ガフの部屋

あれからのおはなし・1

ボタン留年おめでとう!


3月。正式に留年が決まった。「おめでとう!」は、フツーの人から見ればちょっとヘンかも知れないけれど、私にはこの上ない幸運に思えた。その少し前、私はある人と出会っていた。一緒に心配してくれて、一緒にドキドキしてくれた。今年は絶対にこの人の年になるだろうと思った。好きになっていた。胸の中が、幸福でいっぱいだった。


ボタン再々入学


そして4月。念願叶って、3度目の入学式。私と同い年のコ達は、チャペルのはるか後方にいる。もう3年生だった。席についたとき、何とも言い様のない焦りと後悔と憎悪が、私の体中を駆け巡った。大丈夫。いつものこと。私は私なんだから。他の人と比べちゃいけない。そうわかっていつつも、居心地の悪い入学式だった。でも式中、必死に祈った。「この学校に通って行けますように」。授業が始まって最初の回は、お決まりの自己紹介を兼ねたアンケート&授業内容の説明。もう耐えることしか出来なかった。あの人から貰ったお守りを、必死に握り締めた。辛いのは今だけ。今だけだよ。そう自分に言い聞かせた。でもやっぱり一番辛かったのは、繰り返し訊かれる「あなたはこの3年間をどう過ごしたいですか」という質問。周りの子達は、フツーの子達は、「高校は3年間で卒業するもの・できるもの」と、何の疑いもなしに思っていると言うことが、この上なく辛かった。


ボタン精神障害者はハレモノ?


私は頑張った。頑張って、頑張って、それでもたった2ヶ月しかもたなかった。6月の始めごろ、ギリギリまで引き絞られた糸がプツリと切れた。その後、最初に思ったことは、「ああ、私こんなに頑張ってたんだ・・・」。それまで毎朝「今度こそ頑張れ!二の舞を踏むな!」って自分をぎゅうぎゅうに縛って通っていたから。そうか。これがその結果か。そんな風に、自然に納得した。それから1週間ほどは、保健室登校を繰り返した。何故だか教室に足が向かない。辛くて辛くて、立っているのがやっとで、結局は保健室に来てしまう。先生達はみんなやさしい。それまで眉間にシワを寄せていた先生でも、事情を話すと態度を一変させる。そう、まるでハレモノに触れるみたいに。その時悟った。もう普通の人と同じようには生きられない、と。



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