愛し愛されて生きるのさ。

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『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ~』

『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲』(2001/原恵一監督)

 バイト先の知り合いが「クレヨンしんちゃん」の映画がいいとしきりに言っていた。「あのシリーズを観ていないなんて人生半分は損している」とまで言われた。そう言われては観ないわけにはいかない。というわけで、もともと大人も楽しめるアニメ、として定評のあるこのシリーズを初めてちゃんと観た。そしてこの『オトナ帝国』はシリーズ最高傑作と言われている作品である。とは言っても私は「クレヨンしんちゃんだからなぁ~」とナメてかかっていた。

 ところが。

 本気でボロ泣きさせられてしまった。しかも3度ほど。アニメで泣いたのなんて『火垂るの墓』以来かもしれない。とにかく大人の琴線にビンビン触れてくるのだ。こりゃマジで子供向けというよりは大人のための映画である。
 30代以上の人たちにはさらに感慨深いものがあるだろう。

 映画は’70年の大阪万博会場から始まる。じつはここは春日部に突如出現した20世紀博というテーマパークなのだ。懐かしの1970年。まだオイルショックも知らない高度経済成長真っ只中で、大人も子供も未来に明るい夢と希望を持っていた時代だ。社会は貧しくても、明日は今日より豊かになれる、未来はバラ色だという希望をみんなが共有できた。しかし現実の21世紀はどうなのか? 未来に希望を持っていた子供たちは、くたびれた大人になっている。もう一度あの日に帰りたい。未来に素直に夢が見られた、あの日々へ……。20世紀博で大人たちの郷愁を煽った秘密組織イエスタデイ・ワンス・モアは、日本中から大人たちを拉致。世界全体を「あの懐かしい時代」に戻そうとする。

 とにかくこの設定が秀逸である。70年代を知らない私にも、そこに描かれる風景は非常にノスタルジックに思える。BGMはよしだたくろうだったりベッツィ&クリスだったり、昭和の懐かしい曲ばかり。昭和っていい時代だったなぁと思わずため息。

 しかしそんなノスタルジーに浸ってしまい帰れなくなってしまった大人たちを、しんのすけなどの子供達が懸命に引き戻そうと奮闘する。そこは「クレヨンしんちゃん」であるだけにギャグ満載である。このギャグが素直にゲラゲラ笑える。そんな風に「笑い」と「泣き」がバランスよくミックスされているので、鑑賞後の充実感がある。

 精神が子供に還ってしまったしんのすけの父親であるヒロシが、自分の靴下の匂いを嗅ぎ、過去を回想するシーンがある。少年時代・初恋・上京・就職・結婚と走馬灯のように蘇ってくる記憶。そこにしんのすけの一言「父ちゃん、オラがわかる?」そこでもう号泣してしまった。人間が生きるためには未来を見据えることが必要であり、郷愁に浸ってばかりいては前に進めないというテーマが浮き彫りになる、名シーンであった。

 「クレヨンしんちゃん」、侮りがたし。DVD買おうかしら。



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