け出せるのかという、主人公を追い込むサスペンスフルな展開は、『ザ・ビーチ』(1999年)や『28日後…』(2002年)でも描かれています。 自信に満ち溢れたアーロンは、他人を顧みず、ロッククライミングに対しても若さゆえの過信がありました。でも、死を意識する中で、家族や友人など大切な人々の存在に気づき、ビデオカメラに記録しながら必死に精神の冷静さを保とうとします。 ダニー・ボイル監督は、回想シーンを交えながらアーロンの心の変化を刻々と描き出しています。そして、遂には極限状態に陥った人間だけが到達する夢とも現実ともつかない世界が描かれていきます。 原作者であり、この体験をした本人であるアーロン・ラルストンのインタビューによると、アーロンとプロデューサーのジョン・スミッソンは、当初、映画化するならドキュメンタリーしかないと考えていたようです。でも、監督に決まったダニー・ボイルと長い時間をかけて信頼関係を築き、ドラマ仕立てにすることを了承したそうです。 もし、ドキュメンタリー映画を作っていたら、冒頭のアーロンの人柄を説明するシーンも、リズミカルな編集も、サスペンスフルな体験も描かれず、ただただ、厳しく辛い数日間を描いたシビアな作品になっていたでしょう。 ダニー・ボイルは、この作品を通して、人と人との繋がりの大切さや、人間の生命力の強さ、生きることの素晴らしさを表現しようとしました。彼の計算された脚本や演出によって、一人の青年の体験談が、誰もが心の底から感動し、勇気をもらえる普遍的な作品へと形作られていったのです。 そして、本作の成功に欠かせないもう一つの要因は、アーロンを演じたジェームズ・フランコの熱演です。 ジェームズ・フランコは1978年4月、カリフォルニア州生まれ。UCLA在学中に演劇に目覚め、大学を中退。TVの2時間ドラマ『DEAN/ディーン』(2001年)でジェームス・ディーン役を演じ、ゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞。『スパイダーマン』(2002年)で主人公ピーターの親友ハリー・オズボーン役で世界的に知られる若手俳優となりました。その後、『ミルク』(2008年)、『スモーキング・ハイ』(2008年)などに出演し様々な賞を受賞。コロンビア大学で修士課程を修了し、現在、イエール大学に在学中。 彼はほとんど出ずっぱりの90分の間に、人間の持つありとあらゆる感情を演じきり、見事、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされました。アーロン=ジェームズ・フランコの生命力の強さと不屈の精神に心を打たれます。 人生には思わぬ災難が降りかかることがあります。でも、アーロンは、絶体絶命の危機に直面しても、最後まで諦めずに行動し、よりよい未来を手に入れることが出来ました。実話であるだけに、考えさせられる事が多い作品です。 次回は、2011年の洋画ベスト10をご紹介します。
2011年12月26日
成海璃子&怱那汐里&森田彩華&草刈麻有。福山市を舞台に伝説の演劇集団“羅針盤”を立ち上げた女子高生4人の青春と殺人事件を描くミステリー。今回は、12/2にDVD&ブルーレイが発売された水生大海原作ミステリーの映画化『少女たちの羅針盤』(2010年)をご紹介します。 女優の舞利亜は、ネットシネマのヒロインに抜擢され、撮影のため廃墟となったホテルへ向かう。そこには、不気味な落書きがあり、改訂されたシナリオが届かないまま撮影が始まる。何かがおかしい…。4年前。演劇部に所属する瑠美(成海璃子)は、親友の梨里子(森田彩華)とかなめ(草刈麻有)を誘い、他校の蘭(怱那汐里)もスカウトして4人だけの女子高生劇団“羅針盤”を立ち上げる。やがて彼女たちのストリート・ライブは地元で評判となり、コンテストに出場するまでに成長。そんな時、殺人事件が起きる…。 水生大海の同名ミステリー小説の映画化で、邦画ファンの間で面白いと評判になったおススメ作です。 その面白さの秘密は、演劇にかける女子高生たちの青春ストーリーを展開しながら、殺人事件の謎解きというミステリー要素をうまくからめたストーリーの良さ、そして、4人を演じる若手女優のガンバリと、彼女たちを引っ張るベテラン監督の演出手腕にあります。 冒頭で4年前の殺人事件について触れ、女優の舞利亜の正体が明かされぬまま、当時の回想へと物語が進んでいきます。観客は、女子高生4人の熱血青春ストーリーを楽しみながらも、彼女たちの誰が殺されるのか?誰が殺したのか?というミステリーにも興味津々。そうやって、現在と4年前の過去とを交互に描く二重構造をとりながら殺人事件の真相が明らかにされていきます。 4人の女子高生を演じる成海璃子、怱那汐里、森田彩華、草刈麻有は、夢中になって演劇に取り組み、キラキラと輝いていく女子高生たちを女優である自分たちとオーバーラップさせるかのように熱演しています。特に、放課後の練習風景や、ストリート・ライブで劇団を形にしていくシーン、終盤のコンテストでの演技シーンは、彼女たちの情熱が観客にも伝わるほど白熱しています。 リーダーの瑠美を演じるのは、書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』(2010年)でも紹介した実力派の成海璃子。経験豊富な彼女が行動的で負けず嫌いの瑠美を演じ、仲間をひっぱることで4人に一体感が生まれ、“伝説の演劇集団”という設定に対する説得力が高まっています。 少し影のある蘭を演じるのは今年一押しの若手女優、怱那汐里(くつなしおり)。最近不調のTVドラマ界にあって視聴率29.6%を叩き出した『家政婦のミタ』では、ミタの派遣先、阿須田家の長女を演じています。 1992年12月、オーストラリア生まれの彼女は、2006年全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞し芸能界デビュー。2007年『3年B組金八先生 第8シリーズ』に出演、2008年ポッキーのCMに出演し話題に。映画では『守護天使』(2009年)、『半分の月がのぼる空』(2010年)、『BECK』(2010年)、『マイ・バック・ページ』(2011年)と話題作に立て続けに出演。着実に女優としてのキャリアを積んできている注目株です。今回は、瑠美にスカウトされる他校の生徒、蘭を好演しています。 ボーイッシュな梨里子を演じるのは森田彩華。1988年12月、千葉県出身の彼女は、子役からキャリアをスタートし、モデルを経て、2002年全日本国民的美少女コンテストの本線大会に出場。映画『メシア 伝えられし者たち』(2004年)では主役を務め、TVでは『ダンドリ。』(2006年)、『パパとムスメの七日間』(2007年)、『おせん』(2008年)、『ハンチョウ~神南署安積班~第2シリーズ』(2010年)などに出演。今回は、4人の中で一番大人びていて、そんな自分をうまく対処できずに悩んでいるという複雑なキャラを演じています。 おとなしそうで実はしっかり者のかなめを演じるのは草刈麻有。1993年4月、東京都出身の彼女はその名の通り、草刈正雄の娘。2007年『0093 女王陛下の草刈正雄』でデビューし、『蘇りの血』(2009年)、『3年B組金八先生 第8シリーズ』(2007年)などに出演。雑誌「セブンティーン」の専属モデルも務め、PV等にも出演しています。 また、女優のなつめを演じる黒川智花、瑠美が反発する演劇教師を演じる戸田菜穂の他、清水美沙、石黒賢、塩谷瞬、お笑いコンビ「アリtoキリギリス」の石井正則、前田健、金山一彦などが出演しています。 4人の個性を見事にひきだし、青春時代の輝きや演劇の面白さを生き生きと描いたのは、『西の魔女が死んだ』(2008年)、『犬とあなたの物語 いぬのえいが』(2010年)の長崎俊一監督。 1956年、神奈川県出身。高校生の時から8ミリ映画を製作し、日芸在学中の『ユキがロックを棄てた夏』(1978年)が第2回ぴあ展「自主映画制作映画展」(現PFF)で入賞。『九月の冗談クラブバンド』(1982年)で劇場映画デビュー。男闘呼組出演の『ロックよ、静かに流れよ』(1988年)、玉置浩二主演の『ロマンス』(1996年)、奥様である水島かおり主演の『ドッグス』(1997年)、桐野夏生原作×天海祐希主演の『柔らかな頬』(2000年)、山崎まさよし主演の『八月のクリスマス』(2005年)など、70年代から活躍するベテラン監督です。 本作では、4人の女優たちのキャラ分けが明確で、そろぞれに見せ場もあり、4人のアイドル映画としても機能しています。彼女たちの個性を際立たせる演出はさすがです。ただし、若干、演出スタイルが古く感じられるかもしれませんが、それ以上にストーリーに引き込まれるので、私の場合は観ているうちに慣れて気にならなくなりました。 本作はミステリー部分が少ないという意見もあるようですが、これは原作者の要望でもあったようです。この青春もののパートの方がミステリー部分よりも断然面白いので、ミステリーというよりは青春ものとして観た方がよいかもしれません。 また、ストリートでお客さんの反応を直に感じながら試行錯誤して芝居を形にしていく面白さというのもわかりやすく描かれていて、例えば、地面に赤い布を敷いて照明を工夫するだけで異空間を作れるという演出も、なるほどと唸らされます。 この作品を観て、演技に興味を持ったとか、芝居を観に行きたいと思った方も大勢いるのではないでしょうか。 ベテラン監督による手堅い演出で、2011年の邦画ベスト5に入れたい良作です。 次回は、1/7にDVD&ブルーレイが発売予定のジェームズ・フランコ主演×ダニー・ボイル監督作『127時間』(2010年)をご紹介します。
2011年12月11日
SF映画の金字塔『猿の惑星』(1968年)を基に、なぜ猿が地球を支配することになったのかを明らかにする新シリーズが始動。今回は、その第1弾にあたる『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011年)と、オリジナル版『猿の惑星』5部作などを一気にご紹介します。 『猿の惑星』(1968年)は、フランスの作家ピエール・ブールの小説を映画化した歴史に残るSF映画の傑作です。1973年までに映画シリーズ全5作が製作され、映画終了後の1974年にTVシリーズ、続いてアニメ版、さらに日本では円谷プロの『猿の軍団』なるTVドラマまで製作されるなど、その人気は絶大で、これまでに多くのノベライズ、フィギュア、グッズなどが販売されています。 2001年には『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)のティム・バートン監督が、『PLANET OF THE APES 猿の惑星』として再映画化。ラストシーンをより原作に近い形にしています。 新シリーズ『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』は、『猿の惑星』5部作とは、物語上の繋がりはありませんが、旧5部作の世界観が前提になっています。観ていない方でも充分に楽しめる作品ですが旧5部作を観ていれば、より深く楽しめる事は間違いありません。とは言え、5部作を全部観ると言うのは、かなり大変。そこで今回は、各作品の見どころを簡単にご紹介しようと思います。 記念すべき第1作『猿の惑星』(1968年)は、主演に『十戒』(1956年)、『ベン・ハー』(1959年)の名優チャールトン・ヘストンを迎え、猿が人間を支配する惑星に不時着した宇宙飛行士の体験を描いたSFサスペンスです。人間と猿の立場が逆転し、猿が洋服を着て言葉を話し、人間が言葉を失い獣のような生活をしているという異様な世界観と、映画史に語り継がれる伝説のオチで大ヒットを記録し、今も多くの人々の記憶に残っています。当時としては画期的な“猿メイク”を担当したジョン・チェンバースはアカデミー賞名誉賞を受賞。その後のアカデミー賞メークアップ賞の新設に一役買いました。また、打楽器を多用したジェリー・ゴールドスミスによる名スコアもアカデミー賞音楽賞にノミネートされています。 1作目の大ヒットを受けて製作された第2作『続・猿の惑星』(1970年)は、核戦争後の廃墟のニューヨークの地下に隠れ住みミュータント化した人間と、地上を支配する猿との戦いを描いています。製作費は約半分に落され、第1作目の主要キャラクターであるヘストンやチンパンジーのジーラ、コーネリアスの登場シーンが少ないことで批判されてしまいます。2作目の特徴は、人類の末路を辛辣に描くストーリーと、猿たちのキャラ分けにあります。ここから、チンパンジーは平和主義者(ハト派)、ゴリラは強硬派(タカ派)、オランウータンは頭脳派という位置づけがなされました。 2作目の批判をバネに、1作目に次ぐ評価を得たのが第3作『新・猿の惑星』(1971年)です。2作目よりさらに予算を削られた製作陣は、コストを抑えるため、苦肉の策で、人気キャラのジーラとコーネリアスを現代の地球にタイムスリップさせ、1作目のヘストンと同じ立場に立たせました。はじめは手厚い歓迎を受ける二人ですが、未来に猿が人間を支配する事実が判明し態度が一変。二人は息子シーザーを連れて逃亡しますが…。70年代の世相を反映した哀しいラストに涙がとまりません。 4作目『猿の惑星・征服』(1972年)は、疫病で犬や猫が絶滅し、猿がペットとなった地球が舞台。人間たちは猿の知能を上げ、ウェイターや家政婦、肉体労働へと、次第に猿たちを奴隷化していきます。ジーラとコーネリアスの忘れ形見シーザーは、リカルド・モンタルバン演じるサーカス団長アーマンドに助けられ立派に成長。しかしアーマンドが人間に殺され、シーザーは人間と戦うため立ち上がるのでした…。観客は、シーザーに感情移入しながら観ていますが、シーザーは当然ながら、同族を殺す人間ではなく、猿を救うことを選択します。この裏切りの展開に面喰う人も多かったのです。脚本的には悪くありませんが、3作目よりまたもや予算は削られ、反乱シーンは、L.A.のFOX本社ビルのあるFOXプラザ敷地内で撮影されました。 5作目『最後の猿の惑星』(1973年)は、猿と人間の大規模な戦争により荒廃した地球が舞台。文明は退化し、猿が主で、人間が従の関係にあり、ゴリラは執拗に人間を苛めていました。シーザーは人間に憎しみを持ち続ければ人間と同じ末路をたどることになると考え、共存の道を歩みます。そして、猿と人間は歴史的和解を果たすのです…。ジョン・ヒューストン、ポール・ウィリアムズといった名優たちが猿メイクで登場。5作目は、1作から4作までの歴史が塗り替えられた別オチとなっています。 多くの映画シリーズ同様、『猿の惑星』も、続編以降の作品の評価は芳しくありません。ですが、SF映画の面白さは、豪華な役者陣の出演や、派手な見せ場ばかりではなく、その時代の社会世相を反映した社会批判の精神や、未来への警鐘といったテーマも重要なはずです。 この『猿の惑星』5部作は、各作品に新たなテーマを与え、原作の世界観を活かしながら、なんとか工夫を凝らして各作品のレベルを保とうという努力がうかがえます。この機会に、ぜひ再評価して欲しいものです。 続くティム・バートン版の『PLANET OF THE APES 猿の惑星』(2001年)の見どころは、アカデミー賞メイクアップ賞をなんと7回も受賞している特殊メイクの第一人者リック・ベイカーが最新の技術で施した“猿メイク”です。 リック・ベイカーは、『狼男アメリカン』(1981年)で青年が狼に変身する過程を見事なアナログ特撮で表現し絶賛されました。“猿メイク”では、『シュロック』(1971年)を始め、『キングコング』(1976年)では自らコングを演じ、『愛は霧の彼方に』(1988年)ではマウンテン・ゴリラを、『猿人ジョー・ヤング』(1949年)をリメイクした『マイティ・ジョー』(1998年)では巨大ゴリラ・ジョーを担当。ティム・バートン監督がリック・ベイカーに特殊メイクを依頼するのは当然の成り行きでした。 オリジナル版の猿メイクは、デザイン的にはよく出来ていて私も複数のフィギュアを所有するファンの一人ですが、当時のメイクの問題は、ラテックス張りで、顔の動きに制約があったため、俳優たちはオーバー・アクションで演じなくてはいけないことでした。リック・ベイカーは、ティム・ロス、ヘレナ・ボナム=カーター、マイケル・クラーク・ダンカンといった役者たちの個性に合わせたメイクを施し、俳優たちは細かな感情表現も演じ分ける事が出来るようにしました。 また、本作には名優チャールトン・ヘストンが、チンパンジー・メイクでセード将軍の父親役でカメオ出演しています。 さて、新シリーズ『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』の見どころは、『猿の惑星』前日譚を語るストーリーと、WETAデジタル社が『アバター』の技術を発展させて描く最新CGI映像の二つにあります。 ジェームズ・フランコ演じる神経科学者のウィルは、アルツハイマー治療を研究するためチンパンジーに開発中の治療薬を投与。するとチンパンジーは驚異的な知能の発達を見せるが、突然、暴力的になったことから開発は中止されてしまう。しかし、ウィルは秘かにそのチンパンジーの子供を助け、シーザーと名付けて人間のように育てることにする。大人になったシーザーは、あるトラブルを起こし類人猿保護施設に預けられてしまう…。 主人公のシーザーは、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラムや、『キング・コング』(2005年)のコング役でもお馴染みのアンディ・サーキスが演じた映像を、“パフォーマンス・キャプチャー”で表現したCGIキャラクターになりました。また、初の試みとして直射日光の下で“パフォーマンス・キャプチャー”を行っています。シーザーの表情の豊かさや、反乱する猿たちの暴動シーンなど、迫力の映像が満載です。 こうして『猿の惑星』シリーズを辿ってみると、特撮の歴史を知ることにも繋がるのだなと気付かされます。 2/22に発売されるDVD&ブルーレイは全4種。1.「猿の惑星:創世記 ブルーレイ&DVD&デジタルコピー(ブルーレイケース)<初回限定生産>」(2枚組)2.「猿の惑星:創世記 DVD&ブルーレイ&デジタルコピー(DVDケース)<初回限定生産>」(2枚組)3.「猿の惑星:創世記 ブルーレイ&DVD&デジタルコピー+猿の惑星(1967)(ブルーレイパック)<初回限定生産>」(3枚組)4.「猿の惑星 エボリューション・ブルーレイ・コレクション<初回限定生産>」(8枚組) 「猿の惑星 エボリューション・ブルーレイ・コレクション」にはBOXだけのスペシャル封入特典として、プレミアム・カードセット(7枚組・非売品)が封入されています。 次回は、12/2にDVDが発売された成海璃子主演の青春ミステリー『少女たちの羅針盤』(2010年)をご紹介します。
2011年12月02日
名作「ロミオとジュリエット」の舞台イタリア、ヴェローナにある“ジュリエットの生家”からはじまる50年の時を超えた愛の物語。今回は、11/25にDVD&ブルーレイが発売された実話を基に贈る上質なラブ・ストーリー『ジュリエットからの手紙』(2010年)他、アマンダ・セイフライド出演作をご紹介します。 記者を目指すソフィ(アマンダ・セイフライド)は、婚約者のヴィクター(ガエル・ガルシア・ベルナル)とイタリアへプレ・ハネムーン旅行に出かけます。でも、レストラン開店に情熱を燃やすヴィクターは、ワインや食材の仕入れに夢中。仕方なく、ソフィは一人で“ジュリエットの生家”を訪れることに。そこで50年前にクレア(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)というイギリス人女性がジュリエットに出した手紙を偶然に見つけ、クレアに励ましの返事を書きます。すると、クレアは孫のチャーリー(クリストファー・イーガン)と共にヴェローナへやって来ます。そうして、クレアの50年前の恋人ロレンツォ(フランコ・ネロ)を探す旅が始まりますが…。 今も“ジュリエットの生家”に届く年間5000通もの手紙(映画上映後は4万通に膨れ上がったそうです)。そこには、恋の悩みが真剣に綴られており、“ジュリエットの秘書”と呼ばれる女性たちが世界中の悩める女性たちに心のこもった返事を送っています。 エルヴィス・コステロのアルバム「ジュリエット・レターズ」によって“ジュリエット・レター”の存在を知ったプロデューサーのキャロライン・カプランと、本作が初プロデュースとなる女優のエレン・バーキンは、“ジュリエット・レター”についての本を読んで感銘を受け、映画製作を決意。 脚本には『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2003年)でアカデミー賞にノミネートされたホセ・リベーラを、撮影監督には『アルジェの戦い』(1968年)のジッロ・ポンテコルヴォ監督を父に持ち、『ロミオとジュリエット』(1968年)や『ベニスに死す』(1971年)の撮影監督バスクァリーノ・サンティスのアシスタントを10年手掛けたマルコ・ポンテコルヴォを起用。 監督を依頼されたゲイリー・ウィニックは、優秀なスタッフ、キャストを得て、“愛の都ヴェローナ”にふさわしい普遍的な愛の物語を丹念に描き、これぞ、王道というウェルメイドされた究極のラブ・ストーリーを作り上げました。 主演のソフィを演じるのは、若手実力派のアマンダ・セイフライド。 1985年12月、アメリカ・ペンシルヴェニア州生まれの彼女はモデルからキャリアをスタート。女優に転身後、米TV『ヴェロニカ・マーズ』『Dr.HOUSE ドクター・ハウス』、映画『ミーン・ガールズ』(2004年)などに出演。2006年、TV『ビッグ・ラブ』がゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、映画『マンマ・ミーア!』(2008年)出演で一気にブレイク。その後は、ラブコメから悪女まで様々な役に挑戦しています。 ここで、アマンダ出演映画を2本ご紹介します。 10/19にDVD&ブルーレイが発売された『赤ずきん』(2011年)は、『トワイライト』シリーズのキャサリン・ハードウィックが監督したホラー・ファンタジー。恐ろしい狼のいる村で、主人公ヴァレリーの姉が殺され、村人は狼退治に乗り出します。しかし、そこには恐ろしい真実が隠されていたのでした…。アマンダは、村一番の美女ヴァレリーを演じ、婚約者がいながら幼馴染との恋に燃える女性を演じています。『トワイライト』同様、ティーン向けのおとぎ話で、アマンダの相手役シャイロー・フェルナンデスなどブレイク必至の若手俳優も要チェックです。 11/2にDVD&ブルーレイが発売された『クロエ』(2009年)は、仏映画『恍惚』(2003年)をハリウッド・リメイクしたエロティック・サスペンス。オリジナルではエマニュエル・ベアールが演じたコールガール役をアマンダが演じる、アマンダファン必見作です。大学教授である夫(リーアム・ニーソン)の浮気を心配した妻(ジュリアン・ムーア)がコールガールを雇い、夫に接近させて夫の動向を探ろうとします。すると、夫はコールガールと関係を持ってしまい、遂には最愛の息子にまで近づき…。ヨーロッパ調のムード漂う演出の中、リーアムやジュリアンといった演技派との共演など、見応えたっぷりの大人向けサスペンスです。『親愛なるきみへ』(2010年)など純愛ストーリーへの出演が多いアマンダですが、悪女役もはまっています。 さて、『ジュリエットからの手紙』に話を戻しましょう。 アマンダ演じるソフィは、記者を目指すキャリア志向の女性。ガエル・ガルシア・ベルナル演じる婚約者のヴィクターは、レストラン経営に意欲的で、ワインや食材にもこだわる、いわば料理オタク。ヴィクターは性格もよくてイイ奴ですが、彼には、彼の情熱を影で支えてくれるような家庭的な女性の方がお似合い。二人はこの旅を通してお互いの方向性の違いに気付かされます。 そんなソフィの前に現れたのは、上流階級で育ったスノッブなイギリス人青年チャーリー。祖母クレアに付き添ってヴェローナまで来たものの、祖母をそそのかした張本人としてソフィに冷たく当たります。 チャーリーを演じるのは1984年6月、オーストラリア・シドニー生まれのクリストファー・イーガン。TVスポットで彼を観た時にはさほどの魅力は感じませんでしたが、このチャーリー役は魅力的。はじめは嫌味な青年のチャーリーが、旅をするうちに次第に本当は優しい自分の内面を見せるようになります。そして、ラストには、これをせずして「ロミオとジュリエット」を語るなかれ、という大感動のクライマックスを熱演してくれます。詳しくは書けませんが、最初のキャラクターとのギャップが大きいだけに高感度大。 そして、作品を美しく彩る50年越しの恋を演じるのは、プライベートでもパートナーであるヴァネッサ・レッドグレーヴとフランコ・ネロ。 ヴァネッサ・レッドグレーヴは、年を重ねても変わらぬ美貌と品格を兼ね備えたイギリスの国民的大女優。スクリーンに映っているだけで場面がグンと引き締まります。そして、旅の終わりに再会するフランコ・ネロの登場シーンもお楽しみ。マカロニ・ウエスタンのスターを象徴する心憎い演出が待っています。実はヴァネッサとネロはミュージカル映画『キャメロット』(1967年)で初共演し、恋が芽生え、その後、同棲したものの、離別。けれども数年前に再び愛を蘇らせて結婚したという映画さながらのロマンチック・カップル。そんな二人の久しぶりの共演というだけでも、ファンにとってはお宝。さすがに息もぴったりです。 また、イタリアの美しいロケ地風景も見どころの一つ。ヴェローナ地区のヴィラ・アルヴェティやソアヴェの小さな村、アレーナ、ガルダ湖、トスカーナのアルジャーノぶどう畑、オルチャ渓谷など、観光地だけではない、イタリアの様々な情景がラブ・ストーリーを盛り上げています。 TVスポットを見れば、大体のストーリーが想像出来そうな作品ですが、ハッピーエンドに至るまでのキャラクター描写や脚本が秀逸なので、彼らの行く末が最後まで気になり、泣いたり笑ったりしながら、クライマックスまで目が離せません。 情熱的な愛の告白や、感動の再会といったラブロマンスの王道要素を照れずに展開させているのが本作の特徴。そんな基本に忠実な作りが私たちをとても心地よい気持ちにしてくれるのです。 2011年公開のラブ・ストーリーの中では、ひと際輝くおススメ作です。 最後になりますが、監督のゲイリー・ウィニックは、これまでにも、心は13歳のままで30歳の自分と入れ替わってしまった少女の恋や仕事の経験を描いたラブ・コメディ『13 LOVE 30』(2004年)や、ダコタ・ファニング主演の児童書が原作のファンタジー『シャーロットのおくりもの』(2006年)など良質な作品を手掛けています。 今後の活躍が期待されていましたが、2011年3月に脳腫瘍のため、49歳の若さで亡くなりました。心よりご冥福をお祈りいたします。 次回は、12/1に早くもDVD&ブルーレイ予約が解禁される洋画大ヒット作をご紹介します。
2011年11月29日
レズビアンの母二人と精子提供で授かった母違いの姉、弟の4人家族。一風変わった家族のひと夏の騒動を描くゴールデン・グローブ賞作品賞、主演女優賞(アネット・ベニング)受賞作が11/25にDVD発売。今回は、アネット・ベニング&ジュリアン・ムーア共演のファミリー・コメディ『キッズ・オールライト』(2010年)をご紹介します。 南カリフォルニアに住む女医のニック(アネット・ベニング)と造園業を始めたジュールス(ジュリアン・ムーア)はレズビアンの夫婦。精子提供で授かった母違いの長女ジョニ(ミア・ワシコウスカ)と長男レイザー(ジョシュ・ハッチャーソン)と平穏に暮らしていた。ところが、思春期のニックが精子提供者である生物学上の父親と会いたいと言い出し、レストラン経営者のポール(マーク・ラファロ)を探しだす。姉ジョニはポールを慕い、母ジュールスもポールと意気投合。父親代わりのニックは、父親の座を奪われていい気がしない。仲が良かった家族の中に突然入り込んできたポールの登場で、家族の関係が微妙に狂いだす…。 レズビアンの両親と子供二人というちょっと変わった現代の家族のひと夏を、シニカルに温かく描き出すホームドラマの秀作です。 監督・脚本は、1964年カリフォルニア州出身のリサ・チョロデンコ。コロンビア大学大学院映画学科で学び、同大学で教鞭をとるミロス・フォアマン監督(『カッコーの巣の上で』(1975年)、『ヘアー』(1979年)、『アマデウス』(1984年)等)に師事。監督・脚本作には、インディペンデント・スピリット賞作品賞、サンダンス映画祭脚本賞を受賞した『ハイ・アート』(1998年)、フランシス・マクダーマンド&クリスチャン・ベール&ケイト・ベッキンセールらが出演した『しあわせの法則』(2002年)、TV演出作にはレズビアンの恋愛群像劇を描いた『Lの世界』などがあります。 今回は、アネット・ベニングとジュリアン・ムーアというオスカー常連の大女優を配役し、アカデミー賞作品賞、脚本賞、主演女優賞(アネット・ベニング)、助演男優賞(マーク・ラファロ)にノミネート。本作で一気にアカデミー賞を狙える新鋭監督の一人に躍り出ました。 本作の面白さは、キャラクター設定のリアルさと、小気味良い台詞の数々にあります。レズビアン夫婦といっても、彼らの日常は、ごくありふれた一般家庭と変わらないもの。女医のニックは、家計を支え、常識を重んじ、一家の大黒柱といった感じ。パートナーのジュールスは、仕事がうまくいかずに悩んでいますが、自由奔放で子供たちのよき理解者。そして二人の娘と息子はいたってノーマル。大学進学を控えた優等生タイプのジョニは、レストランを経営するポールに対し、女の子にありがちな憧れを抱き、若い父親とのデートを楽しみます。弟レイザーは、女性にモテる、型にはまらない父親に違和感を覚え、ジョニとは対照的に嫌悪感を表します。 そうした家族の日常が、肩ひじ張らずに自然体で描かれ、たくさん笑えて、誰もが共感出来るホームドラマの一篇に仕上がっています。 出演者の中では、父親代わりのニックを演じるアネット・ベニングの演技にいつもながら感嘆します。アカデミー賞主演女優賞にノミネートされた『アメリカン・ビューティー』(1999年)や『華麗なる恋の舞台で』(2004年)など、女性らしく味のある演技に定評あるアネットですが、今回は、ショートヘアで声質も低くして、本来の女性らしさを封印し、堅物のニックを熱演しています。 一方のジュリアン・ムーアは、自由奔放な女性というお得意の役どころ。ジュールスは型にはまらないポールと意気投合。厳格なニックや仕事が上手くいかない自分へのいらだちから、ポールによりどころを求め、関係を持ってしまいます。ジュリアンは、そんな悩める中年女性を等身大に演じています。 さらに、ポールを演じるのはマーク・ラファロ。本作がオスカー初ノミネートとなりましたが、演技力は確かで、『死ぬまでにしたい10のこと』(2003年)や『エターナル・サンシャイン』(2004年)といった恋愛ドラマから、最近ではデヴィッド・フィンチャー監督作『ゾディアック』(2006年)やマーティン・スコセッシ監督作『シャッター アイランド』(2009年)など名だたる監督作にも重要な役どころで出演。今回も、気のいいイタリア系アメリカ人の青年を好演しています。 子役の二人もなかなかの顔ぶれです。大学進学を控える18歳の姉ジョニには、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)で主人公アリスを演じたミア・ワシコウスカが、ちょっぴり反抗期の15歳の弟レイザーには、『テラビシアにかかる橋』(2007年)の主役ジェスや、『ダレン・シャン』(2009年)の親友スティーブなど子役時代から経験豊富なジョシュ・ハッチャーソンが演じています。 ジュールスの浮気がバレて、大ピンチの一家.気まずいままに時は流れ、やがてジョニが大学へ進学する日がやってきます。彼らの行く末はどうなっていくのか…。 さらりと軽い調子で描かれているようでいて、良く練られた脚本で、それぞれに欠点を抱えながらも、愛すべき彼ら、家族の関係を丁寧に描き出した2011年の洋画ベスト10に入れたい1本です。 実はこの作品、アメリカでTVドラマ化が決まっており、監督のリサ・チョロデンコがパイロット版の製作をすることが決定しているそうです。5人の主要キャストはまだ未定ですが、彼らの今後が観られるのは嬉しいですね。 次回は、10/19『赤ずきん』、11/2『クロエ』、そして11/25に『ジュリエットからの手紙』と発売作品が目白押しの若手売れっ子女優、アマンダ・セイフライド出演作をご紹介します。
2011年11月22日
『チャーリーとチョコレート工場』(2005年)や『ジャイアント・ピーチ』(1996年)など映画化作品も多いロアルド・ダール原作の「すばらしき父さん狐(父さんギツネバンザイ)」がストップモーション・アニメになりました。今回は、11/2にDVD&ブルーレイが発売された、アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート作『ファンタスティックMr.FOX』(2009年)をご紹介します。 農家からニワトリやアヒルを盗む泥棒家業から足を洗い、貧乏な穴倉生活を送っていた野性ギツネのMr.FOX(ジョージ・クルーニー)は、今の生活に嫌気がさし、Mrs.FOX(メリル・ストリープ)やアナグマの弁護士バジャー(ビル・マーレイ)の反対も聞かずに丘の上の見晴らしのいい大木の家を購入し移り住みます。でも、そこは丘の反対側に、ボギス、バンス、ビーン(マイケル・ガンボン)という悪名高き農場主が住んでいる危険地帯。野性の本能に目覚めたMr.FOXは泥棒家業に戻ってしまい、農場主たちの飼育場に盗みに入るようになります。怒った農場主たちは、結束してキツネ退治に乗りだしました。果たして、Mr.FOXたちは逃げ切れるのでしょうか…。 『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』(2001年)、『ダージリン急行』(2007年)でウェス・アンダーソン監督が、自身の幼い頃からの愛読書である「すばらしき父さん狐」を思い入れたっぷりにアニメ映画化。 何しろ、これまで配役、美術、ファッション、音楽、シュールな笑いなどなど、全てに徹底的にこだわった作品を発表してきた、お洒落センスも抜群のウェス・アンダーソン監督の事、今回も、CGアニメや3D映画が全盛の時代に、あえてパペットを使ったストップモーション・アニメに挑みました。構想10年、撮影期間2年(総カット数125,280)をかけて完成させた入魂作になっています。 初のアニメ映画作品ということで、声優も実写映画さながらの顔ぶれ(声ぶれ?)を揃えました。 主人公のMr.FOXにはジョージ・クルーニー。詐欺師っぽく、いたずら好きでリーダー格のキツネは、まさにジョージ・クルーニーにぴったり。クルーニーが声を担当しているだけで、Mr.FOXがセクシーで魅力的なキツネに見えてくるから不思議です。妻のMrs.FOXには大女優のメリル・ストリープ。クルーニーの妻役が出来るならと出演を快諾したとか。 そして、ウェス映画に欠かせないヘタレ君役の息子アッシュには『天才マックスの世界』(1998年)で主人公マックスを、『ダージリン急行』で三男ジャックを演じたジェイソン・シュワルツマン。Mr.FOXの友人でアナグマのバジャーには『ライフ・アクアティック』(2005年)などウェス映画常連のビル・マーレイ。アッシュの従兄弟でスポーツ万能のイケメン、クリストファソンには監督の弟エリック・アンダーソン。農場主ビーンには『ハリポタ』シリーズの二代目ダンブルドア校長を演じた大御所俳優のマイケル・ガンボン。 その他、曲者のラットにウィレム・デフォー、体育コーチのスキップにオーウェン・ウィルソン、カイリにウォーリー・ウォロダースキー、ピーティーには本作にオリジナル楽曲を提供している元パルプのジャーヴィス・コッカー、さらに『ダージリン急行』の次男ピーターを演じたエイドリアン・ブロディもカメオ出演。 これだけの大物役者たちを集めたウェスは、なんと(!)俳優たちに野外で演技をさせて、その音声を録音するという異例の撮影方法をとりました。俳優たちは音声を録音するためだけに、実際に野原を駆け回ったり、穴を掘ったり、ニワトリを追いかけまわしたりしたのだそうです。スタジオ録音には無い臨場感溢れる音声を収録することが目的だったそうですが、なんとも贅沢な話ですね。豪華俳優陣が野原を駆け回っている姿を想像するだけでも楽しくなってしまいます…。 そもそも、監督が本作の脚本を執筆するにあたり、世界観の源となったのは、イギリス、オックスフォード近郊の町にあるダール邸(通称:ジプシーハウス)でした。監督はロアルド・ダールの未亡人、フェリシティ・ダールを訪ねて夫人の許可を得ることに成功。共同脚本のノア・バームバックと共にジプシーハウスに2週間滞在し、そこで脚本を完成させました。実際にロアルド・ダールが暮らした町や自然やジプシーハウスなどからインスピレーションを得て、脚本を執筆することが出来たのです。そのため、FOX一家が住む大木も、ジプシーハウスの近くにある実在の木をデザインしたもので、書斎の内装や小物も、全てダール家そっくりに再現されています。また、農場主のビーンは、ダール氏そっくりのキャラクターデザインとなっています。 こうして出来あがった脚本は、ブラックでウィットに富んで、登場人物たちのキャラクターが生き生きと描き込まれた、魅力的なものに仕上がったのです。監督が、小さい頃から繰り返し読み、穴掘りをして遊ぶほど夢中になったと言うだけあって、ロアルド・ダールとウェス・アンダーソン監督の世界観が見事にはまった作品となっています。 FOX家の暮らしぶり、息子アッシュの成長物語、FOX家と彼らを取り巻く愉快な仲間たちとの交流、人間とキツネとの騙し合いなど、ユーモラスかつ温かな物語が展開し、最後にはホロリとさせられます。 さらに、本作最大の魅力は、監督が凝りに凝って作り上げたストップモーション・アニメの完成度の高い世界観です。 動物たちは、監督の意向で擬人化され、人間同様に二足歩行でスーツやワンピースをお洒落に着こなしています。キャラクターやセットの色味は、緑や青を使わず、オレンジ、黄色、ベージュといった秋色で統一。パペットやセット、小さな小道具に至るまで、すべてが手作りで、Mr.FOXのスーツは、監督行きつけの仕立屋の布地を使用し、パターンも監督と同じに縫製するという気合の入れよう。 職人たちの匠の技が結集した精巧でぬくもりのあるパペットやセットの数々に、子供も大人も心惹かれずにはいられません。 ロアルド・ダールの未亡人、フェリシティ・ダール公認のストップモーション・アニメ『ファンタスティックMr.FOX』。今年の必見作です。 11/2発売のBlu-rayとDVDは、どちらも53分の映像特典を収録。映像特典を見ると、1秒間に24コマづつ撮るという、膨大な時間と根気が必要なストップモーション・アニメ製作の裏側を知る事が出来ます。こちらもぜひ、ご覧ください。 次回は、11/25にDVDが発売される、アネット・ベニング&ジュリアン・ムーアがゲイ・カップルを演じるファミリー・コメディ『キッズ・オールライト』(2010年)をご紹介します。
2011年11月19日
2011年3月12日に開通したばかりの九州新幹線をモチーフに、小学生漫才コンビの“まえだまえだ”が主演で贈る感動のファミリー・ムービーが11/9にDVD&ブルーレイ発売。今回は『誰も知らない』(2004年)の是枝裕和監督が同じく子供を主演に描く『奇跡』(2011年)をご紹介します。 九州新幹線の全線開通の日、博多から南下する“つばめ”と鹿児島から北上する“さくら”の一番列車がすれ違う瞬間に奇跡が起きて願いが叶う…。そんな噂を聞きつけた小6の航一(前田航基)と小4の龍之介(前田旺志郎)の兄弟は、離婚した両親ともう一度家族4人で暮らすため、奇跡を起こそうと計画する。兄は母(大塚寧々)と祖父母(橋爪功、樹木希林)と共に鹿児島で、弟は父(オダギリジョー)と福岡で暮らしているが、兄弟はそれぞれ両親に新しい恋人が出来ないかと監視したり、お互いに連絡を取り合ったりしながら、旅行のための資金をためていた。そして決行の日、二人の兄弟と仲間たちの冒険が始まる…。 両親が離婚し、離れ離れに暮らす兄弟が、仲間たちと起こした奇跡とは…。子供たちに癒されるのは勿論、彼らを見守る大人たちの優しさにも心が温かくなる、一人でも多くの方に観ていただきたい邦画の一押し作です。 監督は、母に置き去りにされた兄弟4人の実話を描いた『誰も知らない』で高い評価を受けた是枝裕和。長男の明を演じた柳楽優弥(当時14歳)は、カンヌ国際映画祭最年少主演男優賞を受賞し話題となりました。 本作は、同じく子供を主人公にした作品ですが、自身も父親になったという是枝監督は、今度は“まえだまえだ”の兄弟を主演に、オリジナル脚本で『スタンド・バイ・ミー』(1986年)のような子供たちの冒険と成長の物語を描き出しました。 本作の一番の魅力は、何といっても主演の“まえだまえだ”二人のパーソナリティにあります。二人は映画初主演だそうですが、普段から漫才の舞台に出ているだけあって、自然体で堂々たる演技をみせています。是枝監督はオーディションで彼らを気に入り、彼らのキャラクターに合わせて、脚本を書き変えたほど。真面目でしっかりした性格の兄と、人懐っこくてクラスの女子からも人気者の弟という、よくありそうな兄弟の対比が鮮やかに描き分けられていて、二人は息の合った演技で微笑ましい兄弟愛を見せてくれます。演技を超えた二人の絆の強さや、持ち前の明るさと行動力に、誰もが元気をもらえる作品です。 ただし、物語は二部構成になっていて、彼らの冒険の前には、兄弟たちが現在、置かれている状況や、家族それぞれの暮らしぶりが淡々と描写されています。 是枝監督は、これまでも『誰も知らない』や『歩いても 歩いても』(2007年)で、現在の家族の姿をドキュメンタリー・タッチに綴っており、今回も、単なる子供たちの冒険物語ではなく、あくまでも現代のある家族の肖像を描写する事が、一つのテーマとなっています。 離婚後に鹿児島の実家に出戻り、シングルマザーとなった母。和菓子職人としてもう一度、和菓子作りに挑戦したいと試作品作りに夢中の祖父。売れないミュージシャンで、定職につかず、仕事を転々としながら夢を追い続ける父。 兄弟二人は、そんな大人たちの様々な思いを子供ながらに受け入れつつも、本当は家族4人でもう一度暮らしたいと願っています。そんな健気な二人の起こした行動に、胸が熱くなります。 そし後半、子供たちはついにそれぞれの友達と共に冒険の旅に出発します。 友達のキャラクターはあまり深くは語られませんが、彼らもそれぞれに家の事情を抱えていたり、将来の夢があり、兄弟と同じように奇跡を起こしたいと考えています。『誰も知らない』で子役の扱いにも慣れている是枝監督は、それぞれのキャラや特徴を短いエピソードに上手く盛り込み、個性を出しています。 冒険中の出来事は、まさに現実に起きた奇跡と言えるもの。仲間たちと旅をし、様々な経験をしながら、子供たちは自分たちの想いについて考え、成長していきます。彼らの夢は叶わない夢だったり、実現可能な夢だったりと様々。 果たして、彼らは無事に一番列車がすれ違う場所に辿りつけるのか…、そして彼らに奇跡は起こるのか…。 ぜひ、この結末をご自身の眼で確かめてください。 11/9に発売されるDVD&ブルーレイは全3種。1.「奇跡DVD限定版(初回限定生産)」(DVD2枚組+封入特典)2.「奇跡DVD通常版」(DVD1枚組)3.「奇跡Blu-ray」(Blu-ray1枚組)DVD限定版は、特製スリーブ、インナージャケット仕様でブックレットやポスターが封入。特典ディスクには、メイキングや岸田繁(くるり)と是枝裕和監督の対談などの映像特典が満載です。 次回は、11/2にDVD&ブルーレイが発売される、ロアルド・ダール原作の「すばらしき父さん狐」をアニメ映画化した『ファンタスティックMr.FOX』(2009年)をご紹介します。
2011年10月30日
世界中で愛されているキャラクター、スヌーピーは、2010年に生誕60年を迎え、ますます人気が高まっています。今回は、そんなスヌーピーと仲間たちが活躍する名作アニメをご紹介します。 ビーグル犬のスヌーピーは、アメリカのチャールズ・モンロー・シュルツが生みだした連載コミック「ピーナッツ」に登場するキャラクターです。コミックでは、スヌーピーの飼い主であるチャーリー・ブラウンを中心に、妹のサリー、友人のライナス、ルーシー、ペパーミント・パティといった個性的な子供たちが繰り広げる愉快な日常生活が描かれています。 まずは、「ピーナッツ」の歴史を少しだけ、ご紹介しておきましょう。 1950年に新聞連載が始まり、数々の賞を受賞。1965年には初のアニメーション番組「A Charlie Brown Christmas」が製作され、エミー賞を受賞したのを始めに、5度のエミー賞に輝きました。 国民的キャラクターとなったチャーリーとスヌーピーの名前は、1969年、アポロ10号の指令船と月着陸船の名前に採用されるまでになりました。 1984年には、「ピーナッツ」の連載コミック掲載紙が2,000紙に到達し、ギネスブックの世界記録に公認。1996年には、ハリウッドのウォーク・オブ・フェイムにチャールズ・シュルツの“星”が登場。故ウォルト・ディズニーの横に今も並んでいます。 日本では、1967年に詩人、谷川俊太郎の翻訳でコミックが出版され、1968年からサンリオがキャラクター商品を販売開始。1972年には、NHKで日本語吹替え版のアニメ放送が開始されました。この吹替え版は、谷啓がチャーリー、うつみ宮土理がルーシー、野沢那智がライナス、松島トモ子がサリーを担当するなど、当時、観ていた方にとっては思い入れの深い吹替えシリーズになっています。 小粋なピアノジャズが流れたり、大人には台詞がなく、変わった擬声音で表現するなど、演出もかなり斬新なものでした。 「ピーナッツ」の主人公は子供たちですが、描かれている世界は意外とシュールです。失敗ばかりのチャーリー、いじわるなルーシー、勉強嫌いのパティなど、それぞれの欠点もしっかり描かれています。スヌーピーも、ちゃっかり者で食いしん坊だったりと、ただのかわいい飼い犬ではない所が魅力。コミックは新聞連載されていただけあって、実は大人になってから読んだ方が、より深く楽しめる人生訓が盛り込まれています。 今回ご紹介する名作アニメは、その中から大人も子供も楽しめる3作品です。 1作目は、ハロウィンに家族で観たい『スヌーピーとかぼちゃ大王』(1966年)。 お気に入りの毛布をいつも手放さないライナスは、ハロウィンにはかぼちゃ大王が現れると信じて、かぼちゃ畑で待ち続けます。チャーリーの妹サリーも仮装行列に参加せず、大好きなライナスにつき合います。一方、チャーリーはみんなと一緒に仮装して街に繰り出しますが、ついていないチャーリーは果たしてお菓子をもらえるのでしょうか…。 ハロウィンをそれぞれに楽しむピーナッツの仲間たちを描く一篇。子供たちにとって、一大行事であるハロウィンの1日が垣間見られて楽しい作品です。 2作目は、アメリカの祝日、感謝祭を描く『スヌーピーの感謝祭』(1973年)。 チャーリー・ブラウンは、毎年、おばあちゃんの家で感謝祭を祝うのを楽しみにしていますが、今年はペパーミント・パティがチャーリーの家で感謝祭のパーティーをすると決めて、みんなを集めてしまいます。スヌーピーは、大量のジャムサンドとポップコーンを作ってみんなにふるまいますが、結局は全員でおばあちゃんの家に行くことになり、スヌーピーはお留守番をさせられます。がっかりするかと思ったら、スヌーピーはちゃっかり、自分用の七面鳥を隠していたのでした…。 スヌーピーが大活躍する作品です。チャーリーは、今回も自分の考えを言えずに、人の意見に押し切られてしまいます。子供の世界とは言え、悩み多きチャーリーや仲間たちを見ていると、大人は笑いながらも共感してしまいます。 3作目は、初アニメ化作品の『スヌーピーのメリークリスマス』(1965年)。 いつもながら、仲間たちから馬鹿にされっぱなしのチャーリー・ブラウン。何をやっても失敗ばかり。でも、世の中はお金じゃないとばかりに、チャーリーは小さなもみの木を買って家の前に飾ります。最後には、そんなチャーリーの事を見直した仲間たちは、みんなで仲良くクリスマス・ソングを歌います…。 クリスマスの商業主義を皮肉ったブラックな作品です。チャーリーには気の毒なエピソードですが、最後には、仲間たちにも認められ、クリスマス・ソングで締めくくるクリスマスにぴったりのいいお話です。 どの作品を観ても、自分の子供時代を思い出してほーっと癒されます。それぞれDVD&Blu-rayが発売されています。 また、「ピーナッツ」のコミックに興味を持った方には、入門編として50周年記念で出版された「スヌーピーの50年 世界中が愛したコミック『ピーナッツ』」がおススメです。 キャラクター商品しか知らないという方は、ぜひ、コミックやアニメに触れてみてください。 次回は、11/9にDVD&ブルーレイが発売される是枝裕和監督の感動ドラマ『奇跡』(2011年)をご紹介します。
2011年10月17日
『ぼくの伯父さん』(1958年)のジャック・タチが娘のために遺した脚本を、『ベルヴィル・ランデブー』(2002年)のシルヴァン・ショメ監督がアニメ映画化。今回は、10/8にDVD&ブルーレイが発売されるジブリ公認のハートフル・ストーリー『イリュージョニスト』(2010年)をご紹介します。 1950年代のパリ。老手品師のタチシェフは、寂れた劇場や場末のバーを巡るドサ回りで細々と暮らしていた。ある時、スコットランドの離島のバーで、貧しい少女アリスと出会う。アリスはタチシェフの手品を見て魔法使いだと思い込み、島を離れるタチシェフについてきてしまう。エジンバラにやって来た二人は、言葉が通じないながらも一緒に暮らすようになり、タチシェフは働いたお金で服や靴を買っては、アリスに魔法の呪文と共にプレゼントするのだった…。 かつての栄光は消え去り、落ちぶれた生活を送る孤独なタチシェフの前に、突然現れた純粋な少女アリス。タチシェフは、自分を慕ってついてきてくれたアリスに、実の娘の面影を重ね、アリスとの生活によって、生きる張り合いを取り戻していきます。やがて、アリスは美しい娘へと成長し、恋を経験します。アリスが恋人と幸せそうに歩く姿を見届けたタチシェフは、ある決意をするのでした…。 この美しくも悲しい物語を書いたのは、フランスのエンターティナー、ジャック・タチ(1907年10月9日-1982年11月5日)。 若い頃からパントマイムで舞台に立ち、1936年の短編映画『左側に気をつけろ』に出演し映画の道に入りました。長編映画デビュー作『のんき大将脱線の巻』(1947年)を監督・脚本・主演し、その後、タチの自作自演による“ユロ氏”のキャラを確立。ユロ氏が様々な騒動を起こす『ぼくの伯父さんの休暇』(1953年)はアカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネート、続く『ぼくの伯父さん』(1958年)はアカデミー賞外国語映画賞を受賞。その他、10年がかりで莫大な予算をかけて製作された『プレイタイム』(1967年)、低予算の『トラフィック』(1971年)などがあります。 ジャック・タチは、自ら演じたユロ氏のひょうひょうとして、憎めないキャラクターとはうらはらに完璧主義者だったそうで、共演者たちへの演技指導や、舞台美術、衣装などにこだわり、タチならではのエスプリを感じさせる作品世界を創り上げていったといいます。 そんな完璧主義者のタチが娘のために遺した脚本は、実写での映画化は不可能に久しく、これまで半世紀にわたってフランス国立映画センターに眠っていたのだそうです。 その脚本を、詩情豊かな美しいアニメーションとして世に送り出したのは、『ベルヴィル・ランデブー』(2002年)がアカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされたシルヴァン・ショメ監督。 シルヴァン・ショメはフランスのアニメーション作家。“バンド・デシネ”と呼ばれる大人向けのコミックを製作しながらアニメーターの仕事を初め、1991年、初のアニメーション映画『老婦人とハト』がアカデミー賞短編アニメーション映画賞にノミネート。続く『ベルヴィル・ランデブー』が世界で高い評価を受け、日本ではジブリが、優れた外国アニメーションを紹介するコレクションの1本としてDVD化しました。 シルヴァン・ショメ自身がジャック・タチの大ファンということで、ジャック・タチのご遺族も、ショメの作風を気に入り、アニメーション製作が決定したのだそうです。 そうして出来あがった作品は、ジャック・タチのファンにとっても涙が出るほど、素敵なものでした。タチシェフのキャラクター造形は、まるでユロ氏=ジャック・タチが蘇ったかのように見事に表現されています。 そして、シルヴァン・ショメが創り上げた映像世界のノスタルジックな美しい情景。50年代のロンドン、パリ、スコットランド、エジンバラと、それぞれの自然や街や、そこに暮らす人々の温かさ…。 シルヴァン・ショメの手書きによるアニメーションでなければ、ここまで再現する事は出来なかったであろうイマジネーションに溢れた映像に、ただただ、ため息が出るばかりです。 『ベルヴィル・ランデブー』とは全く異なる、ファンタスティックでゴージャスな映像を楽しむ事が出来ます。このタチとショメが融合した絵画のような美しい作品は、今年必見の1本です。 次回は、ハロウィン、クリスマスなどを題材にしたスヌーピーの映画作品をご紹介します。
2011年10月07日
死に直面し心に深い傷を負った人々が、死と向き合い生きる希望を見出すまでのヒューマン・ストーリー。今回は、10/5にDVD&ブルーレイが発売予定のクリント・イーストウッド監督作『ヒア アフター』(2010年)をご紹介します。 パリで活躍する美人キャスターのマリー(セシル・ドゥ・フランス)は、恋人とのバカンス中に東南アジアで津波にのみ込まれる。マリーは奇跡的に助かるが、呼吸が止まった時に見えた“ヴィジョン”が頭から離れず、自ら調査を始める。サンフランシスコで暮らすジョージ(マット・デイモン)は、霊能者として活躍していた過去を封印し、孤独な生活を送っていた。ロンドンに暮らす少年マーカス(フランキー&ジョージ・マクラレン)は、交通事故で双子の兄、ジェイソンを突然失う。マーカスは兄ともう一度話すため、霊能者を訪ね歩くがいずれも偽物だった。そんな時、閉鎖されたジョージのウェブサイトを見つける。そして、マリーとジョージは、運命に引き寄せられるようにロンドンへと向かった…。 オリジナル脚本を手掛けたのは、『クイーン』(2006年)がアカデミー賞脚本賞に、『フロスト×ニクソン』(2008年)がアカデミー賞脚色賞にノミネートされたピーター・モーガン。製作総指揮のスティーブン・スピルバーグはこの脚本を気に入り、クリント・イーストウッドに監督を依頼。スピルバーグとイーストウッドという二大巨匠による、『硫黄島からの手紙』(2006年)以来のタッグが実現しました。 物語の冒頭、東南アジアでマリーが津波にのみ込まれるシーンがありますが、これはインドネシア西部スマトラ島沖地震津波をリアルに再現したものです。 日本では2月より劇場公開されていましたが、東日本大震災の発生を受けて、このシーンがふさわしくないということで、公開が打ち切られました。 これを受けて監督のクリント・イーストウッドは「日本が直面している惨状と喪失は理解の範疇を超えている。(省略)」との声明を発表し、『ヒア アフター』のDVD収益の一部が義援金として日本赤十字社に寄付されました。 クリント・イーストウッド監督の前作『インビクタス/負けざる者たち』(2009年)は、マンデラ大統領の半生を軸に、スポーツを通した人種対立の克服を描いた陽性のハリウッド作品でしたが、今回は“死後の世界”を描き、前作とは全く趣の異なる作品となっています。 しかしファンタジー色やオカルト色が強いかといえば、そうでもありません。確かに“死後の世界”があるとは肯定し、人々の身近にいつも死者の存在がいると思わせる描写がありますが、本作のテーマは、それよりも、それぞれに死を間近に感じた三人を通して、生きることの大切さを描いた人間ドラマにあるのです。 主人公の霊能者ジョージを演じるのは、前作『インビクタス/負けざる者たち』からイーストウッド映画連続出演のマット・デイモン。ジョージは相手に触れただけで、その人の身近にいる死者の存在や彼らの想いを感じる事が出来るという特殊能力を持っています。でも、その能力のために、人々から好奇の目で見られ、彼の兄でさえ、ジョージの能力を商売に利用しようとします。 しかしジョージ自身は、霊能者であることを隠し、人並みの静かな生活を望んでいます。ある日、料理教室でブライス・ダラス・ハワード演じるメラニーと出会い、つかの間の幸せを手にするのですが、ジョージの能力が原因で、メラニーは去ってしまいます…。人の良さそうなマットが演じるジョージとメラニーはお似合いだっただけに、観ている方はがっかりの展開です。 一方、 キャスターのマリーを演じるのは、『スパニッシュ・アパートメント』(2002年)でオドレイ・トトゥと共演したセシル・ドゥ・フランス。津波に巻き込まれ、生死の境をさまよっている時に見た“ヴィジョン”を確かめようと、自ら取材し、本を書きますが、周囲の目は冷たく、彼女もまた、ジョージと同じように変人扱いされてしまいます。 また、マリーが訪れるホスピスの医師役には、『ブラック・サンデー』(1977年)で炎のテロリスト、ダーリアを演じたマルト・ケラーがゲスト出演し元気な姿をみせています。 そして、三人の中でも一番、感情移入してしまうのが、双子の少年マーカスとジェイソン。兄のジェイソンが突然の事故で亡くなり、母からも引き離されて里子に出されたマーカスは、兄の形見の野球帽を片時も離さず、霊能者を訪ね回ります。双子を演じたのは、フランキー&ジョージ・マクラレン兄弟。クリント・イーストウッド監督は、『チェンジリング』(2008年)など毎作、子役の使い方が抜群です。フランキーとジョージも、双子であることを活かして二人二役を演じているそうで、二人とも活発な兄のジェイソンと、おとなしい弟マーカスをうまく演じ分けています。マーカスが霊能者を訪ねるシーンは、霊能者のウソを笑い飛ばす、ちょっとした息抜きシーンになっています。 前半は、三人それぞれの胸が痛くなるようなエピソードが交互に描かれ、観客は彼らの行く末がどうなるのかとヤキモキさせられますが、そこはクリント・イーストウッド監督のこと。前半は『真夜中のサバナ』(1997年)に近いゆったりとした語り口で、これでもかと三人に感情移入をさせておいて、後半で『グラン・トリノ』(2008年)の如く、一気に物語が急展開します。そして、観客の意表を突く感動のクライマックスへ…。 三人がロンドンで出会い、どのような関わりを持つのか?彼らにはどんな運命が待ち受けているのか?クリント・イーストウッド監督は、意識的に省略を多用しているので、三つの物語の時間経過やつなぎは判りずらい部分もありますが、上映時間の2時間はあっという間。ラストには「もうこれで終わってしまうの?」「その先がもっと見たい!」と思わせてくれます。 ちなみに本作はチャールズ・ディケンズの小説が脚本の隠し味となっています。マット演じるジョージはディケンズが好きな設定で、マーカスのエピソードは「オリバー・ツイスト」を思わせます。そして最後には「クリスマス・キャロル」のようなハッピーエンドがあなたを待っています。 ハリウッドの生きる伝説、クリント・イーストウッド監督が贈るラブ・ファンタジー。元気が欲しい方におススメの心温まる感動作です。 次回は、10/8にDVD&ブルーレイが発売予定のシルヴァン・ショメ監督が贈るアニメーション『イリュージョニスト』(2010年)をご紹介します。
2011年10月04日
X-MEN誕生の秘密が明かされるシリーズ第5弾!今回は9/28にDVD&ブルーレイが発売されたアメコミ映画化『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年)をご紹介します。 国際情勢が緊迫する1960年代初頭のアメリカ。強力なテレパシー能力を持つチャールズ・エグゼビア(ジェームズ・マカヴォイ)は、金属を自由に操るエリック・レーンシャー(マイケル・ファスベンダー)と出会い、お互いの友情を深めていった。チャールズは、世界中のミュータントたちを迎え入れて、その能力を平和のために役立てようとするが、人類滅亡を企むセバスチャン・ショウ(ケビン・ベーコン)率いる“ヘルファイヤー・クラブ”に襲撃されてしまう。セバスチャンは元ナチスの科学者でエリックの母の仇でもあった。チャールズとエリックは人類を救うため、セバスチャンとの戦いに挑む…。 遺伝子の突然変異により出現したミュータントたちの活躍を描くマーベル・コミック・ヒーローのX-MEN。シリーズ5作目にあたる今回は、映画版『X-MEN』の生みの親であるブライアン・シンガーが製作し、『キック・アス』のヒットで大抜擢されたマシュー・ヴォーンが監督。“プロフェッサーX”ことチャールズと、“マグニートー”ことエリックの若き日の出会いから、なぜお互いが対立することになったのかを語る前日譚となっています。 “プロフェッサーX”と“マグニートー”の間に一体何があったのか?X-MENはどのように誕生するのか?など、原作ファンならずとも、かなり興味を惹かれる内容ですが、これが、プロの脚本はさすがだなぁと感心するほど、一本の映画の中にうまくまとめられています。 シリーズのファンの方は、「なるほど、そう来たか!」とストーリーの繋げ方に感心したり、オリジナルメンバーのカメオ出演シーンにニヤニヤしたりしながら楽しむ事が出来ます。 そして、X-MENを詳しく知らない方は、幼い頃からミュータントであることを隠し、悩みながら生きてきた彼らが、同じ仲間と出会い、正義に目覚めていく姿を描いた青春ドラマとして観る事が出来ます。 もちろん、これまでのシリーズ最大の魅力である、彼らの特集能力を駆使したアクションの見せ場も満載です。キャラクターいじりのコミカルなシーンも忘れてはいません。 前日譚を描く映画といえば、『スター・ウォーズ』サーガを筆頭に、『バットマン』『スター・トレック』など数多くあり、最近では10/7公開予定の『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(2011年)も全米大ヒットを記録しています。 『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』の場合は、『スター・ウォーズ』サーガと同様、3部作となる予定。本作はその序章で、若きメンバーたちの活躍を予感させるエンディングに、次回作への期待が膨らみます。 『スター・ウォーズ』新3部作では、ダースベイダーことアナキン・スカイウォーカーをヘイデン・クリステンセンが、クイーン・アミダラをナタリー・ポートマンが演じ、スター俳優の仲間入りを果たしました。 『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』でも、意外とはまっているのが主要メンバーを演じる俳優たちです。 “プロフェッサーX”ことチャールズ・エグゼビアを演じるのは、『つぐない』(2007年)、『ウォンテッド』(2008年)のジェームズ・マカヴォイ。大御所俳優のパトリック・スチュアートとは一見、似ても似つかない配役ですが、誠実で正義感に溢れたマカヴォイの演技には説得力があります。 宿敵“マグニートー”ことエリック・レーンシャーを演じるのは、『イングロリアス・バスターズ』(2009年)に出演した1977年、ドイツ・ハイデルベルグ出身のマイケル・ファスベンダー。人類との共存か敵対かの狭間で揺れながら、チャールズとは違った道を選ぶことになる最もドラマティックなキャラクターを、魅力的に演じています。 さらに、話題となっているのは、人気キャラクター“ミスティーク”ことレイブン・ダークホルムを演じるジェニファー・ローレンス。1990年、アメリカ・ケンタッキー州ルイヴィル出身の彼女は、『ウィンターズ・ボーン』(2010年)で、いきなりアカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、今、最も注目されている若手演技派女優です。レイブンは、はじめは能力を封じ込め、人間として生きようとしていましたが、エリックと出会い、本当の自分に目覚めていきます。 その他、悪役セバスチャン・ショウにケビン・ベーコン、エマ・フロストにジャニュアリー・ジョーンズなど、新旧スターが共演しています。 アメリカン・コミックの数ある映画化作品の中でも、人気が高い『X-MEN』の新シリーズ。若きミュータントたちの活躍をお楽しみください。 9/28発売のDVD&ブルーレイは全4種。1.X-MEN:ファースト・ジェネレーション(DVDケース)(Blu-ray1枚+DVD1枚+デジタルコピー)2.X-MEN:ファースト・ジェネレーション(ブルーレイケース)(Blu-ray1枚+DVD1枚+デジタルコピー)3.X-MEN:ファースト・ジェネレーション ブルーレイ・コレクターズ・エディション(Blu-ray1枚+DVD1枚+デジタルコピー+封入特典)4.X-MEN:ファースト・ジェネレーション ブルーレイBOX(Blu-ray5枚+DVD1枚+デジタルコピー) デジタルコピーは2012年9月28日までの期間限定特典です。Blu-rayには、ミュージック・トラックや未公開シーン集などの特典映像を収録。3のコレクターズ・エディションは、スペシャルアウターケース仕様で封入特典として非売品オリジナルブックとメモリアル・フィルムが封入されます。4のブルーレイBOXは、『X-MEN』『X-MEN2』『X-MEN:ファイナル・ディシジョン』『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』のシリーズ5作を収納。すべて初回生産限定となっていますので、お早めにご購入ください。 次回は、10/5にDVD&ブルーレイが発売予定のクリント・イーストウッド監督作『ヒア アフター』(2010年)をご紹介します。
2011年09月28日
80年代にスピルバーグ映画を観て育った方なら、この映画の予告編を観て、久々にワクワクしたはず。今回は、12/2にDVD&ブルーレイ発売が決定したSFファンタジー『SUPER 8/スーパーエイト』(2011年)をご紹介します。 1979年夏、保安官の父(カイル・チャンドラー)と暮らす14歳の少年ジョー(ジョエル・コートニー)は、事故で母親を亡くし、心に傷を負っていた。ジョーは親友のチャールズ(ライリー・グリフィス)や友人たちと8mmカメラでゾンビ映画を撮ることに夢中だった。ある日の夜、親に内緒でアリス(エル・ファニング)が運転してきた車に乗り込み、線路沿いで撮影していた6人は、米軍の物資を積んだ列車と車が激突する瞬間を目撃してしまう。列車が脱線し大惨事となった現場で、彼らはただならぬ気配を感じ逃げ帰る。持ち帰った8mmカメラには、貨物コンテナから出ようとする何かが映っていた…。 『クローバーフィールド』(2008年)を製作し、新生『スター・トレック』(2009年)を製作・監督したハリウッドの売れっ子プロデューサー、J・J・エイブラムスが、スティーヴン・スピルバーグ製作の下、監督したのが『SUPER 8/スーパーエイト』です。 出来あがった作品は、まさにスピルバーグの『E.T.』(1982年)や『未知との遭遇』(1977年)と、J・Jの『クローバーフィールド』を合体させたようなSFファンタジーに仕上がっていました。 スピルバーグ作品の醍醐味と言えば、これまでに観たことの無い映像体験、『JAWS/ジョーズ』(1975年)や『宇宙戦争』(2005年)のようにドキドキハラハラの恐怖、『E.T.』のように子供たちの友情や冒険、親子の愛情といった繊細な人間ドラマなどが挙げられます。そして、ラストでは、誰もが地球外生物とのコンタクトを信じて疑わないようになって、大きな感動と共に「映画を観た」という充実感に満たされます。 では『SUPER 8/スーパーエイト』はどうでしょう。 子供たちが体験する列車事故の恐怖は、『宇宙戦争』で観た宇宙人の襲撃シーンのようにリアルで、スピルバーグ映画のような演出が味わえるのです。 また子供たち6人、ひとりひとりのキャラクター描写も秀逸で、中でもジョーとアリスの恋や、ジョーと父親との絆、アリスと父親との関係なども丁寧に描写されています。 主人公のジョーは、『E.T.』のエリオット(ヘンリー・トーマス)を彷彿とさせる繊細そうな美少年だし、ダコタ・ファニングの妹エルが演じるアリスも、大人びた女の子としてキュートに描かれています。 貨物に積まれているものの正体は何なのかを想像させるサスペンスフルな展開、情感に訴える物語など、スピルバーグ世代の方は、それだけでも満足出来る要素がたくさん詰め込まれています。 評価が分かれるのは、謎の真相を描く後半部分です。 突然の停電、街から犬が消え、9人が行方不明という不可解な事件が多発し、誰もが“何か”の存在を想像するのですが…。この“何か”は『トランスフォーマー』的であり、彼らの目的は『第9地区』(2009年)の展開と似通っていて、ことの真相はTVシリーズ『FRINGE/フリンジ』の1話程度にさらりと説明されて終わってしまいます。ラストはきれいにまとめているものの、大作を観たという感動や充実感を求めてしまうと、物足りなく感じてしまうかも。 でも、ラストまで観てみると、そもそも『SUPER 8/スーパーエイト』は『E.T.』のような地球外生物との交流をテーマにしているのではなく、謎解きに至るまでのサスペンスや子供たちの活躍、父と子の和解の方がメインテーマであることがわかります。 ですから、やはりスピルバーグ映画のオマージュ作品として、懐かしく観ていただくのがよいと思います。 エンディングには、少年たちが夢中になって撮ったゾンビ映画の完成版が流れ、これが、ちょっとしたお楽しみになっています。 余談ですが、先日、30代前半の若者3人がうちに遊びに来た時のことです。彼らはすでに70~80年代のスピルバーグ作品をリアルタイムに観ていない世代。もちろん、タイトルは知っているけれど、『E.T.』はTVで小さい頃に観たきりで、『未知との遭遇』は観ていないというのです。 そこで、早速、80インチのスクリーンにブルーレイを投影し、『未知との遭遇』のラスト30分を鑑賞すると、「やっぱりスピルバーグはすごいですねー」「スピルバーグ作品は観るべきですねー」と興奮気味の反応がかえってきました。 オマージュ作品もよいですが、やっぱり、この機会に『E.T.』や『未知との遭遇』も、あらためて観直していただきたいと思います。きっと、新しい発見があるはずです。 12/2発売のDVD&ブルーレイは、『SUPER 8/スーパーエイト ブルーレイ&DVDセット』(Blu-ray1枚+DVD1枚)と、『SUPER 8/スーパーエイト』(DVD1枚)の2種。 DVDには、特典として監督ほかによる音声解説と、映像特典「SUPER 8に懸けた夢」「訪問者の生命」「Easter Egg(2種)」(約29分)を収録予定。また、Blu-rayには、監督ほかによる音声解説の他、「列車事故の解剖」(約18分)、削除シーン(約12分)、映像特典(約97分)を収録予定です。 次回は、9/28にDVD&ブルーレイが発売予定のアメコミ映画化『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年)をご紹介します。
2011年09月16日
2011年4月よりTBSで放映された大ヒットドラマ『JIN -仁-』の続編が、いよいよDVD&ブルーレイ発売。今回は国内外で数々の賞に輝いた大沢たかお主演のTVドラマ『JIN -仁-』をご紹介します。 東都大学病院の脳外科医、南方仁(大沢たかお)は、手術後に突然、姿を消した患者を追ううち、階段を踏み外してしまう。気がつくと彼は幕末の江戸にタイムスリップしていた…。仁は、橘恭太郎(小出恵介)や咲(綾瀬はるか)の世話になりながら、仁友堂を開院。満足な医療器具も無い中で人々の命を救い、医術を通して坂本龍馬(内野聖陽)、勝海舟(小日向文世)、緒方洪庵(武田鉄矢)ら幕末の英雄たちとも交流を深めていく。<続編> あれから二年-。南方仁は仁友堂で、佐分利祐輔(桐谷健太)らと共に江戸の人々の治療に専念していた。吉原の花魁だった野風(中谷美紀)は横浜で子供たちに手習いを教えていたが、素性が知られてしまい仁友堂で働きだす。ある日、龍馬が京都から仁を訪ねてやってきた…。 原作は、シリーズ累計700万部を突破し、第15回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した村上ともかによるコミック「JIN-仁-」(集英社「スーパージャンプ」)。 TVドラマ版は、2009年10月より放映され、2011年4月より続編が放映開始。最終回は、2時間スペシャルの完結編として、これまでのすべての謎が明かされ、平均視聴率26.1%、最高瞬間視聴率31.7%を記録しました。東京国際ドラマアウォード、ギャラクシー賞を始め、カンヌMIPCOM・バイヤーズ・アワードなど国内外で33冠を達成。 『JIN -仁-』は、近年の日本のTVドラマの中でも海外に誇れる屈指の名作ドラマなのです。 その魅力はどこにあるのでしょうか。 タイトルの“仁”とは、古来から伝わる「医は仁術なり」という格言から来ています。現代医療は格段に進歩していますが、その一方でどこの病院でも医師不足が深刻化し、病院のたらいまわしや医療事故など“仁”の心を忘れた事件が後を絶ちません。 そんな中、大沢たかお演じる南方仁は、激動の幕末にタイムスリップ。彼は、「過去を変えてはならない」という思いや、「早く現代に帰りたい」という思いに苛まれながらも、目の前で死にかかっている人々をほおっておくことは出来ずに、江戸の人々を救う道を選びます。そして、薬や医療機器が満足にない中で、幕末の世に存在する様々な道具を代用して手術や治療を行っていくのです。 仁は、「病に苦しむ人々を助けたい」という原点に立ち返り、本来あるべき医療の姿を身を持って教えてくれるのです。 そして仁が出会う人々もまた、“仁”の心を持った魅力的な人々ばかりです。橘家の恭太郎や咲、仁友堂の仲間たち。さらには、坂本龍馬、西郷隆盛、近藤勇といった歴史上の重要な人物たち。彼らは皆、明るい未来を信じ、人生を懸命に生きる人々です。彼らの生きる時代は、現代よりも寿命が短く、生きることが難しかったはずですが、だからこそ、人々は“生きる”ことの価値を現代人よりも深く理解していたのかもしれません。 現代は物質が豊かになり、寿命が延びて、長く幸せな人生を生きられるようになりました。でも、その結果、ガン患者やうつ病といった現代病が蔓延し、自殺者も急増しています。私たちの生きる時代は、“生きにくい”世界でもあり、“死なせない”時代でもあるのです。 『JIN -仁-』を観ていると、現代人である南方仁を通して、幕末に生きる彼らをより身近に感じ、日本人が本来持っている心の清さ、強さ、美しさを思いだすことが出来ます。 私たちは、彼らの遺伝子を脈々と引き継ぎ、彼らの歴史の上に現代が成り立っているのですから、望みさえすれば、いつでも彼らのような生き方を取り戻す事が出来るはずです。『JIN -仁-』は、そんな強いメッセージを伝えるドラマなのです。 それ以外にも、綾瀬はるか演じる咲や、中谷美紀演じる野風とのロマンスもあり、並行世界やパラレルワールドといったSF的世界観もあり、毎話のエピソードが面白くて目が離せません。 9/16には『JIN-仁ー 完結編 DVD-BOX』が、10/7には『JIN-仁ー 完結編 Blu-ray BOX』が発売予定です。ぜひ、DVDやブルーレイで、『JIN -仁-』の世界を楽しんでください。 次回は、12/2にDVD&ブルーレイ発売予定のSFファンタジー『SUPER 8/スーパーエイト』(2011年)をご紹介します。
2011年09月14日
アカデミー賞の主要12部門にノミネートされ、作品、監督、主演男優、脚本賞に輝いた今年の大本命作品と言えば…。今回は、9/2にDVD&ブルーレイが発売された『英国王のスピーチ』(2010年)をご紹介します。 英国王ジョージ5世(マイケル・ガンボン)の次男、アルバート王子(コリン・ファース)は幼い頃から吃音症の悩みを抱え、人前に出るのが苦手だった。これまで何人もの言語聴覚士の治療を受けるが治らなかった。妻のエリザベス(ヘレナ・ボナム=カーター)は、夫のためにスピーチ・テラピストのライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)に依頼。破天荒なライオネルのやり方に、始めは難色を示すアルバート王子だったが、次第に二人は心を通わせていく。1936年1月、ジョージ5世が崩御し、兄のデイヴィッド王子(ガイ・ピアーズ)が「エドワード8世」として国王に即位。しかし1年もたたずにスキャンダルが原因で退位し、遂にアルバート王子が「ジョージ6世」として即位する…。 エリザベス女王の父で、国民に愛された国王ジョージ6世が吃音症を克服し、第二次大戦開戦の重要な場でスピーチに臨むまでを描く感動の伝記ドラマ。アカデミー賞主要4部門を受賞した、老若男女が安心して楽しめる良質のエンタテインメント作品です。 吃音症の克服には、当時には珍しかったスピーチ・テラピスト、ライオネルのサポートがありました。ライオネルは、これまでの経験から吃音症が外的な要因だけでなく、幼少期のトラウマにあることを見抜き、独自の治療法でアルバート王子の心を解きほぐしていきます。そして、いつしか二人は身分を超えた友情で結ばれていくのです。 本作では、そんなライオネルの変わった治療法が笑いを交えながら描かれ、アルバート王子が国王になるために、様々なプレッシャーや悩みを抱えながらも王位を継ぎ、自信を取り戻していく姿が痛快に語られています。 アルバート王子=ジョージ6世を演じるのは、本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞したコリン・ファース。1960年、イギリス・ハンプシャー生まれの彼は、舞台劇「アナザー・カントリー」出演がきっかけで映画版『アナザー・カントリー』(1983年)にも大抜擢。その後、TVドラマ『高慢と偏見』(1995年)が英国アカデミー賞にノミネートされ、2001年には『ブリジット・ジョーンズの日記』が、2003年には『ラブ・アクチュアリー』が大ヒットし、世界にその名が知られるようになりました。 落ち着いた品のある物腰は王族を演じるのにぴったり。ジョージ6世がどんな人物だったのか、日本人の私たちにはあまり知られていませんが、コリンが演じたジョージ6世は、真面目で頑固でユーモアもあり、とても温かみのある人物に思えます。全編のほとんどの台詞を吃音症で話し、ラストの感動的な演説も鮮やか。吃音症が治っていく様子を演じ分けるという、オスカー受賞も納得の熱演をみせています。 ライオネルを演じるジェフリー・ラッシュは1951年、オーストラリア生まれ。自国オーストラリアで70本以上の舞台に出演。実在のピアニストを演じた『シャイン』(1995年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞し、『恋におちたシェイクスピア』(1998年)でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。最近では『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのキャプテン・バルボッサ役が記憶に新しいところ。 ライオネルは、患者がアルバート王子と知り驚きますが、決して特別扱いはせず、他の患者と同じ、一人の人間として実直に接していきます。ジェフリー・ラッシュは、あくまでも助演に徹しながらも、コリン・ファースと見事なアンサンブルをみせています。 また、ジョージ6世の妻エリザベスを演じるのは、私生活でティム・バートン夫人であるヘレナ・ボナム=カーター。本作のヘレナは、『ハリー・ポッター』シリーズの魔女ベラトリックスとは正反対の、夫のためにつくす愛情に溢れた女性を好演しています。 兄のエドワード8世を演じるガイ・ピアーズは、“王冠を賭けた恋”のために王位を捨てるという情熱的な兄を演じています。 そして、本作で作品賞、監督賞を受賞したのは、1972年、イギリス・ロンドン生まれのトム・フーパー。オックスフォード大学卒業後、TVドラマの監督として活躍。2003年、ヘレン・ミレン主演のTVサスペンス『第一容疑者 姿なき犯人』がエミー賞、英国アカデミー賞にノミネートされ、映画監督としてもデビュー。ヘレン・ミレン&ジェレミー・アイアンズ主演のTV映画『エリザベス1世 ~愛と陰謀の王宮~』(2005年)がエミー賞ミニシリーズ・TV映画作品賞他9部門受賞、ゴールデングローブ賞ミニシリーズ・TV映画作品賞を受賞。 TVシリーズを観ている方はご存じと思いますが、トム・フーパーの手掛けたTVドラマは完成度が高く、『第一容疑者』はTVならではの登場人物の掘り下げや、凝った脚本、社会派のテーマなど、かなり高水準のドラマとなっています。 『英国王のスピーチ』では、ガッチリと組まれた王道のストーリーに、コミカルな要素を盛り込み、撮影方法にも工夫を凝らして、全編を飽きさせずに楽しませてくれます。観終わった後には、誰もがジョージ6世のファンとなってしまうはずです。 ぜひ、ご家族でご覧ください。 9/2に発売されたDVD&ブルーレイは全2種。「『英国王のスピーチ』ブルーレイ コレクターズ・エディション(1枚組)」と「『英国王のスピーチ』DVD コレクターズ・エディション(2枚組)」。どちらも、初回限定アウターケース+ブックレット付。監督のオーディオコメンタリーの他、メイキングやインタビューなど充実の特典映像が収録されています。 次回は、9/16にDVD-BOXが、10/7にBlu-ray BOXが発売予定のTVドラマ『JIN-仁ー 完結編』をご紹介します。
2011年09月03日
作家・川本三郎が自ら綴った回顧録を基に学生運動が日本を覆った1969~1972年、ひとりの若いジャーナリスが体験した衝撃の事件を映画化。今回は、12/2にDVD&ブルーレイ発売が決定した妻夫木聡&松山ケンイチ共演の青春ドラマ『マイ・バック・ページ』(2011年)をご紹介します。 1969年、東大安田講堂事件を契機に全共闘運動は急速に失速していった。東都新聞社の記者、沢田雅巳(妻夫木聡)は、先輩記者の中平(古舘寛治)と共に指名手配中の全共闘議長・唐谷(長塚圭史)を日比谷の全共闘結成大会へ送り届け、集会の狂騒に胸を熱くする。1970年、日大の討論会で片桐優(松山ケンイチ)が演説し、重子(石橋杏奈)と七重(韓英恵)は片桐に興味を持つ。彼らは小さなアパートにアジトを構え、片桐を支持する柴山(中村蒼)らと共に活動を始める。1971年、一部の活動家が武力闘争へと進む中、中平に梅山と名乗る男からタレコミがあり、沢田は中平と共に梅山=片桐と接触。中平は梅山を偽物と断じるが、沢田は彼に興味を持ち、その後も度々会うようになる。ある朝、自衛官殺害事件のニュースが報じられ、沢田は梅山に独占取材を試みるが…。 監督は、『リンダ リンダ リンダ』(2005年)、『天然コケッコー』(2008年)など青春映画に定評ある山下敦弘。脚本は山下監督作品の他、みうらじゅん原作×田口トモロヲ監督作『色即ぜねれいしょん』(2008年)などを手掛ける向井康介。 全共闘時代を知らない世代の二人が監督と脚本を担当し、原作が文芸・映画評論で知られる川本三郎の自伝的回顧録を基にしたノンフィクション・ドラマなので、リアリティを追求した血生臭い骨太ドラマではなく、当時の風俗や音楽、映画への憧れを感じさせるノスタルジックな味わいがあり、また、恋愛や挫折などを経験する普通の若者たちの青春映画としても観られる作品に仕上がっています。 演じる二人の役者が豪華です。『悪人』(2010年)で日本アカデミー賞とブルーリボン賞主演男優賞を受賞した妻夫木聡と、『DEATH NOTE』シリーズのL役でブレイクし、『デトロイト・メタル・シティ』(2008年)のクラウザーII世から『ノルウェイの森』(2010年)のワタナベまで、幅広い演技力をみせる松山ケンイチ。 妻夫木聡演じる沢田は、運動家たちにシンパシーを覚えながらも、記者として一定の距離を持って取材し続けますが、松山ケンイチ演じる片桐に出会ったことにより、記者としての一線を超えた行動に出てしまいます。一方の片桐は、活動家として名を上げようと焦り、強引に武力行使へと突き進んでいきます。 片桐が起こした事件は、駐屯地に侵入し、自衛官を殺害するという殺人事件で、首謀者である片桐に同情の余地はありませんが、本作では、松山ケンイチが演じているので、どこか掴みどころがなく、魅力のあるキャラクターに映っています。ギター片手にCCRの「雨を見たかい」を口づさみ、文学を語る片桐に、沢田が興味を持つのも無理はないと思わせます。 対する沢田は、仕事に悩み、雑誌の表紙モデルと映画『ファイブ・イージー・ピーセス』(1970年)を観に行く、現代にもいそうな文系青年。妻夫木聡演じる沢田は、60~70年代の青年というよりは、現代の青年に近い台詞や雰囲気で演じています。 当時の学生運動家たちは、一種独特の言葉の言い回しをしています。これらを忠実に再現した作品では、言葉の意味も正確に理解出来ずに違和感を感じてしまいますが、本作では二人とも現代風の台詞で会話しています。リアリティが薄れはするものの、より現代の若者にも共感出来るキャラクターとして親近感を持って観る事が出来ます。 沢田は、川本三郎の分身な訳ですが、映画本も多数、出版しているだけに、本作でも映画について語られ、その映画の劇中の台詞が、彼らの心情を表す重要なモチーフとして使われています。劇中に登場するジャック・ニコルソン主演の『ファイブ・イージー・ピーセス』(1970年)、ダスティン・ホフマン&ジョン・ボイト共演の『真夜中のカーボーイ』(1969年)、いずれもベトナム戦争下のアメリカで生まれたアメリカン・ニューシネマの傑作。山下監督もこれらの映画のファンだそうで、沢田のキャラクターに少なからず影響を与えているように感じます。 そして、原作のタイトルでもある「マイ・バック・ページ」はボブ・ディランの名曲「My back pages」から取られたもので、本作では、真心ブラザーズと奥田民夫がコラボし主題歌として使われています。 本作を観て、全共闘そのものに興味を持った方には、高橋伴明監督の『光の雨』(2001年)、原田眞人監督の『突入せよ!「あさま山荘」事件』(2002年)をおススメします。『光の雨』の活動家たちの一部が「あさま山荘事件」を起こしているので、この2本はセットでご覧ください。また、若松孝二監督の『実録・連合赤軍 浅間山荘への程(みち)』(2007年)は、この2作とは違った硬派な視点でシビアに描いた社会派作品なので、鑑賞にはそれなりの覚悟が必要です。 さらに、全共闘以前の60年安保闘争を舞台にした大島渚監督の『日本の夜と霧』(1960年)は、役者たちの台詞だらけのガチな競演が迫力で見応えがあります。 これらの作品と比べると、本作は物足りないと思う方もいるかもしれませんが、実際にも当事者とならずに傍観していた若者たちも、少なからず、その時代の空気を感じて生きていたと思います。そんな気分を味わえる、その時代の空気感をうまく表現した作品だと思います。今年の邦画ベスト10に入る作品ですので、ぜひ、ご覧ください。 12/2に発売予定のDVD&ブルーレイは全3種。「マイ・バック・ページ 通常版」DVD1枚組と、Blu-ray1枚組。そして、「マイ・バック・ページ 豪華版(初回限定生産)」は、メイキングや公開記念特番など約63分の特典映像が収録された特典ディスクとブックレットを封入した特製スリーブケース入りです。お早めにご予約ください。 次回は、アカデミー賞作品、監督、主演男優、脚本賞を受賞したコリン・ファース主演の伝記ドラマ『英国王のスピーチ』(2010年)をご紹介します。
2011年08月30日
西原理恵子原作のエッセイ漫画を、元夫婦の小泉今日子&永瀬正敏共演で実写映画化。今回は、9/7DVD&ブルーレイ発売予定のファミリー・ドラマ『毎日かあさん』(2011年)をご紹介します。 人気漫画家サイバラリエコ(小泉今日子)は6歳の息子ブンジ(矢部光祐)と4歳の娘フミ(小西舞優)の母親。母トシエ(正司照枝)に助けてもらいながら、家事や子育て、仕事と殺人的な忙しさだったが、明るい家族たちとの楽しい毎日を送っていた。戦場カメラマンだった夫のカモシダ(永瀬正敏)はアルコール依存症で血を吐いて入院中。退院してはまた、酒を飲み、酔っ払って家族に迷惑をかけていた。ある時、カモシダは、リエコが描き上げたばかりの原稿を破り捨て、子供を怖がらせてしまう。これをきっかけに、ついに離婚。それでも子供の父親であるカモシダの面倒を見続けるリエコだった…。 新聞連載から始まり、累計150万部を売り上げた原作コミックを基に、『かぞくのひけつ』(2006年)で日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞金賞(2008年)を受賞した小林聖太郎が監督し実写映画化。脚本は『サイドカーに犬』(2007年)、『歓喜の歌』(2008年)等を手掛けた真辺克彦が担当。 原作コミックも高い評価を得ていますが、映画もたくさんの要素の中から子育て奮闘記、アルコール依存症の夫との夫婦関係、原稿の締め切りに追われる漫画家の日々などを上映時間114分の中にギュッと詰め込んでいて、鑑賞後にはかなりの充実感に浸れる作品に仕上げています。 上海国際映画祭アジア新人賞最優秀作品賞受賞、日本映画批評家大賞主演男優賞(永瀬正敏)受賞作です。 映画の見どころは、原作漫画と同様、自身の日常生活をありのままに描いた私小説的な物語の面白さにあります。漫画家の多忙さと子育ての大変さというのは想像もつきますが、元戦場カメラマンとの結婚と離婚の経験、さらには、アルコール依存症の夫との戦い、余命6カ月の腎臓ガン宣告を受けた夫の介護や最期を看取るという経験は、普通では全く想像のつかない世界です。 夫のカモシダとは、フリー・ジャーナリストの鴨志田穣のこと。本作で描かれている通り、アルコール依存症を克服した矢先に腎臓ガンが発覚し、闘病生活の後、2007年3月に亡くなっています。アルコール依存症との戦いは、自伝的小説『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』に綴られており、こちらは浅野忠信&永作博美共演、東陽一監督・脚本・編集で映画化されています。 『毎日かあさん』では、戦場カメラマン時代に戦場で見た悪夢の後遺症に悩まされてアルコール依存症に陥ったという解釈で描かれていますが、映画『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』を観ると、原因はそう単純ではないようです。確かに、戦場カメラマンでも渡辺陽一さんのように元気な方はたくさんいらっしゃいますよね。『酔いがさめたら、うちに帰ろう。』では、アルコール依存症との戦いがメインに描かれているので、入院中の出来事などがシビアに語られています。この2作を観ることによって、夫婦それぞれの立場が描かれるので、より深くアルコール依存症について知ることが出来ると思います。 そんな夫を抱えているとはいえ、あくまでも子供二人と母の奮闘記がメインに描かれるので暗いトーンにならずに観ていられます。息子のおバカっぷりを紹介するエピソードや、娘のキョートさがわかるエピソードが満載で、リエコの肝っ玉母さんぶりが楽しく笑いが絶えません。ここまでアホな子がいるのか?と呆れながらも、子供っていいもんだなぁとうらやましくなります。 そんなサイバラ家の家族を演じるのは、私生活でも元夫婦であった小泉今日子と永瀬正敏。 リエコ役の小泉今日子は、元アイドルというよりは、しわもくすみもありのままに撮られながら、リアルな肝っ玉母さんを演じています。本来なら7回も8回も血を吐いて、いつ死んでもおかしくない状態なのに酒を飲み続けて暴れる夫なんて、いつ離婚してもおかしくない状態ですが、自身も酒好きで、父親もアルコール依存症だったリエコは、夫に父親を重ねているのか、なんだかんだと太っ腹に面倒をみています。そうしたおおらかさとたくましさを持った母性の強さが小泉今日子の演技から伝わってきます。 子役の二人も、子役的なわざとらしい芝居ではなく、自然体で役になりきっています。特にブンジを演じる矢部光祐クンの雰囲気は、本人としか思えないはまりっぷりです。毎日、バカやりながらも子供なりに悩みを抱え、父のことに心を痛めていることもさらりと描かれています。 カモシダ役の永瀬正敏は、主役の小泉今日子にメインを譲り、台詞は少ないながらも存在感があります。ガン告知後に、復縁せずに半年を家族と過ごし、名台詞を遺して死んでいくのですが、この永瀬=カモシダの台詞には泣かされてしまいます。 夫の死を前に泣きやまないリエコに、子供たちがとる行動にも泣けてきます。 このクライマックスは、やはり元夫婦の小泉&永瀬ならではの味が出ていると思いますし、実話であるからこそ、泣けてしまうのです。 全編で笑って泣けて、家族っていいもんだなぁと実感出来る感動のファミリー・ムービーです。2011年の邦画ベスト5に入るおススメ作です。 9/7に発売予定のDVD&ブルーレイは2種。初回限定2枚組のDVD豪華愛蔵版には、メイキング、インタビュー、対談、舞台挨拶などの特典映像を収録。Blu-ray初回限定版には、DVD豪華愛蔵版と同じ内容に加え、西原理恵子かき下ろしによる『毎日かあさん』特別版コミックが封入されています。 次回は、12/2にDVD&ブルーレイ発売が決定した妻夫木聡&松山ケンイチ共演の青春ドラマ『マイ・バック・ページ』(2011年)をご紹介します。
2011年08月27日
『バニラスカイ』(2001年)、『海を飛ぶ夢』(2004年)のアレハンドロ・アメナーバル監督が、4世紀のエジプト、アレクサンドリアを舞台に実在の女性哲学者ヒュパティアの悲劇を映画化。今回は、9/9にDVD&ブルーレイ発売予定、レイチェル・ワイズ主演の史劇メロドラマ『アレクサンドリア』(2009年)をご紹介します。 4世紀末、エジプトの中心都市アレクサンドリア。テオン(ミシェル・ロンズデール)の娘ヒュパティア(レイチェル・ワイズ)は、類まれな知性と美貌を兼ね備え、学問に生涯を捧げると誓い、自ら教鞭を振るっていた。彼女は哲学、数学、天文学について講義し、多くの生徒たちを虜にした。その中の一人、オレステス(オスカー・アイザック)は彼女に告白するが相手にされなかった。ヒュパティアの奴隷、ダオス(マックス・ミンゲラ)も秘かに想いを寄せていた。街ではキリスト教徒が急速に台頭し、ギリシャの古来の神々を信仰する学者たちとの対立を深めていく。ついにキリスト教徒の手によって、アレクサンドリア図書館は破壊され、彼らは改宗を迫られる。そんな中、自らの信念を貫き「地動説」を唱えるヒュパティアを魔女とみなしたキリスト教徒たちは、ヒュパティアを血祭りに上げようとする。果たしてオレステスとダオスは彼女を守る事が出来るのか…。 史実によると、ヒュパティアはキリスト教徒たちによって捕えられ、教会で全裸にされ、生きたまま肉をはがれて虐殺されたそうです。この事件を機に、学者たちは国外に逃亡し、ギリシャに続く数学・科学・哲学の歴史は終焉を迎えることとなったのです。 この史実を基に、アレハンドロ・アメナーバル監督は大胆な脚色を加え、4世紀に生きた、聡明な女性哲学者ヒュパティアの半生と、その時代に生きた様々な人々の思想や生活を、生き生きと描き出しています。 女性に特におススメしたいのは、ヒュパティア本人ではなく、彼女を愛する二人の男性の視点から物語が語られているところです。その二人とは、将来の総督と奴隷。同じ女性を慕う彼らですが、激動の時代に翻弄されながら、それぞれの生き方や価値観が少しづつ変わっていきます。 将来の総督オレステスを演じるのは、『エンジェル ウォーズ』(2011年)では悪徳看守を演じ、リドリー・スコット監督作『ロビンフッド』(2010年)ではジョン王を演じたグアテマラ出身の俳優オスカー・アイザック。自らのバンドではギターを弾き、『エンジェル ウォーズ』ではミュージカル・シーンで歌ったり踊ったりと、マルチな才能をみせる彼は、演技力もなかなかのもの。実らない恋と知りつつも、ヒュパティアの良き理解者として、いつも彼女に協力し、キリスト教徒たちから彼女を守ろうと奔走します。 一方、奴隷のダオスを演じるのは、『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)などに出演し、亡きアンソニー・ミンゲラ監督の息子であるマックス・ミンゲラ。彼は奴隷としてヒュパティアの影となっていつも傍らで講義を聞くうちに、学問に興味を持ち、自由を求めるようになります。そして彼は、ヒュパティアへの想いを断ち切り、自由を求めてキリスト教徒へと改宗します。それでも、彼女を慕う気持ちを捨てきれずにいるのです。マックス・ミンゲラは、まるで「ベルサイユのばら」のアンドレの如く、「君は光、僕は影」という少女マンガの世界を繊細に演じています。 二人とも、芸達者で男前。アメナーバル監督は、彼らのキャラクターをそれぞれ魅力的に描き、見応えたっぷりの濃厚な人間ドラマを展開していきます。 そして、彼ら二人に愛されるヒュパティアを演じるのは、『ナイロビの蜂』(2005年)でアカデミー賞助演女優賞に輝いたレイチェル・ワイズ。本作では多くの男性に愛される美貌の女性の役でありながら、決して大女優ぶった派手な芝居はせず、謙虚で聡明だったヒュパティアに成りきり抑えた演技が印象的です。二人の若手男性の攻めの芝居に対して、受身の芝居でキャリアの違いを見せつけています。 この役をニコール・キッドマンやアンジェリーナ・ジョリーが演じていたら、レイチェル・ワイズが演じたようなリアリティは生まれなかったでしょう。だからこそ、彼女の悲劇が胸に迫り、心揺さぶられる作品になったのだと思います。 彼女の父親テオンを演じるのは、『ジャッカルの日』(1973年)でクロード・ルベル警視を、『007/ムーンレイカー』(1979年)で悪役ヒューゴ・ドラックスを、『薔薇の名前』(1986年)でアッボーネ修道院長を演じるなど、数々の映画に出演しているフランスの名優ミシェル・ロンズデール。父テオンとヒュパティアの関係も丁寧に描かれ、監督は名優の見せ場もきっちり用意しています。 そうした人間ドラマを支える時代考証もしっかりしており、美術や衣装なども美しく再現されている他、ヒュパティアが生徒たちに天文学や哲学を語るシーンも見所となっています。 アメナーバル監督の演出は、情熱的で、パワフル、そして大胆かつ繊細で、神秘的な宇宙空間から始まるスケールの大きなオープニングから、彼の世界に心地よくはまっていきます。 “史劇”と言うだけで敬遠する方もいるかもしれませんが、本作には男性二人に愛される女性という少女マンガのようなロマンスがあり、自らの学問にかけ、命を捧げた一人の自立した女性のドラマがあり、そして科学と宗教の対立がありと、見応えたっぷりで、今年の洋画ベスト5に入れたい1本です。ぜひ、ご覧ください。 次回は、久しぶりに邦画の中から、9/7にDVD&ブルーレイ発売予定の小泉今日子&永瀬正敏共演『毎日かあさん』(2011年)をご紹介します。
2011年08月23日
全米のティーンを夢中にした『トワイライト』シリーズのクリステン・スチュワートと、『アイ・アム・サム』(2001年)、『宇宙戦争』(2005年)の天才子役ダコタ・ファニングが、ガールズバンド“ランナウェイズ”のメンバー、ジョーン・ジェット&シェリー・カーリーを熱演。今回は、8/26にDVD発売予定の青春音楽映画『ランナウェイズ』(2010年)をご紹介します。 1975年、ロサンゼルス。ロッカーを目指すジョーン・ジェット(クリステン・スチュワート)は、クラブで敏腕プロデューサー、キム・フォーリー(マイケル・シャノン)に声をかける。キムはガールズバンドを結成すれば売れると直感。メンバー探しの最中、ジョーンとキムはクラブで奇抜なファッションでひと際目立っているシェリー・カーリー(ダコタ・ファニング)をスカウト。かくしてガールズバンド“ランナウェイズ”が結成され、過激な歌詞と挑発的な衣装で一世を風靡するが…。 シェリー・カーリーの自叙伝を元に、デヴィッド・ボウイ、ビョーク、マリリン・マンソンなどのミュージック・ビデオを手掛けたフローリア・シジスモンディが長編初監督&脚本で映画化。製作総指揮には、現在も音楽活動を続けているジョーン・ジェットが加わり、ジョーン&シェリー公認の伝記映画となっています。 70年代と言えば、ロック界はまだまだ男性中心の世界。女性ロッカーの先駆者であるスージー・クアトロに憧れてロッカーを目指したジョーン・ジェットは、プロ志向でギターの演奏力にも自信がありましたが、“ランナウェイズ”は、キム・フォーリーによって100%男性目線でプロデュースされたバンドでした。そして、ジョーンとは違い、片田舎のウェイトレスで終わるかもしれなかった人生から、いきなり脚光を浴びたシェリー・カーリーは、男性からの差別や野次に戸惑い、お酒やドラッグなど大人の世界を経験しながら、ステージで歌う事に快感を覚え、ロックスターの自覚に目覚めていきます。でも、下着姿で踊るシェリーのヴィジュアルばかりがマスコミに注目され、メンバー内に亀裂が生じていきます…。 ありがちと言えばありがちなバンドの栄光と挫折のストーリーですが、本作には他の作品には無いオリジナリティがあります。 ひとつは、ジョーンとシェリーという対照的な二人を、イメージが違う二人の女優が演じているということ。 そして、もう一つは、今では当たり前のガールズバンドが、つい最近の70年代には、まだ、認められていなかったということ。女性ロッカーの歴史を知る上でも貴重な一本と言えます。 クリステン・スチュワートは黒髪ショートヘアに黒のレザーファッションで、ジョーン・ジェットになりきっています。ダコタ・ファニングは、実際のシェリー・カーリーよりビッチ度は足りないものの、下着姿でステージに立ち、完璧にシェリー・カーリーを形態模写。ダコタは演技力もあるので、わけもわからずに男性社会に放り出された普通の少女シェリーの戸惑いや喜びなどを内面から演じ、等身大の演技に好感が持てます。 劇中では二人とも実際に歌っており、特に、大ヒットナンバー「チェリー・ボム」は、来日時にTV放映されたライブ映像をそっくりそのままに再現。必見のライブシーンとなっています。 ちなみに“ランナウェイズ”は日本でも人気があり、下着姿のシェリーのポスターは、男性ファンの間で人気だったようです。来日公演のシーンは劇中でもかなり多めに描かれていて、当時の人気ぶりがうかがえます。 “ランナウェイズ”のナンバーの他、MC5、ストゥージズ、セックス・ピストルズ、デヴィッド・ボウイなど70年代のヒット曲で全編が彩られています。 “ランナウェイズ”解散後、ジョーン・ジェットは“ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツ”として発表した「アイ・ラブ・ロックンロール」のカバー曲が大ヒットし、その後、憧れのスージー・クアトロに並ぶ女性ロッカーの先駆者として活躍。映画にも数本出演していますが、中でもマイケル・J・フォックスのお姉さん役で出演した『愛と栄光への日々』(1986年)が有名です。 一方、シェリーは双子の姉と共にポップアイドルとして再来日を果たしています。映画は、ジョディ・フォスターと共演した『フォクシー・レディ』(1980年)やB級のSFホラー作品などに出演。 音楽ドキュメンタリー『メイヤー・オブ・サンセット・ストリップ』(2003年)には二人とも登場しています。 ネットで映像を見る事が出来ますので、探してみてください。 8/26に発売予定のDVDには、特典映像としてシェリー・カーリー本人、監督、出演者たちのインタビュー、そして「チェリー・ボム」の劇場版ミュージックビデオなどが収録されています。 次回は、実在の女性天文学者ヒュパティアをアカデミー賞女優のレイチェル・ワイズが演じた、女性必見の歴史大河ロマン『アレクサンドリア』(2009年)をご紹介します。
2011年08月17日
『300<スリーハンドレッド>』(2007年)では伝説のスパルタ軍のバトルを、『ウォッチメン』(2009年)ではアメリカン・ヒーローのバトルを、『ガフールの伝説』(2010年)ではふくろうたちのバトルを描いた根っからのアクション・オタク、ザック・スナイダー監督が、今度は少女を主人公にバトル・アクション映画を製作。今回は、8/12にDVD&ブルーレイが発売された『エンジェル ウォーズ』(2011年)をご紹介します。 母の死により醜悪な継父と共に残された姉妹。二人は継父から逃げようとするが、妹は継父の手にかかり、姉ベイビードール(エミリー・ブラウニング)は妹殺しの罪で精神病院に送られてしまう。このままでは、おぞましいロボトミー手術によって廃人になってしまう…。ベイビードールは仲間の少女たちに呼びかけ脱走を決意する。看守の眼を盗むためベイビードールが踊ると、男たちは皆、ベイビードールに釘付けになった…。ベイビードールは踊りながら空想の世界へ行き、そこで出会ったワイズマン(スコット・グレン)の援助を受け、空想と現実世界の双方で戦いに挑んでいく。そして遂に脱走の日がやって来た…。 日本ではアニメやコミックでお馴染みのコスプレ少女によるバトル・アクションですが、アメリカではアメコミ・ヒーローは数あれど、メジャー作品には登場しないジャンルなのです。そんな状況にも関わらず、何を思ったか、ザック・スナイダーは自ら原案・脚本・製作・監督を兼ね、セーラー服姿の虐げられた少女たちを主人公に、大金をかけてガールズ・バトル・アクション映画を製作してしまいました。案の定、興業的には散々な結果に…。そして日本でも、何を思ったか、シネコンで拡大公開を敢行。その結果は…。いくらガールズ・バトルものに免疫があるといっても、知っている女優がほとんど出てこない映画ですから、メジャー作品として受け入れられる訳がありません。 ですから、始めからメジャー大作としてではなく、お金のかかったB級作品として観てください。そしてザック・スナイダー監督が何をやりたいのかを理解して観れば、きっとサブカル感覚で楽しめる作品だと思います。 この映画でザックさんがやりたかったのは、まさに、“コスプレ少女たちにクールなアクションをさせること”です。これを映画として成立させるにはどうすればいいのか? 『マトリックス』(1999年)では“仮想世界”という設定なので、キアヌ・リーヴスにワイヤーアクションや中国武術“詠春拳”をさせることが出来ましたし、『インセプション』(2010年)では“夢の世界”だから何が起きても不思議ではありませんでした。では、ザックさんの場合は? ちょっぴり頭でっかちなザックさんは、体制を強烈に批判した『カッコーの巣の上で』(1975年)を下敷きに、精神病院へ入れられ虐げられた少女たちという現実世界を用意しました。そして現実逃避のために“空想の世界”に逃げ込むと、少女たちはバーチャル兵器を駆使して敵と戦い、現実世界とリンクしながら様々なバトルを展開させていくのです。 さらに、例えば『マトリックス』では現実と仮想現実とのスイッチは“電話”でしたが、『エンジェル ウォーズ』では、ベイビードールが踊りだすと空想に入る…という、かなり独創的な設定になっています。 多くの人は、この設定に面喰ってしまいます。現実と空想世界のリンクが、ベイビードールの頭の中だけで行われているので、観客にはそのスイッチがわかりずらいのです。 もうひとつは、『チャーリーズ・エンジェル』シリーズのような明るいアクションを想像して観たら、現実世界の暗い世界観にビックリしてしまうこと。これは、70年代の映画を好むザック・スナイダーの作家性なので仕方がありません。 そうした奇抜な設定を知った上で観ていただくと、空想世界で次々と起こる鎧ロボットたちとの戦い、巨大ロボットとの戦い、ドラゴンとの戦い、貨物列車内での戦いなど、ザック・スナイダーの頭の中から生みだされた、この壮大なイマジネーションの世界を堪能していただけると思います。 また、詳しくは観てのお楽しみですが、本作は現実と空想の二重構造ではなく、現実と空想の間にもう一つの世界がある三重構造となっています。この三つの世界で起きた出来事を繋げた時、ベイビードールの頭の中で何が起こったのかがわかります。その解釈は、観る人によって様々でしょう。私は、ベイビードールは悟りを開き自由を勝ち得たと解釈しますが、皆さんはどうでしょうか。 出演者についてもふれておきます。 エンジェルたちは全部で5人。主人公ベイビードールを演じるエミリー・ブラウニングは、1988年オーストラリア、メルボルン生まれで『レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語』(2004年)で長女ヴァイオレットを演じていました。 スイートピー役のアビー・コーニッシュは、1982年オーストラリア生まれで『キャンディ』(2006年)ではヒース・レジャーと共演。 ロケット役のジェナ・マローンは、1984年ネヴァダ生まれで『ドニー・ダーコ』(2001年)ではジェイク・ギレンホールと共演。 ブロンディ役のヴァネッサ・ハジェンズは1988年カリフォルニア生まれ。米TV『ハイスクール・ミュージカル』シリーズでザック・エフロンと共演。 アンバー役のジェイミー・チャンは1983年サンフランシスコ生まれ。『DRAGONBALL EVOLUTION』(2009年)ではチチを演じています。 5人とも、日本での知名度は高くありませんが、本国アメリカではキャリアがあり、ザックさんは5人のキャラクターをしっかりと描き、それぞれのキャラの見せ場やアクション・シーンも用意しています。 その他、悪役ブルー・ジョーンズには最近、注目の若手俳優オスカー・アイザック。ベラ・ゴルスキー博士に『ウォッチメン』で初代シルク・スペクターを演じたカーラ・グギーノ。エンジェルたちの味方ワイズマンには大御所俳優のスコット・グレンが出演しています。 観る人を選ぶ作品ではありますが、ザック・スナイダーの作家性にはまる方には、はまる作品だと思います。興味のある方は、ぜひ観てみてください。 商品は「ブルーレイ&DVDセット(2枚組)」と「ブルーレイ&DVDセット コレクターズBOX(3枚組)」の全2種。「ブルーレイ&DVDセット コレクターズBOX」には、エクステンデッド・バージョン版が収録され、劇場ではカットされたダンス・シーンも収録されています。 次回は、8/26にDVD発売予定のダコタ・ファニング&クリステン・スチュワート主演の音楽青春映画『ランナウェイズ』(2010年)をご紹介します。
2011年08月11日
2007年、おかっぱ頭の殺し屋が登場する『ノー・カントリー』でアカデミー賞作品賞を受賞したジョエル&イーサン・コーエン兄弟が、王道の西部劇を現代に蘇らせました。今回は、9/9DVD&ブルーレイ発売予定の『トゥルー・グリット』(2010年)をご紹介します。 14歳の少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)は、父親が殺されたと知り、気丈にも一人、遺体を引き取りに街へやって来た。マティは父の遺体を前にし、犯人のトム・チェイニー(ジョシュ・ブローリン)を追い詰め、自ら仇をとると心に誓う。だが、チェイニーはすでに法の手の届かないインディアン領に逃げ込んでしまっていた。マティは凄腕保安官のルースター・コグバーン(ジェフ・ブリッジス)を雇い、犯人探しの危険な旅に出る。果たして二人は、同じくチェイニーを追ってきたテキサス・レンジャーのラビーフ(マット・デイモン)より先にチェイニーを見つける事が出来るのか…? 今やアカデミー賞の常連となったコーエン兄弟の新作は、わずか14歳の少女が正義を信じ、身の危険を冒して過酷な旅をする姿を描いた、これぞ“アメリカン・スピリット”という直球の西部劇です。とはいえ、独特の作風でコメディ、サスペンス、スリラー、そしてアクションと様々なジャンルの作品を撮って来たコーエン兄弟だけに、これまでの作品で培ってきた持ち味のすべてが詰まった、現代的なセンスを感じさせる一本に仕上がっています。 原作はチャールズ・ポーティスによる同名小説「トゥルー・グリット(真の勇気)」。同じ原作を映画化した『勇気ある追跡』(1969年)では、大スター、ジョン・ウェインがルースター・コグバーンを演じ、アカデミー賞主演男優賞を受賞していますが、本作はリメイクではなく、同じ原作を基にした再映画化作品でスティーヴン・スピルバーグも製作総指揮に名を連ねています。 『勇気ある追跡』との一番大きな違いは、リアリティを重視した人間ドラマであること。『勇気ある追跡』は、あくまでも大スター、ジョン・ウェインがルースターを演じることがメインのスター映画ですが、『トゥルー・グリット』では役者陣はアクターとしての役作りに徹しているのです。 その違いは、『クレイジー・ハート』(2009年)でアカデミー賞主演男優賞を撮ったジェフ・ブリッジスの演技と本作の演技とを見比べれば一目瞭然です。『クレイジー・ハート』の主人公バッド・ブレイクでは、ジェフ自身のスター性を前面に出して、軟派なミュージシャンのキャラを魅力的に演じていました。そこにはジェフだからこそ演じられる、という説得力がありました。そのジェフが、『トゥルー・グリット』では、“真の勇気”を持った男と噂される片目にアイパッドをした凄腕のガンマンを演じ、『クレイジー・ハート』とは正反対の西部に生きる男の中の男になりきっているのです。ジェフがこれまで演じて来た色男キャラとは異なるこのルースター役は、過酷な西部を生き抜いてきた男の年輪や、人間としての深みを感じさせ、本当の意味でジェフの演技力の高さを見せつけるベスト・アクトだと言えると思います。ルースター=ジェフのカッコよさには惚れ惚れさせられます。 マット・デイモンが演じるラビーフも、これまでマットが演じてきた“いい人キャラ”とは違い、ひと癖ある男です。うぬぼれ屋でおしゃべりで、マティにお仕置きをしたりとちょっと意地悪で、何よりテキサス・レンジャーとしての誇りを生きがいにしている男。一見、マットが演じているとは気づかない程、役に溶け込んでいます。でも、三人が旅を共にする内、ラビーフの意外な人間性が見えてきます。 犯人チェイニーを演じるジョシュ・ブローリン、お尋ね者ネッドを演じるバリー・ペッパーも印象深い演技をみせています。 そんな中、紅一点、主人公マティを演じるのはオーディションで選ばれ、本作が映画初出演となるヘイリー・スタインフェルド。二人のスター俳優を前に、全く動じず、堂々たる演技でスタッフを驚かせたそうです。強い正義感と行動力で何が起ころうと決して意志を曲げないマティ役にぴったりです。 旅立ちの時、マティは父の形見のジャケットをはおってベルトで止め、テンガロンハットをかぶり、銃を持ちます。マティが覚悟を決めるこのシーンは、ヒロイックで、一度観たら忘れる事が出来ません。 牧場主の娘だった少女は、父を失ったことにより、一瞬のうちに大人にならざるを得ない状況に陥ります。そして、マティが自ら選んだ道は、まるでアイパッド姿のルースターの生き様を辿るかの如く、孤独で険しい道でした。たとえ、ルースターやラビーフに守られていても、“復讐”という蛇の道を選んだマティは、この旅で大きな代償を払うことになるのです…。これこそが、コーエン兄弟が描きたかった西部の真実でしょう。マティのその後の数奇な人生を目の当たりにし、自然と涙が流れました。 本作ではタイトルにもある“真の勇気とは何か?”を問う一方、根底には宗教的なテーマが存在し、各シーンで象徴的に描かれています。リアルな西部劇であると同時に、神話的な雰囲気の作品でもあるのです。 コーエン兄弟の語り口は、決してシビアなだけではなく、サスペンスやアクションを交えながら、時にはエキサイティングに、時にはユーモアをはさんでコミカルに、抜群の緩急で進んでいき、最後まで飽きさせません。 絶妙の配役、キャラクター描写のうまさ、ブラックな台詞の面白さ、リアリティを追求したハードな世界観、西部の大自然を捉えた美しい情景、そして宗教的な裏テーマの存在。コーエン兄弟の作品中では、最も個性を抑えた作品でありながら、どこをとってもコーエン兄弟の本来持っている実力を如何なく発揮した名作です。アカデミー賞作品、監督、脚色、撮影、美術、主演男優賞、助演女優賞ほか、主要部門に多数ノミネートされながら惜しくも受賞を逃していますが、間違いなく、2011年の洋画ベスト3に入るおススメ作です。 次回は、8/12にDVD&ブルーレイ発売のザック・スナイダー監督によるファンタジー・アクション『エンジェル・ウォーズ』(2011年)をご紹介します。
2011年08月07日
家庭の事情によりすっかりご無沙汰してしまいました。 すでに2011年のベスト10に入れたい作品のDVD&ブルーレイ予約が続々と始まっていますので、ご紹介したい作品が目白押しです。 まずは、低予算映画ながら口コミでヒットした洋画の中からおススメの3本を。 2/4にDVDが発売された『ゾンビランド』(2009年)は、ゾンビ映画のパロディ映画。 一口にゾンビ映画と言っても、最近ではやたらと足が速いゾンビや、触れると移るゾンビなど、アイデア勝負の作品も作られています。中には恐怖を煽るものばかりではなく、シュールな笑いを取り入れた作品も多く、こちらもそうしたコメディ路線の1本です。 新型ウィルスに感染すると人間がゾンビ化してしまうという“ウイルス型ゾンビ”が蔓延る地球を舞台に、引きこもりの大学生コロンバスが、旅先で出会った射撃の名手タラハシー(ウディ・ハレルソン)や美人姉妹と共に旅をしながら恋や冒険を経験し、成長すると言う青春ラブ・コメディです。 ゾンビ映画にアメリカンな青春コメディをプラスして明るく表現したことにより、ゾンビ・ファンだけでなく若いカップルのデート・ムービーとしてもヒットし、全米ではゾンビ映画史上、最高の興業収益を叩き出しました。 主人公のダメダメ君を演じるのは、『イカとクジラ』(2005年)、『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)でも主役を演じたジェシー・アイゼンバーグ。引きこもりだった彼がセクシーゾンビに襲われたり、本人役で登場のビル・マーレーと交流を深めたり?と、様々な出来ごとに遭遇します。ゾンビ・シーンにお金をかけられない分、豪快でパワフルなキャラのウディ・ハレルソンや、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006年)の天才子役アビゲイル・ブレスリンなど個性的な共演者たちが珍道中を盛り上げ、ロード・ムービーとしても楽しめる作品です。 次は日本でもかなり話題となった3/18DVD発売のアクション・コメディ『キック・アス』(2010年)。アンジェリーナ・ジョリー主演『ウォンテッド』(2008年)の原作者マーク・ミラーのアイデアを基に製作され、同時進行で執筆されたコミックとは全くストーリーが異なる異色作です。 アメコミ・ヒーローに憧れる高校生デイヴは、ある日、コスチュームを購入し、スーパー・ヒーロー“キック・アス”になりきって街に出る。ところがチンピラにぼこぼこにされ病院送りに。治療のため体内に入れられた金属のおかげで痛みに鈍感になり、打たれ強さを身につける。一方、マフィアのボス、ダミコへの復讐に燃えるある父娘が組織の邪魔をし、ダミコは“キック・アス”の仕業と勘違い。やがてデイヴは、ダミコ対父娘との戦いに巻き込まれていく…。 人気の秘密は、物議をかもした“ヒット・ガール”ことミンディのキャラ。復讐に燃える元警官である父親“ビッグ・ダディ”の手で、幼い頃から“殺人マシーン”に鍛え上げられた少女が、父と共に悪に立ち向かうというもの。設定はかなり「子連れ狼」に近いですが、「子連れ狼」の主人公、拝一刀でさえ、息子の大五郎に“毬”を取るか、“刀”を取るか、始めにちゃんと選ばせているんですよね。でも、ミンディは、自らの意志と関係なく父親の考えで“殺人マシーン”にされてしまったんですから、確かに100%肯定は出来ない設定ですね…。設定はともかく、父親を演じるのがなんと大スター、ニコラス・ケイジ。ミンディを演じるのは当時13歳のクロエ・グレース・モレッツ。ミンディのビジュアル的カッコ良さには誰もが惹きつけられてしまいます。ミンディを演じた当のクロエはインタビューで「これはフィクションだし、役として楽しんだわ」なんて大人な発言をしています。クロエは日本未公開ですが、全米大ヒットし続編も製作中の『グレッグのダメ日記』(2010年)でも、大人びた少女の役で出演しているので、本作でファンになった方は必見です。 ちょっと残念なのは、この父娘が目立ち過ぎて、本筋であるデイヴが目立たないこと。監督・脚本のマシュー・ヴォーンは、明らかにこの父娘に感情移入し、登場シーンを多くしてしまったように思えます。そのために、デイヴのおバカっぷりや、ダメダメ君の成長シーンがしっかり描かれず全体のまとまりに欠けてしまっています。 ちなみに、監督のマシュー・ヴォーンは、次作『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011年)で監督・脚本に大抜擢され、初の大作とは思えないほど、オリジナル・コミックに対する愛情たっぷりのファンを満足させる作品に仕上げています。こちらは、かなりのおススメ作なので、改めてご紹介したいと思います。 最後は3本の中で一番、観ている人が少ないであろう4/6DVD発売のバイオレンス・アクション『マチェーテ』(2010年)。主人公は、その強烈な強面を武器に数々の映画に出演してきたメキシコ系アメリカ人俳優のダニー・トレホ。 メキシコの元連邦捜査官マチェーテは、麻薬王トーレス(スティーブン・セガール)に愛する家族を殺され、テキサスで不法移民となって復讐の時を待っていた。そんな時、不法移民排斥を推進する悪徳議員マクラフリン(ロバート・デ・ニーロ)の暗殺依頼を受け、これをきっかけに不法移民を裏で支援する組織のリーダー、ルース(ミシェル・ロドリゲス)と知り合い、共に復讐に乗り出す。一方、アメリカ移民局の捜査官サルタナ(ジェシカ・アルバ)はマチェーテに疑いの目を向け捜査を開始する…。 共同監督・脚本・製作のロバート・ロドリゲスはトレホの又従兄弟にあたり、クエンティン・タランティーノと組んだ『グラインドハウス』(2007年)の劇中に流れる映画予告編『マチェーテ』の本編を、トレホを主役に実際に製作したのです。 ロドリゲス監督と言えば、『デスペラード』(1995年)や『スパイキッズ』シリーズを手掛ける売れっ子監督。本作でもジェシカ・アルバ、リンジー・ローハンといった美人女優や、ロバート・デ・ニーロなどの豪華俳優陣が出演し、メキシコ系不法移民を題材にアメリカの社会問題を絡めた、手抜きなしの骨太アクションに仕上げています。B級作品とあなどっては損をする出来栄えです。 今回、トレホが演じるのは、腕っ節がめっぽう強くて女にもてる“メキシコ版チャールズ・ブロンソン”。見るからに恐そうな顔立ちで囚人役も多いトレホですが、実は彼、本当に元受刑者だったのです。少年時代から犯罪や麻薬で何度も刑務所を出たり入ったりしていました。そんなトレホがボクシングと出会い、刑務所内のボクシング大会で優勝を果たし、難しいとされる更生プログラムに挑み、見事、社会復帰を果たしました。その後、エキストラ出演がきっかけで脇役に抜擢され、遂にはハリウッド俳優として成功を収めたのです。そんなトレホを見てきたロドリゲスにとって、トレホは、ブロンソンのような孤高のヒーローに映っていたのです。 トレホは今では妻子と共に幸せに暮らし、麻薬更生プログラムのカウンセラーとしても活躍しているそうです。どん底からの復活を果たし、まさにアメリカン・ドリームを勝ち取ったメキシコの星、トレホの勇姿を、ぜひ、ご覧ください。 次回は、アカデミー賞作品、監督、主演男優賞他、主要部門多数ノミネート、9/9DVD発売予定のジョエル&イーサン・コーエン監督による本格西部劇『トゥルー・グリッド』をご紹介します。
2011年07月24日
東北地方太平洋沖地震の被害に遭われた方々に心よりお見舞いを申し上げます。 一人でも多くの方が救出され、一日も早く、ライフラインや食料、燃料、医療等の物資確保が出来ますようにお祈りいたします。 私の身近でも、山形県に実家がある友人は、14日にやっと無事を確認でき、宮城県に親せきがいる友人は、まだ、連絡がついていないようです。私事ですが、闘病中の母が今回の心労で病状が悪化し、緊急入院しました。病院でも毎日、不安な日々を送っています。 そんな時、友人たちが故郷のことを想い、自分たちも余震や原発、計画停電などの心配事が絶えない中で、あるコメディ映画を観て、一時、現実から離れて笑う事が出来たと言っていました。 映画のそうした側面が、少しでも皆様のお役にたてるよう、これからもよい作品をご紹介し続けたいと思います。 今回は、たくさん笑って主人公を応援して、観終わった後に心が温かく幸せな気分になれる作品-。3/11にDVD&Blu-rayが発売された多部未華子&三浦春馬主演の青春ラブ・ストーリー『君に届け』(2010年)をご紹介します。 長い黒髪と陰気な見た目で「貞子」とあだ名をつけられ、小さい時からクラスメイトから避けられてきた黒沢爽子(多部未華子)。そんな爽子だが、本当は真面目で健気でいつも周りの人への気配りを忘れないおとなしい女の子だった。高校生になった爽子は、入学式に向かう途中、道に迷っている風早翔太(三浦春馬)に道を教える。翔太は同じクラスで、明るく爽やかな性格が男女を問わず、人気の生徒だった。爽子にも他の生徒と同じように接してくれる翔太に憧れと尊敬の念を抱く爽子だったが…。 「別冊マーガレット」に今も掲載されている椎名軽穂・原作のティーン向け超人気コミックの実写映画化。2009年秋には深夜枠でアニメも放映され20代から30代の男女にまで幅広い人気を得ている純愛ストーリーです。人気の秘密は、最近流行りの携帯小説のような悲惨な出来事や過激な描写などが全くない、誰もが経験するようなごくごく普通のラブ・ストーリーであること。 “自分の中に芽生えた想いを相手に伝える”。とても単純だけれど勇気が必要でなかなかうまく出来ないこと…。どん臭い爽子は、それが尊敬なのか、恋なのかもわからずにいます。そんな爽子の姿に誰もが共感し、応援したくなる、とても繊細でピュアなラブ・ストーリーなのです。 映画版で爽子を演じる多部未華子と、翔太を演じる三浦春馬は、そんな主人公2人にピッタリのはまり役。 『HINOKIO ヒノキオ』(2004年)ではボーイッシュなガキ大将を演じていただけあり、顔立ちが凛々しくてちょっぴり怒り顔(?)な多部ちゃんですが、今回は、笑い顔、怒り顔、泣き顔、困り顔など表情豊かな攻めの芝居で観客をハラハラさせたり、胸キュンさせたりと、楽しませてくれます。実年齢よりもかなり下の役ですが、違和感なく、ほのぼのとした雰囲気で爽子になりきっています。 そんな全力投球の多部ちゃんに対し、好対照なのが『恋空』(2007年)のイケメン俳優、三浦春馬。春馬君は、“爽やか笑顔”を武器に、台詞も少ないのに大スターの風格でひと際目立っています。クリント・イーストウッドや加山雄三といった大スターと同様に、受け芝居で多部ちゃんの演技を受けまくります。 コミックやアニメファンからは、翔太のキャラが違うし、個々のエピソードの描き込みが少ないとの意見があるようですが、独立した一本の映画として観ると、王道の青春映画のパターンを守り、安心して楽しめる作品に仕上がっています。映画は連続ドラマと違い、約2時間という限られた上映時間に人物紹介を済ませ、ドラマを組み、起承転結をつけなくてはなりません。長編コミックや小説を映画化する場合、膨大なエピソードの中から何をポイントに描くのかは、監督や脚本家の考え方次第です。 本作で脚本・演出を務めた熊澤尚人監督は、爽子中心に物語を組み、原作の持つ幸福感、ときめき感といった全体の空気感にこだわって演出したそうです。そんな中にも、翔太に想いを寄せるくるみ(桐谷美玲)の嫉妬と失恋、千鶴(蓮佛美沙子)とあやね(夏菜)との友情や誤解、体育会系教師の荒井(ARATA)や両親(富田靖子&勝村政信)との関わりなど、高校生活で誰もが経験するネタも随所にちりばめられています。 雰囲気重視でゆったりテンポなので、若干、停滞気味の所もありますが、全体的には監督の狙い通り、多部ちゃん演じる爽子と春馬君演じる翔太の2人を応援したくなる、ほんわかと心が温かくなる学園ドラマに仕上がっています。2010年邦画4位に選んだオススメ作です。 次は熊澤尚人監督とオススメ作について。 1967年、名古屋市出身。成城大学在学中より自主映画を製作し、『VIDE男』が集英社BJ映像大賞に入選。ポニーキャニオンに入社し、岩井俊二監督作『スワロウテイル』(1996年)や、中田秀夫監督ホラー『リング』(1998年)、飯田譲治監督ホラー『らせん』(1998年)等のプロデュースに携わる。1994年、自主映画『りべらる』がぴあフィルムフェスティバルに入選。1999年に退社後、短編オムニバス映画『TOKYO NOIR トウキョーノワール~Birthday~』(2004年)でポルト国際映画祭最優秀監督賞を受賞。蒼井優主演の『ニライカナイからの手紙』(2005年)で劇場長編映画デビューを果たす。 熊澤監督作で一番にオススメしたいのは、市原隼人&上野樹里主演の『虹の女神 Rainbow Song』(2006年)。安藤政信&竹内結子主演『イノセントワールド』(1998年)の原作者、桜井亜美が原案・脚本を務め、岩井俊二がプロデュースしたせつない青春ストーリーです。大学の映画研究会を舞台にしているので、映画ファンは余計にグッときてしまいます。私は、上野樹里演じる佐藤あおいの心情が胸に刺さって号泣してしまいました。市原隼人、蒼井優など、岩井俊二らしい豪華キャストが出演。熊澤監督は、『君に届け』と同様に、想いを伝えられず、ぶっきらぼうにふるまってしまうあおいの複雑な乙女心を繊細に捉えています。それにしても市原隼人演じる岸田智也の鈍感ぶりったら…。 同じく男女の微妙な恋愛を綴った風変わりな恋愛ストーリーが岡田准一&麻生久美子主演の『おと・な・り』(2009年)。古いアパートの壁越しに聞こえる生活音から、何となく通じ合っていく2人を描いています。でもこの作品、下手な監督さんが演出したら、2人の行為に違和感を感じる可能性もあると思いますが、熊澤監督は、夢を目指して懸命に頑張っている都会の孤独な若者が、隣の生活音にホッとしたり、音がしないと心配したり…、といったディテールをお洒落で丁寧に描いているので、観客は無理なく2人に共感出来ます。そして、“音が鳴る”と“お隣”とをかけたタイトルにもあるように、“音”にこだわった演出が冴えています。特に、エンドクレジットの凝り方には注目です。小玉家一押しの谷村美月も出演。 最後は、熊澤監督の長編デビュー作である蒼井優主演の『ニライカナイからの手紙』(2005年)。沖縄の竹富島で郵便局長の祖父と2人暮らしの少女・風希が、カメラマンだった父を継いで東京で修行をする青春ストーリーです。最近では、『人のセックスを笑うな』(2007年)や『百万円と苦虫女』(2008年)などちょっと尖がった作品に出演している蒼井優ですが、そこでも必ず、自分の感情を率直にぶつける、ふてくされ優ちゃん、ダダッ子優ちゃんのシーンがあります。そんな素朴さと芯の強さを感じさせる蒼井優のイメージは、すでにこの時から描かれています。 熊澤尚人監督作品は、ディテールへのこだわり、作品全体の雰囲気作り、役者さんの魅力の惹きだし方などが繊細で丁寧に描かれていて、犬堂一心監督などと並んで好きな日本の監督さんの一人です。過小評価気味の熊澤作品を、ぜひ一度、ご覧になってみてください。 次回は、低予算ながら口コミでヒットした洋画から、2/4発売『ゾンビランド』(2009年)、3/18発売『キック・アス』(2010年)、3/23発売『マチェーテ』(2010年)などをご紹介します。
2011年03月18日
先日2/27に行われた第83回アカデミー賞授賞式で、見事、主演女優賞に輝いたナタリー・ポートマン。今回は、ナタリーをオスカー女優へと導いた、日本では5月より劇場公開予定のサイコ・サスペンス『ブラック・スワン』(2010年)をご紹介します。 ニューヨークのバレエ・カンパニーに所属するニナ(ナタリー・ポートマン)は、元ダンサーの母エリカ(バーバラ・ハーシー)と共に、バレエに人生のすべてを注いでプリマを目指してきた。そして遂に「白鳥の湖」で念願のプリマの座を掴み取る。だが、可憐で優等生タイプのニナは、美術監督のトマス(バンサン・カッセル)に「邪悪で官能的な黒鳥になれるのか?」と厳しく問われる。さらに新人ダンサー、リリー(ミラ・クニス)が代役となり、彼女の自由奔放で情熱的なダンスに圧倒される。完璧な「白鳥の湖」を目指すニナは、様々なプレッシャーに押し潰されそうになりながら、次第に現実と幻覚との区別がつかなくなり、狂気の世界へと堕ちていく…。 先日、一足早く観る機会に恵まれたのですが、これが非常に面白くて、心を揺さぶられ、良い映画を観た後の興奮状態を久しぶりに味わいました。一人でも多くの方に劇場で観ていただきたいので、この興奮が収まらないうちに、勢いでお伝えしたいと思います。 『ブラック・スワン』をより深く楽しむためには、いくつかの関連作を先に観ておくとわかりやすいかもしれません。 1本目は、ミッキー・ロークをゴールデン・グローブ賞主演男優賞受賞、アカデミー賞主演男優賞ノミネートに導いた、ダーレン・アロノフスキー監督の前作『レスラー』(2008年)です。 地方巡業で生計を立てる引退間近のレスラーと、華やかなバレエ団のプリマドンナが主人公のドラマとでは一見、正反対のストーリーのように思えますが、この2本は驚くほどよく似たプロットで出来ています。ここでストーリーを詳しく語る事はしませんが、そこから、ダーレン・アロノフスキー監督の作品に対するアプローチ方法が見えてきます。 どちらも、監督が長年温めて来た企画で、自ら出資者を募り、低予算ながら作家主義を貫いた作品です。そして、登場人物を極力抑え、主人公の生活環境や人間性をじっくり描くことで一人の人間の生き様を濃厚に描き出しています。 演じる俳優たちには、極限までその人間に成りきるメソッド演技が要求されます。ですから、ミッキー・ロークはレスラーの身体を作り込み、ナタリーは1年前から毎日5時間の過酷な練習に耐え、バレリーナに成りきりました。そうした身体的な演技の上に、さらに一人の人間の内面にある闇の部分をもさらけ出さなくてはなりません。 今回、ナタリーに要求されたのは、純真な“白鳥”と邪悪で官能的な“黒鳥”の二面性を、演目の「白鳥の湖」のバレエと、ニナの心の内面との両方で演じるというものでした。ナタリーは劇中のほとんどのバレエ・シーンを自ら演じ、さらには官能を描く過激な性描写にも果敢に挑戦しています。俳優という職業も、需要と供給で成り立っている訳ですが、この年齢で、13歳までバレエを習っていて、白鳥の可憐さを持ち合わせた女優という条件にピッタリはまったのが、まさにナタリー・ポートマンでした。ナタリーは、このチャンスを逃さず、女優として最も過酷と言える要求に対して、ニナ=ナタリーしかいないと思わせる演技で魅せてくれます。 アロノフスキー監督は、そのナタリーに応え、演技では要所要所にアップを多用し、ダンスではナタリーの美しく鍛えあげた全身の肉体をカメラに捉え、ナタリーの魅力を余すところなく映し出しています。アップに耐える美しい顔立ち、可憐なバレエのポーズ、恐ろしく変貌した黒鳥の姿…。5月公開の際には、再び、劇場の大画面で鑑賞したいと今から楽しみにしています。 2本目はカトリーヌ・ドヌーヴ主演、ロマン・ポランスキー監督のサイコ・スリラー『反撥』(1964年)です。 『ブラック・スワン』の劇場スポットを観ると、まるでミュージカル映画『オペラ座の怪人』(2004年)かのようにも見えますが、アロノフスキー監督が目指したのはヒッチコックやブライアン・デ・パルマ的サスペンスと、当時20歳そこそこのドヌーヴが、男性恐怖症に病んでいく女性を演じた『反撥』なのです。 物語の前半は、プレッシャーに追い詰められていくニナの周りで起こる出来事がサスペンスタッチで描かれます。サスペンスフルなストーリーが非常に面白く、物語を推進していきます。やがて、ニナの幻覚症状が映像として観客に突きつけられ、次第に観客はニナと同様に現実と幻覚の区別がつかなくなり、サイコ・スリラー色が強まっていきます。ここはアロノフスキー監督の演出の見せ所。客席には飛び上がる女性の姿もありましたので、ホラー描写に慣れていない方は要注意です。 3本目は『ラン・ローラ・ラン』(1998年)のトム・ティクヴァ監督が描くサスペンス『パフューム ある人殺しの物語』(2006年)。 『パフューム』は、パトリック・ジュースキントのベストセラー小説の映画化。天才的嗅覚を持った孤児院育ちの青年が、ある赤毛の少女が放つ官能的な香りにとりつかれ、狂気に走っていく物語です。『ブラック・スワン』との共通点は、“究極の香水/白鳥の湖”を求めて狂気に走る主人公を描いている事と、“究極の香水/白鳥の湖”という眼に見えないものを映像で表現している事です。『パフューム』では、“人を惑わす究極の香水”の効果が、全裸の男女の群衆によって表現されました。『ブラック・スワン』でも、バレエを観た事がない人でもわかりやすい眼に見える形で表現されています。 クラシック・バレエファンからすると禁じ手かもしれませんが、これは映画という表現形態。ナタリーの演技を補うアロノフスキー監督の演出によって、新たな「白鳥の湖」を観る事が出来るのです。 サイコ・サスペンスなら、気持ちの良いエンディングは望み薄ですが、ここがまた、アロノフスキー監督のすごいところ。「白鳥の湖」の初日を迎えるシーンからクライマックスへと続く怒涛の展開とカタルシス!監督が力技で押し切る息もつかせぬ展開と、衝撃のラストは圧巻です。 最後に共演者についても触れておきます。サブカル世代のクエンティン・タランティーノが、ジョン・トラボルタやパム・グリアなど、自分の青春時代に活躍していた俳優たちを起用して再ブレイクさせて以降、次世代の映画監督たちは、タランティーノほどあから様ではありませんが、映画ファンを唸らせるキャスティングをするようになりました。クリストファー・ノーラン、ポール・トーマス・アンダーソンやウェス・アンダーソンなどがそうです。彼らと同世代のアロノフスキー監督も、本作では『レスラー』のミッキー・ロークに当たる元プリマドンナに、ウィノナ・ライダーを起用。ウィノナにも、ぜひとも返り咲いて欲しいところです。その他、ヴァンサン・カッセルやバーバラ・ハーシーも拍手もののはまり役です。ヴェネチア国際映画祭で新人俳優賞を受賞したミラ・クニスも好演しています。 すでに今年の洋画ベスト3に入るなと確信したアロノフスキー監督の力作。今年必見の1本です。 次回は、3/11にDVDが発売予定の多部未華子& 三浦春馬主演作『君に届け』(2010年)と、熊澤尚人監督作品をご紹介します。
2011年03月07日
自らの代表作である『ロッキー』『ランボー』シリーズに続きスタローンが挑むのは、往年のアクション・スターが総出演するこれまでで最高のアクション映画を作ることだった! シュワちゃん、ブルース、ジェット・リー、ミッキー・ロークも出演!今回は3/9にDVD&Blu-ray発売予定の『エクスペンダブルズ』(2010年)をご紹介します。 自らを“エクスペンダブルズ(消耗品)”と名乗る鉄壁の精鋭部隊は、ソマリアの武装海賊に拉致された人質の救出に成功。だが、チームを危機に陥れたガンナー・ヤンセン(ドルフ・ラングレン)はチームから外される。次なる依頼は、南米の島ヴィナーレの軍事独裁政権を壊滅させる事。偵察に出掛けたリーダーのロン(シルベスター・スタローン)は、軍事政権のガルザ将軍を操る元CIA、ジェームズ・モンロー(エリック・ロバーツ)の存在を知る。ロンは、ガルザ将軍の娘サンドラ(ジゼル・イティエ)と島の人々を助けるため、たった一人、島へ戻る事を決意。だが、出発の日、そこには仲間が待っていた…。 はじめて劇場スポットを眼にした時、「何これ!本当なの?」と疑った映画ファンも多かったのでは。だって、アーノルド・シュワルツェネッガー、ブルース・ウィリス、シルベスター・スタローン、ジェット・リー、ドルフ・ラングレン、ミッキー・ローク、ジェイソン・ステイサムといった主役級のアクション・スターたちが一堂に会す映画なんて、80年代のアクション映画ファンにとっては、夢、また夢の話だと思うじゃないですか…。でも、スタローンは見事にやってくれたのです! そこにはスタローンの熱い思いがありました。 本物のアクション・スターでなくともCGIや3D技術で誰もがアクション映画に主演出来る現代に、もう一度、本当のアクション映画を復活させたい! スタローンは言います。「一見、時代遅れに見えるかもしれないが彼らこそ真のヒーローだ、彼らの勇姿と魂を現代に蘇らせたい。」そのためには、80年代から活躍する主役級のアクション俳優たちに出演してもらう必要がありました。スタローンは、自ら脚本書き上げ、オファーしたい出演者たちが出たくなるようなキャラクター造形に力を入れ、脚本を100回以上も書き直したと言います。 そこにはスタローンがこれまでに何度も繰り返し演じてきた変わらぬテーマがありました。それは『ロッキー』でアメリカン・ドリームを掴んで以来、追い続けて来た“真のヒーロー”であること、どんな逆境にも屈することなく再起する男のドラマ、常に弱者の味方であること、命も惜しまない男たちの熱い友情…。 そんなバイオレンスの巨匠サム・ペキンパーの『ワイルドバンチ』(1969年)などにオマージュを捧げる魂のドラマに加え、男性映画の巨匠ロバート・アルドリッチの『特攻大作戦』(1967年)などのチーム作戦ものの面白さと、激しい銃撃戦と大爆発、カーチェイス、アルバトロス水陸両用飛行艇からの空爆攻撃といった最高のアクション映画を作るための見せ場を用意。 確かに、古いかもしれないし、一行で語れる単純なストーリーかもしれない。でも、スタローンは『ロッキー』以降、一貫した作家性を貫き、主演の自分ばかりでなく、各キャラクター全員に見せ場を持たせ、さらに爆発と銃撃戦などを組み合わせたアクション映画を作り上げました。これを一本の映画に収めるのは、思った以上に大変な仕事だと思います。 類似作品の『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』(2010年)や『RED/レッド』(2010年)と比べれば、そのキャラクター造形の違いは一目瞭然。 『特攻野郎Aチーム』TVシリーズは、その陽気でノー天気なチームものがウリだったのに、映画版はリドリー&トニー・スコット製作のため、おバカ度が足りない大人向けのシャレた作品に変わってしまいました。リーアム・ニーソンはダンディでかっこいいですが、観客が求めるものとはずれていたのでは?と思います。一層、『チャーリーズ・エンジェル』のマック・Gか、『スタスキー&ハッチ』のベン・スティラーが監督した方が面白い企画だったのに…とちょっぴり残念です。 日本でもかなりの話題となった『RED/レッド』は、紅一点のヘレン・ミレンが目立っているものの、全体的にはブルース・ウィリス主演の普通のアクション映画になってしまい、群像劇の妙は楽しめませんでした。あれだけ個性の強いジョン・マルコビッチも目立たないし、モーガン・フリーマンの扱いも、『エクスペンダブルズ』のドルフ・ラングレンの扱いと比べると、全くキャラクターへの愛情表現が足りません。 『エクスペンダブルズ』のラングレンが演じるあのコミック・キャラの面白さったら。一番、美味しいキャラをラングレンに用意するスタローンの気遣いがたまりません。それ以外にも、ジェット・リーの絶妙な使い方や、唯一、2000年代のスター、ジェイソン・ステイサムにまで、彼女を用意したりエンディングにキュートなシーンを用意したりの気の使いよう。そんな風に、各出演者のスター性を微妙に笑いに変換するスタローンの余裕と比べると、『RED/レッド』のブルースは未だにスター性を維持したキャラクター設定なので、やはり、はじけ方が足りません。 『エクスペンダブルズ』でのキャラクターいじりのうまさは、スタローンのセンスと作品への愛情以外の何ものでもなく、まさにスタローンの才能だと思います。 そんな中、思わず泣けるのがミッキー・ローク演じるマネージャー、ツールとロンが語るシーン。ミッキー・ロークは低迷時代に自分の作品にキャスティングしてくれたスタローンへの恩返しで本作への出演を快諾したそうですが、ツールの台詞には、そんな二人の関係性や生き様を思わせる重みがあります。押さえる所はしっかり押さえて、島へ向かう。クライマックスのカタルシスを最大限に引き出すための重要なシーンです。それさえ出来ていれば、細部は荒くてもいいのです。後は突っ走るのみ! あの誰もが知る『ロッキー』(1976年)が、アカデミー賞作品・監督・編集賞を受賞し、スタローン自身が3日で書き上げたという脚本も脚本賞にノミネートされたという事実を知っている若者は、どれだけいるのでしょうか。もし、TVの短縮版や、生卵飲みなどの名シーンしか観ていない方は、ぜひ、じっくりと『ロッキー』を観て欲しいです。脳ミソ筋肉系映画かと思いきや、70年代のアメリカン・ニューシネマの影響が残る暗い作風にびっくりするかもしれません。とはいえ、ハッピーエンディングの『ロッキー』は、それまで主流だったアン・ハッピーエンディング時代の終わりを予感させるものでした。 そして、ドルフ・ラングレンをスターダムに押し上げた『ロッキー4/炎の友情』(1985年)では、現代のアメリカン・プロレスの基本形ともいえるベビー対ヒール・キャラによる勧善懲悪、脳ミソ筋肉系映画を製作。最高のカタルシスを引き出しました。 今回、本物の格闘技を披露したいとの理由から、総合格闘技界からも多数、ゲスト出演しています。スティーブ・オースティン、ランディ・クートゥア、ゲイリー・ダニエルズ、アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ、アントニオ・ホジェリオ・ノゲイラ、そしてNFLで活躍したテリー・クルーズも出演。彼らの格闘技による肉弾戦も見せ場のひとつとなっています。 さて、共演者にこれだけ気を使うスタローンですが、もちろん、主演である自分も手を抜いてはいません。特に、一緒に劇場で観た男性陣のおススメシーンは、ラストのマガジンチェンジと抜き撃ち。その速さと目線に注目! すでにスタローンを語るだけで字数オーバーになってしまいました…。共演者だけでなく、スタッフたちも80年代アクション映画を語る上で欠かせないキャノン・フィルム、そして現代のミレニアム・フィルムの関係者たちが製作に名を連ねています。 往年のアクション映画をこよなく愛する男たちが作り上げた魂の一本をぜひ、ビール片手に楽しんで下さい。 次回は、公開には少し早いですが、ナタリー・ポートマンがアカデミー賞主演女優賞を受賞したダーレン・アロノフスキー監督のサイコ・サスペンス『ブラック・スワン』(2010年)をご紹介します。
2011年03月05日
C.S.ルイスの名作ファンタジーの映画化も第3章へ。今回は、2/25より劇場公開中の『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』(2010年)に合わせて映画シリーズ3作をご紹介します。 ・第3章のあらすじ 前作『カスピアン王子の角笛』から3年後、エドマンド(スキャンダー・ケインズ)とルーシー(ジョージ・ヘンリー)は、いとこのユースチス(ウィル・ポールター)の家で船の絵を見ていると、突然、絵の中の水が溢れ出し、ナルニアへと導かれる。そこには懐かしいカスピアン王(ベン・バーンズ)やねずみの騎士リーピチープがいた。一行は邪悪な魔法からナルニアを守るため、“朝びらき丸”に乗って魔法の剣を探す旅に出る…。 『ナルニア国物語』は英国の作家C.S.ルイスが1950年に発表した全7巻のファンタジー小説です。ライオンの姿をしたアスランが築いたナルニア国の2555年にわたる壮大な年代記が描かれています。『指輪物語』『ゲド戦記』と並ぶ“世界3大ファンタジー”として今も読み継がれています。 これらの3作品には、それぞれ神話や伝説に出て来るクリーチャーが登場し、“闇の力”と戦います。そして、『指輪物語』にはケルト文化の、『ゲド戦記』にはアメリカ・インディアン文化の影響がみられますが、『ナルニア国物語』ではキリスト教をわかりやすく伝えるストーリーとなっています。 また、『指輪物語』では激しい戦いや主人公たちの心理描写などが詳細に描き込まれていますが、『ナルニア国物語』ではあえて描き込む事をせず、ナルニアの世界観は読者の想像力に委ねられています。それだけに、これまで映像化は不可能と言われていました。 これを実写映画化するという大役に抜擢されたのは、大ヒットアニメ『シュレック』シリーズを手掛けたアンドリュー・アダムソン。彼は『第1章』の製作総指揮・監督・脚本を務め、誰もが子供時代に思い描いていたナルニアの世界を、想像以上に美しく幻想的な世界に描き出してくれました。 『ナルニア国物語/第1章:ライオンと魔女』(2005年)では、第二次大戦下、戦火を逃れて疎開してきたペベンシー家の4兄弟が、衣装ダンスの中からナルニアの雪の世界へと導かれます。純粋で人を疑う事を知らないルーシーとフォーンのタムナスさん(ジェームズ・マカヴォイ)との出会いと友情、恐ろしい白い魔女(ティルダ・スウィントン)に心を乱される次男エドマンド、創造主アスランの登場…。各シーンの映像化へのこだわりが感じられる良質のファンタジーに仕上がっています。果たして4人は春を奪われ、100年もの間、冬の世界に閉ざされたナルニア国を救う事が出来るのでしょうか…。当時、10歳のルーシーがキュートで、特にルーシーの登場シーンは一度観たら忘れられないファンタジックな映像に満ちていました。 『ナルニア国物語/第2章:カスピアン王子の角笛』(2008年)は、前作から1300年後が舞台。平和に繁栄していたナルニア国に戦闘民族テルマール人が侵攻し、生き残った民は森の奥深くに閉じこめられてしまいます。テルマール人の若き王位継承者であるカスピアン王子が吹いた角笛により再びナルニアへ導かれた4人は、カスピアン王子、生き残ったナルニアの民と共に昔のナルニアを取り戻すための戦いに挑みます…。前作以上に4人のキャラクターが描き込まれ、戦闘シーンも見応えがありますが、ピーターとスーザンが中心でルーシーの出番が少ないのがちょっと残念です。 ※第1章、第2章については2008年12月「世界三大ファンタジーの映画化『ナルニア国物語』」もご参照ください。 さて、公開中の第3章はシリーズ7作中、最も人気の高いエピソードとなっており、一本足の“のうなしあんよ”やドラゴンといったクリーチャーが登場します。また、メインビジュアルの“朝びらき丸”には、製作費2700万ドル、製作期間18ヶ月がかけられました。“朝びらき丸”は縦揺れ横揺れを生みだす装置によって海上にいるかのようにみえますが、実際にはブルーマットを背景に撮影されたそうです。実写部分の撮影後、膨大なCG場面やCGIキャラクターが組み込まれ3D処理されました。3D技術には2年の歳月を費やした最新のものが使われています。ナルニアの不思議な島々、そこに待ち受ける試練に立ち向かう冒険ストーリーとなっています。 そして、3作を通して出演してきたルーシーとエドマンドにとって、これが最後の旅となります。なぜなら、ナルニアは『ピーターパン』と同じように、ナルニアの世界を信じる子供の心を持っていないと行く事が出来ないのです。成長し、大人の世界に足を踏み入れた途端、ナルニアの記憶はすべてなくなり、二度と行く事が出来なくなってしまいます。第2章のピーターとスーザンもそうでした。 ペベンシー家の兄弟たちの冒険を締めくくる第3章。成長したルーシーとエドマンドに待ち受ける最後の冒険を、ぜひ、劇場の3D上映で見届けてください。 次回は3/9にDVD&Blu-ray発売予定のアクションスター総出演『エクスペンダブルズ』(2010年)をご紹介します。
2011年02月26日
ユニバーサルと『アイス・エイジ』プロデューサーが組んだアトラクション3Dアニメが3/2にDVD&Blu-ray発売。今回は、鶴瓶&芦田愛菜が日本語吹替えを担当しているファミリー・アニメ『怪盗グルーの月泥棒』(2010年)をご紹介します。 怪盗グルー(スティーヴ・カレル/吹替:笑福亭鶴瓶)は、子供嫌いで意地悪な泥棒。最近、若手の怪盗ベクター(吹替:山寺宏一)に話題を独占され、ナンバー1の座を取り戻そうと月を盗む計画をたてる。縮ませ光線をべクターに奪われたグルーは、ベクター家へ侵入するため、孤児の三姉妹マーゴ、イディス、アグネス(吹替:芦田愛菜)を引き取り利用しようとする。しかし、三姉妹との生活が、グルーの心に思わぬ変化を持たせる…。 小さな子供から大人まで、童心に帰って楽しめるキュートなファミリー・ムービーが誕生しました。“アトラクション3Dアニメ”とは、文字通り、遊園地やユニバーサル・スタジオに行った時のワクワク感を体験出来る子供向けの3Dアニメーションの事。劇場予告編を観た方は覚えていると思いますが、ジェットコースターに乗って落ちていくシーンなどは3Dで観ると本当に乗っているかのような凄い迫力を体験できます。 秘密基地や秘密兵器、グルー家の様々な仕掛けや遊園地のアトラクション、宇宙船に乗っての月旅行など、おもちゃ箱をひっくり返したように次から次へと子供が喜ぶ仕掛けが登場します。これなら、小さなお子さんでも飽きずに楽しめると思います。 とはいえ、ピクサーやディズニー、『シュレック』『ヒックとドラゴン』のドリームワークスなどと比べるとまだまだヒット作がないユニバーサルのアニメなので、日本ではあまり拡大公開されずに終わってしまいました。 でも、実際に観てみると、アトラクション的な楽しさだけでなく、特に女の子におススメのオシャレでラブリーな作品に仕上がっているのです。 どうして女の子向きかと言えば、作品全体のデザインやキャラクターがこれまでになくかわいいという事です。 監督は、ピエール・コフィン&クリス・ルノーの二人で本作が長編初監督。名前からしてフランス系のお二人。主人公の“グルー”はフランス人名だし、邦題の“怪盗グルー”は「怪盗ルパン」のイメージですよね。グルーのキャラクター・デザインは、フランスの名エンターティナー、ジャック・タチを思わせます。また、この作品を観てすぐに思いついたのは、作家H.A.レイ&マーガレット・レイ夫妻のベストセラー絵本「ひとまねこざる(おさるのジョージ)」シリーズ。ジョージも宇宙に行ったり、動物園に行ったりと、いろんな所に行って様々な体験をします。そんな絵本を連想させるようなカラフルで洗練されたデザインが全編を彩っているのです。 そうした二人の監督によるデザインは、『アイス・エイジ』シリーズにはなかったものだと思います。 そこに加えられているのは、アメリカ的な脚本やコメディのセンス、大人も楽しめる映画作品へのオマージュ。 地下にある秘密基地とバナナから作られたミニオンたちは、どう考えても『チャーリーとチョコレート工場』(2003年)のウンパ・ルンパだし、デザインは『モンスターズ・インク』(2001年)の一つ眼モンスター、マイクに似ています。ミニオンたちにはそれぞれ名前があり、少しづつデザインも変えていてキャラもあるのですが、集団でいるシーンはインパクトがあってかなりかわいいです。エンディング・タイトルに登場するミニオンたちや、DVD&ブルーレイの特典映像に入った短編もお楽しみです。 そして若手怪盗ベクターの家は『007/サンダーボール作戦』(1965年)の悪役スペクターの基地そのもの。ベクターの父で銀行家のパーキンス氏は、スペクターがモデルの強面キャラ。ベクターの家は、『サンダーボール作戦』と同様、要塞のように武装されており、部屋の中をサメが泳いでいたりします。もっとも、グルーはサメを一発でやっつけてしkまいますが…。 三姉妹が嫌っている孤児院のミス・ハッティーは、ピンクのスーツに小太りの体系が『ハリー・ポッター~』シリーズの憎っくきドローレス・アンブリッジ先生にそっくり。 それと、グルーの協力者で発明家のネファリオ博士は、手塚治虫の漫画に出て来そうなキャラです。 ちなみに、『ゴッドファーザー』にオマージュを捧げたシーンもありますが、どこだかわかりますか?子供と一緒に観ているお父さんは探してみてくださいね。 登場人物の中では、やっぱり三姉妹とミニオンたちのシーンが愛らしくてキュートです。ユニコーンのぬいぐるみを欲しがるアグネスや、お休み前のお話とキスをねだる子供たち、バレエのおけいこや発表会…。女の子の心理をつかんだ脚本になっています。子供向けなので、グルーもそんなに悪い人間には描かれず、すぐに三姉妹と仲良くなってしまいますが、母親の愛を求めて泥棒になったグルーと、里親が欲しい三姉妹が心を通わせていくストーリーには心がなごみます。 そうそう、劇中で、グルーが読み聞かせる三匹の猫の指人形付き絵本ですが、ネットで探したら発売されていましたよ。欲しい方は、ネットで検索してみてください。 本作は、大人も子供もユニバーサル・スタジオに行った時のような興奮を味わえる奇想天外なアクション・アドベンチャーですが、それだけでなく、ストーリーも温かい良作です。劇場で3Dを見逃した方も、ぜひDVDやBlu-rayで楽しんでください。 次回は、2/25より劇場公開予定の『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』(2010年)に合わせて、映画『ナルニア国物語』シリーズ3部作をご紹介します。【3/2発売商品】全3種。1.DVD「怪盗グルーの月泥棒」(1枚組):メイキング、ミニ・ムービーなどの特典映像を収録。2.Blu-ray「怪盗グルーの月泥棒」(1枚組):DVDと同じ特典映像+追加特典映像収録。(計35分)3.Blu-ray「怪盗グルーの月泥棒 3D&2Dブルーレイセット」(2枚組):3D用ブルーレイ(※再生には3D対応テレビ&メガネ等が必要です。)+2D用ブルーレイ(※2と同じ)
2011年02月22日
ひきこもりだった兄が亡き妹のために花火を上げる!今回は、2/25にDVD&Blu-rayが発売予定の実話を基にした感動ドラマ『おにいちゃんのハナビ』(2010年)をご紹介します。 9月9日の花火の日、女子高生の華(谷村美月)が入院生活を終えて家に戻ると、兄・太郎(高良健吾)がひきこもりになっていた。白血病の華のために、一家は東京から新潟県小千谷市に越してきたが、太郎は土地に馴染めず友だちも出来なかった。両親や華とも話そうとしない太郎を、華は強引に外に連れ出し、兄のためにアルバイト先を見つけ、地元の成人会に入れようとする。太郎は華の後押しもあって新聞配達を始めるが、華の白血病が再発し、再入院してしまう。兄は毎日、華を見舞い、華が花火まつりを楽しみにしていることを知る…。 兄と妹、それぞれの想いと絆の深さを描いた良質の感動ストーリーです。 2005年秋、新潟県中越地震の1年後を見つめたドキュメンタリー番組「江口洋介が追い続けた1年・中越地震の町に咲いた超特大花火 ~花火の数だけ涙があった~」の中で、400年の伝統を誇る新潟県小千谷市片貝町の“片貝まつり”が紹介されました。片貝町の町民は、赤ちゃんの誕生や、成人、還暦祝いなど家族の行事の度に、神社に奉納する形で花火を打ち上げるのだそうです。それぞれの花火に託された家族の想いが紹介される中に、亡き妹のために花火を上げる兄のエピソードがあったのです。 読売テレビ「診療内科医・涼子」「女医」「本家のヨメ」などのドラマを手掛けてきた国本雅広監督は、このエピソードに感動し、映画化を決意。国本監督の長編初監督作として2010年9月に劇場公開されました。 また、この話に共感した藤井フミヤが書下ろしの主題歌「今、君に言っておこう」を提供し、作品の感動をさらに盛り上げています。 実話と聞いただけでも涙腺が刺激されますが、気がつけば、劇場で私以上に号泣しているのは、隣に座るうちのダンナでした。邦画を観て、こんなに泣いている姿を観るのは『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(2007年)以来のことです。そうです、この作品は、女性よりも男性の方が泣けるストーリーなのです。それも、ダメ兄であればある程、泣ける度合いは高いようです。『東京タワー~』がダメ息子であればある程、泣けるのと同じです。(うちのダンナがどんだけダメだって話ですが…) そのダメ兄と、元気で活発な妹を演じているのは『ボックス!』(2010年)に続いての共演となる高良健吾と谷村美月です。 まずは主演の高良健吾から。1987年11月、熊本県熊本市生まれ。高校在学中に地元のタウン誌にスカウトされ芸能界デビュー。2005年、ドラマ『ごくせん』で俳優デビューを飾り、現在は映画を中心に活躍中です。 2010年は、まさに映画に引っ張りだこでした。『ソラニン』『ボックス!』『ノルウェイの森』『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』『BANDAGE バンデイジ』など。そして2011年も、劇場公開中の『白夜行』などに出演し、熱演をみせています。 これだけキャスティングされるという事は、ある程度の実力があって、様々な役に対応出来る役者さんだという証ですよね。でも、これまでは二番手や助演の役どころが多く、いつも作品や主演俳優の邪魔をせずに、すんなり役にはまるのが彼の持ち味でした。 今回は、主役で、活発な妹に背中を押されて何とか立ち直ろうと頑張るヘタレ君キャラ。前半はどう見ても無気力な今時の青年を演じ、後半は徐々に変わっていって妹のために頑張る兄を好演しています。妹のように積極的に行動できない不器用な性格なのに、兄なりに変わろうとする姿に共感する人も多いのではないでしょうか。 主役でありながら、華を演じる谷村美月を目立たせている高良健吾ですが、着々と実力をつけてきている感じはします。まだ、日本アカデミー賞などの賞レースには絡んでいませんが、今後は主役級の作品に出演して演技に磨きをかけていってほしいなと思います。 本作で、うちのダンナを筆頭に男性陣を号泣させるのは、妹・華役の谷村美月です。 谷村美月については、以前に『神様のパズル』(2008年)でご紹介しましたが、1990年大阪生まれ。「海賊版撲滅キャンペーン」のCMの黒い涙の少女です。 今回は素朴で真っ直ぐな兄想いの妹を等身大に演じています。兄とは対照的にいつも明るく行動派の華。自分の病気よりも兄の事を心配し、早朝の新聞配達にも自ら参加して、兄を助けようとします。彼女のスクリーン一杯に広がる底抜けに明るい笑顔を観るだけで誰もが元気をもらえます。それに、白血病の症状が進んでつらくても弱音を吐かず、病と闘う姿に勇気づけられます。 この強引に兄を引っ張るキャラは、兄妹とは言え、日本の男子が大好きな『うる星やつら』のラムちゃん的で、うちのダンナもグッとくるようです。さらに、純粋に兄を想う健気なキャラは、当時、10代のチャン・ツィイーが演じたチャン・イーモウ監督作『初恋のきた道』(1999年)の少女をも思わせます。 『神様のパズル』に続き三池作品に出演となった『十三人の刺客』(2010年)では、お歯黒で誰だか判らないくらいのチョイ役でしたが、本作をノーチェックの映画ファンが観たら、きっと、谷村美月のファンが増えると思うのです。 『悪人』(2010年)の満島ひかりや『最後の忠臣蔵』(2010年)の桜庭ななみのようなインパクトには欠けるかもしれませんが、本作の谷村美月も、ぜひ、観て欲しいです。 その他、太郎と華の両親に宮崎美子&大杉蓮、担任教師に佐藤隆太、担当医に佐々木蔵之介というタイプキャストたちが出演。それぞれ出番は少ないですが、印象的な演技をみせています。 さて、クライマックスには、“片貝まつり”の会場で、これでもかっ!という涙の三段フィニッシュが待っています。ご当地ムービーでもあるので、実際のまつり風景や町の人々の様子も映し出されています。日本の風物詩である花火大会ですが、こんな風に家族の想いを伝えるおまつりというのは素敵ですよね。いつか行ってみたいと思います。 次回は、3/2にDVD&Blu-rayが発売予定の子供も大人も楽しめるアトラクション3Dアニメ『怪盗グルーの月泥棒』(2010年)をご紹介します。
2011年02月21日
トム・クルーズとキャメロン・ディアスが『バニラスカイ』(2001年)以来、9年ぶりに共演。今回は2/4にブルーレイ&DVDが発売されたアクション・コメディ『ナイト&デイ』(2010年)をご紹介します。 ジューン(キャメロン・ディアス)は空港でぶつかったチャーミングな男性ロイ(トム・クルーズ)と機内でも席が近くなり、胸をときめかせる。でも、ジューンが化粧室から戻ると機内の様子は一変…。ロイから衝撃の一言が。「この飛行機のパイロットは死んだ。僕が殺したんだ。」パニクるジューンをなだめながら、ロイは操縦かんを握って飛行機を不時着させる。ロイはCIAや謎の男たちから追われるスパイらしい。果たしてジューンの運命は? トム・クルーズがスパイ役と聞くと、またまた『ミッション:インポッシブル』(1996年)や『007』の真似事みたいなトムの道楽映画なんじゃないの?と疑う方も多いと思いますが、今回は違います。 実はこれ、80年代に量産された『インディ・ジョーンズ』シリーズや『ロマンシング・ストーン』などと同じアクション・アドベンチャー・コメディなのです。 トム本人がプロデュースにも名を連ねるこれまでのスパイ映画では、共演者の出番が少なめで、主役のトムばかりが目立つように編集されていましたが、本作は元々、キャメロン・ディアスが先にキャスティングされており、ジェームズ・マンゴールド監督の明確なビジョンの下、恋愛×アクション×コメディが一体となったバランスの良いエンタテインメント作品に仕上がっているのです。 ジェームズ・マンゴールド監督は、激渋西部劇『3時10分、決断のとき』(2007年)やジョニー・キャッシュの半生を描いた『ウォーク・ザ・ライン/君につづく道』(2005年)、アンジェリーナ・ジョリーにアカデミー賞助演女優賞をもたらした『17歳のカルテ』(1999年)など古き良きハリウッドの伝統を踏襲したスター映画を撮って来たベテランの職人監督。 本作では、『シャレード』(1963年)や『北北西に進路を取れ』(1959年)のような空想的でモダンなコメディを心掛けて演出したそうです。『シャレード』でオードリー・ヘプバーンが演じたレジーと同様、キャメロン・ディアス演じるジューンも信頼出来るかどうか判らない相手に恋をし、命を預ける事になります。確かに似ている部分もありますね。 ストーリーの大枠は、一般女性がイケメンスパイと恋に落ちて、世界中を飛び回り悪を退治するという冒険活劇。これは、『インディ・ジョーンズ/レイダース 失われたアーク(聖櫃)』(1981年)などと同じ脚本の組み立てです。インディ・シリーズでは、ヒロインが登場しつつも、あくまでもハリソン・フォード主演のファミリー・ムービーでしたが、その後、インディ・シリーズにあやかろうと製作された同ジャンル作品ではヒロインもしっかりと描写され大人向けのラブ・ロマンスとなっています。 『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984年)と続編『ナイルの宝石』(1985年)では、女流作家ジョーンを演じるキャスリン・ターナーとマイケル・ダグラスが共演し、ハーレクイーン・ロマンスばりの女性向け冒険ラブ・ストーリーが展開されます。そして、『ロマンシング・アドベンチャー/キング・ソロモンの秘宝』(1985年)と続編『キング・ソロモンの秘宝2/幻の黄金都市を求めて』(1986年)は、日本ではTV『将軍 SHOGUN』(1980年)でお馴染みのリチャード・チェンバレンと、『トータル・リコール』(1990年)や『氷の微笑』(1992年)でブレイクする以前のアカ抜けないシャロン・ストーンが共演。 どちらもバブリーな80年代のまったり感とお気楽さが魅力の作品です。『ナイト&デイ』も、これらの80年代テイストが盛り込まれているので、当時を知る世代は、懐かしく思い出しながら楽しんでいただけると思います。 さらに、キャメロン・ディアス演じるジューンのおバカっぷりは90年代のシルヴェスター・スタローン&シャロン・ストーン共演アクション『スペシャリスト』(1994年)や、アーノルド・シュワルツェネッガー&ジェミー・リー・カーティス共演の『トゥルーライズ』(1994年)を思い起こさせます。ジューンが飛行機の化粧室に行っている間に起こる派手な銃撃戦(機内なのに!)や、それに全く気付かないジューンの天然キャラのバカバカしさがまさにそれ。 でも、それならただのおバカ映画かと言うと、そこはベテランのジェームズ・マンゴールドが監督しているので、トム・クルーズとキャメロン・ディアスの両方の持ち味を活かしたスター映画として、押さえるところは押さえていますので、ご心配なく。ですから、トムのスパイ映画だからと敬遠せずに、ぜひ観てくださいね。 余談ですが、スタローンと言えば、アクション俳優が不在となった2000年代に、懐かしのアクション・スター総出演の『エクスペンダブルズ』(2010年)を製作してくれました。こちらは3/9DVD発売にあわせて別途ご紹介する予定です。そして現在は『RED/レッド』(2010年)も公開中。 CGや凝った編集の今時アクションは、カッコイイ反面、目まぐるしい映像に鑑賞後にどっと疲れてしまいますが、豪華スターが共演し、頭をからっぽにして楽しめる脳みそ筋肉系アクションは、ビール片手にまったり楽しめる癒し系。仕事に疲れた頭には、そんな作品の方がストレス解消にもなります。 現在、公開中のオリバー・ストーン監督作『ウォール・ストリート』(2010年)も、若手俳優そっちのけで、バブリーな雰囲気を漂わせたマイケル・ダグラスがスターの貫録を魅せつけるスター映画です。共演のイーライ・ウォラックもチャーミングなしぐさをみせ、脚本上の隠し玉ともなっています。 『ナイト&デイ』も、そんな時流に沿って登場した作品と言えるのかもしれませんね。 次回は、2/25にDVD&Blu-rayが発売予定の高良健吾&谷村美月共演の感動ドラマ『おにいちゃんのハナビ』(2010年)をご紹介します。
2011年02月16日
アカデミー賞作曲賞・歌曲賞を合わせて5回も受賞したイギリスの偉大な作曲家、ジョン・バリーが1/30に心臓発作のためニューヨークで亡くなりました(享年77歳)。今回は、『007』シリーズの音楽や主題歌でお馴染みのジョン・バリーを追悼し、彼の手掛けた音楽と映画作品をご紹介します。 1933年イギリス、ヨーク州出身。映画館主の息子に生まれ、幼い頃から映画や音楽に親しんで育ったジョン・バリーはジャズやR&Bのバンドマンとしてキャリアをスタート。1957年にEMIと契約し、アーティストのプロデュース、アレンジを手掛け音楽プロデューサーとして成功。その後、TVや映画音楽の作曲を始めました。初めての映画音楽は1959年の『狂っちゃいねえぜ』。1作目から『007』シリーズに関わり、『007/ゴールドフィンガー』(1964年)の大ヒットで一躍、注目を浴びます。ジョン・バリーの傑作スコアとシャーリー・バッシーのパンチの利いた歌声の主題歌は、その後のボンド映画のイメージを決定づけました。一方、私生活でもジェームズ・ボンドを地で行くプレイボーイだったようで、当時17歳のジェーン・バーキンとの結婚など、4度の結婚を経験しています。 ジョン・バリーと言えば『007』のテーマ曲や主題歌があまりにも有名ですが、手掛けた映画のジャンルは幅広く、「この映画の音楽もジョン・バリーだったの」と驚くほど、私たちが知っている多くの作品を手掛けています。 『007』同様、ダンディな大人の男性が主人公の作品としては、マイケル・ケイン主演のハリー・パーマーが活躍するスパイ映画『国際諜報局』(1964年)や、トニー・カーティス&ロジャー・ムーアの英米スターが共演するTVアクション・コメディ『ダンディ2 華麗な冒険』(1971年~)があります。『ズールー戦争』(1963年)では戦争スペクタクルに相応しい勇壮なメロディを聴かせてくれます。 さらに作曲家としての地位を不動のものにしたのはアカデミー賞作曲賞、歌曲賞を受賞した『野性のエルザ』(1965年)。親を失った子ライオンのエルザと、彼女を育てたケニアの動物保護官、アダムソン夫妻との絆を描いたノンフィクション小説の映画化で、当時、映画やマット・モンローが歌う主題歌「Born Free」が大ヒットを記録。夫婦になついたエルザが野性に帰っていくまでの感動ストーリーは、ジョン・バリーの美しく叙情的な音楽によって、より一層、観客の涙を誘いました。 3年後、ブロードウェイの舞台を映画化した『冬のライオン』(1968年)で二度目のアカデミー賞作曲賞を受賞。中世イングランドの国王ヘンリー2世(ピーター・オトゥール)と王妃エレノア(キャサリン・ヘプバーン)、三人の息子、そしてフランス国王も加わり、王位継承者を巡って熾烈な争いを繰り広げる本格歴史ドラマです。ここでは管楽器が奏でる力強いメロディに混声コーラスを取り入れたダイナミックなオーケストラ演奏により、歴史絵巻にふさわしい重厚感と斬新さを演出しています。 同じくイギリスを舞台にしたロマンティックな史劇『ロビンとマリアン』(1976年)もバリーの作品。ロビンフッドとマリアンのその後を、ショーン・コネリーとオードリー・へプバーンという豪華二大スターが演じています。監督は『ナック』(1965年)でも組んだリチャード・レスター。リチャード・ハリス、ロバート・ショウなどが共演し、スタッフも英国勢で固めた本場イギリスならではのお洒落なラブ・ストーリーとなっています。 バリーのスコアと言えば、『ある日どこかで』(1980年)に代表されるうっとりするような甘美なメロディも忘れることは出来ません。『スーパーマン』役者、クリストファー・リーヴと『007/死ぬのは奴らだ』(1973年)のボンド・ガール、ジェーン・シーモアの時空を超えた大恋愛を描いたラブ・ファンタジー。肖像画に恋をした青年が、その時代にタイムスリップするというあり得ないストーリーですが、ジョン・バリーのあまりに美しいスコアと、役者二人の情熱的な演技に、しばし現実を忘れて酔いしれてしまうのです。 そして、バリーがグラミー賞を受賞したのがアメリカン・ニューシネマの傑作『真夜中のカーボーイ』(1969年)の同名テーマ曲。ひと旗挙げようとニューヨークへ出て来た田舎者のジョー(ジョン・ボイド)と足の不自由な詐欺師のラッツォ(ダスティン・ホフマン)との友情と挫折を描いた青春ドラマです。アカデミー賞作品賞、監督賞、脚色賞を受賞し、主演の二人も主演男優賞にノミネートされました。あの哀しく美しいハーモニカの音色、夢破れた二人の若者を優しく包み込む哀愁のメロディは、都会に生きる若者の孤独を見事に表現しています。監督のジョン・シュレシンジャーはイギリス人で、バリーとは『イナゴの日』(1975年)でも組んでいます。 70年代には、イギリスの名撮影監督ニコラス・ローグがオーストラリアの砂漠に取り残された姉弟とアボリジニーの少年との交流を描いた『美しき冒険旅行』(1971年)や、不思議ちゃんのミア・ファローと、夫に依頼されて彼女を調査する私立探偵との恋愛を描いたキャロル・リード監督の『フォロー・ミー』(1972年)など、イギリス人監督の秀作を手掛けています。『美しき冒険旅行』のオーストラリアの雄大な自然を彩る幻想的な音楽や、『フォロー・ミー』のミア・ファローの心情を代弁するかのような、喜びや悲しみの入り混じった甘くキュートな旋律など、一度聴いたら忘れる事が出来ない名曲です。 三度目のアカデミー賞作曲賞は、メリル・ストリープ&ロバート・レッドフォード主演、名匠シドニー・ポラックが監督した『愛と哀しみの果て』(1985年)。アフリカを舞台に描かれる男女のラブ・ストーリーには、ジョン・バリーの十八番であるストリングス(弦楽器を主体とした演奏)が多用されています。 四度目は、ケヴィン・コスナーが製作・監督・主演した『ダンス・ウィズ・ウルブズ』(1990年)。南北戦争の英雄がネイティブ・アメリカンたちとの友情を深め、彼らを侵略者から守ろうとします。美しく感動的なシンフォニック・スコアを聴いているだけで雄大なアメリカ西部の風景が浮かんできます。 ジャズ、ロック、映画音楽とマルチな才能を如何なく発揮し、50年代から常に第一線で活躍してきたジョン・バリー。数あるCDの中からどれか1枚を聴くだけで、誰もが聞き覚えのある音楽を耳にし、バリーの並はずれた才能の一端に触れる事が出来ます。映画と共に、これからも永遠に語り継がれていくであろうバリーの音楽に、ぜひ触れてみてください。 次回は、2/4にDVD&Blu-rayが発売されたトム・クルーズ&キャメロン・ディアス共演のアクション『ナイト&デイ』(2010年)をご紹介します。
2011年02月14日
フクロウを主人公にしたアメリカのファンタジー小説を『300<スリーハンドレッド>』(2007年)、『ウォッチメン』(2009年)のザック・スナイダーが監督しフルCGアニメ化。今回は、2/2にBlu-ray&DVD、そして3D対応ブルーレイも発売された冒険ファンタジー『ガフールの伝説』(2010年)をご紹介します。 日本では、昨年7月に放映されていたシャープの3D液晶テレビ「AQUOSクアトロン3D」 のCMで、本木雅弘が『ガフールの伝説』の3D映像を観て、「おーっ!」と驚いている姿が印象的でしたが、覚えている方も多いのではないでしょうか。 でも、劇場に足を運んだ方は少なかったはず。犬、猫やペンギンといった愛らしく人気の動物とは違い、フクロウが主人公なので、日本ではシネコンで小規模に公開しただけであっという間に終わってしまいました…。 ジャンルとしては流行りのファミリー向けファンタジーですが、『ハリー・ポッター~』のヘドウィグが主人公のようなものですから地味なのはわかります。とはいえ、日本には、かわうそが主人公の『ガンバの冒険』や、ミツバチが主人公の『みつばちハッチ』など、地味系生物が主人公の作品がたくさんあるんですから、子供たちも『ガフールの伝説』を観たら、きっとフクロウが好きになると思うんですよね。 物語の舞台はかつての異生物がいなくなりフクロウが支配する地球。メンフクロウのソーレンは親子で幸せに暮らしていたが、ある日、兄のクラッドと共に悪の組織“純血団”にさらわれてしまう。ソーレンは多くの子フクロウたちが自分と同じように捕えられ、洗脳されて奴隷や戦士として働かされている事を知り、サボテンフクロウのジルフィーと一緒に脱出し、伝説の神木を探す旅に出る。この神木は、樹齢1万年の不思議な巨木で、そこにはフクロウたちの親から子へと語り継がれる“ガフールの伝説”に登場する勇者たちが住んでいるというのだ。果たして伝説の勇者たちは現れるのか…? 原作は、キャスリン・ラスキーによるファンタジー小説『ガフールの勇者たち』全15巻。フクロウたちの様々な種類や、その生態に基ずいて考え出されたキャラクターが多数登場し、壮大なファンタジーを繰り広げます。映画版では3巻までを100分のファミリー・ムービーにまとめているため、大人が観るとダイジェストのようで、あれよあれよという間に終わってしまいます。それでも、物語の大筋は、まさにフクロウ版『300<スリーハンドレッド>』。主人公ソーレンが数々の冒険や戦いを体験しながら勇者として成長していく姿を描いた、心躍る“善と悪との戦い”の物語なのです。 これを監督するザック・スナイダーは、ファミリー・ムービーだからと言って、決して手を抜いてはいません。むしろ、「ファミリー層しか観ないのに、そこまでやるか!」と驚くほどの情熱を作品に注ぎ込んでいます。VFXを担当したのは『ハッピー フィート』を手掛けたアニマル・ロジック社。監督は、あくまでも実写で撮ったかのようにみせるリアルな映像にこだわり、アニマル・ロジック社と共に、これまでに観た事もない3D映像と、フクロウたちの住む美しい地球の世界を創造することに成功しています。 登場するフクロウたちは、種類の違いや個体の違いも含めて、羽の1枚1枚や、ふわふわとした羽毛の質感、眼光の鋭さ、首の回し方や攻撃態勢の動作などが、生物学的にもリアルに表現されています。 『アバター』では、青く澄んだ空の下に住む生物や、夜行性の生物たちが光る夜の世界などが幻想的に表現されていましたが、『ガフールの伝説』では、月明かりに照らし出される美しい夜の世界を描きながらも、自然の美しさだけではなく、嵐で荒れ狂う海や、暴風雨といった自然の脅威も描き、その中を必死に飛び続けるフクロウたちの姿を、まさに真の勇者らしく猛々しく、ヒロイックに描き出しています。このシーンを劇場の3D映像で観た時には、「この迫力は『アバター』を越えたな」と確信しました。さすが、男度の高いザック・スナイダー監督だけのことはあります。女性向けのラブ・ストーリーを得意とするロマンティストなジェームズ・キャメロン監督とは違った持ち味で、新たな3D映像を私たちに観せてくれたのです。 戦闘シーンでは、動物ドキュメンタリーを観ているのかと錯覚するようなスピードで飛び回り、敵を鋭いかぎ爪で攻撃するフクロウに圧倒されます。公式ホームページによると、実際にスタントマンによる格闘を撮り、その動きをフクロウの戦闘シーンに取り入れていったそうです。鎧兜を身に付けたフクロウたちのデザインもカッコよく、『ウォッチメン』でもみせた静と動、スローモーションの使い方も鮮やか。 映像へのこだわりは、子供向けと敬遠しては勿体ないほど完成度が高い作品です。原作ファン、ザック・スナイダーファンに限らず、この映像は多くの方に観ていただきたいです。 劇場ではファミリー・ムービーのため、ほとんどが日本語版での上映でしたので、私は市原隼人&川島海荷の日本語吹替版3D上映しか観ていません。字幕版では、ジム・スタージェス他、ヘレン・ミレン、ジェフリー・ラッシュなど豪華声優陣が声を担当していますので、Blu-rayでオリジナル字幕版を観るのが楽しみです。 2/2発売のBlu-ray&DVD商品は全2種。「ガフールの伝説 ブルーレイ&DVDセット【初回限定生産】(2枚組)」と、「ガフールの伝説 3D&2D ブルーレイセット(2枚組)」です。 次回は、1/30に米ニューヨークで亡くなった英作曲家ジョン・バリー氏(享年77歳)を偲び、『007』のテーマ曲などの代表作やアカデミー賞受賞作をご紹介します。
2011年02月02日
日本では昨年2月よりFOXチャンネルで放映開始された米TVミュージカル・コメディ『glee/グリー 踊る♪合唱部!?』をご存知ですか? 全米では2009年の放映開始以来、TVドラマ部門の視聴率1位を独占。オールジャンルテレビ番組でも同時間帯の最高視聴者数1350万人を記録し、ゴールデングローブ賞やエミー賞を多数受賞。オバマ大統領一家もファンでホワイトハウスでパフォーマンスを披露し、「TIME誌」の表紙を飾り、“gleeks”という熱狂的ファンも出現。ファースト・シーズンの第15話ではマドンナが全面的に楽曲提供した「パワー・オブ・マドンナ」を放送。大物セレブ達が大挙して出演を熱望し、これまでにブリトニー・スピアーズ、スーザン・ボイル、グウィネス・パルトロウなどが出演。すでにサード・シーズンの製作も決まり、全米で社会現象となっている大型番組なのです。 パイロット版の評判いかんでお蔵入りもあり得るほどシビアな米TV業界にあって、これだけ受け入れられている番組が、日本人にも面白くないはずがありません。今回は、若者や女性に留まらず、ディスコ世代や洋楽世代、70年代映画ファンも楽しめる『glee』の魅力をご紹介します。 舞台はオハイオの田舎町にあるマッキンリー高校。スペイン語教師のウィル(マシュー・キリソン)は、かつてはグリー部の花形ボーカルで全国大会優勝経験もある人物。今では廃部寸前となっている母校のグリー部に輝きを取り戻そうと立ち上がります。現在のグリー部員は、ゲイや障害者、苛められっ子など学校でバカにされているマイノリティばかり。ウィルは、アメフト部のクォーターバックであるフィン(コーリー・モンテース)の才能を見出し、入部させることに成功。個性的な面々がそれぞれの夢を追い求め、歌と踊りに勝負をかける! グリー部の“グリー”とは「歓喜」「愉快」の意で、合唱部のこと。でも、アメリカでは“ショウクワイア”という合唱形式が盛んなので、歌だけでなく、映画やミュージカル、ディスコ・ミュージックから最新ポップスまで、ありとあらゆるジャンルの音楽を扱い、自由に歌って踊る事が出来るのです。 作品中、何度も登場するジャーニーの「Don't Stop Believin'」ほか、ヴァン・ヘイレン「Jump」、ボン・ジョヴィ「It's My Life」、クイーン、U2、ビリー・ジョエルで男子チームが踊れば、マドンナ、ビヨンセ、セリーヌ・ディオン、シンディ・ローパー、アヴリル・ラヴィーンで女子が対抗。ミュージカルからは「シカゴ」「レ・ミゼラブル」「ウエスト・サイド物語」といった名作が続々登場すれば、映画からは「グリース」「ドリーム・ガールズ」「キャバレー」などがラインナップ。毎話、披露されるパフォーマンスは最大の楽しみのひとつ。 でも、それだけではありません。登場人物たちのドラマに合った楽曲が選ばれ、歌詞がストーリーとリンクしているので、それぞれのキャラクターに、より感情移入することが出来るのです。 そして、『glee』の新しい所は、これまでの「ハイスクール・ミュージカル」のような明るく健全な青春ストーリーではなく、最近のアメリカン・コメディで流行りのヘタレ男子の情けない青春ドラマや、教師陣のドロドロ恋愛ストーリーなども組み込まれ、ドラマ部分に力を入れている事です。 「ハイスクール~」のザック・エフロンや「花より男子」の松潤が主人公では、男性陣は観る気がおきませんが、『glee』なら、必ず感情移入出来るキャラがいるはずです。 うちの主人が好きなのは、体育会系男子のフィン。彼は脳みそ筋肉系男子で、本来、「グリー部などゲイのやる事だ」と思い込んでいそうな男子なのですが、小さい頃から歌が好きで、カミングアウトします。彼につられて、アメフト部からも参加者が増え、盛り上がっていきます。 主人公の教師ウィルは、悪妻テリ(ジェサリン・ギルシグ)と、同僚で潔癖症の教師エマ(ジェイマ・メイズ)との間で心が揺れ動きます。その他、グリー部とバトルを繰り広げるチア部のコーチ、スー(ジェーン・リンチ)のキャラも強烈。 そんな中、私のお気に入りは、バーブラ・ストライサンドのようなスターを夢見るレイチェル(リー・ミッシェル)。彼女は、クラスの嫌われ者で、かなりKYな性格ですが、完璧主義で人一倍、努力家。これまでのドラマでは主人公になり得ないキャラです。でも、そうしたマイノリティたちや、ヘタレ男子たちが失敗しながらも、少しずつ成長し、成功を掴んでいく姿に、いつの間にか共感し、感動してしまうのです。 基本的には、『アメリカン・パイ』(1999年)的なブラックなアメリカン・コメディで、そこに、米リアリティ番組『アメリカン・アイドル』のようなグリー部の大会出場といったドラマと、毎話のパフォーマンスが組み合わさった新しいスタイルの音楽青春ドラマです。取り上げられる音楽は、若者だけでなく、小林克也さんの「ベストヒットUSA」世代や、『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年)などのロック・ミュージカル映画世代にもたまらないラインナップ。 メインキャストのほとんどは、TV界では無名ですが、主に舞台で活躍している若者たちで、製作総指揮のライアン・マーフィーが何度も足を運んで口説き落としたそうです。それだけに、歌も踊りも演技も、高水準の実力派ばかり。 何より、太っていたり、背が低かったり、障害があったりというそれぞれに悩みを抱えたマイノリティたちが、それを自分の個性として、自信を持って大会に挑んでいく姿に感動します! まあ、とにかくDVDの「Vol.1」を観てみてください。ちなみに、『glee』の第1話目は、インターネットで無料視聴が可能なので、視聴環境がある方はそちらでどうぞ。1/7に発売されたDVD「Vol.1」は、通常、2話収録の所、4話が収録されています。ただし、この4話は人物紹介がメインで音楽的な見せ場は控え目です。5話目からパフォーマンス・シーンがぐーんと増えて来ますので、お楽しみに。 2/4には、ファースト・シーズン残りの5話から22話までを収録した「コレクターズ・ボックス」が発売予定。お早めに、ご予約ください。こちらのボックスには、「Vol.1」も収納可能です。 次回は、2/2にDVD&Blu-ray発売予定のフルCGアニメ『ガフールの伝説』(2010年)をご紹介します。
2011年01月30日
さて、それでは第2弾に続き眼から鱗!Blu-rayソフトを買うべきクラシックの名作をご紹介します。今回は、いずれもワーナー・ホーム・ビデオの2500円シリーズとして発売されている作品です。 Blu-rayデビューするならこの作品! 第1弾(ソフト編)はこちら 第2弾(ハード編)はこちら 1作目は『カサブランカ』(1942年)。 ハンフリー・ボガート&イングリッド・バーグマン主演。アカデミー賞作品賞・監督賞・脚本賞受賞作。第二次大戦下、モロッコの都市カサブランカでバーを経営するリックは、元恋人イルザと再会を果たす。彼女はドイツ抵抗運動の指導者ヴィクターと共に脱出の機会を狙っていた。イルザに助けを求められたリックは苦渋の選択を迫られる…。 「君の瞳に乾杯」など数々の名セリフを残し、主題歌「時の過ぎゆくまま」は今も歌い継がれる映画史屈指の名作。1940年代のモノクロ作品が、驚きの画質で蘇えりました。ピントもシャープで新作のようなクリアーな画面。これは、モノクロ作品に共通して言える事ですが、Blu-rayはモノクロ作品の再生能力が非常に高いのです。中でも昨年4/21に発売された本作のBlu-rayは、これまで劇場やテレビで幾度となく観て来た方でも「モノクロなのにここまで艶があるなんて!」と、びっくりするに違いありません。これまで観たことが無い画質による、本当の『カサブランカ』を体験出来ます。ぜひとも、この感覚を味わっていただきたいです。 2作目は『風と共に去りぬ』(1969年)。 マーガレット・ミッチェル原作のピューリッツァー賞受賞作を映画化しアカデミー賞9部門を受賞したハリウッドを代表する名作。南北戦争下のアメリカ南部を舞台に、アイルランド系移民の父と名家の母との間に産まれた気性の激しい娘スカーレット・オハラの半生を描く壮大な戦争メロドラマです。 このアメリカを代表する名作のBlu-rayソフトを発売するにあたり、ワーナーは、画素をレストアすることで従来は不可能だった1080pの高解像度に見合う映像を実現。その気合の入れようは、ジョージア州アトランタにある故郷タラと同じ土を取り寄せて色調整を行ったという逸話からも想像が出来ます。当時の色鮮やかなカラーを再現した事により、スカーレット演じるヴィヴィアン・リーのきめ細やかな肌、緑の瞳、黒髪が強調され、彼女が纏う衣装の豪華な刺繍や装飾が映えるだけでなく、スカーレットが愛するタラの燃えるように赤い夕景や、アトランタの街を覆う燃え盛る炎が迫力の映像で観る者に迫って来ます。また、戦争の傷跡を捕えるクレーン撮影シーンでは、おびただしい数の傷ついた兵士たち、どこまでも続く死体の山がクリアな画面に映し出され、CGの無い時代に撮影された、この大規模なロケに圧倒されます。 粗悪な画質のワンコインDVDでは決して味わう事の出来ないハリウッドの技術の粋を集めた高画質で本物の『風と共に去りぬ』を堪能してください。 3作目は『オズの魔法使』(1939年)。 カンザスに住む少女ドロシーは、竜巻に飛ばされ魔法の国に来てしまう。途方に暮れるドロシーの前に北の魔女が現れエメラルド・シティの魔法使いオズに会えば、帰る方法を教えてくれるだろうと助言する。ドロシーは愛犬トトと、旅の途中で出会ったカカシ、ブリキ男、ライオンと共にエメラルド・シティへ向かう…。 「虹の彼方に」他、スタンダード・ナンバーとなっている数々の名曲を生んだ、今なお、愛され続ける永遠のミュージカル・ファンタジー。2005年発売のDVDリマスター版もかなり綺麗な画質でしたが、やはり買い替え必至のタイトルです。本作の見所の一つは、スタジオ撮影によるイマジネーションに溢れた美術セットや衣装、特殊メイクや特撮技術など。セピア色の現実世界からたどりついたオズの国の鮮やかな色彩、ドロシーが履く赤い靴の眩しいほどの輝き、色とりどりの衣装に身を包むマンチキンたち、そのどれもが時代を感じさせないクリアな映像で楽しむ事が出来ます。約437分というふんだんな映像特典も見応え充分です。 4作目は『ドクトル・ジバゴ』(1965年)。 ロシアのボリス・パステルナーク原作を『アラビアのロレンス』(1962年)、『戦場にかける橋』(1957年)の名匠デビッド・リーンが映画化した歴史大河ロマン。アカデミー賞作品・監督賞ノミネート。脚色、撮影、作曲、美術監督・装置、衣装デザイン賞受賞。ロシア革命に翻弄される医師ジバゴと彼を愛した二人の女性、ラーラとトーニャの半生を通して激動の時代を描く戦争メロドラマです。 『風と共に去りぬ』が女性のためのメロドラマなら、『ドクトル・ジバゴ』は男性のためのメロドラマと言えるでしょう。モーリス・ジャールによる「ラーラのテーマ」など、クラシックの名画には、必ずといっていいほど、耳に残る名曲、名セリフ、名シーンがあります。本作の見所は何と言っても大規模なロケ撮影にあります。『アラビアのロレンス』では砂漠を、『ライアンの娘』ではアイルランドの自然をダイナミックに映し出したデビッド・リーン監督の、広大なロシアの大地を捉えた美しい映像が、Blu-ray画質で蘇えるのです。 次回は、第4弾に行く前に、1/7、2/4にDVD発売の米TVドラマ『glee/グリー 踊る♪合唱部!?』をご紹介します。
2011年01月16日
年末にはエコポイントの駆け込み需要も手伝って、Blu-ray一体型TVやフル・ハイビジョンTVへ買い替えた方も多いのではないでしょうか。わが家もフル・ハイビジョンTVを購入し、Blu-ray在庫も、益々充実してきました。 そこで、今回は2010年5月にご紹介した「Blu-rayデビューするならこの作品!」の第2弾として、Blu-rayを楽しむために準備段階として必要なハード面についての豆知識をご紹介します。 前回は、Blu-rayソフトの「画質/音質/価格」などソフト面についてでしたが、今回は「Blu-rayのおススメ視聴環境」「HDMI端子」「バージョンアップ」「読み込み時間」といったキーワードについて。 すでにBlu-rayソフトをご覧の方は、どんな視聴環境で観ているでしょうか?Blu-ray一体型TVの方は良いとして、TVとBlu-ray再生機を繋げている方は、別売りのHDMI端子で繋げていますか?私の周りでは、「Blu-rayソフトを観たけど、DVDとあまり画質が変わらないじゃない」と言っている人に限って、HDMI端子で繋げていない人が多いのです。HDMI端子で繋げないと、Blu-ray最大の特徴である高画質なフル・ハイビジョン映像を楽しむ事が出来ません。いくらTVと再生機がデジタルでも、繋げるコードがアナログでは意味がないのです。HDMI端子は1,500円くらいから購入可能ですので、ぜひ、ご購入ください。それだけで画質も音質も見違えるように綺麗になります。 同じ事がモニターにも言えます。Blu-rayをパソコンやアナログTVで観ている方は、ぜひ、フル・ハイビジョンもしくはハイビジョンTVと繋げてみてください。これまで観ていたものが、本当のBlu-ray画質ではなかった事がわかるはずです。 余談ですが、わが家のプロジェクターはフル・ハイビジョンではありませんが、スクリーンに投影する場合は部屋を暗くしますし、映像も大きく投影されるので、フル・ハイビジョンTVとは違った良さでBlu-rayを楽しむ事が出来ます(フル・ハイビジョンTV(42型)とスクリーン(80インチ)での画質比較)。フル・ハイビジョンでなくても、Blu-ray再生機とHDMI端子で繋げれば、DVDの画質とは比較にならない美しさで観る事が出来るのです。 また、「うちはBlu-ray再生機がないからまだDVDしか観られない」という方は、もしかして「playstation 3」をお持ちではありませんか?からかっているのではありません。私の身近にも「PS3でBlu-rayソフトが再生可能」という事をうっかり忘れている人がいたんです。PS3は、Blu-ray再生機と全く遜色ない画質、音質で視聴可能ですし、ネットに繋げている方は、バージョンアップが自動で非常に楽です。ゲーム好きの方なら、Blu-ray再生機を買わずにPS3の購入を検討するのも良いと思います。 「バージョンアップ」と言えば、2010年の11/26に発売された「アバター ブルーレイ版エクステンデッド・エディション」は、読み込みエラーが多くてネット上では苦情が飛び交っていましたが、これもバージョンアップをしていないため。通常のBlu-ray再生機でご覧の方は、定期的にインターネットに繋げて(PCまたはUSB、CD-Rから)最新バージョンへダウンロードをしてください。 最後にBlu-rayソフトの「読み込み時間の長さ」について。Blu-rayはDVDと比較すると、読み込みに相当な時間がかかります。DVDの感覚だと、ソフトの不良か、再生機との相性が合わないのか、などと不安になりますが、わが家でも、5分以上、読み込みに時間がかかるソフトもありますので、エラー表示が出ない限りは辛抱強くお待ちください。最新のSONYの再生機は、この読み込み時間がかなり改善されています。どのメーカーの再生機を買おうか迷った場合は、SONYをおススメします。【Blu-rayのおススメ視聴環境】・最強!こだわり派→フル・ハイビジョンプロジェクター+PS3+HDMI端子・現実派→フル・ハイビジョンTV+PS3+HDMI端子・ゲームしない派→フル・ハイビジョンTV+Blu-ray再生機+HDMI端子・面倒くさがり派→Blu-ray一体型フル・ハイビジョンTV 豆知識が長くなったので、目から鱗のBlu-rayソフトの紹介は第3弾にてお送りします。
2011年01月13日
2010年に公開された映画の中から選ぶ邦画ベスト10。1位『ノルウェイの森』、2位『告白』、3位『ボーイズ・オン・ザ・ラン』、4位『君に届け』、5位『十三人の刺客』につづき、6位~10位をご紹介します。1位~5位の紹介ページはこちら6位『カラフル』(公開:2010年8月~)アニメから唯一選びました。原恵一監督の作品は夢があってどれも好きですが、今回は森絵都の児童文学を映画化した、これまでにないシリアスな作品です。自殺した少年・小林真の魂と引き換えに生き返った主人公が、別の人生を体験し、自分の犯した罪に気付くという物語。クラスに一人はいそうな目立たぬ男子中学生が抱える家族や恋の悩みがリアルに描かれ、心に刺さります。多くの子供たちが傷つき、自殺未遂や援助交際に走る現在、原作者の「自殺してはいけない」「人は誰もがカラフルな面を持っている」という強いメッセージが伝わってきます。大人の立場で本作を観ると、社会の責任を一身に背負ってしまう子供たちの姿にやるせなさを感じます。でも、大人の中にも“小林真”がたくさんいるのかもしれません。7位『花のあと』(公開:2010年3月~)北川景子主演、藤沢周平原作の短編小説を中西健二が監督し映画化。剣術が得意な武家の娘と、娘を慕う二人の武士の誇りを持って凛として生きる姿を描く感動の時代劇です。2010年は、『必死剣鳥刺し』『最後の忠臣蔵』『桜田門外ノ変』など多くの時代劇が公開されましたが、本作は他の話題作とも遜色なく、特に女性にはおススメ。明るくお転婆な主人公・以登のキャラは北川景子にピッタリはまり、アクションもこなしているのでアイドル映画としても観る事が出来ます。晴々とするラストがいつまでも心に残ります。8位『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』(公開:2010年5月~)成海璃子主演、日テレ「ズームイン!」で紹介され話題となった実話を基にした青春ガールズ・ムービーです。“紙の町”愛媛県四国中央市を舞台に、音楽に合わせて身体全体で字を書く“書道パフォーマンス”大会に青春を賭ける書道部員たちの奮闘が描かれています。町おこしに立ち上がる高校生たちのコミカルな行動、各部員たちや先生、街の人々のキャラクターも魅力たっぷり。クライマックスの“書道パフォーマンス”の技は一見の価値が有ります。書道の魅力をしっかり伝えているのも評価したいところ。笑いあり、涙ありの老若男女が楽しめる王道のファミリー・ムービーです。9位『悪人』(公開:2010年9月~)芥川賞作家・吉田修一の原作を『フラガール』(2006年)の李相日が監督し映画化。ある殺人事件の加害者、被害者と、それぞれの家族の立場から事件を描き、誰が本当の悪人なのかを問う人間ドラマです。主演の妻夫木聡は、普段の美系青年とは正反対の犯人像を完璧に作り上げ迫真の演技をみせています。モントリオール映画祭最優秀女優賞を受賞した深津絵里は天使のような無垢な女性を儚げに演じる他、助演の岡田将生や満島ひかりの熱演も印象的。役者が揃った見応えのある作品ですが、メロドラマ中心で主役の二人を始めから好意的に描いている事には疑問が残ります。苦労人の犯人と金持ちのどら息子というような判りやすい設定は、『告白』や『カラフル』と比べるとテーマ性の追求に欠ける気がします。10位『孤高のメス』(公開:2010年6月~)現役医師・大鐘稔彦によるベストセラー小説を、『ミッドナイト イーグル』(2007年)の監督、『クライマーズ・ハイ』(2008年)の脚本を手掛けた成島出が監督し映画化。近年、医療ミスや救急患者のたらいまわし事件などが取り上げられ、医師という職業の評価が低くなっているように感じますが、本作は、改めて医師や看護師といった医療に関わる人々の苦労や偉大さを思い出させてくれます。天才外科医・当麻鉄彦(堤真一)の「患者の命を救いたい」という真摯な想い、それを見守る看護師・浪子(夏川結衣)に芽生えた看護師としての使命。医師という職業に限らず、「自分は人の役に立っているだろうか?」と考えさせられる感動のヒューマン・ドラマです。悪役の設定や説明の多い脚本には難ありですが、役者の名演と外科手術のリアルな描写は秀逸です。 次回は、「Blu-rayデビューするならこの作品!」の第2弾をご紹介します。
2011年01月07日
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします! 洋画に続き、2010年に劇場公開された映画の中から選んだ邦画ベスト10をご紹介します。 2010年の邦画興業成績では『海猿』『踊る大捜査線』『SP』『のだめカンタービレ』などフジテレビ製作×東宝配給作品が上位を占めました。TBSは『ハナミズキ』『SPACE BATTLE SHIP ヤマト』やアスミック(角川)と組んだ『大奥』など独自企画で勝負。そんな中、低予算の『告白』が大ヒットし、名作時代劇をリメイクした『十三人の刺客』も話題となり、莫大な宣伝費をかけなくても“優れた脚本”“面白い娯楽映画”を作ればヒットするという好例となりました。 まずは邦画ベスト5まで。1位『ノルウェイの森』(公開:2010年12月~)これを邦画に分類するなら文句なしの1位。親友キズキ(高良健吾)が自殺し、深い喪失感を抱えた大学生ワタナベ(松山ケンイチ)の青春と再生を描く文芸ドラマ。ヴェトナム出身でパリ在住のトラン・アン・ユン監督が脚色も手掛け、村上春樹の大ベストセラー小説を遂に映画化。アジア人が持つ本来の美しさを濡れる髪や肌、表情やしぐさから官能的に表現してきたトラン・アン・ユン監督。本作ではワタナベと直子(菊地凛子)の心情をブルートーンの森の中に表現するなど、日本の自然や四季折々の風景と共に監督がイメージする日本人らしさが描かれ、監督の新境地を観る事が出来ます。死=直子と生=緑(水原希子)の対比も鮮やか。原作の世界観をここまで素晴らしい映像でみせてくれたトラン・アン・ユン監督に感謝したいです。2位『告白』(公開:2010年6月~)2009年本屋大賞を受賞した湊かなえ原作のベストセラー小説を『嫌われ松子の一生』(2006年)の中島哲也監督が映画化。娘を殺されたシングルマザーの教師が、担任クラスの生徒である犯人AとBに対し自ら制裁を下したと告白。犯人AとBの告白により事件の真相が明らかになっていきます。学級崩壊、少年犯罪、女教師の復讐劇…と、ショッキングな題材を扱った、決して絵空事ではすまされない問題作です。中島監督は、全編をハイテンションな演出スタイルで圧倒しながらも、各章毎にサスペンス、ホラー、ファンタジーと変化を持たせ、さらに役者の見せ場を用意するなど、力技と緻密な計算を織り交ぜた絶妙の“中島ワールド”を展開。松たか子ほか役者陣の熱演は勿論、謎解きサスペンスの面白さ、イマジネーションに溢れた映像など見所満載の必見作です。3位『ボーイズ・オン・ザ・ラン』(公開:2010年1月~)花沢健吾の原作コミックを、劇団ポツドールを主宰する三浦大輔が長編初監督し映画化した青春ドラマ。銀杏BOYSの峯田和伸が演じる主人公・田西のヘタレっぷりには大いに笑わせて貰いました。コミカルでテンポある演出が小気味よく、『タクシードライバー』から『ロッキー』まで、70年代アメリカン・ニューシネマへのリスペクトに共感。40~50代のニューシネマ世代に観て欲しい隠れた名作です。4位『君に届け』(公開:2010年9月~)多部未華子&三浦春馬主演。椎名軽穂・原作の少女コミックを『おと・な・り』(2009年)の熊澤尚人が監督し映画化。箱入り娘で純真な爽子を演じるキュートな多部未華子と、絵に描いたような爽やかな笑顔を見せる翔太を演じる三浦春馬に胸キュンしまくりの純愛ドラマです。熊澤監督は、上野樹里&市原隼人主演の『虹の女神 Rainbow Song』(2006年)などせつない恋愛ストーリーに定評があります。『虹の女神』には号泣させられましたが、今回は多部ちゃんのぽーっとしたキャラに笑いつつ、ホノボノとした味わいが楽しめます。攻め芝居の多部ちゃんと、それをキメ笑顔で受けまくる春馬君の男っぷりが好バランス。体育教師を演じるARATAも良い感じ。全編ゆったりテンポでやや緩急に欠けるのが勿体ない感じがします。5位『十三人の刺客』(公開:2010年9月~)オールスター総出演、工藤栄一監督による1963年の傑作時代劇を、三池崇史監督らしい遊び心を加えて現代に蘇らせた大型娯楽時代劇。オリジナルファンは、このいじり方に怒り心頭。でも、私の身近にいる若者たちはこぞって面白いと称賛。オリジナルの素晴らしさがあってこその本作ですが、鑑賞後に夫婦で2時間も3時間もオリジナルとリメイクを比べて語り合いました。それだけ会話が盛り上がった作品は2010年に観た劇場映画240本の中でこれ1本のみ。それこそが三池監督の狙い通りで、作家性がもろに出た作品と言えるかもしれません。“武士の一分”を描くオリジナルと、殿の残虐行為を強調し暗殺の正当性を主張するリメイク。現代にはその方が判り易く、共感出来るのだと思います。ぜひ、オリジナルと見比べて語り合って欲しい作品です。 次回は6位~10位をご紹介します。(6位~10位の紹介ページはこちら)
2011年01月06日
Merry Christmas! みなさんは、どのようなクリスマスを過ごされたのでしょうか。私はお台場でレインボーに光る東京タワーなどクリスマス・イルミネーションを見て来ました。 2010年も残りわずか。今回は、年末年始にかけて観ておきたい映画ということで、2010年に劇場公開された映画の中から選んだベスト10をご紹介します。 以前にご紹介した映画については、作品紹介ページへリンクしておきますので、そちらもぜひ、ご参照ください。 まずは、洋画のベスト10から。アカデミー賞を受賞した『ハートロッカー』、レオナルド・ディカプリオ主演の『シャッター アイランド』『インセプション』、ジョニー・デップ主演の『アリス・イン・ワンダーランド』など、話題作も多く10本に絞るのが大変な豊作年でしたが、ここは見落とされがちな良作にもこだわって選んでみました。1位『アバター 3D』(公開:2009年12月後半~)今年を象徴する流行語ともなった“3D”ですが、その技術を“自然と人間とが共存する理想郷”を表現するために使ったジェームズ・キャメロン監督の発想は素晴らしいです。パンドラに住むナヴィたちの植物や動物と共生し合う生き方を描く場面は、何度観ても飽きることがありません。11/26に発売されたエクステンデッド・エディションの特典映像には、キャメロン監督が『アバター』で描いた壮大な思想や製作秘話がふんだんに収録されていて、さらに理解が深まります。2位『フローズン・リバー』(公開:2010年1月~)厳しい環境の中で家族を必死に育てるシングルマザーたちを応援した、女流監督による骨太のヒューマン・ドラマ。スターやヒーローになりえない市井の人々に光を当て、彼らに希望を与えるコートニー・ハントの脚本に素直に感動しました。同じ女性としても応援していきたいです。3位『インビクタス/負けざる者たち』(公開:2010年2月~)クリント・イーストウッド監督が、南アフリカを舞台に描く感動の実話。マンデラ大統領の過酷な半生と、ラグビーというスポーツの力を通して行った偉大なる功績を、大統領の側近や、ラグビーの選手たち、街の人々の心の変化を通してさらりと描くクリント様のアプローチはさすがというほかありません。11/13には低価格版DVDも発売されています。4位『マイレージ、マイライフ』(公開:2010年3月~)プロの“リストラ宣告人”を主人公に、現代アメリカを皮肉った技あり人情コメディ。リーマン・ショック以降、世界中が不況にあえぐ今、あまりにもタイムリーな素材です。主人公のライアン・ビンガムを演じるジョージ・クルーニーの魅力や、新人ナタリー演じるアナ・ケンドリックとのコンビぶりも楽しいジェイソン・ライトマン監督渾身の1作。5位『第9地区』(公開:2010年4月~)映画や小説の中では、すでに語りつくされている異星人とのコンタクト。現実には、微生物とのファースト・コンタクトがやっとかも。でも、映画の中ではやっぱりヒューマノイド型でなければつまりません。そんなSF好きを満足させるドキュメンタリー・タッチの映像と、後半の予測不可能なバディ・ムービーへの転換。好き嫌いが分かれる作品ですが、キャラクター造形に優れた力作です。6位『月に囚われた男』(公開:2010年4月~)SF好きの心をくすぐる数々の名作SFへのオマージュ。ディテールへのこだわり。作り手の愛情が詰まった低予算映画のお手本ともいえる良作です。これをデヴィッド・ボウイの息子、ダンカン・ジョーンズが作ったとは驚き。サム・ロックウェルの一人芝居、ケヴィン・スペーシーが声を演じる人工知能ガーディとの友情も泣けてきます。7位『バッド・ルーテナント』(公開:2010年2月~)ニューオリンズを舞台に、英雄として表彰されながら、裏ではドラッグをさばく刑事テレンス・マクドノーを主人公にしたクライム・アクション。犯罪ドラマとしてはベン・アフレック監督の『ザ・タウン』も、今年、高い評価を得ていますが、私は断然、こちらが好きです。だって、出演者にも監督の演出にも華がありますからね。主演のニコラス・ケイジは久しぶりに『リービング・ラスベガス』(1995年)や『ワイルド・アット・ハート』(1990年)を彷彿とさせる名演をみせ、脇のエヴァ・メンデスやヴァル・キルマーも渋く決めています。さらに、ラリッたニコラスを表現したヴェルナー・ヘルツォーク監督のアブノーマルな映像も見応えあり。通好みの一編です。8位『トイ・ストーリー3』(公開:2010年7月~)アニメの中では『プリンセスと魔法のキス』(2009年)や『ヒックとドラゴン』(2010年)も良かったですが、やはり、これまでの積み重ねもあって『トイ・ストーリー3』には感動してしまいました。『大脱走』(1963年)と『暴力脱獄』(1967年)を入れ込んだストーリーの面白さ、おもちゃたちの幸せを考えるラスト、キャラクターの扱いなど、これまでのシリーズを大切にした緻密な脚本作りには脱帽です。9位『オーケストラ!』(公開:2010年4月~)音楽映画としては、ミュージカル『NINE』(2009年)やクリスティーナ・アギレラ&シェール主演の『バーレスク』も楽しいですが、人間賛歌のテーマに感動できるのでこちらを選びました。細部は大味な作品ですが、ラストの盛り上がりで全てが許せてしまいます。クラシックの名曲に載せて描かれる一夜の奇跡。年末にピッタリの作品です。10位『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』(公開:2010年1月~)他シリーズ全3作アメコミばりの主人公リスベットのキャラクターはあまりにも衝撃的。あのテーマ曲も忘れられず今でもリフレインしています。シリーズ2作『ミレニアム2 火と戯れる女』&3作 『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』は2010年9月に公開されました。3作を観終わった後の喪失感。これで終わりなんて勿体ないと思わせるキャラクター作りはすごいです。 次回は、続けて邦画ベスト10をご紹介します。
2010年12月25日
キャメロン・ディアスと共演した『チャーリーズ・エンジェル』シリーズでプロデュース業を成功させたドリュー・バリモアが満を持して監督に挑戦。今回は、12/15にDVDが発売されたエレン・ペイジ主演のガールズ・ムービー『ローラーガールズ・ダイアリー』(2009年)をご紹介します。 テキサス州の田舎町ボディーンに住む17歳の女子高生ブリス(エレン・ペイジ)は、母親(マーシャ・ゲイ・ハーデン)の趣味で強制的に美人コンテストに参加させられていた。ある日、親友パシュ(アリア・ショウカット)と隣町オースティンに出掛けたブリスは、女同士で身体をぶつけ合う“ローラーゲーム”の世界を知り、すっかり魅了されてしまう。早速、両親に内緒で新人発掘トライアルに参加し、天性の才能が開花。ブリスは年齢を偽って入団し、綺麗な服やアクセサリーに囲まれた生活は一変、擦り傷やアザだらけの毎日が始まる。試合では最速スケーターとしてライバルチームのキャプテンともやり合い、スターになった気分。新しい仲間やバンドマンの彼氏も出来て順風満帆かに見えたが…。 これまでは母親に言われるまま、何となく生きてきた少女が、初めて自分から興味のある世界に飛び込み、自分らしい生き方を手に入れる…。誰もが経験する自我の目覚めを“ローラーゲーム”という過激な世界と共に描く青春ガールズ・コメディです。 “ローラーゲーム”とは、網タイツにミニスカートの挑発的な衣装にヘルメット、ローラースケートを履いた女子たちが、猛スピードで楕円形のトラックを回り、点を競い合うフルコンタクト・スポーツのこと。肘鉄や体当たりといった反則技が飛び交い、青アザ、骨折、脳しんとうも当たり前の世界。 とは言え、若い人は“ローラーゲーム”と聞いてもピンとこないでしょう。けれども日本でも1970年代にはかなりの人気があったのです。当時、ゴールデンタイムにTV中継がされるほどの一大ブームで、中でも日本人チーム「東京ボンバーズ」が大人気でした。その後、しばらくして廃れてしまいましたが、2000年代にアメリカを中心にブームが再燃。現在世界400カ国でアマチュア・チームが活動しているのです。 そんな再ブームの中、ロサンゼルス初のチーム「ロサンゼルス・ダービー・ドールズ」に参加したのがショウナ・クロスという女性。その後、もっと“ローラーゲーム”を世界に広めたいと2007年に自身の体験を基に小説『Derby Girl』を出版。これに目を付けたのがドリュー・バリモア。『チャーリーズ・エンジェル』で、派手なコスプレに身を包んで様々なアクションを披露したドリューには、まさにもってこいの企画です。早速自ら率いる製作会社フラワー・フィルムズが映画化権を獲得し、クロスに脚本も依頼しました。 出来あがった脚本に満足したドリューは、自ら監督を務めることにします。そして出演の女優陣を集めてチームを編成し、彼女たちを“ローラー・ブートキャンプ”と名付けたトレーニング合宿に参加させました。公式ページによると、そのおかげでチームに結束力が生まれ、本当の仲間になれたのだとか。また、猛特訓のかいあって、彼女たちのローラースケートも上達。 主役のブリスを演じるエレン・ペイジは、ワイヤーを使うはずだったシーンも最後には自身でやってのけたそうです。それはブリスがトラックに倒れている対戦相手たちを飛び越えるシーン。監督のドリューはスローモーションでばっちり撮っていますので、しっかりと観てあげてください。 さらに、久々にノリノリの演技をみせているのはベテラン女優のジュリエット・ルイス。マーティン・スコセッシ監督作『ケープ・フィアー』(1991年)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、タランティーノ脚本&オリバー・ストーン監督作『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(1994年)の殺人鬼マロニー役などで圧倒的な存在感をみせる個性派女優ですが、本作ではブリスのライバル・チーム「ホリー・ローラーズ」のキャプテン、アイアン・メイビンを好演しています。 また、ブリスが所属する「ハール・スカウツ」のキャプテン、マギー・メイヘムを演じたクリスティン・ウィグは、合宿での覚えが早く皆を実際にリードしたそうです。彼女のリンク名“マギー・メイヘム”は原作者ショウナ・クロスのリンク名をそのままつけたもの。 その他、同チームのローザ・スパークスを演じるのは、本業のラッパーでグラミー賞を受賞するなどマルチな才能をみせるイヴ。ブラディ・ホリーを演じるのはタランティーノ作『キル・ビル』(2003年)でユマ・サーマンのスタントをこなし、『グラインドハウス』(2007年)では驚異のカー・スタントをみせたゾーイ・ベル。監督のドリューもスマッシュリー・シンプソン役で出演。 ドリューを始め、試合シーンはすべて本人たちが演じているそうです。小柄で華奢なエレン・ペイジが、ジュリエット・ルイスやゾーイ・ベルなどのごつい姉御たちに交じって合宿したり、撮影したりするのは、さぞや大変だったろうと思います。実際の試合シーンでは、怖さもあったけれど、それ以上に興奮と楽しさがあったとエレンは語っています。そんな彼女の心理が、リアルに作品から伝わって来ます。 他にも見逃せないのは、自動販売機を壊すシーンに登場するマンソン姉妹。これはラフプレイ専門の弱小ホッケー・チームの奮闘を描いた痛快スポーツ・コメディ『スラップ・ショット』(1977年)の名物キャラ・ハンセン三兄弟の登場シーンと全く一緒なんです。『スラップ・ショット』は、『明日に向って撃て!』(1969年)の名匠ジョージ・ロイ・ヒルが監督し、ポール・ニューマンが主演した男度満点の作品で、ハンセン三兄弟はマクファーレン製のフィギュアが販売されるほどの人気キャラクターなのです。余談ですが、ドリューは撮影中、エレンの事をポール・ニューマンにちなんで“リトル・ニューマン”と呼んでいたそうですよ。『スラップ・ショット』は、田舎のマイナーリーグが舞台で、スポ根というよりも、チームメイトのキャラクター描写などを大切に描いています。ドリューは当然、これを念頭に本作を演出していったと思います。 自分の道を見つけ前進しようとする少女の気持ちを優しく見つめているのも本作の魅力です。ミスコン好きの母との衝突や親友とのけんか、失恋など様々な困難に直面しながら成長していく姿がとても清々しく描かれていきます。 エレン演じるブリスは、ロック好きで、バンドボーカルのいかにも浮気しそうな彼氏と付き合いますが、浮気するとあっさりふってしまいます。この辺りには、かなりドリューの実体験が入っている感じがします。バックに流れる音楽も、ホイットニュー・ヒューストンの名曲や、ドリー・パートンの「ジョリーン」といった懐メロばかり。プロデュースだけでなく、監督業もこなした本作には、ドリューのパーソナリティがぎっしりと詰まっています。 映画の原題は『WHIP IT(ホイップ・イット)』。“ローラーゲーム”でホイップとは、得点役と手を繋いで仲間が前方に押し出し加速させる技の事。自分の道を進もうとする少女を応援する、という意味にも繋がるいい題名だと思いませんか? ドリューのプロデュース作品は、いつも元気溌剌で、女子力が爆発!していますが、本作はそれだけでなく、女子の内面も描かれています。70年代に青春時代を過ごした方は勿論、世代を問わず、誰もが楽しめる作品だと思います。 次回は、クリスマスから年末年始にかけて観ておきたい作品ということで、2010年のおススメ映画ベスト10をご紹介したいと思います。
2010年12月19日
アカデミー賞主演女優賞、脚本賞ノミネート!サンダンス映画祭グランプリ受賞!2010年の洋画ベスト10に入る秀作が12/10にDVD発売。今回は、期待の新人女流監督コートニー・ハントが描く感動のヒューマン・ドラマ『フローズン・リバー』(2008年)をご紹介します。 カナダ国境。ニューヨーク州最北部の街に暮らすレイ(メリッサ・レオ)は、1ドルショップの店員をしながら二人の息子を育て、いつか家を買おうと資金をためていた。だが、ギャンブル好きの夫が家の資金を持ち逃げしてしまう。レイはビンゴ会場で夫の車を見つけ、乗っていたモホーク族の女性ライラ(ミスティ・アッパム)を問いただすが、乗り捨ててあったから拾ったと言う。途方に暮れたレイはお金のため、ライラと組んで危険なアルバイトを始める。それは、冬場で凍ったセント・ローレンス川を渡り、カナダからアジアの不法移民を不法入国させる仕事だった…。 洋画不況の中、日本では配給会社が決まらず上映不可能かと思われましたが、独立系ミニシアター“シネマライス”が直接買い付け、公開が実現。私は今年の2月にシネマライズで観て本作に深い共感を覚え、今年のベスト3入りを決めていました。 舞台は、カナダ国境に近い極寒の街。主人公はトレーラーハウスで厳しい冬を越さなくてはならないシングル・マザー、レイ。彼女の髪はボサボサ、化粧っ気も無く、いつもトレーナーにジーンズ姿。その日暮らしのすさんだ生活の中で、必死に子供を育てています。かたやモホーク族のライラは、若くして夫に先立たれ、1歳の息子を義母に取り上げられて、子供を取り戻すために危険な仕事をしています。 そんな社会の底辺で苦しむ二人の女性が、家族のために犯罪に手を染めていくのです…。 監督・脚本のコートニー・ハントは、出口の見えない過酷な生活を強いられている二人のシングル・マザーの運命を、ある時はドキュメンタリーのようにリアルに、またある時は大胆な脚色を加えドラマティックに描き、エキサイティングでハラハラさせられるサスペンスを生み出しています。 彼女たちは、危険な川を渡り、銃を持った男たちと取引し、カナダやアメリカの国境警備隊に追いかけられたりもします。生活臭漂う年増女を主人公にした作品に、今までこんな冒険ストーリーがあったでしょうか。 物語の背景になっている現代アメリカの社会問題もしっかりと描かれています。カナダやアメリカの国境には、先住民の居住地が数多く存在し、ある程度の治外法権が認められていることから、タバコの密輸といった問題が実際に起きているそうです。コートニー・ハントは、この事実を基に、短編小説を執筆したのだそうです。 さらには、母親の子供に対する愛情の深さや、女性の持つ繊細さと強さ、二人の間に芽生えた友情を丹念に描写。騙し騙されながら生きてきた二人は、始めは自分のことに精一杯で、他人への思いやりの気持ちなど忘れています。しかし、極限の体験を通して人間としても成長し、自分たちの成すべき道を選択していくのです。ですから、赤ちゃんにまつわる奇跡を描くエピソードと、その後のレイの決断からは、宗教的な道徳心の芽生えも感じらるのです。 初監督・脚本作でいきなりアカデミー賞オリジナル脚本賞にノミネートされたのも納得の、密度の濃い脚本だと思います。 コートニー・ハントは1964年テネシー州メンフィス生まれ。コロンビア大学映画学部でポール・シュレイダー(マーティン・スコセッシ監督作『タクシードライバー』『レイジング・ブル』『最後の誘惑』等の脚本家)らに学びました。2004年に短編「フローズン・リバー」を執筆。その後、4年かけて映画化。 監督が影響を受けた作品として、ピーター・ボグダノヴィッチ監督のヒューマン・ドラマ『ペーパームーン』(1973年)、ヌーヴェルバーグの旗手フランソワ・トリュフォー監督作『大人は判ってくれない』(1959年)、グレゴリー・ペック主演、ロバート・マリガン監督の名作『アラバマ物語』(1962年)などを挙げています。どの作品にも子供たちが登場します。 ハント監督が主役レイにキャスティングしたのは、『21グラム』(2003年)で犯罪者の妻を演じていたベテラン女優のメリッサ・レオ。監督が勇気をもってメリッサに話をし、台本を渡した所、出演を快諾し、まずは短編版を製作。これが高く評価され、長編の製作が実現したそうです。そしてメリッサ・レオは、本作で見事、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされ、インディペンデント・スピリット賞主演女優賞他、数々の映画賞を受賞しました。無名のハント監督と女優メリッサ・レオとの出会いには、何か運命的なものを感じます。 ハント監督が描いているのは、先住民や白人の労働者階級といった、社会から見落とされがちな人々です。彼らにスポットを当て、彼らを優しい眼差しで見守り、彼らに光を与えようとする監督の姿勢に心を打たれ、涙が溢れました。 女流監督の作品は珍しくありませんが、生の女性の姿をここまで表現出来る監督は少ないと思います。まさに、期待の新人女流監督の登場です。特に女性に、ぜひ、おススメしたい今年の必見作です。 次回は、12/15DVD発売、同じく監督デビューしたドリュー・バリモアによる青春コメディ『ローラーガールズ・ダイアリー』(2009年)をご紹介します。
2010年12月15日
渡辺謙がレオナルド・ディカプリオと共演し、日本でも大ヒットした話題作が12/7にDVD&Blu-ray発売。今回は、『バットマン ビギンズ』(2005年)、『ダークナイト』(2008年)のクリストファー・ノーラン監督が10年間温めてきた力作『インセプション』(2010年)をご紹介します。 コブ(レオナルド・ディカプリオ)は人が無防備な状態…つまり眠っている間に夢を通して潜在意識に侵入し、他人のアイデアを盗みだす企業スパイ組織のリーダー。だがその才能ゆえに最愛のものを失い、国際指名手配犯となっていた。そんな彼が最後に挑むのは、「インセプション」と言われるほぼ不可能に近い最高難度のミッション。コブは依頼主のサイトー(渡辺謙)と、彼の仲間と共に、この命を掛けたミッションに挑む。最愛のものを取り戻すために…。 前作『ダークナイト』は、10億ドルを突破し、世界興業成績7位という成績でしたが、『インセプション』も堂々の8億ドル越え。本作の成功で、『アバター』『タイタニック』のジェームズ・キャメロン、『アリス・イン・ワンダーランド』『チャーリーとチョコレート工場』のティム・バートンと肩を並べるヒットメイカーとなりました。 クリストファー・ノーラン監督は1970年ロンドン生まれ。処女作『フォロウィング』(1998年)では製作・監督・脚本・撮影・編集を務め、低予算のモノクロ作品ながらフィルム・ノワールを思わせる独自の世界観で注目を浴びました。軽い気持ちで他人を尾行し他人の生活を覗き見ることに快感を覚えた男に起こる悲劇が、時系列を崩したスタイルで描かれています。 2作目『メメント』(2000年)は、新人の登竜門であるサンダンス映画祭脚本賞を受賞、インデペンデント・スピリット賞作品賞・監督賞を受賞。ガイ・ピアースが前向性健忘症という病気で10分しか記憶を保てない主人公を演じたこの作品は、衝撃のラストが話題となり日本でも大ヒット。秀逸な脚本の元となったのは、弟のジョナサン・ノーランによる短編小説でした。 そしてハリウッドデビューを果たした3作目『インソムニア』(2002年)はアル・パチーノを主演に迎えた刑事サスペンス。白夜のアラスカで犯罪捜査にあたる不眠症(インソムニア)の刑事が、精神的に追い詰められていく様を描いています。 これら3作品には、“犯罪サスペンス”、“時系列を崩した複雑な脚本”、“睡眠”、“潜在意識”といった『インセプション』にも当てはまるキーワードがずらり。ノーラン監督は、すでにデビュー作から、ゆるぎない個性と作家性を貫いている映像作家なのです。 その後、『バットマン ビギンズ』『ダークナイト』といったハリウッド大作でも、個性を発揮。これまでにない孤高のダーク・ヒーローを誕生させ、社会思想を反映した作品作りで高く評価されています。新生バットマンを演じるクリスチャン・ベールも、一躍、スターの座へ躍り出ました。 この役者の魅力を惹きだすうまさも、ノーラン監督の才能の一つ。毎作、映画ファンをうならせる絶妙の配役で、それぞれの役者の個性を魅力的に描き出しています。 本作では、主演にレオ様ことレオナルド・ディカプリオを起用しています。本来、ダークな味わいが得意な監督なので、もしコブの役をクリスチャン・ベールが演じたら、かなり地味で暗い雰囲気になっていたと思いますが、今回はレオ様を配役したことで、ダークな味わいが抑えられ、全体的にグッと華やかなメジャー作品に仕上がっています。 コブの相棒アーサーを演じるジョセフ・ゴードン=レヴィットも印象的です。まるで次元大介。『(500)日のサマー』(2009年)のあの文系ヘタレ青年が、こんなに男らしく頼もしい役を演じるとはビックリです。さらに、コブの最愛の妻モルを演じるマリオン・コティヤールは、キャリア一、美しく撮ってもらっています。夢の設計士アリアドネを演じる『JUNO/ジュノ』(2007年)のエレン・ペイジは、作品の狂言回し的な役割として観客と映画の世界観の橋渡しをしています。その他、キリアン・マーフィ、ピート・ポスルスウェイト、マイケル・ケインといったアイリッシュ、英国人俳優に加え、トム・ベレンジャーなどの渋い役者陣が出演。豪華役者陣を観られるだけでも、観る価値充分です。 これだけの俳優陣の中で、堂々たる演技を魅せる渡辺謙の存在感にも圧倒されます。実際、サイトーは重傷で横たわるシーンが多いのですが、重要な役柄として全編、出ずっぱり。ノーラン監督は、『バットマン ビギンズ』に出演した渡辺謙の他、キリアン・マーフィなど、一度使った俳優を配役する傾向が強いので、今後もますます、ハリウッドの第一線で活躍してくれると期待出来ますね。 そして、ハンス・ジマーによる重厚なスコア音楽も素晴らしいです。ノーラン監督の世界観ともマッチして、より一層、想像力を掻き立てられ、作品の完成度を高めています。 さて、物語のアイデアと、独自の世界観、そして俳優陣の豪華さに目を見張る力作ですが、映像的にはどうだったのでしょうか。CMからイメージする歪む街の光景からは『ダークシティ』(1998年)を連想し、“仮想世界”からは『マトリックス』(1999年)を想像しましたが、蓋を開けてみると、非現実的な映像はあまり描かれず、後半の見せ場はほとんど『007』アクションへのオマージュとなっていました。そのため、『ダークシティ』を越えるような、観たことが無い映像世界を期待していた方は、ちょっぴり残念に思ったかもしれません。 ただ、その代わりに観ることが出来たアクション・シーンには見応えがありました。ノーラン監督は英国人ですし、『007』ファンであることも公言しているので、カーチェイスや雪山の攻防といったアクション・シーンは、かなり『007』を意識した絵作りになっています。本家『007』の監督もやりたいと公言していますので、『007』ファンとしてはぜひとも、実現して欲しいです。渡辺謙も出演できたら、さらに良いのですが…。 最後に脚本について。ノーラン監督が10年間温めていたというだけあって、複雑な要素が組み合わさった凝った脚本作りとなっています。 後半の見せ場では、潜在意識の奥深い階層にまで潜り込んだコブたちが、音や衝撃で目覚めて無事に現実世界に戻れるのかが、タイムサスペンスとして描かれ、スローモーションを多用して階層ごとに生じる時間のズレを表現するなど、監督のアイデアが光っています。 また、作品テーマのひとつには、コブの最愛の妻モルに対する悔恨の念がありますが、これは、SFの名作『惑星ソラリス』(1972年)へのオマージュで、ノーラン監督らしいテーマとなっています。ただ、今回のようなビッグバジェット作品では、派手な見せ場が中心となり、コブと妻の関係はあまり深くは描かれていません。 そして、クライマックスは、大作らしからぬダークSFによくある謎オチとなっています。皆さんは、コブはどうなったと解釈したのでしょうか。 いずれにしても、早くDVD&Blu-rayで細部を確認したいですね。 12/7に発売される商品は全3種。Blu-ray本編ディスク+特典ディスク2枚を合わせると、2時間を越える映像特典が収録されています。すでに、在庫終了している店舗もありますのでお早めにご注文ください。【12/7発売商品】1.「インセプション ブルーレイ&DVDセット【初回生産限定】」(Blu-ray2枚+DVD1枚):Blu-ray Diskには約43分+約113分、DVDには約11分の映像特典を収録。2.「インセプション ブルーレイ&DVDセット プレミアムBOX【初回限定生産】」(Blu-ray2枚+DVD1枚):収録内容は1と同じ。さらにトーテム(コマ)&<夢共有装置>取扱説明書封入。3.「インセプション」(DVD1枚組) 次回は、12/10発売予定、アカデミー賞主演女優賞・脚本賞にノミネートされたサスペンス・ドラマ『フローズン・リバー』(2008年)をご紹介します。
2010年12月06日
これまで『トゥームレイダー』(2001年)のララ・クロフトに始まり、『Mr.&Mrs.スミス』(2005年)、『ウォンテッド』(2008年)など多くのアクション映画に主演してきたアンジーことアンジェリーナ・ジョリーが、お色気を封印して男性顔負けのアクションを披露。今回は、11/24にDVD&Blu-rayが発売された本格スパイ・アクション『ソルト』(2010年)をご紹介します。 アメリカのCIAエージェント、イヴリン・ソルトは、ロシアから亡命した謎の人物オルロフによってロシアの女スパイだと密告される。彼はソルトが訪米中のロシア大統領暗殺計画の実行犯だと言うのだ。ソルトは二重スパイと疑われ、CIAに追われる身となる。更に陰謀は米大統領暗殺、第三次世界大戦勃発の危機へと発展…。彼女は本当に二重スパイなのか?そして米大統領暗殺計画を阻止できるのか? 元々は、トム・クルーズ主演のスパイ映画という設定で書かれた脚本を、アンジー向きに書き直して出来あがったのが本作です。実際、アンジー演じるソルトに降りかかる数々の危機は、トム・クルーズ主演のスパイ映画『ミッション:インポッシブル』(1996年)や、マット・デイモン主演『ボーン・アイデンティティー』(2002年)に似ています。中には主人公を女性に変えたんだから柔くなったんだろうと思う方もいるかも知れませんが、とんでもない!アクション・シーンのハードさは半端じゃありません。 確かにアンジーがこれまでに演じて来たアクション映画は、セクシーなコスプレ・ファッションに身を包んで魅せる華やかなものでした。しかし本作は全身黒づくめで目立たぬ恰好をしながら、地道に事件の真相を突き止めていく、まるでハードボイルド小説のような展開になっています。アンジー主演ということで、ファッショナブルな女スパイ映画を期待していた方は面喰ったかもしれません。でも、セクシーさを封印し、演技とアクションだけで作品を引っ張るアンジーの頑張りを目の当たりにして、改めてアンジーのスター性に感服した方も多いのではないでしょうか。 判り易く言えば、『ソルト』のアンジーは、『007』シリーズのボンドガールではなく、ジェームズ・ボンドを演じているのです。そもそも、ボンドみたいな役がやりたいとは、アンジーの希望でもあったようです。本作では、ダニエル・クレイグがボンドを演じる新生『007』と同様、ほとんどのアクションをアンジー自ら演じているというのですから驚きです。 そんな訳で、『ソルト』はスパイ映画の代名詞である『007』へのオマージュに溢れています。オープニングには、北朝鮮に捉えられ拷問されるソルトが登場しますが、これは『007/ダイ・アナザー・デイ』(2002年)と同じ展開。そして、編集には本家『007/カジノロワイヤル』(2006年)も手掛けたスチュアート・ベアードが参加しています。 でも、本作をおススメする理由は、それだけではありません。 脚本を手掛けているのは、ミラ・ジョボヴィッチ主演でアメコミの映画化『ウルトラヴァイオレット』(2006年)やクリスチャン・ベイル主演のSFアクション『リベリオン』(2002年)といったB級映画の監督・脚本を務めたカート・ウィマー。彼は、アメコミや香港アクション、日本の殺陣などを取り入れた現代的なビジュアル・センスでアクションを描く、いわばアクション・オタクなんです。 そのため、本作は、前半こそはハリウッドのビッグバジェットらしいアクション映画の体裁を保っていますが、後半になればなるほどアンジーは“無敵モード”になり、アメコミ・ヒーローものかと思えるB級映画テイストへと変化しています。ロシアの暗殺集団は、まるで日本のアニメ『あずみ』や米TV『ダーク・エンジェル』のようです。正直、物語だけならミラ・ジョボヴィッチ主演でもOKなんじゃないの?という感じです。 そんな良くも悪くもBテイストなカート・ウィマーの脚本を手直ししたのが、脚色の第一人者であるブライアン・ヘルゲランド。彼は、『L.A.コンフィデンシャル』(1997年)でアカデミー賞脚色賞を受賞し、その後、クリント・イーストウッド監督作『ミスティック・リバー』(2003年)でもアカデミー賞脚色賞にノミネートされ、『ボーン・アイデンティティー』シリーズでも脚本の直しを担当している映画職人です。ヘルゲランドの協力でBテイスト溢れる脚本はアンジー主演のA級アクション大作に相応なものになりました。 この脚本を演出するのは、ハリソン・フォード主演のジャック・ライアンシリーズ『パトリオット・ゲーム』(1992年)、『今そこにある危機』(1994年)などでアクション映画に定評あるベテラン監督フィリップ・ノリス。 そこに、先程紹介した編集のスチュアート・ベアードが加わり、最近はやりの1シーンが短くカットの細かい編集ではなく、往年のアクション映画を意識した、アクション自体をじっくりと観せる硬派で落ち着いた編集の作品に仕上がりました。 こうした実力あるアクション映画のプロフェッショナルたちによる“匠の技”が合体しているのが本作なんです。 そんなアクション映画を、一人で背負って立ち、堂々たるアクションを魅せるアンジーは、とにかくカッコイイです。 100分という手堅い上映時間もいいし、続編を思わせるオープン・エンディングも鮮やか。無敵のヒロイン、イヴリン・ソルトの次なる活躍に期待しましょう。もしかすると整形したっていう設定で、主演は別の女優に…なんてことになるかもしれませんけどね。 11/24に発売されたDVD&Blu-rayは全2種。「ソルト Blu-ray & DVDセット」(2枚組)と「ソルト デラックス・ディレクターズ・コレクション」(DVD1枚組)です。DVD、Blu-rayのどちらにも、劇場版100分、ディレクターズ・カット版104分、ディレクターズ・カット版101分・別エンディングの3バージョンの本編が収録されています。Blu-rayには特典映像も満載です。 次回は、12/7にDVD&Blu-rayが発売予定のレオナルド・ディカプリオ×クリストファー・ノーラン『インセプション』(2010年)をご紹介します。
2010年12月01日
米TVドラマの新シリーズが続々とDVD&Blu-ray発売。今回はその中からメーカーさん一押しの『THE MENTALIST/メンタリスト』『ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間』、そして『ドールハウス』『FRINGE/フリンジ』セカンド・シーズンをご紹介します。 まずは『THE MENTALIST/メンタリスト』から。 2008年よりCBSで放送開始し、2008年、2009年共に全米視聴率トップ10にランクインした、新シリーズの中で最も注目されている人気作品です。 主人公のパトリック・ジェーン(サイモン・ベイカー)は、卓越した観察力、洞察力、推理力を持つ犯罪コンサルタントとしてCBI(カリフォルニア州捜査局)に協力しています。彼はCBIチームのリーダー、テレサ・リズボン(ロビン・ターニー)、硬派で落ち着いたアジア系男性のキンブル、英国ウェールズ出身で大柄、大食漢のウェイン、新米のアマンダの4人と共に事件を解決していきます。 人気の秘密は、主演のサイモン・ベイカーのイケメンぶりと、彼の心理学を利用したシャーロック・ホームズ並みの推理力にあるようです。 物語の推進力になっているのはパトリックの宿敵“レッド・ジョン”の存在。“レッド・ジョン”とはある連続殺人鬼の通称で、犯行現場に被害者の血で描いたスマイルマークを残すのが特徴。パトリックは、かつてはTVにも出演する人気霊能力者として詐欺まがいの事をしていましたが、“レッド・ジョン”に妻子を惨殺され、その能力を犯罪捜査に向けるようになります。つまり、彼の本当の目的は、“レッド・ジョン”の逮捕なのです。 製作総指揮を務めるブルーノ・へラーは英国出身で、TVドラマ『ローマ』を成功させた後、シャーロック・ホームズのような探偵の話をしたいと本作を手掛けたそうです。そのため、パトリックは、三つ揃いスーツが基本でスマートな皮肉屋といった英国風のキャラ。コンサルタントなので武器は使えず、犯人逮捕は出来ません。堅物で根拠のない事は認めないCBIのテレサとは、いつも衝突しています。 主演のサイモン・ベイカーは、『プラダを着た悪魔』(2006年)のプレイボーイ役や、TVドラマ『堕ちた弁護士 ニック・フォーリン』を演じアメリカでは知られた俳優。サイモンが演じることで、皮肉を言っても嫌味になりすぎず、好感が持てるキャラになっていると思います。 1話完結の刑事ドラマを展開しながら、少しずつ“レッド・ジョン”逮捕へと近づいていく心理サスペンス。『CSI:科学捜査班』シリーズなど、アメリカでも根強く人気の犯罪捜査ドラマですが、パトリックという異色の犯罪コンサルタントを主人公に据えたことで、英国流のシニカルさが加わった作品です。毎話の事件も重すぎず、パトリックの鮮やかな推理を楽しめるのも魅力です。 次は、『ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間』。 『24』のプロデューサーが手掛ける心理分析サスペンスです。 主人公のカル・ライトマン博士(ティム・ロス)は、わずか0.2秒の“微表情”や仕草からウソを見抜く事が出来る天才科学者。ライトマン・グループを設立し研究を続けながら、FBIや国防総省からの依頼による様々な事件を解決していきます。 今回、ご紹介する4作品の中で最も面白いのが本作。“微表情学”とは聞き慣れない学問ですが、実在する科学者をモデルにしているそうで、その実力はウソ発見器よりも正確とのこと。放送後は、その作品レベルの高さに始めは戸惑った視聴者も徐々にはまり、高視聴率を獲得。 本作の魅力は、何といっても、毎話、紹介される“微表情学”の面白さです。例えば、自信が無い事を話していると、無意識の内に話しながら後退していたり、口では肯定していても、顔が一瞬、引きつって嫌悪感を示したり…と、我々の普段の生活の中にも覚えのある行動が、“微表情学”として判り易く取り上げられています。ですから、視聴者の誰もが身近な問題として、「あるある」と納得しながら観る事が出来るのです。 そして、もうひとつの魅力はカル・ライトマン博士を演じるティム・ロスの個性的なキャラクターにあります。「言葉は信用していない」と言い切るライトマン博士は、部下に厳しく、捜査対象者ばかりか、捜査のためには味方をも巧みに騙す嫌味な人間。まさに変人キャラですが、ティム・ロスは、そんな中にも一風変わった正義感と捜査への情熱を持つライトマン博士の人間性を表現し、視聴者を魅了します。『ロブ・ロイ/ロマンに生きた男』(1995年)の悪役でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされ、『レザボアドッグス』(1991年)といったタランティーノ作品にも出演している性格俳優なだけに、彼の実力を出すにはうってつけの役柄と言えるのではないでしょうか。 何話か観ていると誰もが感じると思うのですが、彼らは、人の本音が一瞬にしてわかってしまう訳ですから、実際にはとても暮らしずらいだろうな、と想像してしまいます。そのせいか、ライトマン博士の仲間は裏表のない素直な人間ばかりです。 ライトマン博士のパートナー、ジリアン・フォスター博士は部下の信頼も厚く誠実。部下で自信家のイーライは、思った事をすべて口に出してしまうバカ正直者。そして、部下トーレスは真面目で正義感の強い女性。彼女はライトマン博士自身が発掘した、ウソを見抜く天性の才能を持っていて、努力と研究を積み重ねてきた博士とは対照的です。 さらに本作では、出演者たちの演技力も重要となります。たとえ、端役の目撃証人でも、必要な“微表情”を自然に、正確に演じなくてはならない訳ですから。俳優の層が厚いアメリカでないと実現できない企画かもしれませんね。とにかく、数話観たら誰もがはまる事、請け合いです。 3つ目は、『LOST』のクリエイター、J.J.エイブラムスが放つSFサスペンス『FRINGE/フリンジ』のセカンド・シーズン。『X-ファイル』や『スタートレック』などのSF好きなら、絶対にはまるシリーズです。現在放映中のTVシリーズの中で、私が最も楽しんで観ている作品です。作品紹介は、以前にも熱く語りましたので、そちらをご参照ください。 ファースト・シーズンでは、FBI捜査官のオリビア・ダナムが別の空間(並行世界)へ行って謎の人物と出会い、異空間や時空を超えた巨大な陰謀を予感させて終了しました。待ちに待ったセカンド・シーズンだったのですが…。これが、なかなかファースト・シーズンと関わるエピソードが出てこず、始めはヤキモキさせられますが、少しづつ、事件が明らかにされていきますので、ここは、気長に楽しんでください。 久々に観ていてやっぱり楽しいのが、天才科学者ウォルターと息子ピーター、ダナム捜査官との絡みです。特に『スタートレック』のカーク、スポック、マッコイを彷彿とさせる3人の関係には笑ってしまいます。ウォルターは、カーク同様、ピーターとオリビアがいなくては駄目なんです。3人のキャラクターの相性が良いので、相乗効果で、まったりと楽しめます。これぞ、連続ドラマの楽しみ方。観れば観るほど、3人が好きになってしまいます。 最後は、エリザ・ドゥシュク主演のSFアクション『ドールハウス』のセカンド・シーズン。 “ドールハウス”とは、全ての記憶を消し去った人間に、新たな人格をインストールした“人形"を派遣する世界的闇組織のこと。エコー(エリザ・ドゥシュク)は、クライアントの要望に応えた人格をインストールされ、恋人、妻、娼婦など、あらゆる人格に成りきる優秀な“人形”だった。だが、時折、奥底に眠る記憶が呼び起こされていき、エコーは次第に陰謀を暴いていくことになる…。 映画『チアーズ!』(2000年)やTV『バフィー ~恋する十字架』に出演し、TV『トゥルー・コーロング』に主演したエリザ・ドゥシュクのコスプレが毎話、華やか。ファッショナブルな女性向けの作品に仕上がっています。ファースト・シーズンは、特にコスプレ中心でしたが、セカンド・シーズンでは“ドールハウス”を飛び出し、陰謀との戦いに挑んでいきます。コスプレのアイデアは、ジェニファー・ガーナー主演のスパイもの『エイリアス』に近く、アクションにも力が入っています。 各作品のDVD&Blu-ray発売情報です。1.『THE MENTALIST/メンタリスト』DVDは、ファースト・シーズンの「VOL.1」と「VOL.1」が収納可能な「コレクターズボックス1」が発売中。12/22には、ファースト・シーズンの「コレクターズボックス2」が発売予定。現在、予約受付中です。Blu-rayは、ファースト・シーズンの「VOL.1」と「VOL.1」が収納可能な「コレクターズボックス1」が発売中。「VOL.1」と「ボックス1」とで、ファースト・シーズンの24話すべてが収録されています。2.『ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間』DVDのみ発売。ファースト・シーズンを収録した「ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間 DVDコレクターズBOX」が発売中。2011/3/18に「ライ・トゥ・ミー 嘘の瞬間 シーズン2 DVDコレクターズBOX」が発売予定。現在、予約受付中です。3.『FRINGE/フリンジ』DVDは、セカンド・シーズンの「VOL.1」と「VOL.1」が収納可能な「FRINGE フリンジ《セカンド・シーズン》1コレクターズボックス」と、「コレクターズボックス2」が発売中。Blu-rayは、セカンド・シーズンの「VOL.1」と「VOL.1」が収納可能な「コレクターズボックス1」が発売中。「VOL.1」と「ボックス1」とで、セカンド・シーズンの24話すべてが収録されています。4.『ドールハウス』DVDのみ発売。ファースト・シーズンを収録した「ドールハウス DVDコレクターズBOX」、セカンド・シーズンを収録した「ドールハウス シーズン2 DVDコレクターズBOX」共に発売中です。 次回は、11/24にDVD&Blu-rayが発売されたアンジェリーナ・ジョリー主演スパイ・アクション『ソルト』(2010年)をご紹介します。
2010年11月25日
アーノルド・シュワルツェネッガー主演『プレデター』(1987年)から23年。遂に再始動したシリーズ第3弾『プレデターズ』(2010年)が11/17にDVD&Blu-ray発売。 何者かに拉致された傭兵ロイス(エイドリアン・ブロディ)は気が付くと見知らぬジャングルにいた。辺りには同じように集められた人間の男女がいたが、彼らは兵士、CIAのスナイパー、殺人囚、ヤクザの用心棒など、まさに最強の殺し屋軍団だった。そこでロイスたちはプレデターの獲物としてある惑星に集められた事を知る。ロイスは生きて地球に帰るため、殺人集団を率いて、新種のプレデターたちとの戦いに挑むのだった…。 エイリアンと並び人気の高いSFキャラクター、プレデターですが、正統な映画化はシュワルツェネッガー主演のオリジナルと、ダニー・グローバー主演の『プレデター2』(1990年)の2作のみ。その後、何度も3作目製作の話はあったものの、シュワルツェネッガーの州知事選出馬などもあって、実現しませんでした。そこを粘って遂に新生『プレデター』シリーズを製作したのは、長年、この機会を待っていた『プラネット・テラー in グラインドハウス』(2007年)のロバート・ロドリゲス。今回のストーリーは、ロドリゲスがシュワルツェネッガーとダニー・グローバーとの共演を想定して書いた脚本を元にしています。「シュワルツェネッガーに勝てない分、出演者やプレデターのキャラクターを魅力的に描いた」とは、ロドリゲス談。殺し屋集団対プレデターがどんな死闘を繰り広げるのかも今作の見所です。 プレデターの特徴は、人間より科学技術に優れ、強靭な肉体を持ちながら、原始的な狩猟生活を送る好戦的なヒューマノイドであるということ。狩猟スタイルは、光学迷彩装置で姿を隠し、相手の隙を窺うこと。今回は地球人を捕えて、狩猟用惑星に送り込み、彼らを狩ることによってその戦闘方法を学ぼうとしています。 本作では製作のロドリゲスが視覚効果監修も務めており、プレデターそれぞれに個性を持たせ、各キャラクターを反映したデザインとなっています。造形的にも人気が高いだけに、かなりのこだわりが感じられます。 まず、ジャケットなどのメイン・ヴィジュアルになっているのは、ファルコンを操縦するファルコナー・プレデター、そしてプレデター種族のリーダーである大型のバーサーカー・プレデター、猟犬を操るドッグ・ハンドラー・プレデター、従来と同じクラシックなどが登場。さらに、猟犬プレデターなどのクリーチャーも登場します。 劇場では、細部の特徴までは確認出来なかった方も多いと思いますので、DVD&Blu-rayでじっくりと楽しみたいですね。 対する人間側の殺し屋集団には、『戦場のピアニスト』(2002年)でオスカーを獲ったエイドリアン・ブロディ以下、ロドリゲス作品常連のダニー・トレホ(従兄弟らしいですね)、米TVドラマ『70’sショー』、『スパイダーマン3』のヴェノム役トファー・グレイス、『マトリックス』(1999年)のローレンス・フィッシュバーン、『シティ・オブ・ゴッド』(2002年)のアリシー・ブラガなど知った顔がズラリ。お互いに信頼できない殺し屋同士ながら、生き残るためにチームを組んだ彼らの葛藤が、それぞれの持ち味を活かしたキャラクター設定で描かれています。 その中で、日本人としては気になるのが、ヤクザの用心棒、ハンゾーを演じるルーイ・オザワ・チャンチェン。ジャングルなのに裸足で通し、後半には、黒沢明監督の『姿三四郎』(1943年)の決闘シーンを連想させるファルコナー・プレデターとの一騎打ちが用意されています。武士道とヤクザの任侠道がごちゃまぜなキャラ設定は納得できませんが、これが外国人から見た、最強の日本人のイメージなんでしょうね。登場人物の中でも最もクールなキャラとして描かれています。 監督は、『アーマード 武装地帯』(2009年)のニムロッド・アーントル。アメリカ生まれ、ハンガリー育ちの彼は、故郷のハンガリーで映画を学び、CM、PV、映画を製作。カンヌ国際映画祭ジュネス賞受賞を経てハリウッドへ進出。『アーマード 武装地帯』は、最新ハイテク装備の装甲現金輸送車で大金を運ぶプロ集団を主人公にしたクライム・サスペンス。こちらにも、マット・ディロン、ジャン・レノ、ローレンス・フィッシュバーンといったお馴染みの俳優が出演しています。本作と見比べてみると、ロドリゲスがアーントル監督に目を付けた理由がわかります。どちらも登場人物の紹介がスムーズで、チームものの物語の転がし方を心得ています。 シュワルツェネッガー主演のオリジナル版からそうなのですが、このシリーズの魅力は、プレデターが出て来るまでの人間同士の銃撃アクションと、プレデターという得体の知れない存在への恐怖感を煽るサスペンスのブレンド。プレデターのキャラは描きつくされていますから、プレデターが登場するまでのストーリーをいかに面白く見せるかが重要です。そういう意味では、なかなか上出来の作品だと思います。 そして、導入とつかみも抜群です。エイドリアン・ブロディが密林に落下した途端にバーンと出て来るタイトル文字には大爆笑。このつかみと、登場人物たちのキャラ説明のうまさで、すんなりと作品世界に入っていけるのです。 プレデターは、『エイリアンVSプレデター』(2004年)、『AVP2』(2007年)という形でも描かれていますが、本作では、新たに人間対プレデターの戦いが観られます。シリーズ化が予想されるエンディングも気になりますね。 11/17発売のDVD&Blu-rayは、楽天オリジナル商品を含め全3種。予約先着特典として、日本未発売の英語版コミック付きです。12/23にはDVD1枚組の通常版も発売されます。また、11/17『プレデターズ』発売にあわせて『エイリアン』シリーズBlu-rayも同時発売。【11/17発売『プレデターズ』】1.【楽天オリジナル商品】プレデターズ トリロジー ブルーレイBOX フェイスマスク・ケース付〔初回生産限定〕 コミック付き(3枚組):『プレデター』『プレデター2』『プレデターズ』ブルーレイのセットに、フェイスマスク・ケースが付いた楽天オリジナル商品2.プレデターズ ブルーレイ&DVDセット【Blu-ray Disc Video】 【初回生産限定】 コミック付き(2枚組):『プレデターズ』ブルーレイとDVDのセット3.プレデターズ トリロジー ブルーレイBOX【Blu-ray Disc Video】 【初回生産限定】 コミック付き(3枚組):『プレデター』『プレデター2』『プレデターズ』ブルーレイのセット【12/23発売『プレデターズ』】4.プレデターズDVD(1枚組)【11/17発売『エイリアン』】1.エイリアン・アンソロジー:ブルーレイBOX【Blu-ray Disc Video】:『エイリアン』全4作+特典ディスク2枚(全6枚組)/“マザー”モード・ガイドブック(リドリー・スコット監督のメッセージ付)/美麗アウターケース/クリアブルートレイケース/月刊HiVi監修「プレミアム・ブルーレイの楽しみ方」Sci-Fi編(12ページブックレット)2.エイリアン・アンソロジー:ブルーレイ・コレクターズBOX【Blu-ray Disc Video】 【初回生産限定】:初回出荷限定3500セット完全数量限定生産。『エイリアン』全4作+特典ディスク2枚(全6枚組)/エイリアン・エッグ:サイドショウ社製フィギュア(SIDESHOW COLLECTIBLES(r)/クリアトレイケース/“マザー”モード・ガイドブック(リドリー・スコット監督のメッセージ付)/月刊HiVi監修「プレミアム・ブルーレイの楽しみ方」Sci-Fi編(12ページブックレット)/ 次回は、アメリカTVドラマから新シリーズ『ライ・トゥ・ミー』『メンタリスト』、そして『ドールハウス』『フリンジ』等をご紹介します。
2010年11月16日
ロバート・ダウニー・Jrがパワードスーツを装着して派手に登場する『アイアンマン2』のCM、皆さん覚えていますよね。今回は、10/22にDVD&Blu-rayが発売されたマーヴェル・コミックの実写映画化『アイアンマン2』(2010年)をご紹介します。 自ら“アイアンマン”であると告白したトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は、世界平和のために日々貢献していたが、彼の身体はアイアンマン・スーツの動力源アーク・リアクターの副作用に蝕まれていた。遂に瀕死の状態に陥った彼は、秘書ペッパー・ポッツ(グウィネス・パルトロウ)に社長の座を譲ってしまう。一方、トニーに恨みのある科学者イワン・ヴァンコ(ミッキー・ローク)が武器商人ジャスティン・ハマー(サム・ロックウェル)と組んで米政府との軍事提携を結び、新兵器「ウォーマシン」と無人アーマー「ドローン」を開発。だが、ヴァンコの策略により突如、ニセ・アイアンマン集団が暴れ出す。トニーは彼らを阻止できるのか…? シリーズ1作目の『アイアンマン』(2008年)公開時はまだまだ日本での知名度が低かったロバート・ダウニー・Jrですが、ジュード・ロウと共演した『シャーロック・ホームズ』(2009年)の公開もあり、最近では日本でもかなり認知度が上がってきました。ジョニー・デップにしか興味が無かった女性陣にも、ちょっと気になる存在になりつつあります。だって、それはもう、今のダウニー・Jrはキラキラ輝いていますからね。 ダウニー・Jrについては、『アイアンマン』(2008年)のDVD発売時の【アメコミ映画化作品のススメ!】や『トロピック・サンダー/史上最低の作戦』(2008年)でもご紹介していますので、こちらもご参照ください。 さて、『アイアンマン』と同様、2作目もダウニー・Jrの魅力が満載です。製作総指揮には妻のスーザン・ダウニーが名を連ね、脚本にはダウニー・Jr自身の推薦により『トロピック・サンダー』のジャスティン・セローを起用。さながら『アイアンマン2』ならぬ『ロバート・ダウニー・Jr2』と言える作品となっています。これは、『トロピック・サンダー』と同じ手法。演じているトニー・スタークのキャラクターに、自分自身の自伝的要素を取り入れているのです。ですから、ダウニー・Jrの事をよく知らないで観た方は、中盤で何でこんなにヘタレたシーンが長いのか?と不思議に思った方もいるかもしれません。 ダウニー・Jrを知らない方のために、少しご紹介しておきましょう。彼は、『チャーリー』(1992年)のチャップリンを見事に形態模写した演技でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされるなど、以前は役に成りきるメソッド・アクターとして活躍していました。でも、役にのめり込むあまり、酒やドラッグに溺れ、再起不能かと思われた時期が何度もありました。例えば最初のドラッグ事件で謹慎処分。復帰後に出演したTVドラマ『アリーmyラブ』でエミー賞候補になるほどの評価を受け、順風満帆かと思われましたが、プレッシャーからか、またまたドラッグに手を出して逮捕。番組も降ろされ、俳優人生ももはやこれまでかと思われたのでした。しかし妙に人に好かれるらしく、業界の友人の有形無形の支援を受け、前作『アイアンマン』で奇跡の復活を遂げたのです。現在は、メソッド・アクター時代の自分をパロディ化したような役柄を演じた『トロピック・サンダー』でアカデミー賞候補になり、余裕のある演技が出来るスター俳優として活躍の場を広げています。そんな波乱万丈の半生を送るダウニー・Jrを知っている人にとっては、現在の活躍ぶりは本当に嬉しい事なのです。 でも、そんなダウニー・Jrの過去を知らずとも、全体的には1作目よりも、さらにパワーアップし、誰もが楽しめるエンターテインメント作品に仕上がっています。 パワーアップと言えば、共演者の豪華さにも目を見張ります。一押しは、ブラック・ウィドーを演じるスカーレット・ヨハンソン。前作から登場のグウィネス・パルトロウの存在もかすむセクシーさと存在感を披露。本作の人気を受けて、ブラック・ウィドーを主演にしたスピンオフ企画も進行中です。さらに、トニーの味方、ローディを演じるドン・チードルや、悪役のサム・ロックウェル。そして『エクスペンダブルズ』(2010年)でも渋い役どころで好演している『レスラー』のミッキー・ローク。どう見ても肉体派の彼が、天才科学者役としてPCをパチパチ操作しているミスマッチ度には笑ってしまいます。そして前作に続きサミュエル・L・ジャクソンも登場。ポール・ベタニーは声の出演。 クライマックスには量産型ドローンが暴れ出し、パワードスーツを装着したトニー・スタークとウォーマシンを装着したままヴァンコに操られる、ドン・チードルとの戦いが繰り広げられます。その様子はダブル・ライダー対ニセライダー。仮面ライダー世代はちょっぴり胸が熱くなります。(クライマックスの舞台が鳥居のある日本庭園っていうのはとっても意味深…)ガンダムのモビルスーツとは違って等身大ではあるものの、大量のロボットが戦う様は壮観で心躍ってしまいます。 これはネタバレになりますが、ラストに意味ありげに紹介される盾は、同じマーヴェル・シリーズで2011年公開予定の『キャプテン・アメリカ』の小道具なんです。将来的には、アイアンマンとキャプテン・アメリカとハルクなど、マーヴェル・ヒーローたちが一堂に会する作品が製作されるそうですよ。 数あるアメコミ作品の中でもおススメの『アイアンマン』シリーズ。ぜひ、ご覧ください。 次回は、11/17にDVD&Blu-ray発売予定の『プレデターズ』『エイリアン』をご紹介します。
2010年11月13日
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