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愛し愛されて生きるのさ。
『愛を乞うひと』
『愛を乞うひと』(1998/平山秀幸監督)
もうかれこれ5,6年前に観た映画であるが、久しぶりに観直してみてやはり名作であると実感した。
この映画の中で、母は娘を虐待する。しかもその理由は明確にはされない。一度暴力の箍が外れてしまった母は、ささいなことを理由にし娘を折檻するのである。しかし暴力というのはそういうものであって、暴力を振るう人間ですら、なぜそんなことをしてしまうのかわからないはずだ。
現実世界でも、子に暴力を振るう親は多い。でも皆が皆、本当に子供が憎くて暴力を振るうのではないと思う。愛したいけど愛し方がわからない、そんなジレンマが暴力という形になって現われてしまうのではないか。
この映画の中でも、母・豊子は娘をさんざん殴ったあとに、娘に髪を梳かせ「おまえは髪を梳くのだけは上手いね」という。その言葉と表情で、本当は娘を愛したいという気持ちが伝わってくる。
原田美枝子が演じる豊子は、気性が激しく、一種のモンスターのように描かれている。その激しさがとかくジメジメなりがちな内容に、エンターテイメント性を与えている。不謹慎ではあるかもしれないが、虐待シーンはアクション映画のようにも見えた。
私自身は、虐待をする豊子に不思議と憎しみは湧いてこなかった。その激しさに、「ああ、この人はこういう人なんだな」という諦めに近い感情と、そして彼女自身が「愛を乞うひと」に見えたからである。
虐待された娘・照恵(原田美枝子の2役)は成長し、自分を虐待した母に会いに行く。それがこの映画のクライマックスである。原作ではこの母娘の対面シーンは描かれていない。映画のオリジナルである。
普通のドラマなどであったら、それなりにドラマチックなシーンが展開されるであろうが、ここでは母が静かに娘の髪を切るというシーンで表現されている。娘も「わたしはあなたの娘である」ということを切り出さない。見事な決別のシーンである。「髪を梳くのが上手い」といわれた母に、髪を梳いてもらう娘、というのが皮肉であると思った。人生にはそんな皮肉が満ちているのかもしれない。
母に会いに行った帰りのバスの中で、照恵は自分の娘に心情を吐露する。「お母さんに『可愛いね』って言って欲しかった」と。野波麻帆演じる娘は、代わりに「可愛いよ、お母さん」と優しく囁く。ともすればとことん陰惨になってしまいそうな話を、野波麻帆によってずいぶん助けられていると思う。原田美枝子と野波麻帆の、ワンシーンワンカットで描かれた珠玉の名シーンであった。
誰かを愛するためには、まず自分のことを愛さなければならない。そんなことを思った映画であった。
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