わんこでちゅ

27 ヤマダくんの母親




その日の朝僕はいつにもまして緊張していた。こんなちいさな動物病院、少ない人数では、その人間関係がうまくいくかどうかで、かなり左右されることが多いからだ。今後の僕の計画も大きくかかわってくるしな。みかちゃんと、大仏君がはたしてうまくいくか、、、。神のみぞ知るか?

「あ~みかちゃん、こちらが今日からここで働いてくれる大仏君だ。大仏君、みかちゃんは口は達者だけど、気はきくから、色々病院のこと教わって、早く慣れてくださいね。」

少し緊張して、声が小さくなってしまったが、お互いの顔合わせというか、紹介をなんとか終える。

「おさらぎ?せ~んせい、顔でかっ!存在感ありそうだけどぉ~、ここではたとえ医師と受付でも、私が先輩ですからね。大きな態度とらないでくださいねぇ!」

すかさずみかちゃんがこう言うと、大仏君の眉毛がぴくりと動いた。おれはあちゃ~っとばかり、額に手をあて下をむいた。

「僕は医師としてやるべきことをきっちりやるだけです。みかさん、たとえ先輩でも診療に合理的でないと思うことをあなたがやられたときは、僕もきっちり言わせてもらいますから、よろしく。」

大仏君が独特の低く渋い声でそういうと、二人の間に激しく火花が散った、、、。おいおい早くも問題勃発か、、、。大仏くんが今まで物置だったところを改良した第二診察室に消えると、みかちゃんはぼくにつかつかと歩みよってきた。

「ヤマダせ~んせい。あの人、顔も、声も存在感ありすぎ!せ~んせい大丈夫ですか?なんかせ~んせいとってかわられちやいそう。しっかりしなきゃだめですよ!」

うは!みかちゃん、どっちが雇い主なんだ?僕の心配はいいんだ。君らがうまくいくか心配しているのは僕なんだ。そういいいたいところをぐっとこらえて僕は返事をした。

「みかちゃん、なんか亡くなった僕の母親ににてるよ。まるで母親がきみにのりうつって、僕をはげましてくれてる気がするな。」

精一杯もめないように、話題を大仏くんからすりかえたつもりの僕だった。

「えっ!せ~んせいのお母さんもすごい美人だったんですかぁ~?」

「???」

僕は返事に窮した。確かに母親は美人だった。だが、、、

「へぇ~ふぅ~ん。」

と例の鼻にかかる声で、僕の返事をまたずして上機嫌でみかちゃんはそのまま受付に向かっていった。まっ、みかちゃんの容姿をわざわざ今ここで否定することはないだろう。とりあえず明るい気持ちで受付やってもらわないとなぁ。ふぅ~夕べみたテレビのプロジェクトダックスじゃないが、僕のプロジェクトを実現させるためとはいえ、心臓が縮まる思いだな、、、。でも頑張るさ。こんなことは序の口で、まだまだ色々あると思うが、さっきの話じゃないが母さんどうか天国から僕を見守っててくれ。



ミミズジャーキー販売せよ! プロジェクトダックス

今夜は、空前のペットブームの中、巨大なマーケットをめざし相次ぐ新会社参入により、各社同様の商品が出回り、混迷をつづけているペットフードおやつ産業。その中で絶対売れないとされたミミズジャーキーを、空前の大ヒットに導いた立役者、「株式会社ぺちお」のもと課長、現相談役ダックスフントのカークさんにお話を伺いたいと思います。カークさん、ここまでのヒットにこぎつけるまでには大変なご苦労だったとおもいますが、、、。

そうですね、みみず自体は無菌で養殖しておりましたから、なんら問題はなかったですが、なにぶんみみずで、イメージが悪い、そしてなによりみみずジャーキーをたべた口でチューをされるのがたまらなくいや、という飼い主さんの声が強かったもので、、。

ではそのご苦労なされた販売、ヒットまでの軌跡をごらんください。

ある暑い夏の日だった。カークは部長のちゃにさんによびだされた。
「君の開発しているミミズジャーキーだが、開発中止になった。」
突然の宣告だった。カークはしばらくたちつくした。そして部長にききかえした。
「僕は何度も試食しました。あれほどおいしいものはありません。なのになぜ?納得いきません。部長!」
握る肉球に力が入り、、、、、、震えた。
「イヌにとっておいしくても、ミミズなんてものを買う飼い主はいないんだよ。君。あきらめろ」


カークは納得ができなかった。なにより飼い主の都合でこれほどおいしいものを、たべることができない自分や多くのイヌたちがあわれでならなかった。カークはひそかに開発をつづける決意をした。

炎天下の中、カークは在庫の試供品をもち何十箇所もの販売店をまわった。商品をおいてくれないかと、短い前足をこれでもかとおりまげ、床に頭をさげた、、、、、断られ続けた。

そんな毎日が続くある日のことだった、、、、。担当部署の違うkalunguyeyeがカークのもとにやってきた。
以前は日本で動物のお医者様、今は再び学生で世界をまたにかけてのご活躍中 kalunguyeyeさん の日記 ここをクリック

kalunguyeyeは分厚い資料をカークの前に広げると、こうきりだした。
「これは僕が以前イヌに関連した事柄すべてを網羅して、調査したものです。猫にまたたびと同じくらい、イヌに干しみみずやくさりかけのみみずは効くそうです。課長、これは歴然とした事実です。つくらない手はありません。部署はちがっても、おもてだって出来なくても、僕が協力します。」
kalunguyeyeは机に手をつくと、身を乗り出すようにさらに熱弁をふるった。
「実は、日本古来からの忍術には、犬万の術というものがあります。入れ物にミミズを入れてつぶしておくと、一里四方の犬をおびきよせることが出来るというものです。さらにはねずみの死骸を入れると、もっと効果がでるらしいですが、昔から周知の事実なのです。犬にミミズが効くということは、、。」
カークはしばらくおしだまったままだった。
「課長!やりましょう!!」
kalunguyeyeが再度といかけると、短い腕を無理に組んで、目をつむったままでいたカークは、かっと目をみひらきそして、、、、、言った。
「よし、やろう。」

実際の再開発には、かなりの困難がともなった。くさりかけのものはおいしいが、飼い主にとっては匂いが、、、、、強烈すぎた。ねずみの死骸もこころみたが、たしかにこれも効果は絶大だが、衛生面、匂いの面で却下された。やはり商品化するには、干しみみずが一番だったが大量に乾燥するには、専用の機械が必要だった。カークは私財を、、、、なげうった〔庭にうめた骨を泣く泣くヤブオクで売った〕。

毎日悪戦苦闘するカークのもとに、今度は営業のルナ嬢がやってきた。彼女もやはり分厚い資料を抱えて、カークにさしだし、、、、こう言った。
「私にも協力させてください課長!私も一度道で干しミミズをひろって食べました。飼い主は二度とミミズひろいを許してくれません。私もみみずジャーキーが食べたいです。実はマーケティングしてみました。どうやらみみずという単語を表に出すのはまずいようです。原材料としてみみずをかきこむのは仕方ないとして、なにか効用をあらわしつつ、別のイメージをもつネーミングでなければだめです。」
カークの頭にある単語が瞬時に、、、、、ひらめいた!
「犬万、、、、。これだ!そして猫のまたたびを売るコーナーの横にまず犬万をおくんだ。猫にまたたび、犬に犬万を定着させるんだ。」
「いいですね、それでパッケージには忍者の衣装をきた犬の写真を載せたらどうでしょう。」

出来上がった製品の試供品をもって、今度は公園めぐりが始まった。実際に飼い主の目の前で製品をひろげてみせる。どの犬も目を輝かせ、鼻の穴をふくらませほしがった。その様子にしぶしぶ犬万を飼い犬にあたえる飼い主も出始めた。食がほそい犬が、、、、、食べた。むさぼり食べた。背中でこすりつけまくり、陶酔する犬も、、、、いた。やがて犬万は口こみであっという間にひろがり爆発的に、、、、、売れた。

風の中に香り~♪
土の中のみみず~♪
みみずどこにいても~♪
みつけ~だしたべてやるよ~♪


おとぼけカーク
よし!やろう!!のカーク


kalunguyeyeさんよりのおたより
以前は日本で動物のお医者様、今は再び学生で世界をまたにかけてのご活躍中 kalunguyeyeさん の日記 ここをクリック



まさか犬万の話がこんなところで使われようとは。
大学時代に実際に犬万を作成した事があります。
確かに犬に対しては効果抜群!
なのですが、そのものすごい悪臭から、人間にはとっても評判悪く、大変な事になりました。
実際に、商品化はまず無理ですね・・・。


毎回面白実話をからめたこのお話は、連載になっています。以前のお話を読みたい方は左のメニューからどうぞ。大切なペットを亡くされて思うところある方は、同じく右メニューにある、あの川のむこうは、、をお読みください。

お話を読んでくれた方、ご感想をおまちしております。長いお話はなかなか読んでいただけなかったり、感想をいただくのがむずかしくて、?と日々悩みつつお話をかいている私です。それゆえ、過激になりすぎというか、かたよりすぎというか、、。困ってます、、、。気軽に感想かきなぐっていってください。


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