愛し愛されて生きるのさ。

愛し愛されて生きるのさ。

その3

○安野モヨコ著『脂肪という名の服を着て』

 安野モヨコのマンガは「オシャレでポップ」なのが売りだと思われるが、このマンガはオシャレでもポップでもない。むしろホラーに近いテイストである。

 女性にとって「ダイエット」は大きな意味を持つ。男性は「1キロや2キロどうってことない」という人が多いと思うが、女性はその1キロ2キロのために涙ぐましいまでの努力をする。女性の体重に対する価値観は、男性のそれとは比べ物にならない。このマンガはそこをデフォルメしているのである。

 主人公は太っているということで「醜い」という扱いをされる。そのためにダイエットをして痩せたり、リバウンドして太ったりを繰り返すのだが、その様がどことなくホラーである。本来の目的を見失って、ただただ体重を落とすことに神経を研ぎ澄ませている主人公の姿に恐怖すら感じてしまうのだ。

 人間の美の基準として「体重」はよく挙げられるが、それは本当に正しいのだろうか。「スリム=美しい」「太っている=醜い」という単純な価値基準の図式に潜む危険を描いたマンガである。怖いけど、面白い。

○河合克敏著『帯をギュっとね!』

 少年サンデーに掲載されていた柔道マンガ。スポーツマンガにおいて柔道は、野球・サッカーに次いで多く取り上げられるジャンルではないかと思う
。よくわからないけどそんな気が。

 柔道って学校の部活だとあまり目立たないけど、オリンピックだと花形競技である。技の種類も豊富だし、短い時間の中で決着がつくってところがドラマチックだからだろう。

 で、この『帯をギュっとね!』であるが、スポーツマンガにしては極端に熱血しておらず嫌味がない。確かに登場人物の柔道にかける情熱はアツいものなのだが、そこはかとなく散りばめられたギャグとキャラクターの面白さで、暑苦しさが中和されている。「熱血モノはちょっとなぁ~」と思っている方にはオススメである。

○森下裕美著『ここだけのふたり!!』

 『少年アシベ』でおなじみの森下裕美の4コママンガ。舞台は主にありふれた団地で、主人公は教師をしている男性と、その元教え子である妻である。

 このマンガもキャラクターがとても面白い。下手したらアブナイ人になってしまうような人物を、上手く料理して愛らしいキャラクターの仕上げている。ネタやセリフの使い方などが妙に冷めてて、シニカルなのがまた笑える。4コママンガということもあって、気負わずラクに読めるのも魅力。

○池田理代子著『ベルサイユのばら』

 言わずと知れた『ベルばら』である。中学生の時、当時ヅカマニアであった姉に強制的に読まされた。電話帳ぐらいある愛蔵版で、「こんなの読めるか~?」と思っていたら自分でもびっくりするくらいのペースで読んでしまった。巻末に付いていた番外編まで。要はハマってしまったわけである。

 こういう大河ロマン的な物語は、スケールが大きくて派手なのが魅力である。登場人物が多く、人々の愛憎が入り乱れる様は読んでいてワクワクする。

 アンドレやらオスカルやらマリー・アントワネットも面白いのだが、私のお気に入りキャラはポリニャっク伯夫人である。彼女の捨てセリフである「文句があるならベルサイユまでいらっしゃい!オーッホッホッホ」が素晴らしいと思う。こんなセレブなセリフ、言ってみたいものである。

○とみさわ千夏著『金魚のフン』

 マンガや映画ではよくある「男女入れ替わりモノ」である。しかしこのマンガが面白いのは「男女が入れ替わってしまったら日常生活にどんな支障が生まれるか」ということを細かくコミカルに描いている点である。それは同窓会であったり合コンであったり、はたまた性生活の面であったり。「なるほど、外見が男でも内面が女だったらそういうことに困るんだ」と妙に納得。実際にはありえないけどね。

○藤子・F・不二雄著『大長編ドラえもん のび太と鉄人兵団』

 やっぱり『ドラえもん』は面白い。あんなに愛くるしいのにポケットから色々出して助けてくれるのだ。しかもちょっとオッチョコチョイなのも可愛い。

 そんな『ドラえもん』であるが、それが『大長編ドラえもん』になると趣が変わる。普段のホンワカパッパな雰囲気とは一転、シリアスな冒険物になってしまうのだ。のび太をはじめとした仲間たちが普段は見せない一面を見せるところが、子供心に魅力的だった。

 そんな『大長編ドラえもん』の中でも私が一番好きなのが、この『のび太と鉄人兵団』である。これは明らかにガンダムを意識して作られたものだと思われ、内容はいつになくハードである。だって宇宙から何百何千ものロボットが地球を滅ぼしに来るのである。えらいこっちゃ。

 しかしドラえもんは巧妙に地球への被害を食い止めようとする。ロボットたちを実際の地球ではなく、鏡面世界(鏡の中の世界なので誰もいない)に誘導するのである。この鏡面世界というのがもの凄く羨ましかった。鏡の中だから左右反対になってしまうのだけれど、誰もいないから好き勝手できるのである。さすが藤子先生、子供の欲求を見事に描いてくださる。

 鉄人兵団のスパイとして、人間そっくりの少女ロボット・リルルが差し向けられる。しかし彼女はのび太たち人間と接することで、闘うことに対する良心の呵責が生まれる。そしてラストにはしずかちゃんと共にタイムマシンで過去へ行き、鉄人兵団の祖先となるロボットから闘争本能を除去するのだ。その結果、リルルは鉄人兵団と共に消え去ってしまう(というか最初からいなくなってしまうことになる)。リルルが迎えた最期に言う「もしも生まれ変わったら天使のようなロボットに…お友達になってね」というセリフが泣ける。『大長編ドラえもん』では数少ない、「死または消滅」によって幕を閉じる悲しいラストである。

 大人になった今でも時々読み返したくなる傑作である。

○田中圭一著『神罰』

 手塚治虫・藤子不二雄・永井豪といった巨匠たちの絵柄をことごとくパクった、いやパロった下ネタ満載の最低のマンガである。ここでの最低というのは決してマイナスなものではなく、「品は無いけど面白い」という意味なので悪しからず。手塚治虫風のキャラクターが神妙な面持ちで何をしているのかと思ったら「局部カルタ」であるから笑える。しかも日本版だからモザイク入り。ヒーおかしい。

 このマンガの帯には手塚治虫の実娘・手塚るみ子氏の直筆サインで「訴えます!」と書いてある。大人のジョークですな。それもまた笑える。

○辛酸なめ子著『ニガヨモギ』

 ページをめくればそこには曼荼羅のごとくなめ子ワールド。強力な磁場を持つこの世界は空間が歪み起承転結が成立しない。脳ミソとろけそうな濃厚なミルクシチューのようなこってりコクのある味わい。笑っていいんだかいけないんだかわからなくなるような思考回路はショート寸前。ほのかに立ちのぼるのはクリの花の匂い。マンガの概念を突き崩す、ミスレボリューション・辛酸なめ子の崇高なるカオスな世界をぜひご堪能あれ。


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